御殿場(1997.4.8)

御殿場(1997.4.8)


隣の席に座った背広の人は
スポーツ新聞を何度も読み返していた
野球記事 競馬記事
缶コーヒーを啜りながら
煙草を吸いながら
何度も

松田を過ぎると雑木林や川
ところどころにある
桜や黄色い花
狼煙のような山の焚き火
景色に目を奪われるようになる

車窓の内側でも
たいてい僕はこのあたりで
印象的なページに当たる
外の景色と文字が融合し
気分が変わる

御殿場で降りると
徐々に雨粒が繁くなる

この旅には異物が交じらない
あの人たちが
輪郭をはっきりさせ
すっかり登り道はまっすぐになっている

僕はたずさえるべき人の手を知っている
その人の手は小さな手だ
熱くも冷たくもない
骨ばった手だ

旅は
御殿場で
濃密な粒子に満たされる

清水鱗造 週刊詩 目次前頁(時効になる骨(1997.4.15))次頁(正方形の街(1997.4.1))

Shimirin's HomePageUrokocitySiteMap