(例1−2−3は、第1章2ページ3コマ目をあらわす)
サンドマン5巻
1−2−1
カリガリ博士のナイトショー
カリガリ博士(原題 DAS CABINET DES Dr.CALIGARI、1919年ドイツ映画)のパロディー。
スローリーは、北ドイツの見世物小屋でカリガリ博士と夢遊病者ツェザーレの占いが始まり人気を集めていた。しかし、連続殺人事件がおきる、博士がどうもあやしい。実は博士は精神医学を利用し人を操っていた。だが・・・
左からカリガリ博士、ツェザーレ、ジェーン
日本では1921年の公開。無声映画で、この頃は弁士が映画の進行を物語っていました。
1−5−4
ヘリコーン山
ギリシャ神話で神々の集まる山。
1−6−1
カリオペ
ギリシャ神話で叙事詩をつかさどる女神。原意は「美しい声をもった女性」。
1−7−3
ムーサ
ゼウスとムネモシェネ(記憶の女神)の娘達はムーサと呼ばれる9人姉妹の女神です。ミューズはムーサの英語読みです。それぞれ得意分野があります。
カリオペ−叙事詩
クレイオ−歴史
エウテルペ−抒情詩
メルポメネ−悲劇
テルプシコラ−合唱舞踏
エラト−恋愛詩
ポリュヒムニア−聖歌
ウラニア−天文
タレイア−喜劇
1−7−4
王子に信頼を置くなかれ
「君候に依り頼んではならない。人間には救う力はない。」聖書:詩編(146)からの引用です。
1−12−1
ブッカー賞
イギリスのブッカー・マコンネル社が1969年に設立した文学賞。英語で書かれた優秀な長編文学に贈られます。1992年からロシア文学のブッカー賞も設立。どんな作品が受賞しているのか興味がある方は、amazon.co.ukのページで英語ですが、全リスト(ノミネート作品も)が見られます。
1−12−3
TLS誌
タイムズ紙文芸付録(Times Literary Supplement)のことです。The Times(英)の別売り週刊誌でイギリスの代表的な文芸誌です。
1−12−3
バイロン
バイロン(George Gordon Byron 1788-1824)はイギリス・ロマン派を代表する詩人です。「チャイルド・ハロルドの巡礼」で一躍有名になります。劇詩「マゼッパ」「マンフレッド」、長詩「ドン・ジュアン」が有名です。
2−14−5
猫とて王を見られる
イギリスのことわざで、目下の者が目上の者の前でやってもいいことはいくらでもあるという意味です。
2−20−4
たった千の仲間が夢見れば(1000匹の猫)
ある程度の数がまとまると力になるという話は、イギリスで活躍中のライアル・ワトソンのベストセラー「生命潮流(Lifetide)」に出てきます。そこでは日本の幸島のサルの生態の調査が紹介されています。
あるサルがサトイモを洗ってから食べることを思いつき、ある程度の数のサルが真似するようになったら、とたんに幸島を超えて日本全土でサルが芋を洗って食べるようになった話で、その時の喩えが、
「話を進める都合上便宜的に、サツマイモを洗うようになっていたサルの数は99匹だったとし、時は火曜日の午前11時であったとしよう。いつものように仲間にもう一匹の改宗者が加わった。だが、100匹目のサルの新たな参入により、数が明らかに何らかの閾値を超え、一種の臨界質量を通過したらしい。というのも、その日の夕方になるとコロニーのほぼ全員が同じことをするようになっていたのだ。そればかりかこの習性は自然障壁さえも飛び越して、……、他の島じまのコロニーや本州の高崎山にいた群の間にも自然発生するようになった。」
この「100匹目のサル」という言葉は有名になりあちこちで引用されています。
3−0−1
この話は、本家であるシェイクスピアの「夏の夜の夢」の一読をお薦めします。その上でコミックを読むとニール・ゲイマンの底知れぬ物語の源泉に、より深く浸れます。
「夏の夜の夢」はシェイクスピアの全37戯曲の中で4番目に短いものです。
貴族の結婚式の祝賀劇として当初書かれたものと言われています。
真夏の夜の夢
「真夏の夜の夢」は "A Midsummer Night's Dream"の訳で、日本では昔からこのタイトルで通っていますが、この翻訳についてはいろいろ異議があるようです。
本文1ページにもあるように、この話は6月23日の出来事、つまり夏至の頃であり Midsummer Night はMidsummer day(夏至)の前夜ないし当夜という意味です。キリスト教の聖ヨハネ祭日前後にあたり、聖ヨハネ祭日の前夜には男女が森に出かけ、花輪を造って恋人に捧げたり、幸福な結婚を祈ったりする習慣がありました。また、古くは、この夜、妖精たちが跳梁し、薬草の効きめが特に著しくなると言われていました。
さらにシェイクスピアはもともとこの話は5月1日前後の出来事として作っています。ゲーテの「ファウスト」に出てくるワルプルギスの夜は5月1日の前夜であるため、ドイツ語訳では「ワルプルギスの夜の夢」と訳しているものもあります。
まあ、もともと真夏という意味は無いため、訳すならば「夏至前夜の夢」が正しいのでしょうが、ちょっと日本語のタイトルとしてはしっくりこないので、近年の翻訳家の方々は「夏の夜の夢」と訳して、研究書や論文もこれに倣う例が多いようです。
3−3−1
ストレンジ卿一座
この頃のシェイクスピアはストレンジ卿一座に属していたと言われています。この後、リチャード・バーベッジが結成した宮内大臣一座(後に国王一座と改名)に入り、以後、他の一座に移ることはありませんでした。
いわゆるプロの集団ではなく、職人達が合間をぬってやっていました。人気のある一座は旅回りもしましたが、浮浪者と区別しづらかったので、政府は貴族に属さない一座は浮浪者とみなし、罰する法令を出します。ですから当時の劇団にはレスター伯一座、エセックス伯一座、ペンブルック卿一座など貴族の名が冠せられています。
ケンプ、コンデル等役者として登場する人間は全員実在していました。
3−5−1
ウィルミントンの大男
コミックの通り、イギリスのウィルミントンには本当に大男の絵が描かれています。その存在は1779年に報告されていますが、いつ頃出来て、何を表し、何の為に描かれたのかは謎につつまれて諸説紛紛です。イギリス政府の観光案内のページでは「スキーをするバイキング?」とか書いてあります。(小林正記様、情報提供ありがとうございます)
3−9−1
「ピラマスとシスビーの残酷なる死を扱いし世にも哀れなる喜劇」
「ピラマスとシスビーの残酷なる死」は中世に流布していた有名な恋物語で、チョーサー(4巻4−2−2)もこの劇を扱った詩を書いています。ストーリーは「ロミオとジュリエット」に似ています(似ていますが「ロミオとジュリエット」の原典ではありません)。
3−14−5
ピースブロッサム
コミックでは書かれていませんが、劇の場面でタイターニアが豆の花(ピースブロッサム)、蜘蛛の巣、蛾、辛子種の精を呼んでいます。それで、名前を呼ばなかったか?と言っているわけです。
3−16−2
マーロウ
クリストファー・マーロウのこと。詳細はマーロウ(2巻7−22−6)の項参照。シェイクスピアとの関係については4巻「運のいい男」に出てきます。
3−17−6
主よ人の愚かさの限りなさよ
サンドマン1巻1−2−1でドリームが同じ台詞を喋っています。人間でないものに言われるとガーンときます。道化が喋るにはもってこいの皮肉な台詞です。
3−23−5
ロビンが
パック=ロビン(=ホブゴブリン)なのですが、1ページの中で自分のことをパックやロビンと言っているので、ちょっとわかりづらいです。原文からそうなのだから仕方ないところです。パックで統一して訳すことも多いようです。
ロビン・グッドフェローはイギリス民話に出てくる妖精の名前で、オーベロンと人間の女性の合いの子と言われています。
3−24−7
ハムネット・シェークスピア 1596年没
タイターニアは本家「夏の夜の夢」の劇の中で子供をさらって、オーベロンにたしなめられています。
4−6−5
ラー
太陽神、古代エジプト神の最高神。全ての生命の創造主。ハヤブサの頭と太陽の玉を持って描かれることが多く、古代エジプトの都市テーベの守護神アモンと一緒に、アモン・ラーと呼ばれました。
4−18−8
あのTVのテーマにあったでしょう?
「M*A*S*H」というアメリカ映画に出てきたテーマソング「Suicide Is Painless(自殺に痛みはない)」のことで、ジョニー・マンデルが歌っています。映画が先(1970年)で、TVは後(1972-1983年)です。
「M*A*S*H」は(陸軍)移動外科病院(Mobile Army Surgical
Hospital)のことで、朝鮮戦争を題材に、軍隊機構と戦争遂行の任務を罵倒したブラックコメディーです。
4−19−2
アルゴンを覚えている?
推測ですがローマの百人隊長ということと、2000歳ということから、アルゴンはイエス・キリストの死に立ち会っていたというキャラで「メタモルフォ」の中で話が進んでいたことでしょう。
参考、引用文献(今回は文のそのままの引用がいくつかあるので、明記します)
ギリシャ・ローマ神話 ブルフィンチ作、野上弥生子訳 岩波書店
不思議の国のアリス ルイス・キャロル作 マーチン・ガードナー注 石川澄子訳 東京図書
The Annotated Alice ルイス・キャロル作 マーチン・ガードナー注(「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」の原文+注釈。アリスの究極本!オススメ!)
生命潮流 ライアル・ワトソン著 木幡和枝、村田恵子、中野恵津子訳 工作舎
夏の夜の夢・間違いの喜劇 シェイクスピア作 松岡和子訳 筑摩書房
夏の夜の夢 シェイクスピア作 小田島雄志訳 白水社
シェイクスピアの世界 フランソワ・ラロック著 石井美樹子監修 創元社
妖精 Who's Who キャサリン・ブリッグズ著 井村君江訳 筑摩書房
英文学を学ぶ人のために 坂本完春編 世界思想社
THE NEW OXFORD DICTIONARY OF ENGLISH / OXFORD
THE CONCISE OXFORD DICTIONARY OF QUOTATIONS / OXFORD
The International THESAURUS OF QUOTATIONS / Harper&Row,Publishers,Inc.