イメージ その1【境界と融合】(1999.5.2)

イメージ その1【境界と融合】(1999.5.2)




 このあいだ、新聞を読んでいたら、人間のミトコンドリアのDNA構成がほかの類人猿に比べて差異が少なく、これは一時人類が数万人までの数に大きな災害や殺し合いで減ったことを示しているのではないか、と仮説を立てていた。
 DNAに関する本は楽しみに数冊読んだが、『分子レベルで見た体のはたらき』(講談社ブルーバックス)に付いているCD-ROMのDNAの立体模型を見ていると、もともと命とは「縮合」のイメージをもっていることが実感される。ただし、人間の心は生命と非生命の境界を意識し続けるから、ともすれば境界を超え出て向こう側(非生命)のほうへとイメージを伸ばすことはできる。

 DNAポリメラーゼは生命科学や生命工学にとっては必須の酵素である。この酵素を使えば試験管の中でDNAを人工的に複製できるからである。(略)
 まずDNAの情報がRNAに写し取られる。DNAをマスターデータとすると、RNAはそのコピーということになる。RNAはいわば仕様書のようなものである。RNAポリメラーゼはDNAの二重らせんを解き、その情報に基づき、RNA鎖を合成する。この過程を転写という。合成されたメッセンジャーRNAは文字どおり、DNAの情報を伝達する役目を持っている。(略)
 RNAポリメラーゼの読み取り精度は、間違いが一万文字あたり一個である。DNAポリメラーゼに比べるとずいぶんといい加減であるが、RNAはタンパク質が必要となる時に随時DNAからコピーされる仕様書であるので、誤りがあっても実害が少ない。(上記の本より)



 これがメッセンジャーRNAの概要である。上の3つの画像が構造モデルである。本の付録のCD-ROMに付いていたMolecular Simulations Inc.の分子構造を立体的に見るソフトを使って、適当な3方向からの画像をJPEGファイルにセーブした。
 構造体としての生命が、このように構造的に解析されてくると、当然イメージもそれに追いついて、その神秘的側面に焦点を当ててくる。これがマシンと生命と融合した半生命のイメージである。現在のSFでは多様にこのマシンと融合した生命のイメージが使われる。ただし、厳密にはDNAについての解析は科学的に進み、さまざまに応用されてきている。SFではたいてい神秘的側面が中心になって、イメージを作るときに妥協している。それはたぶん、生命を作る過程も縮合的に見えるから、縮合的な構造体であるマシンと接合できるのではないか、という予感に基づいている。
 でも、どうだろうか。生命への縮合は非生命との境界を始めから明らかに有している。宇宙的時間ともいうべき長い時間を、その境界は体現しているというべきである。だから心は、境界に向かって最高度の畏怖をもつ。しかし、半マシン半生命というイメージはエンタテインメントとしてそれだから普遍性をもつともいえるのだと思う。

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