イワシの群れ(1996.10.29)

イワシの群れ(1996.10.29)


イワシが曲がってくる
街角から
群れをなして
こちらのビンの中に

眼鏡のガラスの縁に
細かい魚が通りすぎ
冬のにおいを嗅いだ
かすかな青魚の
はらわたの
におい
耳元のイヤホンでは
デスペレートでも
明るい音楽が鳴っている

あの人の苗字がちぢに
くだけて
しばらく思い出せないのが
茶色い駅に着くと
集合して
淡い氏名が
人々のなかをすっと通り抜け
改札口から地下に沈んでいった

ちぢに
名称はくだけ
はらわたのにおいをたなびかせ
地下駅に
沈んでいく

清水鱗造 週刊詩 目次前頁(耳鼻科へ(1996.11.5))次頁(大月みやこ(1996.10.22))

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