遠い夕立(1998.7.21)

遠い夕立(1998.7.21)


靄が通り過ぎ
木々が水を含む
遠い建物の向こうに
夕立が
細かいガラスの傷のような
雨線を示すのが見える

猫に半分食いちぎられたカナブンは
壊れたボタンのように床に落ちている
おびただしい風鈴の音は
波になってくるが
風を
送ることはできない
風鈴は求めてもいない
ただせわしなく
7月を占める

遠い夕立が
子どもたちを軒下に
導くにしても
風は左から右へ
ガラスの音を運ばない
有機音を収集した円盤が
短い話のように街を洗い
移動する雨足のなかで
おしゃべりしている

清水鱗造 週刊詩 目次前頁(消える 費やす(1998.7.28))次頁(抗菌六角形(1998.7.14))

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