〔医療にやさしいコンピュータ〕イントロダクション
モダンメディア,44/2,pp52(18)-58(24),1998

藤谷 誠/清水国際特許事務所
e-mail makotof@kt.rim.or.jp


はじめに

 新しい連載「医療にやさしいコンピュータ」が、『モダンメディア』に登場する。タイトルにはコンピュータをいただいているものの、筆者である私・藤谷誠はコンピュータの専門家ではないことを読者の皆さんにお断りしておかなければならない。筆者は診断薬メーカーで研究開発スタッフとして勤務する、コンピュータ利用者の一人にすぎない。この連載では、筆者のようなコンピュータを仕事の道具の一つとして使っている人間の日常的なコンピュータとの関わりをインターネットを中心にご紹介しようと考えている。一般的な利用者が、ちょっとした工夫でコンピュータをさまざまな場面で活用できることをご紹介できるよう努力するつもりでいる。言い換えれば、コンピュータの専門家ではなく一利用者の体験をお知らせすることで、より具体的な事例を通じてコンピュータの使い方をご紹介できるのではないかと思っている。
 「医療にやさしいコンピュータ」というタイトルに沿って、題材には筆者が日々接することの多いライフサイエンス分野の情報を中心に選んでいくことになろう。しかしコンピュータにしろインターネットにしろ、あたまから利用範囲を限ってしまう必要はない。題材としては限られた範囲のものを取り上げていくが、読者の皆さんはそれぞれの興味のおもむくまま、あるいはご自身の趣味や仕事に関連した分野での活用に挑戦していただきたい。
 筆者よりもコンピュータの使い方を詳しくご存知の方は読者の中にもたくさんいらっしゃるはずである。したがって、この連載の中で「こうすればもっと便利だ」といったことにお気づきの方は、どんどんご指摘願いたい。筆者自身の勉強にもなることであるし、もちろん読者の皆さんにも必要な情報は連載を通じてできるだけ積極的にフィードバックするつもりでいる。連載の中に「読者からのお便り」といったようなコーナーを設けることも考えている。

I. 連載予定
 さて、皆さんはお仕事の中で、あるいはプライベートでコンピュータをどのようにお使いだろうか? データの整理に使ったり、文書を作ったり、あるいは検査室や実験室でいろいろな分析機器の制御のために接続されている方もたくさんいらっしゃるだろう。また、インターネットでいろいろな情報の入手をしたり、電子メールなどを使ったコミュニケーションに活用されている方も多いだろう。もちろん、ホームページを通じて情報発信を実現している方も少なからずいらっしゃるはずである。
 さて、この連載ではそうしたたくさんのコンピュータ利用者の中でも、比較的コンピュータに馴染みの薄い方々にもご理解いただけるような内容にしていこうと思っている。特にこれからインターネットについても勉強してみようとお考えの方に役立つ情報、データの集計や文書の作成といった一般的なコンピュータの用途を超えた新しい可能性のご紹介といった内容を心がけるつもりでいる。あるいは仕事場ではネットワークが整備されているが、自宅のパソコンでもインターネットを利用してみたいとお考えの方に、個人的な利用にあたって有用な情報を提供していくことも予定している。内容に関するご質問、ご希望やご批判は、遠慮なくお知らせくださるよう重ねてお願いしたい。ちなみに筆者の電子メールアドレスは、

makotof@kt.rim.or.jp
である。
 今のところ、次のような連載予定を持っている。この予定からおわかりいただけると思うが、まず電子メールからとりかかることとした。電子メールによって読者の皆さんと連載担当者である私のコミュニケーションを実現するところから始めようというわけである。とはいえ、私との文通だけではおもしろくもなんともないので、電子メールの細かい使い方は後々ご紹介する機会を設けるとして、まずはインターネットを通じてどのような医療情報に接することができるのかといった紹介も早い時期に試みる形とした。

「医療にやさしいコンピュータ」の連載予定
第1回 「インターネットと電子メール」
第2回 「インターネットを通じて得られる日本語の医療情報」
第3回 「ホームページをのぞいてみよう−National Cancer Center Homepage−」
第4回 「インターネットを通じて得られる英語の医療情報」
第5回 「ホームページをのぞいてみよう−National Institute for Health−」

 5回目以降は、今のところ固定したテーマは予定していない。電子メールによる文章以外の特殊な情報のやり取り、電子メールを自分のパソコン上で整理するテクニック、自分に必要な情報をインターネットで探し出す方法、そしてパソコンを使う上で注意したいこと等といった内容を考えている。
 今回は連載開始にあたってのイントロダクションということで、特に具体的な解説はしない。しかし、もしもインターネットに触れてみたいなとお考えなら、この連載を機会にぜひ接続にチャレンジされることをお勧めしたい。以前モダンメディアに筆者が寄稿したインターネットの紹介記事1)にもあるように、『インターネットマガジン』や『アスキーインターネット』等といったインターネットをテーマとした雑誌には、未だつながっていない人のための親切なガイダンスが毎月ついている。これらのガイダンスでは最初の一歩がうまく説明されているので、おそらく簡単に接続を完了することができるものと思う。つながってしまえばこちらのもの、ホームページも電子メールもどんどん体験できるはずである。今のインターネットは、思いのほか身近に来ている。


II. マニュアルコーナー『いろはの“い”』
1.ダイヤルアップ/Windows95編

 以上のような連載記事に加え、個人ベースで手軽にインターネットを利用するための初歩的なマニュアルを毎回お届けするつもりである。『いろはの“い”』という名前で本編とは独立させ、これからインターネットを使いはじめるという方々の一助になればと思っている。具体的には、電話回線を使ってダイヤルアップIPという接続方法(以下、単にダイヤルアップと記載する)で個人のパソコンをインターネットに接続し、電子メールの送受信やホームページの利用にいたるまでの各ステップを簡単に解説してみたい。Windows95を中心とした内容になるが、紙面の許す限りMacintoshでの利用についても触れるつもりでいる。もっとも、ダイヤルアップのための作業手順には違いがあるものの、実際にインターネットを使う場面では両者の間にそれほど大きな違いはないだろう。
1. ダイヤルアップ/Windows95編
 このコーナー『いろはの“い”』第1回は、電話回線を使ってパソコンをインターネットにつなぐ最初の一歩、ダイヤルアップのために必要な作業である。ダイヤルアップについての解説は、インターネットをテーマにした雑誌では毎号のように紹介されており、実際に『いろはの“い”』をまとめるのにあたっては筆者もこの種の解説記事を参考にした。またプロバイダが各社のホームページで親切なセットアップの解説2,3)を用意している。これらの解説では実際のパソコンの画面をよりふんだんに使った親切な内容になっているので、既にWWWを利用できる環境をお持ちの方は参考にされるとよいだろう。あるいは参考となる書籍を見てみたいという方には、接続からインターネットのしくみに至るまでをごく簡単に解説した初心者向けの書籍もある4)
 本連載では重複を厭わずあえて同様の解説を取り上げることにする。インターネットを利用できる環境にない方々にとって、この連載がインターネットへの一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いである。逆にもしも既にインターネットを利用できる基本的な環境をお持ちの方々については、当面は本編の方にだけお付き合いくださればと思う。
 ダイヤルアップは、日本国内で個人がインターネットを利用するときに現時点で最も手軽な接続方法である。ただ手軽とはいえ、『いろはの“い”』のために用意した解説用のパソコン画面の数を見ると、いささかげんなりされた方もおられるだろう。しかし心配には及ばない。どうか勇気を持って取り組んでみていただきたい。一連の作業は確かに多少厄介な面もあるかもしれないが、接続環境に変化が生じない限り一度やり遂げてしまえば以降はめんどうな作業は要求されないのである。いわば、楽しい海外旅行のためにはめんどうでもパスポートの申請が必要となるのと同じようなものである。
 今回の『いろはの“い”』−ダイヤルアップ/Windows95編−では、コントロールパネル内の設定、そしてダイヤルアップの設定という内容をお届けする。おおまかな作業の流れは、図1、2に示したとおりである。図の解説とご自分のパソコン画面に表示される案内を参考に矢印にしたがって作業を進めれば、セットアップを完了できるだろう。パソコンに不慣れな方であっても、それほど心配にはおよばない。先に述べたとおり、一連の作業は普通のユーザーであればそれほど繰り返し行うものではない。こうして解説を試みている筆者も、実はせいぜい2〜3度しかやったことのない作業である。それでも通常は大きな障害にぶつかることなく作業できるように設計されているのである。なおディスクトップにインターネットセットアップウイザード(地球の下に「インターネット」と書いてあるアイコン)が見えている場合には、これを利用してセットアップを進めることもできる(ただし、ここに紹介したやりかたとは手順が異なる)。
 作業に先立って必要な準備は、まずWindows95がインストールされたパソコンを用意すること、そのパソコンには電話回線の利用に必要なモデムが接続され電話線がつながっていること、そしてプロバイダとの契約を済ませていることの3つである。最近店頭で販売されているコンピュータでは購入時に既にモデムが内蔵されているのが一般的なので、おそらくモデムの接続は完了しているものが多いだろう。プロバイダとの契約(*『ちょっと教えて1.』)を済ませると次に示すような情報が通知されるので、これを用意した上で設定作業を進める。

プロバイダのアクセスポイントの電話番号
接続アカウント
接続パスワード
ドメインネーム
ドメインネームサーバIPアドレス

 設定が完了すれば、あとはアイコンをクリックするだけで、インターネットとの接続を実現できるはずである。アイコンのクリックからインターネットとの接続が完了するまでの画面表示を図2に紹介しておくので、設定が完了したらチェックしてみていただきたい。さて、以上の作業でインターネット利用のための基本的な環境は用意できるのだが、他の解説記事1)にもあるとおり実はこの状態では電子メールもホームページも利用できない。それなりのソフトウエアを手配しなければならないのである。というわけで、次回「医療にやさしいコンピュータ・第1回」では、「インターネットと電子メール」と題してとりあえず電子メールの利用について基礎的な解説を試みる予定である。また『いろはの“い”』では、Macintoshでダイヤルアップを実現するまでの手順を解説しようと思っている。
図1 コントロールパネル内の各種設定
図2 ダイヤルアップの設定と接続


III.解説コーナー『ちょっと教えて』
1.プロバイダとの契約

 この連載では『ちょっと教えて』という解説コーナーを設け、連載の中で特に補足説明が必要と思われる語句等を対象に解説を試みる。今回の『ちょっと教えて』では、「プロバイダとの契約」を取り上げる。
1. プロバイダとの契約
 プロバイダとは、一般的には電話回線を通じたインターネットとの接続サービスを提供する業者を意味する。インターネットでは、もともとコンピュータ間を専用の回線で接続するのが基本的な形だったが、専用回線を個人で利用するには経済的な負担が大きい。そこで電話回線を利用したダイヤルアップ形式での接続を中心とする接続サービスを提供する業者が生まれた。
 プロバイダとの契約は、業者に連絡して申し込み用紙を送ってもらい、必要事項を書き込んで返送するのが一般的である。このほか、パソコン通信を利用して書類への記入をいっさい行わないで契約できる、いわゆるオンラインサインアップという方式を採用しているプロバイダもある。契約にあたって特別に用意すべきものはないが、支払いは一般にクレジットカードを利用するため、自分のクレジットカードがプロバイダ指定のものかどうか、念のため確認しておくと安心である。
 現在、日本国内で利用可能なプロバイダの数は、700以上とも言われている。東京や大阪等の大都市に限らず、地方都市にもたくさんのプロバイダが生まれている。そこで、たくさんのプロバイダの中からどれを選ぶのかが大きな問題となる。プロバイダの選択基準には、次のようなポイントがある。実際のプロバイダに関する情報は、インターネットマガジン等の雑誌に膨大なリストが毎月掲載されているので必要な方は参照願いたい。

◆料金
 プロバイダとの契約に必要な費用は、初期費用+利用料というのが一般的である。利用料には従量課金(利用時間に応じて課金)と固定料金(使い放題)とがある。従量課金では分当たり10円前後から、固定料金であれば月々1,000円〜3,000円程度といったところが一般的な相場のようである。

◆アクセスポイント
 利用者は、各プロバイダが用意したアクセスポイントに電話をかけてサービスを受けることになる。したがって、アクセスポイントがどこにあるのかは大きな問題である。特に市内通話区域にアクセスポイントが無い場合には、市外通話を利用せざるをえない。そのためランニングコストはプロバイダへの支払いに加えて電話料金の占めるファクターが大きくなる。各種通話割引なども合わせて考慮してみると良いだろう。

◆サービス内容
 ここでいうプロバイダの基本的なサービスは、ダイヤルアップ接続サービスの提供である。大手パソコン通信サービスでは、ダイヤルアップ接続は可能だが電子メールについてはサービス対象外という特殊な形を採用しているものも有るので注意したい。このほかに自分の期待するサービスがあれば、その有無も選択基準として考慮する。具体的には、いろいろな相談に応じてくれるとか、ホームページの作成に協力してくれるといったサービスを売り物にしているところもある。

 ちなみに筆者は、リムネット(RIMNET)を利用している。リムネットの課金形態は、5,000円の契約料+月々1,800円で7.5時間まで、となっている。同じような料金で使い放題の固定料金システムを採るプロバイダもある中であえて時間制限のあるものを選んだのには、2つの理由がある。ひとつは制限があるとはいえ7.5時間(450分)はかなりの時間である。忙しい毎日の中では固定料金にも等しいといえる。たとえ超過しても10円/3分であるから、安心して利用できる。二つ目の理由は、固定料金制のプロバイダでは、通話中の可能性が高くなることを心配したためである。つまり、他の利用者の接続時間が長くなることが予想され、それだけ通話中の可能性が増えるということである。最近ではテレホーダイという通話割引システムも用意されているので、通話中の問題は大きくなっているものと思われる。

文献
1) 藤谷 誠:「検査室でインターネットを」,モダンメディア,42巻9号,400-406,1996.
2) So-net インターネット接続ソフトの設定方法
  (URL http://www.so-net.or.jp/access-service/center/QandA/question40.html).
3) リムネット セットアップ用マニュアル
  (URL http://www.rim.or.jp/support/sprt/setup.html).
4) 浅野理森:インターネット接続マニュアル(技術評論社),1996.