TFJ's Sidewalk Cafe >

談話室 / Conversation Room

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[4213] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Sep 17 23:08:56 2024

先の週末土曜の夕方、有楽町から初台へ移動して、会期末になってしまったこの展覧会を観てきました。

Takada Kenzo: Chasing Dreams
東京オペラシティ アートギャラリー
2024/07/06-2024/09/16 (月休;8/4休), 11:00-19:00.

1960年代末から活動し2020年に亡くなった日本の服飾デザイナー 高田 賢三 の回顧展です。 年表やそれに関連しての資料展示はありましたが、衣装展示は1970年代、1980年代の2コーナーのみ。 衣装展示で焦点を当てられた、パリに進出した1970年以降、KENZOブランドがLVMHに買収された1993年より前の間が、やはり創作のピークでしょうか。 自分が服飾デザインに興味を持つようになったのは1980年代ですが、 黒白を基調とした comme des garçons や Y's (Yohji Yamamoto) とは対称的カラフルなブランドという印象がありました。 自分の好みは前者ということで、当時、KENZOの服はほとんどチェックしていなかったのですが、 今回、展覧会で見直して、花柄使いも特徴的な欧州のフォークロア (民族衣装) を引用再構成したものと気付かされました。 ファッション展ではありがちではあるののですが、メンズの展示がほぼなかったのも、このデザイナーのボジションを示しているように感じられました。

ICC Annual 2024: Faraway, so close
NTTインターコミュニケーション・センター
2022/06/22-2023/11/10 (月休;月祝開,翌火休;8/4休), 11:00-18:00.
青柳 菜摘+細井 美裕, 木藤 遼太, Winnie Soon, たかくらかずき, Hugo Deverchère, 葉山 嶺, 古澤 龍, 米澤 柊, Li Yi-Fan, おおしまたくろう (-8/25), Li Muyun (9/10-).

2021年まで『オープン・スペース』と銘打っていたアニュアルのグループ展の2024年版です。 印象に残った作品は、 香港出身の Winnie Soon による «Unerasable Characters» (2020-2022)。 低い書架に大きく投影されたランダムに見える文字などスタイリッシュなインスタレーションに SNS, マイクロブログに対する検閲の問題を浮かび上がらせていました。 古澤 龍 の《Mid Tide #3》 (2024) は、 高谷 史郎 の《toposcan》 (2013) にも一見似ているのですが、 しばらく眺めていると、走査してフリーズさせるかのような《toposcan》とは異なり、 波動を動きがあるままに圧縮伸張していくところが面白く感じられました。 Ravel: Bolero の81種類の演奏 (interpretation) 音源をぼやけた音像に組み上げた 木藤 遼太《M.81の骨格——82番目のポートレイト》 (2024)、 郊外や埋立地の工事現場をパフォーマンスに使う舞台のように象徴的にギャラリー内に再構成した 青柳 菜摘+細井 美裕 《新地登記簿》(2024) なども、印象に残りました。

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[4212] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Sep 16 22:10:21 2024

9月中ばになれど猛暑日近い暑さの土曜は、先週末に続き、昼過ぎに有楽町へ。 今度はこの公演を観てきました。

東京国際フォーラム ホールC
2024/09/14, 14:00-16:00
A Pina Bausch Foundation, École des Sables & Sadler’s Wells production.
主催・企画制作・招聘: パルコ
Choreography: Pina Bausch; Music: Pierre Henry.
approx. 6 min.
Performed by Eva Pageix.
World Premiere: 1971.
Homage to the Ancestors
Choreography: Germaine Acogny; Music: Fabrice Bouillon.
approx. 23 min.
Performed by Germaine Acogny.
World Premiere: 2023.
Choreography: Pina Bausch
approx. 35 min.
Music: Igor Stravinsky; Set and Costumes: Rolf Borzik; Collaboration: Hans Pop.
World Premiere: 3 December 1975, Opera House Wuppertal
2021 Restaging: Artistic Directors: Jo Ann Endicott, Jorge Puerta Armenta, Clémentine Deluy; Rehearsal Directors: Ditta Miranda Jasjfi, Çağdaş Ermiş, Barbara Kaufmann, Julie Shanahan, Kenji Takagi.

ドイツ Pina Bausch Foundation とイギリス Sadler’s Wells が セネガルの伝統舞踊とコンテンポラリーダンスの学校 École des Sables との共同制作した アフリカ13カ国35名のダンサーによる Pina Bausch: The Rite of Spring [Le Sacre du printemps] 再演です。 2020年にコロナ禍で公演中止になり2021年に初演、やっとの来日公演です。 オリジナルの Tanztheater Wuppertal Pina Bausch の上演は映画 Pina で [鑑賞メモ]、 この再制作版はセネガル・ダカールの砂浜での上演を Sadler's Wells の Digital Stage で [鑑賞メモ]、 それぞれ観る機会がありましたが、上演を生でみるのは初めてです。

ブラックボックスな舞台での上演では砂浜での上演のような色彩の逆転の妙はなく、むしろオリジナルの上演に近い印象です。 良席が取れなかったこともあるかもしれませんが、迫力という点では映画/映像の方が上だったかもしれませんが、ライブならではの生々しさがあります。 若々しく力強く踊るダンサーたちの資質もあるかもしれませんが、 犠牲になる側の壊れやすさというよりも、むしろ、暗示的な男性の女性に対する暴力性や凄惨さの方の印象を受けたパフォーマンスでした。 Pina Bausch の振付・演出は男女に分かれての構成が多いのも、その一因かもしれません。 生で観られたという感慨はありましたが、 そのミニマリスティックな衣裳デザインもあってか、アフリカ内とはいえ13カ国から集められたダンサーの多様性が捉え難かったのは、惜しかったでしょうか。

The Rite of Spring は休憩を挟んだ後半で、前半はソロダンス2作。 まずは、Tanztheater Wuppertal Pina Bausch のゲストダンサーだったこともあるという Eva Pageix による Pina Bausch の最初期のソロ作品 PHILIP 836 887 DSY。 Pierre Henry の往年の電子音楽を使ってのアブストラクトな小品で、こんな作品と作っていた時期があったのかと、感慨深く観ました。 続いては、École des Sables を主宰するアフリカにおけるコンテンポラリーダンスの先駆者的存在である Germaine Acogny のソロ。 踊りといういうより、静かな身振りとナレーションされる言葉を通して厳しい時代を生きた祖先への祈りの儀式を見るかのようでした。

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[4211] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Sep 10 22:07:55 2024

先週末の土曜、有楽町へ出たついでに、7月に観た東京国立博物館での展覧会の連携企画が銀座で始まったので、それを観てきました。

Rei Naito: come and live - go and live
Ginza Maison Hermès Le Forum (8F, 9F)
2024/09/07-2025/01/13 (水休), 12:00-19:00.

展示に使われているモチーフなど、東京国立博物館との共通点も多く、第四会場的な位置付けもあるのでしょうか。東京国立博物館との間のシャトルバスも運行されていました。 例えば、8階ギャラリー上に張り出した9階から吹き抜け越しに望むブロックガラスの壁の上に貼られたチラチラを微かに光って見える直径1 cmほどの鏡 (向かい合わせの白壁にも同じ鏡が貼られている)、 北側のギャラリーの大きな台の上に置かれた5 cmほどの八角形の鏡の上に置かれたケシ粒大の白い物体、 宙の浮くような色の玉に当てたスポットライトが作るぼんやりとした丸い影など、 こちらの展示の方が、展示の中から細やかな煌めきを探すような楽しみ方ができました。 また、観他のがちょうど18時前後の日没の時間帯で、ブロックガラス越しの外光の、明るい夕陽から夕闇と広告看板などの明かりへの、移ろいを感じました。 自然光の入る第二会場も、日没頃の時間帯の方が良いのかもしれません。

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[4210] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Sep 8 22:20:46 2024

9月に入っても猛暑日近い残暑になったこの週末の土曜は、昼過ぎに有楽町へ。 今まで予定が合わずに見逃してきましたが、今回で4年目となる音楽映画の上映企画 Peter Barakan's Music Film Festival 2024 が開催中されているので、 今回、以下の2本を観てきました。

Soundies
『サウンディーズ 元祖ミュージック・ヴィデオ』
1940-1946 / various productions / distribution: Kino Lorber (US) / 86 min.

サウンディ (Soundie) は1940年から1946年にかけてアメリカで製作された1曲約3分間の短編音楽映画です。 バーや食堂に置かれた映像ジュークボックスとも言えるパノラム (Panoram) と呼ばれるコイン投入で16 mmmフィルムをリア投影する装置で上映するためのコンテンツでした。 そのアメリカ議会図書館 (Library of Congress) のコレクションを修復したものを、 アメリカ Kino Lorber が Soundies: The Ultimate Collection として配給しています。 その全200曲10時間の中から、Peter Barakan が選んだ主にブラック・ミュージックのサウンディ30曲が上映されました。

登場するのは Count Basie, Cab Calloway, Hoagy Carmichael, Nat King Cole, Dorothy Dandridge, Duke Ellington, Sister Rosetta Tharpe, Louis Jordan など。 全員女性のジャズ・バンド International Sweethearts of Rhythm のものもありました。 音楽スタイルとしてはスイング時代のジャズやブギウギ、ゴスペル、ジャンプ・ブルースやその混交といったものですが、 当時の映画やジャズの位置付けでもあると思いますが、エンタテインメント色濃い作りです。 ミュージックビデオの先駆と言われていますが、演奏風景の使い方やダンスや演劇的演出を交え方にそのその原点を見るようでした。 そして、それだけではなく、アーティなモダンジャズとなる前、 まだジャズがエンタテインメント色濃いポピュラー音楽だった時代を、映画館の大画面と音響を通して、生き生きとした姿で体験できました。

サウンディは第二次世界大戦開戦直後、アメリカ参戦直前の1940年から、終戦直後の1946年に作られたもので、 Louis Jordan の “G.I. Jive” や “Ration Blues” のテーマにその時代を感じましたが、 少し前にNFAJの上映企画 『返還映画コレクション (2)』で同時代の日本映画を観たところだったので [鑑賞メモ]、 全体としては戦意高揚などとは無縁な娯楽な作りという点も、印象を残しました。

『自分の道 欧州ジャズのゆくえ』
A film by Julian Benedikt
2006 / Benedikt Pictures (de), ZDF/ARTE (de), SFDRS (ch), NRK (no), YLE (fi) / distribution: EuroArts Entertainment (de) / 88 min.

タイトルからして2000年前後の動向も盛り込まれているのかと予想しましたが、 むしろ、第二次大戦後から1970頃までの欧州でのジャズの受容をアーカイブ映像やインタビューで追います。 1950年代パリでの Miles Davis との関係を Juliette Greco に語らせたり、 1960年代コペンハーゲンでの Dexter Gordon の果たした役割に焦点を当てたり、 仕事を求めて、もしくは、人種差別を逃れて欧州へ来たアメリカとのミュージシャンとの人的交流を通して、 そして欧州のミュージシャンが自身の声を見つけて欧州でのジャズを確立させる様子を浮び上がらせて行きます。 また、西欧だけでなく Joachim Kühn や Tomasz Stanko を通して当時の共産政権下東欧でのジャズの受容にも光を当てます。 書籍やライナーノーツなどを通してある程度知っていたつもりでしたが、欧州の公共放送局の豊富なアーカイブ映像が駆使され、かなり見応えありました。 ドイツ、スイス、ノルウェー、フィンランドの公共放送局が制作に加わっていますしARTEで放送されたのではないかと推測しますが、いかにもARTEで放送しそうなしっかりとした作りのドキュメンタリーです。

Christian Wallumrød, Arve Henriksen (Punkt Festivalでの映像), Gianluca Petrella (Enrico Ravaのサイドメンとして), Marcin Wasilewski (Tomasz Stankoのサイドメンとして) など、 21世紀に入って活躍するミュージシャンの演奏の映像も交えますし、 最後に ECM と Rainbow Studio の様子を捉えるのですが、 そこを深掘りすることはなく、むしろ、1970年代までの受容と消化、アンデンティティの確立の上に、 ECM やそれに強く影響を受けたそれ以降の現代欧州ジャズがあるということを示唆するようでした。

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[4209] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Sep 2 23:08:15 2024

日本に接近・上陸してからの進みが遅く迷走した台風10号の影響で週後半から週末にかけて天気は荒れ気味。 しかし、土曜は午後に六本木へ出て、会期末になってしまった展覧会を観てきました。

森美術館
2024/04/24-2024/11/06 (会期中無休), 10:00-22:00 (火-17:00 除4/30,8/13).

21世紀以降、アメリカ・シカゴのサウス・サイドを拠点に現代アートの文脈で活動する、かつ、 アーバニズムを社会実践する社会企業家的な面も持つ Theaster Gates の展覧会です。 2004年に陶芸を学ぶため常滑に来日して以来、日本の文化に影響を受けたとのことで、 アメリカ公民権運動の“Black Is Beautiful”と日本の民藝運動を融合した「アフロ民藝」をテーマにしていました。

展示の前半から中盤にかけては社会実践の資料展示も含め民藝運動とは関係なく彼のそれまでの作風に焦点を当て、最後に「アフロ民藝」の作品が集められています。 貧乏徳利の並んだディスコ (Disco Tokkuri) のようなインスタレーションは組み合わせの意外さはあれど、 民藝運動と公民権運動の関係が腑に落ちるようなことはありませんでした。

むしろ、前半の「神聖な空間 (Shrine)」と題されたセクションの作品、黒人教会を思わす Hammond B-3 organ と7台の Leslie speakerb を使ったインスタレーション «A Heavenly Chord» (2022) で鳴り響くドローンや、 地域の教会の取り壊し現場で歌や楽器を演奏と廃材となった扉を打ち鳴らす様を交えてたビデオ作品 «Gone Are the Days of Shelter and Martyr» (2014) での歌とサウンドスケープの間のような音使いが、気に入りました。

展示に関係して、世界の動きや民藝運動、アメリカ公民権運動に関する年表が展示されていたのですが、 公民権運動というかアフリカ系アメリカ人に関するものが薄く感じられました。 特に、#MeToo はあるのに Black Lives Matter が載って無いというのは、この企画に合ってないのでは、と感じられてしまいました。

MAM Collection 018: Nguyen Trinh Thi
森美術館
2024/04/24-2024/11/06 (会期中無休), 10:00-22:00 (火-17:00 除4/30,8/13).

森美術館のコレクションを紹介する小展示では、 ベトナムの映画監督・映像アーティストによるビデオ/サウンドインスタレーション «47 Days, Soundless» (2024) が展示されていました。 天井から下げられたアームから樹状に広がるように付けられた8枚の円形の鏡を使って映像を「乱反射」させるような投影上の工夫は感じられました。 しかし、そんな映像よりも、映画から撮ったというサウンドスケープ的な音とも楽器音とも感じられるような絶妙な音空間に、 Theaster Gate の音使いとも共通するものが感じられ、そんな所に興味を引かれました。

上映を全て観たわけではないのですが、ビデオというメディアの特性に着目したというより、ナラティヴな作風のものが多いのでしょうか。 台湾の第一、第二世代のビデオアーティストが筑波大で山口勝弘の下で学んだという話に、 筑波総合造形からの流れ [鑑賞メモ] には 国境を越えたものもあったのかと、この展示で気付かされました。

畠山 直哉 『津波の木』
Naoya Hatakeyama Tunmi Trees
Taka Ishii Gallery
2024/08/31-2024/09/28 (日月祝休), 12:00-19:00.

展覧会タイトルのシリーズ「津波の木 (Tsunami Trees)」は 『DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに』 (国立新美術館, 2020) で観たことがありましたが [鑑賞メモ]、 大判のプリントで立木の形状の捉え方の妙を久々に楽しむことができました。 高知の津波避難タワーを捉えた新作シリーズ「Kochi」は、小さめのプリントを15×2で30枚並べるという展示です。 タワーに中央に捉えつつもタイポロジー的になるのを避けるような遠近の取り方と周囲様子の入れ込み方に興味を引かれつつも、大判のプリントでどう見えるのか少々気になりました。

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[4208] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Sep 1 20:27:26 2024

画廊巡りにするには猛烈に暑く、いつ土砂降りに遭うかもわからないような天気が続いていますが、 会期末の展覧会もあるので、24日土曜の午後、表参道で美術展巡りをしてきました。

Dialogue with Joseph Beuys
GYRE Gallery
2024/07/17-2024/09/24 (8/19休), 11:00-20:00.
企画: 飯田 高誉 (スクールデレック術社会学研究所所長)
Joseph Beuys, 若江 漢字, 畠山 直哉, 磯谷 博史, 加茂 昂, AKI INOMATA, 武田 萌花.

横須賀市にある私設美術館 カスヤの森現代美術館 所収の Joseph Beuys のヴィトリーヌ (vitrine) 作品を3点を核に、 日本の作家6人で構成した展覧会です。 カスヤの森現代美術館を開設した 若江 も参加しており、ある意味で、カスヤの森現代美術館 の出張展示という感もあるでしょうか。 掲げているテーマとはすれ違ってしまった感があったのですが、 数ヶ月前に観た Anselm Kiefer のガラスケース入りオブジェの作品は [鑑賞メモ]、 Beuys のこの作風の影響下にある物だと今更がながら思い至ることができました。 畠山 直哉 が何を出展しているのだろうという興味もあったのですが、 当時勤めていた広告代理店SPNで1984年 Beuys 来日時の記録映像制作のディレクターの仕事をした時の、Beuys を撮った (そういう意味では作品性の低い) 写真でした。

Omotesando Crossing Park
2024/08/10-2024/08/26 (無休), 10:00-20:00.
キュレーター: 保坂 健二朗 (滋賀県立美術館ディレクター・館長)
岩村 遠, 上田 勇児, 梅津 庸一, 小沢 さかえ, 笹岡 由梨子, 千賀 健史, 西條 茜, 野田 幸江, ミヤケマイ, 安枝 知美, 保良 雄.

滋賀県に縁のある現代アートや現代陶芸の作家を集めての展覧会で、こちらは 滋賀県立美術館 の出張展示でしょうか。 去年12月に『高知県立美術館開館30周年記念展 そして船は行く』を観たときに地元の縁とう切り口が新鮮で面白かったので [鑑賞メモ]、 その滋賀県版だと思いつつ、やはり都心の小スペースの展示構成では薄さを否めません。 京都、大津あたりに行った時には滋賀県立美術館へも足を伸ばしてみたいものです。 展示されていた作品は多様でどぎつい色彩だったりキッチュだったりする作風もありましたが、 掛け軸をレイヤに分解したような ミヤケマイ の作品 [鑑賞メモ]、 意味深長そうで抽象的な空間構成のようで捉え難い 保良 雄 のインスタレーションなど、 スッキリした仕上がりの作品の方が印象に残りました。

Prada Aoyama 6F
2024/05/09-2024/08/26 (無休), 11:00-20:00.

表参道のプラダ青山の6階を使っての Miranda July [鑑賞メモ] の個展です。 2020年にSNSの Instagram のプライベートチャネルを使い見知らぬ人とコラボレーションして作成した動画を、 スマートフォンと同じく縦型のアスペクト比の6面のモニターを使ってマルチチャネル上映した作品です。 親密さというか “intimacy” を主題としているようで、 コラボレーションした人が撮った映像と July の映像を重ね合わせて、性的な意味合いを含めての「親密さ」の表現 (の不可能性) を試みるかのような映像を作り出しています。 今まで観たことのある July の作品ほどにはユーモアが感じられず、むしろ少しグロテスクに寄ったようにも感じられました。

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[4207] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Aug 26 23:15:59 2024

台風一過の猛暑となった先々週末17日土曜は昼に葉山へ。この展覧会を観てきました。

石田 尚志
Ishida Takashi: Between Tableau and Window
神奈川県立近代美術館 葉山
2024/07/13-2024/09/28 (月休;7/15,8/12,9/16,9/23開), 9:30-17:00

キャンバスに閉じない壁などへのドローイング、ペインティングなどを タイムラプスでストップモーション・アニメーションとして映像化する作風で知られる 石田 尚志 の展覧会です。 美術館規模での個展としては2015年の横浜美術館以来でしょうか。

『海坂の絵巻』 (2007) の長い紙に連なるインクの流れにはじまり、 部屋の壁だけでなく床にまで広がる塗料のドリッピング、飛沫、渦巻き流れるようなイメージが展開する映像がメインだった2015年の展覧会『渦巻く光』に対し [鑑賞メモ]、 今回の展覧会は、今回は窓から差す光に着想したものをメインに構成。 時間と共に壁や床を揺らぎ移ろう日差しを塗料を使って重層的に固着させるかのように、そして、消えていくような映像を作り出していきます。 差し込む光と塗料で描かれたイメージの関係、窓と対比するかのように額無しのキャンバスや描かれた方形の関係も、 連続的に変容したり飛躍したりとトリッキーな面白さもあります。

2022年で六本木で観た木製ボードを使って空間に作り込みをしていく作品『庭の外』 [鑑賞メモ] も展示されていたのですが、 こちらは、広めな空間に展示されたせいか、少々疎らに感じられてしまいました。

映像作品以前の1980年代から1990年代の絵画作品も展示されていました。 展覧会の企画からその傾向のものが集められていたのかもしれませんが、 矩形の構造と光の動きを感じる作品が目に付き、抽象表現主義的な絵画のアニメーションというか、絵画作品と映像作品との間の連続性が感じられました。

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展覧会を観た後、小一時間余裕があったので、美術館の南隣にある 葉山しおさい公園へ。 度々美術館へ行っていたのに、実は入るのは初めてでした。 神奈川県立近代美術館 葉山 は高松宮邸跡地ですが、こちらの公園は葉山御用邸付属邸跡地。 ということで、池や滝のある日本庭園や眺めのよい黒松林などが残っていました。 散策していると、暑さも少し忘れます。

公園敷地内にある葉山しおさい博物館にも入ったのですが、 葉山町の郷土博物館と思いきや (もちろんそういう面もありますが)、 昭和天皇御下賜標本もあり、かなり本格的な海洋生物博物館でした。

隣の美術館のように現代的な公園と博物館として整備されたのかと思いきや、葉山御用邸付属邸の「癖」を強く残していたところが、面白かったでしょうか。 今回は猛暑で庭も長居はできず、小一時間で軽く流しましたが、これからも葉山の美術館ついでに立ち寄りたいものです。

葉山の後は、夕方に鎌倉かつら小路へ移動。 鎌倉カフェ・アユーでJun Morita Five Hours Drone Live Set。 途中夕食に抜けた2時間弱があるので約3時間、気持ちよく鳴り響く音響を堪能しました。 少し聞くことができた Nigerian Guitar Roots 1936-1968 (El Sur, 2024) マスタリング裏話も興味深く。 楽しい晩も過ごすことができ、充実の一日でした。

[4206] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Aug 25 20:44:38 2024

先週金曜は午後は恵比寿の東京都写真美術館で展覧会を観た後は、恵比寿ガーデンシネマへ移動。 アイルランドのアニメーション・スタジオ Cartoon Saloon の25周年に合わせ 『カートゥーン・サルーン25周年特集上映』が開催されたので、 見逃していた長編第1作を観てきました。

The Secret of Kells
『ブレンダンとケルズの秘密』
2009 / Les Armateur (FR), Vivi Film (BE), Cartoon Saloon (IE), France 2 Cinéma (FR) / 75 min.
A film by Tomm Moore.
Co-Director: Nora Twomey; Script: Fabrice Ziolkowski; Art Director: Ross Stewart; Editor: Fabienne Alvarez-Giro.
Music: Bruno Coulais; Featuring original music from: Kila.
Cast: Evan McGuire (Brendan), Michael McGrath (Adult Brendan), Brendan Glesson (Abbot Cellach), Christen Mooney (Aisling), Mick Lally (Brother Aidan), et al.

Song of the Sea (2014) [鑑賞メモ]、 WolfWalkers (2020) [鑑賞メモ] に先立つ Tomm Moore による “Irish Folklore Trilogy” 「ケルト三部作」の第1作です。 また、The Breadwinner (2017) [鑑賞メモ] の Nora Twimoy が Co-Director を務め、 また、Tout en haut du monde (2015) [鑑賞メモ] や Calamity, une enfance de Martha Jane Cannary (2020) [鑑賞メモ] の Rémi Chayé が storyboard としてクレジットされており、 2010年代以降のヨーロッパの長編アニメーションの源流の1つとも言える作品でもあります。

8世紀に制作されたとされるアイルランドに伝わる聖書の装飾写本 Codex Cenannensis [The Book of Kells] 「ケルズの書」に着想し、 修道院へのバイキング襲撃が頻発していた当時の状況を背景にしつつ、アイルランドの修道院での「ケルズの書」成立を、 主人公である少年僧 Brendan が「ケルズの書」を完成させるまでの英雄冒険譚 (映画オリジナルのフィクション) として描きます。 修道院長である叔父の Cellach 院長との確執、メンターとなる修道士 Aidan とその写本との出会い、白狼と少女の姿を行き来する森の妖精 Aisling と交流しつつ、 バイキング襲撃やクロム・クルアハ (Crom Cruach) との戦いを通しての Brendan の成長を描くという、 特に第3作 WolfWalkers と比べかなりベタな英雄譚です。 しかし、特に妖精 Aisling の造形など WolfWalkers の原点を観るようでしたし、 Cartoon Saloon の動く絵本のような美しいアニメーションの原点に装飾写本があったということを実感することができ、 とても興味深くかつ、その美しいアニメーションを十分に楽しむことができました。

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東京都写真美術館は地下1階だけで、2階3階の展覧会は観ていなかったのですが、この日はパス。 公共交通機関に台風の影響が出ていないうちに、と、そそくさと帰宅したのでした。

[4205] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sat Aug 24 23:33:05 2024

先週金曜は発達した台風7号が関東に接近。 午前中こそ激しい雨が降りましたが、昼には雨風も大人しくなりました。 思い立って、一日自宅避難の予定を変更し、昼過ぎに恵比寿へ。この展覧会を観てきました。

Iwai Toshio × Tokyo Photographic Art Museum presents The Light and Movement House with 100 Stories –– Connecting Visual Devices in the 19th Century and Media Art
東京都写真美術館 地下1階展示室
2024/07/30-2024/11/03 (月休;月祝開,翌火休). 10:00-18:00 (木金-20:00)

1980年代からメディアアートの文脈で活動する 岩井 俊雄 の作品と、 主に東京都写真美術館所蔵のマジックランタンやゾートロープ (zoetrope) など19世紀の映像装置を組み合わせての展覧会です。 岩井 俊雄 は マジックランタン、カメラオブスキュラ (camera obscura)、フェナキストスコープ (Phenakistoscope) やゾートロープの仕組みに着想しつつ、 ストロボ光源としてTVやプロジェクタを使用したり、ストロボの代わりにステッピングモーターを利用した作品を多く作ってきています。 そのような作品を並置し、 いわいとしお 名義での人気の絵本 『100かいだてのいえ』シリーズ (2008-) の絵をナビゲーションに使うことで、 子供の観客にも親しみやすいよう19世紀映像装置のコレクションを工夫して展示していました。 1年前にも『TOPコレクション 何が見える? 「覗き見る」まなざしの系譜』という展覧会をやっていましたが、 映像装置コレクションの展示に試行錯誤を感じます。

しかしそのような工夫よりも、岩井 俊雄 の最初期の作品、 ブラウン管TVをストロボ光源として使用して回転する絵や立体をフェナキストスコープのようにアニメーションとして見せる 《時間層 I》 (1985)、《時間層 II》 (1985)、《時間層 III》 (1989)、 そしてTVの代わりに三管式プロジェクタを使った《時間層 IV》 (1990) という一連の作品をまとめて観られたのが収穫でした。 最近の高性能な映像機器を使った映像インスタレーションと比べるとプリミティヴさは否めないですが、 その映像機器の時代を感じるという点でも興味深く観ることができました。 製品として調達も保守も困難なブラウン管や三管式プロジェクタを使った作品を動態で観られるというのは、ありがたいものです。 比較的初期の作品『映像装置としてのピアノ』(1995) も久しぶりに観ることができました [鑑賞メモ]。

実は、この展覧会で、岩井 俊雄 が絵本作家 いわいとしお として活動していることを知りました。 自分にとって 岩井 俊雄 といえば『ウゴウゴルーガ』ですが、 絵本が大きくフィーチャーされる一方、『ウゴウゴルーガ』が全く触れられていなかったのは、やはり、権利関係もあったりしたのでしょうか。

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恵比寿でランチするつもりだったのですが、台風のため臨時休業した店が多く、ランチ難民になりかけました。 暴風、大雨災害に厳重に警戒を呼びかける台風情報が出ていたので、こればかりは仕方ありません。

[4204] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Aug 18 19:06:17 2024

先週末土曜10日は、昼に三軒茶屋へ。この舞台を観てきました。

世田谷パブリックシアター シアタートラム
2024/08/10, 13:00-14:10.
Idée originale: Marie-Hélène D'Amours; Mise en scène: Marie-Hélène D'Amours & Hippolyte
Artistes à la création: Hippolyte
Scénographie: Ghislain Buisson; Costumes: Elizabeth Cognard; Éclairage: Julie Laroche; Musique: Hippolyte & Sylvaine Arnaud; Conception sonore: Ghislain Buisson
Crée: 2016.

カナダ・ケベック州のサーカス・カンパニー Le Gros Orteil による、クラウン (道化) の一人舞台です。 舞台には下手にポール、中央に本棚、上手に事務机、さらに脇にビートボックスやエフェクタの小机。 空想に耽りがちのダメ司書くん Émile が図書館開館前の準備する様を、 スラップスティックなコメディの合間に、 チャイニーズポール、ヒップホップ・ダンス、ビートボクシング、シガーボックス・ジャグリング、ディアボロなどの技を交えて行きます。

ちょうど前日に観たエノケンの映画『兵六夢物語』の兵六も空想癖のあるダメ男だったなと思いつつ [鑑賞メモ]、 こういうスラップスティック・コメディ定番の枠組みを使い、 空想の場面を活かした技の見せ場とコメディ・リリーフでメリハリを付けて、約1時間のショーとしてまとめ上げていました。 夏休みの親子向けプログラムということで、客席には親子連れが多くいましたが、 そんな客席から上がる歓声や笑い声も含めて雰囲気の良いエンターテイメントでした。

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[4203] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Fri Aug 16 23:28:38 2024

9日金曜は晩に池袋西口へ。この公演を観てきました。

東京芸術劇場 シアターウエスト
2024/08/09, 19:30-21:30.
振付・構成・演出: 中村 蓉.
舞台監督: 熊木 進; 照明: 久津美 大地; 音響: 相川 貴; 映像・ドラマトゥルク: 中瀬 俊介; 音楽: 長谷川 ミキ; 衣裳デザイン・製作: 武田 久美子; 演出振付助手: 河内 優太郎; 振付助手: 安永 ひより; プロダクションディレクター: 内堀 愛菜.
『花の名前』
出演: 福原 冠, 和田 美樹子, 中村 蓉; ピアノ演奏: 長谷川 ミキ.
初演: 2023, 下北沢ハーフムーンホール.
『禍福はあざなえる縄のごとし』
出演: 島地 保武, 西山 友貴; (ノンクレジット出演) 福原 冠, 和田 美樹子, 中村 蓉.
参考文献: 「お辞儀」「海苔巻きの端っこ」「ヒコーキ」(以上『父の詫び状』文藝春秋 所収), 「手袋をかざす」(『夜中の薔薇』講談社 所収).
新作初演.

中村 蓉 による、1970年代にテレビドラマのシナリオライターとして活躍した 向田 邦子 に着想した舞台作品ダブルビルです。 小説『花の名前』 (1980) に基づく作品のリプロダクションに続いて、 休憩を挟んでエッセーに着想した作品『禍福はあざなえる縄のごとし』という構成でした。 TVドラマを観る習慣が無く 向田 邦子 との接点はほとんど無かったのですが、 『ジゼル』 [関連する鑑賞メモ] が面白かったですし、 コンテンポラリーダンスではあまり取り上げられなさそうな題材をどう扱うのかという興味もあって、足を運んでみました。

『花の名前』は、福原 冠 が小説の一部を朗読しつつ、舞台が進みます。 マイムで場面を描写したり、ダンス的な動きで象徴的に心情を表現したり、と、 説明的というほどでは無いものの身体表現の使い方もストーリーに沿ったもの。 小説の朗読があるせいか、ナラティブなダンス作品というより、身体表現の要素の強い演劇という印象の強い作品でした。

後半の『禍福はあざなえる縄のごとし』はエッセーに基づく作品ということもあり、 明確な物語的な展開はなく、導入など「向田邦子」という文字の形に着想したところから入ります。 TVドラマのテーマも含めて具体的な音楽も使われますし、 前半で演じられた『花の名前』などもコラージュされるかのように舞台上に立ち現れますが、 エッセー中で着目したいくつかのエピソード (例えば、手袋を探す) をベースに、 それを字幕などで掲げつつも、エレクトリックな音楽や体操的にすら感じる強い動きでエピソードに付かず離れずダンスとして変奏していきます。 そういった舞台上での動きを通して、向田 邦子の創作の源泉を浮かび上がらせるようでした。

原作の言葉とダンスや音楽との距離感は『禍福はあざなえる縄のごとし』くらいあった方が好みですが、 題材が自分には縁遠過ぎて、腑に落ちたという程では無かったのも確か。 例えば終演後のトークで少し言及があった「戦後日本の家庭像」やその変遷のような、もう少し普遍性のあるものが作品の向こうに見えれば、と思うところもありました。

前日8日に日向灘でマグニチュード7.1の地震が発生し「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」下での公演でしたが、 『花の名前』上演中に緊急地震速報を伴う地震が発生して、上演中断、すわ南海トラフ地震かと緊張しました。 安全を確認した上で途中から上演再開になりましたが、演ずる方もやりづらかったのではないでしょうか。 地震による公演中断というのを初めて体験しましたが、大事にならなくて良かった。

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[4202] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Aug 12 20:42:41 2024

アメリカ議会図書館に残存し1967年から1984年にかけて返還され国立映画アーカイブ (当時 東京国立近代美術館フィルムセンター) に所蔵されている戦前・戦中期の映画の上映企画第2弾 『返還映画コレクション(2)――第一次/二次・劇映画篇』が、 国立映画アーカイブで開催中です [第1回の際の鑑賞メモ]。 ということで、8月9日と11日に観てきました。

『櫻の國』 (不完全)
1941 / 松竹大船 / 80 min. (オリジナル105 min.) / 35 mm / 白黒
監督: 澁谷 實; 原作: 太田 洋子.
上原 謙 (笹間 三郎), 高峰 三枝子 (駒 ヒカル), 水戸 光子 (矢島 新子), 笠智 衆 (高島 総一), 斎藤 達雄 (笹野 賢吉), 吉川 満子 (しづ枝), 葛城 文子 (新子の母), etc.

日中戦争中に華北電影の提携で大陸 (北京天津などの「北支」) でのロケ撮影を含む、太田 洋子 の小説の映画化です。 父や継母と折り合いが悪く北支の戦線で宣撫官としての任務に生き甲斐を見出す 三郎 と、 許嫁同然の仲として彼を待つ 新子、女学校へ通うために親戚である三郎の家に寄宿し2人と仲の良い ヒカル の3人をめぐる、戦争や親の思惑に翻弄される恋愛を描いたメロドラマです。 男性の主役が宣撫官なだけに特に「大陸ロケ」で撮られた前半は戦中のプロパガンダ的な要素を感じる場面もありますが、 話が進むほど松竹大船らしく一人の男性を巡る二人の女性の恋と結婚の綾を丁寧に描いていました。

女性主役2名の 水戸 光子 と 高峰 三枝子 の性格付けは 『暖流』 (松竹大船, 1939) [鑑賞メモ] や 『花は僞らず』 (松竹大船, 1941) [鑑賞メモ] は共通するものがありますし、 新子とヒカルが三郎について話し合う洋館のカフェの場面や、日本へ戻った三郎が新子へ縁談のあった男と結婚するように言う砂浜の場面など、 『暖流』を意識したのではないかと思う場面絵作りも見受けられました。 スーツ姿の 上原 謙 もですが、はまり役とも言えるモダンな洋装をバッチリと決めた性格の良いお嬢様を演じる 高峰 三枝子 が、見目麗しいです。 戦地の三郎との行き違いもあって新子は母からの縁談のあった男と結婚し、 それでは三郎に密かに想いを寄せている ヒカル の方はどうなるのか、というところで、ラスト25分欠落のため「完」というのが残念な映画でした。

『兵六夢物語』
1943 / 東宝 / 67 min. / 35 mm / 白黒
監督: 青柳 信雄; 原作: 獅子 十六; 特殊技術: 圓谷 英一 (円谷 英二).
榎本 健一 (大石 兵六), 高峰 秀子 (怪童女), 霧立 のぼる (お光), 黒川 彌太郎 (吉野 市助), 柳田 貞一 (吉野 市太郎), 中村 是好 (心岳寺和尚), 如月 寛多 (曲淵 杢郎治), etc

江戸時代の薩摩で作られたと伝わる『大石兵六夢物語』に基づく映画です。 エノケンこと 榎本 健一 演じるダメな郷士 大石 兵六 は、郷中で不始末をしでかしてしまいます。 母に諭され心岳寺に行く途中の峠道で、狐の妖怪に化かされ坊主頭にされるもののの、なんとか妖怪退治して寺に辿り着きます。 狐の妖怪を退治したことで修行は済ませたと和尚に言われ、家に戻り、薩摩藩兵として初陣に向かう、という話です。 元々は Don Quixote の話に近い風刺物と言われますし、 前半の兵六のダメっぷり、そして、峠での兵六とダメ狐の怪童女とのやり取りや妖怪との闘いのあたりまでは、英雄譚のパロディかと観ていました。 しかし、結局、自信を持ち、親を大切にし、立派な兵士となれという教訓話となってしまうのは、戦時中の映画ならではでしょうか。

といっても、ダメ男 兵六 をコミカルに演じるエノケン、 同じくダメな狐の怪童女として兵六と絡み峠で妖怪と闘う場面をコミカルに盛り上げる 高峰 秀子、 そんな怪童女との絡みや妖怪との戦闘シーンを映像化する 円谷 英二 の特撮、 化かされる中での東宝舞踏隊 (日劇ダンシングチーム) も使ってのミュージカル映画的な場面など、見どころは沢山あり、 物語はさておき映画を楽しむことはできました。 惜しむらくは、元宝塚の 霧立 のぼる 演ずるもう一人のヒロイン、兵六に密かに想いを寄せる師範の娘 お光 に目立つ場面が無かったところでしょうか。

『闘魚』 (前後篇)
1941 / 東宝 / 125 min. / 35 mm / 白黒
監督: 島津 保次郎; 原作: 丹羽 文雄.
高田 稔 (加賀谷 士行), 志村 アヤコ (加賀谷のお孃ちゃん), 里見 藍子 (多卷 笙子), 池部 良 (多卷 清), 灰田 勝彦 (灰田 勝彦), 櫻町 公子 (藝者染葉), 山根 壽子 (門口 とも子), etc

厚生省後援による結核撲滅のための宣伝映画として作られた、丹羽 文雄 の小説を原作とする劇映画です。 継母・義兄弟と郊外 (厚木) で暮らす父とは折り合い悪く、 対外宣伝機関でタイピスト兼記者として稼いで グレ気味の弟 清 と暮らす 笙子 が主人公です。 結婚を約束した 勝彦 の出征を機に、学校時代の友人である藝者染葉が彼と恋仲にあったことを知り、それを伏せるうちに勝彦の両親とも疎遠になります。 そんな中、弟が結核に罹っていると判明し、高額な療養所入院費用を稼ぐため、 結核検査所で偶然知り合った紳士 加賀屋の経営する美術店に転職します。 しかし、加賀屋からの給金と借金が大金であることから、加賀屋との関係を勝彦の両親から疑われます。 勝彦は復員しますが、両親に言われるまま他の女性との結婚を決めます。 しかし、藝者染葉から真実を知り、決めた結婚を破談にし、借金を返すようにと金を 笙子 に渡して新たな仕事のため南洋へ旅立ちます。

さすが、厚生省後援の宣伝映画だけあって、当時の結核の検査や治療の描写が細かく、その様子を垣間見るよう。 また、結核の社会の中での位置や、タイピストや美術店主として活躍する女性など、当時の社会の様子の描かれ方も興味深く見ることができました。 しかし、島津 保次郎 ならではのさりげない日常の会話の機微を捉えるような演出が活きる場面は少なかったでしょうか。 それを期待するものでもないと思いますが、メロドラマとして見ると 藝者染葉 の描写が薄く、その点も物足りなく感じました。

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[4201] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Aug 11 23:00:31 2024

先週末土曜は午後に成城学園前へ。このライブを観てきました。

Joëlle Léandre, Kazuhisa Uchihashi
アトリエ第Q藝術 (成城学園前)
2024/08/03, 16:00-17:30.
前座: 浮 [Buoy] (guitar, vocals); Joëlle Léandre (doublebass), Kazuhisa Uchihashi (electric guitar, daxophone, effects).

フランスのjazz/improvの文脈で主に活動する Joëlle Léandre の約20年ぶりの来日です。 非公開の『Max Summer School in 藝大 2004』 のための来日でしたが、 急遽、関東一円でいくつかのライブが開催されたので、最終日の 内橋 和久 とのデュオを観てきました。 Léandre のライブを観るのも四半世紀ぶり [鑑賞メモ]。 今回は前座約30分の後、休憩の後、2回の短い区切りを入れての3曲約1時間の即興のライブでした。

Joëlle Léandre の contrabass は、アンプに繋ぐだけでエフェクト、プリペアドは無し。 全くピチカートしないわけではないものの弓弾きが主で、ネックの方を叩いたり弾いたり弦を緩めたりしつつ、鈍く擦り響く音を繰り出します。 一方の 内橋 和久 はプリペアドな electric guitar の音をエフェクト通して響かせたり、daxophone を弓弾いたり。 二人の鈍く響く音が被りがちだなと感じることが多かったので、2曲目頭のマイク仕込みの daxophone を箸で叩いたビョンビョンいう増幅された音や、3曲目頭の contrabass のピチカートでの響き印象に残りました。

会場にも50人前後の観客が入り、外は35度近い炎天で空調の効きもいまいち。 Léandre はひどく汗をかきつつ合間に「サウナのよう」と言いつつの演奏でした。
会場となった、アトリエ第Q藝術は成城学園前から徒歩5分程度、 日本画家、高山辰雄画伯の住居・アトリエを改装して2017年9月にオープンしたアートスペース。行くのは初めてでした。 民家・アトリエ改装ということで趣のあるスペースを期待していましたが、 ホールは天然光は入らず剥き出しの合板で覆われた空間でした。 音響や照明をしっかり制御してのライブやパフォーマンス向きのスペースでしょうか。
前座の 浮 [Buoy] は acoustic guitar 弾き歌いの女性シンガーは初耳でしたが、 electronica 以降の繊細な音、声を使う indie folk。 違う文脈で聴けたらよかったかもしれませんが、今回は取り合わせがよくありませんでした。

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[4200] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sat Aug 10 21:32:39 2024

7月28日日曜は、午後に横浜紅葉坂へ。この公演を観てきました。

神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホール
2024/07/28, 14:00-15:40.
演出: 小野寺 修二.
原作: 松本 清張; 美術: Nicolas Buffe; 音楽: 国広 和毅.
出演: 成河, 王下 貴司, 大西 彩瑛, 崎山 莉奈, 武谷 公雄, 田中 博士, 藤田 桃子, 小野寺 修二, 他30名.
照明: 磯野 眞也; 音響: 池田 野歩, 野崎 爽; 衣装: 藤田 友; テキスト協力: 小里 清; 舞台監督: 矢島 健; 舞台監督助手: 三津田 なつみ; 演出助手: 藤田 桃子; イラストとチラシデザイン: チャーハン・ラモーン; 制作協力: リトル・ジャイアンツ.
初演: 2009年12月17日, 川崎市アートセンター アルテリオ小劇場; 改訂再演.

カンパニーデラシネラ [関連する鑑賞メモ] による 松本 清張 の推理小説『点と線』 (1958) を原作とする舞台作品です。 2009年初演の改訂再制作とのことですが (初演は未見)、未見ながら初演の写真やキャストを見る限り、 舞台美術も全面的に変更し、出演者の数も公募のエキストラ的な出演者30名が加わるなど、ほぼ新演出と言って良いもののようです。

原作が推理小説ということで、さすがにセリフありで、かつ、ほぼ原作の話の流れに沿って舞台は進みます。 一人複数役で役が入れ替わるような時もありますが、 マイム主体で構成するカンパニーデラシネラの作風の中ではかなり演劇寄りの作品でした。 Nicolas Buffe によって描かれた可動式の正方形柱4本が、東京駅の場面での駅の柱はもちろん、 料亭、警察署、家などの壁になり、また、回り舞台も使って場面を転換していきます。 しかし、Buffe の柱を様々に見立てていくことよりも、 回り舞台、柱の動きやパフォーマーによるマイムの動きの切り替えによって、 映像表現におけるモンタージュ、カットバックのような演出を舞台上でどう表現するのかという所に、 面白さを感じました。

カンパニーデラシネラにしては大掛かりな舞台で、メインのキャスト8名に加えて公募による30名のキャストを使い、 東京駅を行き交う群衆や鉄道車両の乗客を表現していました。 この原作ではこれ以上の使い方は難しいだろうとは思いますし、これも一つの試みかなと思いますが、 背景になってしまっていた感もあって、圧倒感、不条理などマスの存在を強く感じるような場面があっても良かったかなとも思いました。

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しかし、この7月最終末はダンス関連の公演が集中し過ぎ。 ほぼ毎年観に行っている座・高円寺『世界をみよう!』のサーカス・プログラムもこの週末で、今年は行けませんでした。 ダンス以外にも行きたい音楽の公演も土曜にあったのですが、ダンス公演で既にハシゴしているくらいで、どうしようもありませんでした。

[4199] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Aug 5 22:29:47 2024

27日土曜は、三軒茶屋の後、与野本町へ移動して、この公演を観てきました。

彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
2024/07/27, 17:00-19:00.
約30分
演出振付: 金森 穣.
音楽:Gustav Mahler: Die 3. Sinfonie - IV „Was mir die Liebe erzählt“ 《交響曲第3番第6楽章「愛が私に語ること」》
レオタード: YUMIKO; バレエバー: 須長 檀.
出演: Noism0 + Noism1 + Noism2: 金森 穣, 井関 佐和子, 山田 勇気, 浅海 侑加, 三好 綾音, 中尾 洸太, 庄島 さくら, 庄島 すみれ, 坪田 光, 樋浦 瞳, 杉野 可林, 糸川 祐希, 太田 菜月, 兼述 育見, 河村 アズリ, 佐藤 萌子, 高田 季歩, 春木 有紗, 江川 瑞菜, 川添 愛美莉, 四位 初音, 髙橋 和花, 松永 樹志, 矢部 真衣, 与儀 直希.
初演: 2024年6月28日, りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈劇場〉
約55分
演出振付: 金森 穣
音楽: Recomposed by Max Richter «Vivaldi: The Four Seasons»; 衣裳: 中嶋 佑一; 小道具: 須長 檀.
出演: Noism0 + Noism1: 井関 佐和子, 山田 勇気, 浅海 侑加, 三好 綾音, 中尾 洸太, 庄島 さくら, 庄島 すみれ, 坪田 光, 樋浦 瞳, 杉野 可林, 糸川 祐希, 太田 菜月, 兼述 育見, 松永 樹志.
初演: 2024年5月18日, 前沢ガーデン野外ステージ (黒部シアター2024春)

りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 の劇場付きダンスカンパニー Noism Company Niigata [鑑賞メモ] の2023/2024シーズンの夏公演は20周年記念公演です。

ダブルビルの1作品目『Amomentof』は、20年の活動に因んだ、稽古に着想したダンスについてのダンス (メタダンス) です。 舞台には上手奥から下手前に斜めに舞台を区切るようにバレエバーに並べられ、その周りに抑えた色合いのレオタード姿のダンサーたちがウォーミングアップするかのように位置取るところが始まります。 そこから踊りが始まるのですが、稽古に着想しているだけあって求道的で地味だなと観ていたら、 バーが舞台脇や奥に下げられ、過去の公演ポスターを並べた映像が後方に投影され、ダンサーたちは過去の公演での作品の衣裳となって、華やかな群舞へと場面転換。 しかし、それも束の間、最初の場面に戻っていきました。 普段の地味な稽古の積み重ねの向こうに華やかな一瞬があることを実感させるような作品でした。

2作品目は今年春に富山県黒部の前沢ガーデン野外ステージで初演された『セレネ、あるいは黄昏の歌』。 劇場での公演ということで、縦長の白い幕を半円形並べて、最初のうちは頭上高く、後半は周囲を囲むような低い位置に下げていました。 架空の儀式を思わせる作品なのですが、儀式だけ切り出しているのではなく、その向こうにあるコミュニティのあり方を感じさせます。 特に、後半というかラスト近くの老いとそこからの再生を思わせる展開、山田 勇気 の老いの踊りに、 タイトルにある黄昏のもう一つの意味をそこに観たようでした。

開場少し前に劇場に着いた時は晴れていたのですが、開演時にガラガラゴロゴロという音が低くホールに響いていました。 その時は効果音かなと思っていたのですが、どうやら本物の雷鳴だった模様。 終演後に劇場を出たときには雨はほぼ止んでいましたが、稲妻雷鳴まだは続いてました。 与野本町駅の電光掲示も落雷の影響で調整中。公演中に落雷停電にならなくてよかった。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

その前の20日土曜の立川も雷雨の被害になんとか遭わずに済みましたが、この土曜もかなり危うい展開でした。

[4198] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Aug 4 20:19:03 2024

先週末の土曜は、昼に三軒茶屋へ。ランチの後、この公演を観てきました。

世田谷パブリックシアター
2024/07/27, 14:00-15:15.
Co-writers and co-directors: Maxim Laurin, Ugo Dario.
Performers: Maxim Laurin, Guillaume Larouche.
Principal artistic advisor: Nico Lagarde; Musician-composer: Félix Boisvert; Artistic director: Vincent Dubé; Lighting designer: Bruno Matte; Costume designer: Camille Thibault-Bédard; Artistic advisors: Brigitte Poupart, Harold Rhéaume, Shana Caroll, Howard Richard; Set design: Maxim Laurin, Ugo Dario
Crée: 2020.

カナダ・ケベック州ケベック・シティを拠点に活動するコンテンポラリーサーカス・カンパニー Machine de Cirque の2020年作です。 2018年に観たものはミュージシャンも交えた賑やかな舞台でしたが [鑑賞メモ]、 今回の作品はティーターボード (teeterboard) とそれを演じる2人のみ。 明瞭な物語は無いものの繊細な演技で2人の関係やそれぞれの心情を浮かび上がらせるような作品でした。

舞台中央には横回転可能なティーターボードのみ。 途中で色付きの上着を着てクラウンメイクを簡略化したようなメイクをするのですが、 開始と終わりはシンプルな黒い衣装という、かなりミニマリスティックな舞台です。 大きく飛び上がり高難度な空中回転を見せる時もありますが、 むしろ、ティーターボードの反動を使っての低い位置でのアクロバティックな動きが多め。 動きとマイムで、最初のうちは息が合った様子を、しかし次第に一方が過剰になることですれ違うようになり、そして、もう一方が舞台を去り、また戻って共演する、 という2人の関係を浮かび上がらせます。

ボードの端に横になり、反動で飛び上がるのではなく、すくっと立ち上がるだけの動きが度々使われるのを見て、まさにパートナーを立ち上がらせるためのティーターボードだな、と。 ティーターボードの両端に乗ってバランスとりながら横回転させて、浮遊感ある動きを作り出したり。 見応えある跳躍ももちろんあったけど、むしろ心情を描くような細やかな動きが印象に残る舞台でした。 パートナーがいなくては飛ぶことも出来ないティーターボードの特徴を活かした、時に空回りする友情と孤独を感じさせる作品でした。

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[4197] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Jul 30 22:59:02 2024

先々週末20日は、朝9時前には炎天の立川のシネマシティへ。午後にかけての休憩含めて約5時間かけて、この映画を観てきました。

2024 / Kennedy Miller Mitchell / Warner Bros. Pictures / 148min / DCP / 2D / color.
A Kennedy Miller Mitchell Production / A George Miller Film.

2015年公開の George Miller: Mad Max: Fury Road 『マッドマックス 怒りのデスロード』の前日譚として作られた、 Mad Max シリーズのスピンオフ的な第4作です。 Mad Max: Fury Rod がとても良く [鑑賞メモ] 気なっていたところ、 立川シネマシティの極上爆音上映で Mad Max: Fury Road と続けて観ることができるということで、足を運びました。

Mad Max: Fury Road の実質主役級だった Furiosa が、 少女時代に誘拐されてからサヴァイヴして主役級の悪役 Immortan Joe 下の大隊長となるも “Five Wives” を連れて脱走するまでを描いた映画です。 (脱走から Immortan Joe を倒すまでの話が Mad Max: Fury Road の話です。) 2本の映画の公開の間に約10年が経っているとは感じさせない絵作り音作り世界観キャラクター設定のブレのなさで、 途中休憩ありの1本の4時間半長篇大作映画を観たようでした。 Mad Max: Fury Road では言及されるだけで画面には出てこなかった Green Place や Gastown, Bullet Farm などが登場し、映画の世界観がより具体的に理解できました。

しかし、この2本の物語の枠組みは大きく違います。 Mad Max: Fury Road はエピソードとしては3日間分、 上映時間2時間で真っ直ぐに全力疾走するような圧縮された英雄譚 (英雄 hero が Furiosa で、Max は導師 mentor)。 Furiosa: A Mad Max Saga は約20年に相当する時間経過を扱っており、 Furiosa の成長を描いているというより、ポスト・アポカリプスの過酷で残虐な世界の中で彼女に植え付けられた憎悪と憤激とそれに対する復讐を描く、 説経節『さんせう太夫』 (それに基づく小説/映画『山椒大夫』) を連想させる復讐譚です。 通勤読書で平安時代武士成立期の新書・選書を読んでいることが多いせいか、 Immortan Joe が任期後も任国に留まる元受領・軍事貴族、Dementus が郡司くずれの群盗 (僦馬の党とか) と被って見えてしまいました。

もちろん、Mad Max: Fury Road と共通する残虐なシーン、激しいアクションシーンもあるのですが、 ラスト近くの40日戦争で戦争シーンを描くのを避けたり、ラストの Furiosa が Dementus に復讐を果たす場面で憎悪の連鎖に言及するなど、 アクションスペクタクルや復讐のカタルシスを異化するような場面描写もあり、観終わった後に良い意味での割り切れなさが残るところがありました。 Furiosa: A Mad Max Saga でも観ていて力が入るよう場面がそれなりにありましたが、 Mad Max: Fury Road を観終わったらじっとり汗ばんでいるほどで、体感がかなり違う映画だと実感しました。 それにも関わらず続き物として違和感がないという所も、よくできている証でしょうか。

Mad Max: Fury Road では sway-pole を使ったアクションが好きだったのですが、 Furiosa: A Mad Max Saga では paraglider / hang-glider 使ったアクションでしょうか。 paraglider / hang-glider を使った攻撃の方が高度で順が逆なのではと思いつつも、 それを封じる高さを取るために sway-pole が登場したと考えれば辻褄は合うでしょうか。

ようやく Furiosa: A Mad Max Saga を観たので、 他の人の感想でもと twitter や blog などを軽く検索してみたのですが、 Mad Max: Fury Road の時ほどの熱いor面白いツイートなどが少く、この10年のSNSの変化を思いました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

立川からの帰途についた14時過ぎはまだ晴れていたのですが、その後、立川は猛烈な雷雨に襲われ、落雷による瞬時電圧低下でシネマシティでも上映設備に影響があった模様。 雷雨襲来前の早い時間帯で、上映にも影響なく、帰途に雷雨に遭わずに済んでよかった。

[4196] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jul 28 20:37:10 2024

3連休中日の日曜14日は、盂蘭盆会の墓参を午前中に終えた後、上野へ。この展覧会を観てきました。

Rei Naito: come and live - go and live
東京国立博物館 平成館企画展示室, 本館特別5室, 本館1館ラウンジ.
2024/06/25-2024/09/23 (月休;7/15,8/12,9/16,9/23開;7/16,8/13,9/17休), 9:30-17:00.

現代アートの文脈で活動する 内藤 礼 による東京国立博物館の展示室などの空間を使った展覧会です。 細やかなものを配置して視線を誘導し光のきらめきや移ろいを感じさせるサイトスペシフィックでミニマリスティックなインスタレーションを得意とする作家が 東京国立博物館の展示空間をどう使うのか、という興味で足を運びました。

第一会場の平成館企画展示室は約30mの細長い空間で、その片側に掛け軸や屏風絵なども展示できる高さで長さ10m余のガラス張りの展示ケースが2つ並んでいます。 自然光の入らない薄暗く照明を落とした空間に、2009年 神奈川県立近代美術館 鎌倉 でのインスタレーション [鑑賞メモ] を思い出しました。 展示ケースの中には入れないものの、宙に浮くような色の玉の連なりや風船、小さな鏡やガラス玉などが配されて、半ば瞑想するかのように静かにそれらを目で追う鑑賞体験でした。

第二会場は本館正面入口の階段裏にある特別5室。幅15m奥行20m高さ10m程の、壁の高い所にある窓から自然光が入る空間で、 2007年 入善町 下山芸術の森 発電所美術館の中2階 [鑑賞メモ] を思い出しました。 しかし、作品があることが一見ではわからないミニマリスティックなインスタレーションだった入善とは対極的で、 内藤 礼 にしては高い密度で立体やドローイングの作品が床や壁に配置されていました。 さらに、光の加減かとは思いますが、大理石を吊るす糸だけでなく、《母型》のガラスビーズを吊るすテグスがくっきり白く光って見えていました。 自然光の入る天井高い空間の雰囲気は良かったのですし、 フロアに展示されているキャンバス絵画を含むオブジェなどからしてコンセプトを前景化する意図があったのだろうかとも思いましたが、 インスタレーションとしての趣には欠けました。

第三会場は本館1階ラウンジ。裏庭に面した大きな窓のある10m×5m程の休憩スペースを使ってのインスタレーションです。 休憩スペースとはいえ順路上にあるため常設展示を観る大勢の観客が常に通過する中でそれを鑑賞することになります。 意識を外すことで霞のよう感じられる通過する人々越しにささやかな煌めきを観るということも、 内藤 礼 の展示が目的ではない観客がこの展示に気付いての相互作用も面白く、 今迄のインスタレーションに無かった鑑賞体験でした。

自分が観に行った時は、第一会場入場の行列も数名、第二会場は並ばず入場できるほどで、鑑賞者の多さは気になりませんでした。 しかし、さすが東京国立博物館でしょうか、タイミングによっては会場はかなりの混雑になっているようで、8月1日より事前予約が必要な日時指定制となるようです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

上野へ行ったついでに『デ・キリコ展』も観ようかと東京都美術館へ行ったら、まさかの休館。まあ、こういうこともあるでしょうか。

[4195] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jul 22 22:12:26 2024

3連休前12日金曜の晩はしっかり降る雨の中、南青山へ。このライブを観てきました。

Baroom (青山)
2024/07/12, 19:30-21:10.
Nik Bärtsch (piano, keyboards), Sha (alto sax, bass clarinet), Kaspar Rast (drums), Jeremias Keller (electric bass); Daniel Eaton (light technician), Tobias Stritt (sound engineer).

jazz/improv の文脈で活動するスイスのグループ Nik Bärtsch's Ronin の、 2015年 [鑑賞メモ] 以来9年ぶりの来日です。 6月12日は、ノンストップ1セットにアンコール1回の2時間弱のライブでした。

electri bassが代わったものの、 Nik Bärtsch の内部奏法も交えた打楽器的に硬質な音色を多用する piano を軸に、 Kasper Rast とカチカチいうリムショットも効果的な drums が絡む、反復感を強調したグルーヴィな演奏は相変わらず。 しかし、Awase (ECM, ECM2603, 2018, CD) の頃からそうですが、 Sha がタンギングを抑えてフレーズは反復するものに普通に sax/clarinet を鳴らす演奏をメインとするようになり、 その alto sax の音色もあってかそこはかとなく fusion 味を感じる演奏でした。

しかし、アンコールでは、Sha の bass clarinet もタンギング強めに弾き刻むような演奏がグッと表に出、 Bärtsch と Rast の硬質な音のデュオもあり、 全体として展開のストップ/スタートやはっきりした音の抜き差しなど変化のある展開もあって、とても良い演奏。 このアンコールのような演奏ももっと聴きたいと思ったライヴでした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4194] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jul 21 22:36:04 2024

7月前半の週末土曜6日と13日は続けてこの公演を観てきました。

神奈川県民ホール 大ホール, 2024-07-06, 14:00-16:15.
La Ruta by Gabriela Carrizo; I love you, ghosts by Marco Goecke; Jakie by Sharon Eyal
愛知県芸術劇場, 2019-07-13, 14:00-16:15.
La Ruta by Gabriela Carrizo; Solo Echo by Crystal Pite; One Flat Thing by William Forsythe

オランダのコンテンポラリー・ダンス・カンパニー Nederlands Dans Theater (NDT) のコロナ禍を挟んで5年ぶりの来日です。 前回来日時 [鑑賞メモ] から芸術監督が Emily Molnar に交代しています。 今回のツアーは会場・公演日によって演目が異なるトリプルビルというプログラム。 コロナ禍以降、海外カンパニー公演が減る中、観る良い機会と、 来日演目が全て観られるよう神奈川と愛知の2会場へ足を運びました。以下、観た作品ごとに。

La Ruta
Direction: Gabriela Carrizo
Created in collaboration with: Chloé Albaret, Alexander Andison, Thalia Crymble, César Faria Fernandes, Scott Fowler, Surimu Fukushi, Boston Gallacher, Charlie Skuy, Yukino Takaura.
Music Dramaturgy: Raphaëlle Latini; Music: Composition by Raphaëlle Latini; Dmitri Shostakovich: Symphonie no. 11 (part: Eternal Memory – Adagio) performed by Leopold Stokowski, Houston Symphony Orchestra; Dmitri Shostakovich: Symphonie no. 14 in G Minor, (part: La Suicidé).
Light Design: Tom Visser; Set Design: Amber Vandenhoeck; Costume Design: Gabriela Carrizo, Yolanda Klompstra, Isabel Blokland.
Cast (both 2024/07/06 and 2024/07/13): Alexander Andison, Thalia Crymble, Surimu Fukushi, Nicole Ishimaru, Kele Robertson, Charlie Skuy, Yukino Takamura.
World premiere: 6 May 2022, Amare, The Hague.
Duration: 35 minites.

2公演共にトリプルビルの1作目だった Peeping Tom [鑑賞メモ] の Gabriela Carrizo による作品は、 Peeping Tom らしくシュールでナラティブ、夜中のバス停の不気味さから浮かんだ妄想を舞台化したような面白い作品でした。 薄暗い照明の下の薄汚れたバス停のセットを使い、 人けのない暗い夜のその周りで起きる動物や人間の轢死事故や犯罪を想起させる不穏なスケッチがしばらく続きます。 やがて、バス停が一瞬舞い上がったかと思うと、岩を持った男がそれまでの登場人物を悉く岩で殴り殺していくという凄惨な殺戮現場になり、 そこからさらに一転、日常に戻ったかのような墓参の場面で終わるという、後半の急展開に呆気に取られました。

動きの面白さに関していえば、中盤、白いドレスの女性ダンサーが轢かれた後、介抱するかのような男性ダンサーと繰り広げるグニャグニャなリフトに目が止まりました。 轢かれたりして引きつり床をのた打つような動きは Peeping Tom を思わせるものでしたが、 リフトを絡めた動きはそのスキルを持つダンサーが揃うNDTならではかもしれません。

I love you, ghost
Choreography: Marco Goecke.
Music: Harry Belafonte: Try To Remember & Danny Boy; Alberto Ginastera: Concerto per Corde, Opus 33: IV, finale furioso (for strings); Mieczyslaw Weinberg: Chamber Symphony No. 2 op. 147: I. Allegro molto. Performed by Gidon Kremer (Principal Violin), Andrei Pushkarev (Timpani) & Kremerata Baltica; Einojuhani Rautavaara: An epitaph for Bela Bartok (for strings).
Dramaturge: Nadja Kadel; Musical advisor: Jan Pieter Koch; Light: Udo Haberland; Decor & Costumes: Marco Goecke.
Cast (2024/07/06): Alexander Andison, Pamela Campos, Thalia Crymble, Chuck Jones, Madoka Kariya, Charlie Skuy, Yukino Takaura, Luca Tessarini, Theophilus Vesely.
World premiere: 3 February 2022, Amare, The Hague.
Duration: 30 minites.

Marco Goecke が Staatstheater am Gärtnerplatz 劇場付きバレエ団に振り付けた La Strada をストリーミングで観た時に [鑑賞メモ]、 細かく刻むような手足の早い動きを暑苦しく感じたのですが、 広い舞台で3, 4人のダンサーが踊る程度の場合は存在感とのバランスが良く、中盤のコミカルな動きなど印象に残りました。 前回来日公演時の Woke up Blind では Jeff Buckley の音楽の使い方がピンと来なかったのですが、 この作品のでの最初と最後の Harry Belafonte でのロマンチックな踊りは Goecke の意外な一面を見たようでした。 四方をスリットのある黒幕で覆ったブラックボックスの舞台でのダンス作品でしたが、 幕近くを薄暗くするライティングも合わせて、視覚的に後方からフェードイン/フェードアウトするダンサーの出入りも面白く感じました。

Jakie
Choreography: Sharon Eyal & Gai Behar.
Music: Composition by Ori Lichtik; Including music by Ryuichi Sakamoto, performed by Alva Noto: The Revenant Main Theme; Einstürzende Neubauten: GS1.
Assistants to the choreographer: Clyde E. Archer, Guido Dutilh, Leo Lerus; Light: Alon Cohen; Decor: Sharon Eyal & Gai Behar; Costume: Sharon Eyal in collaboration with NDT’s Costume Department.
Cast (2024/07/06): Fay van Baar, Anna Bekirova, Conner Bormann, Pamela Campos, Emmitt Cawley, Aram Hasler, Nicole Ishimaru, Chuck Jones, Genevieve O'Keeffe, Kele Roberson, Charlie Skuy, Yukino Takaura, Theophilus Vesely, Nicole Ward.
World premiere: 11 May 2023, Amare, The Hague.
Duration: 35 minites.

電子音に乗って、ベージュのボディスーツを着たダンサーたちが、爪先立ちと身を寄せ並ぶようなフォーメーションを多用し、脈動するような群舞を作り出しました。 衣装や動きに、以前にストリーミングで観た Sharon Eyol が Staatsballett Berlin へ振付た Half Life [鑑賞メモ] の変奏を観るようでした。

Solo Echo
by Crystal Pite; Staged by Eric Beauchesne.
Music: Selection of two Johannes Brahms sonatas for cello and piano: Allegro Non Troppo, op. 38 in e-minor, Adagio Affettuoso, op. 99 in F-major.
Light: Tom Visser; Decor: Jay Gower Taylor; Costumes: Crystal Pite, Joke Visser.
Cast (2024/07/13): Alexander Andison, Jon Bond, Aram Hasler, Paxton Ricketts, Yukino Takaura, Luca Tessarini, Nicole Ward.
World premiere: 9 February 2012, Lucent Danstheater, The Hague.
Duration: 20 minites.

Kid Pivot [鑑賞メモ] の Crystal Pite が2012年に振付た作品です。 前半は少々マーシャル (武術) 的に感じる力強い動きで、 複数のダンサーが舞台に乗ってもフォーメーションとして関係を保ちつつも二人で組むかそれぞれが単独で動くよう。 曲が変わって後半は、6人で連なったり固まって一人をリフトしたり、 その動きもくずおれたり逃げまどうような動きでで、Royal Ballet へ振り付けた Flight Pattern [鑑賞メモ] を思い出した。

ブラックボックスに後方に映像を投影するミニマリスト的な演出でしたが、 前半、紙吹雪を微かにちらつかせつつ、後方に雪舞うような映像を帯状に投影してイメージを補うような演出が良いなと思っていたところ、 後半、後方全面に投影が広り、厳しい降雪のよう。 視覚的にも綺麗でしたし、脆弱さを感じる動きにも合っていました。 そんな、動きと映像演出で作り出す、前半と後半のコントラストが見事でした。

One Flat Thing, reproduced
Choreography, Stage and Light Designs: William Forsythe; Staged by Ayman Harper, Ander Zabala, Thierry Guideroni, Cyril Baldy, Amancio Gonzalez.
Music: Composition by Thom Willems.
Costumes: Stephen Galloway.
Cast (2024/07/13): Anna Bekirov, Jon Bond, Conner Bormann, Pamela Campos, Thalia Crymble, Matthew Fowley, Surimu Fukushi, Aram Hassler, Chuck Jones, Madoka Kariya, Genevieve O'Keeffe, Charlie Skuy, Luca Tessarini, Sophie Whittmore.
World premiere: 2000.
Duration: 25 minites.

Thierry de Mey が2007年に映像化していることで知られる (といっても未見ですが) 2000年の William Forsythe の作品です。 テーブル20台を狭めの一定の間隔で4行5列に整然と並べると、天板が一体で床のようになり、その間が床に掘られた格子状に掘られた溝のよう。 そんな空間で14人のダンサーが踊るのですが、衣装の色形が統一されていないために視覚的なランダムさが強調されつつも、 同期した動きや変奏された動きが隣り合って、もしくは、座標を移して、生起します。 そんな格子に制約されつつ時々上の床に励起しつつ相互作用するようなダンサーの楽しみました。

前回の来日公演では Sol León & Paul Lightfoot による少々感傷的でドラマチックな Singulière OdysséeShoot the Moon も印象深かっただけに、 その要素がなくなり、プログラムの抽象度が上がったように感じました。 しかし、その中での異質さもあってか、最も印象を残したのは Gabriela Carrizo: La Luta でした。 また、Crystal Pite: Solo Echo もかなり好みで、 13日の愛知県芸術劇場のトリプルビルの方が楽しめました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

名古屋・栄への日帰り出張はそれなりの頻度であるので、今回も同じく名古屋日帰り。 併せて観たい展覧会は無いし、連休でどこへ行っても混雑していそうで、観光気分になれなかったということもありますが。 しかし、公演直後は行った甲斐があったという満足感があったのですが、いつもの出張よりも後で疲れを感じたような……。

[4193] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jul 8 22:39:48 2024

6月末の29日土曜は午後に2つの美術館をハシゴして、会期末近くになった展覧会をまとめて観てきました。

Ho Tzu Nyen [何 子彥]
A for Agents
ホー・ツーニェン 『エージェントのA』
東京都現代美術館 企画展示室B2F
2024/04/06-2024/07/07 (月休;4/29,5/6開;4/30,5/7休), 10:00-18:00.

21世紀に入って現代美術の分脈で活動するシンガポール出身の作家の個展です。 今までも観たことがあったかもしれませんが、作家を意識して観るのは初めてです。 今回展示されていたものは、近代以降の東南アジアに関連する出来事に取材した映像作品や映像インスタレーション、VR作品でした。 アーカイブ映像を編集したものもありましたが、実写やアニメーションをCG内内で組み合わせたような作風がメインでしょうか。 日中戦争・太平洋戦争中の京都学派に取材した «Voice of Void» など題材としては興味深く思いつつも、 アニメーションをメインとしたビジュアルの作風がポップというかキッチュに感じられて、テーマがうわ滑るように感じられてしまいました。

Where my words belong
東京都現代美術館 企画展示室1F
2024/04/18-2024/07/07 (月休;4/29,5/6開;4/30,5/7休), 10:00-18:00.
ユニ・ホン・シャープ [Yuni Hong Charpe], マユンキキ [Mayunkik], 南雲麻衣 [Mai NAGUMO], 新井 英夫 [Hideo ARAI], 金 仁淑 [KIM Insook].

方言や言語的マイノリティをテーマとしたグループ展です。 造形物として扱い辛い言語に関わる問題もあってか、そのリサーチ資料、映像を使ったリサーチベースの作品が展示の中心でした。 紹介を読むと実際そういう活動もしている作家もいるようでしたが、 インスタレーションよりも、パフォーマンス (音楽や演劇・ダンスを含む) での表現の方が合ったテーマだと感じてしまいました。

Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024 Exhibition
東京都現代美術館 企画展示室3F
2024/03/30-2024/07/07 (月休;4/29,5/6開;4/30,5/7休), 10:00-18:00.
サエボーグ 「I WAS MADE FOR LOVING YOU」 / 津田 道子 「Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる」

アニュアルで開催されている Tokyo Contemporary Art Award の受賞者2人展の第4回です。 今年も定点観測しました [去年の鑑賞メモ]。 昨年までは2作家で共通するテーマが掲げられていたのですが、今回はタイトルも会場の作りも、2つの展覧会が並置された形になっていました。 しかし、その一方で、今回は2人の作家の双方に共通して、演劇・ダンス的な要素が感じられました。

サエボークの作品は、空気で膨らますバルーン状のキッチュな色形の造形物とボディスーツを使った作品。 ゲートのような入り口と円形舞台があるという劇場的な展示空間の設定で、ボディスーツを着たパフォーマーがセリフ無しで演じる様は、マイムによるイマーシブシアターとも言えるもの。 今回はインスタレーションに時々パフォーマンスを加える形ですが、作家紹介によると公演という形もとることも多いようで、その方が面白そうでありました。

津田 道子 の作品も、パフォーマンスに基づく映像を使って、作品を観る観客の視線を操作するような作品です。 ブラックボックスにしたギャラリーに複数のスクリーンを配置してのビデオインスタレーション «生活の条件» (2024) は、 ライブでのパフォーマンスでは無いものの、イマーシブな上演環境での日常動作に着想したダンスもしくはマイムの作品を見るよう。 日常動作のような題材の取り方に少々こぢんまりと私的なところも感じられましたが、すっきりとした映像使いと空間構成とユーモアが気に入りました。

Walking, Traveling, Moving—From the Great Kanto Earthquake to the Present
東京都現代美術館 企画展示室3F
2024/04/06-2024/07/07 (月休;4/29,5/6開;4/30,5/7休), 10:00-18:00.

コレクション展の中で目を引いたのは松江 泰治 [関連する鑑賞メモ] の2023年プリントを26枚展示した3階の展示室。 過去の様々な時期に撮った写真を、タイトルも記号的で制作年もプリントした2023年とすることで時間空間の手がかりを無くした上で様々な被写体の写真を同じサイズの大判でプリントして単調に並べることで、 逆に写真の撮り方の共通点—南中時に北向きに撮った影が少ない明るい風景をパンフォーカスで捉えたフラットが画面—が浮かび上がるよう。 そんな抽象性を高めたコンセプチャルな展示が気に入りました。

Brancusi — Carving the Essence
アーティゾン美術館
2024/03/30-2024/07/07 (月休;4/29,5/6開;4/30,5/7休), 10:00-18:00.

ルーマニア出身で20世紀前半にフランスで活動した彫刻作家 Constantin Brancusi の展覧会です。 ルーマニアを出て Rodin のアトリエの助手になるもすぐに独立する頃の最初期の作品ですから、 1910年代後半以降、20年代にかけてのモダニズムらしくシンプルに抽象化されたフォルムの磨かれたブロンズの彫刻まで、 写真資料や関連する作家の作品を含めて展示されていました。 戦間期モダニズムは好んで観ているものの Brancusi をまとめて観たのは初めて。 いかにも戦間期モダニズムなフォルムは好みなのですが、 展示されていた彫刻作品が1920年代までに限られていたこともあるかもしれませんが、 当時のモダニズムの作家にしては総合芸術の色が薄く感じられてしまいました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4192] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jul 7 21:49:40 2024

6月15日土曜は午後に横浜伊勢佐木町へ。 横浜シネマリンのサイレント映画上映会『柳下美恵のピアノdeフィルム vol. 12』で、 内田 吐夢 『人生劇場』 (無声短縮版, 日活多摩川, 1936) と春原 政久 『愛の一家』 (無声短縮版, 日活多摩川, 1941) をピアノ伴奏付きで観てきました。 戦前日本映画も松竹、東宝以外はほとんど観られていないので、これも良い機会と足を運んだのですが、 どちらの映画も見始めてしばらくして観たことがあったことを思い出しました。10年前のことですっかり忘れていました。 しかし、『愛の一家』の末っ子役を演じた (後、成長して欧州で活躍した後、国際スズキ・メソード音楽院校長も勤めた) ヴァイオリニスト 豊田 耕兒 ご本人や、 小杉 勇 や 春坂 政久 のご子孫の方がいらっしゃるなど、なかなかスペシャルな上映会で、行った甲斐があったでしょうか。

翌土曜22日は、午後に練馬中村橋へ。この展覧会を観てきました。

三島 喜美代
練馬区立美術館
2024/05/19-2024/07/07 (月休), 10:00-18:00.

戦後の1950年代から主に陶をメディアに現代美術の文脈で活動する日本の作家の個展です。 その代表的な作風である新聞やチラシのような印刷物を丸めたような形状で印刷を転写した陶の作品「割れる印刷物」はコレクション展示などで観たことがありましたが、 個展というまとまった形で観たのは初めてです。

1階展示室の、初期の抽象画やシルクスクリーンの作品に見られるコラージュ的なセンスに、後の作品に繋がるものを感じましたが、 やはり面白くなるのは、その後半から2階の最初の展示室に展示された1970年代の割れる印刷物。 新聞紙を丸めたような仕上がりがスタイリッシュな作品しか知らなかったので、織り込みチラシ、ダンボール箱や輸送用紙袋、マンガ雑誌を模った作品など、 その廃棄寸前のくたびれた形状も含め、題材の選択にユーモアも感じられ色彩もポップな作品がむしろ主流ということを知りました。 空き缶を転写した陶を赤く錆びたスチールのゴミ箱に詰めた作品なども、それに連なるセンスを感じます。

そんなポップなユーモアも感じる展示室から最後の展示室へ移動すると、 一転して、使い古されたかのような耐火煉瓦が床いっぱいに広げられたインスタレーション《20世紀の記憶》(1984-2013)。 新聞紙面の転写が焼け跡の黒ずみのようにに見えるというのもありますが、ポスト・アポカリプス的な廃墟のイメージを見るよう。 印刷物や空き缶の陶のユーモアとのコントラストも、味わい深いものがありました。

展覧会を観て1週間経った29日に 三島 喜美代 の訃報 [美術手帖] が報じられました。 ご高齢ではありましたが、個展の最中というタイミングに、大変驚きました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

翌日曜23日は晩に渋谷 Li-Po『『ナイジェリアン・ギター・ルーツ』発売記念イベント!!「ナイジェリアの音楽を聞く」by 深沢美樹・原田尊志』に顔を出しました。 20世紀半ばのアフリカ・ナイジェリアのギター・ミュージックはもちろん、イスラムのチャントなどレアな音源を堪能しました。 Li-Po はワールドミュージック関連イベント定番の会場ということで2000年代半ばは度々足を運んだ店でしたが、いつしか足が遠のいていました。 その後、行きつけのジャズ喫茶 Mary Jane が2018年に閉店してしまい居場所が無くなってしまったこともあり、 新型コロナがひと段落ついた2021年頃から、都心方面に出かけたついでにたまに立ち寄っていました。。 この6月28日に閉店ということで、23日晩が最後のイベントということで、お別れも兼ねて顔を出したのでした。 Li-Po も無くなり、ますます渋谷へ行く理由が無くなってしまいます。

[4191] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Thu Jul 4 0:01:03 2024

6月8日土曜は平日の疲れもあって昼過ぎまで休養モードでしたが、夕方に表参道へ出て軽くギャラリー巡りしました。

Anselm Kiefer
Fergus McCaffrey Tokyo
2024/04/02-2024/07/13 (日月祝休), 11:00-19:00.

2025年に京都・二条城での個展か予定されている(西)ドイツで1960年代から現代美術の文脈で活動する作家の個展です。 Wim Winders によるドキュメンタリー映画 Anselm (Hanway Films, Road Movies Prod., 2023) も公開されていますが未見です。 オブジェを荒々しく塗り込んだかのような素材感の強いテクスチャで鈍く暗い色彩の荒廃した情景を半ば抽象的象徴的に描く絵画作品を観ることが多かった作家ですが、 柔らかい光のこじんまりしたギャラリーでの今回の展示は、立体作品というかガラスケース入りのオブジェを並べて、第二次世界大戦の廃墟と死と微かなエロス(性)の荒廃したイメージを描くよう。 インスタレーションになると作風が Christian Boltanski [鑑賞メモ] に寄るようでしたが、記憶を呼び起こすような使用感というよりも破壊の跡のような質感の違いも感じます。

Mark Leckey
Fiorucci Made Me Hardcore feat. Big Red SoundSystem
Espace Louis Vuitton Tokyo
2024/02/22-2024/08/18, 12:00-20:00 (臨時休業、開館時間変更はウェブサイトで告知).

1980年代末のイギリスで活動を始めた YBA (Young British Artsts) の1人、Mark Leckey の個展です。 といっても1990年代に日本であった展覧会 [鑑賞メモ] などには出展しておらず、観るのは初めてのように思います。 «Fiorucci Made Me Hardcore feat. Big Red SoundSystem» (1999/2003/2010) は1990年代末当時の労働者階級のクラブカルチャーを題材としたインスタレーションで、 がらんとしたギャラリーにサウンドシステムの大きなスピーカーが置かれ、その向かいに粗いビデオが投影されていますが、 流れている音は微かでクラブのような部屋を揺るがすような低音が無かったので、空虚にも感じられました。 キッチュなエアバルーンの«Felix the Cat» (2013) もそんな雰囲気を助長していました。

Human Baltic
スパイラルガーデン
2024/05/27-2024/06/09, 11:00-20:00.
Eesti [Estonia]: Arno Saar, Ene Kärema, Kalju Suur, Peeter Tooming, Peeter Langovits, Tiit Veermäe; Latvija [Latvia]: Aivars Liepiņš, Andrejs Grants, Gvido Kajons, Gunārs Binde, Zenta Dzividzinska, Māra Brašmane; Lietuva [Lithuania]: Algimantas Kunčius, Algirdas Šeškus, Aleksandras Macijauskas, Violeta Bubelytė, Romualdas Požerskis.

ソ連時代のバルト三国で第二次世界大戦の余波から生まれたヒューマニスト写真運動 (humanist photography movement) を紹介する写真展で、 1960年代から1980年代にかけての主に人々を捉えた白黒写真が展示されていました。

ソ連における写真表現の文脈には疎くその中での位置は掴みかねましたが、 アメリカの “New Documents” (Diane Arbus, Lee Friedlander, Garry Winogrand) や日本のコンポラ写真との同時代性も感じつつ、 抑圧的な政権下という先入観もあったせいか、抑制された風刺/皮肉の視点もあるようも見えました。

出展されていた写真家の中では、ソ連的な風景を捉えた Gvido Kajons、エストニアのパンクスの肖像の Arno Saar、 子供たちへの優しい眼差しを感じる Ene Kärema、スタイリッシュなヌード写真の Gunārs Binde が印象に残りました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4190] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jun 30 19:08:05 2024

1ヶ月近く前の話になってしまいましたが、6月上旬に久々に金沢へ行ったので、合間の時間を使って美術館や博物館を軽く観て回りました。

Pop-up Art
金沢21世紀美術館 交流ゾーン
2024/04/06-2024/07/15 (会期中無休), 10:00-18:00.

2024年元旦の能登地震で金沢21世紀美術館ではガラス板天井が一部落下する被害が発生し、 天井ガラス板約800枚全撤去することとなり、企画展に使用する有料ゾーンが6月22日まで休館となりました。 建物の周縁部の交流ゾーン (無料で出入りできるスペース) は安全が確認され、2月6日から営業再開しており、 そのスペースを利用して開催されたコレクションとパフォーマンスからなる展覧会です。 自分が行った時はパフォーマンスはやっていませんでした。

2010年の Peter Fischli & David Weiss 展 [鑑賞メモ] 以来、度々展示されていたように記憶するのですが、 光庭 (周囲がガラス張りの中庭) に置かれた Peter Fischli & David Weiss: «Concrete Landscape» (2010) に、 サウンドインスタレーション的な要素があったことに気付いたのが収穫でした。 風雨に晒されて荒れ肌となったような畳大のコンクリートのプレートの殺伐としたビジュアルに微かに金属音の響きが添えられていました。 こういった鑑賞体験も観客が少ない時に静かに観れてこそでしょうか。

金沢に最後に行ったのは2018年の Janet Cardiff & George Bures Miller 展 [鑑賞メモ] で、 コロナ禍を挟んで久しぶりでしたが、金沢21世紀美術館はメイン部分は再開直前。 東京国立近代美術館工芸館が金沢に移転する形で2020年10年25日にオープンした 国立工芸館も展示替え休館中、と、 なんとも悪いタイミングでした。 そんなこともあり、今回は、小規模な博物館が集まる尾張町、というか、橋場の交差点界隈へ行きました。

旧金沢県菓子文化会館の1階に2014年にオープンした 金沢美術工芸大学 柳宗理記念デザイン研究所は、 柳宗理デザインの家具食器のショールームのようではありましたが、単に観るだけではなく、椅子に座ったり食器に触ったりできるというのは良いです。 ちなみに、旧金沢県菓子文化会館は老朽化のため取り壊し、研究所は近江町市場近くの金沢市西町教育研修館へ移転する計画もあるようです。

柳宗理記念デザイン研究所の隣には金沢蓄音機館。 蓄音機のコレクションも圧巻なのですが、単に展示しているだけでなく、蓄音機聴き比べ実演があるのが、良いです。 Edison の Phonogragh (蝋管式) だけでなく、縦振動式の円盤式蓄音機 Diamond Disc L-35 がありました。 レコードの歴史に関する本などで、縦振動式は知っていましたが、実際に音を聴くことができるとは。

今回は時間も無く立ち寄りませんでしたが、 柳宗理記念デザイン研究所の裏手には泉鏡花記念館、 通りを挟んで向かいには金沢文芸館があります。 大規模な市立博物館に集約せずに個性的な博物館をあちこちに置いているというのも、金沢の好きな所です。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4189] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jun 23 17:13:39 2024

既に配信が終わってしまい話を振るタイミングを逸してしまった感もありますが、 6月頭の週末に ARTE Concert の配信でこの舞台作品を観ました。

Grand Théâtre de Genève
2023/11/2,3, 101 min.
Musique: Astor Piazzolla; Livret: Horacio Ferrer.
Direction musicale: Facundo Agudin; Mise en scène: Daniele Finzi Pasca.
Scénographie: Hugo Garguilo; Collaboration à scènographie: Matteo Verlicchi; Costumes: Giovanna Buzzi; Lumières: Daniele Finzi Pasca; Mouvement: Mária Bonzanigo; Direction de chœur: Natacha Casagrande.
Raquel Camarinha (María), Ines Cuello (La voz de un payador), Melissa Vettore & Beatriz Sayad (El Duende).
Cercle Bach de Genève et Grand chœur de la Haute école de musique de Genève; Orchestre de la Haute école de musique de Genéve.
Marcelo Hisinman (bandoneon), Roger Helou (piano), Sergey Ostrovsky (violin), Ophéile Gaillard (violoncelle), Quito Gato (guitare), Natanaël Ferreira (alto), Maria Jurca (violon), Alberto Bocini (contrebasse), Guy Hirschberger, Camille Perron, Eric Meier (emsemble de guitares).
Acrobates de la Compagnia Finzi Pasca: Francesco Lanciotti, Jess Gardolin, Micol Veglia, ALessandro Facciolo, Andrea Cerrato, Caternio Pio.
Créé le 8 mai 1968 à Buenos Aires. Première fois au Grand Théâtre de Genève, nouvelle production.
Réalisation: Alain Hugi; Une co-production: RTS (Radio Télévision Suisse), Unité Culture, ARTE.
ARTE Concert URL: https://www.arte.tv/fr/videos/116678-000-A/astor-piazzolla-maria-de-buenos-aires/ (-03/06/2024)

スイス・ジュネーヴのオペラハウス Grand Théâtre de Genève の タンゴ・オペラ Ástor Piazzolla: María de Buenos Aires 2023/2024シーズン新演出です。 演出を手がけるのは、Cirque de Soleil で LuziaCorteo というショーの演出も手がけ、 スイス・ルガーノ (Lugano, CH) を拠点にコンテンポラリー・サーカスの要素を多く含むインターディシプリナリーな舞台を制作するカンパニー Compagnia Finzi Pasca を率いて活動する Daniele Finzi Pasca。 Compagnia Finzi Pasca のサーカス・スキルを持つパフォーマー男女3名ずつをフィーチャーし、 各所でアクロバットやエアリアルなどのパフォーマンスを交えながらの上演です。 María de Buenos Aires の上演は生で観たことはないものの、 以前にも ARTE Concert の配信で観たことがありましたが [鑑賞メモ]、 コンテンポラリー・サーカス色濃い演出 (トレイラー [YouTube]) に興味を引かれて ARTE Concert の配信を観ました。

冒頭の場面から María の葬られた集合墓地の前でアクロバティックなダンス、 娼館を思わす高い足場に舞台が転換してからは、歌手と交錯しつつのシル・ホイール (Cyr wheel)、ポールダンスやベルトを使ったエアリアル。 前半最後の María の死の場面では、アクロバットのリフトでエンジェルが舞い、歌手と交錯しつつ大旗をトワリング。 後半に入って、一転、舞台は裏びれた下町の煤けた路地裏のようになり、 大勢の娼婦がゾンビのようになって舞うかのようなパペットダンス (Christpher で知られるパペットをバーで繋いでのダンス)、そして小悪魔に絡む酔っ払いクラウン。 その後、舞台装置がほとんど無いブラックボックスの舞台とライティングによるミニマリスティックな演出で、 ラストのダイナミックなシル・ホイールからフィギュアスケート、そして、リングのエアリアルへの繋ぎ、 ダイナミックなシル・ホイール、10m四方程のリンクを舞台に設置してのフィギュアスケート、そしてそこから、リングのエアリアルへ繋いで、María の昇天を描きます。 そこから、冒頭の María の葬られた集合墓地に戻り、人々が María を弔って終わります。

オリジナルは男女2名の歌手で歌われますが、この演出では女声2名で、男声パートを歌う女性は見た目は María でしたがパジャドール (payador, 南米の吟遊詩人) という役付け。 また、初演では Horacio Ferrer 自身が演じたという狂言回し的な小悪魔 (el duende) の役も、男装ながら Compagnia Finzi Pasca の女優2名が掛け合いで演じます。 男声がなくなることで亡霊となった María が精神分析を受ける場面は舞台上では明示的には描かれ無いことはもちろん、 全体を通してストーリーの細部を演じてみせるような演出ではありませんでした。 このような男性視線を消すような登場人物の変更もあって、María が娼婦になり死んでいくその運命に翻弄されるような様をサーカス・スキルをもって象徴的に描きつつ、 María の死を悼む女性たちの María の思い出をシスターフッド的な共感を通して描いているようにも感じられました。

コンテンポラリー・サーカス色濃い演出に興味を引かれて観たのですが、 Piazzolla のタンゴという音楽とサーカス的なアクロバティックなパフォーマンスとの相性は良く、 6人が様々な技をこなして場面を作り出ていく様も見応えありました。 María 役の女性歌手もオーケストラや大掛かりで、舞台装置もゴージャスながら象徴的でライティングを巧みに使った演出も現代的。 ゴージャスな生伴奏と演出によるコンテンポラリー・サーカスを観るようでもありました。

Grand Théâtre de Genève では、 María de Buenos Aires 以前の2019/2020シーズンにも Daniele Finzi Pasca は Philip Glass & Robert Wilson: Einstein on the Beach新演出を手がけています。 トレイラー [YouTube] を観る限りではコンテンポラリー・サーカス色濃い演出で、配信かDVD/BDで全編が観られたら、と。 その一方で、オペラのような大掛かりな舞台だけでなく、Compagnia Finzi Pasca は Bianco su Bianco のような 男女のクラウンによる二人芝居もレパートリーに持っています。 トレイラー [YouTube] の雰囲気も良く、 公共劇場の海外カンパニー招聘枠でこのような小規模なプロダクションでも良いので呼んでくれれば、とも思います。

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[4188] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jun 16 20:35:03 2024

先々週末の土曜の話になりますが、夕方に池袋西口へ。この舞台を観てきました。

東京芸術劇場 プレイハウス
2024/06/01, 17:30-20:30.
原作: 『未来少年コナン』 (日本アニメーション, 1978; 監督: 宮崎 駿; 脚本: 中野 顕彰, 胡桃 哲, 吉川 惣司); 演出・振付・美術: Inbal Pinto; 演出: David Mambouch; 脚本: 伊藤 靖朗; 音楽: 阿部 海太郎; 作詞: 大崎 清夏; 照明: Yoann Tivoli; 音響: 井上 正弘.
Cast: キャスト: 加藤 清史郎 (コナン), 影山 優佳 (ラナ), 成河 (ジムシー), 門脇 麦 (モンスリー), 宮尾 俊太郎 (ダイス), 岡野 一平 (ルーケ), 今井 朋彦 (レプカ), 椎名桔平 (おじい, ラオ博士); ダンサー: 川合 ロン, 笹本 龍史, 柴 一平, 鈴木 美奈子, 皆川 まゆむ, 森井 淳, 黎霞, Rion Watley.
ミュージシャン: トウヤマタケオ, 佐藤 公哉, 中村 大史, 萱谷 亮一.
主催・企画制作: ホリプロ.

宮崎 駿 が監督したことで知られる 1978年NHK総合TV放送のアニメシリーズ作品『未来少年コナン』をホリプロの企画制作で舞台作品化したものです。 『未来少年コナン』はとても好きなアニメーション作品ということもありますが [鑑賞メモ]、 コンテンポラリーダンスの文脈で知られる Inbal Pinto [鑑賞メモ] と、 俳優でもある David Mambouch (Maguy Marin [鑑賞メモ] の息子) が演出をしているという興味で足を運びました。 マンガやアニメーションを舞台化する「2.5次元ミュージカル」を観るのは、やはりホリプロの企画制作で Philippe Decouflé が演出した 『わたしは慎吾』 (2016) [鑑賞メモ] ぶりの2回目。 出演者やミュージシャンにも被りがあり、似たような演出になるのではないかと予想していました。

主要な場面を押さえた上でストーリーはかなり大きく組み換えた構成で、プラスチップ島はなくなり残され島を出たコナンはハイハーバーに辿り着いてそこでジムシーに合いますし、ハイハーバーの後にサルベージ船に行き、そこからインダストリアへ行きます。 30分枠26話のストーリーを2時間半程度に収めることを考えると、原作を知らなければ違和感無い程度にアレンジできていたのではないでしょうか。 コナンの超人的な身体能力による冒険活劇的な面をアクションでダイナミックに描くのではなく、 元のアニメーション作品のポスト=アポカリプスのジュブナイルSFの雰囲気とそのメッセージを、ユーモラスな場面も多く交えて、幻想的に舞台化していました。 Inbal Pinto & Avishalom Pollak Dance Company: Dust [鑑賞メモ] も思い出され、そこに Pinto らしさを感じました。

オープニングは超磁力兵器が使われた戦争による終末 (アポカリプス) の場面ですが、 悲惨なもしくは壮絶な場面として描くのではなく、戦争を導いた指導者や科学者のテーブルを囲んでのやり取り想起させるマイムとダンスを通して描きます。 休憩を挟んでの第二幕の始まりも、バラクーダ号から脱出したコナンとラナが砂漠の浜に打ち上げられた後の場面を、ダンサーたちによる砂丘の表現も合わせて、台詞なしで描きます。 歌もセリフも使わずダンスのみの場面の場面を導入に使い淡々と少しずつ盛り上げて後に繋ぐオペラでいう序曲 (ouvature) 的な導入に、作品世界へ引き込まれました。 『わたしは慎吾』では説明的な台詞に興醒めしたのですが、今回はそんな台詞が少なく、身体表現を生かした描写を楽しむことができました。 第一幕ラストの海底に沈んだコナンとラナが水中で心を交わす場面もワイヤーアクションも使い幻想的に仕上げていました。 最後に大陸になった残され島を出さずに、鍵となる台詞のみであとは結婚式の祝祭で締めるというのも、余韻を残す終わり方でした。

群集を描き難いということもあったとは思いますが、インダストリアの場面が大きく削られ、ディストピアとしてのインダストリアの描写はサルベージ船の場面に委ねられていました。 そして、インダストリアでのレプカ体制転覆も革命ではなくクーデターとされてしまっていました。 元のアニメーション作品では、インダストリアとの対比でハイハーバーでの日常生活の描写にもウエイトが置かれていましたが、その場面も削られていました。 インダストリアとハイハーバーの場面が大きく削られたことで、この2つの社会のコントラストが舞台ではあまり生かされていなかったように感じられた点は、物足りなく感じました。 あと、惜しむらくは、モンスリーが心を取り戻す場面をセリフで語らせたところは、象徴的な独舞もしくは独唱だったら、と。

そんな物足りなく感じた点もありましたが、原作と Pinto の演出の相性も良かったのか、期待していたよりも楽しめた舞台でした。

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[4187] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jun 10 23:29:38 2024

メイン会場となる横浜美術館のリニューアル工事もあり、4年ぶりとなった横浜トリエンナーレ [前回の鑑賞メモ]。 今回も5月25日の1日をかけて、フリンジ的な連携プログラムの BankART Life [前回の鑑賞メモ]、などと合わせて観てきました。

横浜美術館, 旧第一銀行横浜支店, BankART KAIKO, 他
2024/03/15-2024/06/09 (休場日: 木曜日; 除 4/4, 5/2, 6/6), 10:00-18:00 (6/6-9 -20:00).
Artistic Director: 劉鼎 [LIU Ding], 盧迎華 [Carol Yinghua LU].

前回同様、欧米のメジャーな作家が避けられ、いわゆる絵画や彫刻のような平面や立体の作品ではなくインスタレーションが展示の中心です。 それも空間を変容させるというよりもリサーチベースのコンセプチャルな展示が多く、また、現在の作家ではなく、20世紀以降に活動した作家やグループに関するアーカイブ的な展示も交える構成でした。 空間的に美しく/興味深くインスタレーションするといった志向は意識的に避けられあえて雑然とカオティックに構成されていた感があって、 スマートフォンのカメラを構えても前回ではあったフォトジェニックとなる画角がほとんど無いところに徹底を感じました。

そんな雰囲気を楽しめたかというとさほどでもなく、むしろ、コンセプトを読み解く必要のあるリサーチベースの作品を大規模に集積させるのは、鑑賞者の気力体力的に無理があるのでは、と感じてしまいました。 もちろん、うまく引き込まれればそうでも無いのかもしれないのですが、 メイン会場の横浜美術館2階のほぼ導入部に掲げられた芸術監督の言葉に違和感を覚えたことも、作品を読み込む気力を削いだように思います。 そこにあった「社会主義体制が衰退し冷戦が終結した後にあって、現代の世界秩序は、新自由主義経済と保守政治が全てを支配する状況を作りだしています。」という言葉を目にして、 東欧革命以降2010年代半ば頃まであったらまだその言もアクチュアルだったかもしれませんが、 Obama 大統領後のアメリカ政治の混乱やイギリスのBrexit、そしてコロナ禍を経た今まだそれを言うのかと、違和感を覚えました。

そして、欧州難民問題の引金を引いたシリア Assad 政権による国内武力弾圧やロシアのウクライナ侵攻などの世界の動乱は、 芸術監督が言うようなポスト冷戦の世界秩序がもたらしたのではなく、むしろその秩序が終わろうとしているからではないのか、と。 また、トリエンナーレで展示されていた知識人や芸術家の「縄文」受容のなれの果てに『土偶を読む』サントリー学芸賞受賞問題のようなものがあるのではないか、 さらに言えば、この展覧会が称揚している20世紀のカウンターカルチャー的な身振りがオルタナ右翼を育てたのではないのか、と。 冒頭でそんなテキストを目にしてしまったこともあり、展示に引き込まれたというより、展示を観ながらカウンターカルチャーの亡霊 (もしくはゾンビ) を眺めているような気分になってしまいました。 2010年代半ばであれば、まだ、この企画もエキサイティングに感じられたかもしれませんが。

旧第一銀行横浜支店会場は、横浜美術館の展示から変化はなく延長に感じられました。 BankART KAIKO 会場にも展示はありましたが、むしろ、関連グッズのショップがメインに感じられました。

街中を使った展示もあったのですが、クイーンズスクエア横浜の展示は空間に溶け込み過ぎ、 元町・中華街駅連絡通路を使った 香港生オーストラリア在住の Chun Yin Rainbow CHAN [陳 雋然] による果物の歌を絵にした Fruit Song No. 2 (2024) が、 観ながら聴くようQRコードからリンクされた音楽も含めて、今回のトリエンナーレの中で最も印象に残った作品でした。

石内 都 『絹の夢』
ISHIUCHI Miyako: silk threaded memories
みなとみらい線馬車道駅コンコース
2024/03/15-2024/06/09.

「アートもりもり!」と銘打たれた関連プログラムの1つ、 馬車道にあった横浜生糸検査所及び帝蚕倉庫群に因んだ、 桐生や安中など群馬県で現在も稼働している絹の製紙工場で撮った写真 Silk Dreams (2011) を使ったインスタレーションです。 石内 の作風としては素直に鮮やかで美しい写真ですが [関連する鑑賞メモ]、 美術館やギャラリーではない空間での展示には映えるでしょうか。

磯崎 道佳 『よこはまミーティングドーム2004-2024』
ISOZAKI Michiyoshi: Yokohama Meeting Dome 2004-2024
横浜市庁舎アトリウム
2024/05/22, 10:30-19:00

こちらの「アートもりもり!」は、観客参加型のワークショップを伴うプロジェクトが多い 磯崎 道佳 による創造都市横浜20周年のプロジェクトです。 アトリウムでのインスタレーションということからなんとなく想像してたものの倍(体積8倍)のスケールの、透明ビニールの方形エアドームがありました。 「等身大アバターワークショップ」はしませんでしたが、そこで知人友人に会うことができたということがまさにミーティングドームでした。

「アートもりもり!」プログラムは、他に、象の鼻テラスの『ポート・ジャーニー・プロジェクト “SEVEN SEEDS”展』や、横浜マリンタワーの特別プログラムにも、足を運んでみましたが、 興味関心とはすれ違ってしまった感じもありました。

BankART Station 他
2024/03/15-2024/06/09 (休場日: 木曜日; 除 4/4, 5/2, 6/6), 11:00-19:00.

今回の「アートもりもり!」プログラムでもありますが、第2回以降毎回、トリエンナーレのフリンジ的なプログラムとして BankART1929 が企画する展覧会の第7回です。 メインのトリエンナーレがリサーチベースの作品に思いっきり振られたことの対比もあって、 BankART Station の展示に、コンセプト的な面よりも、造形的な美しさや面白さへのウェイトを感じました。 無印良品的なミニマルさの 婦木 加奈子『洗濯物の彫刻』片岡 純也 + 岩竹 理恵 の一連の不条理な機械など BankART1929の企画らしく [関連する鑑賞メモ]、 ある意味でオーソドックスな現代アートの展覧会にほっと一息ついたところもありましたが、少々大人しすぎる様にも感じてしまいました。

『よこはまミーティングドーム2004-2024』で会った友人に勧められ、ポートサイド周辺地区の展示へ足を伸ばしました。 横浜クリエーションスクエア界隈まではたまに行く機会がありますが、その先まで足を伸ばすのは初めてです。 いかにもな再開発エリアを抜けた先には、まだ現役の貨物線の高島線や横浜市中央卸売市場の界隈は年季の入った工業地帯的な街となり、こんなエリアが残っていたことに気付きました。 時間が遅くなったこともあって観られなかった作品も多かったのですが、 島袋 道浩 『宇宙人とは接触しないほうがいい』ヤング荘 『スナックフェンス』など、 作品だけでなくそれが置かれた場に1990年代の街中アートイベントのセンスというかノリを思い出しましたし、 おさんぽ気分で街の雰囲気を楽しむことができました。

トリエンナーレのフリンジ的なプログラムといえば、 日ノ出町駅と黄金町駅の間のエリアのアニュアルのイベント『黄金町バザール 2024』もありますが、 こちらは一足早く4月27日に観ました。 八番館で開催されていたイベント内展覧会『寄る辺ない情念』などその会場も含めて雰囲気あるかなと思いましたし、 自分もまだ若かった1990年代の頃はそういう雰囲気も楽しんでいたように思いますが、今はコンセプトや運営の緩さの方が気になってしまいます。

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5月4日のストレンジシード静岡で痛めてしまって以来、右踵が不調です。 12日の美術館・ギャラリー巡りでぶり返し、また、25日の横浜トリエンナーレ/BankART Lifeの会場巡りでぶり返してしまいました。 度々ぶり返させてしまったせいか、今 (6月10日) に至るまで痛みが続いています。 歩行に支障があるほどの痛みではないのですが、歩き出しや歩き疲れてくると痛みが強くなります。 症状からすると足底腱膜炎のような気がします。 コロナ禍以前であれば、この程度で足を痛めるようなことはなかったのですが……。

[4186] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sat Jun 8 22:00:51 2024

半月余前の話ですが、5月22日は仕事帰りに初台へ。このコンサートを聴いてきました。

東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル, 初台
2024/05/22, 19:00-21:00
Igor Stravinsky: Symphonies of Wind Instruments (1920 version)
Jean Sibelius (arr. Igor Stravinsky): Canzonetta, op. 62a.
Mark-Anthony Turnage: Last Song for Olly for orchestr a (2018)
Mark-Anthony Turnage: Beacons for orchestra (2023)
Mark-Anthony Turnage: Remembering for orchestra (2014-15)
Paul Daniel (conductor), 東京都交響楽団 [Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra].

現代音楽 (contemporary classical) の作曲コンペに合わせて開催されるアニュアルのコンサート『コンポージアム』。 今年の審査員となったイギリスの作曲家 Mark-Anthony Turnage を知ったのは1990年代の Argo からのリリースで、 特に John Scofield, Peter Erskine というジャズ・ミュージシャンを迎え Ensemble Modern の演奏で録音された Blood On The Floor (Argo, 466 292-2, 1997) の印象が強く残っています。 最近の作品はチェックしていなかったので、ライブで聴く良い機会と、足を運びました。

前半は Stravinsky と Sibelius の数分の曲の後に師 Oliver Knussen に捧げた6部構成の曲 Last Song for Olly、 後半は自身による短いファンファーレ様の曲の後に肉腫で早逝した友人の息子 Evan Scofield に捧げた4楽章構成の Remembering という、追悼する曲を核に構成されたプログラムでした。 Blood On The Floor からの先入観もあるかと思いますが、 Last Song for Olly にしても Remembering にしても、 特に導入部は、目立つ管楽器の音色や響き、反復でノリを作り出すのではなく少々とっ散らかした感のある打楽器音に、現代的なビッグバント・ジャズに近しいものを感じました。 しかし、そんなことを思いながら油断して聴いていると、ストリング使いなどもあって、いつの間にか違う音世界に連れていかれるよう。 選曲のコンセプトが掴めたという程ではありませんでしたが、展開を楽しみました。

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[4185] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jun 2 22:29:58 2024

5月18,19日の土日は2日とも昼過ぎに京橋へ。 国立映画アーカイブ恒例のサイレント映画上映企画 『サイレントシネマ・デイズ2024』で、 サイレント映画の生伴奏付き上映を観てきました。

Von Morgens bis Mitternachts [From Morning to Midnight]
『朝から夜中まで』
1920 / Ilag-Film (Berlin) / 69 min. / 35mm 18fps / B+W / silent
Drama in 5 Akten von Georg Kaiser; Künstlerische Leitung: Karlheinz Martin; Bildentwurf und Figuren: Robert Neppach; Bildaufnahmen: Carl Hoffmann.
Ernst Deutsch (Der Kassierer), Erna Morena (Die Dame), Hans Heinrich von Twardowski (Der junge Herr), Eberhard Wrede (Der Bankdirektor), Edgar Licho (Der fette Herr), Hugo Böblin (Der Trödler).

Georg Kaiser の1912年の戯曲に基づく映画です。 主人公の銀行の出納係が、窓口に来た女に目が眩んで彼女のために大金着服するも相手にされず、 家族との質素ながら堅実な生活を捨て、大金で豪遊するも虚しさを覚えて救世軍へ行き、最後は警察に踏み込まれて自殺するという、破滅の1日を描きます。 Das Cabinet des Dr. Caligari (1920) の1ヶ月後に公開された表現主義 Expressionismus の時代のドイツ映画ということで、 表現主義的な舞台美術、衣装や演技による当時の舞台の収録映像を観るかのような面白さ、興味深さがありました。 出納係の破滅の原因は退屈な日常からの逃避ですが、階級差、貧富差の描写もえげつなく、社会風刺が効いていました。 最後の場面が救世軍というのは Die Büchse der Pandora (1929) と共通しますし、 最後の場面で十字架の様な模様の壁にもたれかり死ぬ主人公の頭上に掲げられた “Ecce Homo” 「この人を見よ」は、 本来の受難劇の場面という意味と George Grosz の風刺画集 Ecce Homo (1923) での “Ecce Homo” の間を繋ぐようでした。

Новый Вавилон [The New Babylon]
『新バビロン』
1929 / Совкино (СССР) / 102 min. / 35mm 18fps / B+W / silent
Сценарии и Постановка: Григорий Козинцов и Леонид Трауберг.
Елена Кузьмина (продавщица Луиза Пуарье), Пётр Соболевский (солдат Жан).

1920年代にサンクトペテルブルグの劇団/映画制作集団 Фабрика эксцентрического актёра (ФЭКС) を率いた Григорий Козинцов и Леонид Трауберг [Grigory Kozintsev & Leonid Trauberg] による映画です。 1871年のパリ・コミューンを舞台に、コミューンに参加することになった百貨店「新バビロン」の売り子 Louise [Луиза] と、 フランス臨時政府軍の兵士として弾圧する側になった Jean [Жан] の2人を軸として、彼らの半ばすれ違いの様な出会いと悲劇的な結末を描いています。 流石に舞台がパリ・コミューンなので美術や衣装に戦間期モダンな雰囲気はあえりませんが、 激しい市街戦を演出するモンタージュなどは1920年代のアヴァンギャルド映画らしいものでした。 当時のブルジョア退廃的な文化を象徴するものとして、オペレッタとカンカン (Cancan) が使われていたのが印象に残りました。 Дмитрий Шостакович [Dmitri Shostakovich] が付けた最初の映画のスコアでは、 Jacques Offenbach: Orpheus in the Underworld が引用されていたとのこと。 今回の生伴奏はそうではなかったので、元の Шостакович のスコアでの伴奏も聴いてみたいものです。

国立映画アーカイブ 展示室では企画展 『日本映画と音楽 1950年代から1960年代の作曲家たち』 (8/23まで)。 この時期の日本映画にもその映画音楽にも疎かったので、3人の会 (團 伊玖磨, 芥川 也寸志, 黛 敏郎) を軸とした展示に、 当時の映画音楽はクラシック音楽作曲家の大きな活躍の場だったことに気付かされました。 この頃の映画音楽は、19世紀におけるオペラ音楽のような位置にあった、ということなのかもしれません。

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[4184] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue May 28 23:48:14 2024

ゴールデンウィークの翌土曜は、昼に上野、谷中、そして夕方に乃木坂へ。会期末が迫った展覧会を中心に美術館・ギャラリー巡りしました。

Does the Future Sleep Here? ––Revisiting the museum's response to contemporary art after 65 years
国立西洋美術館 企画展示室
2024/03/12-2024/05/12 (月休; 3/25,4/29,4/30,5/6開; 5/7休). 10:30-17:30 (金土,4/28,4/29,5/5,5/6 9:30-20:00)
飯山 由貴, 梅津 庸一, 遠藤 麻衣, 小沢 剛, 小田原 のどか, 坂本 夏子, 杉戸 洋, 鷹野 隆大, 竹村 京, 田中 功起, 辰野 登恵子, エレナ・トゥタッチコワ, 内藤 礼, 中林 忠良, 長島 有里枝, パープルーム (梅津 庸一 + 安藤裕美 + 續橋 仁子 + 星川 あさこ + わきもとさき), 布施 琳太郎, 松浦 寿夫, ミヤギフトシ, ユアサエボシ, 弓指 寛治.

中世後期14世紀以降20世紀前半までの西洋美術をコレクションする国立西洋美術館で開催された、1957年開館以来初の現代美術の展覧会です。 20世紀後半の作品も取り上げられてはいましたが、 美術館収蔵作品のベースとなった松方コレクションや、日本における西洋美術受容、美術館という制度などに取材したサイトスペシフィックでコンセプチャルなインスタレーション作品が多い構成でした。 といっても、コンセプトに深みというより素朴さを感じてしまったのには否めず。 田中 功起 のインスタレーションを美術からの排除がテーマで貧困・階級の一切触れないのは不自然、と思いつつ観た後に、 それを補完するように、山谷のドヤ街と上野のホームレスに取材した生活史のアプローチにも影響を受けていそうなインスタレーションがあったものの、 男性ばかりのドヤ街の人々の絵を観ながら今度は女性の貧困が不可視化されていることが気になったりしました。 そんな微妙なインスタレーションが続いたせいか、 単に並置されているだけという 内藤 礼 の作品が一周回ってこの企画へのメタ批評にも感じられました。

Will Truth Be Resurrected? –– Goya's The Disasters of War, the Complete Set
国立西洋美術館 新刊2階 版画素描展示室
2024/02/27-2024/05/26 (月休; 3/25,4/29,4/30,5/6開; 5/7休). 10:30-17:30 (金土,4/28,4/29,5/5,5/6 9:30-20:00)

18世紀後半から19世紀初頭にかけて活動したスペインの画家 Francisco de Goya による ナポレオン戦争のスペインでの戦いであるスペイン独立戦争 (1808-1814) に取材した版画集 Los desastres de la guerra [The Disasters of War] (c.1810-15) の全82点を一挙展示したものです。 何点か断片的には観たことはありましたが、全体をまとめて観たのは初めて。 勇ましい戦闘風景ではなく、死体の山、餓死しかけた人々、女性に対する性的暴力など「戦争の悲惨」が、 時に生々しく、時に Los caprichos (1797-98) にも似た 風刺と寓意に満ちた幻想的な絵として、細かいモノクロの銅版画でこれでもかと描かれていて、見応えありました。

Yoshiwara
東京藝術大学大学美術館
2024/03/26-05/19 (前期3/26-4/21,後期4/23-5/19;月休;4/29,5/6開;5/7休), 10:00-17:00.

江戸時代の幕府公認の遊郭 吉原 の、文化・流行の発信地としての面に焦点を当て、吉原に関する美術作品を集めた展覧会です。 前半、地階の展示は約250年間の吉原遊郭の変化を制度面も含めて堅実に解説するもので、社会の中での位置、性格の移り変わりを追う様なところもありました。 しかし、3階へ移動すると、展示空間の作りはテーマパーク的な悪趣味さ。 そんな中にあっても、台東区立下町風俗資料館の 辻村 寿三郎 (人形), 三浦 宏 (建物), 服部 一郎 (小物細工) 《江戸風俗人形》(1981) には、そんなことも吹き飛ばす凄みを感じました。

Apichatpong Weerasethakul: Solarium
SCAI The Bathhouse
2024/03/16-05/25 (日月祝休), 12:00-18:00.

作家が幼少期に熱中したというタイのホラー映画 The Hollow-eyed Ghost (1981) を再現した映像に基づく 新作インスタレーション Solarium (2023) をメインに展示したギャラリーでの個展です。 暗いギャラリー中央に立てた透明なガラスのスクリーンに対し2台のプロジェクタから両面へ映像を投影します。 元ネタを知らない投影されていた映像の内容よりも、プロジェクターの光源が眼に入る位置での幻惑されるかのような鑑賞体験が、 2019年に東京芸術劇場で観た Fever Room (2015) [鑑賞メモ] をコンパクトにしたようでした。

Universal / Remote
国立新美術館 企画展示室1E
2024/03/06-06/03 (火休,4/30開), 10:00-18:00 (金土-20:00)
井田 大介 [Daisuke Ida], 徐冰 [Xu Bing], Trevor Paglen, Hito Steyerl, Giorgi Gago Gagoshidze & Miloš Trakilović, 地主 麻衣子 [Maiko Jinushi], Tina Enghoff, 차 재민 [Jeamin Cha], Evan Roth, 木浦 奈津子 [Natsuko Kiura].

現代における個人と社会の距離感をテーマとした現代アートの展覧会ですが、 ビデオ、写真やデジタルの画像などをメディアをコンセプチャルに扱った作品が多く、 「リモート」にウェイトがあったように感じられました。 長尺のビデオ作品が多いのはどうしたものかと思いつつも、 プロパンバーナーでブロンズ像を加熱し続ける様子を捉えた《Fever》 (2021) や、 アウトドア用小型ガスバーナーコンロを円形に並べて発生させた上昇気流で紙飛行機が回り飛ぶ《誰が為に鐘は鳴る》(2021) などの、 井田大介の不条理感強いビデオ作品が好みでした。

Henri Matisse –– Formes libres
国立新美術館 企画展示室2E
2024/02/14-05/27 (火休,4/30開), 10:00-18:00 (金土-20:00)

20世紀フランスの美術作家 Henri Matisse の、 Musée Matisse de Nice [ニース市マティス美術館] のコレクションに基づく展覧会です。 20世紀初頭 Faubisme の中心的な作家として知られるようになった作家ですし、 その頃から戦間期の活動も追える展示でしたが、 展示の過半は1940年代以降の切り紙絵をベースにした作品で、 特に Chapelle du Rosaire à Vence [ヴァンスのロザリオ礼拝堂] 関連の仕事の展示が充実していました。 切り紙絵時代のアート本 Jazz (1947) が好きなので、 その作風を礼拝堂の室内装飾や衣服のデザインへ大規模に展開した仕事を見ることが出来たのが収穫でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]