熱のなかの夢(1997.3.22)

熱のなかの夢(1997.3.22)



 珍しく風邪をひいてしまった。家族がドミノ倒しで風邪を引く、しかも僕にまで及ぶという経験を初めてした。熱に浮かされたときの夢は基本的に悪夢なのだろうが、幼いころの風邪のときの悪夢で覚えているのは「上のほうから円錐が回転しながら下りてくる」というものだった。
 今朝の夢にはテクスチュアが出てきた。デカルコマニーのようなのが連続しているやつである。最近、近所に重い病人がいる。実は僕はよく彼のことを知らない。瞬間的に「冬眠」の表情が浮かぶ。もし、自分の死の時期を知ったら、「冬眠」できるくらいのメジャートランキライザーを医者も投与するだろうし、自分も望むだろう。「冬眠」の表情が浮かび、そのあと、「このテクスチュアはHomePageに使えるかな」と思った。こういうイメージが浮かぶところが風邪程度の熱の夢であるところだ。
 病気中の詩篇といえば、正岡子規の俳句・俳文などが親しいが、宮沢賢治の、「丁 丁 丁 丁」という晩年の未定稿詩篇が特に親しい。丁(ちょう)というオノマトペは文脈からいえば、吉本隆明のいうように体が波で岩にたたきつけられている音を表徴するものとも読めるが、半覚醒状態では、自分の鼓動の音(心臓から血液が絞り出される音)にも近い。《ゲニイめたうとう本音を出した》という言い方もよくわかる。なんとなく熱のなかのイメージでは「本音」という言葉が出てくると思う。

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