ロンさんとの文通 その3(1998.7.1)

ロンさんとの文通 その3(1998.7.1)



 Ronald.H.Peat さんはアメリカのカリフォルニア州に住んでいる。オーバーンというところである。僕はいっさい外国旅行をしたことがないが、なんとなく外国といえばアメリカのそれもカリフォルニア州に縁がある。前にも書いたが息子が高校生のとき交換留学でサンタクルーズでホームステイした。帰国時にホームステイ先の18歳の男の子を連れてきて、彼も2カ月ちょっとウチに滞在した。「その2」に書いたが1つの言語だけしか聞こえない国というのは珍しいらしい。彼・マックスのお母さんもフランス系で、家ではフランス語も少し話していた。妻の従姉妹の一人は、サンルイスオビスポというこれまたカリフォルニア州の小さな町に日系アメリカ人と結婚して住んでいる。彼女は今日本に夏休みで来ていて、僕も話すことがある。
 風土という言葉は日本的だが、ロンさんとの文通で俳句の話になった。たまたまイタリア人の書いたエッセイを読んでいたら、イタリアの秋はとても短いらしい。夏が終わり、ちょっと涼しくなったと思ったらあっという間に寒くなる。ロンさんはこのエッセイのために e-mail の適時な引用を許してくれたので、ちょっと引用する。季語についてのやりとりの中での文章である。

It is basically summer and winter. Spring and Fall last just a couple of weeks. So if I make a reference to spring here, I am talking of a very short period of time. For instance if I say: The mustard abloom paints my field of vision yellow. I talking about just a few days in spring in California. But if I were to say: The ponderosa sing a hush to the falling snow. I would be talking of a very long period of time--months. For the winters are very harsh and very long in the Sierras.


 mustard abloom というのは芥子菜の花で、菜の花だろう。ponderosa (ポンデロサ)というのは yellow pine で辞書にも「ポンデロサ松」と載っている。彼は俳句様の詩的な文章として春夏秋冬の4つの文章を書いてくれた。

1. The mustard abloom paints my field of vision yellow.
2. Silence in the field of brittle grass is this long hot day.
3. The oaks undress tumbling leaves by single leaf.
4. The ponderosa pines sing a hush to the falling snow.

 季節を考えるとき、単純に厳しい冬、長い熱い夏、ごく短い春と秋という具合に彼の手紙から読み取れる。僕はアメリカでも俳句を作るのがとても盛んだということを、初めて知った。ただ、ロンさんに日本人が小刻みに季節の風物を分類するということ、それを歳時記というもので体系化する志向を持つことを説明するまでには至っていない。感じをつかんで興味をもってもらうために花札の写真でも送ろうかなと思う。日本人は weed (草)というものを小刻みに、ぺんぺん草とかイヌノフグリとか見つめ、そこから受ける「感じ」までも分節する。これが季語の始まりで、難しく大袈裟にいえばヘーゲルのいう「われわれであるわれ」を、身近な風物で確認するのである。僕はロンさんへの手紙に rocal point という言葉を使った。僕はローカルポイントに季語は転がっていると思うからである。アメリカは広い。南部にしかセミはいないらしく、妻のいとこはセミの声をアメリカで聞いたことがないと言っていた。そのポイント(アドレス)の季語を見つければ俳句は書けると思ったのだった。

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