TFJ's Sidewalk Cafe >

談話室 / Conversation Room

TFJ's Sidewalk Cafe 内検索 (Google)
[4175] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Thu Apr 11 0:08:03 2024

先々週末の土曜は、昼に麻布台でパフォーマンスと展覧会を観た後に、与野本町へ移動して、この舞台を観てきました。

彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
2024/03/30, 15:00-16:10.
Chorégraphie: Noé Soulier.
avec Stephanie Amurao, Julie Charbonnier, Adriano Coletta, Yumiko Funaya, Nangaline Gomis, Nans Pierson.
Musique: Noé Soulier, Tom De Cock et Gerrit Nulens; Interprétation: Ensemble Ictus (Tom De Cock et Gerrit Nulens, percussions).
Lumières: Benjamin Aymard, Victor Burel
Production: ND Productions; Production déléguée : Cndc – Angers
Première: Tanz im August, HAU Hebbel am Ufer, Berlin, 30 August 2018.

コンテンポラリー・ダンスの文脈で活動するフランス出身のダンサー/振付家 Noé Soulier による振付作品の来日公演です。 Soulier は Rosas と関係深いベルギーのダンス学校 P.A.R.T.S. (Performing Arts Research and Training Studios) 出身で、 2020年より Cdnc Anger (Centre national de danse contemporaine) の芸術監督を務めています。 そのバックグラウンドを信頼して、また、Rosas との共演での来日もある [鑑賞メモ] 現代音楽のアンサンブル Ictus が生演奏するということで、観に行きました。

ほぼ剥き出しのブラックボックスの舞台にほぼ白色のフラット気味の照明の中、モノトーンのシンプルなカジュアルウェアのような衣裳のダンサー6人が踊る、ミニマリスティックでアブストラクトなダンス作品です。 物があるかのようにそれを投げる、突く、払う、蹴るといった動作に着想した作品ですが、 日常動作というには大振りですが、マーシャルアーツの動きのような制御された型ではなく、ちょっと無造作さを感じさせる動きから、ダンスが組み上げられていきます。 前半にフロアで絡み合うデュオがありましたが、ダンサー同士が組む場面はほとんどなく、2〜3人のダンサーがシンクロすることがある程度。 Ictus の音楽は打楽器2名によるもので、あらかじめ用意されたものではなくダンスと一緒に創作したとのことですが、 ビートで動きを盛り立てるというとり、動きと音の関係も付かず離れずでそこに緊張感を生むよう。 そんな動きや音から、Rosas からストラクチャの抜いたよう、という印象を受けました。

タイトルは Virginia Woolf の小説 The Waves 『波』 (1931) から採られていますが、 その小説の物語やプロットをナラティヴにダンス化した作品ではありませんでした。 小説中に主観的な身体感覚に関するテキストが3箇所引用され、 作品中の3箇所でそれぞれそのナレーションとそれに合わせたソロがスポットライト中のダンサーによって踊られます。 それはまるで Jean-Luc Godard の映画での字幕のようで、そのテキストによって以降の作品の観方を変えることを狙った異化作用を感じる演出でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4174] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Apr 7 20:59:40 2024

先の週末土曜の昼は、パフォーマンスを観る合間に、この展覧会を観てきました。

A harmonious cycle of interconnected nows
麻布台ヒルズギャラリー
2023/11/24-2024/03/31 (1/1休), 10:00-19:00 (火-17:00;金土祝前-20:00).

自然現象に着想した作品で知られるアイスランド系のデンマーク出身の作家 Olafur Eliason [関連する鑑賞メモ] の個展です。 2023年11月24日にオープンした麻布台ヒルズに併設されたギャラリーの開館記念として開催されたものです。 同じ森ビル系の六本木ヒルズにある森美術館と比べるとかなり麻布台ヒルズの展示スペースは小規模です。

«Firefly biosphere (falling magma star)» (2023) はペンダントライト風の 回転して移ろう光と影が織りなす色彩を楽しむ作品ですが、 外部から強い光を当てる作品から [鑑賞メモ] から、 内部にLED光源を内蔵する作品への展開も、光源の技術的な進化によって可能になったというところでしょうか。

レンズで集光した太陽光を紙の円盤に焼き付けた «Sun drawing» シリーズや、 風による振り子の振動をアクリルインクで紙の円盤に記録した «Wind writing» シリーズ、 «The melting globe» シリーズのような淡い顔料のシミのような水彩画など、 自然現象を相手にしているだけに単純な幾何学的形状にならないものの、 スッキリ端正な抽象画に落とし込んでいます。

今回の展示のハイライトであるブラックボックス中のインスタレーション作品 «Your split second house» (2010) は、 回転するホースから噴き出すのたうつような水飛沫の連なりを、ブラックボックス中のストロボライトで断続的に視覚的に切り出していくようです。

西麻布ヒルズギャラリーのオープニング展に Olafur Eliasson が選ばれたのは、 Eliasson の «A harmonious cycle of interconnected nows» (2023) が 西麻布ヒルズ森JPタワーオフィスロビーにパブリックアートとして展示されることになったという経緯からなのですが、 再生亜鉛合金の粗い粒が連なるような形状は «Your split second house» の水滴の連なりにも重なるところがありました。

ギャラリーに併設されたカフェでは Studio Olafur Eliasson Kitchen とコラボレーションした ビーガンフード、ベジタリアンフードなどを使ったりメニューも提供していました。 共同開発した和食や発酵文化を取り入れた点の興味を引かれたのですが、奇を衒ったものではなく、赤米のおにぎりや味噌汁が付いていました。

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[4173] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Apr 2 21:36:15 2024

先の週末土曜は昼に麻布台へ。 麻布台ヒルズでは、開業した11月末 [鑑賞メモ] に続いて、 この3月末にも『Azabudai Hills Spring -麻布台ヒルズの春-』と題して、 中央広場やアリーナを使い、街中・野外で上演される演劇、ダンス、サーカスなどのパフォーマンス (フランス語で “Arts de la rue” と呼ばれる) のイベントを繰り広げていました。 美術展を観に行った合間の時間を使って、30日の昼、12時から13時にかけて観てきました。 今回はローヴィング・アクト (roving act) (回遊型のパフォーマンス)を揃えたという感じでした。

麻布台ヒルズ アリーナ
2024/03/30, 12:00頃
Jean-Louis Cortès, Jeanne Cortès

11月末 [鑑賞メモ] はソロだった Macadam Piano ですが、今回は violin を弾く Melle 1925 を連れて。 名前の通り Art Déco 期というか Les Années folles を思わせる服装ですが、 演奏していた音楽はそこまでその時代を思わせるものではなかったような。

麻布台ヒルズ アリーナ
2024/03/30, 12:50頃

イギリスの Theatre Illumiere によるスティルト (stilt; 高足) のウォーキングアウト。 スティルトのウォーキングアクトというと、ヨーロッパ中世風やスチームパンク風のファンタジー色濃い出立ちでミステリアスな演出をするものが多いという印象がありました。 しかし、これは、人間彫刻、それもカートゥーン的なディフォルメをされたコミカルさで、フレンドリーにグリーティングしていました。 こういうのもアリだったか、と。

麻布台ヒルズ 中央広場
2024/03/30, 12:50頃

お馴染みスリンキー (slinkie; 螺旋状のワイヤを骨に持つ伸縮折り曲げ自在なパイプ) を使ったショーです。 2000年代初頭は Theater Rue Piétonne をよく観たものでしたが [鑑賞メモ]、 今回出演していたのはオーストラリアのカンパニー Bedlam Oz。 プログラムはストーリー仕立てのショーではなく、スリンキー姿で取り囲んだ観客に戯れついたりというグリーティングを10分程度。 そのあとはスリンキーを脱いで整然と退場しました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

美術展の方の話はまた後ほど。

[4172] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Mar 31 18:40:48 2024

先の土曜の夕方は、渋谷から三軒茶屋へ移動。この公園を観てきました。

世田谷パブリックシアター シアタートラム
2024/03/23, 17:00-18:10.
演出: 小野寺 修二.
出演: 數見 陽子, 丹野 武蔵, 大西 彩瑛, 鈴鹿 通儀, 藤田 桃子, 小野寺 修二; 桂 小すみ (三味線演奏).
照明: 阿部 康子; 音響: 池田 野歩; 美術: 松岡 泉, 石黒 猛; 衣装: 今村 あずさ; 舞台監督: 橋本 加奈子, 鈴木 章友; イラストとチラシデザイン: チャーハン・ラモーン; 稽古手話通訳: 清田 真見, 井本 麻衣子; 制作協力: 河野 遥
新作公演.

マイムをベースとしたカンパニーデラシネラ [関連する鑑賞メモ] の新作は Albert Camus の未完の自伝的小説をモチーフにした作品です。 モチーフが採られた小説はおそらく Le Premier Homme『最初の人間』 (1994) かと思われますが、 フライヤや当日リーフレットにもタイトルが明記されていませんでした。 このカンパニーは必ずしも台詞を排した作品作りをしているわけでは無いですが、この作品では、三味線演奏者の歌はありましたが、台詞なしでした。

祖母役こそ 藤田 に固定されていましたが、1人で複数役が演じられます。 さらに、冒頭の場面こそ馬車での旅、そして出産準備のシーンでしたが、 父の墓参りの場面や鶏小屋の場面などは終わり近くにあります。 衣裳や美術も抽象度は高く、 日干しレンガを思わせる土くれた質感のスケールを三分の一程度にした方形を組みあわたような建物のセットが、 そして祖母のスカーフと、時折被られる赤いトルコ帽が、近代の旧オスマン帝国領 (フランス植民地時代のアルジェリア) が舞台であることをかすかに想起させる程度です。 そんなこともあってか、小説の展開や登場人物の内面などを追うナラティヴな作品ではなく、断片的なイメージのスケッチを積み重ねていく抽象度高めの作品に感じられました。

そんなスケッチの中では、影を上手く使った墓参の場面や、 冒頭の馬車の場面や中盤にあった列車での移動の場面など建物のセットを他のものに見立てる場面などに、いかにもデラシネラらしい演出を楽しみました。 銃やピストルの小道具も使われましたが、戦争や暴力の影を感じる程度。 いくつかのスケッチで使われた、ふと蘇った記憶か幻影かのように周囲の人が消える終わらせ方、 そしてラストの電燈を見上げる場面などから、ノスタルジックというか感傷的な余韻を残しました。 その一方で、テーブルの移動やライティングで場面を切り替えるものの、 舞台奥中央にどっしり動かない日干しレンガの建物風のセットがあったせいかダイナミックな空間変容は感じられず、 動きが控えめな静かなスケッチが連なるようでした。

カミュの母はろう者だったというエピソードにフライヤで触れており、 日本ろう者劇団の 數見 陽子 が出演していましたが、 手話に疎いからかもしれませんが、開演直前の注意事項の案内を除いて明らかにそれとわかるような演出はありませんでした。 また、音楽は寄席囃子の 桂 小すみ による生演奏に、録音を重ねたもの。三味線演奏とクレジットされていますが、太鼓などの打楽器も使いました。 ミュージカル専攻というバックグラウンドを活かしてオペラ (記憶が怪しいですが確か La traviata) の一節を歌ったりもしましたが、 録音では取って付けた感が強くなる所、それとは違った異化作用を感じられて、そこに生演奏の良さを感じました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

公演後、馴染みのヨーロピアンビアパブ Pigalle Tokyo で一杯やったのですが、 隣になったのが偶然、コンテンポラリーダンスをよく観ている方。 今回のカンパニーデラシネラは観ていないようですが、主要な海外カンパニーの来日公演はほぼ観ているような方で、 Dimitris Papaioanou 観に京都行きましたよね、とか、来週末は Noé Soulier ですね、とか、会話が盛り上がりました。 こういう偶然があるので公演後の一杯は楽しいものです。

[4171] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Mar 25 22:43:06 2024

先の土曜の午後は、雨上がりに渋谷文化村へ。休館中の建物を使った展覧会を観てきました。

『渋谷ファッションウィーク2024春 - THE INSTALLAYION II』
Bunkamura 地下1階
2024/03/16-2024/03/24, 13:00-20:00 (最終日 -18:00)
西野 達, evala.

『渋谷ファッションウィーク2024春』の一環の、 東急本店跡再開発工事のためオーチャードホールを除き休館中の Bunkamura 地下1階を使ったインスタレーション展示です。 西野 達、evala の2人のインスタレーションが展示されていました。

西野 達 といえば公共彫刻の人物像などの周囲に小部屋などを作り込むインスタレーションで知られますが、 今回はそのような作風のものではなく、Bunkamura 内施設で使われてきた什器備品の表面をミラーボールに使う小さな鏡で埋め尽くしたものを吊るした “Mirrorball Furniture”。 作家の意図とは違い、ミラーボールというより人工衛星のように見えるものになっていたのは面白く感じましたが、 使われていない空間を大胆に使ったインスタレーションを観たかったように思いました。

evala の作品は、1年前に閉鎖された音楽スタジオの空間を使ったインスタレーション “Sprout”。 録音用の各種機材が運び出された後の薄暗いスタジオに小型のスピーカを疎に敷き詰めたり、 暗いオペレーションルームに小さなディスプレイ2台でスタジオの映像を薄し出したり。 そこで流す音も控えめな物音、電子音のようなもの。 作家性を強く主張するというより、その空間の雰囲気を活かしつつ、スタジオ跡の見学を誘うかのようなインスタレーションでした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4170] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Mar 24 22:50:45 2024

先の水曜、春分の日の晩に、配信でこのダンス映画を観ました。

Based on the stage production Creature by Akram Khan, A Co-Production between English National Ballet and Opera Ballet Vlaanderen, Co-Producer: Sadler's Wells, 2021.
Director: Asif Kapadia; Producer: Uzma Hasan of Little House Production.
Choreography and Stage Direction: Akram Khan; Original Music and Sound Design: Vincenzo Lamagna; Visual and Costume Design: Tim Yip, with the voice of Andy Serkis; Repetiteurs: Mavin Khoo, Nicky Henshall; Original Stage Lighting Design: Michael Hulls; Dramaturgy: Ruth Little; Assistant Choreographer: Andrej Petrovic; Sound System Designer: Yvonne Gilbert.
Director of Photography: Daniel Landin b.s.c.; Editor: Sylvie Landra a.c.e.
Cast: Jeffrey Cirio (Creature), Erina Takahashi (Marie), Stina Quagebeur (Doctor), Ken Saruhashi (Captain), Fabian Reimair (Major), Victor Prigent (Andres), et al.
English National Ballet Philharmonic, Music Director: Gavin Sutherland
Filmed in the Holloway Production Studio, English National Ballet, London (Mulryan Centre for Dance)
配信: NHKオンデマンド, from 2024-03-19 to 2024-04-16.

ロンドンを拠点に活動するバングラディシュ系イギリス人の振付家 Akram Khan [関連する鑑賞メモ] が English National Ballet のために制作したダンス作品を映画化したものです。 いわゆる劇場中継ではなく、劇場同等のセットを English National Ballet の持つ Holloway Production Studio に作り、そこで劇場に近い形で上演されたものを撮影しています。 劇場中継に近い作りですが、カメラの動きやノイズなどのエフェクト、回想シーンの挿入など劇場中継ではできない映像演出も使われています。

物語バレエというか、バレエのイデオムはほとんど使われない、コンテンポラリーなダンス作品です。 「Mary Shelley の Frankenstein の影と共に、Georg Büchner による表現主義の古典 Woyzeck に着想」とのことで、 Frankenstein の怪物 (Creature) が北極へ向かった後日譚として、 北極圏にある軍事組織下の収容所らしきディストピアで生体実験の実験台にされる Creature の物語として Woyzeck を翻案したような物語でした。 Creature が表現主義的というか苦しみ悶える様をのたうち回るようなダンスとして表現する一方で、 モノトーンのシンプルな衣装をまった軍事組織の人々の体操を思わせる力強い動きでの群舞がコントラストとなり、 わかりやすくもディストピア的な不条理の描写を楽しみました。

しかし、着想したという Woyzeck にあった階級と貧困の問題 [関連する読書メモ] が無くなってしまった点は物足りなく感じました。 Woyzeck では主人公は嫉妬で錯乱して Marie を殺して自分も溺死してしまう破滅的な結末を迎えますが、 Creature では Marie は死んでしまうものの Creature (Woyzeckに対応) が手をかけるわけではなく、死んだ Marie を抱えて昇天するかのようで、そこに救済を感じました。

Akram Khan が English National Ballet のために制作した作品は、これで3作目。 最初の Dust (2014) は未見ですが、 Giselle (2016) は配信で観ています [鑑賞メモ]。 Woyzeck のプロットが好みということもあるのか、 バレエ的な要素が後退したこともあるのか、Giselle と比べて楽しめました。 こういう公演を生で観たいものです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

この週末金曜晩、 筑波大学第6回 オンラインによるロシア・中央アジア映画上映会による配信で映画 Yo'ldosh A'zamov: Maftuningman [Юлдаш Агзамов: Очарован тобой]] 『きみに夢中』 (O'zbekfilm [Узбекфильм], 1958) を観ました。 時代は雪解け直前、ソ連時代のウズベキスタンで制作されたミュージカル映画、 というかミュージカル映画制作のために新人オーディションなどする様子を通してウズベキスタン各地の歌や踊りを取り上げたメタ映画です。 映画のスタイルにしても、映画中で使われている伝統的な音楽・舞踏をオペラ・バレエ的な制度で舞台芸術化するかのようなスタイルにしても、時代を感じるところがありましたが、 ソ連時代の中央アジアの映画にしても音楽・舞踊にしてもなかなか接することが無いものなので、とても興味深く観ることができました。

[4169] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Wed Mar 20 23:20:24 2024

先々週末と先週末の土曜は、 シアター・イメージフォーラム『ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティヴ 美を患った魔術師』で、 1980年代から1990年代初頭にかけての Peter Greenaway の映画4本を観てきました。

The Draughtsman's Contract (4K remaster)
『英国式庭園殺人事件 (4Kリマスター)』
A film by Peter Greenaway
1982 / Vista / monoral / 107 min.
Produced by British Film Institute (BFI) in association with Channel Four. Remastered in 4K by BFI National Archive, 2022.
Starring: Anthony Higgins (R. Neville), Janet Suzman (Virginia Herbert), Anne Louise Lambert (Sarah Talmann), Neil Cunningham (Thomas Noyes), Hugh Fraser (Mr. Talmann).
Photography: Curtis Clark; Art Direction: Bob Ringwood; Costume: Sue Blane; Music by Michael Nyman; Written and Directed by Peter Greenaway.
上映: シアター・イメージフォーラム, 2024-03-16 15:45-17:42.

Greenaway の長編劇映画 (feature film) の第1作です。 舞台は1694年のイングランド南西部ウィルトシャーの田舎の屋敷 (country house)。 その屋敷に招かれた画家 R. Neville は、屋敷の主人の妻 Mrs. Virginia Herbert と、 夫 Mr. Herbert が不在の間に邸宅を含む風景画を12枚描くという契約を結ぶことになり、その殺人事件に巻き込まれるという話です。 映画の中で謎が明かされることはありませんが、 Neville の契約は、関係が冷え仕事で不在がちな Mr. Herbert の殺害の罪を Neville に着せ、子の無い Mrs. Talmann に相続人となる子を妊娠させるいう、 邸宅の地所の相続を目的とした Mrs. Herbert とその娘 Mrs. Sarah Talmann の策略だったと、暗示されます。 母娘の策略とその道具に使われることとなる男、リアリズム的な心理描写に欠け、むしろ、セックスや殺人も契約や相続を巡るゲームの一部のような展開で、 特殊なライティングやグロテスクな細部はまだあまり見られませんが、 横移動はあれと動きの少ないカメラによる奥行き感を殺した正面性の強い画面作りによる様式的な映像は、 Drawning By Numbers (1988) の原点を観るようです。

A Zed & Two Noughts
『ZOO』
A film by Peter Greenaway
1985 / Vista / 2.0 ch / 116 min.
A BFI Production/Allarts Enterprises/Artificial Eye Productions/Film Four International Co-production.
Starring: Andrea Ferréol (Alba Bewick), Brian Deacon (Oswald Deuce), Eric Deacon (Oliver Deuce), Frances Barber (Venus de Milo), Joss Ackland (Van Hoyten).
Written and Directed by Peter Greenaway; Music by Michael Nyman; Director of Photography: Sacha Vierny; Film Editor: John Wilson; Production Designer: Ben Van Os & Jan Roelfs.
上映: シアター・イメージフォーラム, 2024-03-16 18:30-20:36.

以降で継続的に協働する Sacha Vierny (撮影)、Ben Van Os & Jan Roelfs (プロダクション・デザイナ) が参加した初めての作品です。 アムステルダムの動物園で働く双子の動物学者 (Oswald, Oliver) が、自動車事故で同時に妻を亡くしたことを契機に、動物の死体の腐敗を記録する実験にハマっていくという話です。 リアリズム的な心理描写や物語に欠ける展開で、謎めいている部分も含めて多分に寓話的です。 双子という主人公もそうですがシンメトリーにこだわった、 また、カタツムリなど使ったフェティッシュさを感じる画面作り、 死体の腐敗のタイムラプス映像と生物進化のドキュメンタリー映画の対比などが、強く印象を残します。

Drawning by Numbers (4K remaster)
『数に溺れて (4Kリマスター)』
A film by Peter Greenaway
1988 / Vista / 2.0 ch / 118 min.
A Allarts Enterprises/Drawing By Numbers BV/Film Four International/Elsevier Vendex Film Co-production; 4K remaster: Severin Films, 2023.
Starring: Bernerd Hill (Madgett), Joan Pluwright (Cissie Colpitts), Juliet Stevenson (Cissie Colpitts), Joely Richardson (Cissie Colpitts), Jasen Edwards (Smut), et al.
Director of Photography: Sacha Vierny; Production Designer: Ben Van Os & Jan Roelfs; Production Sound: Garth Marshall; Music: Michael Nyman; Film Editor: John Wilson; Written and Directed by Peter Greenaway;
上映: シアター・イメージフォーラム, 2024-03-09 13:15-15:23.

舞台は現代のイングランド東部サフォークの海近く。 同じの名を持つ母とその娘、姪の3人の Cissie Colpitts による溺死による夫殺しと、 それを事故死とするよう求められ最後には溺死させられる検視官 Magett の話です。 The Draughtsman's Contract の変奏のようなプロットですが、 夫殺しに財産相続のような動機すら感じられないこと、 Madgett は Neville のように女性たちと性的関係を結べずに拒絶されること、など、さらに徹底した感があります。 映画の中で様々なゲームが描写され、Cissie たちと彼女たちの夫殺害を疑う人々の争いすら綱引きとして描かれるなど、世の中はすべてゲームであるといった感すらあります。 ZOO ほどではないもののグロテスクなフェティッシュを感じさせ、 また、不自然なライティング使いや対称性を強調した画面など、 ストーリーだけでなく映像も様式性を強く感じます。

Prospero's Book
『プロスペローの本』
A film by Peter Greenaway
An adaptation of The Tempest by William Shakespeare.
1991 / Vista / 2.0 ch / 126 min.
A Miramax/Kees Kasander Production.
Starring: John Gielgud, Michael Clark, Michael Blanc, Erland Josephson, Isabelle Pasco, Tom Bell, Kenneth Cranham
Directed and Written by Peter Greenaway; Director of Photography: Sacha Vierny; Music by Michael Nyman; Infography by Eve Ramboz; Edited by Marina Bodbijl; Production Design by Ben Van Os & Jan Roelfs.
上映: シアター・イメージフォーラム, 2024-03-09 15:45-17:58.

1990年代に入って当時最新の映像技術だったハイビジョンを使って撮影された映画です。 William Shakespeare 最後の作品 The Tempest に基づくもので、翻案で大きく話が変えられていることもなく、今回観た4作品の中では最もわかりやすいストーリーです。 しかし、リアリズム的な劇映画にしているわけではなく、オペラ・バレエを思わせる様式的な過剰な舞台作品的な演出がなされ、神話的な叙事詩として映像化しています。 マルチウインドウやオーバーレイによる画面の組み合わせを行ったり、本を擬したアニメーションを字幕に使うなど、オーソドックスな劇映画からは外れた多分に視覚デザイン的なセンスを感じる画面作りです。

怪物 Caliban 役でコンテンポラリー・ダンスの文脈で知られるダンサー/コレオグラファー Michael Clark が出演して、舞踏も思わせる奇怪なダンスを披露しています。 さらに、コレオグラファーとしてもクレジットされ、映画中のあちこちで彼が振付た群舞を含むダンスが期待以上に観られます。 Michael Clark のダンス映画としても観られる映画でした。

The Draughtsman's ContractDrawning By Numbers は日本公開当時に観ていましたが、 4Kリマスターの精細な画面で見直すことで、この様式的な作風の Peter Greenaway を堪能できました。 ZOO は当時観た覚えはないのですが、音楽に聴き覚えがあって、少々不思議な気分でした。 Prospero's Book も初見でしたが、自分がバレエやオペラにもそれなりに親しむようになっているせいか、 また、The Pillow Book (1996) など1990年代のコンピュータ編集した画面を駆使した作風の原点という点でも、興味深く観られました。 4Kリマスターと交えてみたせいか、ハイビジョンでも精細さに欠けて見えてしまったのが、残念。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4168] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Wed Mar 13 23:15:20 2024

十日前の日曜は、午後に三軒茶屋へ。この公演を観てきました。

Ate9 Dance Company / Danielle Agami (choreo.)
EXHIBIT B / calling glenn
世田谷パブリックシアター
2024/03/04, 15:00-17:00.
Artistic Direction and Choreography: Danielle Agami
Director's assistant and production: Andrea Just; Dramaturge: Rebecah Goldstone; Lighting designer: Bernat Jansà.
Dancers: Manon Andral, Adrien Delépine, Björn Bakker, Julien Guibourg, Carmela di Costanzo, Yun-Ting Tsai, Óscar Pérez.
EXGHIBIT B
Year: 2017; Length: 30 min.
Music: Omid Walizadeh.
calling glenn
Year: 2016; Length: 50 min.
Live Music: Glenn Kotche.

中東系ユダヤ人のルーツを持ち、イスラエルの出身で Batsheva Dance Company での活動の後、 アメリカに拠点を移したダンサー/振付家 Danielle Agami が、 2012年に立ち上げたロサンジェルスを拠点とするカンパニー Ate9 Dance Company のダブルビルです。 Batsheva Dance Company はそれなりに観ているという程度の事前知識で、 アメリカのコンテンポラリー・ダンス・カンパニーが来日する機会が少なく (自分が観たのは Benjamin Millepied L. A. Dance Project [鑑賞メモ] 以来10年ぶり)、 久々に観る良い機会かと足を運びました。

前半はイスラエルの紛争 (conflict) をテーマにしたという30分ほどの作品です。 7人のダンサーによる、体をぶつけたり投げ出したりという荒い動きと、日常的と感じる動きが、交錯します。 ロサンジェルスのイラン系DJによるアブストラクトなブレイクビーツを使い、 後方や袖は暗く落とし、白っぽい床に薄くベージュがかった白の衣裳でにライティングのみミニマリスト的な演出でしたが、 それが単調にも感じられ、掴みどころなく感じました。

後半は、オルタナティヴ・ロック Wilco のドラマー Glenn Kotche による生伴奏を使った50分ほどの作品です。 前半と同じ7人のダンサーによって演じられました。 壁も床も剥き出し感のある状態で、ジェンダーレスな黒の衣裳で時に赤を纏い、折り畳みパイプ椅子を道具に使います。 一人から数人の間の日常的なやり取りを時にデフォルメしたかのようなスケッチを、音楽に即興的なダンスも交えつつ、繋げていくような展開でした。 ユーモラスな動きも多く、また、生演奏の伴奏も爆音ドラムから鉄琴類の繊細な音までメリハリある緊張感で、グッと引き込まれて観ることができました。

良かった後半 calling glenn の印象のおかげもあってか、 もしくは、公演後のトークでの気取らない雰囲気もあってか、抽象度高めの作品の割には親しみやすやを感じました。 そういう所はヨーロッパのカンパニーにはあまり無い雰囲気かもしれません。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4167] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Mar 10 20:38:32 2024

先週末土曜は、昼過ぎ初台へ。この公演を観てきました。

『カルメル会修道女の対話』
新国立劇場 中劇場
作曲 [Music by]: Francis Poulenc; 台本 [Libretto by]: Georges Bernanos.
演出・演技指導 [Production]: Stephan Grögler;
キャスト: 野口 真瑚 (Blanche de la Force), 小林 紗季子 (Madame de Croissy), 宮地 江奈 (Madame Lidoine), 後藤 真菜美 (Mère Marie), 谷 菜々子 (Sœur Constance), 他
指揮 [Conductor]: Jonathan Stockhammer.
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団.
初演: Teatro alla Scala, Milan, 1957; このプロダクションの初演: 新国立劇場 中劇場, 2024-03-01.
制作 [Presented by]: 新国立劇場.

2018/2019シーズンのMet Opera live in HD で観て以来 [鑑賞メモ]、上演を生で観たいと思っていたオペラが、 2024年の新国立劇場オペラ研修所 修了公演として取り上げられたので、観てきました。

フランス革命時という時代設定そのままの衣裳はオーソドックスなものでしたが、 舞台美術はミニマリスト的ではないものの、抽象度が高め。 廻舞台を使い、その中央に立った三柱の枠と一本の道を様々に見立てていきます。 現代演出というほどはではない、Met Opera の John Dexter 演出に近いでしょうか。 さらに、枠に掛けられた布を少しずつ落としていくことで、状況の悪化を示すだけでなく舞台の抽象度が上ります。 貴族の邸宅を表す豪華なタペストリー風のプロジェクションマッピングされた布がかけられた枠が、 最後にはギロチン台になってしまいます。 処刑は、パフォーマーの引き攣ったポーズとギロチンの音に合わせて紐から下げられる布を落とすことで表現しました。

公演の性格からしてその質は、世界トップレベルが演じる Met Opera live in HD や Olivier Py 演出の Le Théâtre des Champs-Elyseés のBD/DVD [鑑賞メモ] と比ぶべくもありません。 やはり修了公演だなと思いつつ観始めましたが、結局、作品世界中に思い切り感情移入しながら観てしまいました。 公演を生で観て良いオペラ作品と改めて実感しましたし、それを味わうのに十分なレベルの演出・演技でした。

話は変わって。公演後、隣の建物で開催中の 展覧会を観てきました。

Trubute to RYUICHI SAKAMOTO - Music / Art / Media
NTTインタコミュニケーション・センター[ICC] ギャラリーA
2023/12/16-2024/03/10 (月休; 月祝開,翌火休; 12/28-1/4休), 11:00-18:00.
Strangeloop Studios, 高谷 史郎, Dumb Type, Carsten Nicolai, 404.zero, Kyle McDonald, 真鍋 大度, 毛利 悠子, Rhizomatiks, 李 禹煥.

2023年3月の死去後に企画された展覧会で、会場規模からしても、回顧展というほどの内容ではありません。 入口側半分が暗室でのインタラクティヴな映像上映3作品、その奥に明るいギャラリーでの追悼的な展示がされていました。 真鍋 大度 とコラボレーションした映像作品が、Rhizomatics というより、むしろ 池田 亮司 (Dumb Type) に近く感じられたのは、 パフォーマンス的な動きの無いスクリーンへの上映というスタイルのせいでしょうか。 そんなことに興味を引かれた展示でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4166] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Feb 25 19:03:32 2024

この週末土曜は、昼過ぎに恵比寿へ。この映画を観てきました。

『夢の涯までも (ディレクターズカット4Kリストア版)』
Ein Film von Wim Wenders
1991 / 1994 (Director's Cut / 2014 (4K Restaurierung) / Super 35mm Eastmancolor (4K Restaurierung: DCP) / 1:1,66 / Dolby Stereo / 179 min (Director's Cut: 287 min).
Produktion: Road Movies Filmproduktion GmbH (Berlin), Argos Films S.A. (Neuilly), Village Roadshow Pictures Pty. Ltd. (Sydney); 4K Restaurierung: Wim Wenders Stiftung.
Darsteller: William Hurt (Sam Farber / Trevor McPhee), Solveig Dommartin (Claire Tourneur), Sam Neill (Eugene Fitzpatrick), Max von Sydow (Henry Farber), Rüdiger Vogler (Philip Winter), Jeanne Moreau (Edith Farber), u.a.
Regie: Wim Wenders; Produzenten: Anatole Dauman, Jonathan Taplin, Wim Wenders; Drehbuch: Wim Wenders, Peter Carey, nach einer Idee von Wim Wenders und Solveig Dommartin,
上映: 『恵比寿映像祭2024』地域連携プログラム, 東京都写真美術館1階ホール, 2024-02-23 12:50-17:50.

1991年公開 (1994年ディレクターズカット版公開) のWim Wendersの映画の4Kレストア版です。 公開当時に観なかったので、これも良い機会かと、『恵比寿映像祭2024』地域連携プログラムの一環の上映を観ました。 途中休憩1回を挟んで二部構成、計5時間弱はさすがに長すぎで、最後まで観たという達成感はありましたが、集中力がそこまで持つわけではなく、消化不良感の残る鑑賞体験でした。

物語の舞台は1999年で、制作された1991年から見て近未来を舞台としたSci-Fiです。 といっても、第一部はSci-Fi色は薄めで、何からの理由で追われるように旅する男 (Trevor McPhee / Sam Farber) と 彼と偶然出会った淪落した生活を送る女性 (Claire Tourneur)、その元恋人 (Eugene Fitzpatrick) や、彼女に雇われた探偵 (Philip Winter) が、 追いつ追われつパリ、ベルリン、リスボン、モスクワ、シベリア、中国、東京、サンフランシスコ、オーストラリア (都市、地域、国と粒度が揃っていませんがこれが映画での描写の粒度) と世界を巡るロードムービーです。 一同がオーストラリアのアボリジニ居住区にたどり着いてからの第二部は、 インドの核衛星の爆破の影響を受けて、アボリジニ居住区でのポスト=アポカリプスな生活とそこからの復帰を描いた物語となります。 視覚転送技術という夢を追うマッドサイエンティスト的な父 (Henry Farber) と、その妻 (Edith) と子 (Sam) の間の愛と葛藤がテーマとして浮かび上がります。 さらに、視覚転送技術が完成し核衛星爆破でも世界は無事だったと判明した後、再び物語は大きく転換し、 夢の視覚化への視覚転送技術の応用、その結果、自己の夢に中毒するHenry、SamとClaire。そして Eugene による Claire の治癒、救済の物語となります。 テーマを色々盛り込み過ぎで、それぞれのテーマの掘り下げが足りず、大味です。 また、第一部の展開は追いつ追われつの話にしては描写や展開が緩いです。 長大な物語としたのも神話的な叙事詩にしたいという作家の意図なのでしょうが、 物語を整理してテーマを掘り下げ、1話1時間半程度の全4回のシリーズ物にしても良かったのではないかと思ってしまいました。

その一方で、この映画を観ていて、1989年東欧革命後、ソ連崩壊中で冷戦はほぼ決着は付いたロスタイムのような時間帯、 ホブスボームの言う「短い20世紀」が終わったもののまだ21世紀の姿が見えない、そんな隙間の時代を思い出しました。 1980年代前半であれば核戦争による破局は現実的な脅威でしたが、その代わりに描かれる核衛星の爆発の描写は、 ポスト=アポカリプスな生活の描写や結局世界は無事だったという結末など、楽観的な雰囲気です。 これは冷戦終結で核戦争による破局は回避されたという当時の時代の雰囲気の反映でしょうか。 細部を見ても、登場人物-特に女性の主役の Claire-の服装が1980年代のスタイルで、 当時勃興しつつあったポストレイヴのクラブカルチャーに見られるようなドレスダウンしたカジュアルなスタイルが見られません。 もちろん、服装だけでなく、冒頭のパーティの様子やバーの雰囲気にも、映画中の音楽にも1990年代後半には一般的となるテクノ/エレクトロニカの影響はなく、クラブカルチャーの影響を微塵も感じさせません。 特に第一部の生活感の無い描写は、1970年前後のカウンターカルチャーを出自に持ちながらも1980年台にはリッチなエスタブリッシュメントとなった人々を想起しました。

Sci-Fiということで、自動車やテレビ電話にみられた近未来的な技術の描写も気になりました。 映画が制作された1991年に1990年代後半のインターネットやGUIを持つPCの急速な普及 (スマートフォンの普及はもう少し後) など予想できるわけもないのですが、 電子メール、ウェブのようなインターネット・サービスは無く、探偵が使う人物追跡システムの検索端末もTVゲームのようなGUIです。 第二部後半で描写される視覚化された自己の夢に中毒するというエピソードは、自己完結した自己愛か他者からの承認欲求という違いはありますが、現在であればSNS依存症として描かれたのかもしれません。このような点は慧眼かもしれません。

このような理由もあって、物語それ自体というより、映画から感じられた1990年代初頭の時代の雰囲気が強く印象に残りました。 そして、それから社会は大きく変わってしまったのだな、と。

前作 Der Himmel über Berlin 『ベルリン・天使の詩』 (1987) に良い印象が残っていなかったこともあり、 公開当時にこの映画は観なかったのですが、 好きだったミュージシャンがこの映画のために録音した曲を多く収録していたので、 サウンドトラックCD Until The End Of The World (Warner Bros., 9 26707-2, 1991) を買って聴いていました。 好きな音楽なので期待していましたが、映画の中での印象的な使われ方されているという訳ではありませんでした。 そもそも、ロック、ポップのようなポピュラー音楽は時代に紐付きやすいので、近未来Sci-Fi映画向けではないのかもしれません。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4165] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Feb 18 21:47:49 2024

この週末土曜は、晩に日比谷へ。このコンサート映画を観てきました。

A Film by Jonathan Demme and Talking Heads
1984 / 2023 (4K Restoration) / color / vista / 5.1ch / 107min.
Talking Heads Films presents / A24 presents (4K Restoration)
starring: David Byrne (vocals, guitar), Tina Weymouth (bass, keyboards), Chris Frantz (drums, percussion), Jerry Harrison (guitar, keyboards); with Bernie Worrell (keyboards), Alex Weir (guitar), Steve Scales (percussion), Lynn Mabry (chorus), Edna Holt (chorus).
Produced by Gary Goetzman; Directed by Jonathan Demme; Concieved for the stage by David Byrne; Edited by Lisa Day; Director Of Photography: Jordan Cronenweth; Visual Consultant: Sandy McLeod.
上映: TOHOシネマズ日比谷, 2024-02-17 19:20-21:00.

Talking Heads: Speaking In Tongues (Sire, 9 23883-1, 1983) のリリースに合わせて行われたツアーの 1983年12月13〜16日ロサンジェルス Pantages Theater でのライブ (リハーサル1回、本番3回) を収録編集した1984年公開のコンサート映画を、2023年に4Kレストアしたものです。 DVDやHD配信で何度となく見返している映画ですが、4Kレストア版を大画面で観ることで、改めてその演出の面白さ、特に照明デザインの巧みさに気付くことができました。

確かに、剥き出しの舞台で録音されたリズムをラジカセで再生しながら David Byrne 一人弾き歌う “Psycho Killer” から 少しずつ人や楽器が増えて舞台そして音楽が組み上がっていく様を見せるかのような前半は、 Trisha Brown のポストモダン・ダンス映画 Accumulation with Talking plus Watermotor (1979) [鑑賞メモ] や New Order: “The Perfect Kiss” (1985) のミュージックビデオ [鑑賞メモ] という Jonathan Demme が手掛けた他の作品との共通点もあり、とても興味深いものがあります。

しかし、舞台が組み上がった後半 “Making Flippy Floppy” 以降は、異化を通して舞台の成り立ちを見せるような演出から、グッと没入感のある演出へ切り替わります。 それまでの剥き出しの舞台にフラット気味な照明からうって変わり、 舞台をブラックボックスもしくは背景のみスクリーンにし、照明を横もしくは下から当てることでパフォーマーを黒い背景、もしくは、映像を背景に不自然に浮かび上がらせ、 正面から当てる際は背景に映る影まで計算に入れます。 字幕や写真、ビデオなどが投影された背景スクリーンにパフォーマーを黒くシルエットとして見せます。 今でこそコンテンポラリー・ダンス/バレエや現代的な演劇でよく見られる照明デザインですが、その照明デザインを手がけたのは Beverly Emmons。 Merce Cunningham Dance Company などのポストモダン・ダンス作品や、 Robert Wilson が演出したオペラ Einstein On The Beach (1976) や The Civil Wars の照明デザインを手がけた人によるものです。

4Kレストア版公開に合わせて Stop Making Sense について Beverly Emmons へインタビューした記事 “Uncovering Hidden Insights with Stop Making Sense Lighting Designer Beverly Emmons” (2023-12-27) によると、 David Byrne の当時のガールフレンド Adelle Lutz が Robert Wilson: The Civil Wars 関連の日本でのワークショップへ通訳として帯同したことをきっかけに、 そこから Wilson が Byrne に Emmons を紹介したとのこと。 (ただし、Robert Wilson の舞台作品 The Civil Wars の Minneapolis section: The Knee Plays 舞台音楽CD+DVD再発 (Nonesuch, 303228-2, 2007) [レビュー] のライナーノーツでの Byrne の説明とは食い違いがあります。) Stop Making Sense 収録直後の1984年に初演された The Knee Plays の音楽を Byrne が手掛けていること、 The Knee Plays だけでなく Stop Making Sense のパフォーマンスにも この1983年日本での Wilson のワークショップで取り上げられた文楽、能、歌舞伎が影響していることを考えると、いろんな事が同時進行していたのだろうと窺われます。 Emmons のインタビューに The Knee Plays への言及が、 The Knee Plays のライナーノーツに Stop Making Sense への言及が無いことが惜しまれます。 (誰か Stop Making SenseThe Knee Plays の関係という観点からインタビュー取材して欲しい。)

後に David Byrne's American Utopia (2020) [鑑賞メモ] として映画化された 2019年ブロードウェーのショー American Utopia に対する ニューヨーク Observer 誌のレビュー “‘American Utopia’ Takes a Funky-Robot Tour of David Byrne’s Brain” (2019-10-20) の中で、 “the high-art visual trappings that suggest mid-career Robert Wilson meets Afrofuturism” 「キャリア中期の Robert Wilson を思わせるハイアート的な視覚的装いと Afrofuturism の出会い」という形容が出てきます。 その形容は的を射ていると思いますが、 Robert Wilson やポストモダン・ダンスからのハイアート趣味と、P-Funk や Old school hip hop に見られる Afrofuturism の出会い、 というのはむしろ Stop Making Sense の方にはっきり現れています。 David Byrne's American Utopia と比べて未消化と感じるほど直接的ですが、 Robert Wilson の照明デザイナを起用する一方で、Bernie Warrell や Lynn Mabry というP-Funkのミュージシャンをゲストに起用しているのですから。 Kurtis Blow や James Brown の名を歌い上げる Tom Tom Club: “Genius Of Love” を演っていることも、そのような面にうまくはまっています。

Stop Making Sense から David Byrne's American Utopia まで、 David Byrne はブレていないないと思うものの、やはり違いも感じます。 Stop Making Sense での 観客すら目に入っていないのではないかと思うほどに没入しての汗だくになる程に激しいパフォーマンスは、 現代社会への暗喩的な風刺を感じさせる歌詞もあって、怒れる若者 (Talking Heads: “Nothing But Flower” で Years ago I was an angry young man と歌っていたように)。 優しく諭すようとすら感じた David Byrne's American Utopia を思い出しつつ、その成熟を改めて実感しました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

IMAX版が2週間限定だということを見落としていて、 人気ありそうな映画なので1〜2ヶ月はやってるだろうと先送りしていたら、終映してました。 通常の4Kレストア版も既に上映館が減っていて、このまま先送りしていると見逃しそうと、慌てて観に行ったのでした。

しかし、こういう風に書いていると、冷静に分析するように観ていると思われがちですが、 色々と思い入れがあるので、実際のところは “Burning Down The House” あたりから、目を潤ませながら観ていたのでした。

[4164] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Feb 11 21:44:08 2024

この週末土曜は、昼過ぎに恵比寿へ。毎年チェックしているこの展覧会を観てきました。

Yebisu International Festival for Art & Alternative Visions 2024 — 30 Ways To Go To The Moon
東京都写真美術館 ほか
2024/02/02-02/18 (月休), 10:00-20:00 (2/18 -18:00)

東京都写真美術館主催のアニュアルの映像芸術展です。 ほぼ毎年定点観測的に観てきていますが、去年は上映プログラムを優先して観たので [鑑賞メモ]、 今年はメイン会場の展示を中心に観ました。

2F展示室は東京都写真美術館のコレクションを含む多様な作品を展示です。 パーティションの類を立てずに展示していたので、雑多さが一層増し、 個々の作品に向かい合うのがなかなか難しい展示空間でした。

そんな中では、雑誌 Life のフォーマットを使って 日常の中の何気ない中での性的偏見によるトラウマを受ける時を切り取るという シミュレーショニズム的な作風の Tracey Moffatt: From the series of “Scarred for Life” (1994)、 いかにも1970年代のコンセプチャルな作風ながら可愛らしい不条理さの Marcel Broodthaers: Interview with a Cat (1970) や John Baldessari: Teaching a Plant the Alphabet (1972) などが印象に残りました。

最近の作品の中では、動物園での飼育動物向けの玩具を人が淡々と無表情に使用する様子をビデオで捉えた Joanna Piotrowska: Animal Enrichment (2019) が皮肉も効いていて面白く観ました。

大判のポスターを床に整然に積み上げ観客に持ち去らせる Felix Gonzalez-Torres: Untitled (1992/1993) はタイトルだけでは区別し難いのですが、今回の作品では空に飛ぶ鳥を小さく捉えたモノクロの写真のポスターを使用していました。 ポスターや銀紙包みのキャンデーなど何回か体験したことのある作品です [鑑賞メモ]。 他の観客が誰も取ろうとしないので、手本になろうとポスターを取ったものの、やっぱり持て余します。 今回はポスター自体はスタイリッシュで良かったのですが。

3F展示室は去年から始まった「コミッション・プロジェクト」に関するもの。 去年はファイナリスト4名の展示でしたが、 今年はその結果の第1回特別賞を受賞した2名のアーティスト (荒木 悠, 金 仁淑) による総合テーマに合わせた作品を展示していました。

B1F展示室では4組の作家に焦点を当て、それぞれ区画されたスペースで展示をしていました。 このくらいの展示密度の方が、個々の作品には向き合えるでしょうか。 今回の総合テーマ「月へ行く30の方法」の元となった、拾ったものを組み合わせての 土屋 信子 によるインスタレーションも、 雑然とした空間ではなくホワイトキューブの空間で展示されてこその空間構成の面白さでしょうか。

青木 陵子 + 伊藤 存 《9歳までの境地》 (2011) の スマートフォン大の小型モバイルプロジェクタとせいぜい20〜30cm大のオブジェを組み合わせた 小さなプロジェクションマッピングは、その投影されているアニメーション映像も含めて、観ていて童心に還るよう。 今回の恵比寿映像祭で最も印象に残りました。

恵比寿ガーデンプレイス センター広場 では、オフサイト展示として 『Poems in Code—ジェネラティブ・アートの現在/プログラミングで生成される映像』 と題した上映が行われていました。 自分が見ている間は、原色を多用した映像が多く、 クラブでのテクノのオールナイトイベントへ時々足を運んでいた2000年前後に目にしたVJの映像を連想しました。 鮮やかな色彩の映像は商業施設という空間の中でも目立っていましたが。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4163] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Feb 5 22:18:35 2024

先の土曜は、午後に新座へ。このパフォーマンスを観てきました。

Circus Laboratory CouCou
演出: 安本 亜佐美.
2024/02/03, 15:00-16:10.
『合わせ揺れる』
出演: 岡野 亜紀子, 板倉 佳奈美.
approx. 10 min.
『境界』
演出・出演: 安本 亜佐美.
approx. 40 min.

CO.SCOoPP は京都を拠点に活動する現代サーカス・カンパニー。 Raphaëlle Boitel: Fierce 5 [鑑賞メモ] に出演していた 安本 が主宰する 気になっていたカンパニーの滅多にない関東圏での公演で、 会場も以前から気になっていた現代サーカスのスタジオということで、足を運んでみました。

まずは、『合わせ揺れる』。 ヴァーティカルダンスに使うハーネスを付けた2人が、 ロープ無しでカラビナで2人のハーネスを直結した状態での10分程のパフォーマンスです。 コンタクトインプロビゼーション、もしくは、2人組のアクロバランスのようでもあり、 支点がカラビナを繋ぐハーネスになることで微妙に異なる所 – 低いながらぶら下がるというヴァーティカルダンス風な所はもちろん、膝上に横向きに正座して座ってバランスするようなアクロバランスのようでハーネス無しでありえない動き/ポーズ — を興味深く観ましたが、 少々取り留めなくスケッチ集のような印象も受けました。

舞台展開して、『境界』は、ベルベットのような風合いの赤いシルクを3枚を使ったソロ。 シルクは上で絞らず天井のレールに固定された大きめのトラペーズ様の足場にフラットに3枚とも客席向きに、 2枚は間1mほど開けて並べて、もう1枚はそれらの後ろに間を塞ぐように、掛け下げられています。 最初のうちは、そんな3枚の布に隠れたり戯れたりするようで、動きの小ささもあってかなかなか作品世界に入り込めなかったのですが、 後半になって動きが大きくなって、引き込まれました。 赤いベルベットのカーテンを突き破って出てくるかのような動きから、 3本のシルクを全身に絡めて半ば逆さ吊りになりつつ床を転げたり超低空のエアリアルかのような動きへ。 そして、最後はトラペーズ様の足場に登っての動きになり、ラストはシルクを絡めての落下、と、かなりエアリアルっぽい動きも見せました。 フライヤによると Michael Ende の小説に着想したとのことですが、 赤いヴェルベットのカーテンを思わせる美術もあってか、 後半激しくなる展開も含めて David Lynch の映画/TVドラマ (Twin Peaks など) を少々想起させられました。

アフタートークは、Co.SCOoPP主宰 安本 と、 ながめくらしつ 主宰 目黒 陽一、 Circus Laboratory CouCou 創設者 酒井 淳美 の3名によるもの。 今回上演した作品に関する話もありましたが、 国内で現代サーカスのクリエーションするスタジオを運営する人たちの話ということで、 高さを必要とするサーカスをクリエーションをする場所がないことや、 エアリアルやヴァーティカルダンスが上演できる場所がないことなどの苦労話の方に、興味を引かれました。 このような状況で作品を作り公演を続けているということだけでも凄いことだ、と。 アフタートークで話に出た Mirai Circus Network で活動にも期待したいものです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

arte concert でフランス・パリの国際サーカス・フェスティバル 43e Festival mondial du cirque de demain配信中です (126分, 2025-01-26まで)。 arte concert は例年 Festival mondial du cirque de demain を配信してくれるものの、 ジオブロックがかかっていることが多いのですが、今回はかかっていません。 というわけで、今週末、さっそく観ました。 衣装も演技もジェンダーを感じさせないダイナミックな corde volante (cloud swing) を披露した Vassiliki Rossillion (フランス)、 内側にプログラマブル (もしかしたら遠隔操作) 可能なLEDライトを仕込んだ Cyr wheel の Alexandre Lane (カナダ) が、好みでしょうか。 最後のゲスト Les Expirés は、背の丈ほどの径のトラック用タイヤの上にボートを載せて、 10人余のパフォーマーがバランス取りながらアクロバットするのですが、 スタイリッシュな演出なしに、クラウン風の衣装・化粧でもなく、思い思いの普段着のような姿で、 皆がわいわいと楽しそうにやっているだけのように見せるというもの。 照明や音楽でスタイリッシュに見せる演出が続いた後だけに、それらとコントラストを成して、実に楽しそうでした。

[4162] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Feb 4 18:52:44 2024

1月最後の週末は午後遅めに銀座、そして表参道へ。この週末で終わってしまう展覧会を中心にギャラリー巡りしました。

Jaeeun Choi: La Vita Nuova
Ginza Maison Hermês Le Forum
2023/10/14-2024/01/28 (12/30-1/2休), 11:00-19:30 (1/10 11:00-15:00).

韓国出身で1976年来日し勅使河原 宏に師事し、東京とベルリンを拠点に現代アートの文脈で活動する作家の個展です。 自然や環境をテーマとした作品で、韓半島を分断する非武装地帯に残った自然をテーマにしたプロジェクト «Dreaming of Earth Project» (2015-) のようなプロジェクトのプレゼンテーション展示もありましたが、 やはり、ギャラリーをいっぱいに使うほどの規模ながら繊細さを感じるインスタレーションが印象に残りました。 «White Death» (2023) では、積み上げた白化したサンゴに割れた鏡を交えることでその壊れやすさを意識させられます。 また «A Poet's Atlier – Beacon Within» (2023) も、漉き紙が貼られたガラスブロック壁面の作る障子越しの陽のような仄暗さの中の漉き紙のランプシェードの柔らかい光、 荒く積み上げられた廃材の植野ランプシェードに漉き込まれた押し花というコントラストに、 繊細さをいっそう意識させられるインスタレーションでした。

Looking at the Deprived of Freedom - The Future of Surveillance Society
『アニッシュ・カプーア_奪われた自由への眼差し_監視社会の未来』
GYRE Gallery
2023/11/23-2024/01/28 (12/31-1/1休), 11:00-20:00 (1/2 13:00-20:00).

インド出身で1980年代以来イギリスを拠点に現代アートの文脈で活動する作家です。 ミニマリスティックな立体作品、特に、光を吸収する塗料が塗られた穴や凹面の鏡などの視覚的にトリッキーな作品で知られます [鑑賞メモ]。 しかし、今回はそのような作品とは大きく作風が異なり、 額装の絵画の展示とそんな展示に介入するオブジェの展示の組み合わせでした。 白黒混じりのどず黒い赤の油絵具まみれの大きな布が、床に積み上げられたり、壁にかけられています。 周囲に飛び散りもあり、血や死を想起させられました。 一方の絵画は抽象表現主義やアンフォルメルも思い出す粗いタッチの抽象画で、ガッシュの鮮やかなな赤に、裂け目を思わせるモチーフも感じられました。 床のオブジェとの対比もあってか、絵画からはエロチックさというか生を感じました。 展覧会のタイトルともなっているテーマとの関係はつかみかねましたが、そんな絵画とオブジェの対比に不穏さを感じる展示でした。

Fergus McCaffrey Tokyo
2023/09/30-2024/02/24 (日月祝休; 12/26-1/8休), 11:00-19:00.

1960年代から現代美術の文脈で活動するアメリカの作家の個展です。 広場を横断する巨大な鋼板のようなミニマリスティックな立体作品という作風が知られていますが、 タイトル通り円形、菱形、三角形の、漆黒に彩色された1 mm程の薄い杉板というミニマリスト的な絵画が展示されていました。 ミニマルな形状色彩の中に、木肌のテクスチャが淡く浮かび上がります。 障子越しの夕陽を思わせる間接照明もその趣を増してました。

Sterling Ruby + 竹村 京, 鬼頭 健吾
organized by anonymous art project
Omotesando Crossing Park
2024/01/08-2024/02/04 (無休), 10:00-20:00.

京都での展示が素晴らしかった Sterling Ruby [鑑賞メモ] の関係する展覧会ということでしたが、 Ruby の作品は抽象的な絵画作品1点のみ。 展示空間の雰囲気も、この日のそれまでに観た展覧会とのギャップが大き過ぎました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4161] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jan 29 22:42:22 2024

京都へ行った20日土曜は、ギャラリーで展覧会を観た後に岡崎へ移動してこの公演を観てきました。

ロームシアター京都 サウスホール
2024/01/20, 14:00-15:10.
play for two
created (concept, direction, sets, costumes, lights) by Dimitris Papaioannou
dressed man Dimitris Papaioannou; nude man Šuka Horn
music: Kornilios Selamsis; sound design: David Blouin; lighting design: Lucien Laborderie, Stephanos Droussiotis; creative - executive producer - assistant director: Tina Papanikolaou; associate director: Haris Fragoulis; performers’ physical training: Šuka Horn; photographs + cinematography: Julian Mommert; music recorded by Teodor Currentzis and musicAeterna orchestra; the name of the play was given by Aggelos Mendis; the octopuses were created by Nectarios Dionysatos; visual design associate Evangelos Xenodochidis.
executive production: 2WORKS, in collaboration with POLYPLANITY Productions.
the first version of INK was commissioned and co-produced by Torinodanza Festival / Teatro Stabile di Torino – Teatro Nazionale + Fondazione I Teatri / Festival Aperto – Reggio Emilia in 2020
the final version of the work and the international tour is co-produced by Biennale de la Danse de Lyon 2023, Sadler’s Wells London, MEGARON – THE ATHENS CONCERT HALL and supported by the Hellenic Ministry of Culture and Sports in 2023

照明や舞台装置を駆使して超現実的なイメージの連鎖を作るパフォーマンスを作風とする ギリシャの演出家 Dimitris Papaioannou の、 2022年の Transverse Orientation [鑑賞メモ] に続く3回目の来日公演です。

ティザー動画や写真で観て大量の水を使うということはわかっていたものの、 中盤くらいで水を使い出して舞台上の様相を一転させるのだろうと予想していたのですが、冒頭の場面から全開で水を使ったパフォーマンスでした。 床には数センチの深さで水が溜まった状態で、後方には高さ5〜6 mはあろう透明なビニールカーテンがかけられています。 そんな舞台で、上手にスプリンクラーを置いて、下手に向かって舞台を横切るように水を噴霧し、 時には後方へも首振りさせつつ、もしくは、ノズルを外してホースから水をだだ流ししたりしながら、パフォーマンスを繰り広げます。 また、水飛沫を白く浮かびあがらせたり、水を注ぎ入れた球状のガラス鉢を白く光らせたり、後方に張った透明なビニールシートを波打たせつつ光で波を浮き上がらせたり、と照明が効果的でした。 蛸や (動くオモチャの) 魚などの小道具も使いましたし、ガラス鉢とミラーボールの対比も良かったですが、水の存在感が圧倒的です。 Nowhere [鑑賞メモ] が劇場・舞台装置が主役でそれに振付した作品でしたが、 この INK は水が主役、水に振付した作品のようでした。

パフォーマーは、「服を着た男」 (Papaioanou 自身) と「裸の男」の2人のみ。 「服を着た男」はスプリンクラーなどを操作したりしつつ、水面下に置かれた透明で薄いパネルの下から闖入してきた「裸の男」の男を取り押さえようとドタバタを繰り広げます。 ホワイエに展示されたアートワークにイメージの元ネタはありましたが、 そういった個々のイメージよりも、全体として、理性を表わす「服を着た男」が、 本能もしくは無意識、もしくは、未成熟といったもの想起させる「裸の男」を抑えこもうとする悪あがきを観たような印象が残りました。

まるで水が主役の舞台に観ていて「コンテンポラリー水芸」という言葉がふと頭をよぎりました。 そして、後半というか終わり近く、「服を着た男」が上着を羽織り、 バルカン/ジプシー風らしき音楽を舞台上で小さな音で流し、 立てたテーブルの向こうに抱えた赤子(の人形)を投げ入れるとまるでマジックショーのように代わりに「裸の男」が登場し、 「服を着た男」が「裸の男」を猛獣使いのように扱う展開になりました。 あからさまにサーカス的という訳ではありませんでしたが、そういう展開を見ると、あながち「コンテンポラリー水芸」という思い付きも外していなかったかもしれません。

水と照明を駆使した様々なイメージも見応えありましたし、1時間余りという長さもあって冗長さも感じることもなく、 今まで観た Dimitris Papaioanou の3回の公演の中で最も楽しめました。 今回の INK は日本はロームシアター京都のみの公演だったのですが、京都まで遠征して見た甲斐がありました。

京都岡崎エリアは界隈の美術館へはたまに行くので、前を通ったことがありましたが、 ロームシアター京都 (京都会館) で公演を観たのは初めてでした。 サウスホールは中ホールに相当するものですが、 横長で舞台が遠いことは無いのですが、1階席はフラット気味で舞台奥行き方向が見づらいでしょうか。 今回の公演に限っていえば、床に張った水面の表情がもっと見やすかったら、と思ってしまいました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

公演を観た後は、バスと叡電を乗り継いで、京都精華大学へ。 ギャラリーTerra-Sでの展覧会『Gallery Hibika-S — 音響空間を展示する』関連企画のトークセッションを聴いててきました。 マルチスピーカーによる学生の課題制作の展覧会とその講評会ですが、興味深い作品とそれへのコメントに、こういう観点があったか、と。 他人の分析・感想なども聞きつついろんな観点から音を聞く面白さと、そうするために言語化することの大切さを改めて実感しました。 ちょうど京都へ行った時に開催された旧友が企画したイベントだったので覗いてみたのですが、講評会の雰囲気も含め、興味深いものがありました。

今回の京都行きは当初は INK だけを目的としていたのですが、 結局、日帰りではゆっくり食事する時間がなくなるほどの行程になってしまいました。 しかし、とても良い展覧会と公演が観られましたし、15年ぶりくらいに旧友と会うこともできましたし、大変に充実した遠征となりました。 最近かなり腰が重くなってしまっていますが、やはり、行動範囲を広げると良いこともあります。

[4160] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jan 28 18:56:53 2024

先週末土曜は昼に京都入り。まずはこの展覧会を観てきました。

Taka Ishii Gallery Kyoto
2023/11/23-2024/01/20 (日–水・祝休), 10:00-17:30.

Sterling Ruby は2000年代以降、アメリカを拠点に現代アートの文脈で活動する作家です。 作品を観るのは初めてで、作風には疎いのですが、 ギャラリーのウェブサイトに載る作品の写真を観ると、ホワイトキューブ的な空間に展示された作品など、色にむらなどがあれど彩度高めのシンプルな形状のミニマリスティックな立体作品やドローイングが多いように見えます。 その一方で、陶の作品も多く制作していて、そちらは、むしろメタリックな光沢などを使いつつ有機的な形状が印象を残します。 しかし、今回の個展は、展示会場の特異さもあってか、むしろナラティブなインスタレーションでした。

2023年にオープンしたばかりのギャラリーは、烏丸駅近く矢田町にある築約150年の町屋を リノベーションではなくほぼ築当時の状態に復元したというスペースです。 そんな空間に、小泉 八雲 (ラフカディオ・ハーン [Lafcadio Hearn]) の『怪談』などの妖怪話に着想したインスタレーションがされています。 町屋とはいえ生活感の無いきれいにされた空間ですが、そこにドローイング、写真、陶の作品に加え、 何かがいた、もしくは、あったと思わせる煤けてくたびれたオブジェが配されています。 妖怪猫の目のような分かりやすいものもありましたが、多くは間接的な痕跡のよう。 不気味な妖怪屋敷へ迷い込むというより、妖怪退治が済んでその痕跡がわずか残る屋敷の中を巡るようでした。

日本が近代化される以前の近世の雰囲気に満ちた町屋という空間が圧倒的に良かったということもありますが、 その空間の雰囲気を十分に楽しむことができた展覧会でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4159] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jan 22 22:42:06 2024

先の週末金曜晩、何か観ようかとarte concertへアクセスしたらトップで目に入ったこれを観てしまいました。

Ballet du Grand Théâtre de Genève / Sidi Larbi Cherkaoui, Damien Jalet
Grand Théâtre de Genève
2023-11-21,22, 93 min.
Ballet du Grand Théâtre de Genève; Orchestre de la Suisse Romande; Direction musicale: Yannis Pouspourikas.
Director (RTS): Romain Girard.
ARTE Concert URL: https://www.arte.tv/fr/videos/117218-000-A/elements/
Available from 2024/01/11 to 2024/07/09.
Chorégraphie: Sidi Larbi Cherkaoui
57 min.
Scénographie: Antony Gormley; Lumières: David Stokholm; Dramaturgie: Adolphe Binder; Costumes: Les Hommes; Musique: Szymon Brzóska; Percussions: Shogo Yoshii; Chant: Ana Vieira Leite; Reprise de la chorégraphie et direction des répétitions: Stephan Laks, Angela Lee Rebelo, Manuel Renard; Directeurs de répétition à la création (2014): Tilman O’Donnell, James O’Hara, Helder Seabra; Textes de Marko Rodin et Jason Silva.
Créé en 2014 à Göteborg pour GöteborgsOperans Danskompani
15 min.
Chorégraphie: Sidi Larbi Cherkaoui
Scénographie, lumières et vidéo: Adam Carrée; Costumes: Hussein Chalayan; Musique: Claude Debussy et Nitin Sawhney; Distribution originale (2009): James O’Hara, Daisy Phillips
Créé en 2009 à Sadler’s Wells, Londres
21 min.
Concept et chorégraphie: Damien Jalet et Sidi Larbi Cherkaoui; Concept et scénographie: Marina Abramović
Lumières: Urs Schönebaum; Costumes: Riccardo Tisci; Reprise de la chorégraphie et direction des répétitions: Pascal Marty, Aimilios Arapoglou; Reprise de la vidéo: Anouar Brissel; Directeurs de répétition à la création (2013): James O’Hara, Aimilios Arapoglou; Musique: Maurice Ravel
Créé en 2013 à l’Opéra national de Paris.

モロッコ系のルーツを持つベルギーのダンサー/振付家 Sidi Larbi Cherkaoui は、 2022-2023シーズンからスイス Grand Théâtre de Genève (ジュネーヴ大劇場) のバレエ部門芸術監督 (Directeur du Ballet) に就任しているのですが、 劇場付きバレエ団による彼の過去の作品による2023年11月のトリプルビル公演が arte.tv で配信されています (スイス公共放送RTSによる収録)。

前半約1時間は、2014年に GöteborgsOperans Danskompani に振付けた Noetic です。 舞台美術が Antony Gormley ですが、前半は、グレーの舞台に白くフラットな照明、 男性はワイシャツ黒スーツ (前半は上はベストだけ)、女性は膝丈ながら黒のドレスに黒のヒールという姿での抽象ダンス。 ソロやデュオではなくグループで、シンフォニック・バレエのような対称性、階層性や全体のシンクロを避けつつ、 サブグループを離散集合させたり一部をシンクロさせたり。 後半にはいると、幅約5 cm、数mm厚、5〜6 m長の黒光するフレキシブルな棒 (これが Gormley の手がけたものでしょうか) を何本も使い、 床の区画から入り、持ち上げてアーチを作ったり、丸めてサークルにしてそれを操作し組み合わせたり。 ダンサーの操作によりそれらが作り出す形と動きが美しいです。 男女の役割や衣装はコンテンポラリー・ダンス作品にしては若干保守的に感じますが、Cherkaoui らしい物を使った動きの面白さもある、ミニマリスティックな演出の舞台は、大変に好みです。

Noetic は、Cherkaoui が GöteborgsOperans Danskompani へ振付した三部作の第1作で、 その後に Icon (2016) [鑑賞メモ]、 Stoic (2018) [鑑賞メモ] と続きます。 コロナ禍下の2020年に GöteborgsOperans が配信した時に Noetic を見逃していたので、 GöteborgsOperans Danskompani による上演ではないものの、やっと観ることができました。 三部作で通底するテーマや形式が感じられたというわけではありませんでしたが。

後半は20分程度の短編2作。Faun は、 Bullets Russes の Nijinski 振付で有名な L’après midi d'un faune [鑑賞メモ] のリメイクです。 元の Debussey の音楽を異化するように Nitin Sawhney の音楽を挟みつつ、 牧神 (faun) とニンフ (nymph) が直接インタラクションするデュオとしていました。

Boléro は、Ravel の同名曲を使った作品。 照明を落とした暗く黒い舞台に、背景に大きな反射板を背景に置いて、そこに俯瞰で舞台を見た様子を映し出しています。 床も背景も暗いので境界が溶け込んで、宙に浮いて踊っているようでもあり、人の配置・動きも万華鏡を見るよう。 視覚的には面白い舞台なのですが、 舞台美術だけでなくコンセプトとしてもコンセプチャルな作品で知られる現代美術作家の Marina Abramović [鑑賞メモ] がクレジットされていますが Abramović らしいとは感じられず。 Boléro といえば有名な Maurice Béjart 振付のもの [鑑賞メモ] のリメイクかと思いつつ観ましたが、 Béjart 振付の L'Oiseau de feu、Nijinski 振付の L’après midi d'un faune、Jerome Robbins 振付の Afternoon of a Faun [鑑賞メモ] を合わせたもの、というコンセプトのよう。その点についても掴みかねました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4158] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jan 21 20:21:19 2024

先週末の土曜は昼から晩まで調布市仙川へ。 2008年に始まった JAZZ ART せんがわ ですが、 せんがわ劇場が指定管理者制度の下に移行する2018年をもって最後とという話もあったのですが [鑑賞メモ]、 なんとか実行委員会形式で開催を続けています。(実行委員会の運営も大変そうですが。) 2018年以降足を運んでいなかったので、久々に土曜一日、せんがわ劇場で過ごすことにしました。

上野 洋子 + 菊地 雅晃 + 坂本 弘道
せんがわ劇場, 仙川
2024/01/13, 13:30-14:40
上野 洋子 [Yoko Ueno] (voice, electronics, etc), 菊地 雅晃 [Masaaki Kikuchi] (double bass, KORG MS-50 Modular Synthesizer, effect); host: 坂本 弘道 [Hiromichi Sakamoto] (cello, effects, objects).

まずは、初顔合わせというこのセッション。 上野と菊地のデュオに始まり、上野、菊池のソロと続き、最後は3人で。 菊地のタブルベースにしても特殊奏法で出した音をエフェクトで弄ったりアンプスピーカー前でハウリングさせたりという演奏がメイン。 上野のソロの際にはQRコードで観客にSoundCloudの音鳴らさせたり、 菊地のソロでもダブルベースをもって客席側に行ったり、と、ハプニング的な色もあるセッションでした。

伊藤 千枝子 + 藤原 清登
せんがわ劇場, 仙川
2024/01/13, 16:00-16:50
伊藤 千枝子 [Chieko Ito] (dance), 藤原 清登 [Kiyoto Fujiwara] (double bass).

続いては、ダブルベースの伴奏でのソロダンスです。 清水のダブルベースは、ピチカートや弓弾きはもちろん手で弦を柔らかく払うような弾き方も使った繊細なものでしたが、 こちらに展開の主導があって、おの音に反応するように躍っているように見えました。 ダンサーの 伊藤 千枝子 (aka 伊藤 千枝) は、元 珍しいキノコ舞踊団 の演出/振付です。 このカンパニーの作品は祝祭的な印象を受けることが多かったのですが [2002年の鑑賞メモ]、 ミュージシャンとの共演というのもあると思いますが、小道具を少し使う程度で衣装もミニマリスティック。 手の動きや途中で客席に降りて観客に踊りを促すような動きに 珍しいキノコ舞踊団 を少し思い出したりもしましたが、 演奏に合った落ち着いた展開てラストは祈りのよう。 ダブルベースの 清水 も、踊るようなアクションはしないものの少しずつ位置を変えて演奏しており、その微妙な位置どりの変化も良かったです。

Gordon Grdina + 道場 + 巻上 公一
せんがわ劇場, 仙川
2024/01/13, 18:30-19:30
Gordon Grdina (guitar, oud); 道場 [Dōjō]: 八木 美知依 [Michiyo Yagi] (electric 21-string koto, 17-string bass koto, electronics), 本田 珠也 [Tamaya Honda] (drums); guest: 巻上 公一 (voice, theremin, pocket trumpet).

3セット目は、カナダ太平洋岸バンクーバーの guitar/oud 奏者 Gordon Grdina と道場 (八木 + 本田) ゲスト 巻上 を加えての4tet。 2018年に Gordon Grdina + 道場 を観ていますが [鑑賞メモ]、 その時と同じく重い Grdina の guitar、 その上に撒かれるような箏やテレミンなどの音が印象的なパワフルな演奏で、 ステージのある会場でトリとして登場したのを聴くと盛り上がります。 しかし、前半、箏が低音を支えつつ、Grdina が oud 弾いて、本田がリムショットで細かく刻む、軽めの疾走感のある展開が好みでした。

とっ散らかしたような遊び心のある坂本のステージ、洗練の清水のステージ、バンドで盛り上がる巻紙のステージと、 この3人の音楽監督の方向性が JAZZ ART せんがわ の幅というかバランスの良い多様性を産んでいると実感するプログラムでした。

映画上映: Mathieu Amalric: Zorn II (2016-2018)
せんがわ劇場, 仙川
2024/01/13, 20:15-21:15

ライブの後は、音楽ドキュメンタリー映画の上映。 フランスの映画俳優・監督 Matthieu Amalric が2010年から撮り続けている ニューヨーク・ダウンタウンシーンを背景とするミュージシャン John Zorn のドキュメンタリー三部作 Zorn I (2010-2016)Zorn II (2016-2018)Zorn III (2018-2022) の2作目を観ました。 インタビュー形式は取らずにリハーサルやバックステージの様子を捉えてそこでの会話を切り取るような形で編集されています。 Tzadik レーベルの音源を摘み聴きしていますが、多作で音楽性の幅も広く全容を追いきれていないので、 特に近年の現代音楽に近い作曲に基づく作品やダンスカンパニーとのコラボレーションなどが垣間見られて、興味深く観ました。 しかし、John Zorn が楽譜を読める連中とつるむようになって大変になったと Marc Ribot がぼやく場面など確かに興味深い場面もありましたが、 やはり本番ステージの様子をもっとじっくり観たいものです。

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[4157] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jan 15 23:18:35 2024

正月三連休中日の7日は昼に清澄白河というか木場公園へ。この展覧会を観てきました。

Yasuko Toyoshima: Origination Method
東京都現代美術館 企画展示室1F
2023/12/09-2024/03/10 (月休;1/8,2/12開;12/28-1/1,1/9,2/13休), 10:00-18:00.

1990年代から現代美術の文脈で活動する作家の回顧展的な個展です。 グループ展やコレクション展示で観る機会はそれなりにありましたが、個展を観るのは初めてです。 コンセプチャルな作風で、その一面の典型は、 銀行に口座を作って通帳やカードを並べたり、保険や投資に関するドキュメントなどを、 コンセプトに沿ったドキュメント類のコレクションを配置してインスタレーション化した作品など。 しかし、自分の好みは、2010年代以降の作風になるのでしょうか、 『パネル』、『交流』、『収納装置』や『地動説』のような、ルールに沿って制作された比較的すっきりミニマルな造形の作品でした。

MOT Annual 2023: Synergies, or between creation and generation
東京都現代美術館 企画展示室3F
2023/07/15-2023/11/05 (月休;7/17,9/18,10/9開;7/18,8/19,10/10), 10:00-18:00.
荒井 美波, 後藤 映則, (euglena), Unexistence Gallery (原田 郁, 平田 尚也, 藤倉 麻子, やんツー), やんツー, 花形 槙, 菅野 創+加藤 明洋+綿貫 岳海, Zombie Zoo Keeper, 石川 将也/杉原 寛/中路 景暁/Campbell Argenzio/武井 祥平, 市原 えつこ, 友沢こたお.

東京都現代美術館のアニュアルの現代アートの展覧会です。 ほぼ毎年定点観測的に観てますが [去年の鑑賞メモ]、 例年取り上げられる作家数は5人程度ですが、今回は10ユニットと数も多く、 それらの作風もあってか雑然とした印象を受ける展示空間で、企画も散漫に感じられてしまいました。

そんな中では、空間中での線画の動きを金属メッシュで連続する立体として表現した上でスリット状の光を動かしなが ら当てることで空間中のアニメーションとして見せる 後藤 映則 の作品は NTT ICC のオープンスペースでも観たことがありましたが [鑑賞メモ]、やはり良いです。 CG的な形状と動きを実体化した上で映像と並置する 石川 将也/杉原 寛/中路 景暁/Campbell Argenzio/武井 祥平 の作品も好みでした。この作風もNTT ICCに合いそうです。 他に、筆跡を針金で立体化した 荒井 美波 や、タンポポの綿毛で構成した小さく繊細な (euglena) の立体作品も、印象に残りました。

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[4156] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jan 14 20:44:31 2024

先週末土曜は午後に渋谷宮益坂へ。 シアター・イメージフォーラムで開催中の『カール・テオドア・ドライヤー セレクション vol. 2』で、 デンマークの映画監督 Carl Th. Dreyer による戦間期の映画を観てきました。

La Passion de Jeanne d'Arc [Jeanne d'Arc's Lidelse og død]
『裁かるゝジャンヌ』
1928 / Société Générale des Films (FR) / B+W, silent / 97 min.
Réalisateur: Carl Theodor Dreyer
avec: Renée Falconetti (Jeanne d'Arc), et al.
le nouvel accompagnement musical composé et interprété en 2016 par Karol Mossakowski sur l’orgue Cavaillé-Coll de l’auditorium de Lyon.

フランス Société Générale des Films の招きで制作した フランス中世、百年戦争の英雄 Jeanne d'Arc を主題に撮ったサイレント映画です。 映画を論じた本で言及される事の多い作品で、スチルは何度となく見たことはありましたが、映画を観たことが無かったので、これも良い機会かと観ました。 異端審問のやりとりが主題で、Jeanne が捕虜となりイングランドに引き渡されるまでは描かれず、そして、火刑の場面で終わり後日談もありません。 回想シーンや同時並行するフランス陣営の様子などが挟まれることもなく、処刑シーンなど屋外場面もありますが、Jeanne が囚われた教会を舞台とした異端尋問の密室会話劇を観るよう。

印象を強く残すのはカメラワーク。バストアップどころ額や顎の一部が切れるくらいの顔のクロースアップが多用されます。 また、フラットなアングルがほとんどなく、下方からあおるアングルや、真上から見下ろすアングルが多用されます。 背景がまともに写り込まないので、登場人物が置かれた状況が捨象されて、Jeanne や審問官の心情描写に集中するよう。 スクリーンで観たこともあり、その画に圧倒されました。 2015年に収録されたという教会オルガン伴奏付きでの上映でしたが、その響きが、映像の重苦しさを倍増させていました。

Vampyr
『吸血鬼』
1932 / Carl Theodor Dreyer Filmproduktion (DE/FR) / B+W / 74 min.
Regie: Carl Theodor Dreyer
mit: Julian West (Allan Gray), Rena Mandel (Giséle), Sybille Schmitz (Léone), Jan Hieronimko (Village Doctor), et al.

La Passion de Jeanne d'Arc に続いて制作された Dreyer 初のトーキー映画は、 Sheridan Le Fanu: In a Glass Darkley (1872) に基づく吸血鬼物のホラー映画です。 吸血鬼が暴れ回って人を襲うのではなく、生命力を奪う呪いのように存在する吸血鬼を村医者が悪用するというもので、 最後には村の訪問者 Allan Gray がそれを暴き、ヒロインを助けて村医者の成敗するという展開です。 ホラーが苦手ということもあるかと思いますが、吸血鬼の背景説明に字幕や遺された本に頼り過ぎという感もあり、物語には入り込めませんでした。 しかし、多重露光などの撮影トリックが多用されるのですが、さすがに1930年代に入ると表現主義的ではなく自然主義的な演技や絵作りで、それらと撮影トリックの合わせ方も興味深く観られました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4155] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Jan 9 23:21:14 2024

正月4日の晩、神保町で映画を観た後に小川町へ移動して、このライブを観てきました。 ある意味、新春演奏会。

木村 まり [Mari Kimura], 東野 珠美 [Tamami Tono], 八木 美知依 [Michiyo Yagi]
『東雲』 Shinonome
Polaris
2024/01/04, 19:00-21:00.
木村 まり [Mari Kimura] (violin, computer, MUGIC sensor), 東野 珠美 [Tamami Tono] (笙 [sho], 箜篌 [kugo], MAGIC sensor), 八木 美知依 [Michiyo Yagi] (electric 21-string koto, 17-string bass koto, electronics)

アメリカを拠点に主に現代音楽の文脈で活動するバイオリン奏者/作曲家の 木村 まり が日本滞在中に声をかけて実現したライブです。 雅楽の笙や、近世邦楽の箏との共演という、あまりない組合せという興味もあって観てみました。

前半は、東野の笙、八木の箏、木村のバイオリンのソロと、木村が自ら開発したモーションセンサをコンピュータを介して音を連動させるMUGIC sensorのデモ。 後半は、東野は笙に加えて正倉院の宝物からの復元したハープ様の楽器 箜篌 (くご) とMUSIC sensorの組み合わせも演奏する形で、3人による即興によるセッションでした。 MAGIC sensorは楽器を演奏する手に付けることで楽器音を増幅するとは違う形で演奏の身振りによって生じる音を拡張するという試みかとは思いましたが、 演奏者とスピーカーの間に座ってしまったのが悪かったか、拡張されたかのような面白さには聞こえませんでした。 説明的なトークも多く、楽器の紹介やセッションの通しての試演という雰囲気の強いライブで、 音として楽しんだという程ではありませんでしたが、楽器やモーションセンサーの組み合わせを興味深く観ました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4154] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jan 8 22:12:01 2024

正月4日は夕暮れに神保町へ。 神保町シアターの特集『フィルムでよみがえる——白と黒の小津安二郎』で、小津安二郎のサイレント映画を生伴奏で観てきました。

『東京の女』
1933 / 松竹蒲田 / 47 min. / 無声・白黒
監督: 小津 安二郎.
岡田 嘉子 (姉), 江川 宇礼雄 (弟), 田中 絹代 (娘), 奈良 眞養 (兄).
伴奏付上映, 伴奏: 竹内 理恵.

昼はオフィスのタイピストとして働き、夜は大学教授の下で働いていると偽りカフェー女給として稼ぐ姉と、 姉の稼ぎで進学する弟の、心情のすれ違いを、弟の恋人も絡めて描いた1時間弱の中編です。 2012年に観た時はピアノ伴奏もあってか弟の学費のために自己犠牲で働く女性のせつないメロドラマという印象が残ったのですが [鑑賞メモ]、 タイピストという昼の顔と警察に要注意人物としてマークされるという夜の顔という二面を持つ、 謎めいた女性をめぐるサスペンス的な緊張感ある画面作りもあったのだな、と、気付かされました。

伴奏の竹内理恵は、ソプラノサックスをルーパーでいくつか重ねつつ。断片を散りばめるような抽象寄りの演奏でした。 そんな伴奏も、この映画のサスペンス的な面を際立たせていたでしょうか。 伴奏によって映画の印象も大きく変わるものだと、実感しました。

神保町シアターで正月に特集『巨匠たちのサイレント映画』という生伴奏付きサイレント映画上映が始まったのは、2012年。 2012年は見逃したものの、2013年以降数年は正月に神保町シアターで生伴奏付きサイレント映画を観るのが恒例となっていました。 10年前2014年の正月も特集『生誕110年・没後50年 記念 映画監督 小津 安二郎』で 小津のサイレント映画を生伴奏で観たことを思い出しつつ [鑑賞メモ]、 三省堂のビルも無くなり十年前とは周囲の街もかなり変わってしまったな、などと、少々、感傷的になってしまいました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4153] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sat Jan 6 23:22:08 2024

大晦日から2日まで帰省 (といっても実家は都区内) していましたが、正月3日は美術館へ初詣。昼に恵比寿へ出て、この展覧会を観てきました。

Leap Before You Look: Contemporary Japanese Photography vol. 20
東京都写真美術館 3階展示室
2023/10/27-2024/01/21 (月休; 月祝開,翌火休; 12/29-1/1休). 10:00-18:00 (木金-20:00)
渕上 裕太 [Fuchikami Yuta], 夢無子 [mumuko], 山上 新平 [Yamagami Shimpei], 星 玄人 [Hoshi Haruto], うつゆみこ [Utsu Yumiko].

アニュアルで開催されている新進写真家展です [前回の鑑賞メモ]。 都市下層を捉えたドキュメンタリ色濃い2作家 (渕上 裕太、星 玄人)、 色を抑えて形式的な1作家 (山上 新平)、 シュールレアリズム〜サイケデリックな流れを感じるきつい色の2作家 (夢無子、うつゆみこ)、 というばらけ具合で、全体としての方向性を掴みかねました。 山上 の写真が好みと思いつつも、 樹皮などのテクスチャを取ったものから人物像まで撮る対象が様々で、 スタイリッシュではあるけれども、その毒気なさというか空虚さも感じてしまったりしました。

Revolution 9: Homma Takashi
東京都写真美術館 2階展示室
2023/10/06-2024/01/21 (月休; 月祝開,翌火休; 12/29-1/1休). 10:00-18:00 (木金-20:00)

1990年代から活動する写真家の個展です。美術館規模の個展を見るのは十余年ぶりです [前回の鑑賞メモ]。 今回も回顧展ではなく、カメラ・オブスキュラを使って撮った2010年代以後の作品をメインに構成し、インスタレーションもある展示でした。 カメラ・オブスキュラというと佐藤 時啓 [鑑賞メモ] や 宮本 隆司 [鑑賞メモ] も思い出し、 都市を撮ってきた写真家がカメラ・オブスキュラに走るのはよくあるようだとも思いつつも、 ぼんやりとした仕上がりはこの作家の作風でしょうか。 インスタレーションの一つは、カメラ・オブスキュラを暗示する暗い部屋を穴 (ピンホールほどは小さくない) から覗くというもの。 タイミングによっては作家本人が中で楽器演奏したようですが、それは観られませんでした。

Prix Pictet: Human/人間
東京都写真美術館 2階展示室
2023/10/06-2024/01/21 (月休; 月祝開,翌火休; 12/29-1/1休). 10:00-18:00 (木金-20:00)

サスティナビリティをテーマとした国際写真賞プリピクテ Prix Pictet のショートリスト写真家の展覧会です [前回の鑑賞メモ]。 今回のテーマは「Human/人間」ということもあって人を捉えた写真が多く、世界各地の人々のあり様を伝える報道写真に近い印象も受けました。 名を知った写真家はいませんでしたが、ショートリストに残る写真家だけあってか、 世界各地の環境問題、原住民/少数民族、ジェンダー/セクシャリティなどの社会的な問題をテーマにしつつも、形式的な美しさも備えていて、かなり見応えがありました。

特に印象に残ったのは、イラン南岸のホルムズ海峡に浮かぶ島々 (おそらくQeshm Islandとその周辺 の島々) で撮影された Hoda Afshar: Series: Speak the Wind (2015-20)。 Qeshm Island (Hermes,2002) というCDで音楽を通して独特の文化を持つ地域だとは知っていたけれども、その向こうにある風景を見るようでした。

他にも、トルコの少数民族とジェンダーの問題を主題に (Kardeş Türküler の活動を連想させます [鑑賞メモ])、 東アナトリアの制服姿の女学生をモノクロで静かに捉えた Vanessa Winship: Sweet Nothings: Schoolgirls from the Borderlands of Eastern Anatolia (2007)、 そうとはすぐに気づかない撮られ方であるもののロシア侵攻下のウクライナでの日々で撮られた Gera Artemova: Series: War Diary (2022)、 ポーランド・シロンスク地方を炭鉱とその閉山の影響を主題にその風景を静謐に捉えた Michał Łuczak: Series: Extraction (2016-23) などが印象に残りました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

美術館初詣の後は、渋谷に足を伸ばして、ハチ公前で献血。 特に積極的という程ではないのですが、激甚災害などのきっかけがあったり、職場に献血者が来たりすれば、献血するようにしています。 といっても、2011年以降、年1回強くらいのペースになってしまっていて、激甚災害が増えているよなあ、と。

[4152] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Fri Jan 5 23:54:53 2024

まだ去年末の話ですが、29日晩にこのアイスショーをarte.tvの配信で観ました。

The Snow Queen
Nokia Arena (aka Tampere Deck Arena [Tampereen Kannen areena])
2022-12-31, 93 min.
After Hans Christian Andersen.
Music: Tuomas Kantelinen; Director & Choreographer: Reija Wäre; Lighting, Set and Video Design: Mikki Kunttu; Scriptwrighter: Melissa A. Thompson; Costume Designer: Erika Turunen; Synchronised Skating Choreography: Anu Oksanen; Make-up Designer: Minna Pilvinen
Performers: Laura Lepistö (Snow Queen), Silja Dos Reis (Gerda), Felipe Montana (Kai), Ilja Glebov (Raven / Hobgoblin), Julien Dulière (Lemmy the Ermine), Mia-Mari Sinkkonen (Robber Girl), Zabato Bebe (Pond Hockey MC), Daria Perminova, Evgenii Belianin (Reindeer), Susanna Rahkamo, Petri Kokko (Twin Wizards), Lisa Mochizuki (Spring), Marigold IceUnity (Snowflake Soldiers), et al.
Budapest Art Orchestra, Peter Pejtsik (conductor),
Production: Tampere Hall Ltd., Kantelinen Company Ltd., 2022.
Director (Yle): Ilmari Aho.
ARTE Concert URL: https://www.arte.tv/en/videos/112555-000-A/the-snow-queen/
Available from 2023/11/15 to 2024/03/29.

フィンランドのタンペレで2022年12月30日から2023年1月1日にかけて5公演が行われたアンデルセン童話『雪の女王』に基づくアイスショーの フィンランド公共放送 Yle によってTV収録された12月31日の公演が arte.tv で配信されています。 フィギュアスケーターだけでなく、シンクロナイズドスケーター、ダンサー、アイスホッケー選手も出演しています。 フィンランド語のナレーションも少し用いますが (arte.tv では英語等の字幕が付く)、身体表現によるストーリーテリングがメインです。 “ice ballet” と謳っていて、確かに物語バレエ (narrative ballet) 的な構成演出ですが、身体語彙的には特にバレエ色は濃くありません。 アイス・アリーナとそれを縁取る氷塊の連なりのようなフロア・ステージで上演されるのですが、 舞台美術や背景へのビデオ投影が使えないものの、氷面へのプロジェクションマッピングというか映像投影による演出を駆使していました。 演技やビデオによるストーリーテリングは丁寧でわかりやすく、元の話を知っていればナレーション無しでも物語は十分に追える、良い意味でエンタテインメント的なショーです。

タイトル役 (Snow Queen) は Euro 2009 女子フィギュアスケート金メダリストの Laura Lepistö (フィンランド) ですが、 実質ヒロイン Gerda 役には Silja Dos Reis、 Cirque de Soleil のアイスショー Crystal にも出演していたという元ペア選手 (フランス) を使っていました。 やはり、男性とペアとなってのスケーティング、リフトやスローのようなペアのスキルがあった方が表現の幅が広がります。 最後の場面で Snow Queen は Spring (春の精) へ変わるのですが、Spring 役は Lisa Mochizuki [望月 梨早]、Cirque de Soleilにも出ていたという日本のスケーターでした。 また、バレエでいう所のコール・ド・バレエ (corps de ballet) 的な使い方で、シンクロナイズドスケーティング・チーム Marigold IceUnity (フィンランド) も活躍します。 Gerda を Snow Queen に導くトナカイが2人組着ぐるみで演じられていましたが、スケートを履いてのこの演技は大変そうです。 Gerda の味方となる山賊 (Robbers) はスケーターではなくダンサー (ショーダンスの文脈で活動する) が演じていました。 スケーターとは違う動きを加えるという演出的な意図もあったかと思うくらいの必然は感じましたが、彼らもスケーターに演じさせたらとも思いました。 アイスホッケー選手の出演は、KaiがThe Snow Queenの虜になる池でのアイスホッケー (原作は橇ですが) の場面だけでした。

クリエイティヴのうち演出の Reija Wäre、作曲の Tuomas Kantekinen はフィンランドで活動する人ですが、 脚本の Melissa A. Thompson と照明/セット/ビデオ・デザインの Mikki Kunttu は、 Cirque du Soleil のクリエイティヴ・チームで働いてきたとのこと。 主要な役にも Cirque de Soleil 経験者が配されていて、そこでのノウハウや経験も活かされているのだろうと想像されます。 フィギュアスケーターの選手としての知名度頼りではなく、この The Snow Queen のように物語バレエ的にしっかり演出・振付されたアイスショーを観てみたいものです。

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[4151] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Thu Jan 4 23:33:43 2024

去年末の話になってしまいましたが、28日晩は渋谷円山町へ。渋谷ユーロスペースでこの映画を観てきました。

Kuolleet lehdet [Fallen Leaves]
2023 / Sputnik Oy (FI), Bufo (FI) / 81 min. / 35 mm.
ohjaus Aki Kaurismäki.
Alma Pöysti (Ansa), Jussi Vatanen (Holappa), Janne Hyytiäinen (Huotari), Nuppu Koinu (Liisa), et al.

フィンランドの映画監督Aki Kaurismäkiの6年ぶりの新作は、都市下層低賃金労働者の中年男女のメロドラマ。 女性の主人公Ansaはスーパーマーケットの品出しをしていますが、廃棄食品を持ち帰ったり浮浪者へ与えたりしたことを見咎められ解雇。 続けて見つけたバーの洗い場の仕事は、給料日前日に店長が麻薬取引で逮捕され、タダ働きの憂き目に。 男性の主人公Holappaは酒依存気味で、機械修理工場で働いていますが、仕事中の飲酒が発覚し解雇。 そんな2人がカラオケでお互いを見初め、Ansaが働いていたバーの店主逮捕騒ぎで再会し、 電話番号の紛失、飲酒に関わる諍い、路面電車に轢かれる事故などでのすれ違いを重ねつつも、関係を深めていく様を描いています。 展開は古典的とも言えるすれ違いメロドラマで、セリフ少なく登場人物が歌い出すだけではないものの挿入歌に心情や状況を語らせるという形式も実にメロドラマでした。

その一方、メロドラマの主人公といえば上流階級や中間層で、美男美女がそれなりにオシャレに演じるのが普通ですが、 この映画では失業ギリギリの労働者が主人公で生活も慎ましやか。 演技も感情を煽り立てるようなものとは対極の無表情に近い演技で、セリフも短くぶっきらぼう気味。 そして、そんな中から激しい恋愛感情というより人情に近い、淡々とした愛情が控えめでさりげないユーモアと共に滲み出るかのよう。 廃棄食品の持ち帰りを見咎められる場面でAnsaの側に立つ同僚の女性たち、 工場を解雇された後もHolappaと付き合う友人Huotariもいい人で、 メロドラマというより都市下層を舞台とした人情物に近い味わいでした。

Ansaはネットカフェで求人を探し、ロシアのウクライナ侵攻のニュースがAnsaのラジオが流れるなど、現代を舞台とはしていましたが、 特にAnsaの部屋の雰囲気などミッドセンチュリー・モダンな雰囲気。 デートに行く映画館もJim Jarmusch: The Dead Don't Die がかかり、GoddardやBressonを口にする客が集う名画座。 カラオケなど俗な雰囲気も交えつつつも、俗悪にならないセンス良い扱い。 Holappaには酒依存の問題はあれどそれ以外の問題を抱えているようでもありません。 AnsaもHolappaもKaurismäkiの映画にしては美男美女。 そんな所は都市下層を美化しているところもあるかと思いますが、それも良い意味でメロドラマのお約束でしょう。 そんな寡黙で慎ましやかな生活の中にある静かな情の美しさを感じさせた —Jim Jarmusch: Paterson [鑑賞メモ] にも近い余韻が残った— 映画でした。

『落ち葉』公開に合わせて特集上映『愛すべきアキ・カリウスマキ』が組まれたので、 併せてこの映画を観ました。

Pidä huivista kiinni, Tatjana [Take Care of Your Scarf, Tatiana]
『愛しのタチアナ』
1994 / Sputnik Oy (FI) / 62 min. / 35 mm.
ohjaus Aki Kaurismäki.
Kati Outinen (Tatjana), Matti Pellonpää (Reino), Kirsi Tykkyläinen (Klavdia), Mato Valtonen (Valto), et al.

舞台は1960年代のフィンランド、 仕立て屋の母の下で働いているロッカーズ (労働者階級のサブカルチャー) のValtoは、 コーヒーを切らしていることに腹を立てて、母を部屋に閉じ込めて、家を出奔。同じくロッカーズの自動車整備工のReinoとドライブに出、 途中で出会ったソ連からの観光客の女性2人を同乗させることになります。 そんな4人のドライブの様子、特に大きな事件は起きませんが、特に女性に奥手な男性2人が女性2人を持て余すギクシャクした展開を、オフビートなユーモアと共に描いた映画です。 モノクロで撮られていることもあり、少々ノスタルジックな雰囲気も良い感じです。 いつの間にかTatjanaと懇ろになったReinoはエストニア・タリンに残り、 Valtoは独り家に戻るのですが、部屋から出された母も、ミシンに向かうValtoもまるで時間が経ってないかのよう。 4人のドライブもValtoの頭の中でのわずかの間の時間の想像であったかのような終わり方でした。

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[4150] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Jan 2 23:59:38 2024

2023年に入手した最近数年の新録リリースの中から選んだ10枚+α。 展覧会・ダンス演劇等の公演の10選もあります: 2023年公演・展覧会等 Top 10

#1
Sanne Rambags, Vincent Courtois, Julian Sartorius
Twigs
(Budapest Music Center, BMC CD 317, 2023, CD)
[Budapest Music Center]
#2
Sergio Armaroli
Vibraphone solo in four part(s)
(Dodicilune Dischi, Ed536, 2023, CD)
[Dodicilune]
#3
PJEV, Kit Downes, Hayden Chisholm
Medna Roso
(Red Hook, RH1003, 2023, CD)
[Bandcamp]
#4
Ensemble 0
Jojoni [徐々に]
(Crammed Discs / Made To Measure, MTM49, 2023, CD)
[Bandcamp]
#5
Steve Lehman & Orchestre National de Jazz, conducted by Frédéric Maurin
Ex Machina
(Pi Recordings, PI99, 2023, CD)
[Bandcamp]
#6
Svitlana Nianio & Tom James Scott
Eye of the Sea
(Skire, SKR11, 2023, CD)
[Bandcamp]
#7
Msaki × Tubatsi
Synthetic Hearts
(No Format!, NOF.57, 2023, CD)
[Bandcamp]
#8
Tomas Fujiwara
Pith
(Out Of Your Head, OOYH022, 2023, CD)
[Bandcamp]
#9
Myra Melford’s Fire And Water Quintet
Hear The Light Singing
(RogueArt, ROG-0130, 2023, CD)
[Bandcamp]
#10
Ballaké Sissoko, Vincent Segal, Emile Parisien, Vincent Peirani
Les Égarés
(No Format!, NOF.58, 2023, CD)
[Bandcamp]
次点
JFDR
Museum
(Houndstooth, HDH161CD, 2023, CD)
[Bandcamp]
番外特選
Jan Bang: Reading the Air + Eivind Aarset / Jan Bang: Last Two Inches of Sky
『ボンクリ・フェス 2023』, 東京芸術劇場 ギャラリー1
2023/07/07-08
[鑑賞メモ]

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[4149] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Jan 2 23:58:13 2024

2023年に歴史の塵捨場 (Dustbin of History)に 鑑賞メモを残した展覧会やダンス演劇等の公演の中から選んだ10選+α。 おおよそ印象に残った順ですが、順位には深い意味はありません。 旧作映画特集上映や劇場での上演を収録しての上映などは番外特選として選んでいます。 音楽関連は別に選んでいます: Records Top Ten 2023

第一位
Pansori Azit 놀애박스 [NohlAe Box] / 박인혜 [Park In-hye] <오버더떼창: 문전본풀이> [Over the Crowd-singing of Pansori: Munjeon Bonpuri |『パンソリ群唱 〜済州島 神の歌〜』] (音楽劇)
静岡県舞台芸術公演 屋内ホール「楕円堂」, 2023/05/06
[鑑賞メモ]
第二位
『さいたま国際芸術祭2023』メイン会場 (美術展)
旧市民会館おおみや, 2023/10/07-2023/12/10
[鑑賞メモ]
第三位
Compagnie H.M.G.: 3D (サーカス)
座・高円寺 1, 2023/03/25
[鑑賞メモ]
第四位
Inbal Pinto: Living Room (ダンス)
世田谷パブリックシアター, 2023/05/20
[鑑賞メモ]
第五位
『デイヴィッド・ホックニー展』 David Hockney (美術展)
東京都現代美術館 企画展示室3F/1F, 2023/07/15-2023/11/05
[鑑賞メモ]
第六位
Kidd Pivot: Revisor (ダンス)
神奈川県民ホール 大ホール, 2023/05/27
[鑑賞メモ]
第七位
『東京ビエンナーレ2023 — リンケージ つながりをつくる』成果展示 (美術展)
東京都心北東エリア, 2023/09/23-2023/11/05
[鑑賞メモ]
第八位
Aki Kaurismäki (ohjaaja): Kuolleet lehdet [Fallen Leaves] 『枯れ葉』 (映画)
Sputnik Oy (FI), Bufo (FI), 2023; ユーロスペース, 2023.
[鑑賞メモ]
第九位
『交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー』 (展覧会)
東京都庭園美術館, 2022/12/17-2023/03/05
[鑑賞メモ]
第十位
大巻 伸嗣 『Interface of Being 真空のゆらぎ』 (美術展) 及び 展示空間でのパフォーマンス (ダンス)
国立新美術館 展示室2E, 2023/11/01-2023/12/25
[鑑賞メモ]
次点
Cristóbal León & Joaquín Cociña: La casa lobo 『オオカミの家』 (映画)
Diluvio (CL), Globo Rojo Films (CL), 2018; イメージフォーラム, 2023.
[鑑賞メモ]
番外特選1
『再発見!フドイナザーロフ ゆかいで切ない夢の旅』 (映画特集上映)
ユーロスペース, 2023/06
[観賞メモ]
番外特選2
『宿命の女 ルイズ・ブルックス』 (映画特集上映)
シネマヴェーラ渋谷, 2023/04
[観賞メモ]
番外特選3
Metropolitan Opera, Ivo van Hove (prod.), Wolfgang Amadeus Mozart (comp.): Don Giovanni @ Metropolitan Opera House (オペラ / event cinema)
Metropolitan Opera live in HD, 2023
[観賞メモ]

[このTop Tenのパーマリンク]

[4148] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Jan 2 23:56:43 2024

あけましておめでとうございます。

2023年の展覧会・公演等Top TenレコードTop Tenを選びました。 趣味生活と言えるほどのことは出来ていないのですが、他の方への参考にというより、自分の振り返りのために選んでいます。

こうして振り返ると、2023年は映画へのウェイトが上がりました。 当たり年だったのか自分の興味関心が向いたのか判断しかねますが、 きっかけは2022年末の『ピエール・エテックス レトロスペクティヴ』でしょうか。 2023年に入り『没後60年 ジャン・コクトー映画祭』、『オタール・イオセリアーニ映画祭』、『宿命の女 ルイズ・ブルックス』、『再発見!フドイナザーロフ ゆかいで切ない夢の旅』など 好企画の特集上映が続いたというのが、大きかったように思います。 特集上映については、展覧会・公演Top Tenの番外特選へは特に良かった2つしか入れませんでしたが。

Top Tenの選択には世相はほとんど反映されていませんが、 2023年もロシアによるウクライナ侵攻も終結の見通し無く、10月にはイスラエル・ハマス戦争も始まり、国際情勢は悪化の一途。 COVID-19も5類感染症へ移行するものの第9波。気象も日本だけでなく世界的な異常高温。 2024年も元旦から能登半島地震、翌2日は羽田空港で航空機事故、と、幸先悪い年明けになってしまいました。 ささやかな趣味生活でも楽しめる世が続いて欲しいと願います。

twitter の運営もおかしくなってしまいいつまで続くのかという状況でツイートのモチベーションもだいぶ落ちてしまっています。 このサイトへの鑑賞メモも遅れがちになってしまっていますが、マイペースに今年も続けたいと思っています。 今年もよろしくお願いします。

[4147] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Thu Dec 28 0:11:19 2023

16日土曜は晩に横浜山下町へ。 YPAM – 横浜国際舞台芸術ミーティングイタリア文化会館の共催のよる Italian Contemporary Dance Showcase のBプログラム2作品を観てきました。 どちらも初めて観るカンパニー/コレオグラファーでそのバックグラウンドにも疎いのですが、 どちらの作品もナラティヴともアブストラクトとも言い難いリチュアルな (儀式の様な) 作品でした。

I'll do, I'll do, I'll do
KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
2023/12/16, 19:00-19:25.
coreografia, con: Teodora Castellucci
assistente alla coreografia, produzione: Agata Castellucci; musica originale: Demetrio Castellucci; drammaturgia, disegno delle luci, direzione tecnica: Vito Matera;
produzione: Dewey Dell, 2022

暗い照明の下、黒いフロアに黒布で模った円形の中に黒い衣装の女性一人が、 不規則な電磁的なパルス音に合わせ、 座ったもしくは膝立ちの状態で首を振り身体を震わせトランスするシャーマンを思わせるパフォーマンスをしました。 最後は、黒布の下に身を隠して人が姿を見せないまま起き上がり、 シャーマンの様な動きをしていた女性を黒布で飲み込み、 最後には布が円錐形に吊り上げられていき、まるで昇天したかの様でした。

KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
2023/12/16, 19:10-20:40.
concept e coreografia: Nicola Galli
musica: Giacinto Scelsi, 3/4 had been eliminated; oggetti scenici: Giulio Mazzacurati; maschere e costumi: Nicola Galli; luci e audio: Giovanni Garbo
danza: Margherita Dotta, Nicola Galli, Leonardo Maietto, Silvia Remigio
anno: 2021; produzione: TIR Danza, stereopsis; co-produzione: MARCHE TEATRO / Inteatro Festival, Oriente Occidente

舞台後方に明るく開口した半円アーチの出入り口があるだけのミニマリスティックな舞台ですが、 装飾的なお面とその手捌き足捌きからして、東南アジア〜東アジア南部あたりの架空の民族の、 動植物を神格化した神々をそのキャラクターを描くかのようなダンスでした。 それなりに展開はありましたが、神話的というほどはストーリーは感じさせませんでした。 前衛的な作風で知られる20世紀の作曲家 Giacinto Scelsi の音楽が使われていましたが、 そのダンスの印象のせいか、エキゾチックな響きに聞こえたのが新鮮でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

12月は仕事が過負荷。その前の週から疲労困憊気味では合ったのですが、18日月曜の午後についに38℃超、発熱してしまいました。 新型コロナかインフルエンザだったら抱えていた仕事が色々破綻しかけない状況だったのでどうなることかと思いましたが、 倦怠感ばかりで喉痛、咳、鼻水のような風邪様の症状も無く、半日程度で寝込んだ程度で解熱しました。 すぐ復調して全力というわけにいきませんでしたが、仕事上の今年最大の山場をなんとか乗り切ることができました。

[4146] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Wed Dec 27 23:35:40 2023

9日土曜は昼前に川崎へ。この上映を観てきました。

from Metropolitan Opera House, 2023-10-21.
Composer: Jake Heggie; Librettist: Terrence McNally; based on Sister Helen Prejean's memoir Dead Man Walking, 1993.
Production and Choreography: Ivo van Hove
Set and Lighting Designer: Jan Versweyveld. Costume Designer: An D'Huys. Projection Designer: Christopher Ash. Sound Designer: Tom Gibbons.
Cast: Joyce DiDonato (Sister Helen Prejean), Ryan McKinny (Joseph de Rocher), Suan Graham (Mrs. Patrick de Rocher), Latonia Moore (Sister Rose), et al.
Conductor: Yannick Néset-Séguin.
World Premiere: San Francisco Opera, 2000.
Premiere of this production: The Metropolitan Opera, 2023-09-26.
上映: 109シネマズ川崎, 2023-12-09 10:50-15:25 JST.

The Metropolitan Opera live in HD 2023-24 Seasonの第一弾は、2000年初演の原題を舞台としたオペラ作品です。 オランダの Ivo van Hove の演出は、昨シーズンの Don Giovanni がとても良かったので [鑑賞メモ]、期待の上映でした。

原作は、アメリカ・ルイジアナ州で死刑囚 (Joseph de Rocher) のカウセラーとなった尼僧 (Sister Helen Prejean) の回想録で、 1995年には映画化もされています (といっても、原作は読んでおらず、映画は観ていません。) 主人公はルイジアナ州の貧困地区で慈善活動をする尼僧で、 若いカップルに対するレイプ及び殺人の罪で死刑囚となった男のカウンセラーとして、 最初は手紙のやり取りに始まり、やがて直接面会する様になり、その死刑執行を見届けるという話です。 原作者/主人公は死刑廃止論の立場ですが、オペラにおいても主人公の視点だけでなく、 映像で犯行の様子をはっきりと描き、死刑囚本人だけでなく、死刑囚の家族や被害者の家族とやり取りを通して、 死刑制度の是非を多声的に描いていました。

2000年初演の作品ですが、原作者の指定もあって音楽は調性的で、現代オペラというより映画音楽のよう。 おかげでとっつきやさはあった思いますが、もっとアブストラクトな音の方が好みでしょうか。 Ivo van Hove の演出に期待していたのですが、元々が現代を舞台とした新作オペラなので、現代への翻案の妙のようなものはありません。 そもそも刑務所という殺風景な場所が主な舞台ですが装飾的なものが抑えられたミニマリスティックな演出で、 ドアから入る光の使いなどに Hedda Gabler [鑑賞メモ] を思い出したりもしましたが、 個々の演技はナチュラルなもの。 特に、ラストの死刑執行の場面は象徴的に処理することなく、ここぞというばかりにその手順も含めてリアルに描いていました。 尼僧が死刑囚に初めて面会にドライブする場面での歌・演技と映像の組み合わせなど流石と思いつつも、 映像使いも異化を狙うというよりも説明的に感じられました。 期待し過ぎたのかもしれませんが、Ivo van Hove にしてはベタな演出に感じてしまいました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]