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PC処世術 - 雑感:スペック至上主義がもたらす弊害


 PCに限ったことばかりではないのだが、製品選択時にはカタログスペックを参考にするのが通例だ。消費者としては、当然のことながらスペックが高くて安いものを追い求めるのが常である。したがって、それを作るメーカーとしてはカタログスペックを飾ることに血道を上げるのは当然とも言える。
 カタログスペックというのは、多くの場合一義的な数値で表されることが多く、その値の大小で製品の良し悪しを量ろうとするものである。しかし残念ながら、その数値が必ずしも製品の性能と一対一の対応になっていないということは、様々な買い物シーンにおいて経験するところだ。

 例えば“大馬力の自動車は性能が高い”かというと、必ずしもそうだとは言えない。確かにエンジンの最高出力は車の性能の一つであることに違いは無いが、車の性能はそればかりで決まっているのでも無い。同様のことはPCにおいても言えるのであって、例えば“CPUのクロックが高いPCは高性能”かというと、必ずしもそうだとは言えないということは、ご存知のとおりだ。
 だがそうは言っても、消費者の側としてはどうしたってカタログに掲載されている数値に目が行ってしまうものだし、“その数値こそが全て”と勘違いしてしまい易いものだ。こうした勘違いの源泉は、カタログに載っている数値の意味の理解不足と、「命題の“対偶”は真だが“逆”や“裏”まで真だとは限らない」という学校で習ったはずの数学の理解不足にある。そう、例え「高性能な計算機は高速なCPUを積んでいる」という命題が真であったとしても、その逆や裏が真であるかどうかとは別問題なのである。
 消費者の立場としては、こうしたカタログに書かれている数値を正しく読み取ることで、ヘンな買い物を避けたいと願うところであるし、避けられるものだと思っていた。しかしながら、上述のような消費者の“スペック信仰”はメーカーの商品企画にまで影響を及ぼし、企図せずとも消費者が地雷を踏んでしまう場合もある。

 実は、筆者も最近(PCではないのだが)そのような地雷を踏んづけた。その地雷は、東芝製のある携帯電話に付属しているデジカメで炸裂したのであった。筆者にとって携帯電話のデジカメはあくまでもオマケであって、大した性能は期待していなかったのだが,そうは言ってもメモ用などに便利なので無いというのも困る、とは思っていた。
 だがその東芝製の携帯電話に付属していたデジカメは、何としたことか付いていないのに近い程度の性能だったのである。パンフレットによれば、その携帯電話には200万画素超のデジカメを搭載していることが一つの売り文句になっているのに、だ。
デジカメによるQRコードの撮影例  右の写真を見て欲しい。写真左は普通のデジカメで撮影した二次元バーコードであり、写真右が問題の携帯電話で撮影したものである。撮影はいずれも室内・蛍光灯下で行ったものだが、問題の携帯電話の画像は暗すぎて何が写ってるか分からない程なので後処理でガンマ調整してある。問題の携帯電話の画素数は200万画素超で、なんとも 1600×1200 ピクセルからなる画像データを出力する。しかしながら、図を見て頂ければお分かりの通り実際の解像度は極めて低く、また極めてノイジーであり,付属のバーコードリーダーでコードを読み取ることが出来ない程度の画質なのである。
 デジカメの性能を示す数値は、一般には画素数だと認識されている。だが、当サイト中でも指摘したことがあったが、画素数は必ずしも画質とは一致しない参考程度の数値であるし、画素数が多いことの弊害もある。今回示した携帯電話の例では、画素数がむやみに多いが故に素子の感度が著しく低下し,それに見合うだけの光学系を搭載できなかったために“秒単位の長時間露光”(つまり手ブレ必至)が必要だったり,ノイズばかりが目立つ画像になってしまったというわけだ。
 確かに高画質と言われるデジタルカメラは高画素数の素子を搭載することが多いのだが、画素数だけを高くしたからと言って画質が良くなるわけではないのだ。むしろ,カタログ上の“○百万画素CCD搭載”などという飾り文句をつくるだけのスペック追求をあきらめて、もう少し画素数を減らして感度の高い素子を使ってくれた方が、実質的な画質のためどれだけ有難いことだったろうか。

 さて、ここで示した携帯電話付属のデジカメのように、カタログスペック信仰は作り手の側にまで蔓延している場合があり、消費者はより一層目を光らせねばならない時代になっているようだ。スペック至上主義も、“必ずしもスペックが実を表わしていない”程度なら問題ないが、“スペックだけは高いが実用に堪えない”ような製品が出てくるようでは問題である。
 それにしても、ある種の消費者がスペック至上主義に陥ってしまうのは致し方ないとしても,それが売れるからといって、プロであるはずのメーカーまでが同じ陥穽に落ちて実用に堪えないものを作るというのはいかがなものだろうか。

 (注:例示したものは東芝製のある特定の機種の携帯電話による画像です。全ての東芝製携帯電話のカメラが悪いかどうかは不明です。)(28. Dec, 2005)

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