正方形の街(1997.4.1)

正方形の街(1997.4.1)


正方形の青空に
雲が動いている
路地では
魚が相変わらず焼かれている
コンクリートの電柱に登って工事した人は
夕食でみそ汁を啜っていたが
もう当分この電柱には来ないだろう

街には
とても平凡な顔がある
とても平凡な言葉が
走り書きされている
ごく単純に彼らは
交わしあっている
焼き魚のにおいに
気まぐれに買った花のにおいを少しだけ交ぜて

僕は正方形の街を知っている
そこでは誰もが夕食の野菜を買う
ペットボトルの水を買う

小さなハンカチが
落ちた
物干しから
落ちた

そのとき昼の喫茶室で
無駄話をしたのが
四角い街に生きた証しだと知る

粉々に正方形の空に沈殿していくのを
見ているのが
証しなのだと
ゆっくりひらひらと
落ちていく
青い正方形のハンカチは
知っている

清水鱗造 週刊詩 目次前頁(御殿場(1997.4.8))次頁(乾いたくちびる(1997.3.25))

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