芽キャベツ(1997.3.11)

芽キャベツ(1997.3.11)


芽キャベツもクスリを飲む
うっすらとバターが塗られて
コーヒーとともに嚥下される
芽キャベツも
クスリを飲む

リーダー罫のような湯気が
10ばかり立ち
芽の中に芽がいくつも
臼歯でつぶされる
小さなキャベツを
覆う2センチほどのキャベツが
クスリを飲んで
スプーンはクリームに汚れ
フォークは卵で汚れ

その横にはジャム付きのトーストが
乙女の形で皿にのり
眠い食卓の
スイートピーがほんのりささやく

ころん
と芽のキャベツが
畑では数十の芽キャベツが
太い茎についている

食卓にのって違うのは
蝶が鱗粉を落とすかわりに
銀紙で包装されたクスリの
空の一区画が
クロスの上にのること

芽キャベツは行ってしまった
洞穴に行ってしまった

皿にはバターの汁と
濡れたフォークが朝日に光っている

清水鱗造 週刊詩 目次前頁(赤い染め抜き(1997.3.18))次頁(亀裂があいさつする(1997.3.5))

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