あんパンと女性(1996.10.2)

あんパンと女性(1996.10.2)



 あんパンが好きでない女性に会ったことがない。身近な女性が全員あんパンが好きなので、機会があるごとに好きかどうか聞くことにしている。男性の場合、袋に入れたあんパンを5、6個買ってきてもそれほど感激する様子はないが、女性の場合喜色満面になる場合が多い。
 さつまいもが好き(とくに焼き芋)な人も多い。甘党、辛党から説明できないこともない。女性に甘党が多い、酒を飲む男性は甘いものからの栄養素がアルコール含有飲料でまかなえる、というような。ここから先は僕のたんなる冗談っぽい推理になるが、古石器時代のミイラの胃から雑穀(粟、稗、木の実など)が見つかったそうだ。もともと、男は獲物を追いかけ、その場で肉を食らうこともあっただろう。家族が集団がいる場所には貯蔵庫があったはずである。そうすると、家で子供を産んだり育てたり、畑に出たりする女性の食べ物は身近にある穀類になる。長い年月のあいだ、体に貯蔵する栄養素の関係などの都合もあり、でんぷん質を常に摂っていたのではないだろうか。
 日本人は飢餓に強い民族だという。たとえばアメリカ人の倍の人がお腹のところに脂肪がつきやすい遺伝子をもっているらしい。明治からたかだか100年ちょっと。もともと日本人は飢えと闘ってきた痕跡が濃く残っている。
 ところで、僕はチョコレートが大好きである。一枚いっぺんに食べてしまう。ゴディバのチョコレートはおいしいが、どうしてあんなに高いのかわからない。日本のチョコレートはかなり発達していると思う。というか日本人の味覚に合わせて作られているのかもしれないけれど。
 小田急線の豪徳寺においしいあんパンを売っている店がある。そこであんのおいしい、しかもたくさん詰まったあんパンを買ってくると、妻などは大喜びするし、口コミで周辺の人も買いに行っている。これは女性の小さな楽しみかもしれない。でも、けっこう人間って小さな楽しみのために助かっているところもあるような気がする。

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