飛び散る厨子(1997.8.19)

飛び散る厨子(1997.8.19)


二本の脚を失ったハナムグリ
夏も終わりかけると
部屋に昆虫が入ってくる

厨子に御す仏像を拝みに
盆に帰る人たち
やがて厨子は
粉々になりキラキラと
舞い出て
麦藁帽で釣りをする人の上を
西方に向かって走り去るだろう

かわらけ
土器
みじんになった
地への贈与
泡立つ汁の流れ
その子供の口に触れた縁を
撫でれば
旋回が始まる

それは夏から夏へ
また夏から夏への
旋回

手のひらを見ると
ハナムグリは
セロファンのような翅を
硬い背を割って菓子包みのように広げ
日のゼラチンに
溶けていく

清水鱗造 週刊詩 目次前頁(水面の呼び出し音(1997.8.26))次頁(男ワルツ(1997.8.12))

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