五月挽歌(1997.5.13)
骨壺の包みは
マニエリスム好みのNさんの書棚には
合っていなかった
線香はしゃれた官能的な香ではなく
親しい匂いで
その煙の形は
美術書の背にマッチしている
つげ義春の漫画で
死体の周りで饗宴し
ついにはふざけて死体を持ち上げたりする
というのがあったが
いたずらに
死を何かの色に染めるより
彼の「ゆいごん」のように
何もやらないのもいい
というようなことを連想しても
いいものかどうか
死者に気兼ねするのだが
死者もふだんの僕を
僕と同じ距離だけわかっていなかったろうから
仕方ない
僕が知るのはそれだけだ
Nさんはどんな人であるのか
窓は開け放たれていた
窓の向こうにやはり街路はつづく
遺品のジーンズをもらった
僕はあなたの言葉と
あなたの愛した女性に会いに
この部屋に来た
そのように街路がつづいていたのだ
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