常備薬(1998.6.24)

常備薬(1998.6.24)



 忘れたころに、置き薬業者は来る。目薬、頭痛薬のほかはぜんぜん使わないので、業者は少しがっかりしているような気がする。目を使う仕事なので、目薬は「なみだ・なんとか」という薬をよく使う。頭痛はバッファリンで、昔はよくアスピリンなどを両親は使っていたようであるが、風邪などで熱が出たときも家族は飲むようである。僕は頭痛というのはまったくない。肩凝りというのも経験したことがない。体質なのだとは思うが。
「目薬をよくお使いですね」
「ええ、パソコンの画面などよく見るもので。あと目を使う仕事やってますので」
「ではこの『めめめ・なんとか』はいかがでしょう」
「漢方でいろいろな成分が含まれてます。パソコンは液晶画面ではないのですか」
「はあ」
「液晶のほうが疲れないようですね」
(ここでTFT液晶はいいようですね、とパソコンの話に振ろうとするがそれを業者は遮って)
「液晶は***という会社がなんかパテントみたいのもってて、高いようですね」
(ここで、液晶にも種類があるだろうが、と思うが素直に聞いている)
(業者は三角おにぎりの小さいような茶色い臭い錠剤を僕の掌に載せる)
「どうぞ、飲んでみてください。長く続けないと効果がないと思いますが。このパンフレットに値段など書いてあります」
(3瓶で15,000円、そんなもん買うわけないだろ。でもおとなしく試用品はもらっておく)
 その後、臭い薬をティッシュに包んで食卓に置いておく。飲んでみるかなと思う。仕事からかえってくるとパンフレットともどもティッシュにくるまれた黒い錠剤も、妻に捨てられていた。
 やはり家族の体というのは家系の遺伝的体質というものがありそうだ。近所の開業医にずっと家族が行っているので、医者もある程度カルテによって、その家族の体質を把握する。ウチではミヤリサンという整腸剤、メンソレータム、ぐらいだろうか。これは親父の代からの伝統だ。胃薬はキャベジン、太田胃酸などあるが、胃が不快になる傾向はウチにはないようだ。ワカモトという薬を置いて飲んでいる家や、アリナミンというビタミン剤を多用する知り合いもいる。結婚して、アロエをやけどの後冷やしてから張ると後がいい、というのを実験的に知り、アロエも常備薬(?)になった。
 ところで横尾忠則の対談集で、川島四郎という人が戦時軍事食糧の研究をしていて、「夜間視力増強食」というものを作った話はとても面白かった。川島によると、夜行性の動物の目にある物質を研究して、それが目の網膜にあることを見出した。そして、研究の末、80〜100メートルの暗い海でもよく見える目を持つ、スケソウダラの目から特殊物質を取り出した。その物質は値段は高くつくけれど、とても目に効くそうである。この話はとても信憑性があり、薬会社でも研究したらどうだろうか、と思ったのだった。

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