水面の呼び出し音(1997.8.26)

水面の呼び出し音(1997.8.26)


網の目に似た
カラスウリの花
グロッタの画家の好みも
思い起こさせるが
晩夏のパッケージが
やがて草むらのそここに
つり下がるのを
用意している

ほとんど見えないくらいの
細いテグス糸が
さざ波をわたって
竿の先がたわむ
やがて細長い筋肉のような
ハヤが手元で跳ね
水と光がかしましい

水上に電話が鳴る
そういえば
昔から電話は水面に鳴っていて
とんと受話器を取ったことがない

蚊柱が川を移動するころ
ぼくは受話器を取る
受話器を耳に当てる
それが陶の巨大な火鉢になり
足元にゆらゆら沈み
聞き取れない声が
水音に交じっている

清水鱗造 週刊詩 目次前頁(微小な鯰(1997.9.2))次頁(飛び散る厨子(1997.8.19))

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