酒場と風邪(1997.2.8)

酒場と風邪(1997.2.8)



『複雑系』に関連した簡単な物理プログラムの引用は、本がまだ刊行されていないのに引用するわけにはいかないので、まだ書けない。引用されない本のプログラムをなぜ僕がもっているかは知る人ぞ知る。
 インフルエンザの人が周りにたくさんいる。ここ数年ひどい風邪をひいてないのはなぜだろう、と自分でも思うのだけれど、ひとつだけ思いあたることがある。団塊の世代のよく行った新宿ゴールデン街の衰退である。
 ちょっと強引だけれど、過去にあの汚いがたがたの止まり木のい椅子に座って夜中まで飲んで寒い新宿の街でタクシーを拾うと、てきめんに風邪のことが数回あった。それが友達が店を畳み、火事に遭ったりして、ぽつんぽつんと消えていくと、ホッケの焼いたのなんかがある居酒屋で飲むことが多くなった。1軒だけ、「ビタミンC」という店だけは年に数回行くがほかはぜんぜん行かなくなってしまった。ここは雇われの若い女のコがカウンターの中にいて、そのコたちはみんな音楽だとか演劇をやっていることが多い。高取英さんの月蝕歌劇団の主役のコがいたこともあった。
 とにかく、ラジカセを開けてみたらゴキブリがぎっしりいたとか、ねずみがボトルの間を走り抜けたというような店にはとんと行かなくなった。
 もともと酒を飲むのは友達と集まったときだけである。だいたい酒を飲みながら話していることは全部覚えている質で、その点でもどうもストレスがとれるとはいいがたい。無意識にとれているのかもしれないが、どうも僕にはこの後ひとりでやることがあるという意識が働いてしまう。
 でもここのところ思うのだが、夜中のほとんど人のいない街で、なかなか拾えないタクシーを見つけようと彷徨うのもほんとうはたまにはいいことなのかもしれない。ラッシュで風邪をもらうのなら、街の夜中の雰囲気を感じてもらうのは、なんか自分でも納得できるかもしれない。雑事が溜まってきたときには特にそう思うのかもしれないけれど。

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