98/FEB/13 本当の侵入者は誰?
ここに引っ越してきて、初めての夏のある日の朝です。
網戸にした窓の向こうに、きつい視線を感じた。部屋には私一人のはず。
誰? どろぼう?強盗?・・・まさか。恐る恐る、視線をずらしていくと、網戸の向こうには「猫」。明らかに私を見てる。お行儀の悪いコトバで言えば、”ガン”を飛ばしてる。猫にガンを飛ばされるなんて初めてのことだが、ここは私の居住地だ。びびっている場合じゃあ、ない。不法侵入者に屈してはいけない!
眉間にしわを思いきり寄せ、少し「猫」の方に向かって顔を突き出し、睨んだ。
でも、「猫」はぴくりともしない。同じ姿勢で、変わらずに鋭い視線をこちらによこしている。負けるもんか! ・・・・睨んだ顔を保ちつつも、私の頭の中では、
・・・・網戸って、猫の爪じゃあ破れたりしないよ、ねえ?・・・・。
なんて不安が過ぎる。猫の爪と戦うなんて、絶対負けるに決まってるし、飛びかかってくる猫から機敏に身をかわす自信もない。網戸の存在だけが、私の安全を確保している。
武器を探さなきゃ。人類は知恵で生き残ってきたんだもの。
視線を動かす勇気がなくて、視線に映る範囲で武器になりそうなものを物色する。よし、入ってきそうになったら、あれを投げつけて、その後、あっちを投げつけて・・・頭の中にシナリオができていく。非常事態宣言だ。私の頭脳はフル回転、頭の中で予行演習も行われ、突然の「猫」の進入に着々と体制を整えていく。まさにその時、
「猫」はぷいっと横を向いて、すたすたと歩き出したのでした。全く何事もなかったかのように塀の上を悠然と通り過ぎて行きました。
あ、
ちょっとお、私のこの緊張感をどーしてくれるのよお!。・・私がその後、大きなため息をついたことは、言うまでもありません。その後も、気づくと同じような時間に「猫」が、網戸の向こうに姿を現していました。でも、「猫」はもう二度と私の方を見つめて立ち止まっていることはありませんでした(しばらくの間、私の方は反射的にパニックを起こしていたんですけどね)。
果たしてあの「猫」にとって、私の存在は何なんでしょう?大人の猫みたいだから、私が引っ越してくる前から、この辺りはテリトリーだったのかも知れません。ってことは、本当は、私の方が侵入者ということなのでしょうか?