冬の雨(1996.12.5)

冬の雨(1996.12.5)



 小雨が降ったりやんだりするなか犬との散歩から帰ってきて、朝食を食べ「ふたりっ子」を見てから、この文章を書こうとしたら風が激しくなって雨もだいぶ降ってきた。隣の家の屋根の上を白い雨粒が走っている。連続ドラマの流れは明暗のリズムを持っている。日常は明暗のリズムをもっているから、シミュレーションである。トラブルが始まりそうで、「つづく」、トラブルが終わりそうで「つづく」、これが視聴者を惹きつけるコツなのだろう。
 自分の感情の流れを見てみると、いろいろなトラブルや快楽のまにまにひっかかっていることどもは、最終的な実行というところに辿り着いていく。スケジュールをこなす、というやつである。たとえ長期的なトラブルをかかえていても、すぐ前にある実行すべきことをやっていく。つまるところ本当は割り切れないものばかりが普通ということが、身に染み込んでいるからだろう。
 ひとつの観点なのだが、実行することに吝嗇な人もいる。フットワークが軽い人もいる。これまた普通のことなのだが、実行の「選択」は「自己にかかわる」というところに根拠がある。他人のこの「選択」をよく観察していけば、「いやな奴」とか「いい奴」などの他人との距離の置き方が自然に決まってくるし、広くいえば組織のなかでも同じように決まってくる。まあ、そのうち何がなにやらわからなくなって岸信介が言ったという「義理を欠くのが長生きするコツ」というような自分の実行パターンを決め込むに至る。
 話は変わるが昨日の新聞では、原爆ドームを世界遺産にすることの問題で、日本の憶測ではアメリカは反対するだろうということだったのだが、今日の朝刊ではアメリカは「反対する理由がない」とのことで賛成に回るらしい。同じ紙面で元731部隊関係者、従軍慰安婦関係者16人をアメリカ入国禁止処分にする、という記事があった。これはナチス関係者以外初めてのことだという。
 ところで、冗談で「原爆」という名のバンドを作るとのことで、広島、長崎関係者を集める話を偶然聞いた。できればビキニ環礁付近の出身者がいないかな、とのことである。
 この文章を書いているうちに、雨はすっかりやんだ。地平線のほうは明るくなっているところもある。

* さっきテレビで、アメリカが上記の原爆ドームについて、世界遺産とすることを反対するというのを正式に表明した、と言っていました。昨日の夕刊(産経)での外交筋の話などが上記などですが、「正式な表明」が「実行」の選択ですね。

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