TFJ's Sidewalk Cafe >

談話室 / Conversation Room

TFJ's Sidewalk Cafe 内検索 (Google)
[3941] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Oct 17 20:22:51 2021

先週末の日曜は昼に京橋へ。 毎年恒例の国立映画アーカイブのサイレント映画の上映企画 『サイレントシネマ・デイズ2021』 で このサイレント映画を観てきました。

The Thief of Bagdad
1924 / United Artists (USA) / 140 min. / 35mm 1.33:1 24fps / B+W / silent
Directed by Raoul Walsh
Screenplay by Achmed Abdullah, Lotta Woods. Story by Douglas Fairbanks.
Douglas Fairbanks (Ahmed, the Thief of Bagdad), Julanne Johnston (The Princess), Sojin Kamiyama [上山 草人] (Cham Shang, the Prince of Mongols), et al
Produced by Douglas Fairbanks.

スタントを使わないアクションで 『怪傑ゾロ』 (The Mask of Zorro, 1919) などの冒険活劇のヒーローを演じ、サイレント映画で人気を博したアメリカの俳優 Douglas Fairbanks。 ソヴィエト・ロシアのアヴァンギャルド期の映画ポスター [鑑賞メモ] にも多くなっている程ですが、 スチル写真や短い動画をチェックした事がある程度だったので、ちゃんと観る良い機会と、足を運びました。

バクダットの宿無しの盗賊が、街中で見染めたお姫様をさらおうと、偽って花婿候補となって王宮に入りこむが、お姫様の本心を知り、改心します。 そして、様々な困難を乗り越え魔法の品を得て、それで作った大軍勢で、お姫様を窮地から救い、正式に王子として迎えられてハッピーエンドという、典型的な冒険活劇物です。 まだ特撮技術も洗練されていない頃ですし、物語も単純、後半、ヒーローが様々な困難を乗り越えていく場面もロール・プレイング・ゲームのよう。 とはいえ、空飛ぶ絨毯のような特撮や、大きな王城のセットを使った大軍勢のスペクタクルなど、当時としては画期的だったのだろうと思わせるだけのものはありました。 流石に最近は実写の映画・TVドラマなどであまり見かけなくなったように思いますが、 「快盗」ヒーロー主役がで、アクションとコミカルな場面を交えつつ、陰謀に巻き込まれたヒロインを救う、 という冒険活劇の原点を観るようでした。 (自分はアニメーション映画 『ルパン三世 カリオストロの城』 (1979) を連想しました。)

併映でサイレントの短編映画 Benjamin Stoloff (dir.): Grief of Bagdad (Fox (USA), 1925)。 The Thief of Bagdad の城内の主要な場面を中心にストーリーを簡略化して、 ヒーロー (盗賊)、お姫様、敵役の (モンゴルの) 王子の3役を猿 (チンパンジー) で演じさせたパロディです。 よくこんなものを作ったなと思いつつ、元ネタを観た直後だったので衣装などのディテールにこだわりが感じられ、 笑いながら観ることができました。

上映は柳下 美恵 のピアノに加え 鳥飼 りょう のパーカッションの生伴奏付きでした。 状態の良いフィルム上映で生伴奏付きという、現在の日本ではベストに近い環境で観られて良かったでしょうか。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

自分が初めて観たサイレント映画は、というと、おそらく、高校生の頃 (1983-5年)、新宿の黙壺子フィルムアーカイブ上映会で、 Réne Clair: Entr'acte (1924) とか戦間期アヴァンギャルドの実験映画でしょうか。 もちろん、映画弁士も生伴奏もなし。 当時はサイレント映画への興味というより、実験映画への興味でした。 1990年代入って次第に自分の興味も広がり、Boris Barnet などのソヴィエトのサイレント映画や、 Buster Keaton、サイレント期の 小津 安二郎 なども好んで観るようになりましたが、 この頃はまだ、活動弁士や生伴奏が付いての上映も、ほとんど意識していませんでした。 ある意味、娯楽映画の本流ともいえる冒険活劇映画やメロドラマ映画の上映へ足を運ぶようになったのは、ここ10年ほどでしょうか。 小津 以外の日本のサイレント映画を観るようになったり。 最近は、生伴奏抜きでサイレント映画の上映を観る気がしませんし。 まさか、こうして Douglas Fairbanks の冒険活劇映画を生伴奏付きで観るようになるとは。自分も変わったものです。

[3940] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sat Oct 16 22:57:13 2021

先週末の土曜の午後は、渋谷で映画を観た後に、三軒茶屋へ移動。この舞台を観てきました。

世田谷パブリックシアター
2021/10/09, 15:00-16:30.
Conception et mise en Scène: Raphaëlle Boitel.
Collaboration artistique, scénographie, lumière et conception du Spider: Tristan Baudoin. Musique originale: Arthur Bison. Assistant: Julieta Salz
出演 [Avec]: 皆川 まゆむ [Mayumu Minakawa], 長谷川 愛実 [Aimi Hasegawa], 杉本 峻 [Shun Sugimoto], 目黒 陽介 [Yosuke Meguro], 吉川 健斗 [Kento Yoshikawa], 山本 浩伸 [Hironobu Yamamoto], 安本 亜佐美 [Asami Yasumoto].
リハーサルアシスタント, アンダースタディ: 吉田 亜希 [Aki Yoshida]
世田谷アートタウン2021関連企画, French Circus Focus 2021, フランス×日本 現代サーカス交流プロジェクト
Création: 2015.

世田谷パブリックシアターで2019年に Cie l'Oublié(e) で初来日公演した [鑑賞メモ] フランスの現代サーカス・アーティスト Raphaëlle Boitel の2015年作を、 Boitel が選出した日本のサーカスアーティストによるキャストで再制作したものです。 ながめくらしつ [鑑賞メモ] を主宰するジャグラーの 目黒 陽介、 ながめくらしつ や 目黒とのデュオ うつしおみ [鑑賞メモ] としても活動するエアリアル・パフォーマーの 長谷川 愛実、 ブレイクダンスをテクニックのベースとするパフォーマンスチーム Kinetic Art [鑑賞メモ] などで活動する 杉山 峻 など、 今まで観る機会のあった日本のサーカス・アーティストが Raphaëlle Boitel の演出の中でどう活かされるのかという興味もあり、楽しみにしていました。

5人のサーカス・パフォーマー役と2人の裏方役の7人がトレーニングやリハーサルする様子を作品化するという、いわゆるバックステージ物の作品です。 裏方役の1人 (山本) は狂言回しのクラウンで、 残る6人のそれぞれ大技での見せ場をトレーニングやリハーサルの体で作り、マイムなどの場面で繋いで行きます。 そして、パフォーマー役の5人が本番用の衣装に着替えていざ本番という場面で終わるという構成でした。 エアリアルなどの器具を付ける正方形のフレームが、客席からも見えるように、対角線が左右方向になるように天井に設置され、 フロアにはほぼ何も無く、椅子や可動式の照明、タイトワイヤー用の足場などを動かしながら、場面を展開して行きます。 むき出し感のある空間はトレーニングやリハーサルのためのスタジオっぽく感じられますし、 特に照明は動かすことで光と影の様相が変わる所が効果的でした。

技の見せ場は、吉川のタイトワイヤーをはじめに、長谷川のエアリアル・フープ、皆川のベビーパウダー上のダンス (フロアワーク)、目黒のジャグリング、杉本のエアリアル・スパイダー、そして、最後は安本の「スパイダー」。 特に、5人のパフォーマーがそれぞれのワイヤーを引いてのエアリアル「スパイダー」は、 エアリアル・パフォーマンスする安本だけで無くワイヤーを引く5人の様子も含めてダイナミックでしたし、ワイヤーを組み合わせての蜘蛛の巣状の造形も面白く、見応えありました。 杉本のエアリアル・ストラップも、Tangle では静的だっただけに、 ここまでダイナミックな演技ができたのかという意外さも感じました。 光で浮かび上がるパウダーの煙の中での皆川のフロアワークのダンスも幻想的で印象に残りました。

良いなと思う場面が多かっただけに、技の見せ場の間ともいえる場面でのマイム的な動きなどを使った場面が、 世田谷パブリックシアターの大きな舞台に対して動きが速く細かく、少々せせこましく、子供っぽく感じられてしまったのは、残念だったでしょうか。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3939] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Oct 10 22:45:11 2021

今週の土曜は、昼に渋谷松濤へ。 急遽特別上映が決まったこのアニメーション映画を観てきました。

Les Hirondelles de Kaboul
『カブールのツバメ』 The Sparrows of Kabul
2018 / Les Armateurs (France), Mélusine Productions (Luxembourg), Close Up Films (Switzerland) / 80min / colour.
un film de Zabou Breitman et Eléa Gobbé-Mévellec.
adapté du roman de Yasmina Khadra.
Scénario: Zabou Breitman, Sébastien Tavel et Patricia Mortagne; Univers graphique: Eléa Gobbé-Mévellec.
Musique: Alexis Rault.
Avec Simon Abkarian (Atiq), Zita Hanrot (Zunaira), Swann Arlaud (Mohsen), Hiam Abbass (Mussarat).

アルジェリア出身でフランス在住の作家 Yasmina Khadra による小説 Les Hirondelles de Kaboul (2002; 『カブールの燕たち』, 香川 由利子 (訳), 2007) に基づくアニメーション映画です。 (残念ながら原作は未読。) 舞台は2000年前後のアフガニスタンの首都カブール、イスラム主義のタリバンの抑圧的な統治下で不条理な状況に追い詰められる2組の夫婦を描いています。 2019年に Annecy Festival で sélection officielle に選ばれるなど評価されているものの 日本の配給会社が買い付けておらず日本の劇場上映が困難な状況ですが、 今年、再びタリバンがアフガニスタンを掌握したという情勢を受けて、 フランス大使館文化部/アンスティチュ・フランセ日本のパートナーイベントとして特別上映されたものを観てきました。

主役の夫婦2組のうち1組は大学出のインテリ夫婦。 歴史教師 Mohsen と妻の画家 Zunaira は活動の場を失い、次第に貧しくなり、抑圧的な生活の中、次第に尊厳を失い、関係が壊れて行きます。 もう1組はアフガニスタン紛争時は戦士 (ムシャヒディーン) で戦傷で足が不自由な女性刑務所の看守 Atiq と、 彼を救った元看護婦の妻 Mussarat。 Mussarat は末期癌で苦しんでおり、元戦友がタリバン統治下の状況になじんていく中、Atiq は疎外を覚えるようになります。 Zunaira は夫婦喧嘩の中で過って Mohsen を殺してしまい Atiq が看守をする刑務所に収監されるのですが、 牢でチャドリ (ブルカ) を脱いだ Zunaira を見て Atiq は彼女に情 (同情とも愛情とも取れる) を抱くようになり、結局 Zunaira が拒んで未遂で終わったものの、脱走の手引きすらしようとします。 そんな Atiq の情に気づいた Mussarat は Zunaira の身代わりとなることを提案し、 実際に身代わりで処刑されるのですが、処刑後に気付かれて Atiq も殺されます。 なんとか逃げ延びた Zunaira が Mohsen の師の家に匿われる場面で、物語は終わります。

冒頭の売春婦に対する石打ち刑や、外出時はチャドリを着ることを強制され音楽も街中での笑いも禁じられるという、 イスラム主義のタリバン下での女性たちの置かれた抑圧的な立場を描いたアニメーション映画で、 今回の特別上映もその文脈で実現したものです。 しかし、今の自分の気分がそう観させているのかもしれませんが、男性側の描写も丁寧で、 普遍的なポストアポカリプスのディストピア物語として観ました。 アフガニスタン紛争後の貧困が蔓延し暴力が支配する街で、 映画館や書店はもちろん大学も荒廃し、書籍も打ち捨てられ、歴史や文学も教えられない状況は、 核戦争後ではないものの、終末後の世界を見るようでした。 そして、私生活の細部まで振る舞いを規制され、誰が敵なのかはっきりとしない中、支配者の意に沿わない Atiq が支配者に放たれた狙撃者につけ狙われる様は、 ハイテクではないものの、監視社会のディストピアを思わせます。 そんな描写に、そして、ディストピアに対する絶望的な抵抗としての愛情、欲望の物語という点でも、 George Orwell のディストピア小説 Nineteen Eighty-Four (1949) すら連想しました (ちょうど今年読み直したばかりだったからかもしれませんが)。

その一方で、演出は、 激しい感情描写やアクション、暴力的場面の描写を控え、主人公の女性2人だけでなく男性2人も含め心情を淡々と繊細に描写します。 そして、演出に合った水彩画のような淡いタッチを多用した画面。 物語からはマジックリアリズム的な飛躍がほとんど感じられないにも関わらず、特に最後の身代わりになるという決断とその結末は、リアリズムというより寓話的。 今年、特集上映で観た 川本 喜八郎 のアニメーションの [鑑賞メモ] 中世の説話を通して描く世の不条理にも通じるように感じられました。

余談ですが、この映画の冒頭の場面で Zunaira がラジカセで聴いているのは、 Burka Band の “Burka Blue” (Monika Enterprise, 2003)。 Goethe Institut が2002年10月にカブールで開催したワークショップで誕生したバンドです。 そのワークショップにドイツから招かれたのが A Certain Frank (Kurt Dahlke & Frank Fenstermacher) と Saskia von Klitzing (Fehlfarben) という縁もあり、 2003年に Monika Enterprise から7inchシングル、 さらに翌年には Ata Tak からCDもリリースされました。 Gudrun Gut (ex-Malaria!) 主宰の Monika Enterprise といえば、 Riot Grrrl 流DIYフェミニズムの indietronica からの反応とでもいうレーベルカラーです [関連レビュー]。 そんな文脈で知った音楽が冒頭でかかったことも、自分にとっては、掴みとしては良かったでしょうか。 といっても、作品の舞台設定はタリバン支配下の2000年前後、 一方、Burka Band のきっかけのワークショップはテロとの戦い (2001年) を経て新共和国が成立 (2002年) したから可能になったものですので、 よく考えると時代設定的には整合しないのですが。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

この機会を逃すと観る機会があまり無さそうという程度の動機で足を運んだものの、期待以上の良作だったので、原作も読みたくなったのですが、邦訳の ヤスミナ・カドラ, 香川 由利子 (訳) 『カブールの燕たち』 (早川書房 / ハヤカワepiブック・プラネット, 2007) は、絶版 (もしくは版元在庫切れ) で古書も高価になっているよう。残念です。

[3938] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Oct 10 18:20:50 2021

先週末の土曜の午後、東京都現代美術館で展覧会を観た後は、 美術館前から業10 東京スカイツリー駅前行のバスに乗って三ツ目通りを北上。 業平でこの展覧会を観てきました。

たばこと塩の博物館 2階特別展示室
2021/09/11-11/14 (前期:09/11-10/10;後期10/12-11/14) (月休;9/20開,9/21休), 11:00-17:00.

東京美術学校出身で、 1908(明治41)年から1934(昭和9)年まで三越呉服店の嘱託としてポスターや広報誌のグラフィック・デザインを手がけ、 日本の戦前モダンなグラッフィックデザインを代表するデザイナの展覧会です。 2019年にも東京国立近代美術館でギャラリー4を使ったコレクションに基づく小規模な企画展 [鑑賞メモ] がありましたが、 今回は非水の故郷の愛媛県美術館のコレクションに基づくもの。 東京国立近代美術館の展示に比べて、非水の生涯、人となりに焦点を当てたような展覧会でした。 モダンなグラフィックデザインを堪能するという程ではありませんでしたが、 非水の原点にあたる東京美術学校時代から三越の嘱託になる前後の 黒田 清輝 らとの交流に関する資料や、 歌人で妻の 翠子 とのコラボレーションとか、今まであまり目にする面を見ることができた展覧会でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

残暑が厳しくなければ、東京都現代美術館からたばこと塩の博物館まで、 大横川をのんびり散歩して行きたいところでしたが。 すっかり体力も衰えているので、体力温存でバス移動にしてしまいました (弱)。

[3937] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Oct 4 22:11:06 2021

先の週末土曜は台風一過の快晴。 夏のような暑さが戻る中、午前中には清澄白河というか木場公園へ。 この展覧会を観てきました。

MOT Annual 2021: A sea, a living room, and a skull
東京都現代美術館 企画展示室 地下2F
2021/07/17-2021/10/17 (月休;8/9,9/20開;8/10,9/21休), 10:00-18:00.
潘 逸舟 [Ishu Han], 小杉 大介 [Daisuke Kosugi], マヤ・ワタナベ [Maya Watanabe]

例年5〜6組は選ばれる東京都現代美術館のアニュアルのグループ展ですが、今年は3組というか3名で、 出展作品は全て大スクリーンに投影するシングルチャネルのビデオ作品でした。 サブタイトルからして三題噺になっている企画かとも予想したのですが、関連はほとんど感じられず、 独立した3つの個展を観るようでした。

中で最も印象に残ったのは 潘 逸舟。 固定カメラ、モノクロで撮られた海の液晶絵画的な美しさと、その中で繰り広げられているパフォーマンスの不条理さのギャップが楽しめました。 一連の同一コンセプトのシングルチャネルの作品を組み合わせた空間構成もスタイリッシュ。 以前に観た時は [鑑賞メモ]、スタイリッシュながら掴みに欠けるように感じたのですが、今回は不条理に掴まれました。

Mark Manders: Strage and Display
東京都現代美術館 コレクション展示室 3F.
2021/07/17-2021/10/17 (月休;8/9,9/20開;8/10,9/21休), 10:00-18:00.

3〜6月に企画展示室で開催した Mark Manders: The Absence of Mark Manders 『マーク・マンダース—マーク・マンダースの不在』 [鑑賞メモ] が新型コロナウイルス感染症 緊急事態宣言で会期短縮されたことを受け、 作品返却までの間、コレクション展示室の一部を使い、出展作品の一部を異なる形で再構成した展覧会です。 前の展覧会を観ているのでさすがに新鮮さはありませんでしたが、 不条理なクレイ・アニメーションの世界に迷い込んだような感覚を楽しみました。

Genkyo Yokoo Tadanori
東京都現代美術館 企画展示室 1F/3F.
2021/07/17-2021/10/17 (月休;8/9,9/20開;8/10,9/21休), 10:00-18:00.

1960年代から1970年代に演劇実験室・天井桟敷 (寺山修司)、状況劇場 (唐十郎) 周辺の アングラ演劇のグラフィックデザインなどを手掛けたことで知られる 横尾 忠則 の現在に至る仕事を辿る大規模な個展です。 1960年代から1970年代にかけてのポスターは、当時のカウンターカルチャーのグラフィック・デザインの一典型ということもあり、 デザイン史の中で位置付けられて観る機会もそれなりにありましたが、 デザインから絵画に軸足を移してからの活動はコレクション展などで断片的にしか観ていませんでした。 今回まとめて観ることで、Y字路という特にこだわったモチーフがあったのかと今更ながら気付かされました。 また、特に展覧会前半は、1970年前後のカウンターカルチャーが1980年代ポストモダンへと変容していく様子を辿って観ていくようでもありました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3936] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Oct 3 17:30:50 2021

先週末の日曜は、どんよりとした天気。 そんな中、午前中から横浜に出て、展覧会を2つハシゴしてきました。

そごう美術館 (横浜)
2021/09/10-2021/10/10. 10:00-20:00.

1980年代から舞台作品のコスチューム・デザインを手かげてきている ひびのこづえ の、 回顧展というよりむしろ最近の活動に焦点を当てた展覧会です。 彼女の関わった舞台をよく観てきているという程ではないのですが、 2010年代以降の造形を生かしたダンスとのコラボレーションを楽しんでいるので [鑑賞メモ]、 その興味もあって足を運びました。 しかし、風船など使った半ば舞台美術化した、衣装は着て踊られてこそ面白さが引き立つ、と再確認するような展覧会でもありました。

会期中の週末にパフォーマンスも3作品予定されていたのですが、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言中のため全て中止になってしまいました。 会場のあちこちに置かれた液晶モニタで公演の様子を上映していましたが、画面も小さく、鑑賞するというより、その様子を伺える程度でした。 そんな中では、展示している衣装を着て踊るアオイヤマダの映像を重ねて観ることができるよう 鈴木 一太郎 がAR (拡張現実) 化した《AR forest》が、 (パフォーマンス中止を受けて急遽制作したもののようでしたが、) 展示している衣装が踊り出すような面白さを感じることができました。

KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ
2021/09/09-2021/10/08. 11:00-18:00.

KAAT神奈川芸術劇場の企画によるアニュアルの現代美術展の2021年で取り上げられたのは 志村 信裕。 古書や家具へ映像を投影するインスタレーションを得意とする作家で、 グループ展で観る機会はありましたが [鑑賞メモ]、個展で観るのは初めてです。

サイトスペシフィックではなく抽象的なブラックボックスの中でのインスタレーションですが、 木漏れ日や湖面のような揺らめく光のインスタレーションは相変わらず。 中でも特に良かったのは、単色光の光源の投影とゆらめく光の動画を重ねて投影した作品でした。 木漏れ日を受けるように、ゆらめく光りに手を差し出すと、複数に別れ重なった影が生じます。 そんな光と影の相乗効果も美しく感じました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

KAATへ公演を観に行くついでに、と思っていたのですが、よくよく予定を確認すると、 次にKAATへ行くタイミングでは会期に1週間間に合わず、 週末の予定を考えるとこのタイミングを逃すと厳しいということで、慌てて観に行ったのでした。

しかし、すっかり体力が落ちた体で展覧会をハシゴするのは疲れます。 この日は、帰って一休みするつもりが、3時間も寝てしまいました。うーむ。

[3935] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Sep 27 22:58:17 2021

先の週末土曜は、図らずしも家でゆっくり過ごすことになってしまったのですが、 夕方に品川に出て、この映画を観てきました。

Calamity, une enfance de Martha Jane Cannery
『カラミティ』 Calamity, a childhood of Martha Jane Cannary
2020 / Maybe Movies (France), Nørium (Denmark), 2 Minutes (France), France 3 Cinema (France), 22D Music (France) / 80min / DCP.
Réalisé par Rémi Chayé.
Scénario original: Rémi Chayé, Sandra Tosello, Fabrice de Costil.
Création graphique: Rémi Chayé, avec Maïlys Vallade, Liane-Cho Han, Benjamin Massoubre, Eddine Noël, Patrice Suau.
Musique: Florencia Di Concilio.
Avec la voix de Salomé Boulven (Martha Jane Cannary), Alexandra Lamy (Madame Moustache), Alexis Tomassian (Samson), Jochen Hägele (Abraham), Léonard Louf (Jonas), Santiago Barban (Ethan), et al.

前作 Tout en haut du monde (『ロング・ウェイ・ノース』, 2015) も素晴らしかった [鑑賞メモ] フランスのアニメーター Rémi Chayé が、 Tout en haut du monde の時のスタッフを再び集めて制作した新作長編映画です。 19世紀後半、西部開拓時代のアメリカ開拓地 (具体的にはオレゴン・トレイル) を舞台に、 伝説のガンマン Calamity Jane (aka Martha Jane Cannary) に着想して、あまり記録に残ってない少女時代の、 男装して馬を操り開拓地を一人で生きる術を身に付けた経緯を、 実際にありそうな話というよりマンガ映画の冒険活劇らしい物語として描いています。 前作同様アニメシリーズ『世界名作劇場』を思わせる良さもありながら、そこに収まらない作品でした。

ジェンダーの制約が大きかった19世紀、それも保守的な西武開拓地を行く馬車隊の中で、 父の負傷を契機にそんな制約を跳ね除け行動し始めた主人公 Martha が、 やがて自分にかけられた嫌疑を晴らすべく馬車隊から逃れて、単身冒険に出ます。 そんな前半は Martha への抑圧が描かれた少々辛気臭い (『世界名作劇場』によくある) 展開ですが、 単身冒険に出てからは、Martha が少女であることも忘れるような、性別を感じさせない冒険活劇的な展開です。 女性の姿に戻るも場面もあるのですが、少年が女装するエピソードだと言っても通用します。 そんなジェンダーを感じさせない描写に、少女小説に基づく世界名作劇場的なものを踏襲しつつも、そこから踏み出しているように感じられました。

前作では、特にその前半サンクトペテルブルグでの主人公であるお嬢様 Sacha の心の動きをとらえる繊細な心理描写も、印象に残るものがありました。 Calamity ではそんな心理描写は後退して、冒険活劇的な描写が目立ちましたが、 これも主人公 Martha の考え込むよりも行動に出る性格の反映でしょうか。 Martha の軽はずみな行動が禍 (calamity) を引き起こし、それが物語を駆動します。 途中で出会った Jonas とのスリリングな馬車の場面、 そして自分の嫌疑を晴らすべく乗り込んだ軍の宿営地でのドタバタ騒ぎなど、 Buster Keaton オマージュも感じられるコミカルなアクションを楽しみました。

グラフィックも前作同様、枠線を使わないシルクスクリーン版画のようでありながら、 前作のサンクトペテルブルグや北極圏の白っぽい淡い色彩と違い、彩度の高い鮮やかな世界。 自然な色彩というより、後期印象派を思わせる (色彩設計に19世紀末フランスの Les Nabis の絵画を参考にしたという) 赤〜黄色に少々寄った深みのある色。 そんな中、星の光や野営の煙を表現する青みがかった色も映えます。 (前作の淡い繊細な色使いも良いのですが。) シネマスコープの画面を使ったレイアウトも良く、その画面の美しさも堪能しました。

既に準備中という次の長編作品は、19世紀パリが舞台の少女が主人公の物語とのこと。次作も楽しみです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3934] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Sep 26 21:57:58 2021

秋分の日は30℃超の真夏日。そんな中、熱中症になるんではないかと思いつつ 午前中にお彼岸の墓参を済ませた後、銀座に立ち寄って、この展覧会を覗いてきました。

『TOKYOマシーン』
銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM
2021/09/18-2021/09/23. 10:30-28:30.

1990年代以来、機能を持たないという不条理感と無骨な存在感を併せ持つ機械を作り続けているタムラサトルの個展です。 今回は銀座の高級ショッピングモール内の書店の展示スペースでの展覧会ということで、 電気火花をバチバチ飛ばす [鑑賞メモ] とか、 角材で鋼板をバンバン叩く [鑑賞メモ] とか、 壁いっぱい鉄パイプがビュンビュン回る [鑑賞メモ] とかの、 危険な作品ではなく、静かに鑑賞できる作品です。 少々無責任ながら高級ショッピングモール中の危険な作品という場違い感を楽んでみたいようにも思いましたが、 具体的な安全策とか考えるとこの展示は妥当な落とし所でしょうか。

今回展示されていたのは、ただ文字図形を描くだけで何も駆動しないチェーンと歯車の作品です。 機械油で光るといっても黒光りというほどではなく、むしろ錆も浮かず鈍く金属色に光るチェーンと歯車がニルニルとゆっくりと動いていきます。 その質感がフェティッシュに楽しめるという所もあるのですが、 Times のようなセリフ書体で「7」を描いた作品で、微妙な斜線の曲がりを小さな歯車を多用して丁寧に描いているところに、 そのラインへのこだわりが感じられました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3933] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sat Sep 25 14:33:06 2021

ARTE Concert でしばらく前に配信されていて気になっていたもののジオブロックで観られなかった舞台が先週末の日曜にNHKプレミアムシアターに放送されたので、 休前日水曜の晩にさっそくNHKオンデマンドで観ました。

Opernhaus Zürich
12, 13 Februar 2021.
Ballett von Christian Spuck
Music von Hans Zender. Schuberts «Winterreise». Eine komponierte Interpretation.
Choreografie: Christian Spuck; Musikalische Leitung: Benjamin Schneider; Bühnenbild: Rufus Didwiszus; Kostüme: Emma Ryott; Lichtgestaltung: Martin Gebhardt; Dramaturgie: Christian Spuck, Michael Küster.
Ballett Zürich
Mauro Peter (tenor), Philharmonia Zürich.
Premiere: 13 Oktober 2018, Opernhaus Zürich.
TV-Regie: Michael Beyer
NHK ondemand URL: https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2021116003SA000/index.html

Wilhelm Müller の詩集に基づき Franz Schubert が1827年に作曲した連作歌曲集 Winterreise 『冬の旅』を、 Ballett Zürich が芸術監督 Christian Spuck の振付でバレエ化したものです。 Spuck の作風には疎かったのですが、『冬の旅』という題材と、スタイリッシュな舞台の様子を捉えたスチル写真に惹かれて、配信で観てみました。

装飾なしのコンクリート打ちっぱなしを思わせるムラのあるグレーのパネルで三方を囲まれ、 蛍光灯の青白い光のフラットな照明で、スポットライトや暗転などの演出は用いず。 そんな舞台の上での装飾と彩度を抑えた黒っぽい衣装というビジュアルがかなり好み。 どこか既視感があったのですが、1980-90s頃の Comme des Garçons のブティックでしょうか。

そんな舞台は現代的ですが、トゥシューズで踊る場面もあり動きはバレエのイデオムは強め。 「冬の旅」に出ることとなる失恋と傷心という状況を捨象して、旅先での孤独の不条理と死の寒々とした心象を視覚化したよう。 男女組んでのダンスや群舞は、傷心のような恋愛に関する状況をロマンチックに描写するものではなく、音楽を視覚化するよう。 不条理や死の心象風景は、むしろ、目隠しされたり、頭部や腕にカラスの剥製などの象徴的なオブジェを着けたり、枯れ枝の束を竹馬に乗ったりした姿で、 グループでポーズを取ったり静かに動いたりと、活人画に近いやり方で描いていきます。 グループでポーズを取った状態でセリを使って登場したり退場したりという演出は、静かな活人画的な情景の切り替えに効果的でした。

Winterreise はピアノ伴奏で歌われることが多いのですが、 今回は1993年に Ensemble Modern により初演された Hans Zender による オーケストラ編曲 (Eine komponierte Interpretation) 版が使われていました。 スチル写真のイメージは電子音を多用した現代的な舞台作品を思わせるものだったので、 現代的にリミックス (recomposed) されてそうとも思ったのですが、流石にそれはなし。 しかし、元の旋律も生かしつつも不協和音が多く加えられたその音は、殺伐とした舞台上のイメージに合っていました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3932] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Thu Sep 23 23:15:08 2021

先の三連休中日の日曜は、雨の土曜から一転して快晴。 午前中早めに恵比寿に出て、東京都写真美術館の展示・上映企画をまとめ観しました。

東京都写真美術館 3F
2021/08/24-2021/10/31 (月休; 月祝開, 翌火休). 10:00-18:00.
Maree Clarke, Rosemary Laing, Polixeni Papapetrou, Val Wens, 石内 都 [Ishiuchi Miyako], 片山 真理 [Katayama Mari], 畠山 直哉 [Hatakeyama Naoya], 横溝 静 [Yokomizo Shizuka].
Co-curated by Natalie King in special collaboration of University of Melbourne.

企画意図は掴みかねましたが、印象に残った作家について。 以前に観た Chopin のピアノ曲を弾く年老いた女性たちを淡々と捉えた《永遠に、そしてふたたび》も良かった 横溝 静 の《That Day / あの日》 (2020) では、 写真のプリント現像を様子を使いつつ現像液中で浮かび上がってくる写真像とその合間の語りからなる ナラティブなインスタレーションがうっすらと物語 (津波被害だろうか) を浮かび上がらせます。 Polixeni Papapetrou の娘に動物の仮面に19世紀風の衣装を着せて撮った演出写真シリーズ Between Worlds は、 Max Ernst のシュルレアリスティックな銅版画コラージュをカラー写真化したよう。 しかし、演出写真というよりセルフポートレートを自分と娘を合成してメタリックホイル上に黒でプリントした MY HEART –– still full of her の方が、その仄暗いイメージに思わず目を止めてしまうものがありました。

東京都写真美術館 2F
2021/08/24-2021/10/31 (月休; 月祝開, 翌火休). 10:00-18:00.

1972年に活動を始めた動物写真家の回顧展です。 1970年代から赤外線センサーを使ったロボットカメラを使うなどその試みも面白いのですが、 シリーズ《死》の動物の死体が朽ちていく様を連続的に捉えたシリーズ写真の 動物の可愛らしさを捉えるのではなく引いた視点で生態系のあり方を記録したような所が興味深く感じられました。

山城 知佳子
Yamashiro Chikako: Reframing the land/mind/body-scape
東京都写真美術館 B1F
2021/08/17-2021/10/10 (月休; 月祝開, 翌火休). 10:00-18:00.
東京都写真美術館 1Fホール
2021/9/18-20;10/1-3.
Aプログラム「他者の残響と生きる」: 《あなたの声は私の喉を通った》 (2009, 7m20s), 《沈む声、紅い息》 (2010, 7m), 《創造の発端 –アブダクション/子供–》 (2015, 18m), 《土の声(劇場版)》 (2017, 26m)
Bプログラム「場所がはらむ物語」: 《肉屋の女(劇場版)》 (2016, 27m30s), 《チンビン・ウェスタン 家族の肖像》 (2019, 32m)

2000年代以降、主に現代美術の文脈で活動する映像作家です。 グループ展で《チンビン・ウェスタン 家族の肖像》 (2019) など観たことがありましたが、 回顧展という程の長いキャリアではないですが、今回、20年近くにわたるまとまった数の作品を観ることができました。 辺野古埋立問題などの現代の社会問題にも着想しつつ、 それをドキュメンタリ的もしくは、リアリズム的に描くのではなく、 伝説や昔話などにも着想を得て、質感などのフェティシズムも感じさせる映像も使った、 寓話的なナラティヴを持つ映像作品です。 その土地自身を擬人化して語らせるような《土の声》 (2016) が、最も良かったです。 今回は展示室構成も、ガマ (沖縄の洞窟) の巡りながら観るということを連想させるような インスタレーション上の工夫もされていました。 が、30分前後の長めのナラティヴな映像作品は劇場版の方が合っているようにも感じました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

朝10時半頃から、ランチタイム挟んで、とはいえ、15時半まで約5時間半。 特集上映Bプログラムを見終わった時には、集中力も体力も尽きました。 映像作品が多い展覧会は長丁場になりがちで、観るのもきついです。 土曜の水戸日帰りに続いて、日曜も、ということで、流石に三連休最終日の月曜は休養に充てました。

[3931] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Sep 20 18:52:59 2021

三連休初日の土曜は、台風の影響もあって、時折強い雨も降る生憎の天気。 さらに、ワクチン2回接種済みになったとはいえ、新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言も9月末まで延長され、出かけるのも少々気後れする状況です。 しかし、12日の緊急事態宣言解除を期待して事前入場予約を入れてしまっていましたし、 臨時休館中も事前入場予約者のみ入場できるという連絡も頂いたので、 混雑を避けるならむしろこのタイミングで行ってしまった方が良いかと、 水戸に遠征してこの展覧会を観てきました。

水戸芸術館現代美術ギャラリー
2021/09/18-2021/10/17 (月休; 月祝開, 明火休), 10:00-18:00.

1980年代後半から現代美術の文脈で活動するビデオを使ったインスタレーション作品と得意とするスイスの作家 Pipilotti Rist の個展です。 グループ展やコレクション展で観る機会はありましたが、個展を観るのは2007年の原美術館 [鑑賞メモ] 以来と、十余年ぶりです。 シングルチャネルのビデオ作品から、オブジェ等へのプロジェクションマッピングを経て、 スクリーンだけでなくオブジェ等への投影も含むマルチチャネル・ビデオのインスタレーションに没入して体験するような作品へと展開していると実感する展覧会でした。

東京都現代美術館のコレクション展にあった “A Liberty Statue for Tökyö” (2009) [鑑賞メモ] もそうでしたが、 ビデオ投影される壁の前にはカーペットが敷かれ、クッションが並べられていて、横になりつつ観るようになっています。 “4th Floor To Mildness” (2016) のように、ギャラリーにはダブルベッドが不規則に並べられ、 そこに横たわって天井に投影されたビデオを観る作品もありました。 緊張を持って作品に向いあうというより、リラックスすることを促されるような展示です。

投影される映像は、人肌を舐めるような、もしくは、草むらの中や水中を蠢く小型動物の視点で見るかのような小型カメラの映像が多用されます。 その彩度を強調したり、色相や明度を反転したり、万華鏡のように反転したものを重ねたりなどの エフェクトをかけられた映像は、サイケデリックな印象を与えます。 人肌を舐めるような映像では性器なども映り込んだりするのですが、 クロースアップされ過ぎているうえにエフェクトをかけられ、直ぐには気づかないほどです。

さらに、今回は鑑賞する空間自体がインスタレーションとして作り込まれていました。 “Sentimental Sideboard” (2020-2021) や “Hakone Ruhe” (2020-2021) では David Lynch も連想させられるような奇妙なホテルのラウンジのような空間が作られ、 カウチに身を沈めながら、映像やオブジェを観るというより、その空間の雰囲気を体験します。

“Caressing Dinner Circle” (2017) では、会食用の丸テーブルに着いてガラスや白磁の食器が並ぶテーブル上に投影される映像を鑑賞します。 “Hakone Ruhe” 「箱根の静けさ」というタイトルもありますし、 Rist のお宅というより、Rist が仮想的にプロデュースしたリゾートホテルのラウンジやレストランで、 作品と向かい合うというより、作品世界に浸る (実際、Rist は水に浸るような映像を多用する) ような体験でした。

そんな世界に浸るような最近の作品も楽しんだのですが、 一通り観終えた後に、メインの展示室から少し離れた第9室を使って上映されていた初期シングルチャネル・ビデオ作品を観て、 初期のパンキッシュなビデオ作品が良さも再認識しました。 (2007年に少々長めに書いているので、今回は多くは語りませんが。) ここで上映されていた初期作品の中にも今回初めて観るものがありましたが、 その中で興味を引かれたのは “Pickelporno” (1992)。 ポルノビデオへ反対するのではなく、より望ましい性的な感覚の可視化方法の追求というコンセプトがあったようなのですが、 小型カメラによる極端なクロースアップやサイケデリックなエフェクトなど、 今回上映されていた初期ビデオ作品の中で最も、最近のマルチチャネル・ビデオインスタレーションに使われている映像に近いものでした。 実際のところメインの会場でのインスタレーションで性的な感覚を意識させられることは無かったのですが、 作家の意図としては性的な感覚の暗示も含んでいたのだろう、と気付かされました。

屋外展示もあるのですが、“Hiplight (for Enlighted Hips)” (2011) にしても ライトが付いていないと単に下着が干してあるだけのようですし、 “Open My Glade (Flatten)” (2000) は夜間のみの投影ということで観られませんでした。 これから行こうという方はご注意ください。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

水戸へ行くのも2019年の 中谷 芙二子 展 [鑑賞メモ] からの2年余ぶり。 外出自粛の日々が続いて体力が落ちていたので、ゴロゴロしながらまったりと体験できる展覧会とはいえ、水戸日帰りはきつかった……。

[3930] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Sep 6 0:12:38 2021

COVID-19第5波がピークアウトしているのか高止まりしているのか、 様々な指標がサチっていて把握しづらいこの頃、医療の逼迫は続いてるので、先週末、今週末も外出は自粛。

『ジム・ジャームッシュ レトロスペクティブ2021』 (Jim Jarmusch Reprospective 2021) という特集上映が7月から開催されています。 1980年代から活動するアメリカの独立系の映画監督で、 ずっと観てきているという程ではないものの、かなり好みの作風の監督です。 しかし、気付いたのが7月半ば過ぎの第5波で感染急拡大中。 映画館へ行くのも気が引ける状況で、すっかり行きそびれてしまいました。 しかし、それに合わせてか、Amazon Prime Video でのレンタルもいつの間にか始まっていたので、 週末に2時間程度のまとまった時間を作って、少しずつ観進めています。

Jim Jarmisch の初期3部作は1986年にフランス映画社BOWシリーズで日本公開さたのを観ています。 確か、今は無き有楽町スバル座で。シネ・シャンテができる前は、ここがBOWシリーズの上映館でした。 それ以来35年ぶりに観ましたが、最初に日本公開となった第2作 Stranger Than Paradise (1984) は、意外とよく覚えていました。 ハンガリーからきた従妹 Eva を預かることになったギャンブラー Willie とその相棒 Eddie のニューヨークでの数日と、 1年後に Eva のいる Cleveland を訪れ、3人で Florida へ行く、 微妙にうまくいかない不条理な日々や出来事淡々と描いたコメディのモノクロ映画です。 当時も「オフビートな笑い」と言われていましたが、明らかに笑いを取りに行くような描写が無い中から滲み出るようなとぼけたユーモアが良いなあ、とつくづく。

第1作 Permanent Vacation (1980) はほとんど記憶に残っていませんでした。 まだ、不条理感がユーモアへ昇華されておらず、若いナイーブさを感じます。 3作目 Down By Law (1986) も前半、Zack と Jack がハメられて刑務所入りするまでのエピソードはほとんど覚えていませんでした。 前作から続いて不条理なオフビートのコメディで、 モノクロのアレた(粒子の粗い)画面だったという印象が残っていたのですが、今回見直して、 New Orleans の少々荒んだ街並み、そして何より、脱走後の Louisiana の bayou の風景が モノクロながらとても美しく捉えられていたことに気づかされました。 こんなに絵の綺麗なスタイリッシュな映画だったのか、と。

初期3作以外では、Paterson (2016) [鑑賞メモ] を観直した他、 現時点の最新作 The Dead Don't Die (2019) を観ました。 去年日本公開されていたようですが全く気付いていませんでした。 Jarmusch がゾンビ映画というのは意外でしたが、ホラーじゃなくて不条理でとぼけた風味のコメディは彼らしいでしょうか。 撮影はCOVID-19以前で、ゾンビは消費社会で魂を抜かれた人々のメタファーとして描かれていますが、 このCOVID-19パンデミック下で観ると、COVID-19のような疫病のメタファーに見えて仕方ありません。 白人の人種差別主義者が出てきたり Trump 政権下の政治状況への皮肉と思われる設定、描写もあり、 Jarmusch にしてはかなり社会風刺も感じられ、ゾンビ映画ということよりそちらの方が少々意外に感じられました。

Amazon Prime Video で配信中なのは、おそらく特集上映と同じ12作。 ということで、まだ道半ばにも達していませんが、少しずつ観進めたいものです。

先週末日曜28日の午後、職域接種でCOVID-19ワクチンモデルナ筋注の2回目を受けました。 副反応をある程度覚悟していたのですが、注射後18時間程経過した明昼前頃から熱っぽくなり、 午後には鎮痛解熱剤 (カロナール) を服用して38℃超。 今までにかかった病気の症状に最も近いのは、鼻や喉の症状ないインフルエンザでしょうか。 38℃超の発熱なんて10年ぶりくらいで、かなりキツく、 本を読むどころか、TV (オンデマンド) 付けててもまともに観てもいられない程でした。 明火曜朝もまだ微熱がありましたが、鎮痛解熱剤服用で、そんなことも忘れて仕事できました。 せっかくここまできて不用意に感染してももったいないので、 これから十分に免疫が付くまでの2週間、待ちます。

[3929] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Aug 22 21:53:21 2021

COVID-19感染爆発で病床不足どころか人工呼吸器も使い果たした首都圏の医療崩壊の状況を見るに、 (少なくともワクチン2回目の接種を終えるまでは) 展覧会や公演に行く気にもなれないのですが、 土曜は午後に初台へ。 そんな状況になる前からチケットを取っていたこの公演を観てきました。

Super Angels
新国立劇場オペラパレス
2021/08/21, 14:00-16:45.
総合プロデュース・指揮: 大野 和士; 台本: 島田 雅彦; 作曲: 渋谷 慶一郎.
演出監修: 小川 絵梨子; 総合舞台美術 (装置・衣裳・照明・映像監督): 針生 康; 映像: WEiRDCORE.
振付: 貝川 鐵夫; 舞踊監修: 大原 永子.
演出補: 澤田 康子; オルタ3プログラミング: 今井 慎太郎.
キャスト: オルタ3 (Supported by mixi, Inc.) (ゴーレム3), 藤木 大地 (アキラ), 三宅 理恵 (エリカ), 成田 博之 (ジョージ), 小泉 詠子 (異端1 ルイジ), 込山 由貴子 (異端2), 北村 典子 (異端3), 上野 裕之 (異端4), 長野 礼奈 (異端5).
合唱: 新国立劇場合唱団, 児童合唱: 世田谷ジュニア合唱団, ホワイトハンドコーラスNIPPON.
渡邊 峻郁, 木村 優里, 渡辺 与布, 中島 瑞生, 渡邊 拓朗 (新国立劇場バレエ団).
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団.
新国立劇場三部門 連携企画. 芸術監督: 大野 和士 (オペラ), 吉田 都 (舞踊), 小川 絵梨子 (演劇).
2021年8月21日新国立劇場プレミエ

新国立劇場オペラ芸術監督の大野 和士の企画による、 発声機能を持ち歌うことができるアンドロイド「オルタ3」をフィーチャーした 「大人から子どもまで楽しめる」オペラです。 2020年8月に上演予定されていたものが1年延期で上演されました。 台本 は 島田 雅彦、作曲 は 渋谷 慶一郎。 というより、オペラ、舞踊 (バレエ)、演劇の新国立劇場三部門 連携企画ということで、 新国立劇場バレエ団のダンサーも出演しており、 三部門連携がどう結実するのか、ダンスがどのように使われるのか、という興味もあって足を運びました。

全知全能のAI「マザー」に支配された管理社会の下で、 学校卒業時に異端とされ開拓地へ送られたアキラと、 開拓地でアキラがメンテナス係を担当していてアキラの死後反乱を起こしたアンドロイド ゴーレム3、 アキラとは幼馴染みで反乱を起こしたゴーレム3の制圧に向かったAIドクター エリカの物語です。 AIという道具立てはあるものの、近未来的というより、異端を開拓地送りにするような管理社会の設定も20世紀的なディストピアを舞台とした、 いかにも「大人から子どもまで楽しめる」ジュブナイルSFな物語でした。 20世紀的な管理社会よりも、Big Techによる市場を介した支配のようなものにした方が近未来的というか21世紀的になったのではないかとは思いつつも、 素直にストレートプレイにしたら1970年代NHKの少年少女ドラマシリーズ風に楽しめそうな話だと思いながら観ていました。 しかし、そんな物語とオペラという形式との相性があまり良くなかったのか、さほどピンと来ないまま終わってしまいました。

ダンスをどう使うのか、という興味もあったのですが、 抽象的ながら格子構造もハッキリした舞台装置に、映像のプロジェクション、 そしてコーラスを舞台いっぱい並べることの多い演出の中で、 ダンスは埋もれがちに感じられてしまいました。 アンドロイド「オルタ3」の歌唱についても、 日本語なのでなんとか分かる程度で、歌詞も聞き取れるとは言い難く、 むしろ物語の世界に入ることを妨げる異化作用の方が強く感じられてしまいました。

今回は良かったという感じではなかったのですが、 三部門連携企画のような試みは単発で終わらせずに継続することで成果が出てくるものとも思うので、 今後も継続してほしいものです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

この週末から、フィギュアスケートのシーズン、というか、 ISU (International Skate Union) の Junior Grand Prix of Figure Skating (JGP) が始まりました。 2020/21シーズンは中止だったので2年ぶりです。 JGPの公式無料 YouTube ストリーミング [公式チャンネル] は、アナウンサーの煽りが無いだけでなく、Ted Barton 氏の的確な解説もあって、とても楽しめます。 今シーズンは日本とロシアが不参加で少々物足りなさは否めませんが、 外出自粛中に楽しむストリーミングの選択肢になりそうです。 今週末は第1回、フランス・クールシュヴェル (Courchevel) の1回目です (今シーズンはクーシュヴェルで2回開催)。 全て観ているわけでなく、アイスダンスを中心に観ています。 あと、もちろんガラ [YouTube]。 ジュニアは2年も経つと選手がすっかり入れ替わってしまいます。 初見のカップルがほとんどだったのですが、そんな中、 Darya Grimm - Michail Stavitskiy (GER) [Rhythm Dance, Free Dance] という素敵カップルを知ることができました。これから応援していきたいものです。

[3928] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Aug 15 17:57:13 2021

COVID-19感染爆発で、百貨店・ショッピングモールや都心主要駅での感染が続き、医療も崩壊。 その上、西日本のような被害は出ていないものの本降りの雨続き。 というわけで、この週末も外出自粛。 そんな中、土曜の午後に、去年末に『東京の女性』を観て以来気になっていたこの映画をDVDで観ました。

『青春の気流』
1941 / 東宝東京 / 白黒 / 86min.
監督: 伏水 修. 脚色: 黒澤 明. 原作: 南川 潤 『愛情の建設』『生活の設計』より.
原 節子 (由島 槇子), 山根 壽子 (馬渕 美保), 大日方 傳 (伊丹 径吉), 藤田 進 (テストパイロット村上), 中村 彰 (美保の弟 章), 進藤 英太郎 (由島専務), etc

戦前のモダンで自立した女性像を描いた『東京の女性』 (東宝東京, 1939) [鑑賞メモ] と同じく、 東宝東京による 伏水 修 監督 で 原 節子 が主要な役を演じた映画です。 流石に太平洋戦争開戦後で『東京の女性』に比べ戦中色は濃くなりますが、 まだ戦前モダンの雰囲気を楽しめる映画でした。

航空機製作所の気鋭の若手設計技師 伊丹を主人公に、 積極派対消極派の社内政治に巻き込まれつつも最新旅客機を設計から完成に導く話を軸に、 伊丹を挟んで庶民の女性の恋人 美保 と伊丹に好意を寄せる専務のご令嬢 槇子 の 三角関係からなるのメロドラマを絡めた物語です。 仕事は出来るが女性には素っ気ない男性を挟んでご令嬢と庶民的な女性を対比させる展開は当時のメロドラマの典型で、 吉村 公三郎『暖流』 (松竹大船, 1939) [鑑賞メモ] や 大庭 秀雄『花は僞らず』 (松竹大船, 1941) [鑑賞メモ] も連想させられます。 大日方 傳 演じる伊丹は松竹メロドラマでの 佐分利 信 の役ほど朴念仁ではないですが、 ご令嬢 原 節子 は 高峰 三枝子 に被りますし、 何より、控えめな恋人役の 山根 壽子 が 水戸 光子 にとても似ているように感じられました。

松竹メロドラマではたいていヒロイン2人が直接対面する場面などを作って、それぞれの女性の心理が繊細に描かれるわけですが、 この映画ではラスト近くの伊丹の結婚式の場面まで、2人のヒロインが直接合いませんし、その場面では既に2人の心の揺らぎは無い状態です。 エンディングもご令嬢が振られたことを知る涙の場面でヒロイン視点でメロドラマチックに終わりません。 その場面から、さらに引っ張って、伊丹と美保の結婚式、そしてハネムーン飛行で終わります。 恋の成就としての結婚と航空機開発の成功という伊丹の視点からのハッピーエンドです。 そういう点では、あくまで伊丹が主人公の映画です。

メロドラマ部分の展開や演出はさすがに松竹メロドラマに比べ見劣りしますが、 その一方、航空機開発の場面はさすが東宝です。 航空機開発の工程は特撮も駆使してその現場を具体的に描きます。 『花は僞らず』での発明のいいかげんな描写など比べ物にもなりません。 航空機開発の現場はもちろん、ご令嬢、設計技師やテストパイロットたちのモダンな服装など モダンなディテールは楽しめたのですが、 積極派対消極派の社内政治の描写は図式的でしたし、メロドラマ的要素も弱いので、 『東京の女性』に比べると不完全燃焼気味になってしまいました。期待が大きすぎたでしょうか。

『青春の気流』は脚色 黒澤 明 ということで 黒澤 明 DVD コレクションというシリーズの中で2019年にDVD化されています。 今回は、それを入手して観たのでした。 その一方で、そういうきっかけも無い『東京の女性』がDVD化されていないというのは、残念な限りです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3927] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Aug 10 22:19:05 2021

この週末三連休中日の日曜も外出自粛で、自宅でストリーミング舞台鑑賞。 午後にこのバレエを観ました。

Polski Balet Narodowy [Polish National Ballet]
Teatr Wielki - Opera Narodowa, Warszawie
27 February 2021.
Ballet in three acts
Music: Sergei Prokofiev.
Libretto: Krzysztof Pastor, Willem Bruls after William Shakespeare.
Yuka Ebihara (Juliet Capulet), Patryk Walczak (Romeo Montague), Dawid Trzensimiech (Mercutio), Maksim Woitiul (Tybalt), Marco Esposito (Lord Capulet), Ana Kipshidze (Lady Capulet), Rinaldo Venuti (Benvolio), Carlos Martín Pérez (Friar Laurence), Emilia Stachurska (Juliet's Friend No. 1), Mai Kageyama (Juliet's Friend No. 2), Kristóf Szabó (Paris), Dancers of Polish National Ballet.
Orchestra of the Polish National Opera. Conductor: Andriy Yurkevych.
Set and Costume Designer: Tatyana van Walsum; Dramaturg: Willem Bruls; Choreographer's Assistants: Kalina Schubert, Anita Kuskowska, Walery Mazepczyk; Lighting Designer: Bert Dalhuysen
Premiere: 7 March 2014.
Film: Ewa Krasucka.
OperaVision URL: https://operavision.eu/en/library/performances/dance/romeo-and-juliet-polish-national-ballet
Available from 16.04.2021 19:00 CET until 15.09.2021 12:00 CET.

Polski Balet Narodowy [Polish National Ballet, ポーランド国立バレエ団] による Sergei Prokofiev の Romeo and Juliet です。 Kenneth MacMillan はじめ様々な振付で知られますが、これはバレエ団芸術監督 Krzysztof Pastor による2014年の振付です。 ヨーロッパのオペラハウスのプロダクションを配信している OperaVision で今年2月の上演が配信されているのを観てみました。 舞台を現代に置き換え、20世紀モダンな衣装に舞台美術も最低限、背景の映像投影も場面を説明するというより暗示するような使い方で、 ナラティブ・バレエながらミニマリスティックな演出はかなり好みでした。

シノプシスに「1930s, 1950s, 1990sそれぞれのイタリアに置き換え」とありますが、メインは1930sのファシズムの時代でしょうか。 20世紀モダンといっても華美な 1920s Art Deco ではなくモノトーンで戦時色も感じられ衣装で、 黒シャツの Capulet 家はファシスト党員もしくは支持者、 対する Montague 家は反ファシズムの市民達で、その対立の物語となっていました。 背景に投影された映像にも、ファシズム建築で有名なローマの Palazzo della Civiltà Italiana [イタリア文明宮] が象徴的に使われます。

1950sが反映されていると思われるのは、バルコニーの場面の後の第2幕でしょうか。 背景に戦後の撮影と思われる色あせたカラーの映像が投影され、 衣装も形はほぼそのままにモノクロから赤からオレンジがかったの色が入ります。 映像でも暴力的な事件を思わせる光景も映し出されるのですが、 ファシズム対反ファシズムに代わる対立構図に思い当たるものが無く、 衣装も大きく変わらなかったので、第1幕での対立構図がそのまま継続しているよう。 そして、1990sが反映されていたのは、ラストの第4幕の Romeo と Juliet の葬儀の場面。 20世紀半ばのスッキリとモダンな衣装から、現代的な多様な服装になっています。 2人のしでそれぞれの陣営が和解することはなく、 Romeo と Juliet をそれぞれ反対側の袖へ抱えて去っていきます。 このエンディングは、新たな極右勢力の台頭で分断される現代の社会を象徴するよう。

ファシズムと反ファシズムの対立は Capulet と Montague の対立ほど対称的なものなのか、など、 若干腑に落ちないところはあったとは言え、現代的な置き換えの妙を興味深く観ることができました。 そして、チュチュとかの装飾の多いクラシカルな衣装があまり好みではないということもありますが、 ラインなどはエレガントながら20世紀半ば風のシンプルでモダンなデザインの衣装でのダンスを、 それも群舞多めに観ることができたのも、良かったでしょうか。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3926] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Aug 9 10:59:08 2021

この週末三連休は首都圏はCOVID-19感染爆発で医療崩壊してしまいました。 正直に言えば東京周辺で気になる公演、美術展、映画上映を観に行きたいと葛藤もあるのですが、 東京都はもちろん神奈川県の感染拡大状況も深刻で、やはり、都心はおろか地元の駅周辺の混雑した商業施設にすら行くのもためらわれます。 ということで、この三連休は外出は散策や最低限の買物に抑えて、自宅でストリーミング舞台鑑賞。 土曜は午後にこのダンスを観ました。

Palais des Papes à Avignon, France
25 juillet 2021.
Direction artistique et chorégraphie: Marcos Morau
Avec: Alba Barral, Àngela Boix, Julia Cambra, Laia Duran, Ariadna Montfort Nùria Navarra, Lorena Nogal, Marina Rodríguez.
Textes: El Conde de Torrefiel, La Tristura, Carmina S. Belda.
Conseil dramaturgique: Roberto Fratini
Musique originale: Mônica Almirall, Marcos Morau, Juan Cristóbal Saavedra.
Scenographie: Bernat Jansà, David Pascual. Lumieres: Bernat Jansà. Costumes: Silvia Delagneau.
Première: 24-26 juillet 2020, Sala Oval, Museu Nacional d'Art de Catalunya.
ARTE Concert URL: https://www.arte.tv/fr/videos/104766-000-A/sonoma-de-marcos-morau/
Disponible du 28/07/2021 au 25/08/2021

スペイン・カタルーニャはバルセロナのカンパニー Le Veronal が Festival d'Avignon 2021 メイン会場 Palais des Papes で上演したダンス作品です。 カンパニーのバックグラウンド等の知識は無かったのですが、 Festival d'Avignon 芸術監督 Olivier Py のチョイスを信頼して、 ARTE Concert の劇場中継を観てみました。 衣装や音楽にヨーロッパ各地の民族衣装や民族音楽の断片を交えて、 語られるテクストからして戦争や病気の厄災に対する叫びを、 8人の女性ダンサーによって、シュールレアリスティックなイメージで描く約75分の作品でした。

冒頭の場面ではロシアのベリョースカ (Берёзка, 『白樺』) で有名な滑るような歩行を使っていますし、 音楽にもブルガリアのポリフォニーやロシアの民謡も使っていて、東欧色が強め。 後半になると、聞こえてくる音楽だけでも、地中海風の民謡、グレゴリオ聖歌、印象派の音楽、さらには最後には Meredith Monk 風までと広がります。 衣装も、モダンでミニマルなものではなく、民族衣装をベースに色を白黒にして装飾も抑えて抽象化したよう。 音楽や衣装に比べてダンスの動きは民族舞踊を思わせるものはあまりなく、 早い動きと止めを強調してギクシャクとした踊りが多用されていました。 ただ、ミニマリスティックにダンスを見せる作品ではなく、 被り物のマスクや花冠の様な道具も活用して、 厄災に対する叫びの様な活人画的なイメージをシュールレアリステックに連想で繋いでいくよう。 人形やマジック的なトリックは使っていませんが、 Philippe Genty [鑑賞メモ] とも共通するものを感じました。 その舞台上のイメージだけても十分喚起されるものはあったのですが、 セリフというか語られるテクストがあるのですが、フランス語で字幕がドイツ語のみで、その理解には厳しいものがあったのは、少々残念でした。

観た後に興味を引かれて、バックグラウンドを少々調べてみたのですが、英語で書かれたものとしては、この記事 Clàudia Brufau: “Marcos Morau: Sonoma, Surrealims and me” ( Springback Magazine, 10 November 2020) が最も参考になりました。 この記事によると、Marcos Morau はバレンシア出身の1982生、訓練されたダンサーではなく、La Veronal 結成は2005年とのこと。 Sonoma は、 Ballet de Lorraine に振付した Le Surréalisme au service de la Révolution (2016) [teaser (Vimeo)] のリプリーズ (主題の反復) とのことで、そちらにも興味を引かれました。

Now for something completely different...

ARTE Concert では Festival d'Avignon 2021 関連企画 [ARTE Concert] として、 Sur le pont d'Avignon という9編の短編ダンスビデオからなるシリーズを制作公開しています。 有名な “Sur le pont d'Avignon, l'on y danse, l'on y chante” の歌をテーマに 9組のパフォーマーとミュージシャンによって作られたダンスビデオです。 アヴィニョンの街のあちこちでサイトスペシフィックに踊られたダンスを収録していて、 アヴィニョンの街の雰囲気を楽しめる内容にもなっています。 中でも最も良かったのは、Rachid Ouramdane, Nathan Paulin et Malik Djoudi [ARTE Concert]。 Malik Djoudi の音楽、Rachid Ouramdane の振付でサーカスパフォーマー Nathan Paulin が Palais des Papes [教皇庁] の塔の間で綱渡り (high wire) をするというものです。 撮影にはドローンを使っているのでしょうか。 パフォーマンスといい、眺望といい、素晴らしいです。

ARTE Concert の短編ダンスビデオシリーズといえば、 2020年12月から今年2020年5月にかけて18編公開された ARTE en scène もお勧めです。いわゆるコンテンポラリーダンスだけでなく、 アクロバット、バランス芸、ヴァーティカル・ダンスなど現代サーカスの文脈のパフォーマンスが半分近くも含まれています。 中でも興味を引いたのは、Kiki Béguin [ARTE Concert]。 バーレスクのバックグラウンドを持っているダンサーで、 このビデオも踊りながら脱いでいくというストリップ (striptease) のフォーマットを取っているのですが、 林の中で換羽していく鳥のようで、もはやストリップであることも忘れそうです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

ヨーロッパの公共文化放送局 ARTE Concert は、 オペラやバレエ、クラシックのコンサートが充実しているだけでなく、 コンテンポラリーなダンス・演劇から、 音楽もポップ、テクノ、ジャズ、ワールド・ミュージック等のライブもあって、 そのラインナップも単なるポピュラリティあるものが選ばれているわけでは無く、 自分の趣味にもそれなりにマッチした絶妙な選択。 COVID-19での外出自粛中は、 家呑みなどしながら、ダラダラのんびりと ARTE Concert 観ながら過ごすのも、悪く無いでしょうか。

[3925] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Aug 8 13:28:05 2021

先の週末の土曜は、東京都のCOVID-19感染者数が土曜というのに週最大の4000人超え。 感染爆発が止まらない状況での外出も躊躇われたのですが、夕方というか晩に三軒茶屋へ。 5月にチケットを取っていたこの公演を観てきました。

TANGLE
世田谷パブリックシアター シアタートラム
2021/07/31, 18:30-19:30.
演出・振付・出演: 戸沢 直子 [Naoko Tozawa], 杉本 峻 [Shun Sugimoto].
作曲: Jonas Dufrêne;
舞台監督: 原口 佳子; 演出部: 熊木 進; 照明: 久津美 太地; 音響: 池田 野歩; 制作: 奥村 優子; 衣装: 矢上 真理恵; 空中芸アドバイザー: Jean-Yves Willems.
世田谷パブリックシアター せたがやこどもプロジェクト2021《ステージ編》ダンス×音楽×現代サーカス

日本のブレイクダンサーによって2011年に結成されたチーム Kinetic Art の公演です。 ほとんどバックグラウンドを知らなかったのですが、 ストリートダンスやサーカスの文脈で国際的に活動し、 36e Festival Mondial du Cirque de Demain (2015) [YouTube] で Prix ARTE を受賞するなどの評価も得ているということで、観る良い機会と足を運びました。 アフターパフォーマンス・トークの話によると、今回の作品のアイデアは 演出・振付・出演の2名のうちフランス・アヌシー在住の 野沢 直子 が主導して、 杉本 峻 とはオンラインを駆使したコラボレーションで作りあげたよう。 音楽も生演奏を予定していたのですがCOVID-19パンデミックで叶わず、特別に録音された音源を使いました。

フライヤーに使われている写真のように、輪になった長い (10mはあったでしょうか) ロープを使い、 遅めの動きのブレイクダンスというかコントーション、アクロバットがかった動きで四肢身体を使って「あやとり」をするように見せるというのがラストの見せ場です。 しかし、それまでの展開も時間的、空間的によく構成された約60分でした。 ロープと途中でエアリアルのベルトを使う程度で装置も最低限、ブラックボックスに白の照明のみというミニマリスティックな演出です。 ロープは最初のうちから使いますが、最初は一本の紐のように畳んで引き合ったり、床に線を引くかのように使ったり。 動きも最初のうちはアクロバット控えめで、 はじめに近い場面では、この作品のテーマを提示するかのように、 人間関係のすれ違いを演出するかのように、線状に引かれたローブを挟んで歩いたり。 次第にブレイクダンス、コントーションなどの技を使ったソロ、デュオを交えて展開していきます。

ロープで描く線で正方形を描くなど、空間使いは奥行き方向もよく考えられていました。 ブレイクダンスやコントーションなど床に近い動きが多くなってしまいがちなわけですが、 途中にエアリアル・ストラップ (さすがに本格的なエアリアル・アクロバットではありませんでしたが) を交えることで、 下がった2本の白いストラップで縦方向の空間を視覚化し縦方向の動きも加えていたのも、良かったでしょうか。 そんな抽象的ながら空間的な構成も巧みな中に、ラストの「アヤトリ」のパフォーマンスで、 ロープによる造形の面白さ、ロープの絡み具合などの偶然的な要素が加わってくるところも面白く感じられました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

こういう状況でなければ、前後の時間に三軒茶屋界隈を散策して、 若林に住んでいた頃によく行った店に寄ってみたりするところですが、 この日は劇場直行直帰したのでした。 というか、飲み物口にしながら顎マスクで大声でおしゃべりしてるグループとかもいて、 渋谷乗り換えなどはちょっと怖いものがありました。うむ。

[3924] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Aug 1 22:41:33 2021

5月末の公開直後に観たのですが、スクリーンの大きな映画館ではなかったので、 ROH cinema や NT live を観るようなスクリーンの大きな映画館でみたいと思いつつも、 混雑していると予想される週末の映画館に腰が引けていたのですが、 お盆の墓参で有休を取った平日7月15日の墓参を終えた後の午後、もう一度、この映画を観てきました。

David Byrne's American Utopia
A Spike Lee joint.
2020 / color / vista / 5.1ch / 107min.
Participant, River Road Entertainment and Warner Music Entertainment present
A 40 Acres And A Mule Filmworks, Todomundo Production and RadicalMedia Production.
starring: David Byrne (vocals, guitar, percussion), Jacqueline Acevedo (percussion), Gustavo Di Dalva (percussion), Daniel Freedman (percussion), Chris Giarmo (dance, vocals, vocal captain), Tim Keiper (percussion), Tendayi Kuumba (dance, vocals), Karl Mansfield (keyboard, band leader), Mauro Refosco (percussion, drum section leader), Stéphane San Juan (percussion), Angie Swan (guitar), Bobby Wooten III (bass).
Produced by David Byrne, P.G.A. Spike Lee, P.G.A. Directed by Spike Lee.
Choreography and Music Staging: Annie-B Parson. Production Consultant: Alex Timbers. Edited by Adam Gough. Director Of Photography: Ellen Kuras.
上映: TOHOシネマズ日本橋, 2021-07-15 11:45-13:30.

David Byrne (ex-Talking Heads) のアルバム American Utopia (Todomundo / Nonesuch 565710-2, 2018) に合わせてのツアーの好評を承け、 2019年に Hudson Theatre Broadway で上演された同タイトルのショーとなったものを、映画化したものです。 映画化したのは Do the Right Thing (1989) などの劇映画で知られる Spike Lee ですが、その作家性は比較的抑えたもの。 “Hell You Talmbout” (Janelle Monáe の曲のカヴァー) の場面で 歌い上げられている犠牲となったアフリカ系アメリカ人に関するキャプションと遺影を映し出すのと、 エンディングなど舞台裏というか舞台外の様子も使われている程度。 天井カメラとかのアングルはあれど、舞台の面白さを損なわない比較的素直なカメラワークと編集で、 Royal Opera House in cinema, Met Opera live in HD や National Theatre Live などと 同じ感覚で楽しめました。

American Utopia からの曲が中心とはいえ、 Talking Heads 時代はもちろん1980年代末からの David Byrne のソロ、 X-Press や St. Vincent とのコラボレーションで発表した曲も含みます。 選曲もとてもよく練られていて、名曲を集めたというより、MCも含めてこのショーが行われた Tramp 政権下という2019年のアメリカの政治状況に対するメッセージ、コメンタリのよう。 ポスター等ではタイトルの “Utopia” が上下逆さまにして書かれていることからも明確なように、 理想郷では無い現状を出発点として、少しずつでも改善のアクションを求めるかのように感じられます。 特に、脳の模型を手に脳神経のコネクションやその変化を通して社会を暗示を語るように歌う “Here” から、 Ray Momo (Luaka Bop, 1989) の中では目立たないエンディングソング “I Know Sometimes a Man Is Wrong”、 それに続けて Talking Heads '77 (Sire, 1977) からの “Don't Worry About the Goverment” で、 現状の政府を批判したり皮肉るというより、誰でも間違えるのだからとと優しく諭すような導入から引き込まれます。 途中、選挙の投票率の低さを可視化して観客席を選挙登録を促すMCを交えたり。 ラスト近く、P-Funk の掛け声からタイトルを採った “Burning Down The House” (Sire, 1983) から、 不当に殺されたアフリカ系アメリカ人の名を挙げて追悼するかのような “Hell You Talmbout” (Janelle Monáe の曲のカヴァー) への繋ぎなど、 2020年の George Floyd の死を契機に新型コロナウイルス・パンデミック下で盛り上がった Black Lives Matter を先取りした感すら。 そして、ラストの “Road To Nowhere” (Little Creatures, Sire, 1985) も、 理想郷は無いかもしれないけど、理想に向かってあてどの無い旅をと呼びかけるようでした。

もちろん、ワイヤレスを駆使して舞台上に据え置かれた楽器、機材の類や引き回されたケーブル類がなく、 その制約が無くなったことで可能となった、全てのミュージシャンが楽器を抱えなががら、踊り演奏するパフォーマンスも面白いもの。 激しく踊るようなものではないものの、マーチングバンド風のフォーメーションダンスやポストモダンダンスを思わせる不自然な動きなど、 演奏し歌いながらここまで振付るのは大変だったろうと。 Philip Glass (music), Robert Wilson (direction), Lucinda Childs (choreography): Einstein On The Beach (Théâtre du Châtelet, 2012-13; Opus Arte, OA1178D, 2016, 2DVD) を観たばかりだったせいか、 統一されたグレーのスーツ姿に青白い光を基調としたミニマリスティックな演出、 様式化された不自然な動きの多用といい、Robert Wilson と共通するものを感じてしまいました。 三方にスダレ状に紐スクリーンを下げてどこからでも出入りできるようにしただけの舞台の中で パフォーマンスを繰り広げるところに、 Maguy Marin (choreo.): Les applaudissements ne se mangent pas [鑑賞メモ] を連想させられました。

選曲、歌詞、MCの良さに加えて、振付、演出の良さもあって、 プロットレスの、しかし明確なテーマはある抽象ロック・ミュージカルのようなものを観ているよう。 今世紀に入ってからは熱心とまではいい難いですが、 1980年代以来 Talking Heads 〜 David Byrne を同時代的に聴いてきましたし、 自分が10〜20代の頃に愛聴した Talking Heads 時代の名曲も多く、 個人的な思い入れもあってか、観ていて目頭が熱くなってしまうことも度々でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

twitter とかを見ていても多くの人が言及している映画なので、自分が書くまでもないと思っていました。 しかし、改めて観てやはり良いと実感しましたし、 Robert Wilson との関係とかに言及している人はほとんどいないし、 今年の Top Ten 入りが有力なので、書き残しておこうかしらん、と。

[3923] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sat Jul 31 15:23:07 2021

COVID-19パンデミックから1年半、δ株への置き換わりで首都圏では最悪となるであろう第5波が立ち上りはじめ、 そんな中でも東京オリンピックは開幕。 4連休2日目の23日は世間的にはオリンピック開会式だったのでしょうが、晩に与野本町へ。 この公演を観てきました。

彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
2021/07/23, 19:00-20:45.
『夏の名残のバラ』
演出振付: 金森 穣.
音楽: F. V. Flotow: Martha - “Last Rose of Summer”
衣装: 堂本 教子; 映像: 金森 譲, 遠藤 龍.
出演: 井関 佐和子, 山田 勇気.
初演: 2019.
演出振付: 金森 穣.
音楽: Maurice Ravel Boléro
編集: 遠藤 龍.
振付・出演: 井関 佐和子, 池ヶ谷 奏, Geoffroy Poplawski, 井本 星那, 林田 海里, Charlie Leung, Kai Tomioka, Stephen Quildan, Tyrone Robinson, 鳥羽 絢美, 西澤 真耶, 三好 彩音.
収録場所: S.H.S (Sweet Home Store) TOYANO
公開: 2020年10月9日
『Fratres III』
音楽: Arvo Pärt: Fratres for violin, strings and percussion.
衣装: 堂本 教子.
出演: 金森 穣, Geoffroy Poplawski, 井本 星那, 林田 海里, Charlie Leung, Kai Tomioka, 鳥羽 絢美, Stephen Quildan, 西澤 真耶, 三好 彩音, 中尾 洸太.
初演: 2020.
『春の祭典』
音楽: Igor Stravinsky: The Rite Of Spring 『春の祭典』
衣装: RATTA RATTARR. 椅子: 須長 檀.
出演: 井関 佐和子, 山田 勇気, Geoffroy Poplawski, 林田 海里, Charlie Leung, Kai Tomioka, 鳥羽 絢美, Stephen Quildan, 西澤 真耶, 三好 彩音, 中尾 洸太, 杉野 可林, 池田 穂乃香, カナール・ミラン・ハジメ [Milan Hajime Khanal], 坪田 光, 中村 友美, 青木 愛実, 兼述 育見, 小林 亜優, 土屋 景衣子, 渡部 梨乃.
初演: 2020.

今年2月に続いての彩の国さいたま芸術劇場での Noism。 小ホールから大ホールとなってのトリプルビル、映像を含めると4作品という本格的な公演です。

最初の『夏の名残のバラ』 [鑑賞メモ] は 最近の金森、井関の一連の受賞の対象になった作品というとこもあっての再演。 作品世界に浸るというより、最初に観たときに気づけなかったライブの映像からラストの事前に録画された映像の切り替えのタイミングを答え合わせするかのような見方になってしまいました。 (カメラを一旦下に置くあのタイミングか、と。) 続いて、裏で舞台転換しつつ、映像舞踊『BOLERO 2020』 [鑑賞メモ] の上映。 ウェブ会議システムの映像スタイルがベースにあるので、それを大写しするという違和感を覚えつつも、ユーモアを楽しみました。 前半ラストは、『Fratres I』 [鑑賞メモ]、 『Fratres II』 [鑑賞メモ] に続く三部作を締めくくる『Fratres III』。 三部形式らしく、ソロのIIからグループでのIの変奏に戻ります。 白米の滝に打たれつつの祈念を思わせるダンスでした。

休憩を挟んで、後半は有名な曲 Igor Stravinsky: The Rite Of Spring 『春の祭典』 に基づく作品です。 舞台前方、半透明の幕の前に並べられた21脚の椅子にバラバラとダンサー21人が着くとろこから始まります。 不健康そうな薄く白いメイクと白い服は匿名性を現しているのでしょうか。 音楽が始まるとオーケストラの各パートの音にそれぞれのダンサーが合わせるように 迫りくる脅威を恐れながら見るような動きをします。 元の音楽のポリフォニー、不協和音といった音の構造が、 バラバラなパニック群集の動きとして意味づけられて可視化されるような面白さ。 やがて、幕が上がり、ダンサーたちは椅子の間から逃げるように後方の舞台へと移動します。 そこからは、舞台上手下手後方の三方にかけられた幕の上下で脅威の襲来方向を暗示したり、 閉塞感、追い詰められた状況を示したり。 椅子を様々に並べて変えての足場や柵などへの見立てとか、ミニマリスティックな道具使いも効果的。 Noism のスタイリッシュさも生かされた演出です。

この『春の祭典』での脅威は、もしくは現在の実際の脅威である新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) をいやでも連想させられるわけですが、 視線をやる仕草などはオーソドックスなパニック映画でのゴジラのような怪獣を思わせる時もありましたし、 椅子の上でしゃがむ姿や、奥から一列に並んだダンサーたちに他のダンサーが飲まれるような動きからは、洪水や津波の脅威も連想させられるなど、多義的に描かれていました。 そして、そんな脅威に脅かされる人々を描くような動きから、 やがて仲間割れを起こし、やがて2人のスケープゴートが選ばれるという展開になります。 オリジナルの『春の祭典』も第2部は生贄の儀式ですが、 それを人々が大規模な災害など危機に見舞われた際のスケープゴート探しの物語として描きなおしたのか、と。 ここまで救いの無い展開ですが、ラスト、一旦、幕が降りた後、幕が上がると、全てのダンサーが客席に背を向け手を繋ぎ一列に並んで立っており、 静かに脅威と立ち向かうかのように、奥に進んで行くところで終わるところに、救いというか希望を感じることができました。

COVID-19パンデミックから1年半、δ株への置き換わりで首都圏では最悪となるであろう第5波が立ち上りはじめている一方、東京オリンピックが開幕するという、 スローで見えない大災害の中にいるような今の自分の気分にとても響く内容で、とても見応えのある作品でした。 ここまで現在の状況にがっつりと組み合ったような作品が出てくるとは予想していなかったので、 不意を突かれたようにも感じました。 使われている曲からしてこの長さは致し方ないのですが、この『春の祭典』が40分で終わってしまうのは物足りない、というか、 作品単独で1公演打てるような1時間半程度の作品として観たかったようにも思いました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

明る24日土曜も昼には初台へ。新国立劇場オペラパレスで 新国立劇場バレエ団 / 森山 開次 (振付) 『竜宮 りゅうぐう ~亀の姫と季の庭~』 を観てきました。 去年の初演時にも観ているのですが、 去年はプロジェクションマッピング目当てに2階にしたので、今回は演技、ダンスに着目してみようと1階ほぼ中央の席。 やはり見えかたがかなり違い、こう見えてたのかと新鮮。奥行き方向にも視覚的な仕掛けがいろいろあったんだな、と。 演技や表情がよく見えるので、物語へ没入できました。 既に一度頭に入った状態で観たせいか初めて観たときより展開がスムーズに感じられ、 初見時は少々強引に感じた玉手箱を開けてから翁を経て鶴亀大団円の祝祭感への繋ぎもむしろ見事に感じられる程。 その前の四季の場面より良く感じられました。楽しかった! それでは、1階席の方が良いかというと、そうとも言い切れなくて、 1階席からだとフロアの見事なプロジェクション・マッピングはよくわからないということもわかってしまいました。 少なくとも1階席、2階席の両方から2度見たい作品ですね。

しかし、その前の週の Carmen に続いて、2週連続の新国立劇場オペラパレス。 その前にも小劇場の『オバケッタ』と、7月は新国立劇場は3回目でした。 ここまで足繁く新国立劇場へ通うような人になるとは、我ながら思いませんでしたよ。 歳を取るということは、こういうことなのかな、と。

東京オリンピックについては、トップレベルの競技はやはり見応えあるし、 何より、長いデフレの中、国が金を使う口実ができて金巡りが良くなるのであれば、 と、COVID-19前は消極的賛成でした。 しかし、COVID-19対応の中でスキャンダルも見え始め、 首都圏最悪のCOVID-19第5波の襲来というとこでそれどころではないという気分になっていたところでの、 スキャンダル騒ぎが立て続いた東京オリンピック開会式。 いつもであれば演出・振付や出演するダンサー、ミュージシャンを目当てに開会式をチェックすることも多いのですが、 オンデマンドでチェックする気分も削がれてしまいました。 (というか、今回はNHKオンデマンドにオリンピック放送が来なくなった。) 23日のNoism 『春の祭典』と24日の新国立劇場バレエ団 『竜宮 りゅうぐう ~亀の姫と季の庭~』が 自分にとっての開会式の代わりだったということでいいや、という気分です。

[3922] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jul 19 0:38:00 2021

梅雨が明けて真夏日の暑さとなった週末ですが、そんな中、土曜の午後に今月2回目の初台へ。 このオペラを観てきました。

新国立劇場オペラパレス
2021/07/17, 14:00-17:20.
Original by Presper Mérimée. Libretto by Henri Meilhac / Ludovic Halévy. Music by Georges Bizet.
Conductor: 大野 和士. Production: Àlex Ollé. Set Design: Alfons Flores. Costume Design: Luc Castells. Lighting Design: Marco Filibeck. Stage Manager: 高橋 尚史.
Cast: Stéphanie d'Oustrac (Carmen), 村上 敏明 (Don José), Alexandre Duhamel (Escamillo), 砂川 涼子 (Micaëla), 妻屋 秀和 (Zuniga), 吉川 健一 (Moralès), 町 英和 (Le Dancaïre), 糸賀 修平 (Le Remendado), 森谷 真理 (Frasquita), 金子 美香 (Mercédès).
合唱指揮: 冨平 恭平. 合唱: 新国立劇場合唱団, びわ湖ホール声楽アンサンブル. 児童合唱指導: 米屋 恵子, 伊藤 邦恵. 児童合唱: TOKYO FM 少年合唱団.
芸術監督: 大野 和士.
制作: 新国立劇場; 提携: びわ湖ホール.
2021年7月3日新国立劇場プレミエ

新国立劇場の新演出による Carmen です。 Royal Opera House cinema の Norma [鑑賞メモ] や 新国立劇場のストリーミング「巣ごもりシアター」で観た Turandot [鑑賞メモ] で興味を引かれていた La Fura dels Baus の Àlex Ollé 演出のオペラを 生で観る良い機会と、足を運びました。

舞台を現代に置き換えた演出で、Carmen は男性社会のショービジネスの中で破滅する女性スターとして描かれていました。 第一幕は Carmen のライヴ会場で Don José は会場を警備する刑事。 ファンサービスの花を受け取った Don José がライヴ中の暴力沙汰で勾留した Carmen を逃してしまいます。 第二幕はショービジネスに関わるヤクザの根城となっている酒場かライヴハウスという設定で、 Escamillo もそこに出入りするセレブな闘牛士といった所でしょうか。 ここで Don José は嫉妬から喧嘩沙汰を起こしてしまい、ヤクザ達に合流することになります。 第三幕前半はツアー中の Carmen の楽屋。Escamillo が Carmen に面会に来て Don José と喧嘩になり、その後 Don José を連れ戻しに Micaéla が現れます。 ラストはセレブの集う闘牛場。そこに、ストーカーのように Don José が現れ、Carmen を殺害して終わります。

2011年に27歳でアルコール中毒で亡くなったイングランドの女性歌手 Amy Winehouse をモデルにしたというのこの現代版 Carmen を、 Stéphanie d'Oustrac が立ち振る舞いも移り気だが自立した女性として熱演。ハマっていてとても良かった のですが、それに比べて、男2人の造形がイマイチ甘かったような。 原作に引きづられているようにも思いましたが、Don José も特に Micaëla の前など良い人過ぎで、 もっと我儘なDV拘束男感を出して欲しかった。 Escamillo も第2幕の登場場面も人気あるセレブという設定はわかるものの 妙にモッサり感じられる上、最後の場面が闘牛士姿。 マッチョなロックスターかスポーツセレブのような明確な設定にして Carmen が惹かれるという説得力を出して欲しかったです。 なんてツッコみたくなる程、楽しんで観ました。 ロックフェスのステージを意識した鉄骨の櫓が組まれたステージもビジュアル的に強く、 手持ちカメラの投影なども効果的でした。

そんなストーリーの翻案と音楽や歌詞の間のギャップに違和感が全くなかった訳ではありません。 第1幕の “Habanera” は Carmen のステージでの歌として演じられるのですが、 妙にスローなテンポで違和がむしろ強調されていたようにも感じられました。 第2幕の “Couplets du toréador” もライブハウスの客を盛り上げるような歌として 演じて欲しかったように思うのですが、これも妙に地味に。 と、やはり、よく知っている歌ほど違和が強く感じられたのは確かなのですが、 多くの場合はBGM的に受け流せるよう。 現代翻案版の Medea を観たばかりだったので [鑑賞メモ]、 ストレート・プレイに比べて音楽という面を持つオペラの強みを実感しました。

首都圏はCOVID-19感染急拡大中という事で、いつどこで感染してもおかしくない状況。 15日木曜には公演関係者1名に発熱の症状が出て、 急遽15日、16日の高校生のためのオペラ鑑賞教室2021 Carmen 公演が公演中止。 17日の公演もPCR検査結果次第。結果は陰性で開催と16日晩にはアナウンスされたようですが、自分がその事を知ったのは当日の朝でした。 開催となって良かった、とつくづく思った公演でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

COVID-19ワクチンの接種も、 主たる職場は職域接種の目処が立たず、市から6月24日に接種券が届くも60歳未満の接種予約が始まらない状態。 そんな中、非常勤先に声をかけていただき、18日日曜の午後、 職域接種でCOVID-19ワクチンモデルナ筋注の1回目を受けました。 母も無事ファイザー2回の接種を終えました。 δ株の登場でワクチンで完全に予防できるというわけにはいかなくはなっているものの、 やっとここまで来れたか、と。

[3921] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Wed Jul 14 22:31:57 2021

オランダのダンスカンパニー NDT (Nederlands Dans Theater) [鑑賞メモ] が、 自身の有料ストリーミングNDTVにおいて6月17-30日に looking back on season 2020-2021 と題して、 2020-2021シーズンのプログラムの映像アーカイブの中から4編をストリーミングしていました。 全てを観る余裕は無かったのですが、中からこのトリプルビルを観ました。

Zuiderstrandtheater, Den Haag
17 (Soon), 19 (Silent Tides, The Other You) September 2020.
Livestream directed by Ennya Larmit.
NDTV URL: https://www.ndt.nl/en/ndtv-looking-back-on-season-2020-2021-endlessly-free/ (obsolete)
Silent Tides
Choreography by Medhi Walerski
Music: New Composition by Adrien Cronet. Johann Sebastian Bach: Violin concerto in A minor, BWV 1041: Andante. Performed by Scottish Chamber Orchestra.
Light: Pierre Pontvianne; Décor and costumes: Mehdi Walerski.
Cast: Chloé Albaret & Scott Fowler
World Première: 17 September 2020, Zuiderstrandtheater, Den Haag.
The Other You
Choreography by Crystal Pite.
Music: Original sound design by Owen Belton, Ludwig van Beethoven: Piano Sonata No. 14 in C Sharp Minor. Vladimir Ashkenazy: Op. 27 No. 2.
Light: Rob Sondergaard; Costumes: Linda Chow; Décor: Jay Gower Taylor; Staged by Jiří Pokorný, Eric Beauchesne.
Cast: Jon Bond & Cesar Faria Fernandes.
World Première: 4 November 2010, Kidd Pivot Frankfurt RM as a selection of The You Show, Künstlerhaus Mousonturn, Frankfurt.
NDT Première: 24 November 2011, Lucent Danstheater, Den Haag
Soon
Choreography by Mehdi Walerski.
Music: Benjamin Clementine: Pound Sterling; Adios; Then I Heard a Bachelor's Cry; Gone.
Light: Lisette van der Linden in cooperation with Mehdi Walerski, Pierre Pontvianne; Décor and costumes: Mehdi Walerski; Assistant to the choreographer: Katherine Cowie; Dramaturg: Pierre Pontvianne.
Cast: Madoka Kariya, Paxton Ricketts, Tess Voelker, Isla Clarke.
World Première: 22 September 2017 Zuiderstrandtheater, Den Haag.

約20分の3作品からなるトリプルビルです。中でも目当ては、2番目に上演された カナダ出身の振付家 Crystal Pite [鑑賞メモ] の The Other You。 前半は、暗い照明、街の喧騒のような微かな音が流れる中、 男2人の男性ダンサーが操り操られるような動き。 直接接しての動きだけでなく、距離を置いて片方の動きにもう一人が連動するように操られる動きなど、 マイムに見られる技法が使われていた事もあり、ダークで表現主義的なマイム劇のよう。 しかし、叫び声と共に照明が明るくなり、椅子様の物に布を被せたものが数点並ぶ中、 Beethoven の piano sonata が流れ、武芸的な型にならない取組合いも思わせるキレの良い動きへ一転。 その意味までは捉えかねたのですが、転換が強烈な印象を残した作品でした。

残る2作は、フランス出身、元 Ballet de l'Opéra national de Paris のダンサーの 振付家 Mehdi Walerski によるもの。 この振付家の作品を観るのは初めてです。 Silent Tides は男女2人、Soon は男女2人ずつ4人という編成で、仄かにロマンチックに感じられました。 Silent Tides でも電子音での距離を感じる動きから Bach に音楽を切り替えてからの親密さも感じる動きへの転換も印象的でした。 しかし、Benjamin Clementine の歌で踊る Soon での、 中盤で4人が近接した距離でそれぞれ違う動きをさりげなくも高精度で組み合わせていくような 場面が特に気に入りました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

あまり筆が進まずに中断したら、ますます書けなくなって、半月以上経ってしまいました。 うーむ、いけません。

[3920] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jul 11 19:01:52 2021

COVID-19も第5波に突入し、6月20日で解除されていた東京都の緊急事態宣言も 週明け7月12日から発令が決まった状況。 感染リスクを考えると繁華街への外出が躊躇われる感もあるのですが、昼過ぎに日本橋室町へ。 この上映を観てきました。

Medea
Olivier Theatre (National Theatre), London, 4 September 2014.
by Euripides, in a new version by Ben Power
Director: Carrie Cracknell
Designer: Tom Scutt; Lighting Designer: Lucy Carter; Choreographer: Lucy Guerin; Music: Will Gregory, Alison Goldfrapp; Sound Designer: Gregory Clarke; Fight Director: Owain Gwynn.
Cast: Michaela Coel (Nurse), Helen McCrory (Medea), Dominic Rowan (Aegeus, King of Athens), Danny Sapani (Jason), Clemmie Sveaas (Kreusa), Martin Turner (Kreon, King of Corinth), Jason's attendant (Toby Wharton), Joel McDermott (Medea's son), Jude Pearce (Medea's son), et al.
Musicians: Ian Watson (accordion, keyboard), Joby Burgess (percussion), Sarah Crisp (violin, viola), Llinos Richards (cello), Katie Wilkinson (viola).
First Performance: 15 July 2014, Olivier Theatre (National Theatre).
上映: TOHOシネマズ日本橋, 2021-07-10 12:55-14:45.

ギリシャ悲劇の Medea の2014年の National Theatre のプロダクションです。 タイトル役が Harry Potter シリーズの Narcissa Malfoy 役で知られる Helen McCrory で、 4月に亡くなった彼女の追悼企画という意味合いもあって、National Theatre Live での日本上映となりました。 といっても、彼女の出演作を今までよく観ていたわけではなく、演出家などのバックグラウンドもよく知らなかったのですが、 現代的な演出でギリシャ悲劇の上演を観ておく良い機会と、観て観ました。 ちなみに Medea 翻案の上演は、 以前に一度観たことはあります

舞台を現代に置き換え、恋人に裏切られ孤立し追い詰められて我が子を殺すに至る女性 Medea (メディア) の物語として翻案していました。 そんな我が子の殺害に至る動機がある程度理解可能な解釈を体現する Helen McCrory の熱演は、 リアルに感じられる程、見応えありました。 しかし、それだけに、王族というか上流階級という設定 —現在に王族もないだろうし、むしろこの問題が深刻化しやすいのは社会的に孤立しやすい貧困層だろう、とか— など違和を感じる部分も際立ってしまい、なんともモヤモヤっとした後味も残ってしまいました。 現代に置き換えたバレエやオペラの現代演出をそれなりに楽しんできているわけですが、 登場人物や時代背景の設定は舞台装置や衣装を通して程度にしか描けないだけに、 演出プランとしては明確なものがあったとしても細部はぼやけてしまい、 逆に細部のリアリティがあまり気にならなくなってしまうのかもしれません。

演出は、半ばリアリズム的、半ば象徴的な演出を交えるよう。 舞台装置は2階建てで、1階舞台前方は Medea の家、 1階後方は野外というか林の中、 2階の窓越しに透けて見えるのが Corinth (コリントス) の王宮相当かつミュージシャンの演奏スペース となっていて、Medea の家で起きることは比較的リアリズムに寄せて演じられる一方、 Corinth の王宮での出来事はセリフを用いず象徴性の高い動きで表現されます。 コロスは Corinth の女性たちという役割でもありましたが、 セリフというより引きつったようなダンスによって状況を表現する事も少なからず。 Goldfrapp による Tales Of Us (Mute, 2013) に近い folktronica / dream pop にも近い要素もある生演奏による音楽も、合っていたでしょうか。 ダンスなどのフィジカルで象徴的な表現が多めで抽象的な方が自分の好みかなとは思いましたが、 そんな表現の組み合わせも楽しみました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3919] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jul 4 17:58:34 2021

この週末土曜は、昼に初台へ。この公演を観てきました。

新国立劇場 小劇場 – THE PIT
2021/07/04, 14:00-15:15.
作・演出・振付: 山田 うん
音楽: ヲノサトル; 美術: ザ・キャビンカンパニー; 照明: 櫛田 晃代; 衣裳: 池田 木綿子
出演: ⻄⼭ 友貴 (ゆめた), 川合 ロン (花壁 オバあちゃん), 吉﨑 裕哉 (電気男 ライト), 望月 寛⽃ (壁男 ウォーリー), 飯森 沙百合 (トイレの花子さん), ⻑⾕川 暢 (透明人間), ⼭⼝ 将太朗 (ざしきわらし), 仁⽥ 晶凱 (メデューサ), 黒⽥ 勇 (カッパ), ⼭崎 眞結 (ホコリの妖精 クモマニヨン シャラリ), ⼭根 海⾳ (ホコリの妖精 クモマニヨン フワリ), ⽥中 朝⼦ (ホコリの妖精 クモマニヨン ヒラリ)
初演: 2021/07/02 新国立劇場 小劇場 – THE PIT
主催・制作: 新国立劇場

新国立劇場ダンスのラインナップには「大人も子供も一緒に楽しめるダンス作品」の公演があるのですが、その2020/2021シーズンの公演です。 今回の Co.山田うん は先日、国立劇場の『二つの小宇宙 —めぐりあう今—』で 声明の会・千年の聲 と共演した『Bridge』を観た程度の予備知識 [鑑賞メモ] しかありませんが、 2019年に 森山 開次 『NINJA』を楽しんだので [鑑賞メモ]、 この「大人も子供も一緒に楽しめるダンス作品」シリーズはフォローしておきたい、と思い、足を運びました。

休憩を挟んで前半30分、後半30分。 明確なストーリーがあるというほどでは無いのですが、 ダンサーにはそれそれ演じる役 (主人公のゆめたとオバケたち) が割り当てられ、 主人公の一晩の夢 – オバケたちとの遭遇、そして、亡くなった祖母との天国での再会が描かれます。 演じる役が書かれたプログラムを開演前に見ていて、 役を演じて物語るようなナラティブな作品を予想したのですが、 全員で踊る場面も多くて、ダンスを楽しむことができました。 ちなみに、オバケッタはオバケ+オペレッタということのようですが、 その絵本のようにポップでカラフルな衣裳のダンサーだちが踊る様子も、 ダンサー自身が歌を吹き込んだというミッドセンチュリー風の音楽も、 オペレッタというよりミュージカルに近く感じられました。

作品のメインの場面ともいえる後半の前半の天国の場面のちょっと感傷的な展開も悪くないのですが、 ダンスを楽しんだ場面というと前半、 「壁男と電気男とクモマニヨン」の男女3組のダンスとか、 ボリウッドとゾンビダンスが混じったような「メデューサ 」を楽しみました。 小劇場の狭い舞台の上に13人のダンサーを一度に乗せた上で、 3班に分けて音楽でいう三重カノンのように動きを組み合わせたり、と、 空間的に密度の濃いダンスも印象に残りました。 登場するオバケたちは原色多めのカラフルさでキャラクターも立っていたのですが、 何故かその中では地味でコールド相当ともいえるホコリの妖精/クモマニヨンが最も気に入ってしまいました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

6月にコンドルズを観たときにもちょっと思ったのですが、 今の日々の生活に欠けているのは、NHK Eテレの朝の子ども向け番組のテイストだな、と。 1990〜2000年代は『ドレミノテレビ』とか『からだであそぼ』とか『プチプチアニメ』とか特に好きで、 2011年にアナログ停波するまではよく観ていたのに、 テレビを観なくなってすっかり遠ざかってしまったな、と (遠い目)。

公演の後は、劇場前のバス停から渋谷へ。代々木公園近くの馴染みのレコード店に久々に顔を出したり。 しかし、渋谷もすっかりCOVID-19前の人出に戻ってましたね。 というわけで、レコード店以外に寄りたい雰囲気ではなく、駅前は人混みを避けつつ早足で通過して、帰途についたのでした。うーむ。

[3918] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jun 28 22:27:52 2021

先の週末土曜は、昼に乃木坂へ。去年開催予定だったものの一年延期になったこの展覧会を観てきました。

Fashion in Japan 1945-2020
国立新美術館 企画展示室1E
2021/06/09-2021/09/06 (火休), 10:00-18:00 (金土 -20:00)

20世紀以降の日本のファッションを辿る大規模な展覧会です。 20世紀をメインとしたファッション史の大規模な展覧会というと京都服飾文化研究財団コレクションに基づき東京都現代美術館で開催された 『身体の夢 ファッションORみえないコルセット』 (1999) [鑑賞メモ] や 『ラグジュアリー:ファッションの欲望』 (2009) を思い出します。 個別のデザイナや19世紀ヨーロッパのものであれは最近も観ていますが、 丁寧に20世紀以降をたどる大規模なファッション展は久しく無かったかもしれません。 それも日本に焦点を当てており、そういう点で見応えのある展覧会でした。

タイトルは1945年からとなっていますが、 プロローグとして、戦間期のモダン文化での洋装の受容、銘仙によるモダンな和装など戦間期のファッションから始まります。 戦後の動きと繋ぐものとして、1930年にヨーロッパで Bauhaus 人脈の下で学び、 戦後 田中千代学園 (現 渋谷ファッション&アート専門学校) を設立することになる 田中 千代 のデザインした 『パジャマ・ドレス』 (1930) という Art Deco 期らしいストンと直線的なドレスが目に止まりました。 戦時下の服装を挟み、1945-1950年代は「戦後、洋裁ブームの到来」ということで、 「洋裁学校」や洋裁雑誌 (『装苑』など) に焦点が当てられていました。 田中千代学園、文化服装学院、ドレスメーカー女学院、桑沢学園など、 現在でも影響力がある日本のファッションの教育機関が出そろう時期だったのだな、と。

1960年代になると洋裁から既製服の時代へと変わるわけですが、 既製服のブランドやそのデザイナーの層が厚くなり海外への進出も果たしていくのは1970年代以降。 松田 光弘、菊地 武夫、金子 功、コシノジュンコ、花井 幸子、山本 寛斎 のトップデザイナー6 (TD6) の結成が1974年。 さらに 川久保 玲、山本 耀司 らの加入により、東京ファッションデザイナー協議会が組織されるのが1985年。 ここまでは、柏木 博 『ファッションの20世紀 —— 都市・社会・性』 (NHKブックス, 1998) [読書メモ] や 成美 弘至 『20世紀ファッションの文化史 — 時代を作った10人』 (河出書房新社, 2007) [読書メモ] のような本を通して世界的な動向も含めて基本的な所は知る機会もありましたし、 1980年代のDC (デザイナーズ&キャラクター) ブランド・ブームに至る流れは、 比較的単線的に発展し、層が厚くなり多様化するという流れも見えて、捉えやすく感じました。

しかし、 1990年代以降も10年ごとに時代を区切られその時代を特徴付けるタイトルも付けられているものの、 実際に展示されている服を見ていても多様性が1980年代で飽和した感もあって目に見えるような展開が無くなり、 時代が止まったかのように感じられました。 バブルが崩壊してDC (デザイナーズ&キャラクター) ブランド・ブームが終焉した後は、 デフレ下で消費が縮小し、ファストファッションが興隆します。 (海外ではラグジュアリー・ブランドのコングロマリット化も進展しますが、日本国内への影響はあまり無かったでしょうか。) 確かに、ファストファッションへの言及はあり、 「ユニクロはファッションか?」という特集のあった『装苑』2001年1月号と合わせて ユニクロの服が展示されていたのも印象に残りました。 しかし、展示の中心はデザイナの作家性が強く出た服で、展示からはファストファッションへの変化が見取り辛くなっていたかもしれません。

1950年代の映画の中の衣装、1970年前後のオリンピックや万博のユニフォーム、1980年代のアイドルの衣装、 2000年代以降のファストファッションや「ゴス・ロリ」「kawaii」「ノームコア」など、 作家性より時代性を意識したキーワードの言及と関連展示もありましたが、 全体としては、やはりデザイナ中心史的な歴史記述だったでしょうか。 1980年代中頃から2000年前後まで『装苑』や『ハイファッション』といった雑誌を時々手に取り、 2000年代以降、2020-21秋冬をもっての休止まで Issey Miyake Men 一択になってしまいましたが、 当時は comme des garçons や Y's 〜 Yohji Yamamoto の homme 物とかも着ていたくらいなので、 このようなデザイナ中心史的な歴史記述自体には一定の意義はあると思っています。 (少なくとも、こういう主流の歴史記述があってこそ、そこからこぼれ落ちるものを想定しやすくなる。) しかし、デフレ下でファッション消費が縮小する1990年代半ば以降に対しては、 また違ったファッション史の記述方法が必要なのかもしれない、なんてことを漠と感じた展覧会でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

会期末に近づくほど混雑するのは目にみえているし、 COVID-19感染拡大による緊急事態による臨時休館の可能性もあるし、 さっさと観に行ってしまおうと。 しかし、まだ始まったばかりなのに、結構な混雑。rhizomatiks 展より混んでるという印象。 それも、会場内がかなり騒ついていて、正直、ちょっとビビりました。 COVID-19が無ければ2時間くらいかけてゆっくり観たいところでしたが、 駆け足で1時間程で済ませてしまいました。うむ。

[3917] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jun 27 17:57:25 2021

先週末の話ですが、日曜は午後に横浜紅葉坂へ。去年から楽しみにしていたこの公演を観てきました。

神奈川県立青少年センター スタジオHIKARI
2021/06/20, 14:00-15:15.
振付・構成・演出: 中村 蓉.
主催: 神奈川県, ヨウ+.

コンテンポラリーダンスの文脈で活動するダンサー・振付家 中村 蓉 のソロダンス公演です。 去年公演を予定していたものののCOVID-19で中止になり、 その代わりにストリーミングした『ジゼル特別30分版』 [鑑賞メモ] がストリーミングされました。 それから1年余り経って劇場版の公演が開催されたので、是非見比べようと足を運びました。

Giselle の苦悩や Albrecht に対する怒りといった感情の発露のようなダンスや、 Myrtha 姐のようなコミカルな場面だけでは無く、 ストリーミングで舞台とした民家のような空間では作りづらい スタジオならではの静かな展開 (冒頭の雨中の場面をはじめ、静かに枠から去るかのような場面など) も交えて、展開の振幅が大きくなったでしょうか。 Giselle と Virginia Woolf でスタイリッシュに作ることもできそうな題材を、 Adele の歌を使ったり『笑う犬の冒険』の「ミル姉さん」のパロディなど俗ぽいポップさも交えて 仕上げるところも、面白く感じました。

楽しんで観たのですが、観終わった後の印象が、 ソロダンスの公演を観たというより、身体表現の要素の多い一人芝居を観たかのよう。 動きや空間の使い方があまり様式化されず、展開も比較的リニアで反復や変奏の要素が少なかったからでしょうか。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

土曜午後に山下町に行った後、ハシゴで土曜夜に観ようかとも考えたのですが、 間が2時間以上空いてしまうということで、出直すことにしました。 平常時であればカフェとかでのんびり時間調整するところですが、 COVID-19が流行している状況ではそれはリスクが大きすぎます。 横浜美術館がやっていれば使えるのですが、残念ながらリニューアル中で休館。 この界隈であれば片道40〜50分ですし、 リスクの大きな場所で非効率的な時間調整をするくらいなら、さくっと出直した方がマシです。 しかし、COVID-19流行で、ハシゴがしづらくなってしまったなあ、と、つくづく。

[3916] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Thu Jun 24 21:45:29 2021

先週末の土曜は午後に横浜山下町へ。この舞台を観てきました。

Israel Galván
La Consgración de la Primavera
『春の祭典』
KAAT神奈川芸術劇場 ホール
2021/06/19, 14:00-15:30.
演出・振付・ダンス: Israel Gálvan. ピアノ: 片山 柊, 増田 達斗.
演奏曲目: Igor Stravinsky: La Sacre du Printemps; 武満 徹 『Piano Distance』; 増田 達斗 『Ballade』
音楽コーディネーター: 笠松 泰洋.
Lighting: Ruben Camacho; Sound: Manuel Prieto.
Production: Israel Galván Company / 唐津 絵理 (愛知県芸術劇場 / Dance Base Yokohama).

ジャンルを越えた共演も多い flamenco ダンサー Israel Galván [鑑賞メモ] は、 スイス出身で現在はNYを拠点に free jazz/improv のピアノ奏者 Sylvie Courvoisier [鑑賞メモ] と コラボレーションを続けています。 Galván をタブラオで観てその音楽的な面白さに気付いて以来、 ぜひこのコラボレーションを観てみたいと思っていたところ、ついにこのコラボレーションが最新作で来日と発表。 期待していたのですが、COVID-19のために共演の Sylvie Couvoisier と Cory Smythe の来日が取り止め、 Israel Galván の来日となり、ミュージシャンは日本人ミュージシャンの代役が立てられることになりました。

舞台は 広い舞台のあちこちに置かれた様々な高さのタブラ (共鳴板) とグランドピアノ2台、 あとピアノの中身だけが1台。ライティングのみのかなりミニマリスティックな演出です。 Igor Stravinsky: Le Sacre du Printemps に基づく作品とはいえ、 Courvoisier はもちろん、Cory Smythe も半ば classical の文脈でも活動するものの Anthony Braxton のアンサンブルや Tyshawn Sorey のトリオなど jazz/improv の文脈で活動するミュージシャンのコラボレーション。 しかし、代役として選ばれた日本のミュージシャンは、演奏スタイルの異なる classical なミュージシャン。 というわけで、メインとなるピアノ2重奏に編曲された Le Sacre du Printemps の演奏も 2人とも譜めくりを付けての淡々と端正な演奏。 そんな演奏に付かず離れず、Galván も、の上でパソ (ステップ) を刻むパーカッシヴな音だけでなく、 シャッと足を擦るような音や、敷かれた石炭をジャリジャリと踏みしだく音などのテクスチャルな音も多用して、音を重ねていきます。 シューズの鋲を使う硬い音だけでなく、素足で踏み鳴らすような音、特に、舞台下の奈落の空間に響かせるような音を使ったのも印象的でした。 そんな Galván の出す音と 複雑なリズムを持つ Le Sacre du Printemps との相性は良さを楽しみました。

しかし、Cast-a-Net (2018) [Vimeo の映像] で聴かれるような即興を含めたインタラクションとなるとかなり大人しめで、 やはり、Sylvie Courvoisier & Cory Smythe で観たかったものです。 コンテンポラリーな jazz/improv のミュージシャンの代役にクラッシックのミュージシャンを使うのは、 コンテンポラリーなダンス作品でのダンサーの代役にクラッシックなバレエダンサーを使うようなものかもしれません。 とにかく Galván が来日できて公演ができた、というだけでも、ありがたいのですが。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

家に帰って、Cast-a-Net の動画を観返しつつ、 今の自分の趣味生活に欠けているのは free jazz/improv ライブ成分だと、つくづく。

[3915] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jun 20 23:50:47 2021

今週末、金曜晩はこのオペラを家でストリーミングで観ました。

Bayerische Staatsoper
Oper in drei Bindern von Erich Wolfgang Korngold.
Libretto von Paul Schott, frei nach Georges Rodenbachs Roman Bruges-la-Morte.
Bayerische Staatsoper, München
1, 6 Dezemver 2019.
Inszenierung [Stage Director]: Simon Stone.
Mitarbeit Regie [Assistant to Stage Director]: Maria-Magdalena Kwaschik. Bühne [Set Design]: Ralph Myers. Kostüme [Costumes]: Mel Page. Licht [Light Design]: Roland Edrich. Dramaturgie [Dramaturgy]: Lukas Leipfinger.
Jonas Kaufmann (Paul), Marlis Petersen (Marietta / Die Erscheinung Mariens), Andrzej Filończyk (Frank / Fritz), Jennifer Johnston (Brigitta), Mirjam Mesak (Juliette), Corinna Scheurle (Lucienne), Manuel Günther (Gaston / Victorin), Dean Power (Graf Albert).
Bayerisches Staatsorchester, Musikalische Leitung [Conductor]: Kirill Petrenko.
Chor und Kinderchor der Bayerischen Staatsoper, Chordirektor [Chorus Master]: Stellario Fagone.
Statisterie [Extras] der Bayerischen Staatsoper.
Premiere am 18. November 2019.
Bildregie [Video Director]: Myriam Hoyer.
NHK ondemand URL: https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2021114450SA000/

戦間期1920年に初演された Korngold のオペラ作品 Die tote Stadt 『死の都』の、 2019年 Bayerische Staatsoper [バイエルン国立歌劇場] による上演です。 2014年に新国立劇場で観た Kasper Holten のプロダクション [鑑賞メモ] が良かったこともあり、NHKのプレミアム・シアターで放送されたのを機に、オンデマンドで観ました。

Simon Stone の演出した舞台を観るのは初めてですが、 舞台を現代に置き換えて、かなりリアリズムに寄せた舞台美術と演技でした。 Paul 演じる Jonas Kaufmann も Marietta 演じる Marlis Petersen も、歌の巧さはもちろん、よくここまで演じながら歌えるなと、つくづく。

回り舞台に作られた生活感すら感じるアパートメントの部屋はもちろん、Paul も妻を失った冴えない初老の男、 第1幕後半で出てくる Marie も抗癌剤で頭髪が抜けた末期癌患者と、かなりリアル。 そんなよくありそうな現実を見せるような演出と、Korngold のロマンチックかつゴージャスな音のギャップに時々、苦笑してしまいました。 Paul が Marietta に落ちる Marietta's Lied の場面も家庭用カラオケでしたし。 第1幕後半からポルターガイスト的なや不穏なライティングもあって、 David Lynch 程では無いものの、少々サイコホラー風味も加わります。 しかし、夢落ちで深刻なエンディングが避けられていることもあり、メロドラマの味わいでしょうか。

Kasper Holten のプロダクションくらい象徴的に描く演出の方が好みですが、 リアリズムに寄せた Simon Stone の演出も面白く観ることができました。 近年よく上演されるようになったようですが、 Die tote Stadt の台本の現代的な面を実感しました。 最盛期の19世紀のオペラやバレエの作品はジャンルとしては最盛期とはいえ現代演出でもストーリーへの違和感は否めないのですが、 Die tote Stadt のような戦間期の作品となると、 現代演出もしっくりハマるように思います。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3914] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jun 13 20:55:41 2021

今週末は土曜の昼に、清澄白河というか木場公園へ。この展覧会を観てきました。

rhizomatiks_multiplex
東京都現代美術館 企画展示室 企画展示室 地下2F
2021/3/20-2021/06/22 (月休;4/25-5/31臨休;6月無休), 10:00-18:00.

Perfume のライブでの映像演出で知られる 真鍋 大度 と 石橋 索 が主宰する Rhizomatiks の個展です。 NTT ICC で展示を観たり、 野村 萬斎 とのコラボレーションを観たりしたことはありましたが、これだけまとめて展示を観るのは初めてです。 レディメイドではなく手作り感も残る資料展示も興味深くありましたが、やはり、 2011年の作品をアップデートした Particles 2021 の大仕掛けなレールの足場はもちろん、 振付家 MIKIKO / ダンスカンパニー ELEVENPLAY の映像プロジェクション、ロボティクス、AR (Augumented Reality) を組み合わせた抽象ロボットダンスショー Rhizomatiks × ELEVENPLAY “multiplex” など、 インスタレーションが見応えありました。 しかし、Rhizomatiks に限らず NTT ICCに展示されているようなメディアアートにもよく感じることですが、 必ずしも簡単で効果的な実現方法を目指さない技術の無駄使い感が面白いものの 一方でやっていることの自己目的化による空虚さも否ねません。 特に、“multiplex” の、使われる electronica な音楽やARで重ねられるダンサーのイメージがステロタイプな所に、 その点への制作時の興味の無さを垣間見るようでした。

Mark Manders: The Absence of Mark Manders
東京都現代美術館 企画展示室 3F.
2021/3/20-2021/06/22 (月休;4/25-5/31臨休;6月無休), 10:00-18:00.

Mark Manders はオランダ出身でベルギーを拠点に活動する現代美術作家。 MOTのコレクション展示でも観る機会もありましたが、個展を観るのは初めてです。 社会的なコンセプトを持つインスタレーションの多い現代美術においては珍しく、 心象風景や連想による漠然とした物語を描くような比較的オーソドックスにシュールレアリズムの流れを汲む立体作品です。 比較的小さな作品もやドローイングも展示されていましたが、 やはり惹かれたのは、ブロンズながら乾燥によるひび割れも作り込んだクレイ風のテクスチャで仕上げた大きめの立体作品。 そんなスケール感や質感もあって、自分が人形大になって不条理なクレイ・アニメーションの世界に迷い込んだようでした。

企画展示室 1Fでは 『Tokyo Contemporary Art Award 2019-2021 受賞記念展 風間サチコ、下道基行』。 第1回とのことですが、2作家の作風が大きく異なっていて、この賞はどういう表現を評価しようとしているのかしらん、と。

コレクション展示室では 『MOTコレクション コレクションを巻き戻す』。 戦前というか19世紀末の明治期から最新のもので1991年まで。あえて、ほぼ制作年順に淡々と展示されていました。 東京都現代美術館らしくないという意外さはありましたが、面白いと思う程ではありませんでした。うむ。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

しかし、 東京都現代美術館のような規模の美術館を企画展示室、コレクション展示室の両方をフルに観ると、トータルで2〜3時間歩きます。 COVID-19で外出が減って萎えているので、足腰にキツいです。 うーむ、いけません。

[3913] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jun 6 21:46:12 2021

COVID-19以降 Metropolitan Opera は Nightly Met Opera Stream と題した 無料のストリーミングを実施しているのですが、 ちょうど観やすい日本時間の28日金曜晩にかかる時間帯で以前から観たいと思っていた作品ががかったので、観てみました。

from Metropolitan Opera House, 2013-10-26, 13:00–15:00.
Composer: Dmitri Shostakovich [Дмитрий Шостакович]
Libretto by the composer, with Yevgeny Zamyatin [Евгений Замятин], Gregory Ionin [Георгий Ионин], and Alexander Preis [Александр Прейс], based on the story by Nikolai Gogol [Николай Гоголь].
Production: William Kentridge.
Stage Directors: William Kentridge, Luc De Wit. Set Designers: William Kentridge, Sabine Theunissen. Costume Designer: Greta Goiris. Video Compositor and Editor: Catherine Mayburgh. Lighting Designer: Urs Schönebaum.
Cast: Paulo Szot (Kovalyov [Ковалёв]), Andrey Popov (Police Inspector), Alexander Lewis (The Nose [Нос]), et al.
Conductor: Pavel Smelkov.
World Premiere: 18 January 1930, Малый оперный театр, Ленинград.
Co-production of the Metropolitan Opera, the Festival d'Aix-en-Provence, and the Opéra National de Lyon.
This production's premiere: February 26, 2010, Metropolitan Opera House.
Nightly Met Opera Stream. Available May 27 at 7:30PM ET until May 28 at 6:30PM ET.

Dmitri Shostakovich [Дмитрий Шостакович] が初期の Avant-Garde な作風だった 1920年代〜30年代初頭の時代に手がけたオペラ作品を、 ドローイングを用いたストップモーションアニメーションを得意とする 南アフリカ出身の現代美術作家 William Kentridge のプロダクションで上演したものです。 このプロダクションは2010年東京国立近代美術館での展覧会 [鑑賞メモ] で関連資料や作品を見て知ってはいたのですが、 2013-14シーズンに上映された際は Met Opera live in HD をチェックしていなかったので見逃してしまったのでした。

ゴーゴリ (Николай Гоголь) の原作は19世期前半ですが、 このプロダクションの時代設定は、服装からしても、 オペラ初演の時代、ロシア革命後の内戦終結後、スターリン体制前の1930年前後のソビエトロシアでしょうか。 同時代の Russian-Avant Garde の構成主義的なグラフィックデザインも参照し、 当時の写真や記録映画もコラージュの元ネタに多用していました。 そんな舞台上の雰囲気も、同時代の Berg などの作風の影響も感じる音楽にあっていました。

物語は、下級役人 Kovalyov [Ковалёв] の鼻が、床屋へ行った日の翌朝に行方不明となり、 別人格を持った鼻が街中を混乱させ、最後に元通りになるまでのドタバタを風刺的に描いたもの。 下級役人の小市民的な生活という設定の中で鼻が別人格を持って動き回るという不条理なマジックリアリズム的な物語と、 ストップモーションアニメーションやそれと連続する視覚的技法の相性は抜群で、期待違わぬ面白さでした。 Jan Švankmajer のアニメーションなども連想させられます。 別人格を持った鼻をどう描くかというのも一つのポイントかと思うのですが、 単に新聞紙の張り子のような被り物を使うだけでなく、影による描写を多用していたことも、鼻の多義性を感じさせました。 黙役やコーラスを用いた街中の人の表現も面白く、特に、クルクルとシェネでしながら主人公とのすれ違う女性が印象に残りました。

Kentridge のプロダクションによるオペラ作品は、 Met Live in HD で Alban Berg の Lulu [鑑賞メモ] と Wozzeck [鑑賞メモ]、 新国立劇場で Mozart の Die Zauberflöte [鑑賞メモ] と観てきましたが、 やはり、この The Nose [Нос] が最も良かったでしょうか。 新国立劇場も今度は The Nose [Нос] を是非持ってきて欲しいものです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

先週末は、29日土曜の午後にみなとみらいへ。 28日に封切られた映画 『アメリカン・ユートピア』 Spike Lee (dir.): David Byrne's American Utopia (2020) を観てきました。 同タイトルのブロードウェイ・ショーを映画化したものです。 エンディングなど舞台外の様子も使われていますが、 天井カメラとかのアングルはあれど、舞台の面白さを損なわない比較的素直なカメラワークと編集で、 Royal Opera House in cinema, Met Opera live in HD や National Theatre Live などと 同じ感覚で楽しめました。 というか、Talking Heads 時代の名曲も多く、個人的な思い入れもあってか、目頭が熱くなってしまうことも度々でした。 選曲、歌詞の良さもあって、プロットレスの(しかし明確なテーマはある)抽象ロック・ミュージカルのようなものを観ているよう。 先日、Einstein On The Beach をDVDで観たばかりだったせいか、 ミニマリスティックで青白い光を基調とした演出、様式化された不自然な動きの多用といい、Robert Wilson と共通するものを感じてしまいました。 特に、曲を演奏している場面ではなく、David Byrne が語る場面など。 スクリーンが小さい映画館で、ちと不完全燃焼気味だったので、是非もう一度観に行きたいものです。 しかし、すっかり Talking Heads / David Byrne がリバイバル・マイブームになってしまいました。

今週末は、土曜の午後に、与野本町の彩の国さいたま芸術劇場へ コンドルズ 『Free as a Bird』 を観てきました。 こういうノリに接するのも十年ぶりでしょうか。 ライブではありますが、久しぶりに朝のEテレのようなスケッチを観るような気分を楽しみました。 しかし、The Beatles とはあまり関係なかったような……。 COVID-19以前は海外カンパニー来日公演を追いかけるのが精一杯の感もあったわけですが、 それがほとんど無い今こそ国内のカンパニーを観る良い機会。 彩の国さいたま芸術劇場の次期芸術監督就任 も決まりましたし。

[3912] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon May 31 22:51:18 2021

ドイツ・ベルリンのバレエ団 Staatsballett Berlin [ベルリン国立バレエ団] は、 Digital Performance と題して火曜と金曜にストリーミングをしています。 そのストリーミングでこの5月後半に観たコンテンポラリーな演目について鑑賞メモ。

Staatsballett Berlin / Anouk van Dijk
Distant Matter
Choreography: Anouk van Dijk.
Music: Jethro Woodward. Set and light design: Paul Jackson, Anouk van Dijk, Claus den Hartog. Costumes: Jessica Helbach. Assistant to the Choreographer: Tara Samaya | Niharika Senapati. Rehearsal Director: Stephan Laks.
Mit: Jenna Fakhoury, Sarah Hees-Hochster, Ross Martinson, Johnny McMillan, Daniel Norgren-Jensen, Tara Samaya, Lucio Vidal.
World premiere.
Die Aufzeichnung vom 1. Juni 2019. 40 minuten ohne Pause.
DI 18.05.2021, 18:00 Uhr (CET), 24H Stream.

振付の Anouk van Dijk はオランダ出身で、現在はオーストラリアのカンパニー Chunky Move の芸術監督です。 冒頭は、フルフェイスのヘルメットを被っていたり、SMを思わせるような服だったりと、 少々キャンプ的な悪趣味の要素も感じられるし、日常的な緩い動きに近いものもの。 しかし、展開するにつれそう言った雑味が取れて、衣装も動きも純度が上がっていくよう。 舞台美術は後方上方から下げて、床に敷いた白い布。 ラスト近くまで特に動かすことはなかったのですが、ラストはダンサーがそれに包まるようにして終わります。

Staatsballett Berlin / Sharon Eyal
Half Life
Choreographie: Sharon Eyal.
Co-Choreographie: Gai Behar. Musik: Ori Lichtik. Kostüme und Maske: Rebecca Hytting. Licht: Alon Cohen. Choreographische Assistenz: Rebecca Hytting.
Mit: Filipa Cavaco, Mari Kawanishi, Olaf Kollmannsperger, Konstantin Lorenz, Sacha Males, Ross Martinson, Johnny McMillan, Danielle Muir, Daniel Norgren-Jensen, Eoin Robinson, Tabatha Rumeur, Federico Spallitta.
Developed for the Royal Swedish Ballet Stockholm, 2017.
Die Aufzeichnung vom 1. Juni 2019. 40 Minuten ohne Pause.
FR 21.05.2021, 18:00 Uhr (CET), 24H Stream.

振付の Sharon Eyal はイスラエルの Batsheva Dance Campany 出身で イスラエルはテル・アヴィヴのクラブイベントのプロデューサというバックグラウンドを持つ Gai Behar、 ダンスカンパニー L-E-V を主宰しています。 Half Life は、minimal techno 約40分。 細かく足踏みしながら、表現主義的な不安を表現するような動きの断片の反復から、終り近くはバレエ的な動きの断片も交えつつ。 ほぼ舞台正面を向きながらで、いつもであればそれがつまらなく感じるのですが、この作品では音楽や動きとも合っていました。 音楽がとても好みだったこともあってか、最後まで飽きずに楽しめました。

Staatsballett Berlin / Sharon Eyal
Strong
Choreographie: Sharon Eyal
Co-Choreographie: Gai Behar Musik: Ori Lichtik Bühne: Gai Behar, Sharon Eyal Kostüme: Rebecca Hytting Licht: Alon Cohen Choreographische Assistenz: Rebecca Hytting
Mit: Filipa Cavaco, Weronika Frodyma, Sarah Hees-Hochster, Cameron Hunter, Mari Kawanishi, Vivian Assal Koohnavard, Sacha Males, Ross Martinson, Johnny McMillan, Danielle Muir, Dana Pajarillaga, Eoin Robinson, Eloise Sacilotto, Jenni Schäferhoff, Federico Spallitta, Harumi Terayama, Clotilde Tran
New creation.
Die Aufzeichnung vom 8. Dezember 2019. 45 Minuten ohne Pause.
FR 28.05.2021, 18:00 Uhr (CET), 24H Stream.

同じく Sharon Eyal の作品ですが、こちらは Half Life の後に、Berlin で作った新作です。 音楽も Ori Lichtik による minimal 色濃い techno で、 ダンスも Half Life とかなり似た作風です。 しかし、Half Life では不安を表現するような動きを多く使っていたのに対し、 Strong では、例えば二の腕に力瘤を作るような、力を示すような動きを多く使っているところでしょうか。 衣装も合って、トーンが暗く感じられました。

Sharon Eyal の作品を観ていると、 Staatsballett Berlin がベルリンのクラブ Berghain とコラボレーションした Shut Up And Dance! UpdatedMasse を思い出します。 映像が残っているのであれば、配信して欲しいとつくづく思います。

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