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PC処世術 - CPU考 [プロセッサ・ナンバ編]

CPUのプロセッサ・ナンバの意図を探る

 Intel が CPUに プロセッサ・ナンバーを導入したのは今年(2004年)の5月頃のことだったろうか。かつて,x86互換CPUが用いていた P-Rating などに始まるCPUのモデルナンバーに対し、これまで Intel は「クロック周波数を高める」という戦略で対抗してきた。このため、互換CPU搭載パソコンのカタログには「PR300」やら「3800+」やらという数字が踊っていたのに対し、インテルのCPUを搭載したものでは「3.4GHz」などのようにクロックが記されていた。
 それがIntelが「プロセッサ・ナンバ
」を導入して以来、CPUの呼び方は従来の「Pentium4 3.xGHz」のような呼び方から、「Pentium4 5xx」のような3ケタの型番へと変わったわけである。この数字の最初の桁は、“Pentium4 なら 5xx”とか“Celeron なら 3xx”とか“Pentium M なら 7xx”といった具合の、シリーズを示す番号であり、下二桁の“xx”が相対的な能力差を示すことになっている。

 このプロセッサナンバは、前稿にも書いたように,パフォーマンスと直接的な関係はなく、Intel が独自に付けられる恣意的な番号である。このことは、インテル自身がガイドラインにおいて“プロセッサ・ナンバの数字そのものには特別な意味はありません。とか “プロセッサ・ナンバはパフォーマンスを表す指標でもありません。(引用)” と宣言している通りだ。確かに、プロセッサ・ナンバと動作周波数の一覧表をみても、プロセッサナンバから即座に動作周波数を連想することが難しいように番号が設定されている。

 ところが,巷では既に言われていることではあるのだが、このプロセッサ・ナンバの下二桁とクロックとの間には関係があるようだ。そこで、2004年10月現在リリースされているCPUについて、その関係をプロットしてみたのが図8である。
 図8の横軸にはモデルナンバーの下二桁をとり、縦軸にはクロック周波数をとっている。このように整理してみると、確かにモデルナンバーの下二桁とクロックの間には関係があり、決してランダムではないことが分かる。つまり,モデルナンバーから動作周波数を計算することができるということだ。
 試みに、Pentuim4, Celeron D, Pentium M について動作周波数とプロセッサナンバとを変換する式を作ってみたところ、下表の通り簡単な算数であった。(筆者が独自に求めた係数を用いており、厳密ではない。モデルナンバはキリの良い数字になっているので、求めた周波数,プロセッサナンバは適当に丸める必要がある。また、Pentium M については低電圧版を含まない。)

表 プロセッサナンバと周波数を変換する公式
 プロセッサファミリ  周波数 f(GHz) to ナンバ N  ナンバ N to 周波数 f(GHz)
PentiumM (7xx) N = 80.1f - 102.9 + 700 f = 0.0123(N - 700) + 1.29
Pentium4 (5xx) N = 50f - 120 + 500 f = 0.02(N - 500) + 2.4
CeleronD (3xx) N = 37.6f - 70.13 + 300 f = 0.0266(N - 300) + 1.866

 こうしてみると、周波数 f(GHz)とプロセッサナンバ N との関係を示す係数はプロセッサファミリごとに異なることが分かる。これは、図8においてはそれぞれの関係を示す直線が平行でないことからも見て取ることができる。
 上表の中央列( f to N )に着目してみよう。クロック周波数 f にかかっている係数の意味するところは、「1GHzの周波数向上によって引き上げられるプロセッサナンバ」である。Pentium M の場合、1GHz の周波数向上に対してプロセッサナンバは約80上がるということだ。この数字が、Pentium 4 では50、Celeron では 約38 という具合に、プロセッサファミリごとに異なっているのだ。

 既に述べたように、インテルのプロセッサナンバはパフォーマンスとは関係ない恣意的な数字である。このため、巷では“3xx, 5xx, 7xx” といった「最初の桁の数字がプロセッサの序列を意図しているのではないか」ということが囁かれていた。これは大外れではないとは思うが、先ほど示した係数に着目すると、Intel の思惑がより鮮明に浮き上がってくるようにも思える。
 先ほどの係数はインテルにとっての1GHzあたりの重みを意味している(ように見える)。Pentium M は僅かな周波数向上が大きな重みを持っており,セレロンは周波数を向上させてもプロセッサナンバは大きく動かないようになっているのだ。これは、各プロセッサの周波数あたりの処理能力を反映したものと考えられなくもないが,Celeron は本質的には Pentium4 なのであり、これほどの能力差があるわけではなく過小評価されている。また、Pentium M は同クロックの Pentium4 に対して 1.4倍程度の処理能力とされているが、係数を比較すると 80:50=1.6となって過大評価気味である。
 詰まるところ、「Pentium M系を高く売りたく、Celeronは能力を低く見せたい」という Intel の商売の都合をプロセッサナンバは意図しているのだろうということを、定量的に図8や上表の係数から読み取ることが出来るのである。勿論、こういう商売のやり方が悪いとは筆者は思わない。しかし、一パソコン小市民としては,過大評価されたCPU(の最新最高クロック版)のモデルナンバーに目が眩んで大枚はたくことないように注意したいと筆者は思うのである。

[追伸] 最近は、日本のインターネット上のメディアでもクロック周波数が併記されずにプロセッサナンバーだけが書かれるケースが目立つようになってきた。だが不思議なことに、Intel 本家のページでは今のところ殆どの場面でクロックが併記されているようだ。またスペック表などを見ると、本家のサイトではむしろプロセッサ・ナンバの方が見えにくくなっているようだ。プロセッサナンバ推進に関しては本家よりもメディアの方が力を入れているようにも見える。(30.Oct, 2004, 31.Oct微修正)

モデルナンバとクロック周波数 - AMD編

 前回は Intel のプロセッサナンバについて書いてみたのだが、CPUのモデルナンバの導入は互換プロセッサの方が先であることは,やはり前回冒頭で記した通りである。2005年現在では、パソコン用CPUの雄は Intel と AMD だろう。AMD は、Athlon勢によって Intel の Pentium勢に対抗するという図式になっている。
 その AMD もまた、CPUについては「モデルナンバ」を導入している。Athlon は、もともと表記には「クロック周波数」を使用しており、それはCPUの“1GHz先駆け競争”に勝利する頃まで続いていた。AMDがモデルナンバを導入したのは、競合する Pentium4 がリリースされてクロック周波数だけがやたらと高くなってしまった頃からだ。

 さて、AMDの Athlon XP や Athlon 64 のモデルナンバは対抗馬であるPentium4 のクロックを意識した値であるとされる。Athlon(XP, 64) は、Pentium4 と比較して実クロックあたりの性能が高いことが知られており、したがってその分だけモデルナンバは実クロック周波数より大きい値が設定されている。
 しかしながら、AMD から次々と発売されるCPUの実クロックとモデルナンバを眺めていると、必ずしもクロック上昇に対して一定の割合でモデルナンバが上昇しているわけではない。この結果、巷ではAthlonにおける「実クロックとモデルナンバの乖離」が起きているとの指摘もあるようだ。

 そこで、Athlon XP および Athlon 64 の実クロックとモデルナンバの関係をまとめてみたのが、図9である。確かに、 AthlonXP では 1500+ の頃から,Athlon64 では最初から、確かに同一クロックであっても異なるモデルナンバが冠せられていることが分かる。
 もちろん、全く同一のCPUに異なるナンバを付けて売っていると言うわけではなく、キャッシュメモリの容量やFSB(Front Side Bus)の周波数、あるいはメモリバスの幅などが勘案されてモデルナンバの値は決められているようだ。
 例えば、Athlon XP 1500+と1700+は同一のクロック 1.3GHz だが、キャッシュの容量が256KB から 512KBにアップし、FSBは 100MHz から 133MHzにアップしている。また、同じく Athlon XP の 2600+ と 3000+ とでは ほぼ同じクロック 2.1GHz に対して,キャッシュが 256KB から 512KBへ, FSB は 166MHz から 200MHz にアップしている。モデルナンバにして 200+〜400+ の差は、これらキャッシュの容量とFSBの差だというわけだ。
 続いて Athlon 64 を見てみると、同じ実クロックに対していくつものモデルナンバーが存在する。例えば 2.4GHz なら、3400+, 3700+, 3800+, 4000+(FX51) と、実に4種類もある。やはりこの場合も、キャッシュ容量や,メモリチャネルがシングルかデュアルかによって区分けがされているようだ。

 実クロックの他に様々なファクターを勘案して,クロック・ライクなモデルナンバーという一つの値にするわけだから、決して分かり易くはない。そして、モデルナンバ自体は AMD にしても恣意的に定められる値だから、消費者としては付けられた数値がどのくらい妥当かを見極めるのは容易でない。
 しかしながら、Athlon系のモデルナンバが性能を相対的に表す値だと仮定すると、この値から「キャッシュやFSBの性能に対する効果がどのくらい」と AMD が見積もっているかを考察することができる。

 そこで、CPUの実クロック,キャッシュ容量,FSBからモデルナンバを(大雑把に)求める公式を作ってみることにした。公式の算出方法については詳細を割愛するが、中学生の頃に習った算数の連立方程式を解いただけのものなので、必ずしも厳密ではない点ご注意いただきたい。下表が、AMD の Athlon XP および Athlon 64 のモデルナンバを求める公式である(2005.1月調べ)。

表 プロセッサナンバと周波数を変換する公式
 Athlon XP  Athlon 64
N = 1.24×f + 0.824×C + 1.23×FSB - 589 N = 1.14×f + 0.464×C + 0.785×FSB + 142
 N : モデルナンバ
 f : 実クロック周波数 [MHz]
 C : キャッシュ容量 [Kbytes]
 FSB : FSB周波数* [MHz]
 * Athlon64 のFSB は 400MHzとし、Dualチャネルについては800MHzとして扱う。
 ** FSB は DDR を考慮した値を扱うこととする。(FSB 133MHz DDR の場合い、266MHz として扱う)

 勿論、この公式では 100+単位にクオンタイズされた AMD のモデルナンバと厳密には一致しない。ただ、公式による計算値と実際のモデルナンバーとの関係は、図10に示す通りであり、概ね正しいことが分かるだろう。グラフのばらつきはそう大きくは無く、したがって AMDのモデルナンバは恣意的であるとはいえ、ある程度の法則性に則って決められているということが伺える。キャッシュやFSBと実クロックの効能のバランスについては,AMDが思っていることが正しいかどうかは不明だが,少なくとも「実クロックから乖離」して「モデルナンバ自体の意味が損なわれている」ということではないようだ。

 さて、式の係数を眺めてみると面白いことが分かる。まず、実クロックの係数だが、AthlonXPよりも 64 の方が僅かだが小さい。つまり、Athlon64 は XPと同程度のクロックとモデルナンバの向上比であるか、むしろクロックの向上に対してモデルナンバが上がりにくくなっているということだ。
 他の係数を眺めると、AthlonXP の方が係数が大きいのだが,Athlon64のキャッシュやFSBの向上幅の絶対値は大きいので微妙なところだ。特にキャッシュ容量に関しては,容量の向上幅が大きいことを考えると、Athlon64では AthlonXPよりもこれが重視されているとも取れる。
 モデルナンバの高い(つまりAMDが思う性能が高い)CPUをリリースしようとすると、クロックの著しい向上と言うのは考えにくい。したがって、具体的な方向性としてはキャッシュ容量やFSBを倍々ゲームで増やしていくということになるのだろうか。このモデルナンバの公式の係数のバランスは、その辺りの方向性も示唆しているように思われる。
 更に、Athlon64 がどうやってモデルナンバを押し上げているかというと、それは切片というゲタだ。AthlonXP が 589を減じているのに対して、Athlon64 では 142 を加えている。要するに、“AMD64とそのコアの価値”はモデルナンバ約700+ 位に相当するという AMD からのメッセージであるようだ。

 最後に、公式からモデルナンバを計算している過程で気付いたのだが、図10を良く見ると青い線を上回っている点と下回っている点の両方がある。つまり、キャッシュ容量やFSBの向上幅まで勘案した公式による計算値をモデルナンバが上回っているCPUはモデルナンバをサバ読み気味であり、公式よりも下回っているCPUはモデルナンバよりお買い得であるかもしれない。
 筆者の見たところ、AthlonXP の最高峰の 3200+ と、最初の Athlon64 2700+ がかなりサバ読んでいるようだ。大くのCPUは計算値に対して±50程度と許容範囲だが、これらのCPUは計算値+100を超えている。また逆に、Athlon64 3000+ 辺りはモデルナンバより計算値の方が大きい。他にもこうしたCPUはあるようなので、Athlon 系CPU導入の際には、一度モデルナンバを計算してみると良いかもしれない。(18.Jan, 2005)

[追記] AthlonXP プロセッサの“FSB”の係数の算出に、ベースのFSBを用いていたが,Athlon64との整合性を考えて DDR を考慮したクロックを用いることにした。これに伴って、FSBの係数を 1/2 に修正した。論旨及び計算値に影響は無い。(6.Feb, 2005)

Sempron と GeodeNX のモデルナンバ

 前回,AMDの AthlonXP および Athlon64 で用いられているモデルナンバについて考察した。AMD のCPUには、これら Athlon の他に、これと同様のコアで廉価版CPUのSempronが存在し、やはりAthlon同様のモデルナンバが冠せられている。更に、最近では低消費電力版CPUであるGeodeNXが話題を読んでいるようだが、こちらも似たようなモデルナンバがつけられている。
 しかしながら世間では,「Sempronのモデルナンバは Athlonとは連続性が無く、大分サバ読まれている」という噂がある。実際に、同等クロックの AthlonXP などと比較すると、確かにかなり大き目のモデルナンバが付けられているようだ。つまり、Sempronの導入を考える際には、性能指標としてモデルナンバを鵜呑みにしていると間違うということだ。
 では Sempron は実際のところ、Athlonのモデルナンバと比較して どの程度の差があるのだろうか?。そして、最近世間を賑わせている GeodeNX につけられたモデルナンバは,AthlonXP で言うところのどのモデルナンバに相当するものなのだろうか?

 これの考察には、前回のモデルナンバの公式を用いれば、大体のところが分かる。例えば公式に依れば、Sempron の Athlon相当モデルナンバは次の通りである。

Sempron 2800+ の場合(Clock:2000MHz, Cache:256KB, FSB 333MHz):
 1.24*2000 + 0.824*256 + 1.23*333 - 589 = 2511
Sempron 3100+ の場合(Clock:1800MHz, Cache:256KB, FSB 400MHz, 64コア):
 1.14*1800 + 0.464*256 + 0.785*400 + 142 = 2636

 更に、他の Sempron プロセッサについて調べて見たのが図11である。横軸には AMD によって冠せられたモデルナンバを取り、縦軸は公式による計算値とモデルナンバの差,すなわちSempronにおけるモデルナンバ嵩上げ量である。
 図を見てみると明らかなように、AthlonXP派生のSempron 2200+ 〜 3000+ ではどれも約300程度モデルナンバが嵩上げされている。つまり、SocketA の Sempron においては、モデルナンバより約300減らした値が AthlonXP相当の値だということのようだ。さらに、Athlon64 ベースの Sempron 3100+ では、嵩上げ量は 450 を超える。したがって、AMD64 版センプロンにおいては、Athlon64 よりも 500 程度減じた値が相応のモデルナンバと考えておくべきだろう。

 さて、現在 数W〜15W程度の低消費電力CPUとして市場を賑わせている GeodeNX だが、モデルナンバには端数の 50+が付けられたりと、消費者にとっては分かりにくくなっている。そこで、現在発表されている GeodeNX 1750+(14W), 1500+(6W), 1250+(6W) のモデルナンバを以下のように計算してみることにする。

GeodeNX 1750+ の場合(Clock:1400MHz, Cache:256KB, FSB 266MHz):
 1.24*1400 + 0.824*256 + 1.23*266 - 589 = 1685
GeodeNX 1500+ の場合(Clock:1000MHz, Cache:256KB, FSB 266MHz):
 1.24*1000 + 0.824*256 + 1.23*266 - 589 = 1189
GeodeNX 1250+ の場合(Clock:667MHz, Cache:256KB, FSB 266MHz):
 1.24*667 + 0.824*256 + 1.23*266 - 589 = 776

 まずGeodeNX 1750+ だが、こちらのモデルナンバは計算値に対して 約65+ である。実際には、AthlonXP 1700+ 相当ということであるらしい。端数の 50+ は、低消費電力であることのプレミア分だろうか。いずれにしても、この Geode NX は AthlonXP と同列に扱ってそう間違いでは無い。
 次に 6W の GeodeNX 1500+ や 1250+ に目を向けてみると、計算値と300以上,500近い差がある。つまり、これらの GeodeNXプロセッサが Athlon 1250 や 1500 と同等の性能があるというのは誤認である。GeodeNX1500+ は、AthlonXP 1200+ 相当の能力であり、1250+は AthlonXP 800+ 相当であるようだ。消費電力が 6W であることのプレミアが相当乗せられたモデルナンバだということを認識する必要がある。

 さて、筆者は AMD が恣意的に冠しているこれらのモデルナンバについて、高いとか低いとかと批判するつもりは無い。ただ、購入対象として考える場合に、そのプロセッサがどの程度の能力があるのかの目安はどんなものかを考えてみただけである。
 そして、残念ながら AMD が冠しているモデルナンバもまた相当恣意的であり、そのままの値は必ずしもCPUの能力を示していないようだ。いち消費者としては、モデルナンバとCPU能力との間にある関係を正しく認識しておきたいと思う。(6.Feb, 2005)

[オマケ] Socket754 の Sempronシリーズ

 先日、AMD より Athlon64の 32bitデチューンドCPUであるSocket754版の Sempron下位モデルがリリースされた。これまでの 3100+ に加えて、3000+/2800+/2600+ の3種が加わった格好だ。これまでに、当サイトでは AMD が冠するモデルナンバーと,性能のベースとなっている各種パラメータ(クロック、FSB、キャッシュ)との関係について考察し、「Sempron のモデルナンバーが 300+程度の水増し値になっている」ことなどを観測してきた。(前回の記事に続いて AMD のモデルナンバネタで申し訳ない)
 さて、今回リリースとなった Socket754版 Sempron についても、各パラメータとモデルナンバとの関係を計算して見ることにした。共通項目として、FSBは400MHzである。また、Sempron3100+, 2800+ のキャッシュは 256KB であり、3000+/2600+ が128KB となっている。 3100+/3000+/2800+/2600+ のに対応するクロック周波数はそれぞれ 1800/1800/1600/1600 [MHz] である。要するに、クロック1.8/1.6GHz版と キャッシュ 256/128KB 版の組み合わせで全4種類というわけだ。

 さて、そのモデルナンバを“計算”して実際のモデルナンバとの乖離量をはじいてみたのが図12である(図12は、図11に新たにリリースされたSempronをプロットしたグラフになっている)。なお、グラフ中の注釈の数値はモデルナンバの計算値であり、Socke754版Sempronの場合、Athlon64 としてどの程度の能力を持っているかを概算した値である(計算方法については過去記事参照)。
 これまでの SocketA版 Sempronにおいては、グラフの青プロットが示すように,下位モデルほど乖離が大きい傾向があった。もっとも、SocketA版Sempron においてはその傾きは緩やかであり、誤差の範囲と言っても差し支えない程度のものであった。
 また前回の考察で示したように、低消費電力CPUである GeodeNX の場合においても、やはり下位モデルほど乖離する傾向があった。 GeodeNX の場合には誤差とは言えないレベルの乖離が確認されているが、モデルナンバに“6Wであること”のプレミアが乗っているためであったのかもしれない。

 さて、グラフの赤プロットで示される Socket754版 Sempron に目を向けてみよう。一目して分かることだが、これまでの傾向からは一転して上位モデルほどモデルナンバの乖離が大きいことが分かる。Sempron は、バリューPC向けのCPUなのであり、モデルナンバの基準が異なることは理解できるが、“Sempron”シリーズの中でも挿さるソケットの種類によってその方針は大きく異なるようである。
 さらに良く考えてみると、Sempron の対抗馬は当然 Intel の Celeron となろう。Celeron が「性能の向上に対してプロセッサナンバが上がりにくい」- すなわちセレロンは“安く見せる”という戦略であるのに対して、Socket754版 Sempron は「性能向上に対してモデルナンバを大幅に引き上げる」 - すなわちセンプロンは“高性能に見せる”という戦略をとっており、両者のスタンスは大きく異なる。
 おそらく(筆者の勝手な想像だが) Celeron を安く見せたいのは「Pentium4を高く見せたいから」なのだろうが、だとするとセンプロンはどういう位置付けになるのだろうか。今の Socket754版Sempron を高性能に見せても支障が無いというサインなのであろうか。なんとなく、Sempron の上位にいる CPU (Athlon64)に更なる付加価値を乗せる余地を見たような気がする。

 …いずれにしても、Sempron のモデルナンバは必ずしも数字の絶対値が性能を直接的に表していないので、これを購入対象に加える場合には十分な注意を要する。(高いモデルナンバのものほど期待した性能から乖離しそうだ)(27.Feb, 2005)

デュアルコアCPUのモデルナンバを眺める

 この2005年ももう半分のところへ差し掛かかり、以前からずっと騒がれつづけていたデュアル・コアCPUが、インテル,AMDの両者から発売になり、市場にも出回りつつあるようだ。
 こうしたデュアルコアCPUというのは、基本的にはSMP(Symmetric Multi-Processing)化した従来アーキテクチャのCPUを1ダイに収めたものであるから、中に収められているコア1個の処理能力が上がる性質のものではない。そのこと自体は、プロセッサが発表になる前から巷のメディアで散々言われてきたことであり、新CPUの従来ベンチ成績が向上しないことの理由は周知徹底されているように思う。もちろん、デュアルコア向けにチューンされるであろう各種ベンチの新バージョン準備も着々と進んでいることだろうから、「買った新CPUでベンチ成績が思ったほど良くない」と言う心理的問題は時間が解決してくれるだろう。

 さて、これらデュアルコアCPUのベンダである Intel, AMD の両者は、いずれもこれらのCPUに“プロセッサナンバ”とか“モデルナンバ”とかを付与している。これまでにも当サイトで考察してきたように、こうしたナンバーにはCPUベンダの思惑が込められているはずであり、ナンバーはその思惑を探る手がかりであるとも言える。そこで、ここではこの度発売になっているデュアルコアCPU(Pentium D,Athlon64 X2)に冠せられたナンバーを眺めながら,いろいろ妄想を逞しくしてみたい。

 まず、インテルの Pentium D 8xx シリーズのモデルナンバとクロックの関係を右図のように表示してみた。横軸は例によってモデルナンバの下2桁である。グラフに表すまでもないのだが、デュアルコアであるはずのPentium D は、Pentium 4 5xx(および6xx)シリーズと全く同じ線上に乗る(なんともつまらないグラフで恐縮だが)。
 つまり、クロック上昇に対する序列の付け方についてはコアがシングルかデュアルによらず一定、というプロセッサナンバの付け方だ。これまで、Celeron や PentiumM においてその傾きを(大体能力比に見合うように)変えてきたことからすると、“コア二個でも傾き同じ”というのは何か不思議な感がある。シングルスレッド・ベンチマーク成績に対する配慮なのかもしれないが、定かではない。
 いずれにしてもプロセッサ販売の観点からすると、「これから出すCPUのナンバは空けておきたいし、今後出すCPUはそれぞれ性能を高く見せたい」筈と思う。そうだとすると、なんとなく今回の Pentium D のナンバの付け方は,今後小刻みなクロックのラインナップが出てくると言うよりは,“未だ少し高クロック化路線で頑張ります”というサインのようにも見える。消費電力的には厳しくなっているデュアルコアCPUだけに、やはりプロセス微細化による低消費電力化が次のシリーズ投入のキーになるということだろうか。

 続いて AMD のデュアルコアCPU,“Athlon64 X2”に目を向けてみる。AMD はクロック、やキャッシュ容量及びバス速度などを加味して算出される“モデル・ナンバ”を採用している。ここでは、以前に求めた公式を使用して「2つのコアで何倍速相当か」を算定してみた。
 左図の横軸は、Athlon64 X2 のコアの仕様に基づいて公式から算定される“シングルコアだったら”のモデルナンバである。縦軸は実際に付与されているモデルナンバをとってある。つまり縦軸と横軸の比が,「コアを2つにすることのメリット」であろうと推定できるわけだ。
 グラフは必ずしも1直線ではなく 4400+ あたりにお買い得感が漂うが,現在発表されている4つの製品からすると、デュアル/シングル比はおよそ1.2倍ほどである。こちらも、「2つのコアで1.2倍の価値」なのだから、だいぶ控えめな数字の付け方のように見える。やはりインテル同様にベンチマーク結果への配慮なのだろうか。

 上述のように、お目見えしたデュアルコアCPUのモデルナンバを観察すると、「デュアル」であることそれ自体に対するCPUベンダが付けているプレミアは思ったほど大きくない。要するに、現在リリースされているデュアルコアCPUの更に先に,CPUベンダはパフォーマンスアップの見通しを得ているということなのかもしれない。
 筆者の個人的な感覚からすると、そのうち到来する64ビット時代にはマルチコアであることが必須になる(必須にさせられる)時代というのもあり得ると思う。そのときに、現在考えられているよりも随分高い能力が求められる(それだけのモノを供給出来るようになってしまう)、というのも現実味を帯びてきたと思った次第である。(4. Jun, 2005)

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