TFJ's Sidewalk Cafe >

談話室 / Conversation Room

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[4139] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Thu Nov 23 22:04:42 2023

先の週末土曜は午後に竹橋へ。会期末が近くなってしまったこの展覧会を観てきました。

Celebrating the 120th Anniversary of the Artist's Birth: The Making of Munakata Shiro
東京国立近代美術館 企画展ギャラリー
2023/10/06-2023/12/03 (月休;10/9,11/27開;10/10休), 10:00-17:00 (金土 -20:00).

柳 宗悦に見出され民芸運動の文脈で知られ、戦間期から戦後1970年代にかけて活動した版画家 棟方 志功 の回顧展です。 仏教 (特に密教) や古事記などの神話・説話に題材を撮り文字も交えた大胆な姿勢と構図を黒線・面を粗く削り出した作風、 という印象が強い作家でしたが、特に初期のものには意外な作風のものもあり、むしろそれらが印象に残りました。

作風を確立した時期の作品『二菩薩釈迦十大弟子』 (1939) などマスターピース感もありましたが、 その題材を仏教からキリスト教に置き換えたような『幾利壽當頌耶蘇十二使徒屏風』 (1953) という作品もあります。 また、東京に出てきたばかりの最初期には、当時の西洋的なモダン文化の影響の強い、繊細な線でカラフルで可愛らしい『星座の花嫁』 (1928-30) にも目が止まりました。

戦後1950年代にもなると作風も確立して、いかにも「世界のムナカタ」な作品となるのですが (自分の持っていた棟方 志功の作風イメージもこれらです)、 そんな中では、渡米時の作品『ホイットマン詩集抜粋の柵』 (1956) は、 確立した作風での図と一体化した日本語の文字の扱いと比べ、慣れない文字・テーマに対しては自由に扱えない様を見るようでした。

『2023-2 所蔵作品展 MOMATコレクション』中、戦間期の版画を展示する第4室もに棟方の作品も1点あり、『棟方志功展』を意識したような内容でした。 棟方の作品には、ここで展示されていた藤牧 義夫 『朝(アドバルーン)』 (1931) や Max Pechstein: »Das Vater Unser« (1921) などのモダンな同時代の版画と題材などの違いはあれど表現的な共通点もあり、 Marc Chagall にも似たモダニズムとの距離の取り方を感じました。

Women and Abstraction
東京国立近代美術館 2Fギャラリー4
2023/09/20-2023/12/03 (月休;10/9,11/27開;10/10休), 10:00-17:00 (金土 -20:00).

コレクションによる小企画は、戦後、抽象表現主義などの前衛の抽象美術において 過小評価されがちな女性の寄与に焦点を当てた展覧会です。 1947年に設立された女流画家協会に1/3近くのスペースが充てられていましたが、 それに限らず、21世紀に入ってからの作品も取り上げています。 自分の好みという点では、福島 秀子 [関連する鑑賞メモ] や 杉浦 邦恵 [関連する鑑賞メモ] の作品が見られたのが収穫でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

その後は、公園通りクラシックスで 永田 砂知子, 片山 柊 『ピアノと波紋音 — 初めての対峙 2つの異なる音世界」。 齋藤 鉄平《波紋音》は展示されているものを鳴らしてみたことはありましたが [鑑賞メモ]、 ライブなどでの演奏では聴いたことがなく、いかにも相性悪そうなピアノとの共演に興味引かれて足を運んでみました。 内部奏法を多用するピアノ演奏などは予想していましたが、予想以上に淡々とした現代音楽的な展開。 直前に寄ったエル・スール・レコーズでシェリー酒をいただいて、いい感じに酔ってしまっていて、失敗しました。 もう少し集中できる良い体調で聴きたい音楽でした。こんなこともあるでしょうか。

[4138] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Nov 19 17:04:44 2023

先週末日曜は出張前乗りで夕方に富山へ。 ホテルチェックインの後、夕食前の時間を使ってこの展覧会を観てきました。

MIYANAGA Aiko: Wrapping a Verse
富山市ガラス美術館
2023/11/03-2024/01/28 (第1・3水休;1/3開;12/29-1/1,1/10休), 9:30-18:00 (金土-20:00).

ナフタリンで作った造形物をガラスケースなどに封入した作品で知られる 宮永 愛子 の個展です。 グループ展では最近も観る機会がありますが [鑑賞メモ]、 美術館レベルでの個展は2012の国立新美術館 [鑑賞メモ] ぶりでしょうか。 3階、2階の展示室を使っての展示でしたが、前半の3階がナフタリン彫刻の作品、後半の4階がこの美術館らしくガラスを使った作品という構成でした。

ナフタリン彫刻の作品は手紙、時計や旅行鞄などのお馴染みのモチーフを使った作品がメインでしたが、 工芸家だったという祖父の東山窯の石膏型で型取った作品に、今までのクールさとは違う、大黒様や猫の造形の可愛らしさとナフタリンの儚さを感じました。

ガラスを使った作品は、ナフタリン彫刻をガラスに置き換えたような作品が半ばで、 東山窯の石膏型で型取った可愛らしい作品もありましたが、 石や枯葉・枯枝などに溶けた状態でかけて発泡したまま固まったガラスのオブジェの 偶然も含まれる不定形な造形に面白さを感じました。

3階と2階を使う階段室に青磁釉のたてる貫入音に耳を澄ます作品が展示されていました。 2011年に三宿CAPSULEで体験して以来でしたが [鑑賞メモ]、 耳が老化したか、その時のように微かな澄んだ音が聴き取れませんでした。

Glass Art Garden - Chihuly Experience
富山市ガラス美術館
常設展

規模の大きなインスタレーションも手がける1960年代から活動するアメリカのガラス作家の 収蔵作品を展示する常設のフロアが6階にあるので、そちらも観てきました。 泡のようだったり、海生生物のようだったりする、シンプルながら有機的な造形と、 鮮やかな彩色でストライプやドットを入れた色彩感は、 その作品の大きさもあって、ちょっとした没入感もあるインスタレーションでした。 彼が活動を始めた1960〜70年代的なサイケデリックなセンスも感じました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

先週末土曜は午後に早稲田大学戸山キャンパスへ。 久々に桑野塾に参加してきました。 『大竹博吉・せい夫妻とナウカ社――すべてはここから始まった』というテーマで、 宮本 立江「『大竹博吉、大竹せい 著作・翻訳目録』を刊行して」沼辺 信一「ロシア絵本をわが国にもたらした大竹夫妻 その情熱と使命感」の2つの報告を聴いてきました。

2つの報告は密に関係していてどちらも興味深いものでしたが、 2004年に東京都庭園美術展で開催された展覧会『幻のロシア絵本1920-30年代』 [鑑賞メモ] の企画に至る経緯からその後日談、今から見たあの展覧会の文脈的な位置付けまでを交えながら、 1930年代前半のロシア絵本の日本での受容を辿る、というか、それをどう解き明かしてきたかという沼辺さんの話は、 ドラマチックなドキュメンタリーのような面白さ。 日本国内のコレクションに基づく展覧会だったということすっかり忘れていたので、その事の重要さに今更ながら気付かされました。 この報告の内容が書籍などにまとまることを期待したいものです。 この展覧会から20年近く経ってしまっていますし、 新たな資料発掘や研究成果も加えて国内のロシア絵本コレクションの展覧会を改めて企画しても良いのではないでしょうか。

報告を聴いていて、物によるとは思いますが、1930年代の絵本も書籍というより古文書に近いものものになっているということに気付かされました。 その内容だけでなく、誰の蔵書であったか、どのような書き込みがあるのか、第何刷のものであるか、などといったことも重要になります。 まるで文献学での原典考証のよう。そこでするのは失われた原典の復元ではなく、記録に残らなかったソビエト絵本の日本での受容のルーツですが。 そして、そのような資料の性質が、主に書籍を内容の観点から収集・保存する (そのため重複本は収蔵しない) 図書館とは相性悪くなってしまっています。 古文書的な性格が強い近代以降の資料を適切に収集・保存する枠組みが求めらているのかもしれません。

しかし、桑野塾からもだいぶ遠ざかってしまってましたが、こうした場に出席すると、刺激を受けます。 特に、対面だと、報告者、聴講者の皆の熱量を感じられるのが良いです。 以前のように趣味興味を深掘りできなくなってしまっているのは確かですし、 皆の熱量に気後れして言い訳じみたことを言ってしまいがちでしたが、 やはり多忙を言い訳にしないほうがいいな、と、反省しました。

[4137] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Thu Nov 16 0:03:15 2023

先々週末三連休中日土曜は午後に日本橋室町へ。この舞台の上映を観てきました。

David Tennant, Elliot Levey, Sharon Small
Harold Pinter Theatre, London, 20 April 2023.
by C.P. Taylor.
Directed by Dominic Cooke.
Set and costume designer: Vicki Mortimer; Lighting designer: Zoe Spurr; Sound Designer: Tom Gibbons; Hair, Wigs & Make Up: Campbell Young Associates; Musical Arranger and Composer: Will Stuart; Movement Director: Imogen Knight
Cast: David Tennant (Halder), Elliot Levey (Maurice, etc), Sharon Small (Helen, etc), Jim Creighton (Hoss); Rebecca Bainbridge, Izaak Cainer, Jamie Cameron, Edie Newman, Lizzie Schenk, George Todica (Ensemble).
Produced by Fictionhouse and Playful Productions.
First Performance: 5 October 2022, Harold Pinter Theatre, London.
上映: TOHOシネマズ日本橋, 2023/11/04, 14:45-17:05.

1950年代から活動したユダヤ系スコットランド人の戯曲作家 C.P. Taylor (Cecil Philip Taylor) が亡くなる直前の1981年に書いた戯曲の舞台化です 戯曲、演出家、出演している俳優にも疎かったのですが、National Theatre Live での上映ということで観て観ました。 Royal Shakespeare Company の委嘱で書かれた1981年に書かれた戯曲の上演で、 ユダヤ人の親友もいたリベラルな文学の大学教授 Halder が、認知症の母を題材に安楽死の主題にして書いた小説を評価されたことを契機にナチスに入党し、最後には絶滅収容所での職に至る道のりを描いた戯曲です。 正常性バイアスや承認欲求などに基づく個々は悪意の無いささやかな判断の積み重ねが、いつしか、絶滅収容所での仕事という取り返しのつかない所に達してしまう、という薄寒い怖さのある作品でした。

コンクリートの打ちっぱなしの地下室を思わせる密室的な舞台で、ほぼ3人で演じられる会話劇ですが、 主人公 Holder 以外の2人は複数役で、女性の俳優が妻 Helen と母をメインに、男性の俳優がユダヤ人の親友 Maurice をメインにしつつ、さまざまな役を担当します。 効果音や音楽の助けも使いつつ、声色と演技で役と場面を細かくシームレスに切り替えていきます。 演技も自然というほどでもなく、時には観客 (カメラ) 目線で語ったりもします。 異化というほどではないですか、そんな切替の妙を感じる演出でした。 最後の場面で、地下室のような壁が取り払われて、それまで3人で演じ分けられていた登場人物と違って、 坊主頭に囚人服の楽団が登場するというのも、取り返しのつかないリアルな結末になってしまったというインパクトを感じさせました。 正直にいえばもう少し抽象的で演技も様式的な演出の方が好みかなとは思いましたが、そんな演出を興味深く観ることができました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

コロナ禍前であれば静岡に大道芸を観に行っているはずだったのですが、もう暫くは行くことは無いかな、という状態。 東京芸術祭などの秋の公演もイマイチで、 例年であればこの時期の週末にぎっしり詰まっていた演劇・ダンスの鑑賞予定がスッカスカです。 ということで、その穴を埋めるべく、少々守備範囲外かなと思いつつも足を運んだのでした。 これはこれで悪くはないと思うのですが、後になって他に面白そうなダンス公演などがあったことに気づいて、 公演情報のアンテナの張り方が甘くなっていると反省することしきりです。

4日晩は地元の行きつけの店の7周年パーティ。 常連の皆さん (といっても初めて会う方ばかりでしたが) と談笑しながらの美味しい料理とワインを楽しみました。 仕事繋がり趣味繋がりとはまた違う、普段あまり縁のないタイプの方と話をするのも、また楽しいものです。

[4136] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Nov 7 22:16:33 2023

先週末三連休初日の文化の日は昼に大宮へ。この現代アートのイベントを観てきました。

メイン会場: 旧市民会館おおみや; さいたま市内の文化施設など.
2023/10/07-2023/12/10; メイン会場: 月休,月祝開,翌火休, 10:00-18:00 (金土-20:00).

2016年に始まったさいたま市を開催地とした国際芸術祭です。 ほぼトリエンナーレ形式で (初回は「さいたまトリエンナーレ」という名称だった) 2016年、2020年に続いて今回が3回目です。 今回はディレクターが現代アートチーム目 [mé] という興味もあって[関連する鑑賞メモ]、主にメイン会場へ足を運んでみました。

メイン会場は大宮駅から南東へ徒歩十分余、氷川神社参道沿いにある 旧市民会館おおみや (旧称 大宮市民会館)、2022年3月末で閉館した1970年オープンの公共ホールです。 使われなくなった建物を会場にすることは芸術祭でよくあることですが、 ホールやロビー、部屋や通路などをそのままに生かして作品を展示するのではなく、 芸術祭後に解体される予定ということを生かして建物に大きく手を入れています。 その一方で、事務室や楽屋、設備保守担当者が常駐する部屋などは、今でも使用されているかのように什器備品の類がほぼ残されています。 また、コーヒー紙コップ、時計などが観客からは手の届かない意味深な所に置かれていたり、 工事作業中を思わせる養生シートなどが敷かれた部材置場などもあり、 現役で使用中の雰囲気ではないものの、解体に向けて準備中のような雰囲気の内部です。

受付こそ1階入口ロビーを利用していましたが、展示会場への入り口は、 ホール前から直接ホール2階のガラス窓を突き破り (実際、突き破っているかのような窓ガラスの処理がされている)、 2階ロビーに繋がる鉄骨製の通路が仮設されます。 会館の中には通路、ホールや部屋の空間を、本来の壁とは別の観点で区画し分断する様にガラス張りのパーティションが設置され、 その一方で、窓が移動ルートにされたりします。

会館として通常に使用していた際に観客が足を踏み込むことのない舞台裏の楽屋、事務室やそこへ繋がる通路、 電気室や設備保守担当者が常駐する様な部屋に繋がる通路などが、むしろ積極的に会場として活用されていました。 受付で案内図は手渡されますが、会場内の順路の案内は意図的に不親切になっています。 通常の公共ホールの様なイメージで移動しようとすると、パーティションで行く手を阻まれたり、意外な通路に誘導されるので、まるで迷宮です。

会場には観客監視も兼ねた案内スタッフ以外に、 什器備品の類を整理整頓するか清掃するかしているかのようなスタッフ、 屋内外の環境測定の類をしているかのようなスタッフ、 その他、不自然に佇んていたり、観客の視線を遮るようにカーテンを閉めたり、と怪しげな挙動をする人が会場のあちこちに。 さすがに仮設のパーティションや通路まで動かすことは無いと思いますが、 そのようなスタッフおぼしき人々により会場のディテールは日々刻々と変化しているようでした。 会場の案内スタッフが全員男性だったことが印象に残ったのですが、これも意図的なものでしょうか。

会館の建物はパーティションで不規則気味ながら大きく左右に分割され、 ホール上の三階の部屋のパーティションの左右もそれぞれ一階から別のルートで上がらないと到達できない作りです。 ガラス張りのパーティション越しに向こうが見えることもあり、まるでお互いが鑑賞の対象となったようでした。

ライティングで悪夢中のような幻想的な空間に仕上げていた大ホールも、パーティションで大ホールを折半するように区画しつつ、舞台上まで観客通路を作ることで、客席の関係を逆転させるような構成になっていました。 小ホールでも、客席を見下ろせるようで客席から見られるような小部屋 (おそらく元オペレーター室) がルートとなっていました。 観る者と観られる者の関係の反転可能性というのも、空間構成の一つのテーマでしょうか。

何かの作業中のよう日々刻々と変化する少々謎めいたディテールとその作りこみ、いかにも不条理に区画されて迷宮のように幻惑される空間は、 明示的なクレジットは無いもののメイン会場全体がいかにも目 [mé] らしいインスタレーション作品と言えるもので、 使われなくなった建築にトリッキーに手を加えたシュールで癖のある空間と、スタッフらしき人たちの怪しげな挙動を楽しみました。 しかし、会場自体の印象が強過ぎて、展示されている他の作品の印象が霞みます。

会場規模の割に展示されている作品の数も少ないのですが、展示作品の中では、 床から約 1 m 程の所に水面のような反射面があるかのようにオブジェを三次元に配した 今村 源 《うらにムカウ》 (2023) が印象に残りました。 しかし、展示空間がノイジー過ぎて、むしろホワイトキューブの方がその面白さが際立ったのでは無いか、とも感じてしまいました。

この後は北浦和へ移動して、連携プロジェクトのこの展覧会を観てきました。

In Between
埼玉県立近代美術館
2023/10/14-2024/01/28 (月休,1/8開,12/25-1/3休), 10:00-17:30.
早瀬 瀧江, Jonas Mekas, 林 芳文, 潘 逸舟.

関連プロジェクトと銘打ってますが、特にメイン会場の展示とテーマ等の関係を見出すことはできず、 同じ時期に開催中の企画展という程度でしょうか。 むしろ新収蔵作家展 + αという内容でした。 李 禹煥 [鑑賞メモ] や 関根 伸夫 など もの派 と関わり深い美術評論家でもあった 林 芳史 の作品が 関係する作家の作品と合わせてまとめて観られたのが収穫でした。 新収蔵作家ではなくゲストの 潘 逸舟 の作品が、 最近よく目にするユーモアを感じる作風ではなく [関連する鑑賞メモ]、 むしろ、まるでモノクロの抽象画のようなビデオで、この作家のまた違う一面を知りました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

せっかく大宮へ行くのだから氷川神社の参道沿いの雰囲気良さげな店でランチでもと考えていました。 しかし、良さげな店はどこも客が溢れていて、ランチ難民になってしまいました。 季節外れの夏日になる程の暑さでしたが、天気の良いお出かけ日和ということもあったと思いますが、 三連休を少々甘く見ていました。 飲食店が客で溢れるほどなので、展覧会場も混在しているのではないかと危惧したのですが、 そちらは空いていて、少々肩透かしでした。

[4135] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Nov 5 23:13:15 2023

先週末は土曜日曜と昼過ぎに京橋へ。 国立映画アーカイブと東京国際映画祭 (TIFF) の共催による生誕120年、没後60年記念の上映企画 『TIFF/NFAJ クラシックス 小津安二郎監督週間』 で、戦間戦中期の小津 安二郎の映画を観てきました。

『東京の合唱 (コーラス)』
1931 / 松竹蒲田 / 89 min. / 24 fps / 35 mm / 無声・白黒
監督: 小津 安二郎.
岡田 時彦 (岡田 伸二), 八雲 惠美子 (妻 すが子), 菅原 秀雄 (その長男), 髙峯 秀子 (その長女), 齋藤 達雄 (大村先生), 飯田 蝶子 (先生の妻), 阪本 武 (老社員 山田), 谷 麗光 (社長), etc.
英語字幕・伴奏付上映, 伴奏: 柳下 恵美.
『浮草物語』
1934 / 松竹蒲田 / 86 min. / 35 mm / 無声・白黒
監督: 小津 安二郎.
坂本 武 (喜八), 飯田 蝶子 (かあやん), 三井 秀男 (信吉), 八雲 理惠子 (おたか), 坪内 美子 (おとき), 突貫 小僧 (富坊), etc
英語字幕・伴奏付上映, 伴奏: 小林 弘人.

この2本を映画館でピアノ生伴奏付きで観るのは生誕110年企画で観て以来10年ぶり[鑑賞メモ]。 その時と大きく印象は変わらないのですが、 今回は、辛さの中のささやかな喜び、嬉しさの中の寂しさ、ありがたさのなかの満ちたりなさ、嫉妬による憎しみと好意、好意故に一緒にいたいが身を引いた方が良いという気持ち、 などの感情のアンビバレンスの表現を興味深く観ました。 セリフ付きの場合、セリフと演技の食い違いで表現されることが多いように思うのですが、 少し長めのシーンを使って感情が2つの間を揺れ動く様を表現したり、 対比としての他の人の表情などを揺れ動きの間にモンタージュして複雑な感情の表現します。 これらの映画に感じる切なさやるせなさは、感情の丁寧な描写を通してのものだと、改めて実感しました。

今年は国立映画アーカイブ恒例の無声映画企画 『サイレントシネマ・デイズ2023』へ行かれなかったので、 その代わりにピアノ伴奏付で無声映画を観る良い機会かとこの2本に足を運んだのでした。 小津の繊細な作りの映画とピアノの伴奏は相性はとても良く、しんみりと味わうことができました。

『戸田家の兄妹』
1941 / 松竹大船 / 105 min. / 35 mm / 白黒
監督: 小津 安二郎.
藤野 秀夫 (父 戸田進太郎), 葛城 文子 (母), 吉川 満子 (長女 千鶴), 斎藤 達雄 (長男 進一郎), 三宅 邦子 (妻 和子), 佐分利 信 (二男 昌二郎), 坪内 美子 (二女 綾子), 近衞 敏明 (夫 雨宮), 髙峰 三枝子 (三女 節子), 桑野 通子 (時子), etc.

没落して解体していく資産家一家を、厄介者扱いされる母と三女 節子の視点からホームドラマ的に描いた作品で[以前の鑑賞メモ]、 後の 小津 安二郎 (監督) 『東京物語』 (松竹大船, 1953) で変奏されることになる主題です。 この頃の松竹メロドラマでの 佐分利 信 の役というと、 例えば 吉村 公三郎 (監督) 『暖流』 (松竹大船, 1939) のように [鑑賞メモ] 貧しい出身ながら出世を目指すも上流階級に馴染めない男という役が多いのですが、 この作品では資産家の家の出ながら馴染めずに出身が問われない新天地 (満州) へ行こうとする男という、 似ているようで方向性が逆だという所に、そこはかとはない違和感を覚えました。

そういえば映画館では観ていない気がしたので足を運んだのですが、 今回の上映も今まで観たものと同様にかなり酷いノイズが乗ったもので、やはりこれしか残っていないのでしょうか。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4134] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Oct 29 21:58:53 2023

先週末は土曜昼に池袋西口へ。『東京芸術祭2023』のプログラムの1つのこの舞台を観てきました。

東京芸術劇場 プレイハウス
2023/10/21, 14:00-17:15.
Une création collective du Théâtre du Soleil, en harmonie avec Hélène Cixous, dirigée par Ariane Mnouchkine, musique de Jean-Jacques Lemêtre.
Cornélia et ses compatriotes: Hélène Cinque (Cornélia), Tomaz Nogueira (Gabriel, son ange-gardien), Shaghayegh Beheshti (Mme Spinoza, sa professeure), Juliana Carneiro da Cunha (Mme Miette, sa mère), Eve Doe Bruce (Zélita, l’aide-soignante); Les habitants de l'île et quelques intrus: Nirupama Nityanandan (Yamamura Mayumi, maire de Kanemujima), Judit Jancsó (Anjyu, son amie et bras droit), Omid Rawendah (Kaito, son secrétaire), Farid Gul Ahmad (Akira, le gardien), Vincent Mangado (Amano Buemon, l’architecte, Junichiro, le pêcheur, danseur amateur de Nô), Seietsu Onochi (Amano Kokichi, son père, comptable de la mairie), Dominique Jambert (La marchande de tsuke-age), Georges Bigot (Takano, le premier adjoint et opposant à la maire), Andréa Marchant (Katsuko, sa fille), Maurice Durozier (Watabe, le deuxième adjoint et opposant à la maire), Duccio Bellugi-Vannuccini (Maître Hirokawa, son avocat), Alice Milléquant (Tomoko, une fonctionnaire municipale), Arman Saribekyan (Masa San, libraire et metteur en scène amateur), Dominique Jambert (Melle Etsuko, passionnée de russe et de Nô), Agustin Letelier (Shinichiro, son frère, le pêcheur, chanteur amateur de Nô), Sebastien Brotter-Michel (Jean-Philippe Dupont-Smith, le Français); La grande régie: Aline Borsari (Sayaka, la grande régisseuse), et sa brigada de kurogos, aidée par tous le personnages; Radio Wasabi: Dominique Jambert (Izumi), Alice Milléquant (Hiromi); Le Grand Théâtre de la Paix, troupe proche-orientale; La troupe des marionnettistes; La Démocratie, notre Dédir, troupe de Hong Kong; La troupe municipale des Petites Lanternes Démocratiques; Le troupe Paradise Today; La Diaspora des Abricots, troupe afghane en exil; La troupe Notre Dame du Théâtre Socialiste Brésilien; et al.
Le spectacle a été créé le mercredi 3 novembre 2021 à la Cartoucherie.

フランス・パリ郊外の弾薬庫跡 Cartoucherie を拠点に1960年代から活動する Théâtre du Soleil [太陽劇団] の22年ぶりの来日公演です。 演劇の文脈でその活動の話は時々目にする機会はありましたが、2001年新国立劇場での初来日公演は見逃していて、今回初めて観ました。

日本の架空の離島 金夢島 (おそらく佐渡がモデル) を舞台に、そこでの国際演劇祭の準備を 演劇祭を推進する市長派とリゾート開発を目論む反市長派の対立などの騒動も交えて、 さらにこの話自体もパリで病に臥せている芸術監督 Cornélia の夢の中の出来事として描く、二重構造のメタ演劇というか、メタ演劇祭です。 演劇祭会場となる造船所跡の建物内部を示すような舞台美術が背景と両袖、天井にあり、 その中で演劇祭に出演する劇団のリハーサルが行われるだけでなく、 Corneria の臥せているベッドはその中をあちこち移動し、 時には市長室などの場面も演じられます。

前半はフラットな照明下での演技が多く、ストッキング様のマスクをしているなどの不自然な要素もあれど、 演劇祭の準備の様子や演劇祭や市長を巡る対立を会話劇的に描写するよう。 昨今のまちおこし観光化する芸術祭を風刺しているのかなと思いつつ観ていました。 劇中劇団も、国際演劇祭ということで、アラビア語とヘブライ語で上演するアラブ人=ユダヤ人混成劇団、 中国語 (広東語?) で演じる香港の民主主義劇団、 ダリー語とペルシア語で演じるアフガニスタン難民劇団、 ブラジル=ポルトガル語で演じるブラジルの社会主義劇団、 日本からは人形劇団と市職員による劇団と、言語もスタイルも様々という面白さはありました。 しかし、場面転換が多く、散漫でした。

しかし、後半になると照明演出も明暗が濃くなり、次第に夢の中のようなシュールな様相を示していきます。 例えば、リゾート開発への投資を狙うブラジル人が、Corneria のトラウマ的なDVの記憶と結びつき、それが、ブラジルの劇団の劇として演じられる、 といったような形で、前半で示されていた要素の連関が舞台ならではな非現実な演出で示されています。 前半で観ていて引っかかっていた芸術祭への風刺と思われる要素も反市長派がドジな悪役としてコミカルに退場するという形になり、 そのような社会的なテーマを掘り下げるのではなく、もっと私的な Corneria の夢、演劇祭にまつわる様々な思いが浮かびあがります。 そして、最後には、3時間舞台上で示されたイメージが、演劇祭で皆と再会したいという思いが込められた Vera Lynn “We'll meet again” に併せての能の舞によるフィナーレという形で決着しました。

自分の好みはもっとミニマリスティックな演出ですが、 演劇祭へ行ってアタリもあればハズレもある様々な舞台をダイジェストで観ているかのような、 多様さというか雑多な雰囲気を楽しみましたし、中にはハッとさせられるような場面もありました。 特に印象に残ったのは、後半のブラジルの劇団の場面で Caetano Veloso の “Um Índio” (1977) が歌われる所。 静かに女声で歌われるのもよかったのですが、字幕付きだったこともあってか、シュールな Caetano 歌詞の面白さを再認識させられもしました。 前半は少々散漫な展開に観ていて戸惑うところもありましたが、 後半に入って次第に演出が切り替わり様相が変わっていき、舞台上の世界に引き込まれました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

2000年代であれば東京国際芸術祭、それがFESTIVAL/TOKYO (F/T) となって、2010年代にF/Tが東京芸術祭に入れ替わり、という変遷はあるものに、 コロナ禍前であれば10月から11月にかけては演劇・ダンスの海外招聘公演の予定がぎっしり詰まっていたのですが、今年はこの公演くらい。 何か見落としているのではないか、と心配になる程です。 その一方で、それも東京演劇祭の面白そうな公演もこの週末に集中していたうえ、 三茶de大道芸や、気になっていた某音楽イベントもこの週末でした。 さらに、私的ながら宴の予定も土曜晩に入っていたりと、なぜここまでスケジュールが被るのか、と。 ここまでスケジュールが被ると悪あがきしようも無いと諦めもつくのですが、もう少しスケジュールがばらけていたらとも思います。

[4133] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Oct 22 20:41:29 2023

先々週末三連休中日は 東京ビエンナーレ2023 を観に上野へ出たので、併せて始まったばかりのこの展覧会を観てきました。

The Cubist Revolution: An exhibition from the collection of the Centre Pompidou, Paris
国立西洋美術館
2023/10/03-2024/01/28 (月休;10/9,1/8休;10/10,12/28-12/31,1/9休), 9:30-17:30 (金-20:00).

フランス・パリの近現代美術館 Musée national d'Art moderne, Centre Pompidou のコレクションに基づく 20世紀初頭のモダニズムの一潮流 Cubism に焦点を当てた展覧会です。 モダニズムを扱う展覧会はそれなりに観てきてますが、Cubism をメインに取り上げた展覧会はありそうでなく、 大型展覧会のレベルでは日本で50年ぶりになるとのこと。 まとめて観る良い機会なので、足を運びました。

Cubism といっても、画商 Daniel-Henry Kahnweiler と専属契約を結んだオリジネータの Pablo Piccoso と George Braque と、 2人に影響を受けサロンで作品を発表するようになった Salon Cubists と呼ばれる作家たちが区別され、 Salon Cubists の中にも、Kahnweiler にも認められた Fernand Léger と Juan Gris、 Sonia & Robert Delaunay らの Simultanism (Orphism)、 後に Dadaist となる Marcel Duchemp や Marcel Duchamp もその一員とみなされた Puteaux Group などがあります (これらは排他的なイズム、グループではありません)。 そういったカテゴリや作家グループも意識しながら作品を観ると、 Piccaso や Braque の作品は薄茶けた彩度く色彩より形態を焦点化しており、 Cubism が広がる中で色彩の扱いが多様化していきます。 そんな Cubism での色彩の扱いの中では、特に Sonia & Robert Delaunay の作品が目に止まりました。

Cubism 周辺の動きでは、いわゆる École de Paris、中でもモンパルナス La Ruche の作家たち、 ロシアの Cubo-Futurism など。 そして、第一次世界大戦を経て、戦間期の After Cubism に至るまでが展覧会のスコープです。 Cubism の建築への影響として “La Maison Cubiste” (1912) に関する展示がありました。 Art Deco の先駆と言われる建築ですが、写真に紙資料などの関連資料も合わせて観るかぎり、まだ Art Nouveau の色を強く感じさせるもの。 そんな所から、Cubism は戦間期ではなく、第一次世界大戦前の芸術運動だったのだな、と改めて認識させられました。 また、第一次世界大戦後の After Cubism になって、Piccaso、Braque や Gris の作品にしても、Cubism と Art Deco 的な美との共鳴が感じられました。

Cubism についてはある程度観知っているつもりでしたが、 20世紀初頭の様々なモダニズムの中の1つという程度の捉え方しかできていなかったな、と反省させられました。 この展覧会でまとまった形で観ることで、Cubism を観る解像度が上がりました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

先週末は、金曜にCOVID-19ワクチン5回目+インフルエンザワクチンの接種。 COVID-19ワクチンは、今まで4回連続モデルナでしたが、今回はファイザーでした (特にどちらかを選んでいるわけでなく、機会場所日時優先で選んだ結果)。 4回目接種時に副反応がそれなりに出たので、先週末は用心して、展覧会、舞台鑑賞、映画などは控えて大人しく過ごしました。 しかし、むしろ金曜晩の方が熱っぽさや倦怠感があったくらいで、土日はさほどでもありませんでした。 といっても、9月末までの猛烈な残暑と10月に入っての急な冷え込みもあって、少々疲れが溜まっていたので、良い休養になりました。

[4132] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Oct 15 23:33:25 2023

先の週末三連休は土日を使ってこの現代アートのイベントを観て回ってきました。

東京都心北東エリア (千代田区、中央区、文京区、台東区の4区にまたがるエリア) ほか
夏会期: 2023/07-09まで随時開催 (プロセス公開); 冬会期: 2023/09/23-11/05 (成果展示).

「東京の地場に発する国際芸術祭」と題された、 東京の主に街中 (public spaces) で繰り広げられる現代アートの展覧会です。 世界の有名作家を集めた最先端の現代アートの祭典ではなく、 東京都心北東エリアに滞在してリサーチして制作されたサイトスペシフィックな作品やコミュニティ・アートなどをメインとした展覧会です。 2021年の第1回は新型コロナウイルス感染症などもあって足を運びかねており、第2回の今回、初めて足を運びました。

まずは、10月7日土曜の午後遅めに、メイン会場ともいえる東神田のエトワール海渡リビング館 (最寄駅: 馬喰町) へ。 築40〜50年と思われる使われなくなった問屋ビルの1F〜7階が会場となっています。

最上階7階は「Central East Tokyo 2023/OPEN START」という企画の一つ、畠山 直哉 『陸前高田2011-2023』。 パンフォーカスで幾何的に構成された画面の写真を大きくプリントして展示することが多い写真家ですが [鑑賞メモ]、 今回の展示は、東日本大震災で甚大な津波の被害を受けた作家の故郷、陸前高田で10年余り撮りためた大量の写真のコンタクトプリントの展示です。 確かに、彼らしい捉え方で瓦礫の山や復興の工事現場をとらえた写真もありますが [関連する鑑賞メモ]、 その一方で、記録写真のように慰霊祭や夏祭りなど地域の行事を捉えた写真も交じります。 通してみると、震災直後はドキュメンタリー写真的な要素が多めで、次第に作家性の高い作風のものが増えていくよう。 コンタクトプリントを追って観るうちに、被災地復興だけでなく、写真家の作風を取り戻す様子を追うようにも感じられました。

「Central East Tokyo 2023/OPEN START」企画関連展示は4階の 佐藤 直樹 『その後の「そこで生えている。」2014-2023』。 2013年に描き始めたというベニヤ板のパネルへの木炭画ですが、どんどん横に伸びていて、ここまで巨大なものに成長しています。 物量による力技にも感じましたが、迷宮の壁のように並べられた中に進んでいくと、描かれた植物の茂みに分け入っていくようでした。

5階、6階は企画「東京のための処方」。中では、6階の中島 伽耶子『Yellow Walls』。 Charlotte Perkins Gilman: The Yellow Wallpaper 『黄色い壁紙』 (1892) に着想した作品です。 閉じ込められる部屋が逆転した中に入れない部屋のよう。 実は『あ、共感とかではなくて。』 (東京都現代美術館, 2023) で観た時はピンとこなかったのですが、 他の目的で使われた痕跡の残る古いビルという展示空間も、謎めいた雰囲気にプラスに働いたでしょうか。

4階は企画「海外作家公募プロジェクトSOCIAL DIVE」。この階の展示が最も興味深く観られました。 ブラジル出身でベルリンを拠点に活動する Rosiris Garrido の «Silently Inside» は日本の「孤独死」をテーマにした作品です。 孤独死の現場というには小綺麗な小部屋風のインスタレーションで、独死に対する認識のズレを感じましたが、 作家の孤独な生活のイメージを具体化したよう。 エアリアルのサーカスアーティストとしても活動しているとのことで、その点にも興味を引かれました。

アイスランドの作家 Hildur Elísa Jónsdóttir の «Seeking Solace» はビデオ作品をメインとしたインスタレーションです。 ビデオの内容は、整然とした小綺麗なオフィスにいるビジネス服姿の女性が、日本の伝統的な歌 (「さくらさくら」など) を歌い出す様子を捉えたものです。 元の作品ではアイスランド民謡が使われたようですが、日本での制作にあたり、日本の歌に変えたのでしょうか。 映像の様子と音楽の静かなミスマッチが面白く感じられました。 歌詞の内容は私的な告白に変えられているようですが、英語で歌われていることもあってか、その点については響きませんでした。

トルコの Buşra Tunç & Kerem Ozan Bayraktar の «The Ghost Gardens» は、 日本庭園の構造を参照した解体現場の瓦礫を使ったインスタレーション。 日本庭園といっても池泉回遊式というより枯山水あたりを参照したのでしょうか。 使われていない古ビルの打ちっぱなしの床に並んだ瓦礫は、まるでこの建物自体が解体中であるかのような不穏さを醸し出していました。

思えば、2000年前後はかなり好んで足を運んでいたものですが、 使われなくなった建物を会場にしたイベント的な現代アートの展覧会を観るのも、10年ぶりくらいでしょうか。 古いビルの雰囲気も含めて楽しみました。 馬喰町界隈へ行ったのも10年ぶりくらいです。 かつては、アガタ竹澤ビルへ年数回は足を運んでいたものですが、今やTARO NASUやGallery αMもそこにありません。 ついでに覗いてみましたが、さすがにテナントもすっかり入れ替わっていました。

エトワール海渡リビング館での展示が期待以上に楽しめたので、他も巡って観ることにしました。

馬喰町から秋葉原に向かう途中の海老原商店では『パブローブ:100年分の服』。 関東大震災復興時に建てられた商店建築を会場に、公募で寄贈された震災後100年の服が展示されていました。 自分が幼かった1970年代頃は両親の実家などにこういう雰囲気が残っていたな、と懐かしく感じる展示でした。

山手線を越えて、旧万世橋駅下のマーチエキュート神田万世橋や、 さらに北へ向かって秋葉原〜御徒町高架下の SEEKBASE AKI-OKA MANUFACTURE での展示を見て、 最後は中村 政人 ほか『ネオメタボリズム/ガラス』 高架下のコンクリート剥き出しの広いスペースを使い、 建築の解体で出るガラスを不定型の長い棒をまばらに敷き詰めたインスタレーションです。 建築におけるリサイクルの問題に着想した作品と言いますが、 規模の大きさにも関わらず地味で、通りがかりの人にもほとんど気に止められずにひっそりと在るところに、静かな不穏さを感じました。

土曜はここで18時で時間切れ。翌日曜、昼過ぎに上野桜木へ。 続きは東叡山 寛永寺の会場から。 鈴木 理作 『Mirror Portrait 一隅を照らす』 は、 円頓院の離れに庭を背景に撮影できるよう Mirror Portrait 撮影用のブースを設置したもの。 Mirror Portrait は撮影ブースも含め、アーティゾン美術館の『写真と絵画——セザンヌより』でも観ていますが、 鑑賞するというより観客に撮影を促すような展示で、より社会での関係性を扱う作品の意味合いが強く感じられました。 渋谷慰霊堂の前の庭では、日比野 克彦 『All Together Now』。 渋沢栄一も参照した段ボールが展示された庭を歩くVR作品ですが、タイトルからすると縁側に集っている人も意味があるのでしょうか。

その後、丸の内に移動したのですが、週末に見られる作品があまりない上、雨が降り出してしまったので、 ゲリラ的に、しかし、ひっそり気味にビル街の壁に掲げられた Charlotte de Cock: «HYPERNOVA»薄久保 香『すぐ傍にみつけたあなたの分身』 を観る程度になりました。

実は、一週間前の9月30日土曜の晩に、下北沢の街中で展開されていたアートイベント 『ムーンアートナイト下北沢』 を観に行ったのですが、あまりに人が多過ぎて、まともに鑑賞し難く、コンセプトはさておき、 ビジュアル的にわかりやすい作品を使った商店街イベント以上の体験ができませんでした。 『東京ビエンナーレ』もそうだったらどうしよう、と観る前は危惧していたのですが、 エトワール海渡リビング館 や 東叡山 寛永寺 といった主たる会場はもちろん、分散した他の会場も観客がいないわけではないですが多くはなく、列や人垣はありません。 ビジュアル的にSNS映えする作品はさほど多くなく、街中での存在感が控えめということもあるかもしれません。 『東京ビエンナーレ2023』では静かに作品に向き合いながら観て回ることができました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

しかし、展示を観ながら街中をあちこちと歩き回るのも久しぶり。 コロナ禍で体力が落ちているということもあると思いますが、かなり歩き疲れました。 数日、疲れが残ったような (衰)。

[4131] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Oct 9 18:15:49 2023

先週末は土日と新宿三丁目へ。 新宿 K's cinema の『奇想天外映画祭2023』で、以下の2本を観てきました。

Decoder
『デコーダー』
1984 / Fett Film (DE) / 87 min.
Regie: Muscha
mit F.M. Einheit, Bill Rice, Christiane F.; special guests: William S. Burroughs, Genesis P-Orridge.

まだ冷戦下の1984西ベルリンで制作された映画です。 F.M. Einheit (Einstürzende Neubauten) 演じる主人公の青年が 諜報機関や大資本 (ハンバーガーチェーン) の支配を覆すためにノイズで暴動を引き起こすというストーリーです。 予想以上に低予算で、暴動の場面はニュース映像と思われるものを繰り返し使い回ししていますし、諜報機関の男 (Will Rice) との駆け引きもサスペンスにしては緊張感に欠けるもの。 William S. Burroughs のカットアップ手法の映像化と言いますが、 スタイリッシュな映像というより、アイデアに予算や手法が追いつかないキッチュさを感じるカルト映画でした。 主役の恋人役が Christiane F. で William S. Barroughs (ジャンク電子部品屋店主役) と Genesis P-Orridge (ノイズ・カルトの指導者おぼしき役) がゲスト出演、 サウンドトラックも F.M. Einheit / Einstürzende Neubauten, Genesis P-Orridge (Psychic TV), Dave Ball / Soft Cell, Matt Johnson / The The と Some Bizzare 勢が関わっており、 1980年代前半西ベルリン、Neue Deutsche Welle や noise/industrial の心象風景はこういう感じかと興味深く観ました。

Chronique des années de braise
『くすぶりの年代の記録』
1975 / (Algérie) / 177 min.
Réalisation: Mohammed Lakhdar-Hamina.
avec Yorgo Voyagis, Mohammed Lakhdar-Hamina, Larbi Zekkal.

フランス植民地下の第二次世界大戦直前 (1939年) から独立を目指した武力闘争が始まる1954年のアルジェリアを舞台に、 ある男の半生を描いた約3時間の大作のアルジェリア映画です。 半砂漠の半農半牧の貧しい村に住む主人公の青年 Ahmed は、旱魃で先の見えない村を捨てて街に出ます (「灰の時代」)。 そして、岩塩鉱山や農場の労働者として働くうちに、原住民 (indigene) に対する過酷な植民地統治に反感を抱くようになります (「荷車の時代」)。 村に戻り窮状を見て同志を募ってダム破壊するものの捕まり、自由フランスの囚人兵として第二次世界大戦の戦場へ送り込まれます。 戦後、ただ一人生還して街で鍛冶職人となります (「くすぶりの時代」)。 やがて、闘志からの影響や抗議行動への弾圧に直面して、独立武力闘争に身を投じます (「虐殺の時代」)。 多くの人物が登場しますが群像劇というほど多声的ではなく、Ahmed と狂言回し的な狂人 Milhoud の視点で展開し、 最後には Ahmed も Milhoud も死に、Ahmed の息子に未来が託されます。

オーソドックスな映像表現で、3時間は少々長く感じられましたが、 あまり目にすることのない、半砂漠、雪の降る山中、迷路のような街中などのアルジェリアの風景を美しく捉えられており、 アルジェリア独立戦争に至る経緯を現地のそれも下層の人々の視点から描いたストーリーも含めて、とても興味深く見ました。 シネマスコープサイズと思われる画面をスタンダートサイズにトリミング、もしくは、横方向に圧縮した画面だったのは、少々残念でしたが。

特に映画の中で明示的に表現されていたわけではないですが、 アルジェリア独立戦争は Aurès 地方での蜂起から始まっていますし、 主人公の親族の女性は顔にタトゥーを入れていましたし、出身地の音楽が Aurès 地方のもののようで、 主人公は Aurès 地方の Berber 系 (Chaouis) なのでしょうか。 そんなこともあって、Houria Aïchi [関連する鑑賞メモ] の音楽の向こうにある風景を見るような興味深さもありました。

この映画 (Chronique des Années de Braise) は1975年の Festival de Cannes で Palme d'Or を取っているのですが、 この映画の監督 Mohammed Lakhdar-Hamina は、その前にも Le vent des Aurès 『オーレスの風』 (1966) で1967年のFestival de CannesでPrix de la Première œuvreを取っています。 英語版 Wikipedia によると、 Le Vent des Aurès は明らかにソビエト映画、特にウクライナのОлександр Довженко [Alexander Dovzhenko]の影響があるとのこと。 Aurès 地方が舞台の映画ですし、とても気になります。 言われてみれば、Chronique des Années de Braise も、 狂人 Milhoud を狂言回しとして話を進めたりと、 Звeнигopа [Zvenigora] (1928) [鑑賞メモ] ほど幻想的な演出ではないものの似たところがあったでしょうか。

そういう期待で観に行ったわけではありませんが、どちらの映画も特集上映のタイトルのような「奇想天外」な映画ではありません。 観る機会がほとんどなさそうな映画の特集上映という点ではありがたいのですが。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4130] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Oct 1 20:18:05 2023

先週末の土曜は秋分の日。というわけで、昼は彼岸の墓参。 ひと段落ついた晩に立川へ出て、この映画を観てきました。

El laberinto del fauno [Pan's Labyrinth]
『パンズ・ラビリンス』
2006 / Estudios Picasso Fábrica de Ficción (ES), Tequila Gang (MX), Esperanto Filmoj (MX) / 119 min.
una película de Guillermo del Toro
Guión y dirección: Guillermo del Toro. Música: Javier Navarrete.
Sergi López (Vidal), Maribel Verdu (Mercedes), Ivana Baquero (Ofelia), Alex Angulo (Doctor), Ariadna Gil (Carmen), Doug Jones (Fuano), et al.

ホラー/ファンタジー/SFで知られるメキシコ出身の監督による2006年作です。 他作品を見ておらず作風等には疎かったのですが、 予告編で気になっていたこともあり、日本国内での上映権終了に伴う最終フィルム上映を観ました。

舞台は内戦直後でフランコ独裁下の1944年のスペイン、 仕立て屋の夫を失い反フランコ・ゲリラ掃討軍を率いる Vidal 大尉と再婚した身重の Carmen の連れ娘 Ofelia が主人公です。 住民やゲリラに冷酷だけでなく女性や子供も蔑視する抑圧的な継父 Vidal の下から逃れるように、 虫の妖精に導かれ牧神 (Fauno [Pan]) の棲む迷宮へ彷徨い入り、 王女として地下の国へ戻るために与えられた3つの試練に挑むことになります。

このまま、迷宮の向こうのファンタジーの世界で話が進むのではなく、 掃討軍とゲリラとの凄惨な一進一退の戦いや、ゲリラと内通する家政婦 Mercedes や医者の抵抗と犠牲などのドラマと入り混じる形で、 Ofelia のファンタジーが進行します。 ラストは、ゲリラによって掃討軍の拠点が陥落する中、Ofelia は迷宮に逃げ込もうとするも、Vidal に殺されます (i.e. 3つの試練をクリアして王女として地下世界へ召されます)。

ダークファンタジーという紹介されることが多く、ファンタジーの場面での異形の造形も確かに目に止まりますが、 フランコ独裁の暴力的、抑圧的な支配の不条理、過酷な現実を、Mercedes や医者を中心としたドラマとして丁寧に描かれています。 Vidal による捕虜拷問の場面をはじめ正視に絶えない凄惨な場面などは苦手でしたが、 過酷な現実をマジックリアリズムの形式で描く、とても良い映画でした。

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[4129] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Sep 24 23:30:52 2023

先週末三連休中日の日曜は午後に渋谷宮益坂上へ。 シアター・イメージフォーラムでこの映画を観てきました。

La casa lobo [The Wolf House]
2018 / Diluvio (CL), Globo Rojo Films (CL) / 74 min.
a film by León & Cociña.
Script: Joaquín Cociña, Cristóbal León, Alejandra Moffat; Art Direction: Natalia Geisse, Joaquín Cociña, Cristóbal León; Animation: Joaquín Cociña, Cristóbal León; Directed by Cristóbal León & Joaquín Cociña.

映画というより現代アートの文脈で活動するチリの2人組ユニット León & Cociña のアニメーション作品、初の長編作品です。 美術館やギャラリーの数メートル四方の空間にセットを作り込み、 それを使ってストップアニメーションを撮影しつつ、 その過程をワーク・イン・ブログレスのインスタレーション作品として公開する、というスタイルで作品を制作しています。 その特異な制作手法への興味もあって、足を運びました。

ドイツ系移民のカルト団体が1961年チリに設立したコロニー Colonia Dignidad と その入植地でカルト指導者の下で拷問、性的虐待、殺害が40年以上繰り広げられていたという実話に着想した作品です。 コロニーのPR映画という設定の映画で、狼が主人のコロニーを脱走した少女 María が回心してコロニーに戻るまでを物語っています。 María は脱走先の小屋で2匹のブタに出会い、彼らを Pedro と Anna と名付けます。 Pedro と Anna はやがて人に姿を変え、一時は幸せに暮らしますが、 狼を恐れて小屋に閉じ籠っているうちにやがて食料が尽きます。 食料を求めて小屋を出ようとする María を Pedro と Anna は殺そうとしますが、María は狼に助けを求めて、コロニーに戻ることで助かります。

地獄のコロニー生活を抜け出した先も牢獄のごとく新たな地獄になってしまう、という、救いの無い悪循環の物語ですが、 ストップモーション・アニメーションの造形の異様さも、禍々しい雰囲気を強めます。 造形こそ異様なもののオーソドックスな人形アニメーションのように撮られる所もありますが、 壁にペンキで描いた絵を消したり上塗りしたりすることで動かしたり、 粘着テープを使って空間に立体を描くように人形の造形を作ってそれを動かすことで、 粗さの目立つ不自然な造形のストップモーション・アニメーションを作っていきます。 カメラが固定でなく、移動していくところも、不穏さを増していました。 壁にペンキで描くストップモーション・アニメーションと言えば 石田 尚志 [鑑賞メモ] もそうですし、石田もやはり立体への展開もしています。 この映画でも室内の家具や扉の表現に石田の作品と共通するものを感じましたが、石田の作品は非物語的な空間時間の構成を指向しています。 このようなアニメーション技法を使ってグロテスクに物語っている所に、León & Cociña の面白さを感じました。

Los Huesos [The Bones]
『骨』
2021 / Diluvio (CL), Globo Rojo Films (CL) / 14 min.
a short film by León & Cociña.
Art Direction: Natalia Geisse, Joaquín Cociña, Cristóbal León; Animation: Joaquín Cociña, Cristóbal León; Written and Directed by Cristóbal León & Joaquín Cociña.

併映の短編は最新の2021年作。 2023年に美術館建築に伴う調査で発掘された1901年制作の白黒サイレントの世界初のストップモーション・アニメーション、という設定の作品です。 少女が人骨を使って復活の儀式を行う様子を描いたもので、 儀式の復活によって現れるのは、 Pinochet 独裁政権下で制定された1980年憲法の作成に主要な役割を担った Jaime Guzmán と、 19世紀前半チリ内戦を勝利した保守派が制定した1833年憲法を作成した Diego Portales、 という、チリの権威主義体制を構築した2つの憲法の作者です。 この作品が制作された2021年は、チリで1980年憲法に代わる新憲法を制定するための制憲議会の選挙が行われており、それを意識した題材です。 といっても、白黒でセリフのない短編で、手法的にも人形アニメーション的な要素が強く、 『オオカミの家』ほど禍々しくはなく、あっさりめにでした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4128] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Sep 24 17:03:15 2023

先週末の土曜は午後に清澄白河へ。これら展覧会を観てきました。

David Hockney
東京都現代美術館 企画展示室3F/1F
2023/07/15-2023/11/05 (月休;7/17,9/18,10/9開;7/18,8/19,10/10), 10:00-18:00.

イギリス出身ながら1970年代にアメリカ・ロサンゼルスへ拠点を移したポップアートの文脈で知られる 美術作家 David Hockney の、 1996年の東京都現代美術館での展覧会 [鑑賞メモ] 以来、 27年ぶりとなる大規模な回顧展です。 フライヤ等から得られた事前情報が比較的初期の作品が中心で、 前回の回顧展とあまり変わらないのではないかと期待していなかったのですが、 展示の後半2/3は21世紀に入ってイギリスに戻ってから (ロサンゼルスも拠点としていますが) の作品。 好きなフォトコラージュ作品があまり無かったのは残念でしたが、 フォトコラージュ以降の展開といえるiPad絵画 (iPad drawing) やマルチスクリーンのビデオ作品など、 最近の活動を楽しみました。

フォトコラージュの直の系譜としては、方形の写真を継ぎはぐのではなく、 画像編集ソフトウェアで多視点のままシームレスに繋いだ “photographic drawing”。 ロサンゼルスのスタジオ内を撮った3000枚の写真をはぎ合わせた In the Studio, December 2017 (2017) など、画面の歪みも面白いものでした。

しかし、最も良かったのは、マルチスクリーンビデオインスタレーション作品 The four seasons, Woldgate Woods (Spring 2011, Summer 2010, Autumn 2010, Winter 2010) (2010-11) [公式の紹介動画]。 春夏秋冬の4回、3×3の9台のカメラを使いイングランド北部ウォルドゲイトの林を抜ける道を少しずつ進みながら撮ったビデオを使い、 55インチ・モニターを横3台×縦3台に並べた壁で四面を囲み、 四面を四季に対応させて、四季ごとに9本の、全36本のビデオを同期させて上映するビデオインスタレーションです。 綺麗に継ぎ合うようにしていない四季ごとの9枚のビデオから多視点を、四季に対応した四面で時間展開を感じさせますし、 ごちゃごちゃした猥雑な被写体を使ったり進行方向を変化させたりしない抑制的な表現で、林の美しさも堪能できる、そんな作品でした。

iPad絵画 (iPadのドローイングソフトウェアで描いた絵画) としては、 複数のiPad絵画を合成して幅1m長さ90mの「絵巻物」として出力した A Year In Normandie (2020-21) も圧巻でしたし、 The four seasons, Woldgate Woods (Spring 2011, Summer 2010, Autumn 2010, Winter 2010) と共通するテーマ (多視点、時間経過=四季の移ろい) が使われていることにより、 メディアの差異が際立つ点も興味深く感じられました。 また、横2×縦3で6枚のiPad絵画を組み合わせた描く経過も含めて「液晶絵画」的 [関連する鑑賞メモ] なビデオ作品とした 10th - 22nd June 2021, Water Lilies in the Pond with Pots of Flowers (2021) にも、多視点と時間経過のヴァリエーションを興味深く感じました。

1970-80年代の版画作品などその色彩の軽さもアメリカ西海岸を思わせるものがありましたが、 21世紀に入ってイギリスで制作したiPad絵画など、 その色面といい、「液晶絵画」的なビデオのセンスといい、むしろ Julian Opie [鑑賞メモ] に近いものが感じられ、 Hockney はイギリス人だったのだと改めて認識させられました。

How I feel is not your problem, period.
東京都現代美術館 企画展示室B2F
2023/07/15-2023/11/05 (月休;7/17,9/18,10/9開;7/18,8/19,10/10), 10:00-18:00.
有川 滋男, 山本 麻紀子, 渡辺 篤(アイムヒア プロジェクト), 武田 力, 中島 伽耶子.

現代アートの文脈で活動する日本の5人の作家によるグループ展です。 中で興味を引かれたのは、有川 滋男。 見本市企業ブースのパロディ的なインスタレーションなのですが、 職業を取材し、関係者の出演するビデオ作品を制作し、各ブースでビデオに登場する物と合わせてビデオが上映されています。 そのビデオだけでなくブースの展示も職業をわかりやすく紹介するものではなく、 かといって謎かけをして観るものを引き止めるようなものでもなく、 形式性を強調した淡々とした作りで不条理感を際立たせます。 何の職業に着想したものかは結局分かりませんでしたが、そんな不条理感を楽しみました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4127] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Sep 17 22:59:57 2023

先週末の土曜は午後に乃木坂へ。この展覧会を観てきました。

Light: Works from the Tate Collection
国立新美術館 企画展示室2E
2023/07/12-2023/10/02 (火休), 10:00-18:00 (金土 -20:00)

Tate Britain や Tate Modern などイギリスの国立美術館を運営・管理する Tate のコレクションに基づく、光をテーマとした美術展です。 展示は18世紀末から始まり、19世紀のTurnerや印象派、そして、20世紀前半のAvnat-Gardeは写真メイン、20世紀半ばのモダニズムは軽く飛ばして、20世紀末以降の現代アート、という構成でした。 19世紀美術は会場が混み過ぎでしたし、戦間期から20世紀半ばが薄かった点は不完全燃焼気味でしたが、 現代アート作品を中心に楽しみました。

James Turrell [関連する鑑賞メモ] の «Raemer, Blue» (1968) では方形のアパチャー越しの青い光に満たされた空間を久々に体感しましたし、 Olafur Eliasson [関連する鑑賞メモ] の «Yellow versus purpul» (2003) の紫色を反射する円形のガラスを静かに回転させることによる光の移ろいも楽しみました。

また、円形の色のグラデーションの抽象画にライティングを重ねて幻惑的な視覚効果を作り出す Peter Sedgley の «Colour Cycle III» (1970) は New Order: Blue Monday 88 (Factory, 1988) のジャケットデザインの元ネタを見るようでしたし、 Julian Opie [関連する鑑賞メモ] の街中の暗めの風景を描いた «Rain Footsteps Siren» (2000)、 月夜の森を描いた «Truck Birds Wind» (2000) や無機質で人気のない現代的なビルの通路を描いた «Voices Footsteps Telephone» (2000) のホップな作風とは違う静謐な作風の良さに気付かされました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

美術館に着いた13時半頃は、短い列はあったけれどもほとんど待たずに入場できて、 19世紀美術こそ混雑していたもののそこを抜ければ後半は快適に観られました。 予想より空いていて良かったと思いつつ、のんびり後半の現代アートを観てたら、みるみる混雑してきて、前半の19世紀美術を見直すどころではなくなりました。 15時頃に退散して外に出たら、外は入場待ちの長蛇の列が出来ていました。 実は混雑する直前のタイミングで入場できたようでした。

[4126] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Sep 11 23:16:32 2023

先の木金は一泊で大阪。空き時間を使ってこれらの展覧会を観てきました。

Home Sweet Home
国立国際美術館
2023/06/24-2023/09/10 (月休;7/17開,1/18休), 10:00-17:00 (金土-20:00)
Maria Farrar, 潘 逸舟 [Ishu Han], 石原 海 [Umi Ishihara], 鎌田 友介 [Yusuke Kamata], 김 성환 [Sung Hwan Kim], Lydia Ourahmane, 竹村 京 [Kei Takemura], Andro Wekua

現代の作家を集めての特別展です。企画意図は掴みかねるところはありましたが、印象に残った作品について、個別に。

20世紀における日本家屋の特に第二次世界大戦と関係を題材とした鎌田友介のビデオ、写真等を交えたインスタレーション作品《Japanese Houses》(2003) は、 ビデオ中でも語られるモダニズム建築と日本建築の関係を示唆するかのような、色彩を落とした空間構成、 そして、俳優/マイムパフォーマーをフィーチャーしてはいるものの演出は最小限としたビデオと、 そのビデオの中での戦前前後と日本で活動したモダニズムの建築家Antonin Raymondの逸話に取材した語り、 ビデオの最後に明かされるのですが疎なBGMかのように響くピアノの調律の響き、など、 抑制の効いた落ち着いた雰囲気のナラティヴな作品でした。

近年、グループ展で観る機会が多い 潘 逸舟 の作品は、 楚劇の演目「打豆腐」に基づく《家ではない場所で豆腐を作る》“Making Tofu at a place that is not home” (2023)。 スタイリッシュな映像と不条理さの組み合わせという点では海辺でのパフォーマンスに基づく一連の映像作品 [鑑賞メモ] とも共通するのですが、 このビデオで語られる物語には落語にも似たユーモアを感じました。

Parallel Lives – Susumu Shingu + Renzo Piano
大阪中之島美術館
2023/07/13-2023/09/14 (月休;7/17開), 10:00-17:00

1970年代以降 Hi-Tech, Postmodern とも括られる多様なスタイルで Centre national d’art et de culture Georges Pompidou (1977)、 関西国際空港ターミナルビル (1988-1994) 等を手がけるイタリアの建築家 Renzo Piano と、 1970年前後から風を受けてモービルや風車のように動くキネティックな立体作品を多く手がける「風のアーティスト」新宮 晋 の、2人展です。 関西国際空港ターミナルビル (1988-1994) 以来、 Piano の公共建築に 新宮 のパブリック・アート作品が設置される形のでの協働を続けており、 それを軸に展示が構成されています。

模型や図面などの資料に基づく建築展は得てして捉えづらいものですが、この展覧会では資料は最低限、 Studio Azzurro [鑑賞メモ] による Renzo Piano 建築を紹介するビデオの広いギャラリー壁面への投影がメイン。 捉え所のない Renzo Piano の建築に秘められたモチーフの芋虫やアルマジロ (もしかしたら Studio Azzurro が着想した比喩かもしれない) も交えた 映像のさりげないユーモアの塩梅も良く、新宮 晋のキネティクなオブジェとの組み合わせも楽しい展示でした。

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[4125] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Sep 10 19:34:39 2023

先の週末土曜2日は昼過ぎに白金台へ。会期末のこの展覧会を観てきました。

Finnish Glass Art – Sparkle and Color in Modern Design
東京都庭園美術館
2023/06/24-2023/09/03 (月休;7/17開,1/18休), 10:00-18:00
Alvar & Aino Aalto, Gunnel Nyman, Kaj Franck, Tapio Wirkkala, Timo Sarpaneva, Oiva Toikka, Markku Salo, Joonas Laakso.

20世紀以降のフィンランドのグラス・アート、ガラスを素材にしたオブジェ (立体作品) の展覧会です。 花器、香水瓶や食器 (皿、タンブラー、カラフェ、アイスペール、など) の形状を取る実用的なものもありましたが、半数以上は観賞用の宝飾品に近いものでした。 時代は20世紀前半、1930年代に始まり、主に21世紀に入ってから活動する作家まで8人の作家を取り上げていました。 戦間期 (というより戦中に近いですが) から戦後1960年くらいまでのシンプルでモダンなデザインが、 次第に、自然界の複雑な形状に着想したり鮮やかに着色されたりするようになり、 20世紀末以降になるとポップな意匠の引用を感じるポストモダンな色合いが濃くなっていきます。 おおよそ年代順に展示されていたこともあり、モダンデザインの流れをフィンランドのグラスアートを通して見るようでした。

特に印象に残ったのは、1930年代から活動するものの1948年に早逝した Gunnel Nyman。 Alvar & Aino Aalto [鑑賞メモ] に比べると有機的というか柔らかいフォルムや気泡使い。 フィンランド戦前〜戦中のモダニズムのデザインというと Aalto 以外を観る機会が少なく、 また、女性のデザイナということもあり、当時のモダニズムの広がりを見るようでもありました。

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[4124] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Sep 4 23:12:38 2023

26日土曜の昼に映画を観た後は、恵比寿ガーデンプレイス内を移動して、写真展を観てきました。

Motohashi Seiichi and Robert Doisneau: Chemins Croisés
東京都写真美術館 2階展示室
2023/06/16-2023/09/24 (月休; 月祝開,翌火休). 10:00-18:00 (木金-20:00)

1939年に活動を始めたフランスの写真家と1960年代に活動を始めた日本の写真家の2人展です。 本橋は Doisneau の写真集を集めていて会おうとするもすれ違ったという経緯もあるようですが、 時代も場所も違いながら、炭鉱労働者、サーカス・芸能や市場など同じような被写体を捉えているという点に着目した企画です。 客観的というより、市井の人々の営みの物語を感じさせるような一瞬を捉えた作風というのも、共通するでしょうか。 現代美術寄りの文脈で写真を追っているとつい見逃しがちなジャンルですが、こういう作風の系譜に気付かされました。

Robert Doisneau といえば、 自分にとっては Tracey Thorn: Plain Sailing (Cherry Red, Cherry53, 1982) のジャケットにも使われた “Le Baiser de l'hôtel de ville, Kiss by the Hotel de Ville”「パリ市庁舎前のキス」 (1950) の印象が強いのですが、 他の作品もある程度まとめて観ることができて良かったでしょうか。

After The Landscape Theory
東京都写真美術館 地下1階展示室
2023/08/11-2023/11/05 (月休; 月祝開,翌火休). 10:00-18:00 (木金-20:00)

都市の風景を題材とした写真を特集した企画です。 松田政夫『風景としての都市』 (1970) など1970年前後に巻き起こった写真や映画の界隈の風景論を鍵に、 1970年代前後の中平 卓馬らの写真雑誌『PROVOKE』 (1968-1969)、 足立 正生, 他による映画『略称・連続射殺魔』 (1969)、 大島 渚 や 若松 孝二 の1970年前後の映画、といったところを核に、 直接的な関係は無いものの現代に至る表現の系譜を追っています。 しかし、それ以降の系譜があまりピンとこず、 良くも悪くも1970年前後のカウンターカルチャーの時代の印象を強く残す企画でした。

先週末に『挑発関係=中平卓馬×森山大道』展を観たばかりだったので [鑑賞メモ]、 計らずしも2週続けてになってしまいました。 しかし、そちらの展示に無かった中平のプリントの写真は、こっちにあったのか、と。

3階展示室では、 『TOPコレクション 何が見える? 「覗き見る」まなざしの系譜』。 17世紀末のピープショーに始まり、20世紀初頭まで見世物として様々に興行された のぞきからくり、ステレオースコープ、キネトスコープ等の映像、視覚に関わる装置のコレクションを核にした展示です。 以前であれば、写真以外のコレクション展は地下1階展示室を主に使っていたように思うのですが、3階展示室ということでそこが新鮮に感じられました。

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[4123] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Sep 3 21:44:55 2023

先週末土曜26日は、昼に恵比寿へ。まずはこの映画を観ました。

2022 / Nord-Ouest Films (FR), Studio O (FR), Les Productions du Ch'Timi (FR), Musée du Louvre (FR), Artémis Productions (BE) / 83 min
un film de Michel Ocelot.
avec les voix de Oscar Lesage, Claire de la Rüe du Can (de la Comédie Française), Aïssa Maïga.
Conte 1: Pharaon!; Conte 2: Le Beau Sauvage; Conte 3: La Princesse des Roses et le Prince des Beignets.

影絵や切絵を思わせる平面的な画面構成と鮮やかな色彩を作風として知られるフランスのアニメーション作家の新作です。 一応繋ぎはあるものの、実質、独立した3つの中編を集めたオムニバスです。 古代エジブト、中世フランス・オーヴェルニュ、近世オスマンの 3つの時代・地域を舞台にしたおとぎ話というか伝承的な物語を、 その絵のスタイルや物語り方も違えて、アニメーション化しています。 ガイドを思わせる現代風の服装のアフリカ系の女性が工事現場の足場で客のリクエストに応じて3つ話を物語る、という枠組みを作っています。 王子もしはそれに相当する主人公が一旦は地位を追われるものの、王女/お姫様と結ばれる、という英雄譚のヴァリエーションとなっています。

“Conte 1: Pharaon!”「第1話 ファラオ」は、 展覧会 Pharaon des Deux Terres に合わせてルーブル美術館 (Musée du Louvre) から委嘱された作品で、 ヌビアのナパタの王国出身の Tanouékamani がエジプト統一してファラオとナパタの王女と結ばれる物語です。 紀元前7世紀 第25王朝のファラオ Tantamani がモデルで、3作のうち史実に最も基づいた作品とのこと。 古代エジプトの壁画の画風を動かすアニメーションで物語ります。 ファラオになったらナパタの王女と結婚できると言うのがモチベーションで、 血生臭い戦闘の場面は無く、登場人物の内面の機微も描かれず、知略というか神の思召で話が進む神話的な語りです。

“Conte 2: Le Beau Sauvage”「第2話 美しい野生児」は、中世のフランス・オーヴェルニュが舞台。 こちらは淡くカラフルな背景光の影絵を動かすかのようにアニメーション化したもの。 酷薄な城主の好奇心旺盛で心優しい王子が、地下牢の囚人 (実は近隣の伯爵) を逃した罪で森で処刑されることになるが、 処刑を任された狩人たちに逃されて、義賊「美しい野生児」となり、民衆を率いて父を懲らしめて城主となり、伯爵の娘と結ばれるという物語です。 逃げてから義賊となるまでの話が無く、やはり、登場人物の内面の機微も描かれない、伝承的な説話を思わせる語りです。

“Conte 3: La Princesse des Roses et le Prince des Beignets”「第3話 バラの王女と揚げ菓子の王子」は、 18世紀オスマン帝国が舞台。 モロッコの王宮を追われた王子が都イスタンブールへ行き、揚げ菓子 (フランス映画なのでベニエ (beignet) としていますがロクマ (lokma)) 売りをするうち、 御用達となることで王女と出会い、やがて密会するようになり、発覚を期に2人で宮殿を逃れ、隊商の王女王子として生きていくことにする、という物語です。 王宮の様子もカラフルで細かくゴージャスに描かれた絵をベースにした奥行き感もあるアニメーションです。 第1,2話に比べると、王子の苦労や才覚、王女の意思、そして、2人の出会いの機微などが丁寧に描かれていましたし、 現代的な翻案というほどではないものの、自立心の強い王女のキャラクターなどは現代的にも感じられました。 動きも様式化されつつも艶かしさを感じるところもあり、ユーモラスな表現もあり、 王子の作る揚げ菓子や王女の作るバラのゼリーも美味しそうで、 廃墟となった宮殿の一室での密会でのウードを伴奏にしての歌と踊りの場面もあり、 これだけで約90分のアニメーションとして観たかったようにも思いました。

長編第1作 Kirikou et la sorcière 『キリクと魔女』 (1998) 以来、 日本でもコンスタントに公開されてきていたものの今まで見逃していました、 以前であれば、こういう王子と王女のおとぎ話は守備範囲外に感じたのではないかと思いますが、 バレエやオペラを観るようになったこともあるのか、むしろそれらと地続きな普遍性も感じられました。

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[4122] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Aug 27 23:37:11 2023

先週末土曜19日は、早めに出かけて昼前には葉山へ。さらに午後には鎌倉へ移動。これらの美術展を観てきました。

神奈川県立近代美術館 葉山
2023/07/15-2023/09/24 (月休;7/17,9/18開), 9:30-17:00

1968年に多木 浩二、中平 卓馬らによって創刊され、第2号から森山 大道が参加し、 第3号 (1969) まで発行された写真誌『PROVOKE』を核に構成した、中平 卓馬 と 森山 大道 の2人展です。 展示は1970年前後の『PROVOKE』同時代の作品から2000年代以降の作品までカバーしていますが、印象を強く残すのは1970年前後の作品。 いわゆる「アレ、ブレ、ボケ」の作風は自分の好みからは外れるものの、 被写体と作風の組み合わせは、カウンターカルチャーの時代を強く感じさせます。

この時期の作品の展示にゼラチン・シルバー・プリントの写真がほとんど無く、 森山の写真はインクジェット・ブリントのものがそれなりにありましたが、 中平の写真は資料としての本・雑誌等の展示かそこから起こした映像の投影ばかり。 そんな所にも彼ら重視していたメディアが何だたのかを見るようでした。 20世紀の写真は少々蛇足にも感じましたが、 逗子・葉山界隈で撮られたものが多かったせいか、 『森山大道の東京 ongoing』 [鑑賞メモ] とは違ったゆったりとした時間が感じられ、意外な一面を見るようでした。

神奈川県立近代美術館 葉山
2023/07/15-2023/09/24 (前期-8/31;後期9/1-;月休;7/17,9/18開), 9:30-17:00

1950年代から版画作品を中心に立体や油彩も手がけてきた 加納 光於 の作品を特集したコレクション展です。 今までもコレクション展示などで観たことがあるかもしれませんが、意識して観るのは初めてです。 1980年代以降制作している版画(インタリオ)的な技法も使った油彩作品の、 油彩らしからぬ抽象的なテクスチャの中から象徴的な図形を浮かび上がらせるような画面を楽しみました。

神奈川県立近代美術館 鎌倉別館
2023/04/29-2023/09/03 (月休;7/17開), 9:30-17:00

1960年代後半に活動を始め、1974年には 小杉 武久 率いる タージ・マハル旅行団に参加、パフォーマンス的要素の強い音楽活動を展開し、 1980年台に入ってからは環境音楽、サウンドインスタレーション、公共施設の音環境デザインを多く手がけた、吉村 弘 (1940-2003) の回顧展です。 高校生の頃の作品から展示されていましたが パフォーマンス作品など1970年代の活動は、動画が全くないわけではないものの、 楽譜やパンフレット、写真など資料展示がメインで、隔靴掻痒の感は否めませんでした。

その一方で、1980年代以降の活動については、 1985年の5つのビデオ作品もVHSこそデジタル化されていたもののブラウン管を使って上映するなど再現度も高く、 また、公共施設でのサウンド・デザインも丁寧に映像資料化されたものが上映されるなど、体感できる展示になっていました。 あの音も 吉村 弘 だったのかという気付きも含め、興味深く観る/聴くことができました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

閉館時間で美術館を追い出された後は、鎌倉カフェ・アユー (Café Ailleurs) でひといき。 紹介してもらったワインバーで夕食した後、戻って呑み直し。 バスク地方のスピノサスモモのリキュール、パチャラン (Patxaran) などを呑みつつ、終電まで、マスターや他のお客さんとレコードをいろいろと聴きつつ談笑して過ごしました。 かかっている音楽はもちろん、お酒の揃いも店の雰囲気もよく、大変居心地が良いです。 横須賀からの仕事帰りにも寄れるというのも、ありがたいです。 今年4月22日にオープンしたばかりですが、すっかりなじみの店に。 しかし、結局、翌日曜は一日ぐったり。土曜の疲れもあったと思いますが、夏バテでしょうか。

[4121] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Aug 21 23:23:12 2023

お盆中の月曜14日は休暇取得。 三連休に京橋へ通った疲れもあって午前はのんびりしたものの、昼過ぎに乃木坂へ。 会期末近くなってしまったこの展覧会を観てきました。

Cai Guo-Qiang: Ramble in the cosmon from Primeval Fireball onward
国立新美術館 企画展示室1E
2023/06/29-2023/08/21 (火休), 10:00-18:00 (金土 -20:00)

中国・泉州出身で1980年代後半に日本で活動し、1995年にニューヨークに拠点を移して活動する 火薬を使った作品で知られる現代美術作家 蔡 國強 の回顧展です。 2015年の横浜美術館での展覧会 『帰去來』 [鑑賞メモ] は新作中心でしたので、 初期の作品をまとめて見ることができたのは貴重でした。

1991年の東京 P3 art and environment での個展『原初火球 The Project for Projects」 を、 作家のキャリアの大きな転換点と捉え、その時に展示された屏風状のパネルの作品7点が出展されていました。 蔡 國強 を知ったのは1990年代後半でこの展覧会は観ていないこともあり、 この時点ですでに作風は確立していたのだなと、感慨深いものがありました。 火薬を使って描いた絵画やタペストリーは四半世紀観てきているせいもあってか迫力を感じるというほどではありませんでしたが、 爆発跡の焦げ燻んだ色合いとテクスチャが良いな、と。

その一方で、最近の作風なのでしょうが、 円盤などを模った金属枠にLED照明をつけてコンピュータ制御で様々に光らせるインスタレーション新作『未知との遭遇』となると、 少々アトラクション的でキッチュに感じられてしまいました。 展示上映されていたビデオを見ると、海外ではLED照明ではなく花火でインスタレーションしたものもあったようで、 花火であればまた違った見応えがあるのかもしれませんが。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

流石にお盆中でしょうか。平日でしたが、美術館はかなりの混雑。 同美術館でやってた『テート美術館展』もついでにと思っていたのですが、入場列に気後れして、パスしました。

[4120] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Aug 20 22:03:32 2023

先週末日曜は京橋で映画の合間が1時間半余りあったので、近所の八重洲へ。この展覧会を観ました。

The Genesis and Evolution of Abstract Painting - Cézanne, Fauvism, Cubism and on to Today
アーティゾン美術館
2023/06/03-2023/08/20 (月休), 10:00-18:00.

19世紀末、Cézanne らポスト印象派 (post-Impressionism) を起点として、 戦後のアンフォルメル (Informel) や抽象表現主義 (Abstract Expressionism) への 非幾何的抽象美術 (Nongeometrical Abstract Art) の系譜を、 MoMAの Anthony Burr のCubism and Abstract Art などを補助線に辿る展覧会です。 オーソドックスな西洋近代美術史を辿る展覧会で、 日本の同時代同傾向の動きも参照しつつも、フランスとアメリカをメインとしたここまでベタな展示は国立近代美術館などの常設展でもなかかな無いかもしれません。 抽象表現主義を最後にミニマル・アートやポップ・アートも飛ばして (おそらく幾何的抽象の系譜に寄るからでしょうか)、「現代の作家たち」になってしまうのは、飛ばしすぎに感じましたが。

自分がこのようなオーソドックスな西洋近代美術史を知ったのは、高校生の時、 1984年の東京都庭園美術館の開館記念展『グッゲンハイム美術館展』を通してでした。 日本の動向を除いて歴史のたどり方はこの展覧会とほぼ同じだと思いつつ、 『グッゲンハイム美術館展』で最後に置かれていたのがスーパーリアリズム (Super-Realism) だったことを思い出しました。 ちょうど2日前に国立映画アーカイブ企画上映で聞いた山村浩二のトークでも、 1980年代前半にスーパーリアリズムの絵を描いていたという話がありました。 忘れかけていたけれども、1980年代前半は賛否はあれど絵画の最新動向と見做されていたな、と。 展覧会とは直接関係無いもののそんなことを思い出した展覧会でもありました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

時間調整に観るのにちょうど良いかと考えていたのですが、入口近くはかなりの混雑。 これは失敗したかと思いましたが、そんな混雑もキュビスムあたりまででした。 そんなものでしょうか。

[4119] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Aug 15 22:26:55 2023

祝日11日金曜からの週末3連休は毎日昼過ぎに京橋へ。 ドローイング、クレイなど様々なメディアや技法を駆使する実験的な作風で知られる アニメーション作家 山村浩二 の40年余のキャリアを回顧する上映企画 『アニメーション作家 山村浩二』 が国立映画アーカイブで始まったので、さっそく、最初の週末で一通り観てきました。

『アニメーション作家 山村浩二 ①1979-80年代―学生時代』
103 min.
『台所会議』 / 1979 / 監督・脚本・撮影・アニメーション・美術・音楽・声: ブラこうじ / 2 min. / DCP (8 mm), カラー
『オーム博士星へ行く』 / 1984 / プラこうじ娯楽漫画映画会社 / 監督・脚本・撮影・アニメーション・美術・音楽・声: ブラこうじ / 22 min. / DCP (8 mm), カラー
『Fig. II』 / 1984 / 監督・撮影・出演: やまむら浩二 / 5 min. / DCP (8 mm), 無声, カラー
『お昼』 / 1985 / 監督・脚本・撮影・美術: やまむら浩二; 音楽: Willem Breuker; 出演: 古川 琢治, 地縛 霊, 小泉 風太郎, 鶴田 貞代 / 16 min. / DCP (8 mm), カラー
『月光』 / 1985 / 監督・撮影: やまむら浩二 / 2 min. / DCP (8 mm), 無声, カラー
『小夜曲』 / 1985 / 監督・撮影・アニメーション・美術: やまむら浩二; 声: 土谷 賢司, 杉本 英輝, 北山 理子, 上野 東声 / 4 min. / DCP (8 mm), カラー
『博物誌』 / 1985 / 監督・撮影・アニメーション: やまむら浩二; 音楽: Willem Breuker / 2 min. / DCP (8 mm), カラー
『上を向いて』 / 1985 / 監督・撮影・アニメーション: やまむら浩二 / 1 min. / DCP (8 mm), カラー
『淡水』 / 1986 / 監督・撮影・アニメーション・美術: やまむら浩二 / 4 min. / DCP (8 mm), カラー
『Ding Dong』 / 1986 / 監督・撮影・アニメーション・美術: やまむら浩二; 音楽: Willem Breuker / 2 min. / DCP (8 mm), カラー
『天体譜』 / 1987 / 監督・撮影・アニメーション・美術: やまむら浩二 / 2 min. / DCP (8 mm), カラー
『ひゃっかずかん』 / 1987 / 監督・脚本・撮影・アニメーション・美術: やまむらこうじ; 音楽: くろさわじゅん / 3 min. / DCP (8 mm), 無声, カラー
『世紀末ヴォ~ドヴィルショ~・フランケンゴーズ+トゥ~ハリウッド』 / 1989-90頃 / 監督・撮影: 山村浩二 / 3 min. / DCP (8 mm), 無声, カラー
『アニメーション断片集』 / 1988-89 / 監督・アニメーション・美術: 山村浩二 / 17 min. / DCP (8 mm), 一部音声あり, カラー
『水棲』 / 1987 / 監督・撮影・アニメーション・美術: やまむら浩二; 音楽: 黒澤潤 / 5 min. / 16 mm, カラー
『月の小壜』 / 1988 / 監督・撮影・アニメーション・美術: やまむらこうじ; 音楽: くろさわじゅん / 4 min. / 16 mm, カラー

中学、高校、大学時代から卒業してしばらく就職していた間に自主制作した作品を集めたプログラムです。 過去に観た覚えがあるのは透過光を使ったクレイアニメーション『水棲』くらいでしょうか。 最初期は漫画映画や特撮映画の強い影響下ですが、高校から大学に進学する頃に制作したということを考えると、『オーム博士星へ行く』は驚異的です。 美大 (東京造形大) に入ってからが多作で、 人形アニメーション『小夜曲』、透過光を使ったクレイアニメーション『博物誌』、切り紙アニメーション『淡水』だけでなく、 飯村隆彦あたりを思わせる実写の実験映画『月光』、パフォーマンス作品のための抽象度高い映像『Fig. II』、アングラ演劇の影響も感じる実写映画『お昼』など、作風も多様。 アニメーションに限らない表現の試行錯誤に、アニメーション作家になってからの実験的な作風の原点を見るようでした。

上映後の山村浩二監督によるトークでは、中学から大学卒業直後の頃について、当時の写真なども交えて語りました。 アーティな面ではない、 大学時代の特撮映画美術のアルバイト経験や、大学卒業後に2年ほど在籍した ムクオスタジオ (椋尾 篁 が主宰したアニメーション美術・背景のスタジオ) での経験なども、 キャリアにおいて重要だったと語るところも教育的。 美大を目指していた高校時代にスーパーリアリズムに影響を受けた絵を書いていた、という話も、当時のコンセプチャルで最先端の絵画表現に取り組んだのだろうな、と興味深く思いました。

『アニメーション作家 山村浩二 ②1990年代―こどものためのアニメーション』
84 min.
『バベルの本』Bavel's Book / 1996 / ヤマムラアニメーション / 監督・アニメーション: 山村浩二; 音楽: シジジーズ; 声: 並木嵩晃, 牧野由依 / 5 min. / 16 mm, カラー
『ふしぎなエレベーター』 / 1991 / 日映プロダクション / 監督・脚本・作画・美術: やまむら浩二; 脚本: 小林士郎; 撮影: 菁映社; 音楽: 黒澤潤 / 8 min. / DCP, カラー
『ジュビリー』Jubilee / 1999 / ヤマムラアニメーション / 監督・アニメーション・美術: 山村浩二; 音楽: 中村一義 / 6 min. / DCP, カラー
『パクシ』 / 1994-95 / NHKエデュケーショナル, ドウズ, ヤマムラアニメーション / 監督・脚本・アニメーション・声: 山村浩二; 撮影: 秋吉信幸; 音楽: シジジーズ, 須藤隆; 声: 堀内洋子, 冷水ひとみ, 山村佑理 / 20 min. / DCP, カラー
『遠近法の箱 博士のさがしのもの』 / 1990 / 日本国際映画著作権協会 / 監督・アニメーション・美術: やまむら浩二; 撮影: 秋吉信幸; 音楽: 上野耕路 / 4 min. / 35mm, カラー
『カロとピヨブプト おうち』 / 1992 / NHK / 監督・アニメーション: やまむら浩二; 撮影: 秋吉スタジオ; 音楽: シジジーズ; 声: 高橋桃太, 冷水ひとみ / 4 min. / 35mm, カラー
『カロとピヨブプト サンドイッチ』 / 1992 / NHK / 監督・アニメーション: やまむら浩二; 撮影: 秋吉スタジオ; 音楽: シジジーズ; 声: 高橋桃太, 冷水ひとみ / 4 min. / 35mm, カラー
『カロとピヨブプト あめのひ』 / 1992 / NHK / 監督・アニメーション: やまむら浩二; 撮影: 秋吉スタジオ; 音楽: シジジーズ; 声: 高橋桃太, 冷水ひとみ / 4 min. / 35mm, カラー
『キッズキャッスル』Kids Castle / 1995 / こどもの城, ヤマムラアニメーション / 監督: 山村浩二; 撮影: 秋吉信幸; 音楽: 須藤隆 / 5 min. / 35mm, カラー
『キップリングJr.』Kipling Jr. / 1995 / こどもの城, ヤマムラアニメーション / 監督・脚本・アニメーション・声: 山村浩二; 撮影: 秋吉スタジオ; 音楽: シジジーズ; 声: 冷水ひとみ, 野口良子 / 14 min. / 35mm, カラー
『どっちにする?』 / 1999 / ヤマムラアニメーション / 監督・アニメーション・美術: やまむら浩二; 音楽: 須藤隆 / 10 min. / 35mm, カラー

独立後の1990年代にNHK教育テレビ (ETV) などを主な発表場所として制作されたアニメーション作品を集めたプログラムです。 『おかあさんといっしょ』や『いないいないばあっ』と言った幼児向け番組の合間に、 ドローイングやクレイ、人形など様々な技法を使った短編アニメーションを流す 『プチクレイ』『プチプチ・アニメ』などと名付けられたコーナーがはじまり、当時、好んで観ていました。 『カロとピヨプブト』やその中のキャラクタからの『パクシ』のクレイアニメーション、 現在の作風にも繋がるドローイングアニメーション『バベルの本』など、当時にリアルタイムで観ていたので、懐かしさが先立ちます。 人形アニメーション『キップリングJr.』もETV『プチプチ・アニメ』でかかっても違和感の無い叙情的な物語とその表現です。 最近はこういう作風の作品は少なくなりましたが、やはり、大好きです。

『アニメーション作家 山村浩二 ③2000年代―大人が楽しむ短篇アニメーション』
56 min.
『頭山』 / 2002 / ヤマムラアニメーション / 監督・アニメーション・美術・編集・2DCG・仕上げ: 山村浩二; 脚本: 米村正二; 音楽・三味線・ナレーション: 国本武春; 音楽: シジジーズ / 10 min. / 35 mm, カラー
『年をとった鰐』The Old Crocodile / 2005 / ヤマムラアニメーション / 監督・脚本・アニメーション・作画・編集・デジタルエフェクト: 山村浩二; 原作: Leopold Chauveau; アニメーション: 荒井知恵; ナレーション: ピーター・バラカン / 13 min. / 35 mm, カラー
『カフカ 田舎医者』 / 2007 / ヤマムラアニメーション / 監督・脚本・アニメーション: 山村浩二; 原作: Franz Kafka; 音楽: 冷水ひとみ / 21 min. / 35 mm, カラー
『こどもの形而上学』 / 2007 / ヤマムラアニメーション / 監督・脚本・キャラクターデザイン・アニメーション: 山村浩二; 音楽: Sergei Prokofiev / 5 min. / 35 mm, カラー
『おまけ』 / 2003 / ヤマムラアニメーション / アニメーション: 山村浩二; 音楽: 北里玲二 / 2 min. / DCP, カラー
『無花果』Fig / 2006 / ヤマムラアニメーション / 監督・アニメーション: 山村浩二; 音楽: 山本精一 / 5 min. / DCP, カラー

より作家性の高いアニメーション作品を作り出した2000年代の作品を集めたプログラムです。 古典落語『頭山』を原作に、浪曲師 国本武春の三味線付き語りを付けたアニメーション作品です。 荒唐無稽な小話を自在に空間変容するドローイングアニメーションで映像化したもので、『バベルの本』と並ぶキャリア前半のマスターピースでしょう。 やはり空間・身体を伸縮自在に変容させるドローイングアニメーション『カフカ 田舎医者』となると、技巧に走り過ぎてもっと淡々とした表現の方が不条理感が出たのではないか、と。 そういう点も含めて、洗練され過ぎない面白さはありました。

『アニメーション作家 山村浩二 ④2010年代―短篇アニメーションの多様性』
86 min.
『マイブリッジの糸』Muybridge’s Strings / 2011 / National Film Board of Canada, NHK, Polygon Pictures / 監督・脚本・アニメーション: 山村浩二; 音楽: Normand Roger, Pierre Yves Drapeau, Denis Chartrand / 13 min. / 35 mm, カラー
『鶴下絵和歌巻』 / 2011 / ヤマムラアニメーション / 監督・原画・アニメーション・彩色: 山村浩二; アニメーション: 中田彩郁、田中美妃 / 2 min. / DCP, カラー
『古事記 日向編』 / 2013 / ヤマムラアニメーション, NHKエンタープライズ / 監督・脚本・アニメーション: 山村浩二; アニメーション: 久保雄太郎, 牧野惇; 音楽; 上野耕路; ナレーション: 明石勇, 遠藤ふき子 / 12 min. / DCP, カラー
『fice fire fish』 / 2013 / ヤマムラアニメーション / 監督: 山村浩二 / 2 min. / DCP, カラー
『鐘声色彩幻想』 / 2014 / ヤマムラアニメーション / ペインティング: 山村浩二, Sanae; 音楽: Maurice Blackburn, Eldon Rathburn / 4 min. / DCP, カラー
『怪物学抄』 / 2016 / ヤマムラアニメーション / 監督・アニメーション・テキスト: 山村浩二; 音楽: Georg Friedrich Händel; 音楽アレンジ: 冷水ひとみ / 6 min. / DCP, カラー
『干支1/3』 / 2016 / ヤマムラアニメーション / アニメーション: 山村浩二; 音楽: 冷水ひとみ / 2 min. / DCP, カラー
『水の精』 / 2017 / ヤマムラアニメーション / 監督: 山村浩二; 音楽: Catherin Verhelst; ドラマトゥルグ: Hervé Tougeron / 2 min. / DCP, カラー
『サティの「パラード」』 / 2016 / ヤマムラアニメーション / 監督・アニメーション: 山村浩二; 音楽・テキスト: Erik Satie; アレンジ: Willem Breuker / 14 min. / DCP, カラー
『ゆめみのえ』 / 2019 / ヤマムラアニメーション / 監督・脚本・アニメーション・編集: 山村浩二; 原作: 上田秋成, 鍬形蕙斎; アニメーション: 矢野ほなみ; 音楽: シジジーズ; ナレーション: 長塚圭史 / 10 min. / DCP, カラー
Dreams into Drawing / 2019 / ヤマムラアニメーション / 監督・脚本・アニメーション・編集: 山村浩二; 原作: 上田秋成, 鍬形蕙斎; アニメーション: 矢野ほなみ; 音楽: シジジーズ; ナレーション: Robert Campbell / 10 min. / DCP, カラー

2010年代の作品を集めたプログラムです。 馬の連続写真や殺人事件スキャンダルで知られる Eadweard Muybridge を題材とした『マイブリッジの糸』、 初演時に騒動となったことで知られる Erik Satie が音楽を手がけたバレエ Parade を題材とした『サティの「パラード」』、 略画式で知られる江戸時代の絵師 鍬形蕙斎 と上田秋成『雨月物語・夢応の鯉魚』を交えて題材とした『ゆめみのえ』など、 絵、写真、舞台作品等と、作品に関わる出来事や作家の伝記的なエピソード (『ゆめみのえ』のように必ずしも実話ではない) とを、 アニメーションならではの自在に変容できる画面を生かして、混然と物語るというのが作風でしょうか。 その一方で、カナダのアニメーション作家 Norman McLaren 生誕100年を記念して制作した『鐘声色彩幻想』は、 『色彩幻想』Begone Dull Care (1946) を引用しつつ、抽象アニメーションとしています。 多様な作風を見せつつも、それぞれの表現に洗練を感じさせるプログラムでした。

『アニメーション作家 山村浩二 ⑤2020年代―長篇アニメーション』
71 min.
『ホッキョクグマすっごくひま』Polar Bear Bears Boredom / 2021 / ヤマムラアニメーション/ 監督・アニメーション: 山村浩二; 音楽: CASIOトルコ温泉 / 7 min. / DCP, カラー
『幾多の北』 / 2021 / ヤマムラアニメーション/ 監督・原作・脚本・アニメーション・美術・編集: 山村浩二; アニメーション: 矢野ほなみ, 中田彩郁; 音楽: Willem Breuker; 音響演出: 笠松広司 / 64 min. / DCP, カラー

長編を含む2020年代の2本を取り上げたプログラムです。 今年1月末に『山村 浩二 presents 『幾多の北』 と三つの短編』で2作品とも観ていたので [鑑賞メモ]、今回はパスしました。 しかし、過去の作品を見てから振り返ると、2010年代の円熟期から『幾多の北』はまた次のフェーズに入ったのだろうか、と思うものがありました。

『アニメーション作家 山村浩二 ⑥連句アニメーション 冬の日 芭蕉七部集より 他』
105 min.
『連句アニメーション 冬の日 芭蕉七部集より』 / 2003 / IMAGICAエンタテインメント, 電通テック / 企画・監督: 川本喜八郎; 音楽: 渡辺晋一郎; アニメーション作家: Юрий Норштейн [Yuri Norstein], 川本喜八郎, 山村浩二, 他 / 39 min. / 35 mm, カラー
『冬の日の詩人たち』 / 2003 / IMAGICAエンタテインメント, 電通テック / 監督: 和田 敏克; 撮影: 吉村 隆; 出演: Юрий Норштейн [Yuri Norstein], 川本喜八郎, 山村浩二, 他 / 66 min. / 35 mm, カラー

江戸時代の俳諧師、松尾芭蕉が尾張の連衆と興行した連句を収録した俳諧撰集『冬の日』 (1684) の36句を、海外を含む35作家でアニメーション作品化したものでです。 技法も作風もバラバラで異化作用が大きく、それぞれのイメージの世界に入って行きづらく感じましたが、 制作時のドキュメンタリー『冬の日の詩人たち』と合わせて、アニメーション技巧の多様さを実感することができました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4118] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Aug 8 23:41:01 2023

先の週末の土曜は昼に初台へ。この舞台を観てきました。

新国立劇場 小劇場 – THE PIT
2023/08/05, 12:00-13:00.
構成・演出: 鈴木 竜; 美術: 大巻 伸嗣; 音楽: evala
出演: 米沢 唯 (新国立劇場バレエ団), 中川 賢, 木ノ内 乃々, Geoffroy Poplawski, 土本 花, 戸田 祈, 畠中 真濃, 山田 怜央.
衣裳: 渡辺 慎也.
初演: 2023/03/11 愛知県芸術劇場 小ホール.
主催・企画・共同製作: 愛知県芸術劇場, Dance Base Yokohama; 制作: Dance Base Yokohama.

2020年に横浜・北仲エリアにオープンした DaBY (Dance Base Yokohama) と愛知県芸術劇場によるダンスプロジェクトの公演です。 DaBYでの成果発表会には足を運んだとこがある程度だったので [鑑賞メモ]、劇場公演を観る良い機会かと足を運びました。

20世紀前半イギリスの小説家 Somerset Maugham の短編 Rain『雨』 (1921) を原作とする作品とのことですが、 物語るような作品というより、雨 疫病で雨の南国の島に閉じ込められた人々の鬱屈、 その場を乱すかのような娼婦おぼしき Miss Thompson、 彼女を教化しようとした宣教師 Davidson の破滅、といったイメージを、少々暗めに抽象的かつ象徴的に描くような作品でした。 主要な登場人物2名、Miss Thompson 役が米沢、宣教師 (Davidson) 役が中川というところは固定されていましたが、それ以外は明確な役の割り当てはありません。 舞台装置は、Jesús Rafael Soto の Pénétrable [鑑賞メモ] のような 黒い紐を密に下げた立方体状のものが舞台中央に少し上手側が舞台奥側に引いた状態で下げられただけ。 人の動きを浮かび上がらせたり、紐の隙間から光を透かすようなライティングも使いつつ、 紐を時折上下させつつ、その周囲や中、下で動きを繰り広げ、イメージを作り出していました。

舞台を囲むようにストリングカーテン (紐スクリーン) を下げるというのはたまに見ますが [関連する鑑賞メモ]、 舞台中央のマッスな紐の塊は、それを反転したよう。 そんな紐の塊の前面だけでなく下面も活用したダンサーの出入りを巧みに使ってさまざまなイメージを作り出していきます。 米沢の動きの高度なバレエ的な特異さも目に止まるのですが、 リフトでの多様な空中姿勢を活用して、紐の塊の前面から突き出た手に預けて身を浮かべるかのような動きや、 紐の下面から頭を突き出しているかのような動きなど、現実離れして幻想的に感じられました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

土曜晩は若林時代の大家さん宅での宴、日曜は部下の結婚式。 それはそれでそれぞれ楽しく過ごしましたが、それ以外の時間はほとんど使い物になりませんでした。

[4117] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jul 30 22:44:07 2023

今週末土曜は夕方近くに三軒茶屋へ。このパフォーマンスを観てきました。

ラルンベ・ダンサ 『エアー〜不思議な空の旅』
世田谷パブリックシアター シアタートラム
2023/07/29, 16:00-17:00.
Idea, Choreography and Directed by: Daniela Merlo & Juan de Torres
Dancers on stage: Mado Dallery, Lucia Montes; Virtual Performers: Beatriz de Paz, Thao Hellemans & Daniela Merlo.
Audiovisual and 3D Multimedia Creation: Carlos Lucas; Illustrations: Pura Narváez, Marcos Polo; Stage elements: Ana Minerva; Costume Design by: Matias Zanotti; Original Music: Mauricio Corretje; Lighting Design: Lia Alves; Lighting Technician: Daniel Alcaraz (Cía de La Luz); Video recording: Jorge Barriuso; Photography: Pedro Arnay.
Management and Promotion: Lizbeth Perez; Production Assistant: María Muñoz; General Production: Juan de Torres.
Premier: 17 November 2019, Teatro Municipal de Coslada.
Production: Larumbe Danza, Compañía Residente en Coslada.

世田谷パブリックシアターの『せたがやこどもプロジェクト2023《ステージ編》』として企画された スペイン・マドリード郊外のコスダラ (Coslada) をダンスカンパニー Larumbe Danza による子供向けダンス新作の公演です。 ちなみに、世田谷パブリックシアターでは、2014年にも世田谷アートタウン2014関連企画で Ballenas, historias de Gigantes 『クジラ〜はるかな海の伝説』 を上演しましたが、この時は仕事と重なり見逃しました。

3D映像とダンスを組み合わせた “Hypermedia dance performance for children” を謳っていて、 偏光フィルタのメガネを使って観る3D映像を背景に投影しての、ナラティブなダンス作品です。 同じアパートメントに住む2人の女性が故障したエレベータに閉じ込められている間の1時間弱、 エレベータから飛び出して、大都会の汚染された空気や、大自然の空気、そして雲の上という、空気の旅を共にします。 プロジェクションマッピングではなく背景の投影なので、3Dといってもインタラクション度は低く感じられてしまいました。 映像を使わずに観客の想像力に任せても良いのではないかと思うところもありましたが、 子供向け作品ということを考えると、こういう仕掛けは良いかもしれません。 登場する2人の女性のキャラクターもフェミニンとボーイッシュの対比がよく、 投影するイラストのセンス含めて、キュートな作品でした。

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金曜晩に職場の懇親会で飲み過ぎて、土曜は昼頃まで二日酔いで臥せってしまいました。 土曜も、観劇の後は深川へ移動して、20余年来の友人の家でのパーティ。 結局、花火はほとんど見(られ)ませんでしたが、終電近くまで会話を楽しみました。 そんな金土だったので、日曜はぐったりでした。

[4116] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jul 23 22:29:37 2023

今週末土曜は昼過ぎに高円寺へ。 毎年7月恒例の、人形劇・マイムやサーカスなどセリフに依らず親子で楽しめる小規模な舞台作品を国内外から集めるフェスティバル 『世界をみよう!』で、 今年はこの2作品を合わせたBプログラムを観てきました。

メロディ・モラン 『ぬけがら』
座・高円寺1
2023/07/21, 13:00-13:20.
De et avec: Mélodie Morin.
Regard extérieur: Satchie Noro; Composition musicale: Julie Mondor; Enregistrements voix: Eve Manson; Conseils à la manipulation marionnettique: Christiane Lay; Conception accroches costume: Marine Hunot.
Une production de La Coopérative De Rue et De Cirque dans le cadre du dispositif CIRQ'8 COURT
Création 2020

フランスを拠点に活動する女性サーカスアーティストのソロ作品です。 Cyr wheel を使ったパフォーマンスですが、技を見せるというより、 プルオーバーフーディを巧みに使って顔の無い人物のシュールなイメージを作り出すパフォーマンスです。 少しサイズ大きめのグレーのプルオーバーフーディを着て登場しますが、両袖先は Cyr wheel に固定されています。 そこで頭を引っ込め、左手はそのままで、右手を袖から抜いてフードを押し上げることで、まるで顔の無い人のようになって、片手で Cyr wheel を演じます。 後半は、袖を Cyr wheel から外し、Cyr wheel はほぼ床に置いた状態で、その輪の中で、プルオーバーフーディの中でコントーションを演技します。 足を袖から出したりと不思議な形態を見せます。 ラストは、手でフードを押し上げて顔が無い人が胡座を描いたような状態になり まるで膝上で頭を抱えるように裾下から頭を出して、静かに終わりました。

ファブリツィオ・ソリナス 『リトル・ガーデン』
座・高円寺1
2023/07/21, 13:35-14:05.
Création: Fabrizio Solinas
Interprétation dans le rôle du jongleur animal: Fabrizio Solinas
Regards extérieurs: Johan Swartvagher (Collectif Protocole - Cie Martine à la Plage), Nicolas Vercken (Cie Ktha), Cyril Casmèze (Cie du Singe Debout - Cirque Plume), Pietro Selva Bonino (Collectif Protocole); Costumes: Mylie Maury et Dadoo Frison.
Création 2020

イタリア出身ながらフランスを拠点に活動する男性サーカスアーティストによる、ボールをトス&コンタクト・ジャグリングしながら形態模写する作品です。 まずは、人魚というか魚や両生類の幼生 (おたまじゃくし) のような姿で床を這いながらヘッドローリング。 足を覆う鰭を脱ぎ捨ててからは、3ボールのトス・ジャグリングやヘッドローリングをしながら、 動物らしい声も発しつつ、カエル、爬虫類、おそらく恐竜、鳥と、脊椎動物の進化を追うように携帯模写をしていきます。 最後は、猿 (おそらくゴリラ) から人にまで進化して、たどたどしく歌を歌って終わりました。

どちらもセットや大きな道具、映像プロジェクションの類は用いないソロで、見応えあるという類の作品ではありませんが、こじんまりとはしているものの味わいある佳作でした。

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土曜晩は渋谷Li-Poでクロストーク&レコードコンサート 『ノイズ時代の中村とうようを語る』。 13回忌の 中村 とうよう を偲ぶ会です。 広くワールドミュージック好きが集まるのだろうかと期待したところもあったのですが、 長年活躍する有名な音楽評論家や音楽愛好家が勢揃いで、場違い感は否めず。 『ミュージック・マガジン 季刊別冊ノイズ』 (1989-1992) の時代の話ということで、当時の横浜WOMADの映像が観られたり、 その時代とは直接関係しませんが、Asmahan (Farid El Atrache の妹) の1943年スイス盤とかレアなSP盤を聴くことができたり、と、楽しみましたが。 自分のようなライトな音楽リスナーがこんな場に居てもいいのだろうか、と、自問する3時間でした。

[4115] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jul 23 19:10:32 2023

今週末金曜の晩は仕事帰りに表参道へ。このパフォーマンスを観てきました。

スパイラルガーデン (表参道スパイラル1Fアトリウム内)
2023/07/21, 20:00-21:15.
演出: 小野寺 修二.
美術, 詩: 大宮 エリー.
出演: 梶原 暁子, 渡邊 絵理, 中馬 瑠香, 村井 友映, 崎山 莉奈, 藤田 桃子, 小野寺 修二, 大宮 エリー.
音楽: おおはた雄一.
照明: 阿部 康子; 舞台 監督: 原口 佳子.
企画制作: 大宮エリー事務所.

スパイラルガーデンで開催された 大宮 エリー 『海はたのしい気持ちをくれる』 展の記念公演として企画制作された、カンパニーデラシネラの公演です。 コラボレーション相手の 大宮 エリー (広告ディレクターに始まりマルチタレント的な活動をする作家) についての予備知識はほとんど無かったのですが、 非劇場空間の使い方がうまい カンパニーデラシネラ が美術作品がインスタレーションされた吹き抜け的な空間をどう使うのかという興味で、観てきました。

展覧会展示は、天井の低いギャラリーに大きめのキャンバスにアクリルで描かれた明るく粗いタッチの絵画が展示され、 吹き抜けで天井の高い半円の空間に絵画に近い色やタッチの比較的抽象度の高い絵が描かれた 10 〜 6 m の4本の布が下げられたインスタレーションがあります。 そのインスタレーションされたスペースの床にも小さなキャンバスの作品を並べ、その合間のスペースでパフォーマンスをしました。 パフォーマーは 小野寺 修二 以外は全て女性で、大宮も詩の朗読などで絡みました。 流石にローイングされたキャンバスの作品には触れませんでしたが、ドローイングされた布を引いたり纏ったりもしました。

物語ではなく詩をベースにしていたこともあり、 最近の作品に比べてナラティブな要素は控えめで、断片的なイメージを連ねるような構成。 指差しあう様な動きや手持ちの明かりを使った演出などカンパニーデラシネラらしさも感じましたし、 新体操のスキルを持ったパフォーマーがいたのか冒頭近い場面でのフープを使った動きや、 エフェクトを使い効果音的な音も交えるエレクトリックギターの生伴奏など、 今までのカンパニーデラシネラではあまり無い要素も楽しみました。 登場人物が置かれた状況に不条理感が薄く、前向きで明るい雰囲気は、今までのカンパニーデラシネラには余りなかったものでしょうか。 その点を少々新鮮に感じつつも、あまり自分の好みではないかもしれないとも感じてしまいまいました。

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[4114] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Jul 18 23:30:54 2023

先の三連休の日曜は35℃超の猛暑日。そんな中、午後に目黒区八雲へ。この公演を観てきました。

めぐろパーシモンホール 大ホール
2023/07/16, 15:00-16:20.
『Silentium』
約20分
演出振付: 金森 穣.
音楽: Arvo Pärt: Tabula Rasa - 2. Silentium.
衣裳: 宮前 義之 (A-POC ABLE ISSEY MIYAKE)
出演: Noism0: 金森 穣, 井関 佐和子.
初演: 2023.
『Floating Field』
約35分
演出振付: 二見 一幸.
音楽: Domenico Scarlatti, 7Chato, 他.
衣裳: 堂本 教子.
出演: Noism1: 浅海 侑加, 三好 綾音, 中尾 洸太, 庄島 さくら, 河村 アズリ (庄島 すみれ と交替), 坪田 光, 樋浦 瞳, 杉野 可林, 糸川 祐希, 横山 ひかり.
初演: 2023.

Noism Company Niigata のゲスト振付家を迎えての新作ダブルビルは、 2019/20シーズン [鑑賞メモ]、2020/21シーズン [鑑賞メモ]、2021/22シーズン [鑑賞メモ] と冬公演でしたが、 今回の2022/23シーズンは夏公演。 ゲスト振付家は La Danse Campagnie Kaleidoscope, Dance Brick Box を主宰する 二見 一幸 です。

まずは、金森 穣 『Silentium』から。 今回は、山田 勇気 とではなく 金森 穣 と 井関 佐和子 とのデュオです。 音楽が Arvo Pärt で、天井から落ちる4筋の白米というモチーフといい、抽象的で瞑想的な雰囲気といい、 『Fratres』三部作の延長というか続編のよう。 といっても、落ち着いた暖色系の照明といい、金色の衣裳といい、彩度を感じます。 金色というだけでなく硬い面を継ぎ合わせた様な形状の衣裳に負けない動きです。 ビデオは使いませんでしたが、途中、天井から鏡面の板が降りてきて、視覚的に4人で踊るように見せたりと、視覚的な遊びも感じる舞台でした。

後半は 二見 一幸 『Floating Field』。この振付家の作品を観るのは初めてです。 Noism1の10人のダンサーに振付けた、 舞台美術は反射の強い白い帯状 (幅約0.5m、長さ12m程)のマット2本 (途中まで1本) のみで 衣裳も白のシャツ、ブラウスに黒のスーツ、というミニマリスティックな演出の、抽象ダンス作品です。 長さは30分ながら、おおよそ3部構成。 最初はエレクトリックな音を使って手を強く引き引かれるような動きを度々見せる緊張感のある動き。 中盤に音楽が Domenico Scarlutti 曲のピアノ演奏に変わり、祈るよう。 ここまでは4、5名くらいのコンビネーションを組み合わせて行く様でしたが、 最後、ビート感の強まった電子音に戻ってからは、10人でのマッスな動きが際立ちました。 ダンサー自身が白い帯状マットを動かすことによる空間の変容を初め、 空間の使い方が面白く、そんな所に群舞の面白さを感じました。

最近の Noism の公演は、マクロに明確な筋は無いにしても、ナラティヴな要素を感じる作品が続いていたので (『Der Wandererーさすらい人』[鑑賞メモ]、 『鬼』[鑑賞メモ])、 抽象度の高い2作品の組み合わせに少々面くらいましたが、こういうのも良いものです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

翌月曜祝日も猛暑日。外出に身の危険を感じる暑さに、疲れもあって、さすがに休養に当てたのでした。

[4113] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jul 17 21:03:49 2023

今週末土曜は午後に、隔週で三度、東銀座、万年橋へ。このオペラの上映を観てきました。

from Metropolitan Opera House, 2023-06-03.
Composer: Wolfgang Amadeus Mozart; Librettist: Emanuel Schikaneder.
Productio and Choreography: Simon McBurney
Set Designer: Michael Levine. Costume Designer: Nicky Gillibrand. Lighting Designer: Jean Kalman. Projection Designer: Finn Ross. Sound Designer: Gareth Fry.
Cast: Erin Morley (Pamina), Lawrence Brownlee (Tamino), Thomas Oliemans (Papageno), Kathryn Lewek (Königin der Nacht), Stephen Milling (Sarastro), Brenton Ryan (Monostatos), et al.
Conductor: Nathalie Stutzmann.
World Premiere: Theater auf der Wieden, Vienna, 1791.
Premiere of this production: London Coliseum (English National Opera), 2013.
Original co-production of Dutch National Opera, Amsterdam; English National Opera, London; and Festival d’Aix-en-Provence. In collaboration with Complicité.
上映: 東劇, 2023-07-15 14:30-17:58 JST.

イギリス Complicité の Simon McBurney が演出を手がけたオペラが Metropolitan Opera Live in HD でかかりました。 演出したのは、Mozart によるファンタジー色濃い歌芝居 (Singspiel)、Die Zauberflöte [The Magic Flute]『魔笛』です。 原作は時代不詳の古代エジプトとされていますが、やはり詳細な時代や場所は不詳ながら現代に置き換えています。 Tamino は chav を思わせるジャージ姿で登場しますし、Papageno は浮浪者風です。 Königin der Nacht も特に後半になると貧しい車椅子の老女とでもいう雰囲気。 その一方で、Sarastro 側の人々はグレースーツをビシッと決めた人々。 都市下層と富裕層の対比を思わせる衣装の対比でしたが、 第一部と第二部で善悪が反転する Die Zauberflöte の構造もあってか、その対比が上手く生かされていないように感じました。 元々、善悪が反転する捻りがあるものの王子がお姫様を救いにいく冒険や試練からなる英雄譚という物語だけに、 ポストアポカリプスな近未来物とかならまだしも、現代に翻案するのは無理があるように思われました。

映像のプロジェクションや効果音を使いますが、事前に準備したものをコンピュータ制御するのではなく、 映像も黒板にライブで手書きするなどして撮影投影し、効果音も実際にライブで物を鳴らします。 映像や効果音を担当するアーティストのブースも客席から見える様に舞台脇に置かれるだけでなく、 オーケストラピットも舞台に近い高さまで上げられ、 Tamino の魔法の笛に相当するフルートの奏者や Papageno の魔法の鈴に相当する鍵盤式グロッケンスピールの奏者は、演技にも参加します。 また、第二幕の Pamina と Tamino へ与えられる試練の場面でワイヤーアクションを使うなど、フィジカルな演技もオペラにしては激しめです。 そういった演出は大変に好みで楽しんで観たのですが、それだけに、素直に道化芝居風にした方が楽しかったのでは、と思ってしまいました。

Metropolitan Opera Live in HDの2022/2023シーズンもこれで終了。 新作オペラや現代演出は他と予定が被らない限り観たいと思っていますが、今シーズン観られたのは、 新作 The Hours [鑑賞メモ]、 新作 Champion [鑑賞メモ]、 Ivo van Hove 演出 Don Giovanni [鑑賞メモ と、 この Zauberflöte の4作。 最も好みだったのは Don Giovanni でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

金曜の午後は仕事で都心に出たので、仕事呑みの後の二軒目は独りでふらりと顔馴染みの神保町のバーへ。 既にかなり酔っていたのに、会話で盛り上がって、気付いたたら終電近くまで。呑みすぎました……。 二日酔いというより酒が抜けきらない感も否めなかったのですが、土曜の午前は、お盆の墓参。 翌日曜から最高気温が40℃近い酷暑になったので、頑張って土曜のうちに行ってしまってよかったです。

[4112] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jul 16 23:46:45 2023

先週末は金曜晩、土曜午後と池袋西口へ。 毎回欠かさずという程では無いですが、去年 [鑑賞メモ] に続いて今年も、 今年で7回目となる 『ボンクリ・フェス』 (“Born Creative” Festival) に足を運びました。

Jan Bang
Reading the Air
東京芸術劇場 ギャラリー1
2023/07/07, 18:00-18:45.
Anneli Drecker (voice), Jan Bang (vocals, live sampling, piano), Eivind Aarset (guitar, electronics), Anders Engen (drums), Audun Erlien (bass).

女性歌手の Anneli Drecker (ex-Bel Canto) をフィーチャーしているので歌物だろうとは予想していましたが、メインに歌ったのはJan Bang。 去年の『プンクトの部屋』のラストでも歌声を披露していましたが、低くソフトながら通る美声です。 ギタートリオのバッキングも付き、電子的なエフェクトも効かせますが、 Punkt でのノンストップ・セッションとは異なり、1曲ずつ切ってグランドピアノ弾き歌いを electronica で拡張するようなスタイルのライブでした。 Anneli Drecker は Jan Bang の歌声に合わせるように歌うことが多く、 彼女目当てで観に行ったところもあったので聴いていて少々不完全燃焼でした。 しかし、一曲、彼女がメインで歌った曲 (“No Paradise Lost”) があって、やはり良い歌声だ、と。

2024年頭にリリース予定のアルバム Jan Bang: Reading the Air (Jazzland / Punkt Editions, 377 947 3, 2022) からのライブとのことで、 先行でCDとアナログが会場売りされていました ((P)は2022になっており、プレスまで終わっているものの、リリースが遅れている模様)。 入手して聴きましたが、Anneli Drecker の他に Benedikte Kløw Askedalen、Simin Tander と3人の女性歌手をフィーチャーしています。 トラックはライブより electronica 寄りですが、歌もしっかり聴かせるアルバムです。 ちなみに、ライブでは Drecker が歌った “No Paradise Lost” は、アルバムでは Jan Bang が歌っています。

『ノルウェーの部屋』
Last Two Inches of Sky
東京芸術劇場 ギャラリー1
2023/07/08, 12:00-12:45.
Jan Bang (vocals, live sampling), Eivind Aarset (guitar, electronics), Anneli Drecker (voice), Anders Engen (drums), Audun Erlien (bass).

ミュージシャンは前夜の Reading the Air と同じですが、 こちらは、Eivind Aarset / Jan Bang: Snow Catches on her Eyelashes (Jazzland, 377 925 0, 2020, CD) の続編で、秋には Punkt Editions から新作アルバムがリリースされるとのこと。 前夜のグランドピアノは仕舞われ、アトモスフェリックでダブワイズなセッションを繰り広げました。 といっても、爆音ではなく繊細な音出しで、キャッチーなレゲエのリズムは避け、微かなグルーヴを作り出していきます。 ノンストップで行くかと思ったら、途中で一旦切って、Anneli Drecker の歌をフィーチャーした曲を挟みました。 彼女の歌声が入ると、少々 trip hop も思わせる音になりました。

『スペシャル・コンサートA面』
東京芸術劇場 コンサートホール
2023/07/08, 13:00-14:00.
1)Haris Kittos: 5 ways to move. アンサンブル・ノマド, 佐藤 紀雄 (conductor), Haris Kittos (video).
2)Du Yun: Slow Portraits. アンサンブル・ノマド, 佐藤 紀雄 (conductor), David Michalek (video).
3)藤倉 大 [Dai Fujikura]: Shakuhachi Concerto. 小濱 明人 (尺八), アンサンブル・ノマド, 佐藤 紀雄 (conductor), Nicolas Floc'h (photographer), Florence Drouhet (art direction images)

例年、途中休憩を挟んで2時間半ほどのスペシャル・コンサートですが、 今年はそれぞれ1時間、A面、B面の2つコンサートに分けての開催でした。 A面は映像付き作品のコンサートです。 最初の2曲は上映される映像に着想した作品で、 5 ways to move は乗り物の車窓から撮った流れる風景映像に、 Slow Portraits は昆劇パフォーマーや演劇俳優の動きを 高速撮影してスローモーション再生したものに合わせたもの。 Shakuhachi Concerto は初演時に演奏に合わせて上映されたという 海洋写真家 Nicolas Floc'h の海藻をとらえた白黒写真に基づくかなり抽象度の映像を付けて。 映像付き音楽といっても、Post-1classical なサウンドトラックではなく、コンセプト面で着想したようで抽象度の高いもの。 映像に対して悪目立ちしないように、ということもあるかもしれませんが、 演奏のアンサンブル・ノマドの皆さんもフォーマルに寄せた黒い衣装ででした。

『PLANKTONの部屋』
東京芸術劇場 リハーサルルームL (B2F)
2023/07/07, 14:00-21:00; 2023/07/08, 11:00-19:00 (入退場自由)
坂本 龍一が、クリスチャン・サルデと高谷 史郎とのインスタレーション作品「PLANKTON」(〈KYOTOGRAPHIE 京都国際写真展 2016〉委嘱作品)のために、作曲した音楽 [Music composed by Ryuichi Sakamoto for PLANKTON installation, a collaboration between Christian Sardet and Shiro Takatani produced by KYOTOGRAPHIE in 2016]

コンサートの合間にサウンドインスタレーションを体験。 映像等は用いずリハーサル室に席とスピーカーを配してのサウンドのみのインスタレーションで、 元の作品も Dumb Type 名義ではないものの、 目を閉じて聴いていると、Dumb Type のインスタレーション [関連する鑑賞メモ] の中にいるよう。

『電子音楽の部屋』 (アトリエイースト, アトリエウエスト) では、共産国(時代)の音楽が 大きくフィーチャーされていたのですが、ほとんど聴くことができず。 部屋に入ってすぐ、Clara Rockmore のテルミン演奏に入ってしまいました。

『スペシャル・コンサートB面』
東京芸術劇場 コンサートホール
2023/07/08, 16:30-17:30.
1)Jasna Veličković: Remote Me for two remote controls and three coils. 菊地 秀夫 (from アンサンブル・ノマド).
2)Alex Paxton: More Classical Music. アンサンブル・ノマド, 佐藤 紀雄 (conductor, guitar), 芸劇オーケストラ・アカデミー・フォー・ウインド, ノマド・キッズ.
3)Steve Reich: Grand Street Counterpoint, arranged for bassoons by Rebekah Heller. Rebekah Heller (bassoon).
4)大友 良英 [Otomo Yoshihide]: Walk on by for three tone. アンサンブル・ノマド, 佐藤 紀雄 (conductor, guitar), 大石 将紀 (saxophone), 大友 良英 (guitar), ノマド・キッズ.
5)大友 良英 [Otomo Yoshihide]: Walk on by for three tone Live Remix. Jan Bang (electronics), Eivind Aarset (guitar), Anneli Drecker (vocals), Anders Engen (drums), Audun Erlien (bass), 大友 良英 (guitar), 藤倉 大 (electronics).

B面は Alex Paxton や 大友 良英 の曲の様にノマド・キッズも演奏に参加した曲もあるように、こども向けも意識したプログラム。 アンサンブル・ノマドの衣装も一転カジュアルになります。 最初の Remote Me for two remote controls and three coils は、 TV用赤外線コントローラのボタンを押した際に発生する電波 (おそらく信号のために赤外線の高速にオンオフする際に発生する電波) をコイル (形状はコンタクトマイク様) で拾って音響化するというもの。 Rebekah Heller が世界初演した Steve Reich の曲は、録音済みの演奏にライブで音を重ねていくスタイルでした。

大友 良英 の新作曲は、ミュージシャンがステージ上だけではなく客席通路も歩き回っての演奏です。 大友 の叩く太鼓は合図になったり拍子を刻んだりするわけでもなく、 行列になって練り歩くというわけでなくそぞろに、 三連符の様にきっちりでとはなく三つ続ける音をおそらく即興で会場の彼方此方でパラパラと鳴らしていきます。 最後に皆がステージに上がるとやはりそれなりに祝祭感が出ますが、そうなるかならないかのぎりぎりの線を狙ったような演奏でした。 そんな演奏を、ラストには Jan Bang のバンドに 大友、藤倉 を加えて、 ボンクリフェス恒例の Punkt 流 Live Mix。 そぞろな演奏だけに電子的に大きく加工するとほとんど跡形もなく、かなりアンビエントなセッションになりました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

直前の木金は一泊出張だったので、夕方に出張から戻って家に荷物を置いてすぐに会場へ。ぎりぎりに会場に滑り込みました。 1980年代から好きだった Bel Canto の Anneli Drecker の歌声が生で聴けましたし、頑張った甲斐がありました。 疲れていたので土曜は無理せず控えめに。それでも、日曜はどっと疲れが出て、使い物になりませんでした。

[4111] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Jul 11 0:19:44 2023

先々週末の2日日曜は午後に新宿二丁目へ。このライヴを観てきました。

藤倉 大 [Dai Fujikura] & 八木 美知依 [Michiyo Yagi]
『微美』 Bibi
新宿 Pit Inn
2023/07/02, 14:00-16:00.
藤倉 大 [Dai Fujikura] (electronics), 八木 美知依 [Michiyo Yagi] (electric 21-string koto, 17-string bass koto, electronics)

東京芸術劇場のボンクリ・フェス (“Born Creative” Festival) のアーティスティック・ディレクターとしても知られるイギリスを拠点に活動する作曲家 藤倉 大 [Dai Fujikura] が、 jazz/improv 文脈でも活動する箏奏者 八木 美知依 と組んで制作した Bibi 『微美』 (Idiolect, IDJL-001 / Jazzland, 3779539, 2023) [Bandcamp] のリリースに合わせてのライブです。 例年ならボンクリ・フェスの『箏の部屋』 [鑑賞メモ] でやりそうな顔合わせです。 日程の都合で今年は 八木 美知依 がボンクリ・フェス不参加とのことで、こうなったのでしょうか。 途中休憩を1回挟んでアンコール無し、 CDの曲を演奏するというのではなく、前半後半共に曲を明確に切らずのセッションでした。

前半は、まだ耳が慣れないか、掻き/叩き鳴らされる箏の音や、電子的に加工された音のテクスチャに包まれるよう。 後半に入ると、冒頭しばらくは断片的ながら高音の21弦筝で爪弾かれる旋律が浮かび上がったり、 中盤以降、ベース筝をルーパーで回して脈動するようなビートを感じる展開に。 そんな展開に乗る藤倉の弾くキーボードも時にコスミッシュで、意外にもクラウトロックっぽく感じる時もありました。 特に後半は、繊細にプロデュースされた感もあったアルバムとは違った、ライブならではの演奏が楽しめました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4110] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jul 9 22:46:41 2023

先週末の土曜は午後に東銀座へ。この舞台を観てきました。

from Metropolitan Opera House, 2023-05-20.
Composer: Wolfgang Amadeus Mozart; Librettist: Lorenzo Da Ponte.
Production: Ivo Van Hove.
Set and Lighting Designer: Jan Versweyveld. Costume Designer: An D'Huys. Projection Designer: Christopher Ash. Choreographer: Sara Erde.
Cast: Peter Mattei (Don Giovanni), Adam Plachetka (Leporello), Federica Lombardi (Donna Anna), Ana María Martínez (Donna Elvira), Ying Fang (Zerlina), Ben Bliss (Don Ottavio), Alfred Walker (Masetto), Alexander Tsymbalyuk (The Commendatore) et al.
Conductor: Nathalie Stutzmann.
World Premiere: National Theater (now Estates Theater), Prague, 1787.
Premiere of this production: Opéra Bastille (Opéra national de Paris), 2022-02-01.
A co-production of the Metropolitan Opera and Opéra National de Paris.
上映: 東劇, 2023-07-01 13:30-17:13 JST.

オランダ Internationaal Theater Amsterdam の Ivo van Hove が演出を手がけたオペラが Metropolitan Opera live in HD でかかりました。 手かげたのは、好色漢の代名詞ともなっている Don Juan (ドンファン, イタリア語で Don Giovanni) の伝説を Da Ponte によるイタリア語歌詞で Mozart がオペラ化したもの。 元々は17世紀スペインの話ですが、Ivo van Hove らしく現代に置き換えての演出でした。 Maurits Escher の絵に着想したという コンクリート打ち放しのような殺風景な建物が左右後方の3箇所にそびえ、 閉塞感のある迷宮的な空間ながら、3つが回転することで場面が転換して行きます。 全ての場面が夜ということで、照明も暗め。 衣装は、上流階級であればスーツやスリップドレス、庶民であればシンプルなシャツとパンツとミニマル・ルック。 そんな美術や衣装は、現代的というか、20世紀末以降の大都市的ではあるけれども、流行や地域性が捨象されています。

現代に置き換える際に、プレイボーイの笑える話とはせずに、 Don Giovanni をリッチだけれどもサイコパスの性的搾取 (sexual abuse) 常習犯として描きます。 一方、強姦されかかって助けに来た父を殺された令嬢 Donna Anna、 過去に誘惑されて捨てられた貴婦人 Donna Elviram、 今まさに誘惑されかかるもしたたかな庶民の女性 Zerlina の3人の主要な女性登場人物は、 単に Don Giovanni が狙う誘惑相手としてではなく、 それぞれに葛藤を抱えつつ Don Giovanni に接する主体性ある女性として描きます。 そして、そんな女性3人が Don Giovanni の性的搾取を主とする悪事を告発する、まさに Me Too する物語となっていました。

サイコパスが女性を餌食にしていく暗いトーンのサイコスリラーがかった Don Giovanni ではあるものの、 スリラーという程にはシリアスに感じられなかったのは、オペラという形式、それも Mozart の歌の聞きやすさのせいでしょうか。 特に、後半の冒頭、Don Giovanni が Donna Elvira の女中を狙って歌う Serenata はとても蠱惑的で印象に残りました。 また、Don Giovanni の従者 Leporello が、高圧的なカリスマ経営者のパワハラがかった無茶な指示に半ば呆れつつ仕事する部下のようで、良いコメディリリーフになっていました。 演技や演出がリアリズム演劇に寄っていて、舞台裏を見せたり、映像や見立てを駆使した象徴的な演出は控えでしたが、 それだけに、Don Giovanni が地獄に落ちる場面での3つの建物が回転してピッタリ合って密室的な空間への 暗闇に光が走るようなプロジェクションマッピングが、 そして、ラストの街に生活感が戻ったかの変化が、象徴的で効果的でした。

Ivo van Hove の演出というと、 William Shakespeare: The Taming of the Shrew 『じゃじゃ馬ならし』のミソジニーを現代のサッカーファンの姿などで演出したり [鑑賞メモ]、 Romeinse Tragedies [Roman Tragedies] 『ローマ悲劇』 を現代欧州の戦争や政治のニュースや公開討論番組のように伝えたり [鑑賞メモ] と、かなり大胆な翻案を思い出します。 Opening Night [鑑賞メモ] や All About Eve [鑑賞メモ] のような バックステージ物もよく手がけているので、 セクハラ/パワハラ常習の舞台/映画のプロデューサ/監督の Don Giovanni が Me Too される翻案もありそうと思いましたが、さすがにそこまでやっていませんでした。 現代的ながら流行や場所を捨象しつつリアリズムに寄ったオーソドックスな演出は 去年観た La Ménagerie de verre [The Glass Menagerie] 『ガラスの動物園』 [鑑賞メモ] に近いものを感じました。 オペラの場合は演劇のようにはセリフを変えられませんし、このような演出の方が親和性高いのかもしれません。 しかし、細かい設定を捨象することで、ベンチャー経営者やプロデューサなど一見魅力的でカリスマ的な人物にありそうな、現代に普遍的な物語になっていました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]