2000/JUN/04   満員電車の風景


高校生の頃から満員電車に乗り続けているが、いつになったら慣れるのだろう。いや、むしろ最近の方が、満員電車にストレスを感じている。歳をとったということなのかも知れない。

つくづく家畜以下の扱いだなぁと思う。馬だって牛だって豚だって、あれだけ詰め込まれたらストレスでおかしくなってしまうだろう。いや、あれだけ詰め込むこと自体が不可能かも。大人しく詰め込まれるとは思えない。

その上、足を踏まれ、押しつぶされ、け飛ばされる。他人の口臭や香水、化粧品、汗の匂いが入り混じる空気を吸い続ける。夏は汗でベタベタした他人の肌に触れることもあるし、冬はコートの中で大汗をかく。雨の日は濡れた傘と洋服が密着する。ヘッドホーンからカシャカシャと漏れ出す音に悩まされることもある。アタッシュケースや鞄の角が体に食い込んで痛くてたまらないときもある。全く酷いものだ。

ある朝、東南アジアの方らしい40歳くらいの婦人が私の乗る駅で電車を待っていた。来た電車は満員。下車する人も多かったから、彼女も押し込まれるように乗り込んだ。下車した人数と同じくらいの人が乗ったから相変わらずの満員電車である。そこから先、恐らく彼女は人生のうちでも最悪の部類に属する体験をしたのだろう。私からは直接彼女の姿は見えなかったが、電車のスピードが変わったりカーブに差しかかるたび、何度も彼女の声が聞こえてきてた。「Oh, my God!(きゃー!)」

2つほど先の駅は大きなターミナル駅だ。かなりの人が降りた。そのさらに2つ先の駅で降りるため、私は体の向きと位置を変えた。すると、彼女の姿が目に入った。彼女は空いた車内にほっとした様子で、空いたスペースに「Excuse me(すみません)」と周囲に言いながら体を移した。しかし、それはコマ送りの中の一瞬の平和に過ぎない。すぐにその駅で電車を待っていた人たちが、怒濤のごとく乗り込んできた。彼女が電車に乗り込んだ時の勢いとは比較にならないほどの、凄まじい勢いである。

その後の彼女の「Oh, my God !」はそれまでとは比較にならないほど大きな声であったことは、恐らく、満員電車に毎朝揺られている方には、想像に難くないはずだ。

彼女が短期の旅行者であるのか、長期滞在者であるのかは私にはわからない。その後に見かけたことは無い。しかし、彼女が、この朝の出来事をどんなふうにご家族や友人に話されたのか、実は結構、気になっている。日本という国の現実の一面を彼女はこの朝、どんな風に受け取ったのだろう。

 

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