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短歌会 フランシーヌの会
HAPPY TANKA BALLOON

4月18日〜 1997年

■切手

西●語るべきことなくして文を書く道先案内切手に頼り

■地下鉄

宮● 地下鉄の 車窓をはしる 闇と壁 見つめる我の おぼろな姿

西●地下鉄の吊革持ちて並びおる猿たち杜に消えて行く夜

山●トンネルの 暗闇ぬけて 地下鉄の あの世の果ての 駅を見つける

ひ●闇と壁 透かして見せる この窓は 我が身にありし 地下鉄の眼か



■耳

西●平目焼くだたひたすらに何枚も剰(あま)る唇耳を咬みなむ
西●闇の夜を足は後ろに歩をとりて耳ははるかな世界に遊ぶ
西●耳と耳ひたと寄せれば紫のざわめき道を押し上げ来る
西●ゆるやかに消えゆく耳の外周をなぞりて測る汝がまろみ
西●「人にあく穴の空虚が哀しい」と耳をふたげばなほいや増しに

山●目を開き 耳をふさぎて 音楽の 髄をつかむは 天才の仕業
山●耳かすか 潮騒の宵 ガムランの 音を合わせる 楽団の響き

宮● 晩冬に 耳探りたる 山の闇 わが吐息に 静まる気配
宮● 聞き慣れた 足音嬉し はからずも 耳そばだてて つゆ知らぬ顔
宮● 潮騒の 重ねる音は 耳ならず からだに響く 閨のまどろみ

ひ●眼で思う 鼻でつぶやき 口ぬぐう つぶりし耳よ 何を問うのか
ひ●千の耳 幾重のまこと 受け飲みて 酔いてつぶれて 明日も寝過ごす



■船

西●鬱金咲くこの曇天に櫂あらば頬吹きそめて船を漕ぎ出づ

中●気がつけば 汽笛の音に 人の影 君にゆすられ 船にゆすられ

宮● 押して引く 艪を回す手に 船揺れて 海原行かん 君の背の向こう

ひ●ながき尾を たゆたゆひきて 渡りゆく かいのつぶやき 船のうたかな



■蝸牛

西●苔色の蝸牛啼く菜畑やおぼろ月まで幾らか遠し

中●蝸牛 何処へ行きたし ヌルヌルと 待つ暇もなく つまんで挨拶

宮● 酸性雨 なすすべもなく 蝸牛 足跡消えて あじさい寂し

ひ●あじさいの あわきいろどり 泳ぎみる 君の眼たのし 雨、蝸牛



■台風

西●緑なす南国の島を包み込み颱風一号宇宙を祝す

山●颱風の 過ぎたるのちの 明るさに 身も洗われよ 秋にそなえて

宮● 台風に 名前をつけて 何嬉し 盃(サカズキ)捧ぐ そ知らぬ君に

ひ●冷めし海 乱しに乱し 台風が 呼び醒まし熱 身をつらぬくか



■休日

西●飛行機の影遥かなる休日や小石投げ挙げ萬有を知る

山●休日に うさぎを遊ばせ たわむれば 人の仲人 うさぎとりもち

宮● はるかなる 君との休日 印つけ 暦睨みて ストレッチング

ひ●雨あがり そよぎし風が 雲ながす 勤めはあれど こころは休日



■押し花

西●少年の息吹正しき図鑑あり押し花挿して残り香移す

山●押し花す 少年つつむ 青き香が 汗とまじわる 夕暮れの夏 

宮● 君開く 手帳の暦 押し花の しおりつまめる 爪に見とれたり

ひ●甘きゆえ 薫るその身の 美しさ 押し花にする 人の悲しさ



■アラバスター alabaster 【名詞】雪花石膏 【形容詞】白く滑らかな

西●黄金(こがね)ふくアラバスターに水注ぎ肌の調べと水の行方を

山●紺碧の 瞳に入りて 立ちつくし アラバスターのみ 時空を越える

宮● 褐色の アラバスター 黒檀の 光まといて しなりを秘める

ひ●人去りて 閉館の鐘 漂いし 美術の城に 見るアラバスター



■青空

西●青空の片手で吊らる三日月と摘み残る実溢る地平の子孫

山●なにもない 青空だけを 見つめれば 洗えど消えぬ 紙魚にさわれり

宮● 気も薄く 闇をひかえた 青空に 息整えて 片想いはせ

ひ●白濁の 闇を遮る 青空に 祝福の鐘 絶えることなし

<場外>
西●青き薔薇闇に一輪咲きいづるバベルの館に鐘の音眠る



■春宵(しゅんしょう)

西●逡巡しケープ広げる春宵や猫達集い綿国が夢

山●少女らの さざめく笑い 空をきり あらわな肌の 春宵なり

宮● ゆるみゆく 春宵ふたり 寄り添ひて ゆれるやなぎに 一瞥の薫風

ひ●つつじ咲く 香りの迷路 酔い遊ぶ やがてこの日も 春宵に溶け



■虫の音

西●姿なき幾万包む草木や手も虫の音の二十四時。二人

山●南国の 虫の音かさね 緑啼き 闇に描くは バロンの舞踏

宮● 虫の音は サカリの声か 静々と 緑の息吹き 共鳴しつつ

ひ●夜を行く ささやく小径 抜けて行く 恋する声か 呼ぶ虫の音か

ひ●しみじみと鳴く*虫の音いましばし聞かんとすれど我おじゃまむし



■しずく(雫)

西●一坏(つき)の雫集めて樹下にあり君目覚む時待つ澪つくし

山●ひとつづつ 雫に映る 世界をば 手、一掴み 消す眩しさよ

宮● 天と地と 海に囲まれ 凡凡と 時のシズクを 共に分かたん

ひ●もう一杯 とっくりかたむけ 盃へ 振れど覗けど ただ一雫








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