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Review: Rabih Mroué, How Nancy Wished That Everything Was An April Fool's Joke
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2007/03/25
Rabih Mroué
How Nancy Wished That Everything Was An April Fool's Joke
『これがぜんぶエイプリルフールだったなら、とナンシーは』
にしすがも創造舎特設劇場
2007/03/24, 17:00-18:30
Text: Fadi Toufic and Rabih Mroué. Director: Rabih Mroué. Set design/Poster: Samar Maakaroun. Animation: Ghassan Halwani. Poster collection and research: Ziena Maasri.
The Premiere: にしすがも創造舎特設劇場, 2007/03/24
Performers: Lina Saneh, Hatem El-Imam, Ziad Antar, Rabih Mroué

レバノンのベイルート (Beirut, Lebanon) 出身の劇作家・演出家・俳優・映像作家が 東京国際芸術祭2007での公演のために制作した新作は、 1975年の内戦開始に始まり現在に至る約30年の歴史を題材としたものであった。

舞台上のソファに4人の俳優が座り、そこに座ったまま語り続ける1時間半だった。 内戦以降のレバノンで街中に多く掲げられている 死んだ戦士や政治リーダーの遺影に政党・派閥のマークとスローガンを添えた ポスターを真似たものが、 4人のそれぞれの頭上に掲げられたスクリーンにスライドショーのように、 時々一部がアニメーションとなって投影されていた。 そして、4人の俳優が語るのは、 死んでいったたくさんの戦士や政治リーダーたちの物語だ。 その物語は実際にあった出来事に基づいているのだが、 一人称で語られ、それも、4人の物語として繋ぎ合わされまとめられている。 4人の登場人物は何回も何回も死に、 死ぬ度に頭上の遺影ポスターがその死に関するものに切り変わっていくのだ。

登場人物の4人はそれぞれ立場が異っていたうえ、劇中でも立場が変わっていった。 セリフが直接理解できるものではなかっただけに、 立場の表現にセリフよりもポスターの役割が大きく感じられた。 Mroué 自身が演じた一番右の男性は 祖国キリスト教戦線からレバノン軍団 (キリスト教) へ、 右から2番目の女性はシリア社会主義民族党 (世俗主義) からレバノン軍団に転向、 左から2番目の男性はPLOが組織した 民兵組織ムラービトゥーン (イスラム教スンニ派) から アフガニスタンのムジャヒディーンを経てヒズボラ (イスラム教シーア派) に、 一番左の男性は共産党 (世俗主義) からアマル (イスラム教スンニ派) に。 強いて単純化すれば、右から キリスト教、キリスト教世俗主義、イスラム教、イスラム教世俗主義 という立場の分担が感じられた。 また、時間が経つに従い、世俗主義の立場が薄くなっていくのも興味深かった。

立場の違う4人の内戦の中でくり返される死の物語と それに合わせた遺影ポスターのスライドショーというのは興味深かったし、 レバノン内戦について勉強になるところも多かった。 それも、白黒がはっきりわかったというより、問題の複雑さが判ったという感じだ。 しかし、多声的にレバノン内戦以降の歴史を語るという点では演劇的かもしれないが、 身体性が感じられず、演劇という形式の必然性については微妙にも感じられた。 セリフがアラビア語で字幕を追い続けざるを得なかったということもあるが、 俳優の表情や微妙なしぐさを見る余裕がほとんど無かったということもある。 確かに、生身の人間が目の前で語っているから、 話を1時間半聞き続けられたということはあるだろう。 しかし、4枚のマルチスクリーンのビデオプロジェクションを 4人の物語のナレーション付きで上映する ビデオインスタレーション作品でも良いかもしれない。 そういう点が、この作品が舞台作品としては物足りなく感じた所だ。

ビデオインスタレーションといえば、 公演に合わせて以下のビデオインスタレーションが展示されていた。

Rabih Mroué & Lamia Joreige
... And The Living Is Easy
にしすがも創造舎1年1組教室
2007/03/23-27, 18:30-22:00 (24,25は16:00-21:00)
Video: Lamia Joreige. Text: Rabih Mroué

2006/7/12-8/14のイスラエル (Israel) のレバノン再侵攻の中の 7/23-8/12の21日間のベイルートの映像とテキストからなる日記だ。 日毎にテキストのボートを添えた21台のモニターが並べられ、 その日の断片的な映像がループしていた。 題材は重めだけれど私的に過ぎて 21台のマルチスクリーンにも関わらず単調に感じられてしまったのは残念。 そういう点では4面ながら多声性を生かした上演作品の方がはるかに興味深く観られた。

sources:

How Nancy Wished That Everything Was An April Fool's Joke という謎めいたタイトルについて、Mroué はアフタートークで Nancy というアメリカ人ジャーナリストがパレスチナ (Palestine) に関する記事付けた "How I Wish That Everything Was An April Fool's Joke" という題から取っていると言っていた。 この Nancy というのは Nancy Stohlman で、 "How I Wish That Everything Was An April Fool's Joke" と題された記事は Josie Sandercock, et al (ed.), Peace Under Fire: Israel, Palestine, and the International Solidarity Movement (W. W. Norton & Co., ISBN1844670074, 2004) という本に収録されているようだ (⇒amazon.com, eCampus.com)。

(2007/03/27追記)