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PC処世術 - 雑感:計算機に見る大艦巨砲主義とその実効


 パソコンもそうだが計算機全体を見渡して見ると,その能力の範囲はピンキリである。処理能力の高い計算機は必要ともされているし、また羨望の的であることも少なくない。パソコンであればより速く,より大容量のデータを,より高度なソフトウェアで処理するために、能力が高いことが求められる場面は確かにある。
 ところが、一般に計算機の値段は処理能力と正比例ではないことが多い。例えば、現在最速とされるパソコンのの処理能力を有する計算機を購入しようとしたとしよう。そうすると、普通それは倍の値段では収まらない。このことは、こちらでCPUのコストパフォーマンスについて書いたことと同様である。

 このことは、逆に半分の処理能力のパソコンは半額以下で入手できる可能性もあるということを示している。そうすると、「半分の処理能力のパソコンを2台買った方がオトクではないか?」という考えが湧いてくるのは自然なことだ。
 だが、この問題はそこまで単純ではない(だから計算機の商売が成り立つのだが)。例え2台の計算機があったからと言って、2倍の速さで何かを処理できるとは限らないからだ。“2台の計算機”に出来ることは、速く終わらせるというよりも,基本的には同時に「2倍の量を処理できる」ということだけだ。
 では“2倍速い計算機”はどうだろうか。それは文字通り同じ処理を半分の時間で処理できる。あるいは、同じ時間内に2倍の量の処理を行うことが出来る。この点からすると、“速い”計算機は、複数のそれよりもエライということになるかもしれない。このことが、「とにかく速いコンピュータは何者にも勝る」という計算機における大艦巨砲主義の原動力の一つなのだろう。
 速い計算機を追い求める大艦巨砲主義を体現したものが、超弩級計算機であるスーパーコンピュータだろう。勿論、その価格はパソコンなどと比較すると能力のゲイン分よりも遥かに高い。それでも、兎に角「速いコンピュータでないと(時間的に)出来ない」類の計算があるのは確かで、他にできない計算をいち早く行わせるというアウトレンジ戦法を採れることが計算機が速いことの意義だと思う。

 だが筆者の見聞して来たところによると、実際のシーンでアウトレンジ戦法が炸裂している例は稀だ。筆者は複数の場所でスパコンに触れる機会に恵まれたことがあるが、果たしてその計算が本当にスパコンにさせるのが良かったのか、安いパソコンを大量に用意した方が良かったのかについては、未だに疑問が残る。
 多くの大型計算機は、その価格が高いだけに「複数の人が使い、複数のジョブ(計算プログラム)が同時に走る」のが普通だ。そして計算機のパフォーマンスが落ちないように、同時に走らせられるジョブの数には制限がかかっていたりする。制限にかかると、他のジョブが終了するまで自分のジョブは実行されないのである。
 確かに、ジョブが走り始めてしまえばスパコンの能力は大した物で、パソコンでは1週間以上かかる計算も一晩以内で完了させられた。だがスパコンが多少混雑していれば計算開始までにやはり一週間以上かかることもあり、パソコンの処理能力の射程内だったりするわけだ。アウトレンジ戦法は敵の射程内に追いつかれてしまっては意味がない。
 筆者が触れたスパコンは導入当時まさに世界屈指の能力を誇っていたのだが、それが10年としないうちにパソコンの射程内に完全に入り,壊れた冷蔵庫のように廃棄・滅却されていく姿を眺めると思いは複雑である。

 更にこうした大型計算機の中身を考えると、それは1個の超高速CPUから成るのではなく、数百〜千個以上の大量のCPUの集まりだったりする。したがって、「トータルの計算能力」は「大量の処理を複数のCPUに割り振ること」で紡ぎだされている。こうした大型計算機自体はCPU毎の負荷を完全には自動調整できはしないので、複数のCPUを効率良く使用するにはソフトウェアの側で工夫する必要がある。恐らく、ソフトウェアの出来の良し悪しは,各社スパコン間の性能の処理能力差と同レベルの生産性の差を生むほど(かそれ以上)だろう。

 2004年現在、パソコン用CPUの性能向上はマルチコアへと向かっているという。これによって、紙の上でのパソコンの計算能力は向上するだろう。勿論、それ用にチューンされるベンチマークテストも計算能力の向上を示す値を叩きだすことだろう。
 だが、実際にその能力向上を我々小市民が享受できるかどうかは、そのCPUの使い方とソフトウェアの出来の良し悪しにかかっているように思われる。近い将来ハイエンドパソコンの機能として宣伝される内容が、皆が本当に欲しがっている能力で,かつ効率的に提供されるならば、その能力は安PCの射程のアウトレンジにあり,きっとそのハイエンドPCの値段は容認されるだろう。逆に、無駄なジョブの増加や非効率なCPU使い途し示せないのなら、「だったら安パソコンでいいじゃないか」という結論を生むことになるかもしれない。(18. Dec, 2004)

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