木と木(1997.5.6)

木と木(1997.5.6)


病んだ花
というのをどこかで読んだ

理由のない恐怖は
自分を圧縮する
つまり外圧を創造する

エディット・ピアフがそうであったという
色情への囚われはどうだろうか
ピアフはまず
街路の向こうに見える信号までは
色情のことは考えない
ところが街路を曲がるとき
欲望に対する理路は整然と生成される
たとえばこの丁目に住む男のアパートに
小走りに向かっていく
決壊しやすい低い堤が延々とつづき
際限なく決壊が繰り返されるようなものだ

恐怖に比べればよほど
脳髄に貼りついている

ベッドの上で
パラシュートのように感情が開くのに
エンドレスに開くのに
依存して気づかぬのは
病んだ花が自身だからだ

それは傍から見ればラフレシアのようでもあるが
苦しい色彩に満ちている

ジャニス・ジョプリンの声にはドラッグを感じる
あのかすれた声に

ジャニスは死ぬ前のホテルの受付の男に
話しかけた
グッド・ナイト
でもジャニスは受付の男との距離に
木と木の距離を見たはずだ

木と木
ジャニスの頭蓋骨は
若いほどさらに苦しく咲き
花は疲れていったのだと思う

清水鱗造 週刊詩 目次前頁(五月挽歌(1997.5.13))次頁(トラフィック・インフォメーション(1997.4.29))

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