宿り木 その2――フレイザー『金枝篇』(1997.1.1)

宿り木 その2――フレイザー『金枝篇』(1997.1.1)



 ジェイムズ・フレイザー(Sir James George Frazer,1854―1941)の簡約本『金枝篇』にそういえば、宿り木の記述がたくさんあったと思って見返してみた。僕は岩波文庫で5巻あるこの本をまだ、全部読んではいない。民俗学的な本で、外国のものはミルチャ・エリアーデやレヴィ・ストロースが親しい。柳田国男ならば一気に読んでしまえるのに、外国の民俗学の分厚い本はそうはいかないのは、身近な事象や無意識がスムーズについていかない部分で止まるからだろう。
『金枝篇』の「索引」で「寄生木」を見ると、日本に関係あるのはアイヌの民俗の一カ所だけである。まず出典が註にない近代アイヌの民俗が引用され次のように書かれている。
《このように寄生木をほとんど万病の薬だとする点でアイヌはドルイード僧と一致し、これを女に与えると子宝が恵まれるとする点では、古代イタリア人と一致している。》
『金枝篇』5巻のほとんど最終章では、「金枝」とはつまりは宿り木のことだと書かれている。ウェルギリウスが引用されているので孫引きする。
《そこから一条の金色の光が明滅しつつ輝き出ていた。寒い冬のさなかの森林に、寄生木(もともとその樹のものではない植物)が生き生きとした葉と小枝で緑も深く繁り、黄金の実が幹を飾っている。このようなものが繁ったカシワの樹の上に、黄金色の葉をもち、静かな風がその黄金色の葉をかさこそと鳴らすと見うけられた。》
 さらにフレイザーの文章を引用する。
《寄生木がなぜ「金枝」と呼ばれたか、――いまや残る問題はそれだけである。寄生木の実のうすい黄色は、その名を説明するには不十分である。ウェルギリウスは、その植物は葉ばかりではなくて幹も黄金色だと言っているからである。おそらくその名は、寄生木の枝を切って数カ月とって置いた時に生じる見事な金色がかった黄色に由来するものであろう。この輝かしい色は葉だけではなく柄にまで及び、ために枝全体が真に「金枝」の観を呈するようになるのである。》(永橋卓介訳)
 ここから古代の呪術との細かい関係に興味を惹かれるのだけれど、日本的な古代の呪術の雰囲気に親しんでいる場合には、印象が清冽すぎる感じになる。しかし、『金枝篇』は楽しい書物である。
 カシワの原生林については柳田も書いていた。先週載せた宿り木の写真はケヤキのものである。照葉樹林文化とカシワや、紫蘇などの植物など、興味深いが、とりあえずは「かわいい」と感じられた旅先の宿り木を古代の人々が神聖なものとして扱ったことがおもしろかった。

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