白子の肖像

白子の肖像



白子は笑っている
 卵に描いた下がり眉
波打際に立っている
白子は白痴
髪はうなじに貼りついている
白子の眼球に海岸線が収れんする
波頭のなかの楽器


 音を殺してしまおう
白子は白い波に浮かぶ卵
入江のどろどろの藻を漂って
岬へ吸い込まれる卵
海はシャーレの水
潮は手のひらにのる渦
波は弾けるが音はしない
波打際から家までの道の草は
みんなが転ぶように結んである
 ほら静かに見ていてごらん
 白子が花むらや砂上に
 ぽっぽっと直立不動で笑って立っているんだ
白いソックスに白いスカートなびく白いリボン
白波のなかで近視の魚がナイフを研いでいるし
林上の雲のなかではホルマリン漬けの旋律が
ぷかぷか浮いている


|
白蟻電車 目次| 前頁(密室)| 次頁(のど)|
ホームページへ