草の生える手帳(1997.1.28)

草の生える手帳(1997.1.28)


雑草が手帳に生えている
戦前のガリ版刷りの古い戸籍
笑うように文書には
ペンペン草がバチの形の実をつけている
けっきょく
明るい便所で
何を考えていたのか
途方に暮れる

今年の手帳の事項は
赤鉛筆でひとつずつつぶしつつある

となれ

とある港町のアパートの一室
内縁の夫を
10年ぶりで帰ってきた男が殺す

だから偉くも卑しくもなく
ただ行ってしまった
乾いて芯だけ残るランプ
埃を落として
びっしりと
手帳に数字を埋めていく

清水鱗造 週刊詩 目次前頁(裏山の草(1997.2.4))次頁(犬への文書(1997.1.21))

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