植物、動物 その5【ケール】(1998.6.3)

植物、動物 その5【ケール】(1998.6.3)



 ケール(kale)は、アブラナ科の植物である。青汁をつくるので、テレビに鉢植えが出てきたりする。ケールの名前と姿かたちにはなんとなく興味をもっていた。青汁というのは飲んだことがないが一度飲んでみたいものだ。馬事公苑の北側にたぶん東京農業大学に関係した農園のようなものがある。その畑に生け垣を通してケールが植わっているのが見える(上の写真は文章を書いてから今年7月に撮ったものを付加した)。キャベツの大柄な雰囲気で前からおもしろいと写真を撮ろうと狙っていた。
 宮沢賢治の『春と修羅 第二集』の1925.9.7の日付のある「九月」という詩の冒頭にケールが出てくる。賢治29歳の年、前年に自費出版で『注文の多い料理店』を刊行している。

キャベジとケールの校圃(はたけ)を抜けて
アカシヤの青い火のとこを通り
燕の群が鰯みたいに飛びちがふのにおどろいて
風に帽子をぎしゃんとやられ
あわてヽ東の山地の縞をふりかへり
どてを向ふへ跳びおりて
試験の稲にたヾずめば
ばったが飛んでばったが跳んで
もう水いろの乳熟すぎ
(以下略)

 校圃(はたけ)とは、花巻農学校の畑である。東京農業大学の畑と似たようなものだろう。ただし、この詩は稲のほうにすぐに向かう。偶然にも農学校の畑というシチュエーションで見ることができたケールなのである。この詩を読み直すと農学校の畑の一スケッチという単純なものなのだが、たいていは1行目のケールとはどんなものだろうというところにひっかかるだろう。ケールのような変わったアブラナ科の植物を栽培するのは余裕のある、遊びのある農園だと思うし、もし僕も畑でもやるのなら、植えてみたい植物である。アーティチョークという野菜も、いつかフランス語講座をラジオで聞いていたら、いかにもフランス人がよだれを垂らさんばかりに話すのでとても興味をもって、友人で貸し農園を借りている人に作ってもらいたい、と頼んである。
 その農園周辺はなにかしらおもしろい雰囲気がある。いつも通るたびに鶏の声や大きな温室やら、興味をもって覗いていた。たまに犬と一緒に馬事公苑をぐるりとまわるとこれがだいぶ距離があり、犬も疲れてくるのだが最後のところでこの畑の前を通るのである。キャベツのお化けみたいなケール、僕はこの言葉を詩の中に使えないだろう。


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