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談話室 / Conversation Room

TFJ's Sidewalk Cafe 内検索 (Google)
[3846] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jul 13 0:24:41 2020

COVID-19とは関係なくリニューアルのため2月から休館していた 国立映画アーカイブですが、 7月に再オープンしました。 上映企画のニューアル後第一弾 『松竹第一主義 松竹映画の100年』が始まったので、 さっそく、土曜の昼前から、戦前の小津 安二郎の映画4本をまとめたプログラムを観てきました。

『和製喧嘩友達』
1929 / 松竹蒲田 / パテベビー短縮版/デジタル復元版 / 白黒 / 無声 / 35mm / 24fps / 14min.
監督: 小津 安二郎. 原作・脚本: 野田 高梧.
渡辺篤, 浪花友子, 吉谷久雄, 結城一郎.

今回観た4本の中で唯一、以前に映画館で観たことのある作品でした [鑑賞メモ]。 それから戦前松竹映画をいろいろ観たせいか[鑑賞メモ]、 小津らしいというより、むしろ貧乏長屋物コメディの王道のような作品だったのだな、と。

『突貫小僧』
1929 / 松竹蒲田 / パテベビー短縮版 / 白黒 / 無声 / 35mm / 24fps / 14min.
監督: 小津 安二郎. 原作: 野津 忠二 (野田 高梧, 池田 忠雄, 大久保 忠素, 小津 安二郎 の合名). 脚本: 池田 忠雄.
斎藤 達雄, 青木 富夫, 坂本 武.

人攫い (斎藤 達雄) が子供 (青木 富夫) をさらおうとして、なんとか人攫いの親玉 (坂本 武) の所まで連れて行くも、 持て余して帰すことにする、というストーリーのコメディ短編です。 人攫いを怖がらず腕白を通す「突貫小僧」に人攫いが振り回される様子を、ユーモラスに描いています。 戦前松竹の名子役 青木 富夫 の芸名が「突貫小僧」となるきっかけとなったことで知られる映画です。 しかし、主役よりも、子供に振り回される大人を情けなくもユーモラスに演じる 斎藤 達雄 の演技 (無声なので特に顔芸) が楽しめました。

『鏡獅子』
1936 / 国際文化振興会=松竹 / 英語版 / 白黒 / 16mm / 25min.
監督: 小津 安二郎.
六代目 尾上 菊五郎.

歌舞伎を海外へ紹介するためのプロモーション用記録映画で、 小津の撮った唯一の記録映画にして、小津の初のトーキー映画です。 前半は歌舞伎座の劇場の様子などを紹介するパート、 後半は『春興鏡獅子』のお小姓弥生の女型の舞と、獅子の姿での激しい舞を 六代目 尾上 菊五郎 が踊る様子をとらえています。 戦前の東京歌舞伎座の様子などが窺える興味深さはありましたが、小津の作家性は感じられませんでした。

『父ありき』
1942 / 松竹大船 / Госфильмофонд [ゴスフィルムフォンド] 版 / 白黒 / 35mm / 72min.
監督: 小津 安二郎. 脚本: 小津 安二郎, 池田 忠雄, 柳井 隆雄.
笠 智衆 (堀川 周平), 佐野 周二 (堀川 良平), 津田 晴彦 (その少年時代), 坂本 武 (平田 真琴), 水戸 光子 (その娘 ふみ), 佐分利 信 (黒川 保太郎), 日守 新一 (内田 実), etc

あらすじ: 金沢の中学校の数学教師 堀川 周平 は男手一人で息子 良平を育てている。 引率していた修学旅行中に起きた生徒の事故死に対して責任を取り、堀川は教師を辞め、郷里の信州上田に戻った。 息子が中学校に進学し、寄宿舎に入ると、堀川は息子の進学のため、単身東京へ働きに出た。 その後、息子良平は仙台の帝大を出て、秋田の工業学校で化学の教師となった。 ある休日、父子は上田で一緒に過ごす。 良平はなったばかりの教師を辞めて東京に出て父と暮らしながら働こうかと言うが、周平は反対する。 それからまたしばらく経ち、良平は徴兵検査合格の報告に上京し、父 周平としばらく過ごしていた。 周平は、東京で再会した金沢時代の同僚 平田 の娘 ふみを、結婚相手として良平に勧めた。 良平が上京して5日目、周平は急に体調を崩して亡くなってしまった。 そして、良平はふみと秋田に戻るのだった。

『父ありき』の現存するフィルムは ロシア Госфильмофонд で見つかった32mm版 (ゴスフィルムフォンド版) と16mm再編集版 (国内版) があると言います。 国内版は、16mm縮小時にノイズを焼き込んでおり音質が悪く、また、戦後連合軍占領下での検閲を経ていると言われています。 今回は、戦時中公開時の編集を反映していると言われるゴスフィルムフォンド版での上映で、 音質は良好というほどではないものの、セリフが聞き取りづらい時がたまにある程度でした。

良平が中学へ進学する前後の子供時代 (周平が金沢の中学校を辞め上田に戻り上京するまで) と、 良平が秋田の化学教師になってからの大人時代の、 周平、良平の父子関係、父 周平の人柄を、日常を描くように淡々と描いて行きます。 さりげない日常的な会話、一緒に釣りをする姿などを通して、父子の情をうっすらと浮かびあがらせるようです。 ラストの父の急死の場面こそ比較的ドラマチックではありますが、悲劇的な結末へ大転換することなる、 それ以前の話の通り良平はふみを連れて秋田に帰る様子を描きます。 そこで、列車内での回想を通して描かれる父への思いも淡く感傷的。 そんな父子の情の淡々とした描写を堪能しました。

一時期、戦前松竹映画をよく観ていましたが、最近は少々遠ざかっていて、 振り返ると、約2年ぶりでしょうか [関連する鑑賞メモ]。 戦前松竹のお馴染みの俳優たちが出演している映画を映画館で観て、また映画館で戦前の松竹映画を観たくなってしまいました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

出遅れてチケットの争奪戦に敗れ、土曜午後の回は観られず。 人気あるのだなあと思っていたのですが、市松模様どころか間3席くらい開ける席の間引きをしていました。 さすがに通常の民間の映画館に比べてCOVID-19感染対策にかなり気を使っているようでした。 通常の1/4程度しか入れてないのであれば、チケット売切も納得です。 清水 宏 (dir.) 『不壊の白珠』 (松竹蒲田, 1929) は以前に映画館で観たことありますし、諦めもつきます。

4月から6月まで自宅でストリーミングで舞台作品の映像を色々観ていたのですが、 6月の映画館再会後 National Theatre Live や Met Live in HD を映画館で観て以来、 自宅で舞台作品のストリーミングを観る気がすっかり失せてしまいました。 緊急避難的であれば自宅の 5K 27インチ のディスプレイでも申し分ないのですが、 数ヶ月ぶりに映画館に行って映像鑑賞環境の良さを痛感しています。

現在、NHKでのアニメーション『未来少年コナン』デジタルリマスター版が放送されているものの、 TLで時々関連ツイートを見かけるもののNHKオンデマンドでは観られないので観るつもりの無かったのですが、 Amazon Prime でオリジナル版 (アスペクト比4:3) が観られると気付いて、観はじめてしまいました。 NHKの放送のペースに合わせてゆっくり観るつもりだったのですが、結局、26話まで観終えてしまいました。 『未来少年コナン』はまだ小学生だった1978年の本放送の時に観ていますが、 2005年の再放送の時以来、観るのは15年ぶりです。やっぱり、大好きなアニメーションです。 といっても、2005年に観た時に色々書いたこと以上に書いておきたいことがあるわけでないのですが。

『未来少年コナン』を観終えて、 今度は日本アニメーション制作の世界名作劇場で『未来少年コナン』とほぼ同じ制作陣で作られた 『アルプスの少女ハイジ』や『母をたずねて三千里』を久々に観たくなってしまいました。 Amazon Prime のdアニメにあったので、今度はそちらで『母をたずねて三千里』 (日本アニメーション, 1976) を観ました。 1976年の本放送で観ていますが、 最後に観たのは、大学生だった1986年夏頃。当時通っていた自動車教習所の待合室でよくかかっていたのを断片的に観たのを覚えています。 原作は Edmondo De Amicis: Cuore (1886) 中の挿話短編 Dagli Appennini alle Ande ですが、 原作を忠実にアニメーション化したものではなく、全52話とするためオリジナルの登場人物、エピソードが大幅に加えられ、オリジナルの物語に近いものです。 1880年代のイタリアのジェノバとアルゼンチンを舞台に、 ジェノバからアルゼンチンに出稼ぎに行って音信不通となった母を探す少年マルコの一人旅を描いています。

久しぶりに観て、当時の階級社会、貧富の差をはっきりと描いた作品だったことに気付かされました。 イタリアのネオリアリズモの映画からの影響と言われているようですが、そこまで冷徹に客観的な描写とは感じられませんでした。 むしろ、救いの無い悲劇ではなく、うまくいかずやるせない事も多いけれども人情に救われる物語です。 すれ違いメロドラマの男女関係を母子関係に置き換えた上、貧乏長屋人情物語のエビソードを連ねたよう。 戦前の映画は、男女や家族の情を描く際も、階級社会、貧富の差に起因する悲哀や苦難を描くものが少なくなく、そういったものに近く感じました。 まとまった金が要入りになったため年季労働に身を売る、とか、 病気になった知り合いの子の医療費のために本来自分の目的の為に貯めていた金を出してしまう、とか、 いかにもよくあるエピソードです。 と、頭ではわかっていながらも、思わず心を打たれて、涙しながら観ました。

昔観た時には全く気付かす、今観たからこそわかる事といえば、 ブエノスアイレスでの主な舞台がボカ (Boca) だったという事。 フットボールチームの強豪 Boca Juniors の本拠地にして、 アルゼンチン・タンゴの生まれた港町として知られるボカです。 と言っても、フットボールチームができるのは20世紀に入ってからなので、 1880年代という設定の『母をたずねて三千里』には出てきません。 フォルクローレ風の曲は多いもののタンゴの曲は一切使われないのも、 この時代にまだアルゼンチン・タンゴは無かったことの反映かと思います。

音楽使いといえば、第40話「かがやくイタリアの星一つ」で 居酒屋「イタリアの星」でイタリア移民たちがマルコの汽車賃をカンパする場面で歌われる “Bella Ciao”。 自分も思わず涙するほど感動的な場面なのですが、 第二次世界大戦中のイタリアでレジスタンス運動を繰り広げたパルチザンの歌として有名になり イタリア労働階級のアンセムとなった “Bella Ciao” です。 あのような場面では “Bella Ciao” という気持ちはむしろよくわかるのですが、 冷静に考えると、1880年代のアルゼンチンのイタリア移民たちが “Bella Ciao” を歌うというのは 時代考証的には適切ではないでしょう。 作品中でタンゴは使ってないので、おそらく、時代考証的には適切ではないとわかっていて使ったんだろうなあ、と。

『未来少年コナン』をきっかけに『母をたずねて三千里』へ遡るだけでなく、 東宝系の映画館で上映中のジブリ映画のリバイバル上映から『風の谷のナウシカ』 (1984) と『ゲド戦記』 (2006) も観ています。どちらも観るの初めて。 特に『風の谷のナウシカ』は『未来少年コナン』のモチーフの変奏と感じられる場面が多く、とても楽しめました。 が、今の自分にとっては『母をたずねて三千里』の方が面白く感じられてしまいます。

[3845] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jul 5 21:04:58 2020

土曜は午後に渋谷円山町へ。ミニシアターで何か観たいな、ということで、この映画を観ました。

Довлатов [Dovlatov]
『ドヴラートフ レニングラードの作家たち』
2018 / Russia/Poland/Serbia / colour - 2.35:1 / 126 min.
Режиссёр [Director]: Алексей Герман мл. [Alexey German Jr.] Автор сценария [Screenplay]: Алексей Герман мл. [Alexey German Jr.], Юлия Тупикина [Yuliya Tipikina].
В главных ролях [Starring]: Милан Марич [Milan Marić] (Сергей Довлатов [Sergei Dovlatov]), Данила Козловский [Danila Kozlovsky] (Давид), Helena Sujecka (Елена Довлатова [Elena Dovlatova]), Артур Бесчастный [Artur Beschastny] (Иосиф Бродский [Joseph Brodsky]), Антон Шагин [Anton Shagin] (Антон Кузнецов [Anton Kuznetsov]), Светлана Ходченкова [Svetlana Khodchenkova] (актриса [actress], подруга Довлатова [Dovlatov's ex-girlfrend]), Елена Лядова [Elena Lyadova] (молодой редактор [young editor])
Production: САГа [SAGa], Метрафильмс [Metrafilms], Channel One Russia.
Co-production: Message Film, Art&Popcorn, Ленфильм [Lenfilm].

1978年にソ連から亡命し1990年に移住先のニューヨークで亡くなった小説作家 Сергей Довлатов [Sergei Dovlatov] の伝記映画です。 と言っても、生い立ちから亡命生活までの生涯を辿るものではなく、 1971年の革命記念日 (11月7日) の前日までの6日間を取り上げて、 レニングラードで雑誌記者として糊口をしのぎつつ 作家連盟への加盟し作品の文芸誌掲載を目指す Довлатов の日々の生活を描いた映画です。

労働者詩人 Антон Кузнецов [Anton Kuznetsov] の取材中の地下鉄工事現場で独ソ戦 (大祖国戦争) 中に犠牲となった子供の死体に掘り当たってしまう現場に立ち会ったり、 闇取引に手を出した芸術家仲間の美術作家 Давид が目の前で逮捕され連行中に脱走して飛込自殺するかのように交通事故死したり、 女優となった若い頃の恋人と再会したり、別居中だった妻とよりを戻したり、と、 約1週間にしては様々な出来事が次々と起こります。 1971年の革命記念日 (11月7日) の前日までの6日間に実際に起きたことを映画化したというより、 レニングラード時代の Довлатов のエピソードを6日間に重ね合わせて映画として描いているようにも思われました。

しかし、次々起きる出来事を一つの結末に向けてドラマチックに関係付けるようなことはなく、 淡々とエピソードを重ねることで、Довлатов の鬱屈した生活を描いていました。 後にノーベル文学賞を受賞することになる Иосиф Бродский [Joseph Brodsky] も出てきますが、 字幕で説明されなかったら気付かなかったかもしれない程のさりげない扱いでした。 ある特定の作家の個性を見るというより、Довлатов を通して 雪解け後再び抑圧が強まり始めた1970年代ソ連で非公式芸術家たちがどういう生活をしていたのか垣間見るようでした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

自分が観に行った映画のチョイスのせいかもしれないですが、 どの回も席を市松模様にする必要が無い程の客の入り。 街の混雑の戻りに比べて、映画館の客足の戻りは鈍いように感じます。 COVID-19の感染リスクは繁華街やショッピングモールより遥かに低いと思うのですが……。

[3844] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jun 28 22:27:38 2020

土曜は午前から川崎へ。イベントシネマでこのオペラを観てきました。

『ポーギーとベス』
from Metropolitan Opera House, 2020-02-01, 13:00–16:30.
Written by George Gershwin, DuBose & Dorothy Heyward, Ira Gershwin.
Production: James Robinson.
Set Designer: Michael Yeargan. Costume Designer: Catherine Zuber. Lighting Designer: Donald Holder. Projection Designer: Luke Halls. Choreographer: Camille A. Brown. Fight Director: David Leong.
Cast: Eric Owens (Porgy, a disabled beggar), Angel Blue (Bess, Crown's girl), Alfred Walker (Crown, a tough stevedore), Frederick Ballentine (Sportin' Life, a dope peddler), Chauncey Packer (Robbins, an inhabitant of Catfish Row), Latonia Moore (Serena, Robbins' wife), Donovan Singletary (Jake, a fisherman), Golda Schultz (Clara, Jake's wife), Denyce Graves (Maria, keeper of the cook-shop), Jamez McCorkle (Peter, the honeyman), et al.
Conductor: David Robertson.
World Premiere: Colonial Theatre, Boston, September 30, 1935.
Co-production of the Metropolitan Opera; Dutch National Opera, Amsterdam; and English National Opera.
This production's premiere: London Coliseum (English National Opera), London, 11 October 2018.
上映: TOHOシネマズ川崎, 2020-06-27 10:30-14:20 JST.

George Gershwin の Porgy And Bess は、 “Summertime” をはじめスタンダードナンバーを多く生み出したことで有名なオペラです。 ジャズの文脈で曲をそれなりに聴く機会がありましたが、舞台での上演を観る機会がありませんでした。 1959年にミュージカル映画化されていますが、プリントの入手が困難で、失われた映画にほぼ近い状態といいます。 Metropolitan Opera では約30年ぶりになるという上演が Met Live in HD でかかったので、これは良い機会と観に行きました。

20世紀初頭のアメリカ南部の黒人居住区の Catfish Row (なまず長屋) を舞台とする群像劇です。 あらすじをそれなりに目にする機会はあれど、乞食 Porgy の Bess への無償の愛の話という程度のプロットを知る程度だったので、 Bess はもちろん Catfish Row の住人たちが個性的に描かれていて、そういう話だったのかと気付かされる点が多くありました。 演出による解釈という面もあると思いますが、Bess は Porgy を振り回す魔性の女なのではなく、情夫 Crown からのDV (家庭内暴力) と薬物依存症に苦しむ女性として、明確に描かれていました。 Bess が Crown や Sportin' Life から逃れられないのは、誘惑に弱いからではなく、DVによる学習性無力感や薬物依存症のためだったのか、と。 働き者ながら出漁中に嵐に遭って死んでしまう漁師 Jake と幼子を抱えた妻 Clara、 Crown との喧嘩で死んでしまう Robbins としっかり者の妻 Serena、 長屋の肝っ玉母さん Mary など、脇役的なキャラクターも魅力的でした。

Gershwin の指定もあってキャストはほぼアフリカ系アメリカ人もしくはアフリカ出身 (Clara 役の Golda Schultz は南アフリカ出身とのこと) なのですが、そんな中で警官役だけ白人。 Robbins 殺しの犯人ではないとわかっていながら Peter を容疑者として逮捕拘留するなどの理不尽な逮捕や捜査の場面は、 Black Lives Matter (BLM) 運動の契機となった “Killing of Goerge Floyd” 事件を思い出させられるものでした。 そして、もちろん演技への称賛という意味もあったと思いますが、カーテンコールで警官役の時にブーイングが起きていました。 収録されたのは BLM 運動以前ですが、そんなところにも BLM 運動の背景を見るようでした。

音楽的な要素という点では、“folk opera” と呼ばれるように、アメリカ南部の伝承的な音楽に着想したもの。 スタンダートナンバーとなった曲も多く、jazz のルーツとも言える blues や ragtime の影響を受けたもの。 しかし、信仰など宗教的な主題も多く、コーラスでの掛け合いなど、黒人霊歌 (spiritual)、gospel 的な要素も大きいと気づかされました。 Gershwin のバックグラウンドの Jewish 的な要素といえば、少人数のジャズコンボで演奏される “It Ain't Necessarily So” など Klezmer 的に聞こえる演奏もあるのですが、 上演の中で聴くと Sportin' Life のテーマとしてしか聞こえなかったり。 テーマは jazz の場合即興の出発点という面も強く、そんな曲として聴くのと、舞台作品の文脈上で聴くのでは、受ける印象が違うことを実感しました。

物語としては貧乏長屋の人情噺で、アフリカ系アメリカ人に限らない普遍的な話です。 同時代戦間期の松竹映画とかにいかにもありそう、例えば 小津 安二郎 の喜八ものとして翻案できそう、などと思いながら観ていました。 もちろん、Porgy が喜八 (坂本 武)、Bess がヒロインの女給 (桑野 通子 が良いな)、 Crown や Sportin' Life は与太者で、Mary は飯田 蝶子が演じる長屋の面倒見良いおばさん。 (特に、Bess を追って New York へ旅たつ Porgy が喜八っぽく感じられました。) その一方、Bess の薬物依存症やDV被害、警官による Catfish Row 住民の不当な扱いなど、現代に置き換えても通じるテーマも多く、 むしろ、現代に置き換えてのスタイリッシュな現代演出で観てみたいようにも思いました。

アフリカンダンスを思わせるダンスの使い方やコーラス使いなどミュージカルに近いものを感じましたし、 廻り舞台や映像プロジェクションを使った場面転換など現代的とは思いましたが、 時代や場所の設定は原作に忠実で、衣装や美術もリアリズム的に丁寧に登場人物を描く、比較的オーソドックスな演出でした。 抽象的でミニマリスティックな現代演出の方が好みですが、 群像劇の登場人物のそれぞれの個性を理解できたという点で、初めて観るにはこのような演出で良かったでしょうか。 20世紀初頭頃のアメリカ南部の黒人居住区の雰囲気を垣間見るような、そんな面白さもありました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

しかし、109シネマズ川崎の入っているショッピングモールも、地元のショッピングモールも この週末は人出で酷い混雑になっていました。しかし、その一方で映画館はガラガラ。 自分が行くような個人経営のこぢんまりした飲食店にもあまり客が戻っていなさそうです。 しかし、映画館や美術館よりショッピングモールの方が、 個人経営のこぢんまりした飲食店よりショッピングモールのフードコートの方が、 COVID-19感染リスクが遥かに大きいのではないかと思うことしきりです。 4月頃は周囲は自粛し過ぎじゃ無いかと感じていたのですが、 5月下旬頃からはむしろ緩め過ぎなのでは無いかと感じていたりします。

[3843] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Fri Jun 26 0:15:02 2020

土曜は昼前には清澄白河というか木場へ。この展覧会を観てきました。

Olafur Eliasson: Sometimes the river is the bridge
東京都現代美術館 企画展示室 企画展示室 地下2F
2020/06/09-2020/09/27 (月休;8/10,9/21開;8/11,9/23休), 10:00-18:00.

コペンハーゲン出身でベルリンを拠点とする Olafur Eliasson の個展です。 個展で観るのは金沢21世紀美術館 (2009-2010) [鑑賞メモ] 以来、10年ぶりです。

さすがに光の扱いが巧みで美しいインスタレーションが多い展覧会です。 複数の光源を床に並べて置いて鑑賞者の重なり合う影を鑑賞する Your happening, has happened, will happen (2020) や、 水を張った円形の浅い水槽に12の白色のスポットライトを当てて、 その反射で水の揺らめきを見せる Sometimes the river is the bridge (2020) など、 光の反射を使った作品が印象に残った展覧会でした。 こういう作品は静かに浸れるような環境ならより良いのでしょうが、少々観客の多い落ち着かない環境だったのは残念。 もちろん、ミストのカーテンに光を当てて虹を見せる Beauty (1993) のような作品も良いです。

しかし、Sunlight (2002) のようなインタラクティヴな作品では、 微妙なアトラクション感が出てしまうのは否めませんでした。 元々、気象現象に着想する作品を作ってきた作家だけに、近年の気象温暖化問題への問題意識があるのはわかるのですが、 二酸化炭素削減のために航空機を使わないでの移動のデータを作品化した Memories from the critical zone (Germany-Poland-Russia-China-Japan. nos. 1-12) (2020) は、 結局ノイズのようなデータであれば何でも良かったかのような表現になってしまっていて、造形的に微妙な仕上がりに感じてしまいました。

The Potentiality Of Drawing
東京都現代美術館 企画展示室 3F.
2029/06/02-2020/06/21 (月休), 10:00-18:00.
Henri Matisse, 石川 九楊, 戸谷 成雄, 盛 圭太, 草間 彌生, 磯辺 行久, 山部 泰司.

展示自体はドローイングを広く捉えてインスタレーション展示も含まれており、 ドローイングそれ自体の可能性を感じることはできませんでした。 しかし、切絵と手書き文字からなる Henri Matisse のアートブック Jazz のステンシル印刷がまとめて観られたのが、収穫でした。 タイトルはジャズですが、題材はサーカスから取られているといるというのも良いです。 ドローイングではなく立体のインスタレーションですが、 戸谷 成雄の荒削りの木材だけでなく、その削り屑が壁面に飛び散ったようなインスタレーションも良かったです。

Things Entangling
東京都現代美術館 企画展示室 1F.
2029/06/09-2020/09/27 (月休), 10:00-18:00.
Pio Abad, Liu Chuang, 藤井 光 [Hikaru Fujii], Dale Harding, 磯辺 行久 [Yukihisa Isobe], 岩間 朝子 [Asako Iwama], Kapwani Kiwanga, Jumana Manna, mixrice, The Propeller Group & Superflex, Alexandra Pirici

パリとサンフランシスコを拠点とする現代美術基金 Kadist との共催によるグループ展です。 近現代史や社会問題に取材してドキュメントに近いものを緩く展示するような作品が集められてしまいました。 このような作風は現代美術な大きな流れになっているとは思いますが、 問題をもっと知りたいというフックが感じられる作品には出会えませんでした。

MOT Collection: Present Day and in Times Past––Multiple Perspectives
東京都現代美術館 コレクション展示室 1F,3F.
2029/06/02-2020/09/27 (月休), 10:00-18:00.

コレクション展示室は1月の 『MOTコレクション 第3期 いまーかつて 複数のパースペクティブ』 [鑑賞メモ] を一部展示換えしたものでした。 『百年の編み手たち -流動する日本の近現代美術-』 [鑑賞メモ] にも展示されていた 松江 泰治が2017年に木場や豊洲運河の界隈を パンフォーカス空撮写真や運河に沿って撮ったパノラマ写真展示されていました。 やはり、コンセプチャルに線や形に着目して抽象画を描くように撮られた写真が、自分の好みであると再認識。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

美術館に着いた11時頃は、Olafur Eliasson 展の展示室内、若干人が多いかなという程度。 チケット売場も会場入場待ちの列もありませんでした。 人気のありそうな現代美術展ですが、実際はそれほどでもなかったのかな、なんて思ってしまいました。 しかし、ランチを食べ終えた13時頃には入場待ちの行列ができはじめ、 美術館を後にした14時半頃には、入場待ちの列はコレクション展示室入口の近くまで、 そして、チケット売場の行列はホワイエに収まりきらず、建物の外まで伸びていました。 まさか午後からこんなに混むとは。午前中に行って良かったと、つくづく。

その後は、渋谷に出てレコード屋巡り。 RECOfan 渋谷BEAMS店の閉店セールを漁ったり、馴染みの店に取置してた盤を取りに行ったり。 近年、レコード屋からだいぶ遠ざかってしまったのですが、 展覧会や舞台公演がほとんど無くなった2月以降、レコード店巡りをするようになっています。 それはそれで楽しいものです。

[3842] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jun 21 21:48:21 2020

金曜の晩はストリーミング舞台鑑賞。 Arthur PitaBjörk の音楽で振付たバレエ作品があると知って気になっていたのですが、 COVID-19隔離向けにストリーミングされたので、観てみました。

War Memorial Opera House
Recorded March 29, 2019.
Choreographer: Arthur Pita.
Costume Design: Marco Morante; Lighting Design: James F. Ingalls; Visual Décor: Arthur Pita; Sound Design: Martin West.
Composers: Björk Gudmundsdottir, Alejandro Ghersi, and Sjón
Music: Overture, All is Full of Love, You’ve Been Flirting Again, Bachelorette, Vokuro, Frosti, The Gate (Intro), Hyperballad, Anchor Song
Conductor: Martin West.
Casting: Carmela Mayo, Elizabeth Powell, Dores André; Joseph Walsh, Ulrik Birkkjaer, Luke Ingham; Kamryn Baldwin, Gabriela Gonzalez, Ellen Rose Hummel, Elizabeth Mateer, Norika Matsuyama, Skyla Schreter, Miranda Silveira, Ami Yuki; Diego Cruz, Daniel Deivison-Oliveira, Joshua Jack Price, Nathaniel Remez, Alexander Reneff-Olson, Henry Sidford, John-Paul Simoens, Hansuke Yamamoto.
World Premiere: April 26, 2018 - San Francisco Ballet, War Memorial Opera House; San Francisco, California.
YouTube URL:https://www.youtube.com/watch?v=98yI2LT26lw

Arthur Pita といえば The Royal Ballet The Metamorphosis [鑑賞メモ] の印象が強烈で、演劇的というかナラティブな作品を予想していました。 実際のところは、Björk のミュージックビデオやカバーアートのシュールなイメージを比較的忠実に引き継いで抽象的にダンス化した約30分の作品でした。 トリプルビルの中の1作品として上演するのにちょうど良さそうな作品です。

クラシカルなバレエ的な動きはほとんど用いられていません。 冒頭、overture に続いて、すぐ “All Is Full Of Love” なのですが、 この有名なミュージックビデオのロボットの動きのイメージを結構意識した動きが要所で使われていました。 “All Is Full Of Love” もそうですが、中盤の “The Gate” の女性2人の踊りの方が、まさにそれを感じさせる動きでした。

2018年初演の作品ですが、“All Is Full Of Love” や “Bachelorette”、“Hyperballad” など、1990年代の有名曲がむしろ大きくフィーチャーされていたように感じました。 自分が Björk をよく聴いていたのはこの頃だったので、そういう選曲も、少し懐かしく感じました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

Festivalul International de Teatru de la Sibiu (シビウ国際演劇祭) が COVID-19パンデミックをうけて 2020年は “Online Special Editon” と6/12-21の10日間のストリーミングによる開催となっています。 ということで、14日の晩から毎晩、何かしらの舞台をストリーミングで観ています。 観たものについては簡単な鑑賞メモ相当のツイートをしているので、 いずれこのサイトにまとめておきたいものです。

[3841] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jun 15 0:55:17 2020

この週末土曜は午後に日本橋室町へ。 COVID-19感染拡大のため閉館になっていた映画館も営業再開し始めています。 映画新作封切りが再開しているというほどではないのですが、 National Theatre Live や Royal Opera House cinema などは営業休止前に準備されていたものの延期になっていた作品の上映が始まっています。 というわけで、National Theatre Live でこの作品を観てきました。

『スモール・アイランド』
Olivier Theatre, London, 2019-06-27.
Adapted by Helen Edmundson, Based on the novel by Andrea Levy.
Director: Rufus Norris; Set and Costume Designer: Katrina Lindsay; Projection Designer: Jon Driscoll; Lighting Designer: Paul Anderson; Sound Designer: Ian Dickinson for Autograph; Movement Director: Coral Messam; Fight Director: Kate Waters: Music Consultant: Gary Crosby.
Cast: Leah Harvey (Hortense), CJ Beckford (Michael), Aisling Loftus (Queenie), Andrew Rothney (Bernard), David Fielder (Arthur), Gershwyn Eustace Jr (Gilbert), Johann Myers (Elwood), Shiloh Coke (Celia).
Music recorded by Jazz Jamaica Allstars. Additional music recorded by London String Group.
First Performance: 17 April 2019, Olivier Theatre, London.
上映: TOHOシネマズ日本橋, 2020-06-13 14:30-18:40 JST.

移民船の名 Empire Windrush から Windrush Generation とも呼ばれる イギリスの西インド諸島系移民第一世代を巡る、第二次世界大戦中から戦後にかけての群像劇です。 ジャマイカ移民の主な登場人物は、 孤児ながらジャマイカで教師となり憧れるイギリスで教師になろうと渡る Hortense、 Hortense の従兄でイギリス空軍パイロットとなる「魔性の男」的な役回りの Michael、 法律家になることを夢見て二次大戦時にイギリス軍に志願し、戦後、Empire Windrush でイギリスに移民するため Hortense と偽装結婚する Gilbert の3人。 イギリス側の主な登場人物は、 イングランド中東部リンカンシャーの肉屋という実家の暮らしから逃れるように London に出てきた Queenie と、 ロンドンで Queenie と結婚する堅物銀行事務員 Bernard、 そして、一次大戦従軍時のシェルショックで失語症となった Bernard の父 Arthur。 中でも Hortense と Queenie の2人の物語を軸に、話が進みます。

群像劇で扱う時間も長い作品ですが、 テンポ良い脚本と廻り舞台やセリを駆使した場面転換、照明や映像を駆使した現代的ながらもわかりやすい演出でした。 2幕構成で第1幕は二次大戦中まで。 Hortense の幼少期の話や、Queenie がロンドンに出てきて結婚する経緯、 Queenie が Michael や Gilbert と知り合う経緯など、若干説明的に過ぎるように感じました。 しかし、第2幕、ロンドンに移民してきた Gilbert と Hortense の Queenie の家での借間暮らしでは、二人が直面する差別に物語は深刻な様相を示します。 しかし、前半からのユーモア (多分にイギリス的でしょうか) を交えた物語の進め方は変わらず。 そんなユーモアに笑いつつ、深刻な状況ながら心打たれる場面も少なからず、そんな時は目を潤ませながら、 約3時間半、その物語の世界に入り込んで観ることができました。

1980年代からずっと reggae (特に1950年代の pre-ska 期から1980年代の UK reggae や early dancehall) を好んで聴いていたこともあり、 この作品を観てみようと思った一番の理由は、やはり、 音楽コンサルタントとして Gary Crosby が参加しており、音楽演奏に Jazz Jamaica Allstars を起用していたから。 Honest Jon's による音楽のコンピレーション・シリーズ London Is The Place For Me で聴かれるような Mento や Calypso に彩られた音楽劇的な面を期待していたところもありました。 (以前に Rufus Norris 演出で観たのが The Threepenny Opera だったというのもありますが。) 確かにそれなりに使われており、ミュージカル的なダンスシーンなども楽しめましたが、 特に深刻な場面では London String Groups によるストリングスによる映画的な音楽が使われることが多く、 むしろそちらの方が印象に残ってしまい、少々肩透かしでした。 しかし、特に第2幕の物語は、 London Is The Place For Me 第1集、第2集のジャケット写真の向こうにあると物語の変奏のよう。そんな面を興味深く観ることができた舞台でもありました。 クレジットによると舞台で使われていた当時の映像の中には British Pathé のものも使われていたようですが、 British Pathé による Empire Windrush や1950年代の移民問題のニュース映像は DVD Mirror to the Soul: A Documentary film about British Pathé in the Caribbean 1920-1972 (Soul Jazz, 2012) で観ることができます [鑑賞メモ]。 しかし、フィクションとはいえこういう舞台作品を通して見ると、問題をいっそう身近に感じられます。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3840] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Thu Jun 11 23:13:59 2020

火曜の晩はストリーミング舞台鑑賞。 スウェーデン第二の都市イェーテボリ (Göteborg) の歌劇場 GöteborgsOperan のCOVID-19隔離向けのストリーミングから、 Stoic [鑑賞メモ] に続いて公開された Sidi Larbi Cherkaoui 振付作品を観ました。

GöteborgsOperan
Recording from 2016/2017.
Choreography, composition: Sidi Larbi Cherkaoui
Set design: Antony Gormley; Costume design: Jan-Jan Van Essche; Light design: David Stokholm; Dramaturgy: Antonio Cuenca Ruiz; Clay masters: Matilda Haggärde, Joel Stuart-Beck
Musicians: Anna Sato (song, sanshin [traditional Japanese pick instrument]), Patrizia Bovi (song, harp), Gabriele Miracle (percussion, guitar, piano), Kazunari Abe (shinobue [traditional Japanese flutes], taiko [percussion]), Woojae Park (geomungo, yanggeum [traditional Korean string instruments]).
Dancers from GöteborgsOperans Danskompani: Frida Dam Seidel, Mai Lisa Guinoo, Janine Koertge, Ekaterina Shushakova, Satoko Takahashi, Jim De Block, Takuya Fujisawa, Toby Kassell, Maxime Lachaume, Micol Mantini, Pascal Marty, Michael Munoz, Oleg Stepanov, Ján Špoták
Dancers from Eastman: Georgios Kotsifakis, Kazutomi Kozuki, Elias Lazaridis, Nicola Leahey, James Vu Anh Pham, Patrick Seebacher.
Producer: GöteborgsOperans Danskompani, Eastman.
Premiere: 21 October 2016, Göteborgsoperan, Göteborg, Sweden.
GOfilm (GöteborgsOperan film) URL:https://gofilm.se/en/icon

Cherkaoui が GöteborgsOperans Danskompani に振付した Noetic に続く三部作の第二作です。 最終作が Stoic となります。

現代美術の文脈で知られる美術作家 Antony Gormley による3.5トンの粘土を使った美術に惹かれて観て観た所もあったのですが、 踊りながら粘土の形を変えていくため、造形として Gormley の作家性が出た造形が楽しめるというわけではありませんでした。 その一方で、粘土は可塑的でダンサーの動きへの制約はほとんど無く、物に発想する動きが楽しめたわけでもありませんでした。

そんなこともあってか、むしろ音楽に惹かれた作品でした。 Anna Sato (里アンナ) の奄美島唄と Patrizia Bovi (ex-Quartetto vocale di Giovanna Marini) のイタリア民謡 (中部から南部、シチリアにかけての伝統的な歌) やヨーロッパ中世の歌曲が、 付かず離れず、そして、最後に重なり合います。 その歌声はその地域性を強く感じさせるというより、むしろ、無国籍な歌の響きのようでした。

作品のテーマは宗教指導者や政治家、ポップスターやロールモデルなどの象徴的な人物像としての icon とのこと。 粘土で冠や面のようなものを作って被ったり、半ば横臥するように座った女性ダンサーを粘土で覆ったり、というのはテーマを意識したものでしょうか。 前半の衣装は、 キモノガウンや袴に着想したような服が目立つ彩度を抑えたジャポネスクで、 動きも少々東洋的なものを意識したものに感じられました。 中盤に衣装を変え、明度彩度の高い単色のシャツとパンツになりました。 ここでは、ポップな曲に合わせての群舞も見せました。 ラストは肌色のスポーツ下着のような衣装で、粘土の合間を這い回るような動きを多く見られました。

これで、GöteborgsOperans Danskompani の Cherkaoui 三部作のうち、2作を観ることができました。 ここまで来たら、残す Noetic もぜひ観たいものです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

いくら在宅勤務でも平日の晩にまとまった時間は取りづらく、2〜4時間くらいの長尺の作品が多いオペラやバレエを観るのは厳しいわけですが、1時間程度の作品であれば、なんとかなりますね。 たまには平日晩にも時間を作って観たいものです。

[3839] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jun 7 20:40:21 2020

COVID-19感染拡大のため2月末頃から首都圏の美術館は閉館になってしまっていたのですが、 5月25日の非常事態措置の解除に伴い、再開の動きがあります。 というわけで、この週末は約3ヶ月ぶりに美術館へ。 まだ開いている所は多くないのですが、そんな中で再開したこの美術館へ土曜午後に行ってきました。

Moriyama Daido's Tokyo: ongoing
東京都写真美術館 3階展示室
2020/06/02-2020/09/22 (月休;月祝開,翌平休;8/10,9/21開;8/11休) 10:00-18:00 (木金 -20:00)

1970年前後に写真同人誌『provoke』参加し「アレ・ブレ・ボケ」と呼ばれる作風で 街中、特に歓楽街をスナップショットで捉えた写真で知られる 森山 大道 の、主に2010年代以降の作品による展覧会です。 正直に言えば作風はあまり好みではないのですが、それでも、最初のギャラリーに展示された コントラスト強く粒子の粗い大判のプリントは、その質感に強い印象を受けます。 多くの写真をぎっしり並べた『ongoing』は一枚一枚の印象が薄れてしまうものでしたが、 そんな中では、東京芸術劇場前池袋西口広場でのヘブンアーティスト (大道芸) を撮ったものに目が止まりました。 モノクロで切り取られてこの文脈で並べられることでのいつも観ている印象との違い (アングラ的な雰囲気が強調される) もあって、意外さを感じました。

Photography and Fashion Since the 1990s
東京都写真美術館 2階展示室
2020/03/03-2020/05/102020/07/19 (月休;月祝開,翌平休) 10:00-18:00 (木金 -20:00)
Anders Edström, 高橋 恭司 [Kyoji Takahashi], Elein Fleiss × 前田 柾紀 [Yukinori Maeda], PUGMENT, ホンマタカシ [Takashi Homma].

資生堂の文化誌『花椿』の編集者 林 央子 氏の監修による。 ファッション写真の展覧会というより、写真というメディアを使いつつも、 少数部発行の雑誌などをベースしたインデペンデントなビジネス/ライフスタイルや コンセプチャルな制作に焦点を当てたような展覧会でした。 現代アートもそうでしたが、90年代以降、表現の重心が造形からコンテクストに大きく振れたことを、 この写真とファッションの展示も反映しているように感じました。 今の自分の興味からは若干すれ違った感もありましたが、 1990年代以降のこのような動きはほとんどフォローしていなかったのでキーパーソンを知ることができたのは良かったでしょうか。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

在宅勤務中もほぼ毎日、散策を小一時間続けてきたのですが、それでも足腰の衰えは否めません。 展覧会を観ている間は立ちっぱなしなわけですが、これが地味にキツかったです。 感染対策でスツールやソファの類はほとんど撤去されていて、休むことができる場所も限られていますし。 暫くは要リハビリでしょうか。

土曜の晩はライブストリーミングで Tomoko Mukaiyama A Live vol.2。 5月1日に観た Tomoko Mukaiyama & Reinier van Brummelen Super T: A Live に続く月例ストリーミングの第2弾です。 演奏したのは、原美術館でのコンサートで聴いた Simeon ten Holt: Canto Ostinato。 空間を特定できないような真っ白というか無彩色の空間を背景に、執拗にフレーズを反復します。 わずかずつ空間の照明が落ちて、いつの間にか手元と譜面台のみに光が当たるようになったりと、 ミニマリスティックな演出もありますし、大写しにしたピアノの鍵盤が別世界に誘ったり。 ラストはカメラがスタジオの外に出て抽象的な空間を異化して終わります。 スタイリッシュでしたが、家で観るにはミニマリスティックに過ぎて、集中するのが難しかったです。

[3838] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jun 1 1:02:04 2020

COVID-19の緊急事態措置は解除になったものの、まだ展覧会、公演はほとんど開催されていないので、 この週末土曜も午後は自宅でストリーミング鑑賞。 ロンドンのコンテンポラリーダンスの拠点 Sadler's Wells のCOVID-19隔離対応ストリーミング Digital Stage で現在公開中のこの作品を観ました。

Sadler's Wells, London.
October 2015.
Artistic Director and Designer: Hussein Chalayan. Choreographer: Damien Jalet.
Choreography in collaboration with the dancers: Aimilios Arapoglou, Amy Bell, Navala 'Niku' Chaudhari, Aliashka Hilsum, Edouard Hue, Lisa Kasman, Stephanie McMann, Erik Nevin, Inpang Ooi, Mickael 'Marso' Riviere, Louise Tanoto, Majon van der Schot, Jack Webb.
Lighting Designer: Natasha Chivers. Video Design & Projection Mapping: Nick Hillel / Yeast Culture. Sound Illustrators: Mode-F. Assistant Director; Melih Yoru.
Produced by Sadler's Wells, London. Co-produced with Théâtre National de Chaillot, Paris.
Premiere: 28 October 2015, Sadler's Wells, London.
Filmed by Xenoki. Cameras: Deborah May, Mark Morreau. Editor: Deborah May. Producer for Xonoki: Annie McGeoch.
Sadler's Wells Digital Stage URL: https://www.sadlerswells.com/whats-on/2020/digital-stage-hussein-chalayan-gravity-fatigue

キプロス出身のトルコ系で現在はイギリスを拠点に現代アートの文脈でも活動するファッション・デザイナー Hussain Chalayan の初のダンス作品です。 Chalayan についてはアート作品は国際企画展の中で何回か観たことがある程度で その作風が強く印象に残っているという程では無かったのですが、 Sidi Larbi Cherkaoui [関連する鑑賞メモ] とのコラボレーションの多いベルギーのダンサー/振付家 Damien Jalet [関連する鑑賞メモ] の振付ということで、観てみました。

ナラティヴというか物語性のある展開はなく、 服や布に着想した動きの短いスケッチをつなげた約1時間15分の作品です。 ファッションショーのように服を見せる際にダンスで演出するような舞台ではなく、 造形的な服から動きを着想したり、面白い動きになるような服を造形したり、と、 服の造形とダンスのインタラクションが期待以上に楽しめました。 天井から垂らした十数本のロープのような道具やプロジェクションマッピングなども使いましたが、 それも控えめに服の造形と動きに焦点を当てたミニマリスティックな演出も良かった。 しかし、短いスケッチが展開なしで短いスケッチが繋がっていくという全体構成は、 多様なアイデアを感じられたというより、ちょっと散漫で単調に感じられました。

伸縮性の素材で作られたレオタード風の衣装に長いループ状の幅広の伸縮性の帯を付け、 その帯のもう一方にもダンサーを絡めて引っ張り合うことで、造形的な面白さを作り出すところなど、 広報用のスチル写真に多用されるのも納得でしたが、 しかし、すぐに暗転して細かく場面を切っていくので、むしろ動きが乏しく感じられてしまいました。

造形、動きの両方の面白さという点では、 口が隠れるほどのネックの大きめのハードなショートコートのようなトップスを着た女性ダンサー3人が、 ボトムの白いシフォンのスカートをゆらゆら揺らすダンスの場面。 この場面に続いて、そこに黒のコートの男性2名女性1名のダンサーが加わり、 コートの上半を脱いで裏返すとスパンコールがついていて、それを煌かせながら旋回舞踊する場面への展開が、最も印象に残りました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

Gravity Fatigue を観る前、 彩の国さいたま芸術劇場での公演が中止になった コンドルズが、その代わりに、 埼玉新作ビデオダンス2020『I Want To Hold Your Hand』 をストリーミングしたので、土曜14時のプレミア公開に合わせて観てみました。 ライヴではなく制作済みのもののストリーミングですが、手作り感の強い演出の30分の作品でした。 この緩さも彼ららしいでしょうか。

COVID-19の感染拡大の影響で献血に協力する人が急減しているというニュースは目にしてたものの、 自宅から徒歩1時間圏に献血ルームがないので控えていたのですが、 電車での移動がさほど憚られなくなったので、日曜は渋谷に出て献血をしてきました。 予約してなかったのですが、残念ながら空いていて、ほとんど待たずに献血できました。

せっかく渋谷に出たので、ついでに春夏物の服の買い物を遅ればせながら。 このままでは今シーズンは買いに行けないかもしれないと思ってただけに、行けて良かった。 普段ならワードローブ計画に基づいて厳選するところですが、 こういう状況なので、迷ったら両方とも買う、コーディネートして小物も買う、の勢いで買いましたよ。

自分の行くショップは普段から混むことは滅多にないですが、周辺も含め流石に客は少なかった。 というか、むしろ武蔵小杉駅周辺の方が混んでいたような。 東横線も日曜午後とは思えない空きっぷりで、週末の人の動きはまだまだなんだな、と。

[3837] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Thu May 28 23:25:34 2020

COVID-19で外出自粛な先週末土曜23日の午後は自宅でストリーミング鑑賞。 スウェーデン第二の都市イェーテボリ (Göteborg) の歌劇場もCOVID-19隔離向けのストリーミングを行なっています。 この歌劇場のレジデントの舞踊団 GöteborgsOperans Danskompani [Gothenburg opera’s dance company] は、 コンテンポラリーダンスを主なレパートリーとしていることで知られます。 そんなレパートリーの中から Sidi Larbi Cherkaoui [関連する鑑賞メモ] 振付の作品がかかったので、観てみました。

GöteborgsOperan
Recording from 2018/2019.
Choreography, composition: Sidi Larbi Cherkaoui
Set and costume design: Hans Op de Beeck; Musical direction, composition: Felix Buxton; Lighting design: David Stokholm; Choreographer's assistant: Shawn Fitzgerald Ahern.
Music written and performed by: Kaspy N'dia (vocals, guitar), Mohammed El Arabi-Serghini (vocals, percussion), Samy Bishai (violin, viola, sound effects), Gabriele Miracle (piano, guitar, percussion), Tsubasa Hori (piano, koto, drums).
Dancers from GöteborgsOperans Danskompani: Takuya Fujisawa, Sabine Groenendijk, Toby Kassell, Janine Koertge, Maxime Lachaume, Waldean Nelson, Riley O’Flynn, Anna Ozerskaia, Dorotea Saykaly, Endre Schumicky, Frida Dam Seidel, Danielle de Vries, Joseba Yerro Izaguirre, Micol Mantini.
Dancers from Eastman: Shawn Fitzgerald Ahern, Kazutomi Kozuki, Nicola Leahey, Princess Madoki, Patrick Seebacher.
Producer: GöteborgsOperans Danskompani, Eastman.
Premiere: 12 October 2018, Göteborgsoperan, Göteborg, Sweden.
GOfilm (GöteborgsOperan film) URL:https://gofilm.se/en/stoic

Cherkaoui が GöteborgsOperans Danskompani に振付した Noetic, Icon に続く 三部作の最終作です。前二作は観ておらず、三作通してのコンセプトは掴めていません。

舞台は、図書館と美術ギャラリーを無彩色にしたような空間。これが「ストイック」を象徴しているでしょうか。 「ストイック」と対比されるのが依存症で、セックス、タバコ、酒、SNS、ドラッグなどがダンスで表現されつつ、それがダンスをぶった切るような演説的な語りで異化されるような演出です。 そんな語りもあってか、舞台の上で「ストイック」とは何かを語り合うかのように感じたダンス作品でした。 ちょっと観念的で、Cherkaoui の得意とする物に着想する動きがほとんど感じられず、物足りなく感じました。

動きにはバレエ的なイデオムはほとんど見られず、冒頭には vogueing に着想したと思われる群舞もありました。 使われる音楽も、モロッコ古典音楽を主軸に、アフリカ (コンゴ)、アジア (日本)、キリスト教の聖歌など、多文化を意識したものになっていました。 しかし、いろいろ並べ過ぎて、逆に印象薄めてしまったようにも感じました。

トレイラーやスチルを観ている限りでは、GöteborgsOperans Danskompani の Cherkaoui 三部作の中では Noetic [Vimeo trailer] のシンプルかつ物を使った動きなどがとても好みだったのですが、 気づいた時にはストリーミングが終わっていて、見逃してしまいました。 Icon [Vimeo trailer] も美術が Antony Gormley ということで気になります。 公演で観るのは難しいにせよ、映像で三部作を観てみたいものです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

土曜の晩は、Dance Base Yokohama (DaBY) の Instagram Live で、 Noism 芸術監督 金森 穣 [関連する鑑賞メモ] と 小㞍 健太 [関連する鑑賞メモ] の対談を聴いていました。 さほど期待していなかったのですが、ストイックで厳しそうな印象を受ける 金森 ですが、 リラックスした和やかな様子は大変に意外で、期待より楽しめて、ちょっと聴いてみるかというつもりが、最後まで聴いてしまいました。 昼に GöteborgsOperans Danskompani のストリーミングをちょうど観ていたので、 Göteborg (当時はまだ Göteborg Ballet) での話が出てきて、妙な符合を感じてしまったり。

[3836] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Wed May 6 23:33:19 2020

『くものうえ⇅せかい演劇祭2020』で Olivier Py の舞台作品を観た勢いて、 去年7月にDVDで観て鑑賞メモをツィートしっぱなしにしていたのを、 このサイトにまとめておくことにしました。

Dialogues des Carmélites
(Erato, 08256 462206 9 4, 2014, 2DVD)
Compositeur: Francis Poulenc
Livret de Francis Poulenc. Texte de la pièce de Georges Bernanos, adapté avec l’autorisation d’Emmet Lavery, d’après une nouvelle de Gertrude Von Le Fort 
et d’un scénario du R. P. Brückberger et Philippe Agostini.
Mise en scène: Olivier Py
Scénographie (décor et costumes): Pierre-André Weitz; Lumières: Bertrand Killy.
Avec: Patricia Petibon (Blanche de la Force), Sophie Koch (Mère Marie de l’Incarnation), Véronique Gens (Madame Lidoine), Sandrine Piau (Sœur Constance de Saint Denis), Rosalind Plowright (Madame de Croissy), Topi Lehtipuu (Le Chevalier de la Force), Philippe Rouillon (Le Marquis de la Force), François Piolino (Le Père confesseur du couvent), Annie Vavrille (Mère Jeanne de l’Enfant Jésus), Sophie Pondjiclis (Sœur Mathilde), Matthieu Lécroart (Thierry, le médecin, le geôlier), Yuri Kissin (Le second commissaire, un officier), Jérémy Duffau (Le premier commissaire).
Direction: Jérémie Rhorer.
Orchestre National de France; Chœur du Théâtre des Champs-Elysées, Alexandre Piquion (chef de chœur).
Un spectacle produit par Le Théâtre des Champs-Elysées / Le Théâtre Royal de La Monnaie, Bruxelles.
Filmé au Théâtre des Champs-Elysées Le 21 décembre 2013. Réalisation: François-René Martin

6月に Met Live in HD で観て良いと思っていた所、 Olivier Py [鑑賞メモ] の2013年のプロダクションがあることを知って、DVDで観てみました。

フランス革命末期の恐怖政治の時代に殉教したコンピエーヌの16名のカルメル会修道女の実話をベースに、 彩度明度を抑えた演出で物語にある 不条理の下で尊厳を持って生きる/死ぬことはどういうことなのか問うかのような緊迫感を感じさせつつ、 光の使い方が美しく、interlude などでの象徴的な話の運び方も巧みでした。 修道女服以外はフランス革命時代ではなく現代的でシンプルでミニマリスティックなスーツだったりワンピースドレスだったりしましたが、 舞台を現代に置き換えたのではなく、むしろ特定の時代を感じさせないような演出と感じました。

最初の見所は、Acte I 最後 4ème tableau の Madame de Croissy の死の場面。 死の床を高い位置に立て置く演出が視覚的に面白かった。 下からの照明は窓から差し込む日ということを表しているだけなく、 が観客から見づらい家具を浮かび上がらせ、Croissy の表情も不気味に浮かび上がらせます。 そして、その中で、Blanche と Madame de Croissy が手を伸ばし会うことにより、 Blanche の身代わりの死を象徴的に表現していました。

次の見所は、やはり、Acte II の 3ème tableau、一緒に海外に亡命しようとやってきた兄 Le chevalier とそれを拒む Blanche の場面です。 Py の演出では、手を取ったり、兄を抱きしめたりと、Blanche が葛藤する様子がドラマチックに演出されます。 そしてそれを Patricia Petibon は歌いながらも棒立ち気味にならずに全身で演じます。 2013年の Théâtre des Champs-Elysées の trailer [YouTube] でこの場面が使われたのも納得です。

最後の見所は、もちろん、ラストの Salve Regina ですが、そこに至るまでの展開が良いです。 3ème tableau の光を使った監獄の表現も美しく、 interlude でのこれから殉教だと示す象徴的な活人画的表現を経て、 4ème の Salve Regina は現実味を排し既に彼女たちは天に登っているかのよう。 そして、ラスト、Blanche が星空に登って消えていくような余韻を残します。

作品本来の良さを損なうことなく抽象度を高め、視覚的に美しく、 John Dexter の演出よりも遥かに自分の好みの演出でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

ちなみに、この Olivier Py 演出による Dialogues des Carmélites、 COVID-19隔離向けのストリーミングとして、 ベルギー・ブリュッセルの Théâtre Royal de La Monnaie無料ストリーミング中です [YouTube]。 初演時の共同制作の劇場だけあって、主要なキャストはDVDとほぼ同じ、Blanche を演じているのは Patricia Petibon です。 比べてみるとDVDよりも曲のテンポが少し遅めに演奏されているようです。 これはお薦めです。 もう一つ、イタリア・ボローニャの Teatro Comunale di Bologna も この Olivier Py 演出のものをストリーミングしています [YouTube]。 こちらもキャストはDVDとかなり重なっていますが、Blanche を演じているのが Petibon ではありません。 比べてみると、Petibon の演技が凄かったのだなあ、と。

[3835] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Wed May 6 19:45:46 2020

例年ゴールデンウィーク中に開催されるSPAC静岡県舞台芸術センターのフェスティバル 『ふじのくに⇄せかい演劇祭2020』 と関連企画の 『ふじのくに野外芸術フェスタ2020静岡』 はCOVID-19流行のため中止。 その代わりに、YouTube、Vimeo や「観劇三昧」などの映像配信サービスや、 ウェブ会議サービス Zoom などを駆使した 『くものうえ⇅せかい演劇祭2020』を 本来の会期で開催しています。 トーク企画や上演予定だった演出家による短編の特別映像や映画作品の配信が多いのですが、 5月2日は本来上演予定だった2作品の Festival d'Avignon 上演時の映像の配信だったので、 昼と晩にそれらを観ました。

オリヴィエ・ピィのグリム童話 『愛が勝つおはなし 〜マレーヌ姫〜』
Gymnase du lycée Mistral, Avignon
5 July 2019.
Texte, mise en scène et musique: Olivier Py
Avec: Clémentine Bourgoin, Pierre Lebon, Flannan Obé, Antoni Sykopoulos
Scénographie, costumes, maquillage: Pierre-André Weitz; Lumière: Bertrand Killy; Arrangements musicaux: Antoni Sykopoulos
Construction décor: Ateliers du Festival d'Avignon; Confection costumes: Ateliers de l'Opéra de Limoges.
Production: Festival d'Avignon
Coproduction Opéra de Limoges, Opéra de Lausanne, Scène nationale du Sud-Aquitain (Bayonne), Théâtre Georges-Leygues (Villeneuve-sur-Lot).
Première: 5 July 2019, Gymnase du lycée Mistral, pour la 73e édition du Festival d'Avignon.
Festival d'Avignon webTV URL: https://www.festival-avignon.com/fr/webtv/L-Amour-vainqueur-Captation-integrale
Vimeo URL: https://vimeo.com/413407106 (日本語字幕付き)
字幕翻訳: 西尾 祥子; 字幕監修: 戸田 史子.

現在 Festival d'Avignon の芸術監督を務めるフランスの演出家 Olivier Py によるグリム童話に基づく作品の4作目です。 と言っても、自分が観るのは『ふじのくに⇄せかい演劇祭2016』で観た La Jeune Fille, le Diable et le Moulin [鑑賞メモ] に続いてです。

マレーヌ (マーレン) 姫の話はこの作品の予習を通して知った程度。 話はかなり変えられていたようで、 戦争へ行きたくない庭師と戦争で活躍したい皿洗い女というジェンダーを入れ替えたようなカップルを加えたり、 マレーヌ姫が下女としてではなく旅芝居の役者として王子の国に訪れるという設定にして演劇に対するメタな言及を加えたり、 象徴的な (最後に懲らしめられる) 悪役として死の商人的な男を加えたり、と話は膨らまされていました。

童話にしてはアクティヴなお姫様ですし、庭師や皿洗女のやりとりも楽しみましたが、 やはりこの舞台の魅力は、 セリフを交えつつも歌って楽器を演奏して (演出ノートによるとオペレッタ形式) 少々道化芝居っぽく (演出ノートによると人形劇を意識したよう) 演じる形式です。 ほぼ同様の形式での演出ですが、 La Jeune Fille, le Diable et le Moulin の音楽はフランスのフォーク (民族音楽) に着想していたように聞こえましたが、 ピアノ伴奏もあっていわゆるシャンソンというか戦間期頃のポピュラーソングに着想していたよう。 使われていた戦争のイメージも、音楽と同じ時代、軍服の形はもちろん、機関銃や大砲はあるけれども戦車や航空機が活躍する戦場ではない第一次世界大戦を参照していたよう。 そんな時代設定も絶妙に感じられました。

Satoshi Miyagi: Antigone
Cour d'honneur du Palais des papes, Avignon
6 July 2017.
構成・演出: 宮城 聰
キャスト: 美加理, 本多 麻紀, 赤松 直美, 阿部 一徳, 石井 萠水, 泉 陽二, 大内 米治, 大高 浩一, 加藤 幸夫, 貴島 豪, 榊原 有美, 桜内 結う, 佐藤 ゆず, 鈴木 真理子, 大道無門 優也, 武石 守正, 舘野 百代, 寺内 亜矢子, 永井 健二, 布施 安寿香, 牧山 祐大, 三島 景太, 宮城嶋 遥加, 森山 冬子, 山本 実幸, 吉植 荘一郎, 吉見 亮, 若菜 大輔, 渡辺 敬彦.
作: ソポクレス [Sophocle] 訳: 柳沼 重剛; 音楽: 棚川 寛子; 空間構成: 木津 潤平; 衣裳デザイン: 高橋 佳代; 照明デザイン: 大迫 浩二.
製作: SPAC-静岡県舞台芸術センター; 共同製作: アヴィニョン演劇祭.
演劇三昧 URL: https://v2.kan-geki.com/streaming/play/1025

2017年の『ふじのくに⇄せかい演劇祭2017』は都合が合わず (引越のため) 行かれなかったので 今回の再演で観れることを楽しみにしていたのですが、つくづく縁の無い作品です。 映像では観られましたが、水を張ったステージを生で観てみたかった、とか、 教皇庁中庭の壁に影を投影する演出は駿府城公園特設ステージではどうするつもりだったんだろう、とか、考えながら観ていました。

トーカーとムーバーを分けたり、様式的な所作、コロス的なセリフ使いなど、宮城 聰 / SPACらしい演出だとは思いましたが、 野外で広く空間を使うパフォーマンスは、生でないとなかなかその世界に没入し難いものです。 高い位置から俯瞰するような全体像がわかりやすいカメラアングルも多用されていましたがそれでは動きが乏しく、 ムーバーやトーカーに焦点を当ててしまうと全体として何が起きているのもわからないという。 物語の世界に入るというより音楽として聴いている感が強くなってしまいました。 音中心に聴いたせいか、今まで観た中で、セリフの反復など、音がもっとも Meredith Monk にも近く感じました。

And now for something completely different...

期間中、この2つの劇場中継的な配信以外にも、トークや映画、特別映像作品などのストリーミングを観たのですが、 問題意識がすれ違っていることもあるのか特に面白いと感じるものはありませんでした。 また、自分にとって、『ふじのくに⇄せかい演劇祭』に行く、 特に 宮城 聰 / SPAC のステージを有度や駿府城公園特設ステージで観るというのは、 単に作品を鑑賞するというより、 そこまで行くという行程や開演を待つ間や終演後の劇場終焉の雰囲気を感じることを含めて (知り合いに会うことも滅多になく特に社交的なことをしていたわけでは無いのですが)、 お祭りに行くという方が相応しい体験だったのだなあ、と、映像を通して観ていて、つくづく実感しました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3834] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue May 5 19:40:10 2020

COVID-19隔離への対応としてのストリーミングは、ダンスやオペラ、演劇だけではありません。 ARTE Concert などで過去のコンサートの映像を観たりもしていますが、 5月1日金曜の晩はライヴで行われたこのコンサートのストリーミングを観ました。

Tomoko Mukaiyama & Reinier van Brummelen
Super T: A Live
Muziekgebouw aan 't IJ, Amsterdam
2020/04/01 22:00-23:00 JST
Program: Yannis Kyriakides, La Mode (piano & electronic).
Concept & design: Tomoko Mukaiyama, Reinier van Brummelen
Piano: Tomoko Mukaiyama; Director: Reinier van Brummelen.
Live stream: LUFTZUG; Sound engineer: Yuji Tsutsumida; Cameras: Floris van der Lee, Stef van Wijk, Simon Ruesink.
YouTube URL: https://www.youtube.com/watch?v=9f2u1OZ8KFI

2020年12年5日にアムステルダム Muziekgebouw aan 't IJ で、 2021年6月に表参道スパイラル・ホールで予定されている 向井山 朋子 [Tomoko Mukaiyama]SUPER T-market Amsterdam X Tokyo のプレイベントとして、 SUPER T : A Live と題しての無観客コンサートがストリーミングがありました。 向井山 朋子 の映像空間演出とのコラボレーションは度々観ているので [鑑賞メモ1, 2]、 今回はどんな様子だろうという興味を持ってみました。

今回はシネマとグラファーにして映像や照明を使ったインスタレーションも手がけるビジュアルアーティストの Reinier van Brummelen とのコラボレーションです。 奥行きのある広い舞台の中央に grand piano が一台あるのみ、 舞台の後方及び左右の壁の残響調整用のスリットパネルの裏側にLED照明を仕込んで、 音楽の展開に合わせてゆっくりと点滅させた、光を脈動、流動させていきます。

演奏した曲はギリシャ系でオランダ在住の Yannis Kyriakides (The Ex の Andy Moore とのデュオなどの活動があるサウンドアーティスト) による La Mode。今回の演奏がオランダ初演とのこと。 音の強弱、高低の間をゆらゆらと煌めき揺らめくような piano と控え目に響く電子音に、 彩度低く白っぽく寒色を基調とした色合いの抽象的に光が瞬くようなインスタレーションがマッチしたパフォーマンスでした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3833] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon May 4 18:54:14 2020

イギリス・ロンドンのコンテンポラリーダンスの拠点として知られる Sadler's WellsDigital Stage と題してCOVID-19隔離への対応としてのストリーミングをしています。 そんな中から4月25日晩にこれを観て観ました。

Sadler's Wells (streaming)
2020/04/24-2020/05/01.
Production: Sadler's Wells
YouTube URL: https://www.youtube.com/watch?v=YRct7defoiU
Valse Triste
Choreographer: Alexei Ratmansky
Dancers: Natalia Osipova, David Hallberg
Music: Jean Sibelius, Valse Triste
World Premiere: 12 September 2018, Sadler’s Wells
Choreographer: Sidi Larbi Cherkaoui
Dancers: Natalia Osipova, Jasen Kittelberger, James O'Hara
Music: Felix Buxton, Fahrettin Yarkin, Sufi Vocal Masters, Mono & World's End Girlfriend
World Premiere: 29 June 2016, Sadler’s Wells
Ava Maria
Choreographer: Yuka Oishi
Dancers: Natalia Osipova
Music: Franz Schubert, Ave Maria, Ellens Gesang III, D. 839, Barbara Bonney & Geoffrey Parsons.
World Premiere: 12 September 2018, Sadler’s Wells

The Royal Ballet の principal ballerina、Natalia Osipova をフィーチャーした Sadler's Wells の制作による作品の映像から構成した、仮想のトリプルビルです。 Pure Dance と題した2018年初演、2019年リバイバルの公演から Valse TristeAve Maria、 そしてその間に、2016年初演の Qutb を挟んだ構成です。

Alexei Ratmansky の Valse Triste はクラシカルな身体表現を身体能力でアップデートしたような抽象バレエ。 男女で踊りますが、ロマンチックな要素は控えめ。 フォーク的な要素はありませんでしたが、シンプルなワンピースドレスのような衣装もあって、 Ratmansky 振付の Russian Seasons [鑑賞メモ] から男女で踊る部分を抜き出したよう。

続く Sidi Larbi Cherkaoui の Qutb は バレエ的な要素を感じさせない。コンテンポラリーの作品。 コンセプトによると、自然災害の犠牲者、 Natalia Osipova が金星、James O'Hara が地球、Jason Kittelberger が火星も表しているとのことですが、そこまではピンと来ることはなく。 しかし、イスラム神秘主義 sufi の歌唱に合わせて絡み合うジェンダーを感じさせない3人の筋肉質の肉体が印象的でした。

最後の Yuka Oishi の Ave Maria は Schubert の有名な歌曲に合わせてのソロで、抽象的なバレエというより聖女を演じる独り芝居のよう。 Medusa [鑑賞メモ] の最後に見せたソロダンスにも近い尊さを感じました。

自分にとっては MedusaAnastasia [鑑賞メモ] で見せたような、 内面に狂気というかトラウマや妄想などを抱えたようなキャラクタを演じる Osipova の印象が強いのですが、 それとはまた異なる三様の作品を踊り分ける Osipova の身体能力演技力はさすがと、改めて感じたトリプルビルでした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3832] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Wed Apr 29 19:44:38 2020

COVID-19隔離への対応として、公共劇場やメジャーなダンスカンパニーだけでなく、 ダンサーがほとんど個人制作に近い形でのストリーミングをしているものもあります。 25日土曜の昼過ぎに、そんな中からこれを観てみました。

『ジゼル特別30分版』
2020/04/25, 14:00-14:30.
YouTube URL: https://www.youtube.com/watch?v=qqVIQ8cNlps

2009年からコンテンポラリーダンスの文脈で活動するダンサー・振付家です。 今まで観たことが無かったのですが、最近はオペラ作品の振付も手がてているようでしたので (近い予定では今年7月の 二期会オペラ Lulu)、 どんな作風なのかという興味もあって観てみました。

もともと、4/24-26に神奈川県立青少年センター スタジオHIKARIで上演する予定だった ロマンチック・バレエ作品 Giselle に基づく作品を、 ストリーミング向けの特別版に仕立て直した映像です。 スタジオでの上演の様子ではなく、取り壊し直前という生活の痕跡の残る木造民家を舞台としていました。 約30分の間、美術や照明の仕込みの狭い民家の中を部屋から部屋へ移動しながら踊ります。 映像はワンショットで移動しながらダンサーを追うもの。 照明や壁に書かれた絵やメッセージの異化作用はもちろん、 日常の雰囲気の残る木造民家に対するダンスの異化作用に加えて、 広角レンズで歪んで見える空間や手ブレなくヌルヌル動く視点もあって、シュールで面白く感じました。 LAND FES の日常の俗っぽい場から別世界へ連れていかれるかのような雰囲気 [鑑賞メモ] を思い出したりもしました。

バレエにはよくある酷い男の中でも筆頭格とも言える Albrecht が出てくる Giselle が元ネタで、 Albrecht の犠牲者とも言える Giselle を女性の視点から描くことは予想していたのですが、 まさか Myrtha がクラブもママとして登場するとは、その意外さもあて大ウケしてしてしまいました。

30分という長さ、ワンショットによるライブに近い感覚などもあって、没入して楽しめたように思います。 劇場公演が出来るようになった際には、映像と見比べて観たいものです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3831] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Apr 27 20:39:49 2020

海外の劇場、オペラハウスに倣って、新国立劇場も 「巣ごもりシアター」 と題して、COVID-19 対策で自己隔離している人々のためストリーミングを始めています。 第一弾の William Kentridge のプロダクションによる Die Zauberflöte 『魔笛』は 劇場で観たのでストリーミングでは観なかったのですが、 第二弾は未見だったので、4月21日晩に観てみました。

『トゥーランドット』
新国立劇場オペラパレス
July 2019
Composer: Giacomo Puccini, posthumously completed by France Alfano. Libretto by Giuseppe Adami and Renato Simoni.
指揮 [Conductor]: 大野 和士 [Kazushi Ono]; 演出 [Production]: Àlex Ollé.
美術 [Set Design]: Alfons Flores; 衣裳 [Costume Design]: Lluc Castells; 照明 [Lighting Design]: Urs Schönebaum; 演出補 [Associate Director]: Susana Gómez.
出演 [Cast]: Iréne Theorin (Turandot), Teodor Ilincăi (Calaf), 中村 恵理 [Eri Nakamura] (Liù), Riccardo Zanellato (Timur), 持木 弘 [Hiroshi Mochiki] (L'imperatore Altoum), 桝 貴志 [Takashi Masu] (Ping), 与儀 巧 [Takumi Yogi] (Pang), 村上 敏明 [Toshiaki Murakami] (Pong), 豊嶋 祐壹 [Yuichi Toyoshima] (Un mandarino)
合唱 [Chorus]: 新国立劇場合唱団 [New National Theatre Chorus], 藤原歌劇団合唱部 [Fujiwara Opera Chorus Group], びわ湖ホール声楽アンサンブル [Biwako Hall Vocal Ensemble],
管弦楽 [Orchestra]: Orquestra Simfònica de Barcelona i Nacional de Catalunya [Barcelona Symphony Orchestra].
制作 [Produced by]: 新国⽴劇場 [New National Theatre, Tokyo], 東京⽂化会館 [Tokyo Bunka Kaikan].
Premier: Teatro alla Scala, Milan, April 1926.
Premier of this production: 18 July 2019, 新国立劇場オペラハウス.
YouTube URL: https://www.youtube.com/watch?v=Qq-yp2YzKmE

演出はバルセロナの La Fura dels Baus の Àlex Ollé。 以前に cinema で観た The Royal Opera の Norma での Ollé の演出が好みだったので [鑑賞メモ]、 どんな解釈で見せてくれるか少し期待いていたのだけど、今回はさほどではありませんでした。

美術はオリエンタリズムを排した現代的なもの。 Turandot と父 Altoum こそ中国皇帝を意識したと思われる服装でしたが、純白もしくは黒白グラデーションとすることで抽象化。 Calaf, Liù そして Timur の3人はコーカサスか中央アジアのイスラム系住民の紛争難民を思わせる出で立ち。 Turandot の国の住民にしてもベトナム紛争時の難民を思わせるノンラーを被った人がいたりと、 Turandot と Calaf の物語と抑圧的な政治や紛争の暴力 (含む性暴力) とその連鎖の物語として描こうとした演出ようにも感じられました。 しかし、第二幕冒頭の Ping Pong Pang の服装が廃棄物処理か何かの防護服風で、 映像ではあまりちゃんと映らなかったのだけど、その周囲に防護服姿で消毒だか洗浄だかしている人がいたように見えたのですが、 これが何の寓意だったのか掴み損ねるなど、腑に落ちない箇所も少なからずありました。

Calaf は愛というより Turandot を「征服」するためには Liù を見捨てる冷酷な人物のように描かれる一方、 Turandot も Celef を通して愛を知るのではなく屈辱より死を選ぶというラスト。 特に第三幕後半、歌詞では愛を歌いながらも、Celef も愛など信じていないし、Turandot も Celef に愛を見ていないという、 演技が歌詞を裏切っていくかようなドライな、愛の無さ、暴力の連鎖の救いの無さを強調するかのような演出にも感じられました。

Turandot は、Berg: Wozzeck (1925年初演) [関連する鑑賞メモ] や Weill: Die Dreigroschenoper (1928年初演) [関連する鑑賞メモ] とほぼ同時代の1926年初演の作品です。 戦間期モダニズムに通じる何かがあるかもしれないということも気にしつつ観てみたのですが、戦間期らしさを感じることはありませんでした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3830] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Apr 26 20:40:07 2020

ベルギーを拠点に活動するコンテンポラリーダンスのカンパニー Rosas がCOVID-19 対策で自己隔離している人々のために Open streaming during the lockdown と題して 期間限定でストリーミングをしています (4/30までの予定)。 そんな中で、2010年、2011年と Festival d'Avignon で上演した 「ダンスと古楽 Ars Subtilior の出会い」2連作を、4月19日、20日の2晩を使って観てみました。 Ars Substilior は、14世紀フランスのパリとアヴィニョンを中心に Ars Nova が技巧化する形で生まれたということで、 アヴィニョンで初演上演する作品の音楽として Ars Subtilior を選んだと思われます。

Anne Teresa De Keersmaeker / Rosas
Cloître des Celestins, Avignon.
July 2010.
Choreography: Anne Teresa De Keersmaeker
Created with and danced by: Boštjan Antončič, Carlos Garbin, Cynthia Loemij, Mark Lorimer, Mikael Marklund, Chrysa Parkinson, Sandy Williams, Sue-Yeon Youn
Musicians: Michael Schmid (flute); Ensemble Cour & Coeur: Bert Coen (music director, recorders), Birgit Goris (fiddle), Poline Renou (voice).
Music: 1) Istvan Matuz: ...L(ÉLEK)ZEM..’; 2) Filippo da Caserta: En Atendant, souffrir m’estuet (ballade); 3) Bart Coen: Estampie En Atendant 2; 4) Johannes Ciconia: Sus un’ Fontayne (virelai); 5) anonymous: Je prens d’amour noriture (virelai); 6) anonymous: Esperance, ki en mon coeur.
Scenography: Michel François; Costumes: Anne-Catherine Kunz; Musicological advisor: Felicia Bockstael; Sound: Alex Fostier
Production: Rosas
Co-production: De Munt / La Monnaie (Brussels), Festival Grec (Barcelona), Grand Théâtre de Luxembourg, Théâtre de la Ville (Paris), Festival d’Avignon, Concertgebouw Brugge
World Première: Festival d'Avignon, Cloître des Célestins, 9 July 2010.
Réalisation: Olivia Rochette & Gerard-Jan Cleas.
Vimeo URL: https://vimeo.com/31419993

公演の様子を説明的に撮ったものではなく、アップの多用など映像作品化を前提に収録しています。 相向かい合うカメラアングルが使われているのにも関わらずカメラが写り込んでいないように見えるので、ワンテイクではないかもしれません。

アヴィニョンのセレスティン修道院の回廊という趣のある場所を舞台に、モノクロで撮影されています。 終演時には夕闇の中でほとんど見えなくなるよう日没時に合わせて上演されていて、画面も次第に暗くなっていきます。 ダンサーの捉え方は、バストアップして足元を映さなかったり、踊っている人ではなくそれを脇で観ているダンサーにクロースアップしたり、そもそも、フレームアウトしてしまう事も多くて、 全体としてダンサーたちがどのような位置関係、フォーメーションと取っているのかとか、動きの流れがどうなっているのか、とかは掴みづらく感じました。 映像作品としてはスタイリッシュで雰囲気は良いのですが、ダンス作品としての面白さ (音楽構造をどうダンス化していたのか) がわかるような映像ではありませんでした。

最初の10分はサーキュラーブリージングやマルチフォニック、ゆっくりとしたポルタメントという特殊奏法を駆使した flute の現代の作曲によるソロを、 flute を吹く奏者の頭部のアップで見せるという出だし。 Ars Substilior ですがポリフォニーではなく、リコーダーとフィドルを伴奏に女声のソロで歌われていました。 抽象的なダンス作品で音楽が重要な役割を演じているとは思いますが、演奏者はほぼ伴奏でダンスに絡むということはありませんでした。

Anne Teresa De Keersmaeker, Björn Schmelzer / Rosas & graindelavoix
Cour d'honneur du Palais des papes, Avignon.
July 2011.
Concept: Anne Teresa De Keersmaeker, Björn Schmelzer; Choreography: Anne Teresa De Keersmaeker; Musical director: Björn Schmelzer.
Created with and danced by Rosas and graindelavoix: Olalla Alemán, Haider Al Timimi, Boštjan Antončič, Aron Blom, Carlos Garbin, Marie Goudot, Lieven Gouwy, David Hernandez, Matej Kejzar, Mikael Marklund, Tomàs Maxé, Julien Monty, Chrysa Parkinson, Marius Peterson, Michael Pomero, Albert Riera, Gabriel Schenker, Yves Van Handenhove, Sandy Williams.
Music: Ars Subtilior: 1) anonyme (Codex Chantilly): Pictagore per dogmata / O Terra supplica / Rosa vernans 2) Philippot de Caserta (Codex Chantilly): Espoir dont tu m’as fayt partir 3) Solage (Codex Chantilly): Corps femenin 4) Solage (Codex Chantilly): Fumeux fume 5) Philippot de Caserta (Codex Chantilly): Par les bons Gedeon et Sanson 6) anonyme (Ms Toulouse): Kyrie 7) anonyme (Codex Chantilly): Inter densas / Imbribuis irriguis 8) Galiot / Giangaleazzo Visconti (?) (Codex Chantilly): En attendant d’amer 9) Johannes Ciconia (Codex Mancini): Le ray au soleyl 10) Jean Hanelle (Codex Torino J.II .9): Hodie puer nascitur/Homo mortalis firmiter
Scenography: Ann Veronica Janssens; Costumes: Anne-Catherine Kunz; Sound: Vanessa Court, Alexandre Fostier, Juliette Wion;
Production: Rosas
Coproduction: La Monnaie/De Munt (Brussels), Festival d’Avignon, Théâtre de la Ville (Paris), Les Théâtres de la Ville de Luxembourg, Festival Oude Muziek Utrecht, Guimarães 2012, Steirischer Herbst (Graz), deSingel (Antwerp), Concertgebouw Brugge
World Première: Cour d'honneur du Palais des papes, Festival d'Avignon, 16 July 2011.
Réalisation: Olivia Rochette & Gerard-Jan Cleas.
Vimeo URL: https://vimeo.com/43636892

翌年は Festival d'Avignon のメインステージ、教皇庁の中庭の公演を捉えたものです。 こちらの音楽も Ars Subtilior ですが楽器伴奏なしのポリフォニー、 Björn Schmelzer 率いるベルギーの古楽声楽アンサンブル graindelavoix とのコラボレーションで、 ほとんど一緒に混じりあって、ダンサーも歌い、歌手も踊ってます。 さすがに、主要なパートはそれぞれが歌い、踊るわけですが、分かりやすい役割分担や衣装等の区別がないので、渾然一体感があります。

En Atendant は夕暮れでしたが、こちらは明け方の曙の中。 朝4:30開演で、最初のうちは、夜明け前の暗がりの中で彩度の低い衣装で上演していて、色彩感がほとんど感じられません。 しかし、次第に日が出てきて、明るくなっていきます。 最後はすっかり明るくなり、赤いシャツなど彩度の高い衣装を着ているダンサーもいて、色彩感がいつの間にか豊かになっているという、視覚的な変化も面白く感じました。

Cesena は客席最上段あたりから俯瞰するように撮った図もあって、 フィールド中央に描かれた円とそれに絡めた動きなど、全体の様子もわかりやすくなっていました。 Rosas らしいとは思いましたが、Ars Subtilior という音楽に疎いせいか、音楽との関係はよくわかりませんでした。 En Atendant より分かり易いとはいえ、 クローズアップ、特に、上半身だけのショットが多用されていました。 ステロタイプに説明的な画面作りを避けているといるのだろうとは思うのですが、 ダンスは足元が重要だと思うんだけに、全身を捉えて欲しいと思いながら観ていました。

Rosas | En Atendant [Festival d'Avignon 2010] from Olivia Rochette Gerard-Jan Claes on Vimeo.

Rosas | Cesena - Festival d'Avignon 2011 from Olivia Rochette Gerard-Jan Claes on Vimeo.

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3829] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Apr 19 19:29:26 2020

今週末土曜の晩は、 イギリス・ロンドン Royal Opera House が COVID-19 対策で自己隔離している人々のため 週替わりでストリーミングで、 以前に trailer で興味を引かれていたこの作品がかかったので、早速観ました。

Linbury Studio Theatre, Royal Opera House
March 2013.
A dance-theatre adaptation after Franz Kafka.
Choreographer / Director: Arthur Pita.
Music composed and performed by Frank Moon.
Designs: Simon Daw; Lighting design: Guy Hoare;
Cast: Edward Watson (Gregor Samsa), Laura Day (Grete Samsa), Nina Goldman (Mrs. Samsa), Neil Reynolds (Mr. Samsa), Bettina Carpi (Maid / Coffee Lady / Dream Figure / Bearded Man), Amir Giles (Train Concuctor / Dream Figure / Bearded Man), Greig Cooke (Clark / Dream Figure / Bearded Man).
First performance: Linbury Studio Theatre, Royal Opera House, 19 September 2011.
YouTube URL: https://www.youtube.com/watch?v=6H6KzBu4K68

2011年に初演された Franz Kafka の短編 Die Verwandlung 『変身』に基づくダンスシアター作品です。 収録は2013年のリバイバル上演の際のもので Opus Arte からDVD化されています。 演出しているのは少々グロテスクでシュルレアリスティックな演出を得意とする ポルトガル出身でイギリスを拠点に活動する振付/演出家 Arthur Pita です。

さすが、演劇的な物語バレエを得意とする The Royal Ballet と言いたくなるほど、極めて演劇的な演出です。 様々なダンスの場面をつなぐ要素として物語の枠組みを使うのではなく、ほとんど無言劇といってよいもの。 Royal Opera House cinema ではなく National Theatre Live を観ているようでした。

Gregor Samsa の部屋と居間の間の壁は設けず、 ライティングと溝、そして壁や扉があるかのように演じて見せていました。 物語はかなり変えられていて、いきなり毒虫に変身した Gregor が登場するわけではなく、 最初の20分は Gregor が繰り返し仕事に行く場面が描かれます。 原作では旅回りのセールスマンですが、荷物も少なく、むしろ、日々通勤するサラリーマンのよう。 ブラックな上司に鬱になって引き篭もりになった息子の物語のようにも感じられました。 ラストの Gregor の死も明示的には描かず、 リンゴを投げつけられる場面はあっても、それで致命傷になったという程ではなく、 死んだというより、女中に窓の外に逃された、という感じの描き方でした。 しかし、最後の場面、家族三人は喪服だったので、Gregor の死をそのように象徴的に描いただけとも。

毒虫 Gregor を演じる Edward Watson の、被り物などを使わず、 筋肉質ながら柔軟なダンサーならではの身体を駆使した人と思えない動きは、確かにこの作品の見どころです。 次第に粘液でドロドロになっていく Gregor の身体と部屋も印象を強く残します。 しかし、厳格そうな父、喘息持ちで神経質そうな母、素直で性格良さそうな妹、肝の座った女中など、 まるで俳優のようにそのキャラクターを演じているのも素晴らしいです。 特に、 妹 Grete 役 Laura Day の演技がチャーミングで良かったです。 原作では彼女の習い事は音楽 (ヴァイオリン) でしたが、この作品ではバレエという設定で、 そのバレエの技が少しずつ上達していくという形で、原作のエンディングの「いつの間にか美しく成長していた」ということを、上手く表現していました。

原作では最初の女中は逃げ出して、妹 Grete が面倒を見て、最後、手伝い婆さんが死骸を処理します。 この作品でも Grete よき理解者ではありますが、 女中も逃げ出さず、毒虫に怯まず家事を続けていくところが、ちょっと面白く感じました。 後半で登場する下宿する三人の髭面の紳士は原作では特にユダヤ的なものを意識させられませんでしたが、 超正統派ユダヤ人の格好で、なるほどそうか描くか、と。 彼らとクレツマーで踊る場面もあり、20世紀初頭東欧ユダヤ人の不条理の話としても描いていたようにも感じました。

ポルトガル出身の Arthur Pita は “The Davie Lynch of Dance” とも言われるわけですが、 この The Metamorphosis を観て、それも納得。 2017年にも The Royal Ballet で Natalia Osipova ヒロイン役に使って Victor Sjöström 監督 Lilian Gish 主演のサイレント映画で知られる The Wind [鑑賞メモ] を ダンス作品化しています [trailer]。 去年は、Natalia Osipova と Jonathan Goddard の2人舞台で、 Hans Christian Andersen の童話に基づく作品 The Mother も上演しています [trailer]。 これらの作品も、是非、通してみたいものです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3828] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Wed Apr 15 21:55:19 2020

先の週末は土曜の晩にこの現代サーカスのストリーミングを観ました。

Peacock Theatre
9 or 10 January 2017, 1h18m.
Video edit and filming: Roswitha Chesher.
Directors: Sean Gandini and Kati Ylä-Hokkala
Lighting designer: Mark Jonathan and Guy Dickens; Dramaturg: John-Paul Zaccarini; External eye: Dominique Mercy.
Performers: Mike Antony Bell, Sean Gandini, Frederike Gerstner, Tedros Girmaye, Doreen Grossman, Kim Huynh, Antoni Klemm, Sakari Männistö, Francesca Mari, Chris Patfield, Dani Rejano, Owen Reynolds, Ben Richter, Inaki Sastre, Lynn Scott, Niels Seidel, Arron Sparks, Malte Steinmetz, Ben Richter, José Triguero, Jon Udry, Kati Ylä-Hokkala
Mezzo-soprano: Emma Carrington; Musicians: Camerata Alma Viva: Voilins: Charlotte Maclet, Gaëlle-Anne Michel, Viola: Caleb Sibley, Cello Mathieu Foubert.
Recorded live as part of the 40th anniversary of the London International Mime Festival.
Smashed was originally commissioned as a short outdoor piece for the Watch This Space Festival at the National Theatre in 2010.
Vimeo URL: https://vimeo.com/210302903

1992年に結成されたジャグリングを主な技をして使うロンドンの現代サーカスカンパニー Gandini Juggling が、 COVID-19 対策で自己隔離している人々のため、そして、 COVID-19感染爆発でツアーを中止せざるを得なくなったジャグラー達ための 募金活動の一貫として、 過去の公演の動画を公開しています。 その第一弾として公開されたのが、彼らの代表作 Smashed。 2010年に初演されて以来、上演を繰り返すうちに変わってきているようですが、 今回公開されたのは、2017年に London International Mime Festival で上演された、 男性15名女性6名ものジャグラーを使い、弦楽四重奏団とオペラ歌手まで伴奏に加えての、 約80分と長い特別版です。 Smashed はトレイラー [Vimeo] も良く、 以前から公演を観てみたいと思っていた作品でした。

個々のジャグラーの技と個性に頼るのではなく、 男性15名、女性6名のジャグラーのアンサンブルとして、 また約80分はいくつかの場面からなるのですが、イメージを統一した演出がされています。 Pina Bausch オマージュ作品として知られているわけですが、 トレイラーから受ける印象ほどにはその色は強くありませんでした。 マスゲーム的展開を避け、大きなストーリーは無いものの断片的に台詞なしの演劇的な展開を含め、 80分を構成する参照点の一つのように感じました。 笑いを誘う場面もあるわけですが、そのセンスはむしろイギリス的でしょうか。 少々ノスタルジックな選曲とか含めて、オーソドックスにバラエティ的と感じる時もありました。

前半、男女が複雑に手を絡めつつ、時にダンスホールドのように組んで3つ玉ジャグリングして、 それが2組が絡む形になって、さらに大人数という展開は、 球数を増やして難易度を上げるのとは違ったパズル的な動きの妙を楽しめました。 音楽使いでは、中盤に mento (1950-60sのジャマイカの folk のスタイルの一つ) の名曲 “Jamaica Farewell (aka Kingston Town)” を使った所が最も好み。 オペラ歌手と弦楽四重奏団が登場し手から、次第に舞台の上が荒れてきて、 ジャグリングで使っていた林檎が潰れていき、ティーカップやティーポットが割られて カオスティックになって終わるという展開も良いです。

Met Opera live in HD Season 2019/20 の Akhnaten [鑑賞メモ] の幕間インタビュー映像で、 Gandini Juggling を主宰する Sean Gandini と Kati Ylä-Hokkala の顔を覚えたこともあり、 複雑に腕を絡めてのジャグリングなどのキーポイントを2人が押さえていることなど、観て気づくことが出来たのも収穫でした。

Smashed Peacock from Gandini Juggling on Vimeo.

[この鑑賞メモのパーマリンク]

先週末土日は明和電機が ホールで開催予定だったイベントを YouTube で無料ストリーミングしていたので、観てしまいました。 最後に明和電機のイベントを観たのは2000年代頭でしょうか。 ということは15年ぶりとかそんなところでしょうか。 最近はほとんどチェックしなくなってしまいましたが、こうして再び観ることができたのもストリーミングのおかげでしょうか。 ウェルメイドではなく、準備万全というよりやっつけ本番感すらある、手作り感満載のイベントは相変わらず。 時にはETVの子供向け番組を観ているような気分になる時もありました。 顔だちや声の出なさに歳を感じずは得なかったけど、自分も同じくらい歳をとっているんだよな、など思ってしまいました。

欧米の公共劇場とかの金かけたプロダクションの映像としても良くできたストリーミングも良いのですが、 こう言う手作り感満載の緩いストリーミングも (こればっかりでは辛いものがありますが) たまに観ると楽しいものです。

[3827] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Apr 14 21:14:17 2020

4日土曜の晩はこのオペラのストリーミングを観ました。

Royal Opera House
April, 2009.
Music: George Frederic Handel; Libretto: John Gay, Alexander Pope, John Hughes.
Director and Choreographer: Wayne McGregor.
Assistant Director and Choreographer: Laïla Diallo; Designs: Hildegard Bechtler; Lighting Design: Lucy Carter.
Cast: Danielle de Niese / Lauren Cuthbertson (Galatea), Charles Workman / Edward Watson (Acis), Paul Agnew / Steven McRae, Melissa Hamilton (Damon), Matthew Rose / Eric Underwood (Polyphemus), Ji-Min Park / Paul Kay (Coridon), Dancers of The Royal Ballet.
Conductor: Christopher Hogwood, Orchestra of the Age of Enlightenment, The Royal Opera Extra Chorus, Chorus Master: Stephen Westrop.
Premier: 1718, Cannons, Edgware, Middlesex.
Premier of this production: 31 March 2009, Royal Opera House
YouTube URL: https://www.youtube.com/watch?v=Hmfv7TSCVck

イギリス・ロンドン Royal Opera House が COVID-19 対策で自己隔離している人々のため 週替わりでストリーミングをしています。 コンテンポラリー・ダンスの文脈で知られる Wayne McGregor [鑑賞メモ] が演出、振付たプロダクションがストリーミングされました。 作品は、ドイツ生まれながら主なイギリスで活動した George Frederic Handel によるローマ神話に基づく18世紀の opera ですが、 典型的な (19世紀的な) opera ではなく、masque (仮面劇) や pastoral (牧歌劇) と言われることもあるよう。 Opus Arte からDVD化された映像を使っていました。

基本的に、歌手とダンサーで2人1役という演出で、歌手は普通に演技しながら歌い、 全身タイツのコスチュームのダンサーが音楽というか内面を描くように脇で踊るという演出でした。 Wayne McGregor のプロダクションということで、もっと抽象的な演出かと予想していたので、 McGregror でもこんな物語的な演出するんだ、と思いつつ観ていました。 しかし、全2幕中の第2幕後半、Galatea が殺された Acis を泉に変える場面から、 群舞を使った象徴的な交えるようになって、グッと良くなりました。

時々、歌手とダンサーがインタラクションすることはあるのですが、 基本的に 歌手とダンサーはレイヤの異なる世界にいるよう。 このまま、歌手に歌わせることは無いかと思っていたら、 ラストのクライマックスで、合唱に合わせて、Galatea 役の歌手 (Danielle de Niese) が Acis 役のダンサー (Edward Watson) と組んで踊りました。 それまで避けられていただけに印象も強く、Galatea が Acis の魂と踊るようで効果的だったようにも感じました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

計らずしも、Rameau に Handel と2晩続けて Baroque の、それも、オペラとコンテンポラリーダンスを組み合わせた舞台を観てしまいました。 この種の作品の上演が多いわけではないので、ストリーミングならではの取り合わせかもしれません。

[3826] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Apr 13 21:27:05 2020

一週間余り前の話ですが、3日金曜晩にこのオペラのストリーミングを観ました。

Hippolyte et Aricie
Staatsoper Unter den Linden
November - December 2018.
Music: Jean-Philippe Rameau; Libretto: Simon-Joseph Pellegrin after the tragedie “Phèdre” by Jean Racine, 3rd version from 1757, with selected passages from the 1st version from 1733.
Musical Direction: Simon Rattle; Director, Choreography: Aletta Collins; Set and Light Design, Costumes: Ólafur Elíasson.
Light: Olaf Freese; Chorus Master: Martin Wright; Dramaturgy: Detlef Giese.
Cast: Anna Prohaska (Aricie), Magdalena Kožená (Phèdre), Adriane Queiroz (Œnone), Elsa Dreisig (Diane), Sarah Aristidou (La grande prêtresse de Diane, une matelote), Slávka Zámečníková (une chasseresse), Serena Sáenz Molinero (une bergère), Reinoud Van Mechelen (Hippolyte), Gyula Orendt (Thésée), Roman Trekel (Tisiphone), Peter Rose (Pluto, Jupiter), Michael Smallwood (Mercure), et al.
Premier of this production: 25 November 2018, Staatsoper Unter den Linden.
YouTube URL: https://www.youtube.com/watch?v=hYaFV6BJNLI

ベルリンの州立歌劇場 Staatsoper Unter den Linden が COVID-19 対策で自己隔離している人々のため 日替わりでストリーミングをしています。 4月4日に現代美術作家 Ólafur Elíasson [鑑賞メモ] が舞台装置、照明、衣装を手がけたプロダクションがストリーミングされました。 作品は、フランスの作曲家 Jean-Philippe Remeau による神話時代のギリシャを舞台とした18世紀 Baroque opera で、 EuroArts からDVD化された映像を使っていました。

さすが Ólafur Elíasson というライティングでしたが、変化はあるのだけど緩急に欠けたようにも感じました。 フォトジェニックで、トレイラーならスタイリッシュに編集できそうですが、2時間半という時間を扱い損ねたよう。 そう感じてしまったのは、元の音楽の問題、もしくは、演出の問題かも知れません。 振付家 Aletta Collins による演出ということで、ダンスの場面も多用されていました。 バレエ的ではなく、ダイナミックというのでもなく、全身タイツ姿で地を這うようなうねうねした動きが印象に残るものでした。 物語を説明するような動きではなく、むしろ光の演出と合わせて抽象的に視覚化していました。

歌手に踊らせるというほどのことはほとんどしませんでしたが、 そんな中で、おそらく La grande prêtresse de Diane と une matelote の役 (Sarah Aristidou) で コーラスやダンサーの中に紛れていてふっとスポット浴びて踊りながら歌ったりした所が、 演出を含めて好みでした。

Baroque opera を聴くのは初めてでしたが、 今まで聴いてきた19世紀以降の opera と異なり音が新鮮に聴こえました。 全編 harpsichord が活躍しているのも Baroque music らしいと思いましたが、 opera の中で聴く Baroque musette (bagpipe の一種) の音が特に耳に残りました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

日替わりなので今は観れませんが、4月21日に再びストリーミングされる予定です。

[3825] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Apr 12 18:21:10 2020

美術館や劇場、映画館、ライブハウスなどへ行けなくなり鑑賞メモのネタが無くなりつつあるのですが、 その一方で舞台作品のストリーミングが多く公開されるようになり、それを観る機会は増えています。 観っ放しというのも良くないので、鑑賞メモを残すことにしました。 まずは、このサーカス/ダンスをベースとした映像作品から。

Louise Narboni et Yoann Bourgeois
Les Grands Fantômes
Les Films Jack Fébus, 2018, 4K HD, 57min.
D’après « La Mécanique de l’histoire, une tentative d’approche d’un point de suspension »
Exposition vivante au Panthéon
Conception mise en scène et scénographie: Yoann Bourgeois.
Directeur: Louise Narboni.
Costumes: Sigolène Petey.
Interprètes:
Prologue: Yurié Tsugawa; Inertie: Elise Legros & Jean-Yves Phuong; Trajectoire: Sonia Delbost-Henry; Equilibre: Estelle Clément-Béalem & Raphaël Defour; Energie: Yoann Bourgeois, Damien Droin, Emilien Janneteau, Lucas Struna.
Musiques: Franz Schubert.
Texts: Le poète l'a dit de Charles Péguy (extrait), Les rêveries du promeneur solitaire de Jean-Jacques Rousseau (extrait), Proses philosophiques, Promontorium somnii de Victor Hugo (extrait).
Commissioned by Centre des monuments nationaux for Monuments en mouvement, in collaboration with the Théâtre de la Ville-Paris.
Production CCN2 - Centre choréographique national de Grenoble.
Vimeo URL: https://vimeo.com/399387060

CCN2 - Centre Choreographique National de Grenoble の芸術監督を務める Yoann Bourgeois が 2017年に第三回 Monuments en mouvement (動くモニュメント) フェスティバルのために委嘱されたコンテンポラリー・ダンス/サーカスの作品を映像作品化したものです。 COVID-19 感染爆発で公演できない劇場が作品をストリーミングで公開することが増えていますが、 CCN2 - Centre Choreographique National de Grenoble がこの映像作品を Vimeo で公開しています。 自分が Yoann Bourgeois を知ったきっかけは、この作品の中の Energie の部分を撮った約3分の動画 [鑑賞メモ] でしたが、 やっと作品の全容を知ることができました。

会場はフランス・パリの Panthéon。 そこで繰り広げられる装置に着想したかのような静かなサーカスとでもいうパフォーマンスを5つと、 最後に5つのパフォーマンスを一度に俯瞰的に見せるというフィナーレからなり、 それらの間を Panthéon の中を移動するもしくは嘆く彫像に紛れるようにいる人にナレーションと被せた映像で繋いだ作品です。 重厚な雰囲気の Panthéon の空間の中、Panthéon の像の同じ大理石のようなものトーンの衣装で、演技に使うステージや装置も素木かモノトーン。 観客を入れない状態で撮影し、Schubert のピアノ曲と落ち着いたトーンのナレーションで、 横からの静的な視点で、そして、最後はドローンを使っていると思しきゆっくり動く見下ろす視点からの映像を使い、淡々と映像化しています。 ナレーションされるフランス語のテキストはほとんど理解できず、コンセプトを十分に捉えかねましたが、 動きの面白さ、空間を含めた美しさだけでも、約1時間楽しむことが出来ました。

最初の Prologue は roly-poly、いわゆる人間おきあがりこぼし。 サーカスや大道芸でよく見られるものですが [関連する鑑賞メモ]、 奇抜ではなくシンプルな衣装とメイクでエレガントに静かに踊ります。 続く Inertie は回転する正方形のステージの上で男女1組のパフォーマンス。 高速回転による遠心力に抗う姿勢に互いを希求するジェスチャーを重ね、緩い回転による移動ですれ違いを演出するなど、 回転による動きの制約を逆に心情の表現に使うよう。 3つめの Trajectoire: は、balancing pendulum、いわゆるバランス振り子でしょうか。 回転軸でバランスするようウェイトとパフォーマをシャフトでつなぎ、 ゆっくりと揺れる振り子の動きをするシャフトの先で優雅に静かに踊る様は無重力空間に舞っているよう。 4つ目の Equilibre は、中央の可動支点のみ支えた正方形のステージの上で、 それぞれチェアを持った男女1組が、ステージのバランスをとりながら中央に置かれたテーブルに着こうとするパフォーマンス。 お互いのそろりそろりと慎重でぎこちない動きもユーモラスで、そして、なんとかテーブルに着いて椅子に座って、微笑み合う様子で終わる所に、 まるでぎこちないカップルの微笑ましいやり取りのメタファーにも感じられました。 ラストの Energie は回転するリング状に作られた階段と中央のトランポリンを使った男性4人のパフォーマンスです。 回転によって階段が無限に続くように感じられ、内側に落ちても何も無かったように戻ってくる様も超現実的に感じられます。

通して観て特に印象に残ったのは、装置やその動きによるパフォーマーの動きの制約やそれに反応する動きをむしろ生かして、 そこにシンプルに動きの面白さを見せるだけでなく、さらに絶妙にニュアンスを加えてロマンチックな物語やキャラクタの内面をうっすらと浮かび上がらせすらする演出でした。 以前から観ていた Energie だけではなく、 他のパートも魅力的な作品だったと (むしろ、自分の好みは PrologueTrajectoire) と気づくことが出来たのも、 通して観ての収穫でした。

Les Grands Fantômes - Louise Narboni et Yoann Bourgeois from CCN2 Grenoble on Vimeo.

[この鑑賞メモのパーマリンク]

3月中は年度末仕事もあって職場に出ていたのですが、4月からは在宅勤務をメインに切り替えています。 しかし、仕事はあるので、ストリーミングを観る時間はさほど増えません。 確かに通勤時間は無くなるのですが、その分、運動不足対策に散策等をしていますし。

[3824] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Mar 29 19:19:01 2020

27日〆切の厳しい年度末仕事をなんとか乗り切り、やっとひと息。 その一方で、新型コロナウイルスについては、都内で1日50人前後の感染者が報告されるようになり、事態は深刻化の一途。 そんなわけで、この土日は地元での日常の買い物と散策に留めて、外出自粛。 土曜の午後は、観に行ってもいいかなと思っていたこのダンス公演の無観客上演ライブストリーミングを観ました。

『DANCE to the Future 2020』よりコンポジション・プロジェクトによる作品
The National Ballet of Japan: DANCE to the Future 2020 - Works from the Composition Project
新国立劇場小劇場 / streaming via YouTube
2020/03/28, 15:00-16:00.
構成・振付・出演: 新国立劇場バレエ団 コレオグラフィック・グループ [Choreograhic Group, The National Ballet of Japan]
アドヴァイザー [Production Advisor]: 遠藤 康行 [ENDO Yasuyuki]. 音楽 [Music]: 平本 正宏 [HIRAMOTO Masahiro]. 芸術監督 [Artistic Director]: 大原 永子 [OHARA Noriko]. 制作 [Produced by]: 新国立劇場 [New National Theatre, Tokyo].
『〇 ~wa~』
グループDO/動 [Group DO]: 渡邊 峻郁 [WATANABE Takafumi], 木村 優里 [KIMURA Yuri], 益田 裕子 [MASUDA Yuko], 稲村 志穂里 [INAMURA Shiori], 太田 寛仁 [OTA Kanjin], 関 優奈 [SEKI Yuna], 徳永 比奈子 [TOKUNAGA Hinako], 中島 春菜 [NAKAJIMA Haruna], 中島 瑞生 [NAKAJIMA Mizuki], 原田 舞子 [HARADA Maiko], 廣川 みくり [HIROKAWA Mikuri], 渡部 義紀 [WATABE Yoshiki], 伊東 真梨乃 [ITO Marino].
『A to THE』
グループZA/座 [Group ZA]: 柴山 紗帆 [SHIBAYAMA Saho], 飯野 萌子 [IINO Moeko], 広瀬 碧 [HIROSE Aoi], 福田 紘也 [FUKUDA Hiroya], 益田 裕子 [MASUDA Yuko], 赤井 綾乃 [AKAI Ayano], 太田 寛仁 [OTA Kanjin],関 晶帆 [SEKI Akiho], 仲村 啓 [NAKAMURA Satoshi], 西川 慶 [NISHIKAWA Kei], 原田 舞子 [HARADA Maiko], 樋口 響 [HIGUCHI Hibiki], 廣川 みくり [HIROKAWA Mikuri], 横山 柊子 [YOKOYAMA Toko].

新国立劇場バレエ団のダンサーたちの振付によるコンテンポラリー・ダンス作品からなるアニュアルの公演です。 今年度は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため公演はキャンセルとなったのですが、 第3部にあたるコンポジション・プロジェクトによる作品2作品が無観客上演のライブストリーミングされました。 コンポジション・プロジェクトとは、ダンサー同志がアイディアを出し合いながらワークショップを重ねて作品を創作する企画とのことです。

最初に上演した『〇 ~wa~』は、ビートのある electronic な音楽を使った抽象的な作品。 ビートのある音楽を使っているのに、身体をコントロールし過ぎて、こじんまりとしてしまった感も。 照明が薄暗くコントラストも弱く、画面を通して見るとますますぼんやりとした印象となってしまいました。

15分の休憩を挟んで続いて上演した『A to THE』は、照明のメリハリが感じられて、画面を通して観ても観やすなりました。 カメラの感度を調整したのかもしれませんが、 横からの強いライティングで暗い背景にダンサーを浮かび上がらせたり、最後の場面で背景を光らせてシルエットを見せたり、 ダウンライトで区画を作るときも斜めだったり奥行き方向だったりと、照明での演出に色々工夫を感じました。 照明だけでなく動きについても、動と静、多様性と同調性の間の変化にもメリハリが感じられました。 特に、様々なポーズで横一列に連なる場面とその前後の動きの構成など。 全体的な展開についても、抽象的な作品ながら、中程と最後に短めの物語性をほのめかす場面を入るなど、 平板にしない工夫が感じられました。 そんなこともあって、『A to THEの方』が楽しめました。

ストリーミングの配信には YouTube と Facebook を使っていましたが、 負荷が集中して途切れてしまうことが若干ありました。それも仕方ないでしょうか。 YouTube ではライブストリーミング終了後も観られるようになっていますが、そのままアーカイブとして公開し続けて欲しいものです。 ライブストリーミングのノウハウ、経験がほとんど無いと思われる中、目立つトラブルはありませんでした。 Royal Opera House Cinema や Metropolitan Opera Live in HD に比べると、 カメラのスイッチングやアップが少々多すぎるように感じられましたが、続けるうちに洗練されるのではないかと思います。 権利上の約もあってライブストリーミングに乗せることができる公演も限られているかと思いますが、今後もこういう試みを続けて欲しいものです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

日曜の午後は、 沼野充義(東京大学教授)最終講義「チェーホフとサハリンの美しいニヴフ人――村上春樹、大江健三郎からサンギまで」 を一日遅れで拝聴。 すっかり文学から疎くなっており、前半の 村上 春樹 とロシア文学の関係の話などは感想を口にする言葉すら無いのですが、 サハリンの少数民族ニヴフ (Нивхи [Nivkh]) の作家 ヴラジーミル・サンギ (Владимир Санги [Vladimir Sangi]) の話に興味を引かれました。 久しぶりに桑野塾を聴講したくなりましたが、この状況では、暫くは開催は難しいでしょうか。

土曜は午後まで初夏のような暑さでしたが、日暮れから天気が崩れ、一転して日曜は昼過ぎまで積もるほどの雪。 この週末はちょうど桜は見頃でしたが、この天気であれば、外出自粛で花見ができないことも諦めつくでしょうか。 といっても、地元のいつもの散策コースに桜並木があるので、散策しながら桜を楽しみました。 例年であれば、若林時代の大家さん宅で花見宴もあるはずなのですが、今年の開催は厳しいでしょうか。

[3823] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Mar 17 0:27:44 2020

この週末の日曜は午後に日本橋室町へ。この一人芝居をイベント・シネマで観てきました。

Wyndham's Theatre, London, 2019-09-12.
Written and performed by Phoebe Waller-Bridge. Directed by Vicky Jones.
Presented by DryWrite, Soho Theatre and Annapurna Theatre
First Performance: the Big Belly Underbelly, 1 August 2013, Edinburgh Fringe 2013.
上映: TOHOシネマズ日本橋, 2020-03-15 13:00-15:40 JST.

Fleabag は Edinburgh Fringe 2013 で Fringe First Award を受賞して話題作となった Phoebe Waller-Bridge による女性一人芝居のコメディ作品の、 2019年ロンドンでの公演を収録したものを Natinal Theatre Live で観てきました。 2013年にBBCが全6回のTVコメディ・ドラマ化され数多くの賞を受賞、 2019年にTVコメディ・ドラマの第2シリーズが作られています。 と言っても、TVコメディ・ドラマや演じている Pheobe Waller-Bridge などについて予備知識もありませんでした。 普段、イベント・シネマで観るのは Royal Opera House や Metropolitan Opera のオペラ、バレエなどが中心で、 一人芝居をイベント・シネマで観るという経験はどういうものか、という興味もあって観てきました。

小さな舞台の上に、3 m四方程度の低い台とその中央にアームレストの無いシンプルな椅子が一脚。 ほぼ、その狭い舞台の上だけで演じました。 映像プロジェクションなどは用いず、照明演出若干の明暗の変化はあれど、色や明度を大きく変えることもなく、 音響演出も時々録音と思しき声や効果音も使う程度で、会話の相手も声色を変えて演じました。 服を変えるようなこともせず、マイムやダンスのようなフィジカルな演技も控えめ。 手振りや表情は豊かに、椅子への座り方やその脇での立ち方、歩き回り方などの姿勢、仕草と、 語りだけという、ある意味絵でミニマリスティックな演出の一人芝居でした。

主人公の Fleabag は Guinea pig-themed café (モルモット・カフェ) を経営していた女性。 店の家賃が払えなくなり、仕事を求めて採用面接に臨に失敗する場面から始まり、 回想として語るのではなく、その場面をそのまま描くように、カフェの最後の日々を演じていきます。 その話はあけっぴろげな下ネタ中心の話が中心で、字幕の助けもあったと思いますが、笑える場面も多くありました。 しかし、むしろ、その語りの中の様々なエピソード、例えば、 共同経営者だった Boo の死、関係があまりうまくいっていない姉や父、 縒りを戻しても続かず別れてしまう元恋人 Harry、Harry がいない間の男漁り、 そして、何より、下ネタばかりの語りということ自体が、 次第に焦点を結び始め、焦点を結んだ瞬間に、最初の採用面接の場面に戻る、という 物語の話の運び方の巧みさにすっかり引き込まれてしまいました。

正直に言えば、表現のスタイルという点でもテーマという点でも、普段、接点があまり無いもので、 語る言葉が無いという感もあったのですが、 ユーモアと物語の話の運び方の巧みさを期待以上に楽しむことができました。 小劇場やライブハウスのような場所のような会場で雰囲気込みで楽しみたい作風でしたが、 語りが中心だっただけに字幕の見やすいという点ではイベントシネマにも合っていたかもしれません。 ただ、今回、観た映画館は場違いに大きなスクリーンで、 ミニシアターでの上映の方が雰囲気に合っていたかもしれないと思ってしまいました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

土曜のストリーミングで不完全燃焼気味になって、まともな舞台の上映を見たい、と、 守備範囲外の作品かなと思いつつ足を運んだのですが、楽しめて良かったです。 あまり観なタイプの舞台を観る良い機会だったでしょうか。

美術館と劇場という普段の週末の行き先を失い、 映画館でイベントシネマを観るだけでなく、久々にレコード屋巡りなどしています。 この週末は新宿、その前の週は渋谷。しかし、このペースで買っても、積聴になるだけです。 COVID-19 (新型コロナウイルス感染症) も、日本国内も感染が止まらないどころか、世界的なパンデミックとなってしまった現在、 今後、日本においてもヨーロッパのように映画館やレコード屋、本屋までも営業停止になる可能性も否定できません。 暫くは、週末のささやかな趣味生活も難しい日々が続きそうです。

[3822] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Mar 15 20:52:12 2020

今週末は、土曜の午後に彩の国さいたま芸術劇場で Batsheva Dance Company: Venezuela を観る予定だったのですが、 新型コロナウイルス感染拡大防止のためキャンセルになってしまいました。 ハシゴで夜にもう一つ観る予定だったのですが、公演としてはキャンセルになったものの、 無料の無観客ストリーミングが行われたので、家でそれを観ました。

東京文化会館 小ホール
2020/03/14 17:50-19:30.
Written and directed by Stefan Winter
Composition after Ludwig van Beethoven: Fumio Yasuda [安田 芙充央].
Live-Performance with: Ferhan Önder & Ferzan Önder (piano for four hands), Fumio Yasuda [安田 芙充央] (piano (improvisation)), Joachim Badenhorst (clarinet), Gareth Davis (bass clarinet), Tetsuya Hayashi [林 徹也], Mari Adachi [安達 真理] (viola), Aki Tsujita [辻田 暁], Ichiro Hosoya [細谷 一郎] (art of noise and sound).
with: 1-Chanel-Film-Installation (16:9) in portrait format; Allegory (living sculpture): Aki Tsujita [辻田 暁].
Producer: Mariko Takahashi [髙橋 真理子] (Neue Klangkunst gGmbH)
[PART I] Infinite Blue: 1. Water and Air (after Meeresstille und glückliche Fahrt [Calm Sea and Prosperous Voyage], Op.112); 2. Afterlife (after Sonata for Piano No.30, Op.109); 3. Seafoam (after String Quartet No.14, Op.131 and Great Fugue, Op.133)
[PART II] Deep Green: 1. Forest (after “Fidelio”–Prisoners’ Choir); 2. Wandering (after Symphony No.5, Op.67–2nd movement); 3. Under the Waterfall (after Missa Solemnis, Op.123–Benedictus)
[PART III] Zone Red: 1. At the Bank of the River Styx (after Symphony No.7, Op.92–2nd movement); 2. Red Rain (after “Fidelio”–Prisoners’ Choir); 3. The Great Wave (after Symphony No.9 op.125–4th movement ‘Ode to Joy’)

Winter & Winter レーベルを主宰する Stefan Winter の Sound Art のプロジェクトが 東京・春・音楽祭 2020 のプログラムとして上演されました。 2018年にドイツ文化会館で上演された Gedicht einer Zelle - Triptychon der Liebe und Ekstase - Klang- und 3-Kanal-Film Installation が良かったので [鑑賞メモ] 楽しみにしていたのですが、 新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、公演はキャンセルとなり、 (株)インターネットイニシアティブ (IIJ) の配信協力により無観客上演の無料ライブストリーミングとなりました。

サーバの能力を超えたアクセスがあったためか、音声は途切れがち。 後半はサーバとほとんど繋がらなくなり、エンディングを見ることもできませんでした。 まともな鑑賞ができたとは言い難いのですが、 Ludwig von Beethoven の曲を即興を交えて解体再構築した音楽は、jazz 的な要素が薄く室内楽的ではあるものの、 Winter & Winter からリリースされていた Uri Caine Ensemble による Mahler, Wagner, Bach などの音楽を解体再構築するプロジェクトを思い出しました。 art of noise and sound (ノイズアート) とクレジットされた2人が アンサンブルの前にインスタレーションのように並べられたオブジェ群を使って波や風のような音から 不穏なサイレン様の音まで、様々な音を出していたのですが、 舞台に動きを作り出していましたし、 Winter & Winter の AudioFilm シリーズに入っている効果音をライブにするとこうなるのか、という面白さもありました。

ビデオインスタレーションはHDのアスペクト比を縦長にした1面のみ。 Gedicht einer Zelle - Triptychon der Liebe und Ekstase - Klang- und 3-Kanal-Film Installation では Noriko Kura [倉 紀子] による “Living Painting” をメインにフィーチャーしていましたが、 この作品では Aki Tsujita [辻田 暁] による “living sculpture”。 白く光をバックにして、ベール状だったり体にタイトに巻きつけた布様だったりする衣装を着た彼女の上に、 実写ながら抽象度高めのコントラストと彩度の高い映像を投影していました。 実際に絵の具を浴びるのではなく映像を投影するものですが、近いものを感じました。 その一方で、動きも少なく、東アフリカ・ザンジバルの浜や廃墟のような建物が映し出されることはありませんでした。 その結果、あくまで演奏の方が主体で、その象徴的な像を背景に掲げているかの様な演出と感じました。

プログラムの作家の言葉として Stefan Winter は、 Beethoven を選んだ理由として、Beethoven が意図せずして専制君主の英雄となってしまうことを挙げ、 そしてその “An die Freude [Ode to Joy]” (歓喜の歌) に、 欧州難民危機の中で起きた2013年のランペドゥーザ島難民船沈没事故や 古典主義的ながらロマン主義の先駆と言われる Théodore Géricault の絵画 “Le Radeau de la Méduse” 「メデューズ号の筏」 (1818-1819) を重ねています。 しかし、“An die Freude [Ode to Joy]” を使った最後の Part III - 3. の場面を観ることができなかたこともあるのか、 この作家の言葉と演奏や投影されていたビデオとの関係を感じ取ることはできませんでした。

公演がキャンセルになり、代わりの無観客ライブストリーミングもズタボロと、残念な限りでした。 その一方で、静かな展開の時は音があまり途切れず、激しめの展開、特に立ち上がりの急な音が続くと音が途切れがちという、 非可逆圧縮の音声コーデックの特性が音からうかがえるような所が興味深く感じられました。 ストリーミングだけでなく録音録画もされたと思うので、いずれ Winter & Winter レーベルからCDもしくはDVDとしてリリースされることを期待しています。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

ちゃんと鑑賞できなかったものについてメモを残してもと思ったのですが、長いスパンで見ると、 公演キャンセルやズタボロな無観客ストリーミングという状況も含めて鑑賞メモとして残しておいた方が良いかな、と、思い直しました。

[3821] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Mar 3 0:10:15 2020

この週末日曜は昼前に川崎に出て、このオペラ公演のビューイングを観てきました。

Metropolitan Opera
『ヴォツェック』
from Metropolitan Opera House, 2020-01-11 Matinee.
Composer: Alban Berg; Libretto by the composer, based on the play Woyzeck by Georg Büchner.
Production: William Kentridge.
Co-director: Luc De Wit; Projection designer: Catherine Mayburgh; Set designer: Sabine Theunissen; Costume designer: Greta Goiris; Lighting designer: Urs Schönebaum.
Cast: Peter Mattei (Wozzeck), Elza van den Heever (Marie), Christopher Ventris (Tambourmjor), Andrew Staples (Andres), Gerhard Siegel (Hauptmann), Christian Van Horn (Doktor), Tamara Mumford (Margaret), Eliot Flowers (Maries Knabe), et al.
Puppeteers: Andrea Fabi, Gwyneth E. Larsen.
Conductor: Yannick Nézet-Séguin.
World Premiere: Staatsoper, Berlin, 14 December 1925.
A co-production of Salzburger Festspiele [Salzburg Festival], the Metropolitan Opera, Opera Australia and the Canadian Opera Company. This production's premier: Haus für Mozart, Salzburg, 8 August 2017.
上映: 109シネマズ川崎, 2020-03-01 11:20-13:35 JST.

2017年 Salzburger Festspiele [Salzburg Festival] での初演が評判良かった William Kentridge のプロダクション によるオペラ Wozzeck の Metropolitan Opera での上演が Live in HD で上映されたので、観てきました。 Kentridge は現代美術作家としても好きで、彼の演出したオペラも、 2015/16シーズンの Met Opera: Live in HD での Lulu と 2018年の新国立劇場での Die Zauberflöte [鑑賞メモ] を観ています。 Wozzeck も新国立劇場で観たことがある程好きなオペラですし [鑑賞メモ]、 原作の戯曲 Woyzeck好きで、 この戯曲に基づく Josef Nadj [鑑賞メモ] や Robert Wilson [鑑賞メモ] の作品も観ています。 Kentridge がこの Wozzeck をどう演出したのか、観るのをとても楽しみにしていましした。

ビデオプロジェクションにより貧民街、駐屯地、酒場や街外れの沼の辺りの道にもなる足場状のセットに、 Kentridge によるイラストレーションに基づくアニメーションや短い実演による動画をビデオプロジ ェクションを駆使してイメージを被せてくるような演出でした。 原作の戯曲は1821年の実話に基づいて1836年頃に執筆されたと言われていますが、 19世紀前半ではなく、第一次世界大戦のイメージを被せていました。 ガスマスク、鉄条網、泥沼のような塹壕、負傷兵、軍馬、飛行船や複葉の飛行機、Mark I 風の戦車、銃後の街並みなど。 (第一次世界大戦から外れるイメージもいくらかあったのですが、その意図はつかみかねました。)

以前から Kentridge の画風から Otto Dix を連想させられることがありましたが [鑑賞メモ]、 まさに Dix が第一次世界大戦を描いた Der Krieg (1924) の沈鬱なイメージを、 同時代の Wozzeck (1925年初演) を通してオペラ化したようにも感じました。 第一次世界大戦の影響を受け、ワイマール時代の風刺画 [鑑賞メモ] とも共通するテーマを扱ったオペラという点でも、 この演出は納得で、好みのツボにもハマりました。 しかし、プロジェクションされるビデオの情報量が多くてそれを追うのも大変だったということもありますが、 意外性の無さのせいか、想像力を膨らませる契機に欠けたようにも感じられてしまいました。

意外といえば、ビジュアル的なクライマックスを、 Wozzeck が Marie を殺す場面ではなく、その前の Marie の独唱に持ってきていたことでしょうか。 この場面では、戦線の作戦地図のイメージを被せ、歌に合わせて部隊の動きを示す矢印を動かすという。 Wozzeck が Marie を殺す場面では血のように赤い月を象徴的な演出に使うことが多く、 Kentridge がどのように視覚化するのか楽しみにしていたのですが、 この場面では赤い月を視覚的に見せることはしませんでした。 また、Wozzeck が Marie 殺害現場に戻って沼に沈む場面で、 沼のようになった戦線の塹壕のイメージを投影したのも秀逸でした。

Kentridge 演出の Lulu では黙役のマイムを使ったわけですが [鑑賞メモ]、 Wozzeck では Maries Knabe (Marie の子) をガスマスク顔のパペットにしていました。 パペットならでの演出の妙は感じられませんでしたが、 Kentridge は Highspring Puppet Company とコラボレーションも多く [鑑賞メモ]、 Kentridge らしいと思いましたし、 第一次世界大戦の泥沼に沈んでしまった世界というイメージという点でも、 ガスマスク顔はラストの場面にはまっていました。

とても好みの演出だったとは思うのですが、事前の期待が過大だったせいか、 観ていて心の琴線に触れられることなく、不完全燃焼感が残ってしまった鑑賞でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3820] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Mar 1 20:51:12 2020

COVID-19対策で美術館や休館、演劇・ダンスの公演が中止になり始めたこの週末ですが、 そんな中、土曜の夕方は横浜山下町へ。この公演を観てきました。

KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
2020/02/29, 17:00-18:00.
演出: 小野寺 修二.
出演: 大庭 裕介, 崎山 莉奈, 藤田 桃子, 小野寺 修二.
照明: 吉本 有輝子 (真昼); 音響: 池田 野歩; 美術: 杉山 至; 舞台監督: 橋本 加奈子, 鈴木 章友.

元-水と油の小野寺 修二のセルフユニットとして2008年に設立されたカンパニーデラシネラですが、 2019年4月に4人のパフォーマーからなるカンパニーとして新たなスタートを切っています。 小野寺 の振付作品としては去年3月に『WAITING FOR THE SIGNAL! 〔信号待ち!〕』を観ていますが [鑑賞メモ]、 カンパニーデラシネラとしては『椿姫』 [鑑賞メモ] 以来2年ぶり、新体制になってからは初めて観ます。

小野寺の振付作品はマイムの身体表現をベースとしたフィジカルシアターで、 水と油 ではセリフを排していましたが、 旧体制のカンパニーデラシネラでは次第にセリフを排さない演出に変わってきていました。 しかし、この新体制での作品ではセリフを排した演出になっていました。 今回の作品は、全体としてはっきりとした筋の物語が無く、 断片的なスケッチを繋いでいくところはマイムシアターによくある構成でしたが、 身体の動きを使ってミニマリスティックな舞台に空間を描いていくようなマイムシアターに典型的な演出には収まりきらないものを感じました。

20世紀前半くらいのモダンながらアンティークな雰囲気も感じさせる 公共建築の一階ロビー、洋風のアパルトマン、もしくは、商業建築の一室とも取れそうな空間が、 舞台美術を使って設定されていました。 そして、空間を無からマイムで描くのではなく、舞台装置で設定された空間の意味付けを変え、 場面を重層的に編集するかのように、マイムが使われていました。 例えば、舞台上手のドアの前の空間は、大庭にとっては恋人の家の前であり、 崎山にとってはアパルトマンの自室内であり、藤田にとっては暴風雨の中向かう公共建築や店舗への道であり、 それらの場面が時には同時にほとんど干渉せずに並行して、 もしくは、ドアの内外が折り返されてどちらも手前にあるかのように、演じられていました。

そんな演技で意味付けられた様々な場面の切替、変容や並行して展開する場面の関係付けには、 今までのように、椅子や机の移動、もしくは、鞄のようなキーとなる小道具も使われていました。 しかし、照明による場面の文節や影を使った場面の関係付け、 音をキーとした場面の関係付けなど、照明や音を使った演出が印象に残りました。 特に、美容室のドライヤーの音に庭の芝刈り機の音を関係づけるような所は、面白く感じました。

大きな話の流れが感じられない細かいスケッチの連続のような展開は、 捉えどころなさも感じて、途中、集中が切れかけた時もありました。 しかし、その一方で、場面を重層的に編集していくようなアイデア溢れる演出については、 随所で新鮮に感じられ、興味深く観ることもできました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3819] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Feb 25 22:10:53 2020

この週末日曜は午後に恵比寿へ。 アニュアルで開催されている映像の展覧会を観てきました。

Yebisu International Festival Art & Alternative Visions 2020
東京都写真美術館, 日仏会館 ほか
2020/02/07-02/24 (月休), 10:00-20:00 (2/24 10:00-18:00)

東京都写真美術館とその界隈で開催されているアニュアルの映像芸術展です。 年度末繁忙期で毎年とはいかないものの継続的に観てきているので [2年前の鑑賞メモ]、定点観測的な気分で観てきました。 今年のテーマ「時間を想像する The Imagination of Time」にピンときて楽しめた程ではないですが、 いくつか気になった作品について。

別会場の日仏会館で展示されていたのは、高谷 史郎 の新作委嘱作品《Toposcan/Tokyo》。 『明るい部屋』展 (東京都写真美術館, 2013) [鑑賞メモ] に展示されていたアイルランドで撮影された《Toposcan/Ireland》 (2013) の東京版です。 同様8枚のディスプレイを使ったインスタレーションで、 ストライプに引き延ばされた風景と、通常の同ビデオ、そして、氷付いたかのようにスチル化していく映像は同様ですが、やはり見入ってしまいます。 特に、東京港湾で撮られたものの、波が凍っていくように見える様が良いです。

地階に展示されていた韓国の作家 Hwayeon Nam (남 화연, 南 和延) によるビデオインスタレーション Dancer from the Peninsula 《半島の舞姫》 (2019) は、 1911年京城生の舞踊家 崔 承喜 (최 승희, Choi Seung-hee) に取材した作品。 作品中では、日中戦争中は日本占領下の中国北京で活動し、戦後は北朝鮮で舞踊研究所の設立したというエピソードに触れています。 映像の中では触れられていませんでしたが 石井 漠 に師事し、1967年に粛清され家族と共に行方不明になったといいます。 崔 承喜 という題材は良く、研究をまとめた本として読んだり、 主演映画『半島の舞姫』 (今 日出海=監督, 新興キネマ, 1936) や当時の資料展示を観たいとは思うきっかけにはなりましたが、 ビデオインスタレーションとしての説得力はさほど感じられませんでした。

LEDディスプレイの上にグラスやアルミのオブジェを並べて幻惑的なイメージを作り出していた 木村 友紀 《MPEG-4 H.264 Reflecting in Sizes》 (2019) や、 まだそういう言葉が無かった時代ながらアートアニメーション的なイメージ連想を白黒映画化したかのような 都筑 道夫 原案、高橋 悠治 音楽による 真鍋 博 《時計》 (1963) も、印象に残りました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3818] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Feb 24 21:45:00 2020

年度末の繁忙期はまだ続いているのですが、この3連休は完全休養。 土曜は昼過ぎまで溜まった野暮用をこなしていたのですが、夕方に築地へ。 このオペラ公演のビューイングを観てきました。

『アクナーテン』
from Metropolitan Opera House, 2019-11-23, 13:00–16:15.
Composed by Philip Glass. Llibretto by Philip Glass in association with Shalom Goldman, Robert Israel, Richard Riddell, and Jerome Robbins. Vocal text drawn from original sources by Shalom Goldman.
Production: Phelim McDermott.
Set and Projection Designer: Tom Pye. Costume Designer: Kevin Pollard. Lighting Designer: Bruno Poet. Choreographer: Sean Gandini.
Cast: Anthony Roth Constanzo (Akhnaten), Dísella Lárusdóttir (Akhnaten's mother), J'Nai Bridges (Nefertiti, Akhnaten's wife), Zachary James (Amenhotep III), Richard Bernstein (Aye, Nefertiti's father), Aaron Blake (High priest of Amon), Will Liverman (General Hremhab), et al.
Skills ensemble: Sean Gandini, Kati Ylä-Hokkala, et al.
Conductor: Karen Kamensek.
World Premiere: Staatstheater Stuttgart, Stuttgart, 24 March 1984.
This production was originally created by English National Opera and LA Opera. This production's premiere: London Coliseum (English National Opera), London, 4 March 2016.
上映: 東劇, 2020-02-23 18:30-22:10 JST.

Akhnaten は、 Minimal music の作曲家と知られる Philip Glass が1970年代後半から1980年代前半にかけて作曲した The Portrait Trilogy と呼ばれる三部作の最後の作品です。 Robert Wilson 演出で知られる1作目 Einstein on the Beach (初演: 1976) をはじめ Glass を有名にした三部作の作品の一つですし、 今回上演された Phelim McDermott のプロダクションも ジャグリングを大きくフィーチャーした演出が2016年の English National Opera 初演時に話題になっていたので、 今回の Met Live in HD での上映を楽しみにしていました。

舞台は古代エジプト第18王朝 (新王国時代) の紀元前14世紀半ば、 それまでの多神教の信仰からアテン (Aten) のみを信仰する一神教への改革 (この時に建設された新首都アマルナ (Amarna) からアマルナ革命とも呼ばれる) を試みた国王 アメンホテプ4世 (Amenhotep IV) ことアクエンアテン (Akhenaten) に関する作品です。 (このオペラではアクナーテン (Akhnaten) と呼んでいます。)

父アメンホテプ3世 (Amenhotep III) が最初の場面の死の後、語り手となるのですが、 英語によって語られるのは近代的な登場人物の内面描写ではなく大きな歴史語りでの場面説明で、 改革とその挫折の群像劇の世界に引き込むような演出ではありません。 考古学的な資料から採られたという古代エジプト語や古代ヘブライ語の言葉を用い、 Minimal music らしく執拗に反復されるフレーズからなる音楽はもちろん、 ゆっくりと様式的な歌手の所作や、ジャグラーたちの振付もあって、 時に恍惚的な、時に瞑想的な儀式に参加しているかのような全3幕3時間半でした。

演出を手がてた Phelim McDermott はイギリスの演出家で、 English National Opera で度々演出を手がけていて、 2008年にも Glass のオペラ Satyagraha を演出しています。 旧体制である多神教の世界、首都テーベ (Thebes) の場面では、登場人物の衣装も過剰に装飾的で、 三段の高さに組まれた足場にジャグラーやコーラスが並んで様式的な動きをすると、遺跡の壁に書かれたヒエログリフのようにすら感じました。 といっても衣装は、必ずしも古代エジプトを意識したものではなく、 18世紀末から19世紀にかけての西洋の服装にシュールな装飾を過剰に付けてエキゾチックにしたもの。 主役 Akhnaten の衣装はロココの Robe à la française がベースになっていましたし、 旧体制派の3人も山高帽と紳士服だったりナポレオン戦争の頃を思わせる軍服だったり。 インタビューではヴィクトリアン・スタイルを参照したと言っていましたが、もう少し前の時代という印象を受けました。

その一方で、一神教の世界、新首都アマルナが舞台となる第2幕後半では、 衣装も長くシンプルなローブとなり、 足場は脇に引かれ、美術は吊るされた大きな球体、そしてそこに登るかのように置かれた階段のみ。 多神教と一神教の世界を一目でわかるよう視覚的に表現するのは、さすがです。 唯一英語で歌われるアリア Hymn の場面では、 ゆっくりとした様式的な所作と色の移ろうライティングを使ったミニマリスティックな演出に Robert Wilson の演出を連想させられました。

幕間の McDermott へのインタビューによると、ジャグリングを使う着想は音楽からのイメージが先で、 紹介されて会った Gandini に最古のジャグリングの記録が古代エジプトの壁画であることを教えられたとのことでした。 Gandini のダンス的とも言えるジャグリング振付もあってか、 Minimal music の可視化という点でも、様式的な儀式的所作との相性という点でも、演出にうまくハマってました。 主に白いジャグリング・ボールを使っていましたが、舞台の上で沢山の白いボールがひょいひょいと繰り返し動く様は、 オーケストラの音数多いながら細かいフレーズがポリリズミックに反復する音楽を見るよう。 背景としてジャグリングしている場面が多いのですが、 それだけでなく、第2幕頭の革命の場面ではクラブ (棍棒) を武器に見立てて戦いを演出したり、 第2幕後半ではミニマリスティックな舞台で約 1 m 大のバルーンのような球をふんわりジャグリングして理想の世界を演出したり。 ジャグリングするのは Skills ensemble とクレジットされた黙役の12名のジャグラーだけでなく、 コーラスにボールを一つ持たせてトスさせる場面も少なからず、 Zachary James 演じる進行役 (Amenhotep III) がジャグラーたちに混じって三つ玉のジャグリングをする場面もありました。

振付を担当したジャグラーの Sean Gandini は、 ジャグリングを主な技をして使うロンドンの現代サーカスカンパニー Gandini Juggling を主宰しています。 1992年で結成で2004年に London Internatinal Mime Festival に初出場して以来、その常連的な存在です。 彼らを有名にしたのは、Pina Bausch へのオマージュ作品 Smashed! (2010) [Vimeo]。 4 x 4: Ephemeral Architectures (2015) [Vimeo] では、Royal Ballet の Ludovic Ondiviela の振付でバレエとコラボレーションしてもいます。 舞台作品としての最新作 Spring (2019) [YouTube] も コンテンポラリーダンスの文脈で活動する振付家 Alexander Whitley とのコラボレーションです。 Gandini Juggling はジャグリングとコンテンポラリーなバレエ、ダンスとの融合の最先端を行っているカンパニーです。

Metropolitan Opera の Akhnaten に出演するために New York へ行った際でしょうか、 2019年12月にブルックリンの National Sawdust に Gandini Juggling が出演した際の動画が、 カンパニーの公式 YouTube チャンネルにアップロードされています。 一つは Steve Reich の Clapping Music の juggling version [YouTube]。 もう一つは、György Ligeti の Poème Symphonique for 100 Metronomes に着想した作品という The Metronome Piece [YouTube]。 いかにも彼ららしい選曲です。 The Metronome Piece では、 Akhnaten でタイトル役を歌った Anthony Roth Costanzo も出演しています。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3817] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Feb 2 23:14:49 2020

年度末の繁忙期で身動きが取れなくなりつつありますが、 日曜午後は気分転換に横浜みなとみらいの赤レンガ倉庫へ。 このダンス公演を観てきました。

スー・ヒーリー 『ON VIEW:Panorama』
横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール
2019/02/02 15:00-16:15
振付・演出・映像 [Choreography, Direction]: Sue Healey.
出演 [Performance]: 浅井 信好 [Asai Nobuyoshi], 湯浅 永麻 [Yuasa Ema] (Japan); Joseph Lee, Mui Cheuk-yin (Hong Kong); Nalina Wait, Benjamin Hancock (Australia).
委嘱製作: 愛知県芸術劇場, Freespace West Kowloon Cultural District (Hong Kong); 共同製作: 横浜赤レンガ倉庫1号館 (公益財団法人横浜市芸術文化振興財団).
World Premiere.

オーストラリア・シドニーを拠点に活動する振付家・映像作家・インスタレーション作家の Sue Healey が 2013年から続けてているシリーズ On View は、 主にコンテンポラリーダンスの文脈で活動しているダンサーを題材に、 映像作品や映像を交えたインスタレーション、時にはパフォーマンスを加えた ポートレート (肖像画) とするような作品です。 Yokohama Dance Collection 2020 のオープニング・プログラムとして上演された ON VIEW: Panorama は、 そのシリーズ中の1作品として、オーストラリア、日本、香港の男女2名ずつを取り上げ、城崎国際アートセンターで制作されたものです。

開場すると、まずはインスタレーションの鑑賞ということで、10分ほど映像のプロジェクションやポートレイトが描かれたガラスの衝立を絡めてのパフォーマンスを歩きながら観て回り、 その後に、客席に着いて約1時間の上演を観ます。 舞台には4面のスクリーンが並び、城崎や横浜で撮られたとおぼしき、ダンサーの映像を上映しつつつ、ダンスが上演されます。 複数のダンサーの絡みが無い訳ではなのですが、相乗効果を生んでいるというより、併置してコントラストと生じさせるような使い方でした。 後半近くになると、ポートレートが書かれたガラスの衝立のシルエットを使った演出や、 スモークに半透明スクリーンに多重的、多層的に映像を投影するなど、視覚的な効果の面白い演出も楽しめました。

映像、インスタレーションとダンスによる「クロスディシプリナリー」な作品という謳いでしたが、 現代アートのインスタレーションのような舞台美術やプロジェクションマッピングのような映像投影を駆使したダンス作品や、 歩きながらビデオインスタレーションの前でのパフォーマンスを観て回るというような演出は少なからず観たことがあり、 その手法自体というより、立体的に物語ったり幻惑的なイメージを作っていく使い方ではなく、多面的なダンサーのポートレイトを構成していく使い方に興味を引かれました。 といっても、プロモーションに使えそうと思うほど映像の完成度が高がったせいか、そちらが主と感じられがち。 映像とライブのダンスで個々のダンサーを見せつつ、映像、照明や音楽による演出で統一感を持たせた ガラ、というかショーケース公演を観たようでした。 これで、推したくなるようなダンサーに出会えたら良かったのですが、全体の構造の方に意識が行きがちで、個々のポートレートについての印象が薄くなってしまいました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]