TFJ's Sidewalk Cafe >

談話室 / Conversation Room

TFJ's Sidewalk Cafe 内検索 (Google)
[4168] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Wed Mar 13 23:15:20 2024

十日前の日曜は、午後に三軒茶屋へ。この公演を観てきました。

Ate9 Dance Company / Danielle Agami (choreo.)
EXHIBIT B / calling glenn
世田谷パブリックシアター
2024/03/04, 15:00-17:00.
Artistic Direction and Choreography: Danielle Agami
Director's assistant and production: Andrea Just; Dramaturge: Rebecah Goldstone; Lighting designer: Bernat Jansà.
Dancers: Manon Andral, Adrien Delépine, Björn Bakker, Julien Guibourg, Carmela di Costanzo, Yun-Ting Tsai, Óscar Pérez.
EXGHIBIT B
Year: 2017; Length: 30 min.
Music: Omid Walizadeh.
calling glenn
Year: 2016; Length: 50 min.
Live Music: Glenn Kotche.

中東系ユダヤ人のルーツを持ち、イスラエルの出身で Batsheva Dance Company での活動の後、 アメリカに拠点を移したダンサー/振付家 Danielle Agami が、 2012年に立ち上げたロサンジェルスを拠点とするカンパニー Ate9 Dance Company のダブルビルです。 Batsheva Dance Company はそれなりに観ているという程度の事前知識で、 アメリカのコンテンポラリー・ダンス・カンパニーが来日する機会が少なく (自分が観たのは Benjamin Millepied L. A. Dance Project [鑑賞メモ] 以来10年ぶり)、 久々に観る良い機会かと足を運びました。

前半はイスラエルの紛争 (conflict) をテーマにしたという30分ほどの作品です。 7人のダンサーによる、体をぶつけたり投げ出したりという荒い動きと、日常的と感じる動きが、交錯します。 ロサンジェルスのイラン系DJによるアブストラクトなブレイクビーツを使い、 後方や袖は暗く落とし、白っぽい床に薄くベージュがかった白の衣裳でにライティングのみミニマリスト的な演出でしたが、 それが単調にも感じられ、掴みどころなく感じました。

後半は、オルタナティヴ・ロック Wilco のドラマー Glenn Kotche による生伴奏を使った50分ほどの作品です。 前半と同じ7人のダンサーによって演じられました。 壁も床も剥き出し感のある状態で、ジェンダーレスな黒の衣裳で時に赤を纏い、折り畳みパイプ椅子を道具に使います。 一人から数人の間の日常的なやり取りを時にデフォルメしたかのようなスケッチを、音楽に即興的なダンスも交えつつ、繋げていくような展開でした。 ユーモラスな動きも多く、また、生演奏の伴奏も爆音ドラムから鉄琴類の繊細な音までメリハリある緊張感で、グッと引き込まれて観ることができました。

良かった後半 calling glenn の印象のおかげもあってか、 もしくは、公演後のトークでの気取らない雰囲気もあってか、抽象度高めの作品の割には親しみやすやを感じました。 そういう所はヨーロッパのカンパニーにはあまり無い雰囲気かもしれません。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4167] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Mar 10 20:38:32 2024

先週末土曜は、昼過ぎ初台へ。この公演を観てきました。

『カルメル会修道女の対話』
新国立劇場 中劇場
作曲 [Music by]: Francis Poulenc; 台本 [Libretto by]: Georges Bernanos.
演出・演技指導 [Production]: Stephan Grögler;
キャスト: 野口 真瑚 (Blanche de la Force), 小林 紗季子 (Madame de Croissy), 宮地 江奈 (Madame Lidoine), 後藤 真菜美 (Mère Marie), 谷 菜々子 (Sœur Constance), 他
指揮 [Conductor]: Jonathan Stockhammer.
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団.
初演: Teatro alla Scala, Milan, 1957; このプロダクションの初演: 新国立劇場 中劇場, 2024-03-01.
制作 [Presented by]: 新国立劇場.

2018/2019シーズンのMet Opera live in HD で観て以来 [鑑賞メモ]、上演を生で観たいと思っていたオペラが、 2024年の新国立劇場オペラ研修所 修了公演として取り上げられたので、観てきました。

フランス革命時という時代設定そのままの衣裳はオーソドックスなものでしたが、 舞台美術はミニマリスト的ではないものの、抽象度が高め。 廻舞台を使い、その中央に立った三柱の枠と一本の道を様々に見立てていきます。 現代演出というほどはではない、Met Opera の John Dexter 演出に近いでしょうか。 さらに、枠に掛けられた布を少しずつ落としていくことで、状況の悪化を示すだけでなく舞台の抽象度が上ります。 貴族の邸宅を表す豪華なタペストリー風のプロジェクションマッピングされた布がかけられた枠が、 最後にはギロチン台になってしまいます。 処刑は、パフォーマーの引き攣ったポーズとギロチンの音に合わせて紐から下げられる布を落とすことで表現しました。

公演の性格からしてその質は、世界トップレベルが演じる Met Opera live in HD や Olivier Py 演出の Le Théâtre des Champs-Elyseés のBD/DVD [鑑賞メモ] と比ぶべくもありません。 やはり修了公演だなと思いつつ観始めましたが、結局、作品世界中に思い切り感情移入しながら観てしまいました。 公演を生で観て良いオペラ作品と改めて実感しましたし、それを味わうのに十分なレベルの演出・演技でした。

話は変わって。公演後、隣の建物で開催中の 展覧会を観てきました。

Trubute to RYUICHI SAKAMOTO - Music / Art / Media
NTTインタコミュニケーション・センター[ICC] ギャラリーA
2023/12/16-2024/03/10 (月休; 月祝開,翌火休; 12/28-1/4休), 11:00-18:00.
Strangeloop Studios, 高谷 史郎, Dumb Type, Carsten Nicolai, 404.zero, Kyle McDonald, 真鍋 大度, 毛利 悠子, Rhizomatiks, 李 禹煥.

2023年3月の死去後に企画された展覧会で、会場規模からしても、回顧展というほどの内容ではありません。 入口側半分が暗室でのインタラクティヴな映像上映3作品、その奥に明るいギャラリーでの追悼的な展示がされていました。 真鍋 大度 とコラボレーションした映像作品が、Rhizomatics というより、むしろ 池田 亮司 (Dumb Type) に近く感じられたのは、 パフォーマンス的な動きの無いスクリーンへの上映というスタイルのせいでしょうか。 そんなことに興味を引かれた展示でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4166] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Feb 25 19:03:32 2024

この週末土曜は、昼過ぎに恵比寿へ。この映画を観てきました。

『夢の涯までも (ディレクターズカット4Kリストア版)』
Ein Film von Wim Wenders
1991 / 1994 (Director's Cut / 2014 (4K Restaurierung) / Super 35mm Eastmancolor (4K Restaurierung: DCP) / 1:1,66 / Dolby Stereo / 179 min (Director's Cut: 287 min).
Produktion: Road Movies Filmproduktion GmbH (Berlin), Argos Films S.A. (Neuilly), Village Roadshow Pictures Pty. Ltd. (Sydney); 4K Restaurierung: Wim Wenders Stiftung.
Darsteller: William Hurt (Sam Farber / Trevor McPhee), Solveig Dommartin (Claire Tourneur), Sam Neill (Eugene Fitzpatrick), Max von Sydow (Henry Farber), Rüdiger Vogler (Philip Winter), Jeanne Moreau (Edith Farber), u.a.
Regie: Wim Wenders; Produzenten: Anatole Dauman, Jonathan Taplin, Wim Wenders; Drehbuch: Wim Wenders, Peter Carey, nach einer Idee von Wim Wenders und Solveig Dommartin,
上映: 『恵比寿映像祭2024』地域連携プログラム, 東京都写真美術館1階ホール, 2024-02-23 12:50-17:50.

1991年公開 (1994年ディレクターズカット版公開) のWim Wendersの映画の4Kレストア版です。 公開当時に観なかったので、これも良い機会かと、『恵比寿映像祭2024』地域連携プログラムの一環の上映を観ました。 途中休憩1回を挟んで二部構成、計5時間弱はさすがに長すぎで、最後まで観たという達成感はありましたが、集中力がそこまで持つわけではなく、消化不良感の残る鑑賞体験でした。

物語の舞台は1999年で、制作された1991年から見て近未来を舞台としたSci-Fiです。 といっても、第一部はSci-Fi色は薄めで、何からの理由で追われるように旅する男 (Trevor McPhee / Sam Farber) と 彼と偶然出会った淪落した生活を送る女性 (Claire Tourneur)、その元恋人 (Eugene Fitzpatrick) や、彼女に雇われた探偵 (Philip Winter) が、 追いつ追われつパリ、ベルリン、リスボン、モスクワ、シベリア、中国、東京、サンフランシスコ、オーストラリア (都市、地域、国と粒度が揃っていませんがこれが映画での描写の粒度) と世界を巡るロードムービーです。 一同がオーストラリアのアボリジニ居住区にたどり着いてからの第二部は、 インドの核衛星の爆破の影響を受けて、アボリジニ居住区でのポスト=アポカリプスな生活とそこからの復帰を描いた物語となります。 視覚転送技術という夢を追うマッドサイエンティスト的な父 (Henry Farber) と、その妻 (Edith) と子 (Sam) の間の愛と葛藤がテーマとして浮かび上がります。 さらに、視覚転送技術が完成し核衛星爆破でも世界は無事だったと判明した後、再び物語は大きく転換し、 夢の視覚化への視覚転送技術の応用、その結果、自己の夢に中毒するHenry、SamとClaire。そして Eugene による Claire の治癒、救済の物語となります。 テーマを色々盛り込み過ぎで、それぞれのテーマの掘り下げが足りず、大味です。 また、第一部の展開は追いつ追われつの話にしては描写や展開が緩いです。 長大な物語としたのも神話的な叙事詩にしたいという作家の意図なのでしょうが、 物語を整理してテーマを掘り下げ、1話1時間半程度の全4回のシリーズ物にしても良かったのではないかと思ってしまいました。

その一方で、この映画を観ていて、1989年東欧革命後、ソ連崩壊中で冷戦はほぼ決着は付いたロスタイムのような時間帯、 ホブスボームの言う「短い20世紀」が終わったもののまだ21世紀の姿が見えない、そんな隙間の時代を思い出しました。 1980年代前半であれば核戦争による破局は現実的な脅威でしたが、その代わりに描かれる核衛星の爆発の描写は、 ポスト=アポカリプスな生活の描写や結局世界は無事だったという結末など、楽観的な雰囲気です。 これは冷戦終結で核戦争による破局は回避されたという当時の時代の雰囲気の反映でしょうか。 細部を見ても、登場人物-特に女性の主役の Claire-の服装が1980年代のスタイルで、 当時勃興しつつあったポストレイヴのクラブカルチャーに見られるようなドレスダウンしたカジュアルなスタイルが見られません。 もちろん、服装だけでなく、冒頭のパーティの様子やバーの雰囲気にも、映画中の音楽にも1990年代後半には一般的となるテクノ/エレクトロニカの影響はなく、クラブカルチャーの影響を微塵も感じさせません。 特に第一部の生活感の無い描写は、1970年前後のカウンターカルチャーを出自に持ちながらも1980年台にはリッチなエスタブリッシュメントとなった人々を想起しました。

Sci-Fiということで、自動車やテレビ電話にみられた近未来的な技術の描写も気になりました。 映画が制作された1991年に1990年代後半のインターネットやGUIを持つPCの急速な普及 (スマートフォンの普及はもう少し後) など予想できるわけもないのですが、 電子メール、ウェブのようなインターネット・サービスは無く、探偵が使う人物追跡システムの検索端末もTVゲームのようなGUIです。 第二部後半で描写される視覚化された自己の夢に中毒するというエピソードは、自己完結した自己愛か他者からの承認欲求という違いはありますが、現在であればSNS依存症として描かれたのかもしれません。このような点は慧眼かもしれません。

このような理由もあって、物語それ自体というより、映画から感じられた1990年代初頭の時代の雰囲気が強く印象に残りました。 そして、それから社会は大きく変わってしまったのだな、と。

前作 Der Himmel über Berlin 『ベルリン・天使の詩』 (1987) に良い印象が残っていなかったこともあり、 公開当時にこの映画は観なかったのですが、 好きだったミュージシャンがこの映画のために録音した曲を多く収録していたので、 サウンドトラックCD Until The End Of The World (Warner Bros., 9 26707-2, 1991) を買って聴いていました。 好きな音楽なので期待していましたが、映画の中での印象的な使われ方されているという訳ではありませんでした。 そもそも、ロック、ポップのようなポピュラー音楽は時代に紐付きやすいので、近未来Sci-Fi映画向けではないのかもしれません。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4165] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Feb 18 21:47:49 2024

この週末土曜は、晩に日比谷へ。このコンサート映画を観てきました。

A Film by Jonathan Demme and Talking Heads
1984 / 2023 (4K Restoration) / color / vista / 5.1ch / 107min.
Talking Heads Films presents / A24 presents (4K Restoration)
starring: David Byrne (vocals, guitar), Tina Weymouth (bass, keyboards), Chris Frantz (drums, percussion), Jerry Harrison (guitar, keyboards); with Bernie Worrell (keyboards), Alex Weir (guitar), Steve Scales (percussion), Lynn Mabry (chorus), Edna Holt (chorus).
Produced by Gary Goetzman; Directed by Jonathan Demme; Concieved for the stage by David Byrne; Edited by Lisa Day; Director Of Photography: Jordan Cronenweth; Visual Consultant: Sandy McLeod.
上映: TOHOシネマズ日比谷, 2024-02-17 19:20-21:00.

Talking Heads: Speaking In Tongues (Sire, 9 23883-1, 1983) のリリースに合わせて行われたツアーの 1983年12月13〜16日ロサンジェルス Pantages Theater でのライブ (リハーサル1回、本番3回) を収録編集した1984年公開のコンサート映画を、2023年に4Kレストアしたものです。 DVDやHD配信で何度となく見返している映画ですが、4Kレストア版を大画面で観ることで、改めてその演出の面白さ、特に照明デザインの巧みさに気付くことができました。

確かに、剥き出しの舞台で録音されたリズムをラジカセで再生しながら David Byrne 一人弾き歌う “Psycho Killer” から 少しずつ人や楽器が増えて舞台そして音楽が組み上がっていく様を見せるかのような前半は、 Trisha Brown のポストモダン・ダンス映画 Accumulation with Talking plus Watermotor (1979) [鑑賞メモ] や New Order: “The Perfect Kiss” (1985) のミュージックビデオ [鑑賞メモ] という Jonathan Demme が手掛けた他の作品との共通点もあり、とても興味深いものがあります。

しかし、舞台が組み上がった後半 “Making Flippy Floppy” 以降は、異化を通して舞台の成り立ちを見せるような演出から、グッと没入感のある演出へ切り替わります。 それまでの剥き出しの舞台にフラット気味な照明からうって変わり、 舞台をブラックボックスもしくは背景のみスクリーンにし、照明を横もしくは下から当てることでパフォーマーを黒い背景、もしくは、映像を背景に不自然に浮かび上がらせ、 正面から当てる際は背景に映る影まで計算に入れます。 字幕や写真、ビデオなどが投影された背景スクリーンにパフォーマーを黒くシルエットとして見せます。 今でこそコンテンポラリー・ダンス/バレエや現代的な演劇でよく見られる照明デザインですが、その照明デザインを手がけたのは Beverly Emmons。 Merce Cunningham Dance Company などのポストモダン・ダンス作品や、 Robert Wilson が演出したオペラ Einstein On The Beach (1976) や The Civil Wars の照明デザインを手がけた人によるものです。

4Kレストア版公開に合わせて Stop Making Sense について Beverly Emmons へインタビューした記事 “Uncovering Hidden Insights with Stop Making Sense Lighting Designer Beverly Emmons” (2023-12-27) によると、 David Byrne の当時のガールフレンド Adelle Lutz が Robert Wilson: The Civil Wars 関連の日本でのワークショップへ通訳として帯同したことをきっかけに、 そこから Wilson が Byrne に Emmons を紹介したとのこと。 (ただし、Robert Wilson の舞台作品 The Civil Wars の Minneapolis section: The Knee Plays 舞台音楽CD+DVD再発 (Nonesuch, 303228-2, 2007) [レビュー] のライナーノーツでの Byrne の説明とは食い違いがあります。) Stop Making Sense 収録直後の1984年に初演された The Knee Plays の音楽を Byrne が手掛けていること、 The Knee Plays だけでなく Stop Making Sense のパフォーマンスにも この1983年日本での Wilson のワークショップで取り上げられた文楽、能、歌舞伎が影響していることを考えると、いろんな事が同時進行していたのだろうと窺われます。 Emmons のインタビューに The Knee Plays への言及が、 The Knee Plays のライナーノーツに Stop Making Sense への言及が無いことが惜しまれます。 (誰か Stop Making SenseThe Knee Plays の関係という観点からインタビュー取材して欲しい。)

後に David Byrne's American Utopia (2020) [鑑賞メモ] として映画化された 2019年ブロードウェーのショー American Utopia に対する ニューヨーク Observer 誌のレビュー “‘American Utopia’ Takes a Funky-Robot Tour of David Byrne’s Brain” (2019-10-20) の中で、 “the high-art visual trappings that suggest mid-career Robert Wilson meets Afrofuturism” 「キャリア中期の Robert Wilson を思わせるハイアート的な視覚的装いと Afrofuturism の出会い」という形容が出てきます。 その形容は的を射ていると思いますが、 Robert Wilson やポストモダン・ダンスからのハイアート趣味と、P-Funk や Old school hip hop に見られる Afrofuturism の出会い、 というのはむしろ Stop Making Sense の方にはっきり現れています。 David Byrne's American Utopia と比べて未消化と感じるほど直接的ですが、 Robert Wilson の照明デザイナを起用する一方で、Bernie Warrell や Lynn Mabry というP-Funkのミュージシャンをゲストに起用しているのですから。 Kurtis Blow や James Brown の名を歌い上げる Tom Tom Club: “Genius Of Love” を演っていることも、そのような面にうまくはまっています。

Stop Making Sense から David Byrne's American Utopia まで、 David Byrne はブレていないないと思うものの、やはり違いも感じます。 Stop Making Sense での 観客すら目に入っていないのではないかと思うほどに没入しての汗だくになる程に激しいパフォーマンスは、 現代社会への暗喩的な風刺を感じさせる歌詞もあって、怒れる若者 (Talking Heads: “Nothing But Flower” で Years ago I was an angry young man と歌っていたように)。 優しく諭すようとすら感じた David Byrne's American Utopia を思い出しつつ、その成熟を改めて実感しました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

IMAX版が2週間限定だということを見落としていて、 人気ありそうな映画なので1〜2ヶ月はやってるだろうと先送りしていたら、終映してました。 通常の4Kレストア版も既に上映館が減っていて、このまま先送りしていると見逃しそうと、慌てて観に行ったのでした。

しかし、こういう風に書いていると、冷静に分析するように観ていると思われがちですが、 色々と思い入れがあるので、実際のところは “Burning Down The House” あたりから、目を潤ませながら観ていたのでした。

[4164] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Feb 11 21:44:08 2024

この週末土曜は、昼過ぎに恵比寿へ。毎年チェックしているこの展覧会を観てきました。

Yebisu International Festival for Art & Alternative Visions 2024 — 30 Ways To Go To The Moon
東京都写真美術館 ほか
2024/02/02-02/18 (月休), 10:00-20:00 (2/18 -18:00)

東京都写真美術館主催のアニュアルの映像芸術展です。 ほぼ毎年定点観測的に観てきていますが、去年は上映プログラムを優先して観たので [鑑賞メモ]、 今年はメイン会場の展示を中心に観ました。

2F展示室は東京都写真美術館のコレクションを含む多様な作品を展示です。 パーティションの類を立てずに展示していたので、雑多さが一層増し、 個々の作品に向かい合うのがなかなか難しい展示空間でした。

そんな中では、雑誌 Life のフォーマットを使って 日常の中の何気ない中での性的偏見によるトラウマを受ける時を切り取るという シミュレーショニズム的な作風の Tracey Moffatt: From the series of “Scarred for Life” (1994)、 いかにも1970年代のコンセプチャルな作風ながら可愛らしい不条理さの Marcel Broodthaers: Interview with a Cat (1970) や John Baldessari: Teaching a Plant the Alphabet (1972) などが印象に残りました。

最近の作品の中では、動物園での飼育動物向けの玩具を人が淡々と無表情に使用する様子をビデオで捉えた Joanna Piotrowska: Animal Enrichment (2019) が皮肉も効いていて面白く観ました。

大判のポスターを床に整然に積み上げ観客に持ち去らせる Felix Gonzalez-Torres: Untitled (1992/1993) はタイトルだけでは区別し難いのですが、今回の作品では空に飛ぶ鳥を小さく捉えたモノクロの写真のポスターを使用していました。 ポスターや銀紙包みのキャンデーなど何回か体験したことのある作品です [鑑賞メモ]。 他の観客が誰も取ろうとしないので、手本になろうとポスターを取ったものの、やっぱり持て余します。 今回はポスター自体はスタイリッシュで良かったのですが。

3F展示室は去年から始まった「コミッション・プロジェクト」に関するもの。 去年はファイナリスト4名の展示でしたが、 今年はその結果の第1回特別賞を受賞した2名のアーティスト (荒木 悠, 金 仁淑) による総合テーマに合わせた作品を展示していました。

B1F展示室では4組の作家に焦点を当て、それぞれ区画されたスペースで展示をしていました。 このくらいの展示密度の方が、個々の作品には向き合えるでしょうか。 今回の総合テーマ「月へ行く30の方法」の元となった、拾ったものを組み合わせての 土屋 信子 によるインスタレーションも、 雑然とした空間ではなくホワイトキューブの空間で展示されてこその空間構成の面白さでしょうか。

青木 陵子 + 伊藤 存 《9歳までの境地》 (2011) の スマートフォン大の小型モバイルプロジェクタとせいぜい20〜30cm大のオブジェを組み合わせた 小さなプロジェクションマッピングは、その投影されているアニメーション映像も含めて、観ていて童心に還るよう。 今回の恵比寿映像祭で最も印象に残りました。

恵比寿ガーデンプレイス センター広場 では、オフサイト展示として 『Poems in Code—ジェネラティブ・アートの現在/プログラミングで生成される映像』 と題した上映が行われていました。 自分が見ている間は、原色を多用した映像が多く、 クラブでのテクノのオールナイトイベントへ時々足を運んでいた2000年前後に目にしたVJの映像を連想しました。 鮮やかな色彩の映像は商業施設という空間の中でも目立っていましたが。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4163] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Feb 5 22:18:35 2024

先の土曜は、午後に新座へ。このパフォーマンスを観てきました。

Circus Laboratory CouCou
演出: 安本 亜佐美.
2024/02/03, 15:00-16:10.
『合わせ揺れる』
出演: 岡野 亜紀子, 板倉 佳奈美.
approx. 10 min.
『境界』
演出・出演: 安本 亜佐美.
approx. 40 min.

CO.SCOoPP は京都を拠点に活動する現代サーカス・カンパニー。 Raphaëlle Boitel: Fierce 5 [鑑賞メモ] に出演していた 安本 が主宰する 気になっていたカンパニーの滅多にない関東圏での公演で、 会場も以前から気になっていた現代サーカスのスタジオということで、足を運んでみました。

まずは、『合わせ揺れる』。 ヴァーティカルダンスに使うハーネスを付けた2人が、 ロープ無しでカラビナで2人のハーネスを直結した状態での10分程のパフォーマンスです。 コンタクトインプロビゼーション、もしくは、2人組のアクロバランスのようでもあり、 支点がカラビナを繋ぐハーネスになることで微妙に異なる所 – 低いながらぶら下がるというヴァーティカルダンス風な所はもちろん、膝上に横向きに正座して座ってバランスするようなアクロバランスのようでハーネス無しでありえない動き/ポーズ — を興味深く観ましたが、 少々取り留めなくスケッチ集のような印象も受けました。

舞台展開して、『境界』は、ベルベットのような風合いの赤いシルクを3枚を使ったソロ。 シルクは上で絞らず天井のレールに固定された大きめのトラペーズ様の足場にフラットに3枚とも客席向きに、 2枚は間1mほど開けて並べて、もう1枚はそれらの後ろに間を塞ぐように、掛け下げられています。 最初のうちは、そんな3枚の布に隠れたり戯れたりするようで、動きの小ささもあってかなかなか作品世界に入り込めなかったのですが、 後半になって動きが大きくなって、引き込まれました。 赤いベルベットのカーテンを突き破って出てくるかのような動きから、 3本のシルクを全身に絡めて半ば逆さ吊りになりつつ床を転げたり超低空のエアリアルかのような動きへ。 そして、最後はトラペーズ様の足場に登っての動きになり、ラストはシルクを絡めての落下、と、かなりエアリアルっぽい動きも見せました。 フライヤによると Michael Ende の小説に着想したとのことですが、 赤いヴェルベットのカーテンを思わせる美術もあってか、 後半激しくなる展開も含めて David Lynch の映画/TVドラマ (Twin Peaks など) を少々想起させられました。

アフタートークは、Co.SCOoPP主宰 安本 と、 ながめくらしつ 主宰 目黒 陽一、 Circus Laboratory CouCou 創設者 酒井 淳美 の3名によるもの。 今回上演した作品に関する話もありましたが、 国内で現代サーカスのクリエーションするスタジオを運営する人たちの話ということで、 高さを必要とするサーカスをクリエーションをする場所がないことや、 エアリアルやヴァーティカルダンスが上演できる場所がないことなどの苦労話の方に、興味を引かれました。 このような状況で作品を作り公演を続けているということだけでも凄いことだ、と。 アフタートークで話に出た Mirai Circus Network で活動にも期待したいものです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

arte concert でフランス・パリの国際サーカス・フェスティバル 43e Festival mondial du cirque de demain配信中です (126分, 2025-01-26まで)。 arte concert は例年 Festival mondial du cirque de demain を配信してくれるものの、 ジオブロックがかかっていることが多いのですが、今回はかかっていません。 というわけで、今週末、さっそく観ました。 衣装も演技もジェンダーを感じさせないダイナミックな corde volante (cloud swing) を披露した Vassiliki Rossillion (フランス)、 内側にプログラマブル (もしかしたら遠隔操作) 可能なLEDライトを仕込んだ Cyr wheel の Alexandre Lane (カナダ) が、好みでしょうか。 最後のゲスト Les Expirés は、背の丈ほどの径のトラック用タイヤの上にボートを載せて、 10人余のパフォーマーがバランス取りながらアクロバットするのですが、 スタイリッシュな演出なしに、クラウン風の衣装・化粧でもなく、思い思いの普段着のような姿で、 皆がわいわいと楽しそうにやっているだけのように見せるというもの。 照明や音楽でスタイリッシュに見せる演出が続いた後だけに、それらとコントラストを成して、実に楽しそうでした。

[4162] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Feb 4 18:52:44 2024

1月最後の週末は午後遅めに銀座、そして表参道へ。この週末で終わってしまう展覧会を中心にギャラリー巡りしました。

Jaeeun Choi: La Vita Nuova
Ginza Maison Hermês Le Forum
2023/10/14-2024/01/28 (12/30-1/2休), 11:00-19:30 (1/10 11:00-15:00).

韓国出身で1976年来日し勅使河原 宏に師事し、東京とベルリンを拠点に現代アートの文脈で活動する作家の個展です。 自然や環境をテーマとした作品で、韓半島を分断する非武装地帯に残った自然をテーマにしたプロジェクト «Dreaming of Earth Project» (2015-) のようなプロジェクトのプレゼンテーション展示もありましたが、 やはり、ギャラリーをいっぱいに使うほどの規模ながら繊細さを感じるインスタレーションが印象に残りました。 «White Death» (2023) では、積み上げた白化したサンゴに割れた鏡を交えることでその壊れやすさを意識させられます。 また «A Poet's Atlier – Beacon Within» (2023) も、漉き紙が貼られたガラスブロック壁面の作る障子越しの陽のような仄暗さの中の漉き紙のランプシェードの柔らかい光、 荒く積み上げられた廃材の植野ランプシェードに漉き込まれた押し花というコントラストに、 繊細さをいっそう意識させられるインスタレーションでした。

Looking at the Deprived of Freedom - The Future of Surveillance Society
『アニッシュ・カプーア_奪われた自由への眼差し_監視社会の未来』
GYRE Gallery
2023/11/23-2024/01/28 (12/31-1/1休), 11:00-20:00 (1/2 13:00-20:00).

インド出身で1980年代以来イギリスを拠点に現代アートの文脈で活動する作家です。 ミニマリスティックな立体作品、特に、光を吸収する塗料が塗られた穴や凹面の鏡などの視覚的にトリッキーな作品で知られます [鑑賞メモ]。 しかし、今回はそのような作品とは大きく作風が異なり、 額装の絵画の展示とそんな展示に介入するオブジェの展示の組み合わせでした。 白黒混じりのどず黒い赤の油絵具まみれの大きな布が、床に積み上げられたり、壁にかけられています。 周囲に飛び散りもあり、血や死を想起させられました。 一方の絵画は抽象表現主義やアンフォルメルも思い出す粗いタッチの抽象画で、ガッシュの鮮やかなな赤に、裂け目を思わせるモチーフも感じられました。 床のオブジェとの対比もあってか、絵画からはエロチックさというか生を感じました。 展覧会のタイトルともなっているテーマとの関係はつかみかねましたが、そんな絵画とオブジェの対比に不穏さを感じる展示でした。

Fergus McCaffrey Tokyo
2023/09/30-2024/02/24 (日月祝休; 12/26-1/8休), 11:00-19:00.

1960年代から現代美術の文脈で活動するアメリカの作家の個展です。 広場を横断する巨大な鋼板のようなミニマリスティックな立体作品という作風が知られていますが、 タイトル通り円形、菱形、三角形の、漆黒に彩色された1 mm程の薄い杉板というミニマリスト的な絵画が展示されていました。 ミニマルな形状色彩の中に、木肌のテクスチャが淡く浮かび上がります。 障子越しの夕陽を思わせる間接照明もその趣を増してました。

Sterling Ruby + 竹村 京, 鬼頭 健吾
organized by anonymous art project
Omotesando Crossing Park
2024/01/08-2024/02/04 (無休), 10:00-20:00.

京都での展示が素晴らしかった Sterling Ruby [鑑賞メモ] の関係する展覧会ということでしたが、 Ruby の作品は抽象的な絵画作品1点のみ。 展示空間の雰囲気も、この日のそれまでに観た展覧会とのギャップが大き過ぎました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4161] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jan 29 22:42:22 2024

京都へ行った20日土曜は、ギャラリーで展覧会を観た後に岡崎へ移動してこの公演を観てきました。

ロームシアター京都 サウスホール
2024/01/20, 14:00-15:10.
play for two
created (concept, direction, sets, costumes, lights) by Dimitris Papaioannou
dressed man Dimitris Papaioannou; nude man Šuka Horn
music: Kornilios Selamsis; sound design: David Blouin; lighting design: Lucien Laborderie, Stephanos Droussiotis; creative - executive producer - assistant director: Tina Papanikolaou; associate director: Haris Fragoulis; performers’ physical training: Šuka Horn; photographs + cinematography: Julian Mommert; music recorded by Teodor Currentzis and musicAeterna orchestra; the name of the play was given by Aggelos Mendis; the octopuses were created by Nectarios Dionysatos; visual design associate Evangelos Xenodochidis.
executive production: 2WORKS, in collaboration with POLYPLANITY Productions.
the first version of INK was commissioned and co-produced by Torinodanza Festival / Teatro Stabile di Torino – Teatro Nazionale + Fondazione I Teatri / Festival Aperto – Reggio Emilia in 2020
the final version of the work and the international tour is co-produced by Biennale de la Danse de Lyon 2023, Sadler’s Wells London, MEGARON – THE ATHENS CONCERT HALL and supported by the Hellenic Ministry of Culture and Sports in 2023

照明や舞台装置を駆使して超現実的なイメージの連鎖を作るパフォーマンスを作風とする ギリシャの演出家 Dimitris Papaioannou の、 2022年の Transverse Orientation [鑑賞メモ] に続く3回目の来日公演です。

ティザー動画や写真で観て大量の水を使うということはわかっていたものの、 中盤くらいで水を使い出して舞台上の様相を一転させるのだろうと予想していたのですが、冒頭の場面から全開で水を使ったパフォーマンスでした。 床には数センチの深さで水が溜まった状態で、後方には高さ5〜6 mはあろう透明なビニールカーテンがかけられています。 そんな舞台で、上手にスプリンクラーを置いて、下手に向かって舞台を横切るように水を噴霧し、 時には後方へも首振りさせつつ、もしくは、ノズルを外してホースから水をだだ流ししたりしながら、パフォーマンスを繰り広げます。 また、水飛沫を白く浮かびあがらせたり、水を注ぎ入れた球状のガラス鉢を白く光らせたり、後方に張った透明なビニールシートを波打たせつつ光で波を浮き上がらせたり、と照明が効果的でした。 蛸や (動くオモチャの) 魚などの小道具も使いましたし、ガラス鉢とミラーボールの対比も良かったですが、水の存在感が圧倒的です。 Nowhere [鑑賞メモ] が劇場・舞台装置が主役でそれに振付した作品でしたが、 この INK は水が主役、水に振付した作品のようでした。

パフォーマーは、「服を着た男」 (Papaioanou 自身) と「裸の男」の2人のみ。 「服を着た男」はスプリンクラーなどを操作したりしつつ、水面下に置かれた透明で薄いパネルの下から闖入してきた「裸の男」の男を取り押さえようとドタバタを繰り広げます。 ホワイエに展示されたアートワークにイメージの元ネタはありましたが、 そういった個々のイメージよりも、全体として、理性を表わす「服を着た男」が、 本能もしくは無意識、もしくは、未成熟といったもの想起させる「裸の男」を抑えこもうとする悪あがきを観たような印象が残りました。

まるで水が主役の舞台に観ていて「コンテンポラリー水芸」という言葉がふと頭をよぎりました。 そして、後半というか終わり近く、「服を着た男」が上着を羽織り、 バルカン/ジプシー風らしき音楽を舞台上で小さな音で流し、 立てたテーブルの向こうに抱えた赤子(の人形)を投げ入れるとまるでマジックショーのように代わりに「裸の男」が登場し、 「服を着た男」が「裸の男」を猛獣使いのように扱う展開になりました。 あからさまにサーカス的という訳ではありませんでしたが、そういう展開を見ると、あながち「コンテンポラリー水芸」という思い付きも外していなかったかもしれません。

水と照明を駆使した様々なイメージも見応えありましたし、1時間余りという長さもあって冗長さも感じることもなく、 今まで観た Dimitris Papaioanou の3回の公演の中で最も楽しめました。 今回の INK は日本はロームシアター京都のみの公演だったのですが、京都まで遠征して見た甲斐がありました。

京都岡崎エリアは界隈の美術館へはたまに行くので、前を通ったことがありましたが、 ロームシアター京都 (京都会館) で公演を観たのは初めてでした。 サウスホールは中ホールに相当するものですが、 横長で舞台が遠いことは無いのですが、1階席はフラット気味で舞台奥行き方向が見づらいでしょうか。 今回の公演に限っていえば、床に張った水面の表情がもっと見やすかったら、と思ってしまいました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

公演を観た後は、バスと叡電を乗り継いで、京都精華大学へ。 ギャラリーTerra-Sでの展覧会『Gallery Hibika-S — 音響空間を展示する』関連企画のトークセッションを聴いててきました。 マルチスピーカーによる学生の課題制作の展覧会とその講評会ですが、興味深い作品とそれへのコメントに、こういう観点があったか、と。 他人の分析・感想なども聞きつついろんな観点から音を聞く面白さと、そうするために言語化することの大切さを改めて実感しました。 ちょうど京都へ行った時に開催された旧友が企画したイベントだったので覗いてみたのですが、講評会の雰囲気も含め、興味深いものがありました。

今回の京都行きは当初は INK だけを目的としていたのですが、 結局、日帰りではゆっくり食事する時間がなくなるほどの行程になってしまいました。 しかし、とても良い展覧会と公演が観られましたし、15年ぶりくらいに旧友と会うこともできましたし、大変に充実した遠征となりました。 最近かなり腰が重くなってしまっていますが、やはり、行動範囲を広げると良いこともあります。

[4160] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jan 28 18:56:53 2024

先週末土曜は昼に京都入り。まずはこの展覧会を観てきました。

Taka Ishii Gallery Kyoto
2023/11/23-2024/01/20 (日–水・祝休), 10:00-17:30.

Sterling Ruby は2000年代以降、アメリカを拠点に現代アートの文脈で活動する作家です。 作品を観るのは初めてで、作風には疎いのですが、 ギャラリーのウェブサイトに載る作品の写真を観ると、ホワイトキューブ的な空間に展示された作品など、色にむらなどがあれど彩度高めのシンプルな形状のミニマリスティックな立体作品やドローイングが多いように見えます。 その一方で、陶の作品も多く制作していて、そちらは、むしろメタリックな光沢などを使いつつ有機的な形状が印象を残します。 しかし、今回の個展は、展示会場の特異さもあってか、むしろナラティブなインスタレーションでした。

2023年にオープンしたばかりのギャラリーは、烏丸駅近く矢田町にある築約150年の町屋を リノベーションではなくほぼ築当時の状態に復元したというスペースです。 そんな空間に、小泉 八雲 (ラフカディオ・ハーン [Lafcadio Hearn]) の『怪談』などの妖怪話に着想したインスタレーションがされています。 町屋とはいえ生活感の無いきれいにされた空間ですが、そこにドローイング、写真、陶の作品に加え、 何かがいた、もしくは、あったと思わせる煤けてくたびれたオブジェが配されています。 妖怪猫の目のような分かりやすいものもありましたが、多くは間接的な痕跡のよう。 不気味な妖怪屋敷へ迷い込むというより、妖怪退治が済んでその痕跡がわずか残る屋敷の中を巡るようでした。

日本が近代化される以前の近世の雰囲気に満ちた町屋という空間が圧倒的に良かったということもありますが、 その空間の雰囲気を十分に楽しむことができた展覧会でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4159] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jan 22 22:42:06 2024

先の週末金曜晩、何か観ようかとarte concertへアクセスしたらトップで目に入ったこれを観てしまいました。

Ballet du Grand Théâtre de Genève / Sidi Larbi Cherkaoui, Damien Jalet
Grand Théâtre de Genève
2023-11-21,22, 93 min.
Ballet du Grand Théâtre de Genève; Orchestre de la Suisse Romande; Direction musicale: Yannis Pouspourikas.
Director (RTS): Romain Girard.
ARTE Concert URL: https://www.arte.tv/fr/videos/117218-000-A/elements/
Available from 2024/01/11 to 2024/07/09.
Chorégraphie: Sidi Larbi Cherkaoui
57 min.
Scénographie: Antony Gormley; Lumières: David Stokholm; Dramaturgie: Adolphe Binder; Costumes: Les Hommes; Musique: Szymon Brzóska; Percussions: Shogo Yoshii; Chant: Ana Vieira Leite; Reprise de la chorégraphie et direction des répétitions: Stephan Laks, Angela Lee Rebelo, Manuel Renard; Directeurs de répétition à la création (2014): Tilman O’Donnell, James O’Hara, Helder Seabra; Textes de Marko Rodin et Jason Silva.
Créé en 2014 à Göteborg pour GöteborgsOperans Danskompani
15 min.
Chorégraphie: Sidi Larbi Cherkaoui
Scénographie, lumières et vidéo: Adam Carrée; Costumes: Hussein Chalayan; Musique: Claude Debussy et Nitin Sawhney; Distribution originale (2009): James O’Hara, Daisy Phillips
Créé en 2009 à Sadler’s Wells, Londres
21 min.
Concept et chorégraphie: Damien Jalet et Sidi Larbi Cherkaoui; Concept et scénographie: Marina Abramović
Lumières: Urs Schönebaum; Costumes: Riccardo Tisci; Reprise de la chorégraphie et direction des répétitions: Pascal Marty, Aimilios Arapoglou; Reprise de la vidéo: Anouar Brissel; Directeurs de répétition à la création (2013): James O’Hara, Aimilios Arapoglou; Musique: Maurice Ravel
Créé en 2013 à l’Opéra national de Paris.

モロッコ系のルーツを持つベルギーのダンサー/振付家 Sidi Larbi Cherkaoui は、 2022-2023シーズンからスイス Grand Théâtre de Genève (ジュネーヴ大劇場) のバレエ部門芸術監督 (Directeur du Ballet) に就任しているのですが、 劇場付きバレエ団による彼の過去の作品による2023年11月のトリプルビル公演が arte.tv で配信されています (スイス公共放送RTSによる収録)。

前半約1時間は、2014年に GöteborgsOperans Danskompani に振付けた Noetic です。 舞台美術が Antony Gormley ですが、前半は、グレーの舞台に白くフラットな照明、 男性はワイシャツ黒スーツ (前半は上はベストだけ)、女性は膝丈ながら黒のドレスに黒のヒールという姿での抽象ダンス。 ソロやデュオではなくグループで、シンフォニック・バレエのような対称性、階層性や全体のシンクロを避けつつ、 サブグループを離散集合させたり一部をシンクロさせたり。 後半にはいると、幅約5 cm、数mm厚、5〜6 m長の黒光するフレキシブルな棒 (これが Gormley の手がけたものでしょうか) を何本も使い、 床の区画から入り、持ち上げてアーチを作ったり、丸めてサークルにしてそれを操作し組み合わせたり。 ダンサーの操作によりそれらが作り出す形と動きが美しいです。 男女の役割や衣装はコンテンポラリー・ダンス作品にしては若干保守的に感じますが、Cherkaoui らしい物を使った動きの面白さもある、ミニマリスティックな演出の舞台は、大変に好みです。

Noetic は、Cherkaoui が GöteborgsOperans Danskompani へ振付した三部作の第1作で、 その後に Icon (2016) [鑑賞メモ]、 Stoic (2018) [鑑賞メモ] と続きます。 コロナ禍下の2020年に GöteborgsOperans が配信した時に Noetic を見逃していたので、 GöteborgsOperans Danskompani による上演ではないものの、やっと観ることができました。 三部作で通底するテーマや形式が感じられたというわけではありませんでしたが。

後半は20分程度の短編2作。Faun は、 Bullets Russes の Nijinski 振付で有名な L’après midi d'un faune [鑑賞メモ] のリメイクです。 元の Debussey の音楽を異化するように Nitin Sawhney の音楽を挟みつつ、 牧神 (faun) とニンフ (nymph) が直接インタラクションするデュオとしていました。

Boléro は、Ravel の同名曲を使った作品。 照明を落とした暗く黒い舞台に、背景に大きな反射板を背景に置いて、そこに俯瞰で舞台を見た様子を映し出しています。 床も背景も暗いので境界が溶け込んで、宙に浮いて踊っているようでもあり、人の配置・動きも万華鏡を見るよう。 視覚的には面白い舞台なのですが、 舞台美術だけでなくコンセプトとしてもコンセプチャルな作品で知られる現代美術作家の Marina Abramović [鑑賞メモ] がクレジットされていますが Abramović らしいとは感じられず。 Boléro といえば有名な Maurice Béjart 振付のもの [鑑賞メモ] のリメイクかと思いつつ観ましたが、 Béjart 振付の L'Oiseau de feu、Nijinski 振付の L’après midi d'un faune、Jerome Robbins 振付の Afternoon of a Faun [鑑賞メモ] を合わせたもの、というコンセプトのよう。その点についても掴みかねました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4158] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jan 21 20:21:19 2024

先週末の土曜は昼から晩まで調布市仙川へ。 2008年に始まった JAZZ ART せんがわ ですが、 せんがわ劇場が指定管理者制度の下に移行する2018年をもって最後とという話もあったのですが [鑑賞メモ]、 なんとか実行委員会形式で開催を続けています。(実行委員会の運営も大変そうですが。) 2018年以降足を運んでいなかったので、久々に土曜一日、せんがわ劇場で過ごすことにしました。

上野 洋子 + 菊地 雅晃 + 坂本 弘道
せんがわ劇場, 仙川
2024/01/13, 13:30-14:40
上野 洋子 [Yoko Ueno] (voice, electronics, etc), 菊地 雅晃 [Masaaki Kikuchi] (double bass, KORG MS-50 Modular Synthesizer, effect); host: 坂本 弘道 [Hiromichi Sakamoto] (cello, effects, objects).

まずは、初顔合わせというこのセッション。 上野と菊地のデュオに始まり、上野、菊池のソロと続き、最後は3人で。 菊地のタブルベースにしても特殊奏法で出した音をエフェクトで弄ったりアンプスピーカー前でハウリングさせたりという演奏がメイン。 上野のソロの際にはQRコードで観客にSoundCloudの音鳴らさせたり、 菊地のソロでもダブルベースをもって客席側に行ったり、と、ハプニング的な色もあるセッションでした。

伊藤 千枝子 + 藤原 清登
せんがわ劇場, 仙川
2024/01/13, 16:00-16:50
伊藤 千枝子 [Chieko Ito] (dance), 藤原 清登 [Kiyoto Fujiwara] (double bass).

続いては、ダブルベースの伴奏でのソロダンスです。 清水のダブルベースは、ピチカートや弓弾きはもちろん手で弦を柔らかく払うような弾き方も使った繊細なものでしたが、 こちらに展開の主導があって、おの音に反応するように躍っているように見えました。 ダンサーの 伊藤 千枝子 (aka 伊藤 千枝) は、元 珍しいキノコ舞踊団 の演出/振付です。 このカンパニーの作品は祝祭的な印象を受けることが多かったのですが [2002年の鑑賞メモ]、 ミュージシャンとの共演というのもあると思いますが、小道具を少し使う程度で衣装もミニマリスティック。 手の動きや途中で客席に降りて観客に踊りを促すような動きに 珍しいキノコ舞踊団 を少し思い出したりもしましたが、 演奏に合った落ち着いた展開てラストは祈りのよう。 ダブルベースの 清水 も、踊るようなアクションはしないものの少しずつ位置を変えて演奏しており、その微妙な位置どりの変化も良かったです。

Gordon Grdina + 道場 + 巻上 公一
せんがわ劇場, 仙川
2024/01/13, 18:30-19:30
Gordon Grdina (guitar, oud); 道場 [Dōjō]: 八木 美知依 [Michiyo Yagi] (electric 21-string koto, 17-string bass koto, electronics), 本田 珠也 [Tamaya Honda] (drums); guest: 巻上 公一 (voice, theremin, pocket trumpet).

3セット目は、カナダ太平洋岸バンクーバーの guitar/oud 奏者 Gordon Grdina と道場 (八木 + 本田) ゲスト 巻上 を加えての4tet。 2018年に Gordon Grdina + 道場 を観ていますが [鑑賞メモ]、 その時と同じく重い Grdina の guitar、 その上に撒かれるような箏やテレミンなどの音が印象的なパワフルな演奏で、 ステージのある会場でトリとして登場したのを聴くと盛り上がります。 しかし、前半、箏が低音を支えつつ、Grdina が oud 弾いて、本田がリムショットで細かく刻む、軽めの疾走感のある展開が好みでした。

とっ散らかしたような遊び心のある坂本のステージ、洗練の清水のステージ、バンドで盛り上がる巻紙のステージと、 この3人の音楽監督の方向性が JAZZ ART せんがわ の幅というかバランスの良い多様性を産んでいると実感するプログラムでした。

映画上映: Mathieu Amalric: Zorn II (2016-2018)
せんがわ劇場, 仙川
2024/01/13, 20:15-21:15

ライブの後は、音楽ドキュメンタリー映画の上映。 フランスの映画俳優・監督 Matthieu Amalric が2010年から撮り続けている ニューヨーク・ダウンタウンシーンを背景とするミュージシャン John Zorn のドキュメンタリー三部作 Zorn I (2010-2016)Zorn II (2016-2018)Zorn III (2018-2022) の2作目を観ました。 インタビュー形式は取らずにリハーサルやバックステージの様子を捉えてそこでの会話を切り取るような形で編集されています。 Tzadik レーベルの音源を摘み聴きしていますが、多作で音楽性の幅も広く全容を追いきれていないので、 特に近年の現代音楽に近い作曲に基づく作品やダンスカンパニーとのコラボレーションなどが垣間見られて、興味深く観ました。 しかし、John Zorn が楽譜を読める連中とつるむようになって大変になったと Marc Ribot がぼやく場面など確かに興味深い場面もありましたが、 やはり本番ステージの様子をもっとじっくり観たいものです。

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[4157] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jan 15 23:18:35 2024

正月三連休中日の7日は昼に清澄白河というか木場公園へ。この展覧会を観てきました。

Yasuko Toyoshima: Origination Method
東京都現代美術館 企画展示室1F
2023/12/09-2024/03/10 (月休;1/8,2/12開;12/28-1/1,1/9,2/13休), 10:00-18:00.

1990年代から現代美術の文脈で活動する作家の回顧展的な個展です。 グループ展やコレクション展示で観る機会はそれなりにありましたが、個展を観るのは初めてです。 コンセプチャルな作風で、その一面の典型は、 銀行に口座を作って通帳やカードを並べたり、保険や投資に関するドキュメントなどを、 コンセプトに沿ったドキュメント類のコレクションを配置してインスタレーション化した作品など。 しかし、自分の好みは、2010年代以降の作風になるのでしょうか、 『パネル』、『交流』、『収納装置』や『地動説』のような、ルールに沿って制作された比較的すっきりミニマルな造形の作品でした。

MOT Annual 2023: Synergies, or between creation and generation
東京都現代美術館 企画展示室3F
2023/07/15-2023/11/05 (月休;7/17,9/18,10/9開;7/18,8/19,10/10), 10:00-18:00.
荒井 美波, 後藤 映則, (euglena), Unexistence Gallery (原田 郁, 平田 尚也, 藤倉 麻子, やんツー), やんツー, 花形 槙, 菅野 創+加藤 明洋+綿貫 岳海, Zombie Zoo Keeper, 石川 将也/杉原 寛/中路 景暁/Campbell Argenzio/武井 祥平, 市原 えつこ, 友沢こたお.

東京都現代美術館のアニュアルの現代アートの展覧会です。 ほぼ毎年定点観測的に観てますが [去年の鑑賞メモ]、 例年取り上げられる作家数は5人程度ですが、今回は10ユニットと数も多く、 それらの作風もあってか雑然とした印象を受ける展示空間で、企画も散漫に感じられてしまいました。

そんな中では、空間中での線画の動きを金属メッシュで連続する立体として表現した上でスリット状の光を動かしなが ら当てることで空間中のアニメーションとして見せる 後藤 映則 の作品は NTT ICC のオープンスペースでも観たことがありましたが [鑑賞メモ]、やはり良いです。 CG的な形状と動きを実体化した上で映像と並置する 石川 将也/杉原 寛/中路 景暁/Campbell Argenzio/武井 祥平 の作品も好みでした。この作風もNTT ICCに合いそうです。 他に、筆跡を針金で立体化した 荒井 美波 や、タンポポの綿毛で構成した小さく繊細な (euglena) の立体作品も、印象に残りました。

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[4156] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jan 14 20:44:31 2024

先週末土曜は午後に渋谷宮益坂へ。 シアター・イメージフォーラムで開催中の『カール・テオドア・ドライヤー セレクション vol. 2』で、 デンマークの映画監督 Carl Th. Dreyer による戦間期の映画を観てきました。

La Passion de Jeanne d'Arc [Jeanne d'Arc's Lidelse og død]
『裁かるゝジャンヌ』
1928 / Société Générale des Films (FR) / B+W, silent / 97 min.
Réalisateur: Carl Theodor Dreyer
avec: Renée Falconetti (Jeanne d'Arc), et al.
le nouvel accompagnement musical composé et interprété en 2016 par Karol Mossakowski sur l’orgue Cavaillé-Coll de l’auditorium de Lyon.

フランス Société Générale des Films の招きで制作した フランス中世、百年戦争の英雄 Jeanne d'Arc を主題に撮ったサイレント映画です。 映画を論じた本で言及される事の多い作品で、スチルは何度となく見たことはありましたが、映画を観たことが無かったので、これも良い機会かと観ました。 異端審問のやりとりが主題で、Jeanne が捕虜となりイングランドに引き渡されるまでは描かれず、そして、火刑の場面で終わり後日談もありません。 回想シーンや同時並行するフランス陣営の様子などが挟まれることもなく、処刑シーンなど屋外場面もありますが、Jeanne が囚われた教会を舞台とした異端尋問の密室会話劇を観るよう。

印象を強く残すのはカメラワーク。バストアップどころ額や顎の一部が切れるくらいの顔のクロースアップが多用されます。 また、フラットなアングルがほとんどなく、下方からあおるアングルや、真上から見下ろすアングルが多用されます。 背景がまともに写り込まないので、登場人物が置かれた状況が捨象されて、Jeanne や審問官の心情描写に集中するよう。 スクリーンで観たこともあり、その画に圧倒されました。 2015年に収録されたという教会オルガン伴奏付きでの上映でしたが、その響きが、映像の重苦しさを倍増させていました。

Vampyr
『吸血鬼』
1932 / Carl Theodor Dreyer Filmproduktion (DE/FR) / B+W / 74 min.
Regie: Carl Theodor Dreyer
mit: Julian West (Allan Gray), Rena Mandel (Giséle), Sybille Schmitz (Léone), Jan Hieronimko (Village Doctor), et al.

La Passion de Jeanne d'Arc に続いて制作された Dreyer 初のトーキー映画は、 Sheridan Le Fanu: In a Glass Darkley (1872) に基づく吸血鬼物のホラー映画です。 吸血鬼が暴れ回って人を襲うのではなく、生命力を奪う呪いのように存在する吸血鬼を村医者が悪用するというもので、 最後には村の訪問者 Allan Gray がそれを暴き、ヒロインを助けて村医者の成敗するという展開です。 ホラーが苦手ということもあるかと思いますが、吸血鬼の背景説明に字幕や遺された本に頼り過ぎという感もあり、物語には入り込めませんでした。 しかし、多重露光などの撮影トリックが多用されるのですが、さすがに1930年代に入ると表現主義的ではなく自然主義的な演技や絵作りで、それらと撮影トリックの合わせ方も興味深く観られました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4155] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Jan 9 23:21:14 2024

正月4日の晩、神保町で映画を観た後に小川町へ移動して、このライブを観てきました。 ある意味、新春演奏会。

木村 まり [Mari Kimura], 東野 珠美 [Tamami Tono], 八木 美知依 [Michiyo Yagi]
『東雲』 Shinonome
Polaris
2024/01/04, 19:00-21:00.
木村 まり [Mari Kimura] (violin, computer, MUGIC sensor), 東野 珠美 [Tamami Tono] (笙 [sho], 箜篌 [kugo], MAGIC sensor), 八木 美知依 [Michiyo Yagi] (electric 21-string koto, 17-string bass koto, electronics)

アメリカを拠点に主に現代音楽の文脈で活動するバイオリン奏者/作曲家の 木村 まり が日本滞在中に声をかけて実現したライブです。 雅楽の笙や、近世邦楽の箏との共演という、あまりない組合せという興味もあって観てみました。

前半は、東野の笙、八木の箏、木村のバイオリンのソロと、木村が自ら開発したモーションセンサをコンピュータを介して音を連動させるMUGIC sensorのデモ。 後半は、東野は笙に加えて正倉院の宝物からの復元したハープ様の楽器 箜篌 (くご) とMUSIC sensorの組み合わせも演奏する形で、3人による即興によるセッションでした。 MAGIC sensorは楽器を演奏する手に付けることで楽器音を増幅するとは違う形で演奏の身振りによって生じる音を拡張するという試みかとは思いましたが、 演奏者とスピーカーの間に座ってしまったのが悪かったか、拡張されたかのような面白さには聞こえませんでした。 説明的なトークも多く、楽器の紹介やセッションの通しての試演という雰囲気の強いライブで、 音として楽しんだという程ではありませんでしたが、楽器やモーションセンサーの組み合わせを興味深く観ました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4154] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jan 8 22:12:01 2024

正月4日は夕暮れに神保町へ。 神保町シアターの特集『フィルムでよみがえる——白と黒の小津安二郎』で、小津安二郎のサイレント映画を生伴奏で観てきました。

『東京の女』
1933 / 松竹蒲田 / 47 min. / 無声・白黒
監督: 小津 安二郎.
岡田 嘉子 (姉), 江川 宇礼雄 (弟), 田中 絹代 (娘), 奈良 眞養 (兄).
伴奏付上映, 伴奏: 竹内 理恵.

昼はオフィスのタイピストとして働き、夜は大学教授の下で働いていると偽りカフェー女給として稼ぐ姉と、 姉の稼ぎで進学する弟の、心情のすれ違いを、弟の恋人も絡めて描いた1時間弱の中編です。 2012年に観た時はピアノ伴奏もあってか弟の学費のために自己犠牲で働く女性のせつないメロドラマという印象が残ったのですが [鑑賞メモ]、 タイピストという昼の顔と警察に要注意人物としてマークされるという夜の顔という二面を持つ、 謎めいた女性をめぐるサスペンス的な緊張感ある画面作りもあったのだな、と、気付かされました。

伴奏の竹内理恵は、ソプラノサックスをルーパーでいくつか重ねつつ。断片を散りばめるような抽象寄りの演奏でした。 そんな伴奏も、この映画のサスペンス的な面を際立たせていたでしょうか。 伴奏によって映画の印象も大きく変わるものだと、実感しました。

神保町シアターで正月に特集『巨匠たちのサイレント映画』という生伴奏付きサイレント映画上映が始まったのは、2012年。 2012年は見逃したものの、2013年以降数年は正月に神保町シアターで生伴奏付きサイレント映画を観るのが恒例となっていました。 10年前2014年の正月も特集『生誕110年・没後50年 記念 映画監督 小津 安二郎』で 小津のサイレント映画を生伴奏で観たことを思い出しつつ [鑑賞メモ]、 三省堂のビルも無くなり十年前とは周囲の街もかなり変わってしまったな、などと、少々、感傷的になってしまいました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4153] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sat Jan 6 23:22:08 2024

大晦日から2日まで帰省 (といっても実家は都区内) していましたが、正月3日は美術館へ初詣。昼に恵比寿へ出て、この展覧会を観てきました。

Leap Before You Look: Contemporary Japanese Photography vol. 20
東京都写真美術館 3階展示室
2023/10/27-2024/01/21 (月休; 月祝開,翌火休; 12/29-1/1休). 10:00-18:00 (木金-20:00)
渕上 裕太 [Fuchikami Yuta], 夢無子 [mumuko], 山上 新平 [Yamagami Shimpei], 星 玄人 [Hoshi Haruto], うつゆみこ [Utsu Yumiko].

アニュアルで開催されている新進写真家展です [前回の鑑賞メモ]。 都市下層を捉えたドキュメンタリ色濃い2作家 (渕上 裕太、星 玄人)、 色を抑えて形式的な1作家 (山上 新平)、 シュールレアリズム〜サイケデリックな流れを感じるきつい色の2作家 (夢無子、うつゆみこ)、 というばらけ具合で、全体としての方向性を掴みかねました。 山上 の写真が好みと思いつつも、 樹皮などのテクスチャを取ったものから人物像まで撮る対象が様々で、 スタイリッシュではあるけれども、その毒気なさというか空虚さも感じてしまったりしました。

Revolution 9: Homma Takashi
東京都写真美術館 2階展示室
2023/10/06-2024/01/21 (月休; 月祝開,翌火休; 12/29-1/1休). 10:00-18:00 (木金-20:00)

1990年代から活動する写真家の個展です。美術館規模の個展を見るのは十余年ぶりです [前回の鑑賞メモ]。 今回も回顧展ではなく、カメラ・オブスキュラを使って撮った2010年代以後の作品をメインに構成し、インスタレーションもある展示でした。 カメラ・オブスキュラというと佐藤 時啓 [鑑賞メモ] や 宮本 隆司 [鑑賞メモ] も思い出し、 都市を撮ってきた写真家がカメラ・オブスキュラに走るのはよくあるようだとも思いつつも、 ぼんやりとした仕上がりはこの作家の作風でしょうか。 インスタレーションの一つは、カメラ・オブスキュラを暗示する暗い部屋を穴 (ピンホールほどは小さくない) から覗くというもの。 タイミングによっては作家本人が中で楽器演奏したようですが、それは観られませんでした。

Prix Pictet: Human/人間
東京都写真美術館 2階展示室
2023/10/06-2024/01/21 (月休; 月祝開,翌火休; 12/29-1/1休). 10:00-18:00 (木金-20:00)

サスティナビリティをテーマとした国際写真賞プリピクテ Prix Pictet のショートリスト写真家の展覧会です [前回の鑑賞メモ]。 今回のテーマは「Human/人間」ということもあって人を捉えた写真が多く、世界各地の人々のあり様を伝える報道写真に近い印象も受けました。 名を知った写真家はいませんでしたが、ショートリストに残る写真家だけあってか、 世界各地の環境問題、原住民/少数民族、ジェンダー/セクシャリティなどの社会的な問題をテーマにしつつも、形式的な美しさも備えていて、かなり見応えがありました。

特に印象に残ったのは、イラン南岸のホルムズ海峡に浮かぶ島々 (おそらくQeshm Islandとその周辺 の島々) で撮影された Hoda Afshar: Series: Speak the Wind (2015-20)。 Qeshm Island (Hermes,2002) というCDで音楽を通して独特の文化を持つ地域だとは知っていたけれども、その向こうにある風景を見るようでした。

他にも、トルコの少数民族とジェンダーの問題を主題に (Kardeş Türküler の活動を連想させます [鑑賞メモ])、 東アナトリアの制服姿の女学生をモノクロで静かに捉えた Vanessa Winship: Sweet Nothings: Schoolgirls from the Borderlands of Eastern Anatolia (2007)、 そうとはすぐに気づかない撮られ方であるもののロシア侵攻下のウクライナでの日々で撮られた Gera Artemova: Series: War Diary (2022)、 ポーランド・シロンスク地方を炭鉱とその閉山の影響を主題にその風景を静謐に捉えた Michał Łuczak: Series: Extraction (2016-23) などが印象に残りました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

美術館初詣の後は、渋谷に足を伸ばして、ハチ公前で献血。 特に積極的という程ではないのですが、激甚災害などのきっかけがあったり、職場に献血者が来たりすれば、献血するようにしています。 といっても、2011年以降、年1回強くらいのペースになってしまっていて、激甚災害が増えているよなあ、と。

[4152] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Fri Jan 5 23:54:53 2024

まだ去年末の話ですが、29日晩にこのアイスショーをarte.tvの配信で観ました。

The Snow Queen
Nokia Arena (aka Tampere Deck Arena [Tampereen Kannen areena])
2022-12-31, 93 min.
After Hans Christian Andersen.
Music: Tuomas Kantelinen; Director & Choreographer: Reija Wäre; Lighting, Set and Video Design: Mikki Kunttu; Scriptwrighter: Melissa A. Thompson; Costume Designer: Erika Turunen; Synchronised Skating Choreography: Anu Oksanen; Make-up Designer: Minna Pilvinen
Performers: Laura Lepistö (Snow Queen), Silja Dos Reis (Gerda), Felipe Montana (Kai), Ilja Glebov (Raven / Hobgoblin), Julien Dulière (Lemmy the Ermine), Mia-Mari Sinkkonen (Robber Girl), Zabato Bebe (Pond Hockey MC), Daria Perminova, Evgenii Belianin (Reindeer), Susanna Rahkamo, Petri Kokko (Twin Wizards), Lisa Mochizuki (Spring), Marigold IceUnity (Snowflake Soldiers), et al.
Budapest Art Orchestra, Peter Pejtsik (conductor),
Production: Tampere Hall Ltd., Kantelinen Company Ltd., 2022.
Director (Yle): Ilmari Aho.
ARTE Concert URL: https://www.arte.tv/en/videos/112555-000-A/the-snow-queen/
Available from 2023/11/15 to 2024/03/29.

フィンランドのタンペレで2022年12月30日から2023年1月1日にかけて5公演が行われたアンデルセン童話『雪の女王』に基づくアイスショーの フィンランド公共放送 Yle によってTV収録された12月31日の公演が arte.tv で配信されています。 フィギュアスケーターだけでなく、シンクロナイズドスケーター、ダンサー、アイスホッケー選手も出演しています。 フィンランド語のナレーションも少し用いますが (arte.tv では英語等の字幕が付く)、身体表現によるストーリーテリングがメインです。 “ice ballet” と謳っていて、確かに物語バレエ (narrative ballet) 的な構成演出ですが、身体語彙的には特にバレエ色は濃くありません。 アイス・アリーナとそれを縁取る氷塊の連なりのようなフロア・ステージで上演されるのですが、 舞台美術や背景へのビデオ投影が使えないものの、氷面へのプロジェクションマッピングというか映像投影による演出を駆使していました。 演技やビデオによるストーリーテリングは丁寧でわかりやすく、元の話を知っていればナレーション無しでも物語は十分に追える、良い意味でエンタテインメント的なショーです。

タイトル役 (Snow Queen) は Euro 2009 女子フィギュアスケート金メダリストの Laura Lepistö (フィンランド) ですが、 実質ヒロイン Gerda 役には Silja Dos Reis、 Cirque de Soleil のアイスショー Crystal にも出演していたという元ペア選手 (フランス) を使っていました。 やはり、男性とペアとなってのスケーティング、リフトやスローのようなペアのスキルがあった方が表現の幅が広がります。 最後の場面で Snow Queen は Spring (春の精) へ変わるのですが、Spring 役は Lisa Mochizuki [望月 梨早]、Cirque de Soleilにも出ていたという日本のスケーターでした。 また、バレエでいう所のコール・ド・バレエ (corps de ballet) 的な使い方で、シンクロナイズドスケーティング・チーム Marigold IceUnity (フィンランド) も活躍します。 Gerda を Snow Queen に導くトナカイが2人組着ぐるみで演じられていましたが、スケートを履いてのこの演技は大変そうです。 Gerda の味方となる山賊 (Robbers) はスケーターではなくダンサー (ショーダンスの文脈で活動する) が演じていました。 スケーターとは違う動きを加えるという演出的な意図もあったかと思うくらいの必然は感じましたが、彼らもスケーターに演じさせたらとも思いました。 アイスホッケー選手の出演は、KaiがThe Snow Queenの虜になる池でのアイスホッケー (原作は橇ですが) の場面だけでした。

クリエイティヴのうち演出の Reija Wäre、作曲の Tuomas Kantekinen はフィンランドで活動する人ですが、 脚本の Melissa A. Thompson と照明/セット/ビデオ・デザインの Mikki Kunttu は、 Cirque du Soleil のクリエイティヴ・チームで働いてきたとのこと。 主要な役にも Cirque de Soleil 経験者が配されていて、そこでのノウハウや経験も活かされているのだろうと想像されます。 フィギュアスケーターの選手としての知名度頼りではなく、この The Snow Queen のように物語バレエ的にしっかり演出・振付されたアイスショーを観てみたいものです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4151] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Thu Jan 4 23:33:43 2024

去年末の話になってしまいましたが、28日晩は渋谷円山町へ。渋谷ユーロスペースでこの映画を観てきました。

Kuolleet lehdet [Fallen Leaves]
2023 / Sputnik Oy (FI), Bufo (FI) / 81 min. / 35 mm.
ohjaus Aki Kaurismäki.
Alma Pöysti (Ansa), Jussi Vatanen (Holappa), Janne Hyytiäinen (Huotari), Nuppu Koinu (Liisa), et al.

フィンランドの映画監督Aki Kaurismäkiの6年ぶりの新作は、都市下層低賃金労働者の中年男女のメロドラマ。 女性の主人公Ansaはスーパーマーケットの品出しをしていますが、廃棄食品を持ち帰ったり浮浪者へ与えたりしたことを見咎められ解雇。 続けて見つけたバーの洗い場の仕事は、給料日前日に店長が麻薬取引で逮捕され、タダ働きの憂き目に。 男性の主人公Holappaは酒依存気味で、機械修理工場で働いていますが、仕事中の飲酒が発覚し解雇。 そんな2人がカラオケでお互いを見初め、Ansaが働いていたバーの店主逮捕騒ぎで再会し、 電話番号の紛失、飲酒に関わる諍い、路面電車に轢かれる事故などでのすれ違いを重ねつつも、関係を深めていく様を描いています。 展開は古典的とも言えるすれ違いメロドラマで、セリフ少なく登場人物が歌い出すだけではないものの挿入歌に心情や状況を語らせるという形式も実にメロドラマでした。

その一方、メロドラマの主人公といえば上流階級や中間層で、美男美女がそれなりにオシャレに演じるのが普通ですが、 この映画では失業ギリギリの労働者が主人公で生活も慎ましやか。 演技も感情を煽り立てるようなものとは対極の無表情に近い演技で、セリフも短くぶっきらぼう気味。 そして、そんな中から激しい恋愛感情というより人情に近い、淡々とした愛情が控えめでさりげないユーモアと共に滲み出るかのよう。 廃棄食品の持ち帰りを見咎められる場面でAnsaの側に立つ同僚の女性たち、 工場を解雇された後もHolappaと付き合う友人Huotariもいい人で、 メロドラマというより都市下層を舞台とした人情物に近い味わいでした。

Ansaはネットカフェで求人を探し、ロシアのウクライナ侵攻のニュースがAnsaのラジオが流れるなど、現代を舞台とはしていましたが、 特にAnsaの部屋の雰囲気などミッドセンチュリー・モダンな雰囲気。 デートに行く映画館もJim Jarmusch: The Dead Don't Die がかかり、GoddardやBressonを口にする客が集う名画座。 カラオケなど俗な雰囲気も交えつつつも、俗悪にならないセンス良い扱い。 Holappaには酒依存の問題はあれどそれ以外の問題を抱えているようでもありません。 AnsaもHolappaもKaurismäkiの映画にしては美男美女。 そんな所は都市下層を美化しているところもあるかと思いますが、それも良い意味でメロドラマのお約束でしょう。 そんな寡黙で慎ましやかな生活の中にある静かな情の美しさを感じさせた —Jim Jarmusch: Paterson [鑑賞メモ] にも近い余韻が残った— 映画でした。

『落ち葉』公開に合わせて特集上映『愛すべきアキ・カリウスマキ』が組まれたので、 併せてこの映画を観ました。

Pidä huivista kiinni, Tatjana [Take Care of Your Scarf, Tatiana]
『愛しのタチアナ』
1994 / Sputnik Oy (FI) / 62 min. / 35 mm.
ohjaus Aki Kaurismäki.
Kati Outinen (Tatjana), Matti Pellonpää (Reino), Kirsi Tykkyläinen (Klavdia), Mato Valtonen (Valto), et al.

舞台は1960年代のフィンランド、 仕立て屋の母の下で働いているロッカーズ (労働者階級のサブカルチャー) のValtoは、 コーヒーを切らしていることに腹を立てて、母を部屋に閉じ込めて、家を出奔。同じくロッカーズの自動車整備工のReinoとドライブに出、 途中で出会ったソ連からの観光客の女性2人を同乗させることになります。 そんな4人のドライブの様子、特に大きな事件は起きませんが、特に女性に奥手な男性2人が女性2人を持て余すギクシャクした展開を、オフビートなユーモアと共に描いた映画です。 モノクロで撮られていることもあり、少々ノスタルジックな雰囲気も良い感じです。 いつの間にかTatjanaと懇ろになったReinoはエストニア・タリンに残り、 Valtoは独り家に戻るのですが、部屋から出された母も、ミシンに向かうValtoもまるで時間が経ってないかのよう。 4人のドライブもValtoの頭の中でのわずかの間の時間の想像であったかのような終わり方でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4150] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Jan 2 23:59:38 2024

2023年に入手した最近数年の新録リリースの中から選んだ10枚+α。 展覧会・ダンス演劇等の公演の10選もあります: 2023年公演・展覧会等 Top 10

#1
Sanne Rambags, Vincent Courtois, Julian Sartorius
Twigs
(Budapest Music Center, BMC CD 317, 2023, CD)
[Budapest Music Center]
#2
Sergio Armaroli
Vibraphone solo in four part(s)
(Dodicilune Dischi, Ed536, 2023, CD)
[Dodicilune]
#3
PJEV, Kit Downes, Hayden Chisholm
Medna Roso
(Red Hook, RH1003, 2023, CD)
[Bandcamp]
#4
Ensemble 0
Jojoni [徐々に]
(Crammed Discs / Made To Measure, MTM49, 2023, CD)
[Bandcamp]
#5
Steve Lehman & Orchestre National de Jazz, conducted by Frédéric Maurin
Ex Machina
(Pi Recordings, PI99, 2023, CD)
[Bandcamp]
#6
Svitlana Nianio & Tom James Scott
Eye of the Sea
(Skire, SKR11, 2023, CD)
[Bandcamp]
#7
Msaki × Tubatsi
Synthetic Hearts
(No Format!, NOF.57, 2023, CD)
[Bandcamp]
#8
Tomas Fujiwara
Pith
(Out Of Your Head, OOYH022, 2023, CD)
[Bandcamp]
#9
Myra Melford’s Fire And Water Quintet
Hear The Light Singing
(RogueArt, ROG-0130, 2023, CD)
[Bandcamp]
#10
Ballaké Sissoko, Vincent Segal, Emile Parisien, Vincent Peirani
Les Égarés
(No Format!, NOF.58, 2023, CD)
[Bandcamp]
次点
JFDR
Museum
(Houndstooth, HDH161CD, 2023, CD)
[Bandcamp]
番外特選
Jan Bang: Reading the Air + Eivind Aarset / Jan Bang: Last Two Inches of Sky
『ボンクリ・フェス 2023』, 東京芸術劇場 ギャラリー1
2023/07/07-08
[鑑賞メモ]

[このTop Tenのパーマリンク]

[4149] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Jan 2 23:58:13 2024

2023年に歴史の塵捨場 (Dustbin of History)に 鑑賞メモを残した展覧会やダンス演劇等の公演の中から選んだ10選+α。 おおよそ印象に残った順ですが、順位には深い意味はありません。 旧作映画特集上映や劇場での上演を収録しての上映などは番外特選として選んでいます。 音楽関連は別に選んでいます: Records Top Ten 2023

第一位
Pansori Azit 놀애박스 [NohlAe Box] / 박인혜 [Park In-hye] <오버더떼창: 문전본풀이> [Over the Crowd-singing of Pansori: Munjeon Bonpuri |『パンソリ群唱 〜済州島 神の歌〜』] (音楽劇)
静岡県舞台芸術公演 屋内ホール「楕円堂」, 2023/05/06
[鑑賞メモ]
第二位
『さいたま国際芸術祭2023』メイン会場 (美術展)
旧市民会館おおみや, 2023/10/07-2023/12/10
[鑑賞メモ]
第三位
Compagnie H.M.G.: 3D (サーカス)
座・高円寺 1, 2023/03/25
[鑑賞メモ]
第四位
Inbal Pinto: Living Room (ダンス)
世田谷パブリックシアター, 2023/05/20
[鑑賞メモ]
第五位
『デイヴィッド・ホックニー展』 David Hockney (美術展)
東京都現代美術館 企画展示室3F/1F, 2023/07/15-2023/11/05
[鑑賞メモ]
第六位
Kidd Pivot: Revisor (ダンス)
神奈川県民ホール 大ホール, 2023/05/27
[鑑賞メモ]
第七位
『東京ビエンナーレ2023 — リンケージ つながりをつくる』成果展示 (美術展)
東京都心北東エリア, 2023/09/23-2023/11/05
[鑑賞メモ]
第八位
Aki Kaurismäki (ohjaaja): Kuolleet lehdet [Fallen Leaves] 『枯れ葉』 (映画)
Sputnik Oy (FI), Bufo (FI), 2023; ユーロスペース, 2023.
[鑑賞メモ]
第九位
『交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー』 (展覧会)
東京都庭園美術館, 2022/12/17-2023/03/05
[鑑賞メモ]
第十位
大巻 伸嗣 『Interface of Being 真空のゆらぎ』 (美術展) 及び 展示空間でのパフォーマンス (ダンス)
国立新美術館 展示室2E, 2023/11/01-2023/12/25
[鑑賞メモ]
次点
Cristóbal León & Joaquín Cociña: La casa lobo 『オオカミの家』 (映画)
Diluvio (CL), Globo Rojo Films (CL), 2018; イメージフォーラム, 2023.
[鑑賞メモ]
番外特選1
『再発見!フドイナザーロフ ゆかいで切ない夢の旅』 (映画特集上映)
ユーロスペース, 2023/06
[観賞メモ]
番外特選2
『宿命の女 ルイズ・ブルックス』 (映画特集上映)
シネマヴェーラ渋谷, 2023/04
[観賞メモ]
番外特選3
Metropolitan Opera, Ivo van Hove (prod.), Wolfgang Amadeus Mozart (comp.): Don Giovanni @ Metropolitan Opera House (オペラ / event cinema)
Metropolitan Opera live in HD, 2023
[観賞メモ]

[このTop Tenのパーマリンク]

[4148] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Jan 2 23:56:43 2024

あけましておめでとうございます。

2023年の展覧会・公演等Top TenレコードTop Tenを選びました。 趣味生活と言えるほどのことは出来ていないのですが、他の方への参考にというより、自分の振り返りのために選んでいます。

こうして振り返ると、2023年は映画へのウェイトが上がりました。 当たり年だったのか自分の興味関心が向いたのか判断しかねますが、 きっかけは2022年末の『ピエール・エテックス レトロスペクティヴ』でしょうか。 2023年に入り『没後60年 ジャン・コクトー映画祭』、『オタール・イオセリアーニ映画祭』、『宿命の女 ルイズ・ブルックス』、『再発見!フドイナザーロフ ゆかいで切ない夢の旅』など 好企画の特集上映が続いたというのが、大きかったように思います。 特集上映については、展覧会・公演Top Tenの番外特選へは特に良かった2つしか入れませんでしたが。

Top Tenの選択には世相はほとんど反映されていませんが、 2023年もロシアによるウクライナ侵攻も終結の見通し無く、10月にはイスラエル・ハマス戦争も始まり、国際情勢は悪化の一途。 COVID-19も5類感染症へ移行するものの第9波。気象も日本だけでなく世界的な異常高温。 2024年も元旦から能登半島地震、翌2日は羽田空港で航空機事故、と、幸先悪い年明けになってしまいました。 ささやかな趣味生活でも楽しめる世が続いて欲しいと願います。

twitter の運営もおかしくなってしまいいつまで続くのかという状況でツイートのモチベーションもだいぶ落ちてしまっています。 このサイトへの鑑賞メモも遅れがちになってしまっていますが、マイペースに今年も続けたいと思っています。 今年もよろしくお願いします。

[4147] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Thu Dec 28 0:11:19 2023

16日土曜は晩に横浜山下町へ。 YPAM – 横浜国際舞台芸術ミーティングイタリア文化会館の共催のよる Italian Contemporary Dance Showcase のBプログラム2作品を観てきました。 どちらも初めて観るカンパニー/コレオグラファーでそのバックグラウンドにも疎いのですが、 どちらの作品もナラティヴともアブストラクトとも言い難いリチュアルな (儀式の様な) 作品でした。

I'll do, I'll do, I'll do
KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
2023/12/16, 19:00-19:25.
coreografia, con: Teodora Castellucci
assistente alla coreografia, produzione: Agata Castellucci; musica originale: Demetrio Castellucci; drammaturgia, disegno delle luci, direzione tecnica: Vito Matera;
produzione: Dewey Dell, 2022

暗い照明の下、黒いフロアに黒布で模った円形の中に黒い衣装の女性一人が、 不規則な電磁的なパルス音に合わせ、 座ったもしくは膝立ちの状態で首を振り身体を震わせトランスするシャーマンを思わせるパフォーマンスをしました。 最後は、黒布の下に身を隠して人が姿を見せないまま起き上がり、 シャーマンの様な動きをしていた女性を黒布で飲み込み、 最後には布が円錐形に吊り上げられていき、まるで昇天したかの様でした。

KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
2023/12/16, 19:10-20:40.
concept e coreografia: Nicola Galli
musica: Giacinto Scelsi, 3/4 had been eliminated; oggetti scenici: Giulio Mazzacurati; maschere e costumi: Nicola Galli; luci e audio: Giovanni Garbo
danza: Margherita Dotta, Nicola Galli, Leonardo Maietto, Silvia Remigio
anno: 2021; produzione: TIR Danza, stereopsis; co-produzione: MARCHE TEATRO / Inteatro Festival, Oriente Occidente

舞台後方に明るく開口した半円アーチの出入り口があるだけのミニマリスティックな舞台ですが、 装飾的なお面とその手捌き足捌きからして、東南アジア〜東アジア南部あたりの架空の民族の、 動植物を神格化した神々をそのキャラクターを描くかのようなダンスでした。 それなりに展開はありましたが、神話的というほどはストーリーは感じさせませんでした。 前衛的な作風で知られる20世紀の作曲家 Giacinto Scelsi の音楽が使われていましたが、 そのダンスの印象のせいか、エキゾチックな響きに聞こえたのが新鮮でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

12月は仕事が過負荷。その前の週から疲労困憊気味では合ったのですが、18日月曜の午後についに38℃超、発熱してしまいました。 新型コロナかインフルエンザだったら抱えていた仕事が色々破綻しかけない状況だったのでどうなることかと思いましたが、 倦怠感ばかりで喉痛、咳、鼻水のような風邪様の症状も無く、半日程度で寝込んだ程度で解熱しました。 すぐ復調して全力というわけにいきませんでしたが、仕事上の今年最大の山場をなんとか乗り切ることができました。

[4146] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Wed Dec 27 23:35:40 2023

9日土曜は昼前に川崎へ。この上映を観てきました。

from Metropolitan Opera House, 2023-10-21.
Composer: Jake Heggie; Librettist: Terrence McNally; based on Sister Helen Prejean's memoir Dead Man Walking, 1993.
Production and Choreography: Ivo van Hove
Set and Lighting Designer: Jan Versweyveld. Costume Designer: An D'Huys. Projection Designer: Christopher Ash. Sound Designer: Tom Gibbons.
Cast: Joyce DiDonato (Sister Helen Prejean), Ryan McKinny (Joseph de Rocher), Suan Graham (Mrs. Patrick de Rocher), Latonia Moore (Sister Rose), et al.
Conductor: Yannick Néset-Séguin.
World Premiere: San Francisco Opera, 2000.
Premiere of this production: The Metropolitan Opera, 2023-09-26.
上映: 109シネマズ川崎, 2023-12-09 10:50-15:25 JST.

The Metropolitan Opera live in HD 2023-24 Seasonの第一弾は、2000年初演の原題を舞台としたオペラ作品です。 オランダの Ivo van Hove の演出は、昨シーズンの Don Giovanni がとても良かったので [鑑賞メモ]、期待の上映でした。

原作は、アメリカ・ルイジアナ州で死刑囚 (Joseph de Rocher) のカウセラーとなった尼僧 (Sister Helen Prejean) の回想録で、 1995年には映画化もされています (といっても、原作は読んでおらず、映画は観ていません。) 主人公はルイジアナ州の貧困地区で慈善活動をする尼僧で、 若いカップルに対するレイプ及び殺人の罪で死刑囚となった男のカウンセラーとして、 最初は手紙のやり取りに始まり、やがて直接面会する様になり、その死刑執行を見届けるという話です。 原作者/主人公は死刑廃止論の立場ですが、オペラにおいても主人公の視点だけでなく、 映像で犯行の様子をはっきりと描き、死刑囚本人だけでなく、死刑囚の家族や被害者の家族とやり取りを通して、 死刑制度の是非を多声的に描いていました。

2000年初演の作品ですが、原作者の指定もあって音楽は調性的で、現代オペラというより映画音楽のよう。 おかげでとっつきやさはあった思いますが、もっとアブストラクトな音の方が好みでしょうか。 Ivo van Hove の演出に期待していたのですが、元々が現代を舞台とした新作オペラなので、現代への翻案の妙のようなものはありません。 そもそも刑務所という殺風景な場所が主な舞台ですが装飾的なものが抑えられたミニマリスティックな演出で、 ドアから入る光の使いなどに Hedda Gabler [鑑賞メモ] を思い出したりもしましたが、 個々の演技はナチュラルなもの。 特に、ラストの死刑執行の場面は象徴的に処理することなく、ここぞというばかりにその手順も含めてリアルに描いていました。 尼僧が死刑囚に初めて面会にドライブする場面での歌・演技と映像の組み合わせなど流石と思いつつも、 映像使いも異化を狙うというよりも説明的に感じられました。 期待し過ぎたのかもしれませんが、Ivo van Hove にしてはベタな演出に感じてしまいました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4145] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Wed Dec 27 23:33:58 2023

12月2日土曜は、京橋で戦前日本映画を観た後に、不忍池界隈を散歩しつつ、この展覧会を観てきました。

『大正の夢 秘密の銘仙ものがたり』
弥生美術館
2023/09/30-2023/12/24 (月休;10/9開;10/10,11/14休), 10:00-17:00.

大正から戦前昭和にかけて流行した銘仙の着物のうち、特にモダンなデザインなものに焦点を当てた展覧会です。 モダンな銘仙の展覧会を観るのは、『きものモダニズム』 (泉屋博古館 分館, 2015) ぶりです [鑑賞メモ]。 タイトルに「大正の夢」とありますが、展示されていた着物のほとんどは1930年代に入ってから、そして、戦後のものも少なからずありました。 といっても、やはり展示の中では、その1930年代の銘仙の着物が、アール・デコだけでなく、ロシア・アヴァンギャルドなど、当時のモダンというかモダニズムな芸術文化運動の影響を強く感じられて、良かったです。

『明治・大正・昭和 レコードの時代と夢二の時代展』
竹久夢二美術館
2023/09/30-2023/12/24 (月休;10/9開;10/10,11/14休), 10:00-17:00.

20世紀前半、明治末から戦中昭和にかけてのSP盤レコードとそれに関連する資料の展覧会です。 レコードのジャケットやレーベルのデザインだけでなく、当時まだ音楽の流通に大きな役割を担っていた楽譜の表紙、 そして、レコードのカタログや広告ポスターなどが展示されていました。 会場からして 竹久 夢二 の手がけたイラストが使われたものがメインだったせいか、 銘仙の展示ほどはモダニズム的なシャープさは感じられませんでしたが、 戦前のSP盤をジャケットデザインの観点から観る機会がほとんど無かったので、その点は新鮮でした。

少々趣味性を感じる展覧会でしたが、それも弥生美術館・竹久夢二美術館という私邸を改造した小規模な私立美術館の雰囲気に合っていたでしょうか。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

ついでに古書ほうろうに立ち寄って、古本や中古CDを漁ったり、コーヒーを一杯いただいたり。 最近、古書店やレコード店を覗くことも減っていましたが、映画や美術展に行ったついでにこういう所にも立ち寄るのは、やはり楽しいものです。

[4144] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Dec 24 21:46:00 2023

12月2, 3日の週末は2日とも午後に京橋へ。 1967年に日本へ返還されたアメリカ議会図書館に残存していた戦前戦中の日本映画を特集した 国立映画アーカイブの特集上映『返還映画コレクション(1)――第一次・劇映画篇』で、 これらの映画を観てきました。

『花形選手』
1937 / 松竹大船 / 64 min. / 35 mm / 白黒
監督: 清水 宏.
佐野 周二 (関), 日守 新一 (森), 近衞 敏明 (木村), 笠 智衆 (谷), 大山 健二 (隊長), 坪内 美子 (門附の女), etc

大学の陸上部の行軍演習の様子を描いたある意味で戦時色濃い映画です。 主人公の陸上部の花形選手 関 (佐野)、ライバルの 谷 (笠)、 落伍したりとコメディリリーフ的な役割の 森 (日守) と木村 (近衞) などのやり取りをつつ、 突撃のような勇ましい雰囲気の場面も無いわけではないですが、 通過する道を行く人々、村々の人々とのさりげないやり取りなどを中心に描いた、 清水 宏 らしいオフビートなユーモアを交えロードムービー的な展開です。

ハイキング中の女学生グループや周囲の村々の子供が隊列を追いかける様子や、 落伍した2人を救援する途中に出会った子連れの門附の女 (流しの芸者) と花形選手の淡い交流、 宿泊した宿場の村での村民たちや木賃宿に泊まっている人々とのやり取り、など。 特に、子供が病気になった門附の女が金策に売春しようとし、それを森が止めようとする場面の一連の展開が、 そこにつけ入ろうとする旅の行者や、売春を斡旋する木賃宿の婆さんの描写、 門附の女と戻った所を女遊びしていると間違われて懲罰されることになる展開も含めて、 単にユーモラスなエピソードの羅列だけではない、細民に向けられたヒューマニスティックな視線と、抒情的て繊細な描写を感じました。

『兄とその妹』
1939 / 松竹大船 / 101 min. / 35 mm / 白黒
監督: 島津 保次郎.
佐分利 信 (間宮 敬介), 三宅 邦子 (敬介の妻 あき子), 桑野 通子 (敬介の妹 文子), 上原 謙 (有田 道夫), 河村 黎吉 (行田 富士夫), 水島 亮太郎 (志村 荘六), 坂本 武 (有田 新造), etc

2014年に観た時の印象 [鑑賞メモ] と変わらず、 職場で同僚に嫉妬される状況の描写こそ少々類型的で風刺的かとは思いましたが、 家での 兄、兄嫁、妹の3人家族の日常のやりとりの細かく自然な仕草の演技も含めた丁寧な描写は、さすがです。 ここ映画での男勝りなキャリアウーマンな妹 文子の役は、やはり 桑野 通子 のはまり役、 彼女が出演した映画の役の中でも最高です [関連する鑑賞メモ]。

2本ともDVD/ネットで観たことはあれど、スクリーンで観たのは初めて。 大画面で観て、野外ロケの風景や、家での細かい演技など、情報量の多さに改めて気付かされました。 やはり、コンデションの良い状況で、映画館で観るのは良いものです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4143] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sat Dec 23 11:08:06 2023

20日余り前の話になりますが、11月30日、12月1日の木金は一泊で高知。帰りの便までの空き時間を使って、この美術館を訪れて観ました。

30th Anniversary Exhibition : And the Ship Sails On
高知県立美術館
2023/11/03-2023/12/03 (会期中無休), 9:00-17:00

開館30周年のコレクションを核に構成した展覧会です。 現代物に比較的強いというくらいの予備知識しかない状態で臨んだのですが、 岡上 淑子 [鑑賞メモ] や 合田 佐和子 って高知出身だったのか、とか、 具体 [鑑賞メモ] のコレクションが多いと思ったら 高知出身の関係者が2名 (正延 正俊、高﨑 元尚) いたのか、とか、 出身の県まで意識して観たことがほとんど無かったので、地元に縁のある作家のコレクションが新鮮でした。 海外の作家の展示では、1980年代のニュー・ペインティングで一部屋あったのが圧巻でした。

もちろん、石元泰博フォトセンターというか石元康博コレクション展示室を訪れる、というのも、今回の訪問の目的の一つ。 2020年に包括的な回顧展を見ているので [鑑賞メモ]、 写真展示よりもむしろ、リビング再現展示などを見つつ、このように地元で顕彰されているのかと感慨がありました。

コンテンポラリーダンス追ってると、この美術館ホールの単独招聘による海外カンパニー (例えば Michael Clark Company とか) の公演がたびたびあって気になっていました。 ホールでは貸切イベントをやっていて中には入れませんでしたが、美術館と併設された雰囲気良さげなホールでした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

高知県立美術館のアクセスや会場の雰囲気も掴めましたし、 海外招聘公演などの機会を使って、もっとフットワークよく再訪したいものです。

[4142] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Dec 17 20:27:14 2023

半月以上前の話になってしまいましたが、11月26日は昼まで国立新美術館でパフォーマンスを観た後、六本木を抜けて飯倉というか麻布台へ徒歩で移動。 麻布台ヒルズでは、開業した11日24日から3日間、 『AZABUDAI HILLS Opening Performance Events』と題して、 中央広場やアリーナを使い、街中・野外で上演される演劇、ダンス、サーカスなどのパフォーマンス (フランス語で “Arts de la rue” と呼ばれる) のイベントを繰り広げていました。 商業施設での大道芸イベントはかなり定着ましたが、 欧米のパフォーマーを中心としたこのレベルと規模のイベントはさすがに稀です。 2000年代の六本木ヒルズで開催していた World Street Performance [写真集 2004年, 2005年, 2006年] の豪華版のようです。 コロナ禍前であれば『大道芸ワールドカップin静岡』のワールドカップ部門もそうでしたが [2019年の写真集]、現在はディレクションが変わってしまいました。 このタイプのパフォーマンスを最後に観たのは2019年です。 久しぶりに観られるということで、26日の午後、13時半から15時にかけて観てきました。

Celestroï
麻布台ヒルズ 中央広場・アリーナ
2023/11/26, 13:30頃
Sophie Guillier, Jacques Tribuiani, Vincent Schello.

2009年にも三茶de大道芸/ヘブンアーティストTOKYOで来日したことのあるフランスのカンパニーです [写真集]。 バンド・デシネのスチームパンクなファンタジー作品に出てきそうな衣装に高足 (stilt) 履いて、音楽を演奏しながら練り歩きます。 楽器編成は2009年から少々変わって、アコーディオン (accordéon)、タラゴット (taragot/tárogató) (シングルリード木管)、ダヴル (davul) (太鼓) とバルカン風の楽器で、 Klezmer 風の節回しの音楽を演奏します。 聞き取れないセリフの言葉の響きもスラブ語風ということで、その世界観は東ヨーロッパでしょうか。 今回は、単に演奏して練り歩くだけでなく、観客のおでこなどに印をスタンプしたりと客弄りもしました。

麻布台ヒルズ 森JPタワー中央広場側エントランス壁面
2023/11/26, 13:45頃
dattamento da “La Bottega del Caffè” di Carlo Goldoni; ideazione, coreografia e video Wanda Moretti; dramaturg Marco Gnaccolini; musiche per sax e live electronics Marco Castelli; danzatori Gian Mattia Baldan, Simona Forlani, Isabel Rossi; voce Michele Guidi.
Produzione Il Posto 2023; Progetto vincitore del Bando Goldoni 400 del Teatro Stabile del Veneto.

イタリア・ヴェネチアのヴァーティカル・ダンス (壁面をフロアに見立ててのエアリアル・ダンス) のカンパニーです。 ヴェネチア・リアルト橋近くの Teatro Goldoni (1622年オープン時はTeatro San Luca) の400周年記念のプロジェクトで、 劇場名となった18世紀ヴェネチアの劇作家 Carlo Goldoni の作品 “La Bottega del Caffè” (コーヒーショップ) に基づく作品です。 といっても、原作を知らずに観たので、女性2人男性1人の少々三角関係的なドラマのような印象を受けました。 劇伴の音楽に、エレクトロニカ的な音処理も使ったソプラノサックスの生演奏を使っていました。

ヴァーティカル・ダンスは好きで、イベントに出演している時は優先的に観るようにしています。 今回のカンパニーも生演奏を使うなど見どころはあったのですが、 ワイヤーで吊られている範囲でしか動けないという動きの制約が大きく、 衣装と音楽以外でカンパニーや演目の個性を見出すのが難しいです。 2006年に六本木で観た Compagnie Les Passagers のダイナミックな動きは [写真集]、 かなり独創的だったのだなと改めて思います。

麻布台ヒルズ アリーナ
2023/11/26, 14:00頃
Jean-Louis Cortès

ブラックタイ、燕尾服、ボーラーハットという Erik Satie か上品な Chaplin かという出たちで、自走ピアノで動き回りながらソロピアノ演奏します。 (演目によっては女性ヴァイオリニストが付くこともあるようです。) ジブリ映画音楽弾いたりと、親しみやすい選曲でした。

麻布台ヒルズ 中央広場・アリーナ
2023/11/26, 14:15頃
Auteurs: Jean-Baptiste Duperray, Géraldine Clément & Vincent Borel; Metteur en scène: Jean-Baptiste Duperray & Vincent Borel; Dessins & création des costumes: Géraldine Clément; Artiste bricoleur: Frédéric Grand; Création musicale: Didier Boyat & Alexandra Santander - Sueño en la Fábrica
Production: Compagnie des Quidams, 2016-2017.

送風機で膨らませた高さ3〜4 mにはなる白いバルーンのパペットを使ったパフォーマンスで知られるフランスのカンパニー Cie des Quidams。 六本木ヒルズ関連のイベントでも度々登場していましたが [写真集]、麻布台ヒルズにも登場。 「トーテム」の頭部は、Rêve d’Herbert にも似た球状ですが、 ボディは少々スリムで、長いストールのようなものを羽織っています。 2体の「トーテム」とそれを操る人1名というミニマムな編成でした。 2体が格闘するような動きをしたり、踊ったり、池の辺りで佇んんだり。 日没後であれば頭部とボディが光ってもっと幻想的に見えたかもしれません。

Bloom!
麻布台ヒルズ 中央広場
2023/11/26, 14:30頃
Co-Creative Directors: Phillip Gleeson & Emily Ryan; Associate Director; Jay Carlon; Composer: Ania Raynolds.
premiere in April, 2022 as part of Dollywood’s Flower & Food Festival.

オーストラリアに、sway-pole (弾性のある高さ4〜5 mのポールの上でポールを大きくたわめ揺らせてのパフォーマンス) で知られる Strange Fruit というカンパニーがあって、 六本木ヒルズのイベントにも度々登場していたのですが [写真集]、2020年で活動を停止。 その Strange Fruit のディレクターだった Phillip Gleeson やパフォーマーだった Emily Ryan らが新たに結成したカンパニーが SWAY です。 その新作 Bloom! は、 アメリカ・テネシー州ドリーウッド (Dollywood) の Flower & Food Festival のために作られた、 近くのグレート・スモーキー山脈 (Great Smoky Mountains) の花々をモチーフにした作品とのこと。 ストーリーというほどのものは感じられませんでしたが、衣装を閉じた蕾の状態でポールに上り、花を咲かせて揺れ踊り、花粉を思わす紙吹雪を散らせました。

霧雨混じりの天気でsway-poleが濡れてしまい、 しばらく上演できずに様子見の状態だったのですが、なんとか上演できたのでした。よかった。

麻布台ヒルズ マーケット
2023/11/26, 14:45頃

オーストラリアのローヴィング・アクト (roving act) (回遊型のパフォーマンス)の2人組です。 ベルギーのシュルレアリスト René Magritte の絵に着想した服装で、 麻布台ヒルズ マーケット (といっても、店はほとんどオープンしておらず、通路状態でしたが) で、 通りがかりの客と記念写真を撮ったりしていました。

麻布台ヒルズ ガーデンプラザB
2023/11/26, 14:45頃

人間彫刻 (living statue) を専門とするイギリスのカンパニーによる、人間彫刻です。 いろんなタイプの人間彫刻が出ていたようですが、自分が観かけることができたのは、これ。 クラッシックなカメラを構えたカメラマンの銅像のような姿で静かに立っていますが、 観客の様子を見ながら、時々動いて、観客を驚かせたり。

ビルの高層階が隠れるほど雲が低く垂れ込め、最高気温が10℃にもならない霧雨混じりの天気という、 野外イベントを向けとは言い難い天気でした。 おかげで中央広場に出ている人が少なめで観やすかったのですが、 さすがに1時間以上外にいると、暖かく着込んでいても手先足先から凍えてきて、辛いものがありました。 しかし、屋内で神出鬼没でやっていたローヴィング・アクトこそ全て観られなかったものの、 中央広場でのパフォーマンスは一通り観ることができ、十分に楽しめました。 悪天をおして観に行ったかいがありました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

ランチは麻布台ヒルズでいいかなと思っていたのですが、 オープンとはいえマーケットなどの飲食店街はほとんどオープンしておらず、オープンしている店は長い待ち行列。 ランチ難民になってしまいました。 大型商業施設であれば食べるところはいくらでもあるだろうというのは、甘い考えでした。 神谷街駅界隈も日曜昼にやっている店は限られていましたし。 こんなことであれば、乃木坂か六本木でランチしておけばよかった……。

[4141] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sat Dec 9 23:54:36 2023

先々週末の話になってしまいましたが、日曜は午前に乃木坂へ。この展覧会とパフォーマンスを観てきました。

Shinji Ohmaki: Interface of Being
国立新美術館 企画展示室2E
2023/11/01-2023/12/25 (火休), 10:00-18:00 (金土 -20:00)

現代美術の文脈で2000年前後から活動する 大巻 伸嗣 の個展です。 大規模なインスタレーション [鑑賞メモ] が映える国際美術展などのアートフェスで観る機会はそれなりにありましたが、 個展で観るのは実に18年ぶりでした [鑑賞メモ]。 2010年代以降のビデオや写真 (フォトグラム)、ドローイングなども展示されていましたが、 やはり圧倒的な存在感があるのが大規模なインスタレーション2作品でした。

照明を落とした奥行きのあるギャラリーに高さ7 m、径4 mある花鳥の紋様を透かし彫りした白い壺を置いたインスタレーション《Gravity and Grace》 (2023) は、 原子力の光と影というテーマはさておき、中でゆっくり上下する白い光と壁を移ろう影もあって、吸い込まれるよう。

一方、《Liminal Air Space-Time 真空のゆらぎ》 (2023) は、 照明のわずかに付けた暗いギャラリーの中で、脈動する送風機の気流で幅方向40 m弱、奥行き方向15 mの半透明の薄い布を揺らめかせたインスタレーション。 腰掛けて静かに眺めていると、夜の砂浜で波が打ち寄せる様-横長く淡く揺れ煌めく布の光の波頭、ファンや布擦れの潮騒-を静かに眺めているかのようでした。

観に行った11月26日には、展示空間でのパフォーマンスも開催されました。 まずは、11時から約20分、 ダンス作品『Rain』 [鑑賞メモ] でコラボレーションした 鈴木竜 (DaBY) による《Liminal Air Space-Time 真空のゆらぎ》展示空間でのパフォーマンスを観ました。 布を被っているときなど夜の砂浜で波と戯れるかのようだと思いつつ観ているうちに、 布が示す重力場のような空間と人がインタラクションしているかのように見えてきて、 その見え方の様相の変化も面白く感じられました。

続いて12時から約20分、鈴木 竜のディレクションで 子どもたち (シンフォニーバレエスタジオ) による《Gravity and Grace》展示空間での パフォーマンス。 ダンス無しにインスタレーションを観た時に感じた吸い込まれるような感覚をダンスで可視化したようでした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4140] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Dec 3 13:41:07 2023

先週末の土曜は、昼に三浦半島の葉山へ。この展覧会を観てきました。

The Future 100 Years Ago: Modernists on the Move 1920-1930
神奈川県立近代美術館 葉山
2023/10/07-2024/01/28 (月休;10/9,1/8開;12/29-1/3休), 9:30-17:00

葉山館20周年記念のコレクションを核に構成した展覧会です。 1998年当時鎌倉にあった神奈川県立近代美術館で開催された『モボ・モガ1910-1935展』のアップデートかと予想していたのですがそうではなく、 わかりやすくモダンな作風というよりプロト=モダニズムとでもいう作風のものが多く、最初に一通り観たあとは、かなり地味な印象を受けました。 しかし、館長によるギャラリートークで見落としていた仕掛けに色々気付かされ、改めて興味深く観ることができました。 予備知識無しより、展覧会カタログなり講演会なりで調査研究の文脈を知ってからの方が楽しめる展覧会でしょうか。

1920年代の日本のモダンな美術を総体的に示す展覧会ではなく、 いくつかの鍵となる人物を取り上げて、その個人的な交流や移動に焦点を当ててつつ、 また、当時の鍵となる社会的な出来事である関東大震災の影響の意識しつつ、日本1920年代モダニズムを描いた展覧会でした。 例えば、第1章で取り上げられている人物は、鍼灸按摩術を学ぶために1914年に訪日し京都に滞在していた当時ロシア帝国領のウクライナ出身の盲目のエスペラント詩人 Василь Єрошенко [Vasiliy Eroshenko] で、 彼と交流のあった京都の文化サークルを通して、モダンな文化の受容を描いていました。 このようなあまり知られていない文化のネットワークに光を当てるだけでなく、 第4,5章では 村山 知義、永野 芳光、和達 知男 らの1922年ベルリンでのモダニズム受容から 帰国しての 村山 知義、柳瀬 正夢 らのマヴォ (Mavo) の活動など [関連する鑑賞メモ1, 2]、 以前もこの美術館で取り上げたような動向も取り上げていました。

取り上げられた鍵となる人物の中で最も興味を引いたのは、第2章の 久米 民十郎。 美術を学びに1914年に渡ったイギリスで Ezra Pound と親交を結んだ美術作家です。 当時のイギリスのモダニズム運動 Vorticism に影響を受けた作風の絵画も残す一方、 日本では能舞台の美術なども手掛けていたようで、総合芸術的な活動も先駆的です。 日本近代美術の主流との接点がほとんど無く、関東大震災で被災して夭折したため、ほとんど忘れられた存在だったとのこと。 そんな作家の存在を知ることができたのが、この展覧会の収穫でした。

時代の鍵となる社会的な出来事として関東大震災を取り上げていたこともあり、 国立映画アーカイブ所蔵の関連記録映画2本、『関東大震災[伊奈精一版]』 (1923) と『復興帝都シンフォニー』 (東京市政調査會, 1929) がビデオ上映されていました。 震災当時の記録映画はそれなりに観る機会があることもあり [鑑賞メモ]、 むしろ『復興帝都シンフォニー』[関東大震災映像デジタルアーカイブ]に興味を引かれました。 Walter Ruttmann (dir.): Berlin: Die Sinfonie der Großstadt 『伯林/大都会交響楽』 (1927) を思わせるタイトルで、 まさに、1920-30年代に作られるようになった “City Symphony” と呼ばれる都市を題材とした アヴァンギャルドな作風のドキュメンタリー映画 [BFIの記事] の東京バージョンとも言えるものです。 といっても、“City Symphony” の典型とされる Berlin: Die Sinfonie der Großstadt や Charles Sheeler & Paul Strand (dir.): Manhatta (1921)、 もしくは、Человек с киноаппаратом [Man with a movie camera] (1929) などの Дзига Вертов [Dziga Vertov] の都市ドキュメンタリー映画と比べて、 ベタに撮影されたイベントの記録なども含まれアヴァンギャルドな作風は徹底していませんが、 モダン都市東京の “City Symphony” を知る/観ることができたことも収穫でした。

最後の第6章では1931年上海での木版運動を取り上げられていたのですが、 小説作家として知られる魯迅がこの木刻版運動に関わっていていたというのも意外でしたが、 ちょうど展覧会 [鑑賞メモ] を観たばかりだったこともあり 棟方 志功 や若干先行するドイツ表現主義の木版との共通性も感じられ、 この時代の同時代的な木版表現の広がりが気になりました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[4139] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Thu Nov 23 22:04:42 2023

先の週末土曜は午後に竹橋へ。会期末が近くなってしまったこの展覧会を観てきました。

Celebrating the 120th Anniversary of the Artist's Birth: The Making of Munakata Shiro
東京国立近代美術館 企画展ギャラリー
2023/10/06-2023/12/03 (月休;10/9,11/27開;10/10休), 10:00-17:00 (金土 -20:00).

柳 宗悦に見出され民芸運動の文脈で知られ、戦間期から戦後1970年代にかけて活動した版画家 棟方 志功 の回顧展です。 仏教 (特に密教) や古事記などの神話・説話に題材を撮り文字も交えた大胆な姿勢と構図を黒線・面を粗く削り出した作風、 という印象が強い作家でしたが、特に初期のものには意外な作風のものもあり、むしろそれらが印象に残りました。

作風を確立した時期の作品『二菩薩釈迦十大弟子』 (1939) などマスターピース感もありましたが、 その題材を仏教からキリスト教に置き換えたような『幾利壽當頌耶蘇十二使徒屏風』 (1953) という作品もあります。 また、東京に出てきたばかりの最初期には、当時の西洋的なモダン文化の影響の強い、繊細な線でカラフルで可愛らしい『星座の花嫁』 (1928-30) にも目が止まりました。

戦後1950年代にもなると作風も確立して、いかにも「世界のムナカタ」な作品となるのですが (自分の持っていた棟方 志功の作風イメージもこれらです)、 そんな中では、渡米時の作品『ホイットマン詩集抜粋の柵』 (1956) は、 確立した作風での図と一体化した日本語の文字の扱いと比べ、慣れない文字・テーマに対しては自由に扱えない様を見るようでした。

『2023-2 所蔵作品展 MOMATコレクション』中、戦間期の版画を展示する第4室もに棟方の作品も1点あり、『棟方志功展』を意識したような内容でした。 棟方の作品には、ここで展示されていた藤牧 義夫 『朝(アドバルーン)』 (1931) や Max Pechstein: »Das Vater Unser« (1921) などのモダンな同時代の版画と題材などの違いはあれど表現的な共通点もあり、 Marc Chagall にも似たモダニズムとの距離の取り方を感じました。

Women and Abstraction
東京国立近代美術館 2Fギャラリー4
2023/09/20-2023/12/03 (月休;10/9,11/27開;10/10休), 10:00-17:00 (金土 -20:00).

コレクションによる小企画は、戦後、抽象表現主義などの前衛の抽象美術において 過小評価されがちな女性の寄与に焦点を当てた展覧会です。 1947年に設立された女流画家協会に1/3近くのスペースが充てられていましたが、 それに限らず、21世紀に入ってからの作品も取り上げています。 自分の好みという点では、福島 秀子 [関連する鑑賞メモ] や 杉浦 邦恵 [関連する鑑賞メモ] の作品が見られたのが収穫でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

その後は、公園通りクラシックスで 永田 砂知子, 片山 柊 『ピアノと波紋音 — 初めての対峙 2つの異なる音世界」。 齋藤 鉄平《波紋音》は展示されているものを鳴らしてみたことはありましたが [鑑賞メモ]、 ライブなどでの演奏では聴いたことがなく、いかにも相性悪そうなピアノとの共演に興味引かれて足を運んでみました。 内部奏法を多用するピアノ演奏などは予想していましたが、予想以上に淡々とした現代音楽的な展開。 直前に寄ったエル・スール・レコーズでシェリー酒をいただいて、いい感じに酔ってしまっていて、失敗しました。 もう少し集中できる良い体調で聴きたい音楽でした。こんなこともあるでしょうか。