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談話室 / Conversation Room

TFJ's Sidewalk Cafe 内検索 (Google)
[3890] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jan 18 21:42:07 2021

先週末日曜は自宅でゆっくり。 ライブでは土曜深夜というか日曜未明の時間帯ということで観るのを諦めていたのですが、 昼ごろアクセスしてみたらまだ観られたので、この舞台作品をストリーミングで観ました。

Staatstheater am Gärtnerplatz, München.
2021/01/16, 19:00-20:30 CET
von Marco Goecke
Nach dem gleichnamigen Film von Federico Fellini; Buch von Federico Fellini und Tullio Pinelli; Musik von Nino Rota; Uraufführung am 2. September 1966 im Teatro alla Scala, Mailand
Musikalische Leitung: Michael Brandstätter; Choreografie: Marco Goecke; Bühne / Kostüme: Michaela Springer; Licht: Udo Haberland; Dramaturgie: Daniel C. Schindler
Ballett des Staatstheaters am Gärtnerplatz: Alexander Hille (Zampanó), Serena Landriel (Gelsomina), Luca Seixas (Matto), et al.
Orchester des Staatstheaters am Gärtnerplatz.
Choreografische Uraufführung am 12. Juli 2018.
Live Stream: 2021/01/16, 19:00-20:30 CET.
URL: https://www.youtube.com/watch?v=qrPvT790FCE

ミュンヘンのバイエルン州立劇場 Staatstheater am Gärtnerplatz の劇場付バレエ団による イタリアの Fellini の映画 La Strada 『道』 (1966) に基づく Marco Goecke 振付のダンス作品です。 Goecke 振付作品は以前に Nederlands Dans Theatre の公演で観たことがありますが [鑑賞メモ]、 フィギュアスケートのプログラムや大道芸のネタとしても参照されることの多い La Strada がどのようなダンス作品となったかという興味もあって観て観ました。

La Strada の音楽を使ったフィギュアスケートのプログラムなどでは 道化風の衣装や動作を使い、少々哀愁ががったユーモアを感じさせるものが多いわけですが、 この舞台では道化的なイメージ、コミカルな動きなど全く無い訳では無いけれども抑えたもの。 細かく刻むような手足の早い動きとはっきりとした止めを多用した動きは神経質さを連想させるところもあり、 Gelsomina や Zampanó の切迫した心理の描写をメインに据えたよう。 草叢を模したようなもの (最後の場面では海の波に変わる) が舞台奥にある程度で、 色彩を抑えた暗めのミニマリスティックな舞台はスタイリッシュでした。 社会最下層の人々としての旅芸人を描いた Neorealismo 色濃い映画だったことを考えると、 シニヨンに髪をまとめ少しダボダボ気味の黒トレンチコートを着た Gelsomina はちょっと雰囲気がハイソ過ぎな気もしましたが、 翻案と考えればこれはこれでなかなか可愛いらしくて良かったように思います。

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[3889] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Jan 17 18:08:44 2021

新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言も出て、 以前から予定していたような美術展、公演でも無いかぎり、 週末に気軽に出かける気分でもないのですが、 近場の映画館で National Theatre Live がかかっていたので、この週末土曜の晩にさくっと観てきました。

Lyttelton Theatre (National Theatre), London, 7 November 2019.
by Simon Woods
Director: Simon Godwin
Set and Costume Designer: Hildegard Bechtler; Lighting Designer: Jackie Shemesh; Music: Michael Bruce; Sound Designer: Christopher Shutt; Movement Director: Shelley Maxwell.
Cast: Lindsay Duncan (Diana Hesketh), Alex Jennings (Robin Hesketh).
First Performance: 22 August 2019, Lyttelton Theatre (National Theatre).
上映: TOHOシネマズ川崎, 2021-01-16 18:15-19:55.

舞台は1988年、サッチャー政権下のイギリス。 保守党 (Tory) 議員の Robin Hesketh が、週末、Cotswolds の家に帰り、 左翼がかった妻 Diana との家のリビング & ダイニングの1室で展開する密室会話劇です。 それらしく作り込んだ舞台美術で、映像や照明などを使った演出も最低限に抑え、 非現実的で象徴的な動きを使った表現などもなく、オーソドックスにリアリズム的な演出と感じましたが、 その辛辣な政治的皮肉混じりの会話から、少々感傷的すらある最後まで、話の流れ、演技とも引き込まれるものがありました。

前半は、というより、最後の20分位まで、政治的な意見の異なる夫婦の辛辣な舌戦で、 時代がサッチャー政権下ということで、その政策に対する英国流に皮肉が効きまくった応酬を、笑いながら堪能できました。 模範的な政治的議論としての演劇を見るようでもあり、その皮肉なユーモアは夫婦漫才のようでもあり。 個人的に、1980年代半ば The Smiths とか Billy Bragg などの政治的を題材を歌にするイギリスのミュージシャンをよく聴いていたおかげで、 Hansard の背景というか前提となっている英国の政治状況にそれなりに馴染みがあったこともあり、 この前半の皮肉だらけのユーモアをとても楽しみました。 直接的にはサッチャーの政策に対するものですが、日本の失われた30年で進行した政治状況にもあてはまるような皮肉が多く、苦笑したりもしました。

その夫婦のやりとりも面白いのですが、口では辛辣に言い争いつつ、 実に自然に阿吽の呼吸で一緒にコーヒーを淹れ、ブラッディマリーを作りと、 長年連れ添った夫婦らしいさを感じさせる演技を交えていきます。 こういうセリフの演技の組み合わせも、 Diana とRobin の関係に、政治的な意見の違いに単純化できない深みを作り出すよう。

サッチャーの政策をめぐる政治的な舌戦から、話は次第に2人の過去の話にシフトしていき、 最後に、Diana がどうして教育の場で同性愛を扱うことを禁ずる地方自治法第28条に強硬に反対する理由 (そして、家事を蔑ろに酒に浸っている理由) が明らかになります。 この物語のエンディングは少々感傷的かなとは思いますが、 この政治家夫婦の会話を通して描かれる政治的な分断を、少々感傷的ではあっても分断させたまま終わらせたくなかったのだろうなあ、と。

戯曲作家、演出家、俳優いずれもそのバックグラウンド等を知らず、そもそも会話劇は演劇の中でも苦手なカテゴリー。 National Theatre Live であれば流石に大外れは無いだろう、と構えず気楽に観に行ったのですが、 足を運んで正解でした。

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[3888] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Wed Jan 13 22:15:49 2021

先の3連休の3日目祝日月曜は、午後に自宅でこのライブストリーミングを観ました。

The National Ballet of Japan: New Year Ballet (2019/2020 Season)
新国立劇場オペラパレス
2020/01/11, 14:00-17:00.
YouTube URL: expired.
指揮: 冨田 実里; 管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団.
[第1部]
Paquita
Choreography: Marius Petipa.
Music: Léon Minkus.
初演: 1846 (chor. Joseph Mazilier), 1881 (chor. Léon Minkus), 2003 (新国立劇場).
美術: 川口 直次; 衣装: 大井 昌子; 照明: 立田 雄士.
出演: 米沢 唯 (Paquita), 渡邊 峻郁 (Lucien d'Hervilly); 池田 理沙子, 柴山 紗帆, 速水 渉悟 (Pas de Trois), 他.
[第2部]
Contact
振付: 木下 嘉人.
Music: Ólafur Arnalds: Happiness Does Not Wait.
出演: 小野 絢子, 木下 嘉人.
『ソワレ・ド・バレエ』 [Soirée de Ballet]
振付: 深川 秀夫.
Music by Alexander Glazunov.
出演: 池田 理沙子, 中家 正博.
『カンパネラ』 [Campanella]
振付: 貝川 鐵夫.
Music by Franz Liszt.
出演: 福岡 雄大, 山中 惇史 (piano).
[第3部]
"Still Life" at the Penguin Café
『ペンギン・カフェ』
Choreography: David Bintley
Music: Simon Jeffes.
Set & Costume Designer: Hayden Griffin. Lighting Designer: John B. Read.
Premiere: 8 March 1988, The Royal Ballet, Royal Opera House, Covent Garden; 2010年10月27日, 新国立劇場.
出演: 広瀬 碧 (The Great Auk [ペンギン]), 米沢 唯 (Utah Longhorn Ram [ユタのオオツノヒツジ]), 福田 圭吾 (Texas Kangaroo Rat [テキサスのカンガルーネズミ]), 五月女 遥 (Humboldt's Hog-nosed Skunk Flea [豚鼻スカンクにつくノミ]), 奥村 康祐 (Southern Cape Zebra [ケープヤマシマウマ]), 本島 美和, 貝川 鐵夫, 岩井 夏凛 (Now Nothing [熱帯雨林の家族]), 福岡 雄大 (Brazilian Woolly Monkey [ブラジルのウーリーモンキー]), 他.

新国立劇場バレエ団の恒例の正月公演、 去年初めて足を運んでみたところとても楽しめたので [鑑賞メモ]、 今年も初日9日のマチネのチケットを押さえ「劇場に初詣」しようと楽しみにしていたのですが、 新型コロナウイルス検査で関係者から陽性反応が出て直前に公演中止に。 しかし、急遽、11日マチネの時間帯に無観客公演のYouTubeライブストリーミングが開催されることとなったので、自宅で観ました。

一番の目当ては、第3部の "Still Life" at the Penguin Café。 Penguin Cafe Orchestra の音楽 (録音では無くオーケストラ編曲したもの) を使っているということもありますが、 Royal Ballet や新国立劇場バレエ団による上演のスチル写真やトレーラー動画を観て、 被り物衣装での音楽にも似合ったユーモラスで可愛らしい踊りに惹かれていました。 しかし、実際に通して観ると、スチルやトレイラーで受ける可愛く楽しい着ぐるみバレエと異なり、 綺麗でお洒落だし、がっつりと踊るものでした。 女性ダンサーはヒールで、衣装も含め、バレエというより、ボールルームダンスや世界各地の伝統的な民俗舞踊のイデオムを強く感じるダンスでした。 ドレスとタキシードで華やかに踊るオープニングからオオツノヒツジの場面にけかては華麗なボールルームダンスでしたし、 ノミの場面ではイングランドの Morris dance、 シマウマの場面ではバックで "Zebra Girls" がヴォーギングのような動き、など。 Penguin Cafe Orchestra の音楽が世界の様々な音楽を混交して室内楽風に仕立てたもので、 様々なスタイルのダンスの混交も、音楽に合っていたでしょうか。

そんな多様な美しさを見せる舞台も、照明が暗くなり雨 (酸性雨) が振り出すと、トーンが一転します。 被り物を取り沈鬱な面持ちで逃げまどうように、そして方舟のようなシェルターに逃れていきます。 しかし、狂言回し的なウェイター役のペンギン (オオウミガラス) だけが残り寂しげな踊りで見送ります。 (踊られた様々なキャラクタが絶滅危惧種である一方、オオウミガラスが19世紀に絶滅した種を反映している。) そんなラストに向けて失われていくものに対する切なさというのも感じられた、期待以上に良い作品でした。

さて、第1部、公演のオープニングは、Petipa 振付のクラシックな Paquita。 貫禄すら感じるプリンシパル2名の踊りはもちろんコール・ド・バレエのレベルの高さも楽しめました。 その後は去年はクラシックな演目からのパ・ド・ドゥ抜粋だったわけですが、 今年はバレエ団のダンサーの振付によるコンテンポラリーな演目2つを含むもので、 プリンシパルダンサーの顔見せ以上の、バレエ団のクリエイティヴな面を見せようという意識を感じました。 特に Contact は Contact は触れ合うことの困難さを Ólafur Arnalds の post-classical な感傷を感じさせるピアノとストリングスによる音楽に合わせて情感豊かに演じるよう。 新型コロナウイルス感染拡大によって人が集まることが制限されているような 現在の状況にもあったテーマのダンスにも感じられました。 元々、3月の 『DANCE to the Future 2020』 [鑑賞メモ] で上演される予定だったもので、 こうして観られてよかったでしょうか。

ライブ・ストリーミングながらとても楽しめただけに、やはり劇場で生で観たかったという残念な気持ちも改めて湧き上がってしまいました。 『DANCE to the Future 2020』もそうですが、コロナ禍が鎮静化した後、観ることができればと思います。

『DANCE to the Future 2020』ではストリーミングが途切れることもあったので、今回もそんなものかろ予想していたのですが、 この『ニューイヤー・バレエ (2020/2021シーズン)』は28,000を超える視聴者数になったにも関わらず安定していましたし、 カメラワークも良くなっていました。 経験を積んで着実に向上しているところも、さすがです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3887] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jan 11 13:23:03 2021

この3連休の土曜は、新国立劇場パレエ団の『ニューイヤー・バレエ』で「劇場へ初詣」する予定だったのですが、 公演関係者に新型コロナウイルス陽性者が出て公演中止。 指数的な感染拡大で首都圏の医療崩壊が見えてきていますし、外出は近所を散策する程度に控えようかと。 そんな中、日曜の晩にこの有料配信の映像を観ました。

Tomoko Mukaiyama & Reinier van Brummelen
TWO - in transit Hara Museum
2021/01/02 00:00 - 2021/01/11 23:59 (JST), 42min.
コンセプト・映像 [Concept + Film]: 向井山 朋子 [Tomoko Mukaiyama], Reinier van Brummelen.
出演 [Performers]: 向井山 朋子 [Tomoko Mukaiyama], 森山 未來 [Mirai Moriyama].
撮影 [Filming]: Reinier van Brummelen.
技術監督: 遠藤 豊; カメラ: 丹澤 由棋, 三塚 比呂; 照明: 田代 弘明, 篠原 由樹, 原 裕太; サウンドエンジニア: 稲荷森 健, 大林 元, 堤田 祐史; 機材手配: 黒川 貴; Post production assistant: Reinier Zoutendijk.
使用楽器: Shigeru Kawai グランドピアノ SK-5L ほか; 衣装協力: Yohji Yamamoto.
演奏プログラム: Johann Sebastian Bach: Das Wohltemperiertes Klavier Prelude Nr 6 BWV 851 d-moll (1722); Joseph Haydn: Piano Sonata no.38 in F Major Hob.XVI 23 (1773); Louis Andriessen: Memory of Roses (1992); Yannis Kyriakides: La Mode (2017); Maurice Ravel: Piano Concerto in G (1931); Tomoko Mukaiyama: improvisation.
主催: 一般社団法人 マルタス [MULTUS]、向井山朋子ファンデーション [Tomoko Mukaiyama Foundation].
Vimeo URL: https://vimeo.com/ondemand/twointransitharamuseum

2021年1月11日をもって閉館する原美術館ですが [関連する鑑賞メモ]、 それに合わせ、期間限定で原美術館で撮影された音楽演奏とダンスに基づくビデオ作品が有料配信されました。 音楽演奏はダンスとのコラボレーションも多い 向井山 朋子 [鑑賞メモ]、 撮影は SUPER T : A Live と同じ Reinier van Brummelen [鑑賞メモ] です。 ダンスでコラボレーションするのは、俳優としても活動する 森山 未來 です。 予約が取れずに原美術館での最後の展覧会に足を運べなかったので、その代わりにこの映像作品を観ました。

奇を衒ったような編集、効果の類は抑え、自然光の差し込むギャラリーや夜のライティングで美しく浮かび上がる アール・デコの洋館を改装した美術館の空間自体を見せるかのような映像でした。 音楽やダンスもそれ自体を強く主張するというより、 約40分間映像を見入ることを促すよう建物に寄り添い視線を案内するかのように感じました。

色付いた庭木があったものの散っていなかったので撮影は秋でしょうか。 明るい日の差す晴れた昼間から日没後まで様々な時間帯を使って撮影されていました。 演奏に使われたのは、3階のレイノーの部屋とそこに上がる階段、1階の2つのギャラリーとその前の通路、 2階の 宮島 達男 の部屋や須田 悦弘の彫刻が置かれたダクトのあたり、1階と2階を繋ぐ階段など。 屋外は、正門から建物左側にあるギャラリーに面したニワト、 宮島 達男 の部屋の脇の扉から外に出ての屋上が使われていました。 2階のギャラリーや 奈良 美智 の部屋、 パフォーマンスの上演に使われることもあった中庭、中庭に面したカフェやホールは使われませんでした。

美術館としては閉館になるものの、建物が無くなってしまったわけでは無いですが、 オープンしたばかり1980年代の状態をよく残した空間を主に使っていたからでしょうか、 昔を観ているようでもあり、とても懐かしく感じられました。

自分が原美術館へ初めて足を運んだのはまだ中学生だった1982年頃。 当時はまだ中庭に面してカフェは無く、2階の展示室でビデオ上映会などを開催していました。 John Cage 関連のパフォーマンスの映像や Nam June Paik のヴィデオアートなど上映会が当初の目当てでしたが、 それをきっかけに度々足を運ぶ美術館となりました。 最も頻繁に足を運んだのは1990年代後半。 就職して金銭的にも余裕ができたこともあり、メンバーシップ〜賛助会員となって、 当時中庭を使ってメンバーシップ向けに開催されていたラウンドテーブルなどに入り浸っていました。 2000年代に入って次第に足が遠のいてしまいましたが、それでも足を運ばない年はありませんでした。 約40年にわたり通った、それも現代美術をよく観るようになった頃にお世話になった美術館でした。 そんなこともあって、この閉館に合わせての映像作品を観ていて、少々目頭が熱くなるものがありました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3886] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Jan 5 21:49:09 2021

正月3日も美術館へ初詣。午後に竹橋でこの展覧会を観てきました。

Sleeping: Life with Art - Form Goya and Rubens to Shiota Chiharu
東京国立近代美術館 企画展ギャラリー
2020/11/25-2021/02/23 (月休;1/11開;12/28-1/1,1/12休), 10:00-17:00 (金土 -20:00).

『陰影礼讃』 (2010)、 『No Museum, No Life? — これからの美術館辞典』 (2015) [鑑賞メモ] と5年おきに開催されてきた国立美術館合同展の第3弾です。 国立美術館6館 (東京国立近代美術館, 京都国立近代美術館, 国立西洋美術館, 国立国際美術館, 国立新美術館, 国立映画アーカイブ) のコレクションに基づいた企画ですが、 実際は、コレクションを持たないアートセンターである国立新美術館、 映画関連のコレクションしか無い国立映画アーカイブを除く4館のコレクションから構成されていました。

テーマは「眠り」で、Francis Goya の版画連作 Los caprichos (1797-98) からの版画をガイドとした7章構成。 19世紀以前の絵画や版画の場合は、眠る人が描かれているという比較的正統的な解釈でしたが、 20世紀初頭のシュールレアリズム以降、特に20世紀後半のコンセプチャルな現代美術では テーマもかなり広く捉えられられていました。 正直に言えば若干無理を感じるものもありましたが、テーマを広めにとった展示の方が興味深く、 その中でも写真やビデオの作品の方が面白く感じました。

饒 加恩 (Chia-En Jao) の REM Sleep (2011) は、 台湾で介護職につく外国人女性労働者たちとうたた寝するような姿とその語りを3面のスクリーンに映すインスタレーションですが、 疲労の中でのうたた寝の中でみる夢/悪夢を見るよう。

楢橋 朝子 の半分水没しかけた波打った水面ギリギリのアングルで撮られた写真シリーズは 何回か観たことのある好きな作品ですが [鑑賞メモ]、 Half Awake And Half Asleep In The Water という眠りに関するタイトルを持っていたことに、今更ながら気づかされました。

大辻 清司 が1970年代に撮った机の上の物をユーモラスなタイトルで撮った写真など、 『プロヴォーグ』への大辻からの回答とでもいう感じに捉えていたのだけど [鑑賞メモ]、 シュールレアリズム経由で眠りと関連付けられていて、そういう見方もあったか、と。

驚きとか新鮮さとかそういうものがあったわけでは無いですが、 ちょっとした視点のずらしによる気づきが楽しめた展覧会でした。

所蔵作品展 に Sol LeWitt の Wall Drawing #769 が展示されていました。 作家のインストラクションに作成されるインスタレーション的なドローイングですが、 作曲ベースの音楽を視覚化したようです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3885] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Jan 4 21:25:31 2021

正月2日は美術館へ初詣。ということで、午後に清澄白河というか木場へ。

Eiko Ishioka: Blood, Sweat, and Tears – A Life of Design
東京都現代美術館 企画展示室 企画展示室 1F/地下2F
2020/11/14-2021/02/14 (月休;11/23,1/11開;11/24,12/28-1/1,1/12休), 10:00-18:00.

1960年代に資生堂のアートディレクターとして活動を始め、1970年代はパルコなどの広告を手掛けて、 女性アートディレクターの草分けとして知られ、 1980年にニューヨークに拠点を移して以降は、映画やオペラ、音楽コンサートやサーカスなどの舞台衣装のデザインを多く手掛けてきた 石岡 瑛子 (1938-2012) の回顧展です。

1980年頃までの広告の仕事には、彼女の作風というより日本、そして日本の広告クリエイティヴに感じられた1960s-70sの勢いを見るようでした。 そして、1980年代以降の舞台衣装デザイン等の仕事は、色彩のはっきりした造形的な作風は自分の好みでは無いようにも感じましたが、パワフルでゴージャスな仕事ぶりに圧倒されました。 そして、このような仕事はニューヨークに拠点を移したからこそ可能だったのでしょう。 日本では、バブル崩壊後の長期のデフレ経済低迷で、広告にしても舞台にしても彼女のような作風の才能が活躍できる場は多くなかったような。 そんなことも考えさせられてしまった展覧会でした。

MOT Annual 2020: Invisible Powers
東京都現代美術館 企画展示室 3F.
2020/11/14-2021/02/14 (月休;11/23,1/11開;11/24,12/28-1/1,1/12休), 10:00-18:00.
片岡 純也 [Junya Kataoka] + 岩竹 理恵 [Rie Iwatake], 清水 陽子 [Yoko Shimizu], 中島 佑太 [Yuta Nakajima], Goh Uozumi, 久保 ガエタン [Gaetan Kubo].

東京都現代美術館のアニュアルのグループ展です。 テーマが腑に落ちたという程では無いのですが、興味深い作家の作品を観ることはできました。 片岡 純也 + 岩竹 理恵 は今までもグループ展で度々観る機会がありましたが、 特に何かの機能を果たすことなく動き続ける「無用な機械」を思わせる作品は好みです。

清水 陽子 の生きた植物をそのままメディアにするような作品も、 この手の素材を扱うとエコロジー的なコンセプトなどに走りがちな中で、 もっと即物的なアプローチで、あくまで植物やDNAなどをメディアとして見据えている所に、 メディアアートに近いセンスが感じられました。

企画展は1月2日からやっていたのですが、 『MOTコレクション 第2期 コレクションを巻き戻す』は、 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、12日まで臨時休室になっていました。これは仕方ありません。

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[3884] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Fri Jan 1 0:52:27 2021

2020年に歴史の塵捨場 (Dustbin Of History)に 鑑賞メモを残した展覧会やダンス演劇等の公演の中から選んだ10選+α。 今年はCOVID-19パンデミックの影響で舞台作品を生で観るのではなくストリーミングや上映、DVDを観ることが多かったのでどうしようかとも思いましたが、 劇場での上演を収録したものについてのみ番外特選扱いとし、それ自体がオリジナルの映像作品に近い作りのものは対象とすることにしました。 おおよそ印象に残っている順に並べていますが、順位には深い意味はありません。 音楽関連 (レコード/ライブ) は別に選んでいます: Records Top Ten 2020

第一位
Kid Koala, The Afiara Quartet, directed by K. K. Barrett: Nufonia Must Fall (パペットショー)
渋谷区文化総合センター大和田さくらホール, 2020/01/18.
[鑑賞メモ]
第二位
François Chaignaud / Nino Laisné: Romances inciertos, un autre Orlando (舞踊音楽劇)
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール, 2020/12/19.
[鑑賞メモ]
第三位
新国立劇場バレエ団 / 森山 開次 (振付) 『竜宮 りゅうぐう ~亀の姫と季の庭~』 (バレエ)
新国立劇場 オペラパレス東京芸術劇場, 2020/07/24.
[鑑賞メモ]
第四位
『生誕100年 石元泰博写真展 伝統と近代』 (写真展)
東京オペラシティ アートギャラリー, 2020/10/10-2020/12/20.
『生誕100年 石元泰博写真展 生命体としての都市』 (写真展)
東京都写真美術館 2F, 2020/09/29-2020/11/23.
[鑑賞メモ]
第五位
Anca Damian: L’extraordinaire voyage de Marona [Marona’s Fantastic Tale] 『マロナの幻想的な物語り』 (映画)
Aparte Film (Romania) / Sacrebleu Productions (France) / Minds Meet (Belgium), 2019.
[鑑賞メモ]
第六位
『DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに』 (美術展)
国立新美術館 企画展示室2E, 2020/01/11-2019/02/16.
[鑑賞メモ]
第七位
カンパニーデラシネラ 『ドン・キホーテ』 (ダンス/マイムシアター)
相模女子大学グリーンホール 多目的ホール, 2020/12/12.
[鑑賞メモ]
第八位
中村 蓉 『ジゼル特別30分版』 (ダンス / streaming)
YouTube, 2020/04/25.
[鑑賞メモ]
第九位
Rémi Chayé: Tout en haut du monde 『ロング・ウェイ・ノース』 (映画)
Sacrebleu Productions (France), Maybe Movies (France), 2 Minutes (France), France 3 Cinema (France), Nørium (Denmark), 2015 (日本公開, 2019).
[鑑賞メモ]
第十位
『ヨコハマトリエンナーレ2020 光の破片をつかまえる』 (美術展)
横浜美術館 / プロット48 他, 2020/07/17-2020/10/11.
[鑑賞メモ]
番外特選1
Nederlands Dans Theater / Yoann Bourgeois (choreo.): I wonder where the dreams I don't remember go @ Lucent Danstheater (ダンス / streaming)
インターネット配信, 2020/12/05.
[観賞メモ]
番外特選2
Arthur Pita (dir./choreo.), Natalia Osipova, Jonathan Goddard: The Mother @ Queen Elizabeth Hall (ダンスシアター / DVD)
Opus Arte, 2020.
[観賞メモ]

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[3883] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Fri Jan 1 0:50:39 2021

2020年に入手した最近数年の新録リリースの中から選んだ10枚+α。 展覧会・ダンス演劇等の公演の10選もあります: 2020年公演・展覧会等 Top 10

#1
Strings & Timpani
Voice & Strings & Timpani
(Hubro, HUBROLP3636, 2020, LP)
#2
Charkha
La colère de la boue
(Innacor / Collection Inna+, INNA11815, 2018, CD)
#3
Simin Tander
Unfading
(JazzHaus, JHR187, 2020, CD)
#4
Miklós Lukács Cimbiózis Trió
Music From The Solitude Of Timeless Minutes
(Budapest Music Center, BMC CD 289, 2020, CD)
#5
Kelly Lee Owens
Inner Song
(Smalltown Supersound, STS372, 2020, CD)
#6
Elina Duni / Rob Luft
Lost Ships
(ECM, ECM 2689, 2020, CD)
#7
Aksak Maboul
Figures
(Crammed Discs, CRAM300, 2020, CD)
#8
Hans Lüdemann Trio Ivoire XX
Enchanted Forest
(Intuition, INT 3449 2, 2020, CD)
#9
Brot & Sterne
Tales of Wanderlust
(Traumton, 4681, 2019, CD)
#10
JFDR
New Dreams
(White Sun Recordings, WSR02CD, 2020, CD)
次点
Bertolino / Le Gac
Ubiquité
(L'Usinerie, no cat. no., 2020, CD)

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[3882] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Fri Jan 1 0:48:04 2021

あけましておめでとうございます。

去年一年を振り返って 2020年の レコード Top 10展覧会・公演等 Top 10 を選びました。 2020年はCOVID-19パンデミックでストリーミング等はあったとはいえ音楽ライブや劇場公演も激減、 趣味生活どころか日常生活にすら大きな制約が生じた一年でした。 Top 10 を選べるような趣味生活ができた年とは言い難いのですが、 そうだからこそ、普通の年のように Top 10 を選びたいとも思う一年でもありました。

十選やその順位は別にして、そもそも自分が足を運ばなかったもの、入手しなかったものも含め、 COVID-19パンデミックの中、こんな Top 10 を選べるだけの公演や展覧会を開催し、 CD, レコードをリリースする、といった活動を続けた多くの方々に敬意を表したいと思います。

このサイトが展覧会や公演、音楽活動などのサポートとなるほどのものは無いと思いますが、 こんな時だからこそ、細やかながらでも趣味生活と、このサイトの更新を続けたいものです。

今まで読んでくださっている皆さん、今年もお付き合いいただければと思います。

[3881] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Wed Dec 30 11:40:22 2020

先週末日曜は昼に白金台へ。この展覧会を観てきました。

Garen of life: Eight Contemporary Artists Venture into Nature
東京都庭園美術館
2020/10/17-2021/01/12 (10/28,11/11,25,12/9,23,12/28-1/4休) 10:00-18:00 (11/20,21,27,28,12/4,5 -20:00)
青木 美歌 [Mika Aoki], 淺井 裕介 [Yusuke Asai], 加藤 泉 [Izumi Kato], 小林 正人 [Masato Kobayashi], 康 夏奈 [Kana Kou], 佐々木 愛 [Ai Sasaki], 志村 信裕 [Nobuhiro Shimura], 山口 啓介 [Keisuke Yamaguchi].

現代美術の文脈で活動する美術作家8人のグループ展です。 今までチェックしていた作家は含まれていたわけではなく、 面白い作家に出会えたらラッキー程度の軽い気持ちで臨んだのですが、 会場のマジックもあったかもしれませんが、期待以上に楽しめました。 コンセプチャルに過ぎず、造形的な美しさ、面白さを持つ作品が集められていたのも、 住居をリノベーションした美術館の空間に合っていたでしょうか。

例えば、佐々木 愛 の真っ白な漆喰レリーフの作品は、ホワイトキューブのフラットな照明でなく、 洋館の部屋の窓から入る揺らめくような自然光が、趣のある陰影を作り出していました。

康 夏奈 のクレヨン、パステル画を造形したかのような立体作品も、 青木 美歌の空間に泡立つような透明感あるガラス細工も、 志村 信裕 の控えめに煌めくように投影されるサイトスペシフィック・ビデオインスタレーションも、 その装飾的な空間に馴染んていました。 その一方で、新館のホワイトキューブのギャラリーを暗くして光るガラスを浮かび上がらせる 青木 美歌 の展示も、本館とは良い対比となっていました。

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ほとんどの美術館は28日月曜から年末年始の休館。この展覧会が今年の展覧会見納めです。

晩には帰宅して、この舞台をストリーミングで観ました。

Dumb Type: 2020
ロームシアター京都 サウスホール
2020/03/28 収録, 65分.
ダムタイプ: 池田 亮司, 大鹿 展明, 尾﨑 聡, 白木 良, 砂山 典子, 高谷 史郎, 高谷 桜子, 田中 真由美, 泊 博雅, 濱 哲史, 原 摩利彦, 平井 優子, 藤本 隆行, 古舘 健, 薮内 美佐子, アオイ ヤマダ, 山中 透, 吉本 有輝子
配信時間: 2020/12/25 10:00 - 2020/12/27 23:59 (JST)
URL: https://www.youtube.com/watch?v=HJgcUxzALco (expired).

今年の3月28, 29日にロームシアター京都サウスホールでの公演が予定されていたものの COVID-19パンデミックのため中止となってしまった18年ぶりの新作『2020』ですが、 初演が予定されていた3月28日に無観客で収録された映像が期間限定のストリーミングで公開されました。 高谷 史郎 の舞台作品を見る機会はそれなりにあったので [鑑賞メモ] 18年も間が空いた気がしなかったのですが、 ダムタイプとしては2002年の『ヴォヤージュ』 [関連する鑑賞メモ] 以来です。

背景に正方形のスクリーンが3枚、場面に応じて降りてきて使われるだけで、大きな舞台美術は無し。 その一方で、舞台中央の5m四方程度の正方形の奈落があいていて、その周りでパフォーマンスが繰り広げられます。 照明も白色光をベースとして色味の少ないミニマリスティックなビジュアルです。 冒頭の場面での、振り子のように振れる照明が床近い時はまるで鏡面のように穴が光り、それが引き上げられるにつれて黒い穴となっていくという視覚効果も抜群。 冒頭の場面に続いての四角の穴を闇に落としてその周囲でスキャンする円に合わせてのソロダンスや、 ラストの三対幅正方形スクリーンに Dumb Type らしい映像を投影してのその下でのソロダンスなど、 Dumb Type の流石のビジュアルの美しさでした。

中盤、正方形の穴の周囲で5人のダンサーが身振り手振りで討論するような場面や、 2人が横たわり瞬きする様をスクリーンに投影しつつナレーションで会話であるかのように見せる場面などもあり、 スタイリッシュなビジュアルに空虚さを感じることも多いのですが、この作品ではその空虚さ自体が俎上に上がっているように感じました。

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これで今年の更新はおしまいでしょうか。

[3880] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Dec 29 22:01:51 2020

先週末土曜は昼過ぎに恵比寿へ。 東京都写真美術館1Fホールと恵比寿ガーデンシネマの両方で 海外のアニメーション映画を上映しているので、ハシゴして2本観てきました。

『ロング・ウェイ・ノース』 Long Way North
2015 / Sacrebleu Productions (France), Maybe Movies (France), 2 Minutes (France), France 3 Cinema (France), Nørium (Denmark) / 80min
Réalisé par Rémi Chayé.
Scénario original: Claire Paoletti, Patricia Valeix. Adaptation et dialogues: Fabrice de Costil.
Création graphique: Rémi Chayé. Premiére assistante réalisatrice: Marie Vieillevie.
Musique: Jonathan Morali.
Avec la voix de Christa Théret (Sasha).

19世紀末ロシア、探検家の祖父を持つ貴族のお嬢様 Sasha が 北極海で消息を経った祖父の乗った船 Davaï 号を探しに向かうという冒険物語を描いた、 フランスの作家によるアニメーション映画です。 舞台はロシアですが、セリフは全てフランス語。 画面中のメモ等は英語やフランス語 (看板などはロシア語混じり) でした。 シルクスクリーン版画の様な枠線の無いフラットな色面からなるシンプルで柔らかい色合いの絵が美しいのですが、 シンプルな造形ながら、北極探検でのスリリングな動きはもちろん、主人公の繊細な心理描写を描く細やかな動きも良いアニメーションでした。

ロシアの貴族の家の少女 Sasha は祖父の思い出に拘り、社交界デビューで祖父を嫌う王子と衝突。 Davaï 号を探しに、家出してサンクトペテルブルグから汽車で北極海に面した港町アルハンゲリスクヘ。 そこで、船乗りに裏切られて一文無しで取り残されるも、酒場の女将 Olga に同情されて住み込みで働き、船が戻るのを待ちます。 そして、ついに Lund 号への乗船が許され、Davaï 号を探す探検航海へ乗り出します。 その後、氷山の崩壊で Lund 号を失い、雪原の中の厳しい旅が続きますが、 ブリザードの中で祖父の遺体と航海日誌に行き当たり、ついに Davaï 号を発見します。 絵も美しいのですが、気が強いだけの世間知らずのお嬢様が、そんな旅を通して逞しく精神的に成長していく様の、さりげなくも丁寧な描写、 例えば、Olga での酒場での成長をセリフを一切使わずに酒場での生活の断片のモンタージュだけで描くような所が、実に良いです。

少女の精神的な成長を丁寧に描くいたアニメーションという点で 『アルプスの少女ハイジ』 (瑞鷹, 1974) やそれに続いた『世界名作劇場』 (日本アニメーション) にも近く、 長編映画ではなくTVシリーズでじっくり観たかったようにも思いました。

『ウルフウォーカー』
2020 / Cartoon Saloon (Ireland), Mélusine (Luxembourg) / 103min
Directed by Tomm Moore and Ross Stewart.
Screenplay by Will Collins
Music by Bruno Coulais in collaboration with Kila, Songs performed by Aurora, Maria Doyle Kennedy, Sofia Coulais.
Featuring the voices of Honor Kneafsey (Robyn Goodfellowe), Eva Whitaker (Mebh Óg MacTíre), Sean Bean (Bill Goodfellowe), Simon McBurney (Oliver Cromwell “The Lord Protector”), Maria Doyle Kennedy (Moll MacTire)

アイルランドのアニメーション・スタジオ Cartoon Saloon の Tomm Moore による “Irish Folklore Trilogy” (日本では「ケルト三部作」と呼ばれる) の、 The Secret of Kells (2009)、 Song of the Sea (2014) に続く第3作で、 イングランドの護国卿 Oliver Cromwellに侵攻された17世紀アイルランドに着想した冒険ファンタジー・アニメーション映画です。 (残念ながら第1, 2作は未見です。) あえて遠近法を排して描かれた木版画とドローイングを組み合わせたような素朴ながら描き込みの多い絵柄の、 動く絵本のようなアニメーションでした。

舞台はイングランドの侵略が進む17世紀アイルランドの街キルケニー。 イングランドから狼狩として雇われやってきたばかりの Bill の娘 Robyn と、 寝ている間は狼となる wolfwalker (夢遊病患者 sleepwalker のもじりか) の少女 Mebh の出会いと交流を通して、 都市と自然、権威主義と自由、プロテスタント的なキリスト教とケルト的な異教、イングランド人とアイルランド人の対立といったものの共存の可能性を問うような物語です。 この対比が、木版画風な直線的な絵とドローイング風の丸っこい絵で描き分けられて視覚化されていたのも良かったです。 絵が美しいだけでなく、自然の中で Robyn と Mebh が自由に走り回る動き、 Robyn や Bill の葛藤の繊細な心理描写などの、アニメーション表現も素晴らしいです。 狼になった時の視覚ではなく嗅覚や聴覚を通しての「見え方」の表現もアニメーションならではでしょか。

この夏に『もののけ姫』 (スタジオジブリ, 1997) を映画館んで観る機会があったのですが、 その時に、この映画の世界は、中世ファンタジーにおける中世ヨーロッパ風のイメージを中世日本風のイメージで置き換え、 そこでのケルトとか北欧とかの古代の異教の要素に対応するものとしてエミシを持ってきているようだと感じていました。 Wolfwalker は、その時に頭で想像したヨーロッパ中世ファンタジー版『もののけ姫』に近く、 現代に続くアイルランド問題への視点も感じられ、 まさにこういう映画が観たかったんだと、観ながら思ってしまいました。

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映画の時間の合間を使って展覧会も。

Seto Masato: Maps of Memory
東京都写真美術館 2F
2020/12/01-2021/01/24 (月休;1/11開,1/12休;12/29-1/1休). 10:00-18:00.

日本人の父とベトナム人の母を持ちタイ生まれというバックグラウンドを持つ、1980年代から活動する写真家の個展です。 台湾西施を撮った “Binran” シリーズをグループ展で観た記憶があるものの、こうしてまとめて観るのは初めてです。 ポートレート写真にしてはぼんやりした表情の女性のアップの白背景の白黒写真のシリーズ “Silent Mode 2020” などは、 同じような構図の写真が多く並べられることにより、タイポロジー的な面白さも感じました。 “Binran” シリーズも似たような点もあるのですが、構図の統一感は緩く、どぎつい色の画面もあって、少々ノイジーに感じられてしまいました。 しかし、人物を撮った写真がメインで、自分は、どうも、人物を撮った写真が苦手かもしれないと思い至ってしまったりもしました。

東京都写真美術館3Fでは 『日本初期写真史 関東編 幕末明治を撮る』 (2020/12/01-2021/01/24)。 東京都写真美術館鉄板の写真黎明期に焦点を当てたコレクション展示です。 新興写真以前、絵画主義の時代だと意識して観ていたのですが、 手彩色された日下部金兵衛《芦ノ湖「箱根」アルバムより》(明治中期頃) などを見ていると、 カラー化鮮明化されたものを観ると、意外とモダンな構図で撮られているように感じられてました。

B1Fでは 『138億光年 宇宙の旅』 (2020/11/21-2021/01/24)。 宇宙観測による画像、映像の展覧会です。 habblesite.org でお馴染みの画像もありましたし、科学的な興味を満たすという観点では書籍などに劣る面もありますが、 大判で高精細の画像、映像による迫力に寄り切られた感もあった展覧会でした。

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[3879] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Dec 29 12:05:23 2020

十日前の先々週末の土曜の話になりますが、晩に与野本町へ。 COVID-19パンデミック以降初めて、海外アーティストの公演を観てきました。

彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
2020/12/19, 15:00-16:30.
Conception, mise en scène et direction musicale: Nino Laisné; Conception et chorégraphie: François Chaignaud
François Chaignaud (chant et danse), Jean-Baptiste Henry (bandonéon), Daniel Zapico (théorbe et guitare baroque), François Joubert-Caillet (viole de gambe), Pere Olivé (percussions historiques et traditionnelles)
Création lumière et régie générale: Anthony Merlaud; Régie son: Charles-Alexandre Englebert; Habilleuse en tournée: Cara Ben Assayag
Création costumes: Carmen Anaya, Kevin Auger, Séverine Besson, María Ángel Buesa Pueyo, Caroline Dumoutiers, Pedro García, Carmen Granell, Manuel Guzmán, Isabel López, María Martinez, Tania Morillo Fernández, Helena Petit, Elena Santiago
Décor: Chef peintre: Marie Maresca; Peintre: Fanny Gautreau; Retouche images: Remy Moulin, Marie B. Schneider; Construction: Christophe Charamond, Emanuel Coelho
Production déléguée: Vlovajob Pru & Chambre 415
Spectacle créé le 10 septembre 2017 à Saint-Gervais Le Théâtre dans le cadre de La Bâtie-Festival de Genève

フランス出身のダンサー・振付家・歌手の François Chaignaud と美術作家・音楽家 Nino Laisné による舞台作品です。 彼らのバックグラウンドについてよく知っていたわけではありませんが、 歌唱、音楽と舞踊を対等に扱う音楽舞踊劇 (opera-ballet) という興味もあって、足を運ぶことにしました。 確かに、4人の楽器奏者が生演奏する音楽に合わせて歌い踊る Chaignaud も見応えありましたが、 Chaignaud が出ていない幕間での演奏もあり、器楽コンサートとしても楽しめた舞台でした。

ミュージシャンは4名。舞台向かって左手から、theorbé 等の Daniel Zapico (Winter & Winter レーベル専属のアンサンブル Forma Antiqva で知られる) と viole de gambe 等の François Joubert-Caillet という、バロック音楽に特徴的な楽器の演奏者。 さらに右手へ frame drums の Pere Olivé と、tango で使われる bandoneon の Jean-Baptiste Henry の2人を加えたことで、 通常の古楽アンサンブルからアップデートされていました。 16世紀以降の民俗音楽 (flamenco や jota) を含むスペインの音楽に基づいているとのことですが、それに tango の要素を加えています。 バロック音楽や民俗音楽と室内楽的な jazz の融合というのはヨーロッパでは少なく無く、 第2幕と第3幕の幕間での folía では Michel Godard らもよく演奏する Gianluigi Trovesi の “C’era una strega c'era una fata” (この曲は folía に基づいている) を思わせるような展開も聴かせ、そんな音楽を連想もしました。 しかし、jazz ではなく tango というか bandoneon をバロック音楽や民俗音楽を融合してアップデートする音として持ってきていた所が新鮮に感じられました。

彼らの演奏による音楽に最も引き込まれたのも確かですが、歌い踊る Chaignaud も素晴らしかったです。 Virginia Woolf による時と性別を超えて旅する主人公の小説 Orlando (1928) を承けた内容で、 第1幕では男装の少女戦士 (Doncella guerrera) を、第2幕では San Miguel (聖ミカエル) を、 そして第3幕ではアンダルシアのジプシー La Tarara という、両性具有的なキャラクターを Chaignaud を演じ踊り歌います。 音楽同様、ダンスも民俗舞踊 (jota や flamenco) や tango の要素を取り入れたもの。 第1幕こそ普通に踊っている感もありまたが、 ポスターにもなっていた第2幕の San Miguel 姿での高足 (zanco, stilt) を履いてのダンスも、 ballet で言う chaîné (chaines turns) のようにくるくると回り踊ったり、片足を高く蹴り上げたり。 確かに高足で激しく踊るカンパニーもありますが、大道芸などでは多くは回遊芸程度なので、ここまでがっつり踊るとは期待していませんでした。 その後の第2幕後半も、高足を脱いだあとも pointe shoes で踊りましたし、 第3幕では、十数センチはあろうハイヒールで flamenco 様な動きも含め踊りまくりました。 作品コンセプトの両性具有的なイメージというより、そんな高技巧の踊りに目が行ってしまいました。

舞台美術としては、4人の演奏者の背景になるような形で、バロック風の絵画が4枚掲げられていました。 ライティングを変えるだけなく高さを変えたりもしていました。 そこに描かれていたのはおそらく演じられたキャラクターに関連するものだと推測されるのですが、 その寓意を読み取ることが出来ませんでした。

COVID-19パンデミックの影響で今年3月から海外アーティストの来日公演が壊滅状態。 海外アーティストの参加した公演は、2月頭に観た Sue Healey から、実に10ヶ月ぶりでした。 しかし、入国後2週間隔離等の都合で公演が当初の予定から1週間延期され、公演回数も彩の国では1回だけになってしまいました。 11月以降感染者数が増加傾向となり第3波に入ってしまい、どうなることかと思っていました。 無事に公演を観ることができて、感慨もひとしおでした。

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[3878] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Thu Dec 24 23:49:14 2020

先々週末土曜の話の続き。相模大野へ舞台を観た後は、日本橋へ移動。 続いて National Theatre Live を観てきました。

The Jamie Lloyd Company, starring James McAvoy.
Cyrano de Bergerac
The Playhouse Theatre, London, 2019/2020.
by Edmond Rostand, in a new version by Martin Crimp.
Director: Jamie Lloyd.
Set and costume designer: Soutra Gilmour; Lighting designer: Jon Clark; Music and sound design: Ben and Max Ringham.
Cast: James McAvoy (Cyrano de Bergerac), Anita-Joy Uwajeh (Roxane), Eben Figueiredo (Christian), Tom Edden (De Guiche), Nima Taleghani (Lignière), Michele Austin (Leila Ragueneau), etc
First Performance: 27 November 2019, The Playhouse Theatre, London.
上映: TOHOシネマズ, 2020-12-12 18:35-21:25.

Cyrano de Bergerac は粗筋を知る程度、 映画俳優としても知られる主演の James McAvoy の出演映画を観たことも、 演出の Jamie Lloyd についての予備知識も無く、守備範囲外かとも思っていたのですが、 National Theatre Live で延長上映となるほどの評判なら観ておいても良いかもしれない、と足を運んでみました。

原作の Cyrano は17世紀フランスの cadet (貴族子弟の士官候補生) ですが、 それを現代の欧米の軍隊の下士官に置き換えられていました。 詩人という設定は現代のラップ的なポエトリー・リーディングに優れた者として、 醜男という設定はそうであるという自意識に囚われている者という設定とされていました。 その周囲の男性たちは、いかにも現代的な兵士 (それも志願兵や傭兵) を思わせるゴツい男ばかり。 Christian が口下手なのも、その出身の社会階級によるものかのように描かれていました。 また、Roxanne は、大人しい文学少女というより、むしろ知的で快活な、現代的な女性となっていました。

前提知識不足でそういった翻案の妙が楽しめたわけでは無いのですが、 Cyrano 演じる McAvoy の圧の高い演技が発するオーラにぐいぐいと引き込まれました。 舞台美術は、方形の素の大箱を置いただけのようなシンプルなもので、後方の壁が上がると階段状の雛壇が現れる程度。使う道具も椅子程度。 格闘シーンなどもありますが、基本的にその雛壇やその前での立ち位置や、 椅子の並びや座る向きなども使って、象徴的に場面を描いていきます。 例えば、Roxanne と Christian の接吻の場面から De Guiche の横恋慕の場面にかけての 4人が並んだ椅子にかける順と向きを変えつつ会話で場面を描く演出や、 Cyrano と Christian が送られた戦場の場面での階段上雛壇使いなど。 National Theatre Live の字幕付きという助けも大かったかと思いますが、 そんなミニマリスティックな演出も楽しめました。

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[3877] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Dec 22 23:38:26 2020

10日ほど空いてしまいましたが、先々週末土曜の午後は相模大野へ。この駅を降りたのは初めて。 ということで、初めて足を運んだホールでこの公演を観てきました。

相模女子大学グリーンホール[相模原市文化会館(グリーンホール)]
2020/12/12, 15:00-16:20.
演出: 小野寺 修二.
原作: Miguel de Cervantes: Don Quijote; テキスト: 山口 茜.
出演: 藤田 桃子, 大庭 裕介, 崎山 莉奈, 雫境, 伊吹 卓光, 小野寺 修二.
美術: 石黒 猛; 照明: 吉本 有輝子; 音響: 池田 野歩; 衣裳: 駒井 友美子(静岡県舞台芸術センター); 舞台監督: 橋本 加奈子;
初演: 2017/03/03, 高知県立美術館ホール.

『ロミオとジュリエット』 [鑑賞メモ] に続く カンパニーデラシネラの古典名作劇場第二弾『ドン・キホーテ』です。 初演から4年近く経ち、初の首都圏での上演です。 バレエ化された Kitri と Basilio の恋物語ではなく原作に着想した作品です。 マイムをベースとした無言の作品で、はっきりと物語の筋を追って描いてはいません。 騎士道物語を読み耽って空想と現実の区別が付かなくなる話、 風車を巨人と間違えて突撃してしまう話、 田舎娘を Dulcinea 姫と Sancho に騙される話、 そして、銀月の騎士 Carrasco との決闘の話など に着想したと思われる場面が演じられ、 ある程度粗筋を知っているだけで物語が辿れると思われる演出でした。 (バレエ版の元ネタになった話は使われていなかったように思います。)

『ロミオとジュリエット』がそうでしたが、 全国を回ってのツアーで必ずしも劇場での上演を前提としない作品ということでしょうか、 大きな装置は使わず、人手で持ち運べる程度の道具のみでの上演です。 しかし、逆にそれが身体の動きで空間を描く面白さ、 一つの物から様々なアイデアを使って多様な情景を描いていく面白さを 引き出していたように思います。

冒頭の騎士道物語を読み耽る場面、 一辺2m程度の細い白い棒で作られた立方体の枠の中に読書机を置き、 その中と外を、書物という空想に繋がる世界と現実という異なる世界として動きとして演じ分け (空想を映像と見立て、それを演出している様子として見せたり)、 そこから本がパフォーマーたちの手づてでこぼれて、やがて舞台全体に空想が広がるよう。 そして、なんと言っても、Don Quixote が風車を使う場面。 優に5m四方はあろう軽い布を使い、広げて風を表現し、 張って風車への道を作りつつその上を行くDon Quixote と Sancho を張る手でライトアップし、 布の下の動きで巨人のイメージを作り出し、翻して場面転換し、と、 布使いのアイデア溢れる楽しい場面でした。 もちろん原作が風刺的、喜劇的な作品ということもあり、 客席からも笑い声が溢れるようなコミカルな場面も少なからずありました。

2月に観た『どこまでも世界』 [鑑賞メモ] や 前の週に観た『Knife』 [鑑賞メモ] のような試みも良いのですが、 『ロミオやジュリエット』や『ドン・キホーテ』のような有名な物語を使って取りつきやすく楽しめる作品も、彼らの持ち味が生かされていて、また良いものです。 それにしても、『Knife』が振替公演となったため、2週続けての公演。 出演者はもちろんのこと、制作サイドも諸々の調整が大変だったのではないかと。

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[3876] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Dec 13 18:58:10 2020

国立フィルムアーカイブでは、11月17日から12月6日まで 上映企画 『生誕100年 映画女優 原節子』をやっていました。 自分の観てきた戦前日本映画は松竹大船に偏っていて、当時、東宝の女優だった 原 節子 の出演した映画はほとんど観てませんでした。 これも戦前の 原 節子 出演の東宝映画を観る良い機会かと、3回の週末を使って4本観ました。

『田園交響樂』
1938 / 東宝東京 / 白黒 / 35mm / 75min.
監督: 山本 薩夫. 脚本: 田中 千禾夫. 原作: André Gide, La Symphonie pastorale
高田 稔 (日野 東作), 原 節子 (盲目の少女雪子), 佐山 亮 (東作の弟進二), 清川 玉枝 (東作の妻敦子), 富士山 君子 (東作の娘道子), 御橋 公 (田口医師), etc

フランスの André Gide の小説を、舞台を札幌に翻案しての映画化です。 原 節子 はキリスト教徒の教師 日野 (原作では牧師) に育てられる盲目の少女 雪子を演じています。 貧しい身なりで言葉もろくに喋れない姿での登場こそ鬼気迫るものがありましたが、知的で美しい女性へ成長するプロセスの描写はあっさり。 日野の妻の描写も少なめ。 むしろ、東京から訪れた日野の弟 進二 (原作では長男に相当) を交えての微妙な三角関係の描写の方が丁寧でした。 雪子は進二に託され東京で手術を受けて視力を得るのですが、進二の元を抜け出し一人 日野の元に向かいます。 その旅路の描写がドラマチックで、ラストは吹雪の中で行き倒れる場面は、彼女を探す2人も合わせてかなり緊張感溢れる見せ場になっていました。 ラストは雪中に行き倒れた雪子を日野が見つけ、教会に担ぎ込むのですが、雪子の最期の言葉の場面は暗示的にしか描かれませんでした。 雪子の自殺ではなく、日野への旅路の描写に力が入っていたので、原作とは少々トーンが変わって、日野と雪子のメロドラマを観るようでした。

『東京の女性』
1939 / 東宝東京 / 白黒 / 35mm / 82min.
監督: 伏水 修. 脚本: 松崎 與志人. 原作: 丹羽 文雄 『東京の女性』.
原 節子 (君塚 節子), 江波 和子 (妹 水代), 藤輪 欣司 (父 榮治郎), 水町 庸子 (母 お幾), 立松 晃 (木幡 好之), 水上 怜子 (タイピスト たき子), 外松 良一 (一森 営業課長), 柏原 徹 (販賣主任), etc

原 節子が、自動車販売会社のタイピストからセールスマンに転身し成功するモダンな女性を演じた映画です。 転身するきっかけはDVを振るう甲斐性なしの父の入院費のためと、いささか保守的な理由で状況に背を押された感もあるのですが、 性格に仕事が合っていたのか、そんなきっかけも忘れたかのように (実際、後半になると親は登場しない)、仕事にのめり込んで行きます。 節子と恋人の仲の 販売会社で一番の成績を出しているセールスマン 木幡 は、 当初は反対するも、決意が固いと見ると、彼女にノウハウを教え、セールスマンになることを支援します。 当時はセールスマンのような仕事は男の仕事で、ライバル間での暴力沙汰もよくあることのように描かれています。 そんなセールスマンの世界に飛び込んできた女性ということで、今であればセクハラとされるような嫌がらせも受けるのですが、 そんな事も気にせず、むしろ実力ではね飛ばして、節子は仕事を進めて行きます。 しかし、辣腕セールスマンぶりを節子が見せるようになると、木幡は次第に節子に対して気後れするようになり、 やがて木幡に好意を持っていた妹 水代に惹かれて行きます。 やがて、節子は木幡と妹の仲に気付くことになり、妹と木幡を結婚させます。

原 節子 は体格も姿勢も良く、顔立ちも強めなので、ので、洋装、特にスーツ姿、コート姿が似合いますし、 油塗れになって車を整備する様子も様になります。 男性もたじたじとなる辣腕自動車セールスマンとなっていく女性は、実にハマり役でした。 ラスト、妹と木幡の結婚式の後、納車するオープンカーの外車を運転してモダンな東京近郊の街中を走るのですが、 新婚旅行へ行く2人の列車を追いつつ、やがてそれも吹っ切れたかのように走り去っていく姿も、実に決まってました。 妹は姉と対照的な、しかし、古風ではなく、むしろ、女性であることを利用してモダンな文化を享受するような女性で、 それを演じる 江波 和子 も、奔放な (少々あざとさも感じる) 可愛さ。 恋人 木幡 を演じた 立松 晃 はこの映画が東宝 第1作だったようですが、そんな姉妹に見劣りしない有能イケメンぶり。 そんな脇を固める俳優たちも、原 節子 の魅力を引き立てていました。 また、節子ほどの野心はないもののしっかりした感のあるタイピスト時代の同僚 たき子 (水上 怜子) との仲の描写に、男社会の中でのシスターフッドを感じました。

『嫁ぐ日まで』
1940 / 東宝東京 / 白黒 / 35mm / 69min.
監督, 脚本: 島津 保次郎.
原 節子 (好子), 矢口 陽子 (浅子), 御橋 公 (生方 光三), 沢村 貞子 (牧 常子), 1934) 清川 玉枝 (片桐 房子), 汐見 洋 (奥村 喜造), 大川 平八郎 (戸田 淳), 英 百合子 (秋子), 杉村 春子 (丸川先生), 大日方 伝 (樫村 富士雄), etc

『東京の女性』とはうって変わって、保守的な家庭観結婚観のホームドラマです。 男寡の 生方 と、その面倒を観ている年頃の長女 好子、亡くなった母が忘れられない次女 浅子の、 生方が常子を後添えに迎え、好子が資産家 樫村へ嫁ぐ日までの日々を、ドラマチックな抑揚は抑え 何気ない日常を通して描いています。 しかし、さりげない会話の積み重ねは、さすが 島津 保次郎 でしょうか。 好子が家を訪れた幼馴染みの戸田と居間で話様子に『隣りの八重ちゃん』 (松竹蒲田, 1934) [鑑賞メモ] を、 火鉢を囲んでのやりとりや満員列車での通勤・通学の場面に『兄とその妹』 (松竹大船, 1939) [鑑賞メモ] を 思い出させる所もあり、東宝の映画で登場する俳優の顔ぶれこそ違いますが、実に松竹大船調でした。

原 節子 の美しい和装の花嫁姿は見られるのですが、日常の服装も、基本、和装で、 颯爽としたモダンな姿が見られず、少々物足りません。 しかし、いかにもモダンな意匠はほとんど出てこないのですが、 家を訪れた叔母にお茶菓子に出すのがエクレアだったり、 夕食に味噌汁のようにお椀で食べる場面が火鉢で作ったシチューだったり、 姉妹で花見に行って食べるのがサンドウィッチだったり、と、 日常にさりげなく溶け込んだモダンな食文化が描かれていました。

『阿片戰爭』
1943 / 東宝映画 / 白黒 / 16mm / 115min.
監督: マキノ 正博. 脚本: 小国 英雄. 原作: 松崎 啓次.
市川 猿之助 (林則徐), 河津 清三郎 (穆資英), 小杉 義男 (丁徐成), 清川 莊司 (許沈伯), 菅井 一郎 (阿片吸飲者), 進藤 英太郎 (英国東洋艦隊提督), 浅田 健三 (印度提督), 山本 礼三郎 (黄露球), 丸山 定夫 (林牙梁), 原 節子 (愛蘭), 高峰 秀子 (麗蘭), etc

中国の管理貿易体制の終焉、欧米の中国進出の契機となった阿片戦争の直接のきっかけとなった、 林則徐のアヘン取締を描いた描いた群像劇の映画です。 戦時中に撮られた映画で、登場人物はイギリス人も中国人も日本人が演じて、日本国内に大規模なセットを作って撮影しています。 大規模なセットはもちろん特撮も駆使して撮られた、 右往左往する民衆で混乱する広州市内、炎上するイギリス人居留区などのスペクタクルは、さすが東宝でしょうか。 しかし、物語自体は、正義感を持って事に当たる林 則徐 たち、悪辣なイギリス人たち、 小狡賢そうなアヘン商人や腐敗した清の役人たちの描写もステロタイプで図式的に感じてしまいました。 原 節子 と 高峰 秀子 の2人が演じた、混乱に巻き込まれる盲目の少女とその姉のエピソードは、 Lilian & Dorothy Gish 主演の D. W. Griffith のサイレント映画 Orphans of the Storm (1921) の翻案とのことですが、 阿片戦争へ至る大状況の物語に埋もれ気味で、サブのエピソードのように感じられてしまいまいました。

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[3875] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sat Dec 12 23:43:55 2020

先の週末、土曜の晩は20時までになんとか帰宅。自宅でこの舞台をストリーミングで観ました。

Lucent Danstheater, Den Haag
4 December 2020.
Choreographer: Yoann Bourgeois.
Assistant to the choreographer: Marie Bourgeois. NDT Assistants: Lucas Crandall, Tamako Akiyama, Ralitza Malehounova.
Music: Max Richter: Written on the sky, The end of all our exploring, The Departure, Path 19 (yet frailest), November Sequence, This bitter earth / On the nature of daylight.
Light: Yoann Bourgeois, realization by Barry van Oosten; Decor: Yoann Bourgeois; Costume: Yoann Bourgeois, realization by Yolanda Klompstra.
Duration: approx. 40 min.
World Premiere: 3 December 2020, Lucent Danstheater, Den Hague.
Streaming date: 2020/12/05 20:00-20:40 JST.
URL: expired.

コンテンポラリー・サーカスを背景にダンスの文脈でも活動する振付家 Yoann Bourgeois [関連する鑑賞メモ] が オランダのダンスカンパニー NDT (Naderlands Dans Theater) [関連する鑑賞メモ] のメインのカンパニー NDT 1 に振付た新作の有観客公演が、有料ストリーミングされました。 ちなみに、Bourgeois が NDT に振付るのは、若手のためのカンパニー NDT 2 に振付た Little song (2019) に続いてです。 (残念ながらこちらはトレイラーしか観ていませんが。)

舞台装置は、素の木で作った立方体の一つの頂点で接する3面。 一面は床として固定されていますが、もう2面は可動で、1面は上向に傾けて傾いた床のように、 もう1面は下向きに傾け引き上げて天井のように使うことができます。 さらに、2脚の椅子と1台のテーブルが道具として使われます。 最初に登場するのだ男女1組、親密というより、テーブルを挟んでそこから関係が少々冷めてしまったかのような微妙な距離感です。 そのうち女性がテーブルに伏せて眠ってしまうのですが、その中の夢かのように舞台上のイメージが変容させる動きが始まり、ラストに元の状況に戻って終わります。 その間、ダンスを通して男女のすれ違い諍いのような情景が時々浮かび上がります。 少々メロドラマチックな Max Richter の音楽もそんな情景に合っていました。

Les Grands Fantômes [鑑賞メモ] など典型ですが、物理的な動きの制約を逆に心情の表現に使うことが Bourgeois の作品の特徴の一つなのですが、 ここでは、垂直に立った、もしくは、大きく傾いた壁(床)、上下反転しての天井が、人の動きを物理的に制約する条件として使われます。 そこに椅子やテーブルを固定し、その周りでパフォーマンスすることで、水平な床ではありえない動きを作り出していきます。 また、最初の2人だけではなく、2人と同じ服を着た (上下を組み替えたパターンを含む) ダンサーを使い、動きを組み合わせていきます。 さらに、それを映像として撮り、まるで床が水平であるかのようにして壁面に投影し、実際の人と重ね合わせていきます。

壁際に立つ人に傾いた床を滑り落ちていく人の映像を重ねた所など、まるで幽体離脱。 傾いた床に固定したテーブルに着いた男女の周囲を人が転げ落ちて行き時折人が入れ替わることで、 静かに向かい合っているようで心中は崩れ落ち込んでいく様子を描くようでした。 そして、ラスト近くの上下反転した天井でのパフォーマンスは、 多くの人に支えられてなんとかテーブルに着いていられる一方で、 反転して投影された画面で観るとテープルから浮き上がってしまうかのように見えます。 それも、テーブルを挟んでいるものの心ここにあらず、しかし周囲の人もあってなんとかここに止まっているかのような、二人の置かれた状況を象徴するようでした。 また、傾いた床の上や上下反転した天井での動きに合わせ、速い動きは使わず、全体としてゆっくりとした動きでしたが、それも夢の中の出来事のようでした。

垂直に立てられた壁を床に見立てたダンスは vertical theater/dance として一分野となっていますが、 流石に、上下反転というのは滅多になく、この舞台のスチル写真を観たときは舞台の展開の中での状況が想像できませんでした。 それに、こういうセッティングではワイヤーも使い aerial acrobat 的な見せ方をすることが多くなるため、 動きを抑えてむしろ心象を表現するかのような表現は新鮮でした。 斜めの床を使って映像とも重ね合わせるというと、2000年に観た Studio Azzurro + Compagnia di Roberto Castello: Il Fuoco L'Acqua L'Ombra [鑑賞メモ] なども思い出しましたが、 この作品では、映像の中に身体が埋もれることなく、むしろ生身の身体の方を主に扱っているように感じられました。 このような映像使いはプロジェクタの技術進歩のおかげもあって、特に、 2000年前後はまだ輝度が低く暗くする必要があったけれども今は照明をさほど落とさずとも見れること、 超短焦点プロジェクタの登場により壁前の人と被らない壁際からの投影が可能になったこと、の2点が大きいのではないかと想像されます。

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[3874] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Fri Dec 11 22:05:47 2020

先の週末、土曜の午後は横浜山下町へ。この公演を観てきました。

KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ
2020/12/05, 13:00-14:10.
演出: 小野寺 修二.
出演: 大庭 裕介, 梶原 暁子, 崎山 莉奈, 雫境, 藤田 桃子, Nung Van Minh [ミン・ヌヴァン], 劉 睿筑 [Liu Rui Zhu / リウ・ジュイチュー] (aka Bamboo Liu), 小野寺 修二.
美術: 原田 愛; 照明: 吉本 有輝子; 音響: 池田 野歩; 衣裳: 武徳 ドァンフン; 舞台監督: 岩谷 ちなつ;
企画製作・主催: KAAT神奈川芸術劇場

カンパニーデラシネラを主宰する 小野寺 修二 の演出による新作の公演です。 カンパニーデラシネラの4人 (小野寺、藤田、大庭、崎山) が顔を揃えていますが、 国際的に他のダンサーも加えてのKAAT企画製作による公演です。 ベトナムからの Nung Van Minh は2017年の『WITHOUT SIGNAL! 〔信号がない!〕』 [鑑賞メモ] にも出演、 台湾からの 劉 睿筑 も2018年の小野寺の日台コラボレーションワークショップ『夢的故事(夢の物語)』に出演しており、 今までの国際的なネットワーク作りが生きた顔ぶれでしょうか。

マイムをベースとしたセリフを用いない作品です。 2月に観た『どこまでも世界』 [鑑賞メモ] にも 感じたことですが、空間を無からマイムで描くのではなく、舞台装置で設定された空間の意味付けを変えていきます。 特に今回は、装飾が控えめながらも、分割して組み合わせ並べ替え自在のテーブル状の台や、扉、壁状のパネルなどを駆使して、 それを動かし組み替えて、舞台上の状況の意味付けや変化などの基本的な枠組みを示していくようでした。 パフォーマーの動きは外的な空間描写ではなく、むしろ登場人物の内面描写をするように、 マイムというより無言での演劇的な演技があり、 そこから強い感情を吐露するような抽象的なダンス、マイム的な動きが時々湧き上がってきます。 そんな2つの動きのモードに、ミュージカルの地の台詞と歌 (オペラであればレチタティーヴォとアリアや合唱) も連想させられました。

『どこまでも世界』はスケッチ集という感じでストーリーは感じられなかったのですが、 『Knife』では、はっきりしたものではないものの不条理な状況に置かれた6人 (梶原, 崎山, 藤田, Minh, 劉, 小野寺) の間で繰り広げられる物語が浮かびあがらせるかのように、 右往左往し、議論し、他人の様子を伺い、時には我先に逃れようとする様が描かれていきます。 残る人物2名 (大庭 裕介, 雫境) は不条理な状況をもたらしている抑圧的な人物の役なのですが、 意図や内面を感じさせないような動きで、不条理感を高めていました。 不条理な極限状況でのグループでの旅 (パスポートチェックの場面もある) での心理劇を見るようでした。 ラスト、崎山の座っていた椅子に大庭が赤いテープで印を付け、崎山が赤いドレスを着る場面が赤いドレスを切るのですが、 人柱として選ばれることを象徴的かつ抽象的に表現しているよう。 その不条理さを強い動きで表現するのではなく、むしろ淡々と受け入れるかのような動きで描くところに、この状況をもたらしている抑圧の強さを感じました。

この公演は11月21日から大スタジオでの上演を予定していたのですが、 出演者に新型コロナウイルスPCR検査で陽性反応が出たため、急遽、日程と会場を変えての振替公演となったのでした。 2月末の『どこまでも世界』も、 2月18日の首相による突然の「イベント自粛要請」による公演中止が相次ぎ始めたギリギリの状況下での公演でした。 このような状況下で、『どこまでの世界』を上演し、『knife』の振替公演を実施した、関係者の上演への強い意志と努力には頭が下がります。

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[3873] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Dec 6 0:15:45 2020

先の週末、土曜の午後ダンスを観た後、初台から神保町へ移動。 今年は松竹映画100年ということで、国立映画アーカイブの上映企画 『松竹第一主義 松竹映画の100年』 [鑑賞メモ] だけでなく、 神保町シアターでも特集企画 『松竹映画100周年 “監督至上主義”の映画史』をやっています。 その中から、未見だった戦前のこの映画を観てきました。

『花籠の歌』
1937 / 松竹大船 / 白黒 / 69min.
監督: 五所 平之助 脚色: 野田 高梧, 五所亭. 原作: 岩崎 文隆 『豚と看板娘』
田中 絹代 (洋子), 佐野 周二 (小野), 徳大寺 伸 (李さん), 河村 黎吉 (敬造), 高峰 秀子 (浜子), 岡村 文子 (伯母お菊), 谷 麗光 (その亭主富太郎), 出雲 八重子 (女中おてる), 笠 智衆 (堀田), 近衛 敏明 (岡本医学士), 立花 泰子 (女給鈴江), etc

あらすじ: 元国際航路客船コックの啓造が開いた銀座のトンカツ屋「湊屋」の看板娘 洋子 は、 妻を亡くした独り身の父の面倒を見て、24歳を目の前にしても独身。 家のことに気を使わない啓造や独身の洋子のことを、伯母お菊は気にしている。 妻の年回忌に何も用意してなかったのに、前日の伯母からの確認の電話に、 啓造は慌てて実家が寺の常連客 学生 堀田に頼んで法要をしてもらう。 伯母は岡本医学生を洋子の結婚相手として紹介しようとするが、啓造も洋子も関心を示さない。 洋子には好意を寄せ合う常連客の学生 小野がいた。 小野の学友 堀田を通してそれを知った啓造は、小野にトンカツ屋になる気がある事を確かめ、洋子との結婚を認める。 トンカツの腕が良いと評判の雇われコックの李さんは、密かに好意を寄せていた洋子の結婚にショックを受けて、店を辞めてしまう。 李さんに好意を寄せていた女中おてるも、店を辞めてしまった。 啓造と小野の2人で店を回すようになったが、客足は遠のいてしまった。 やがて、店に刑事がやってきて、小野が連行されてしまう。 小野が湊屋の常連となる前に行っていたカフェーの女給鈴江が殺されたという新聞記事を見た洋子は、 小野が犯人で、裏切られたと思い込んでしまう。 事情聴取から帰った小野は、過去の女給との仲を詫びて、洋子と仲直りする。

日本初の国産トーキー映画『マダムと女房』 (松竹蒲田, 1931) [鑑賞メモ] を監督したことで知られる 五所 平之助 による映画です。 看板娘 洋子と常連客 小野の恋物語が軸になっていますが、 階級差のような障害やすれ違いなどの2人の恋路を振り回す状況が小粒で、メロドラマにしては平坦な展開です。 特に、戦前松竹メロドラマでは娘の恋路に立ち塞がる無理解で抑圧的な親父を演じる事が多い 河村 黎吉 [鑑賞メモ] が、 むしろ娘やその恋の相手に理解のあるいい父親を演じている事が物足りなく感じました。

トンカツ屋の日常の中で起きるさざなみのような出来事を、 全体として大きなオチを付けるような物語構成でなく細やかなエピソードを連ねる形で、 ユーモアと人情を感じさせつつ、戦間期の風俗を交えて、描いています。 メロドラマ展開的には少々物足りなく感じましたが、 モダンだが庶民的でもあるトンカツを出す店の客層を含めた雰囲気はもちろん、 銀座の路地裏の店の二階からの眺めや地方から上京してきた苦学生がその眺めに込める心情など、 その丁寧な描写が楽しめました。 田中 絹代の演じる主人公も庶民的で勝気。度々口にする「バカねっ」も良いです。

映画の中で、特に印象に残ったのは、 名前やイントネーションから朝鮮人と思われる役の、徳大寺 伸 演じるコックの李さん。 フラレ役という点では可愛そうな役ではありますが、 トンカツの腕が良いと客の評判も良く、女中にも好意を寄せられています。 偏見が感じられないわけではないものの数年前の関東大震災時の虐殺などに見られるような差別をあまり感じさせない、フラットな描き方でした。 こういう人物を登場させることで、東京のモダン都市としての国際化を描こうとしていたのかしらん、と。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

国立映画アーカイブの方では、今、上映企画 『生誕100年 映画女優 原節子』 をやっていて、そちらも戦前の映画を目当てに観に行っています。 が、やっぱり、東宝よりも松竹の方が好みだなあ、と、つくづく。

[3872] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Fri Dec 4 22:31:25 2020

先の週末、土曜は、昼には初台へ。この舞台を観てきました。

中村 恩恵×首藤 康之×新国立劇場バレエ団
新国立劇場 中劇場
2020/11/28 14:00-15:10.
構成・演出・美術原案: 中村 恩恵, 首藤 康之
振付: 中村 恩恵; 音楽: Dirk P. Haubrich 照明: 足立 恒; 音響: 内田 誠.
キャスト: 渡邊 峻郁 (一場: 詩人/ロメオ/美青年; 二場: 詩人/オテロ/バック/シャイロック; 三場: 詩人/美青年/男), 小野 絢子 (一場: 詩人/ジュリエット/ダークレディ; 二場: 美青年/デズモーナ/タイターニア; 三場: 美青年/女),
初演: 新国立劇場中劇場, 2011/09/30
制作: 新国立劇場

2011年に新国立劇場ダンスの公演として初演された William Shakespeare の詩集 The Sonnets 『ソネット集』 (1609) に着想したダンス作品の再演です。 それ以来、何回か再演されていますが、観るのは初めて。 初演時は構成・演出の中村と首藤が出演しましたが、今回の再演では新国立劇場バレエ団のダンサーが踊りました。 (日曜の公演では男性ダンサーは首藤が踊りましたが。) 『ソネット集』はおよその内容を知る程度と疎いこともあり、 原作の解釈などはピンと来なかったのですが、 ダンサーの動きと色彩を抑えた衣装と照明を駆使したスタイリッシュな演出を堪能できました。

道具は舞台奥の三面鏡台と一人がけソファ、舞台下手の詩人の机、途中で使用される洋裁用トルソー程度。 照明は舞台全体をフラットに照らすというより、ダンサーの周囲の空間を区画するかのようで、 その区画の変化によって場面を切り替えていく演出が良かった。 闇の中にその区画が浮かび上がるので、二箇所の区画のフェードイン/フェードアウトが、 水平方向の移動ではなく、まるでオーバーラップしてクロスフェードするように感じられたりも。 一場ではリフトなども用いた男女ペアでの踊りはさすがバレエで鍛えられているだけある安定感とスムースさ。 しかし、二場での女性ダンサーが男装してのダンスも良かった。 キャスタ付きの一人がけソファに女性ダンサーを座らせ手を取って踊るように移動させたり、 洋裁用トルソを使ったパペットダンスのような踊りなど、物を使ったダンスを交えていたのも気に入りました。 全体としてモノトーンで暗めの舞台ということもあってか、 恋愛感情の明るい面というより暗い面を描いているようにも感じられました。

新国立劇場中劇場の客席は傾きが大きく、奥行き方向を使った舞台作品でも観やすいことも、良かったでしょうか。 去年夏に『Camille –カミーユ・クローデル–』 [鑑賞メモ] も、 スパイラルホールではなくこの新国立劇場中劇場で観たら、 この『Shakespeare THE SONNETS』のようなスタイリッシュな舞台として楽しめたのかもしれません。

今年は、1月の『ニューイヤー・バレエ』 [鑑賞メモ] に始まり、 7月の『竜宮』 [鑑賞メモ]、 11月の『ドン・キホーテ』、そして、この『Shakespeare THE SONNETS』と、4回も新国立劇場へ足を運ぶことに。 例年であれば海外カンパニーの来日公演へ行くのに精一杯で、新国立劇場から足が遠のきがちなのですが。 コロナ禍で来日公演が止まってみると、新国立劇場のような公共劇場やそのレジデンスのバレエ団のようなカンパニーが 国内にちゃんとあるとののありがたさを実感する1年でありました。

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[3871] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Nov 29 22:06:50 2020

先の週末、日曜は、午前には家を出て千葉へ。この展覧会を観てきました。

千葉市美術館
Tatsuo Miyajima: Chronicle 1995-2020.
2020/09/19-12/13 (10/5,10/10,11/2,11/16,12/7休), 10:00-18:00 (金土-20:00).

千葉市美術館の拡張リューアルオープン・開館25周年記念の展覧会は、 7セグメントLEDカウンターを使ったインスタレーションで知られる 宮島 達男 の回顧展です。 1980年代には活動を始めていた 宮島 ですが、美術館開館の1995年以降を取り上げたものになっています。 国際美術展や美術館常設展などで作品を観る機会が多い作家ですが、美術館レベルでの個展として観るのは初めて。

まとめて観て新たな気付くがあったという程ではないのですが、 「7セグメントLEDカウンターを0を表示せずにカウントダウンを繰り返す」という確固たるモチーフを持って、 それを長年にわたって変奏して展開していることの強さを実感しました。 配置を変えるのはもちろん、LEDの色を変えたり、LEDに代わって液晶を使ったり、液晶プロジェクタで投影したり、 カウントダウンの方法に「IKEGAMI Model」のようなロジックを採用したり。 さらに、身体性を強調するように、人にペイントしたり、ペイントもせずに数えさせてパフォーマンス/ビデオ作品としたり、と、 変奏の展開の仕方も巧みで、変奏間の差異も楽しめます。 正直に言えば「柿の木ブロジェクト」は『Ripple Across The Water - 時の波紋』 (表参道界隈, 1995) で観て以来、微妙な作品に感じてはいるけれども、 LEDカウンターという作風の太い柱を持ち、しっかり継続してきているということで、 作家の作風の文脈中にそれなりに位置付けられるように感じられました。

と言っても、やはり良いと感じたのは、LEDカウンターを使った作品。 LEDモジュールに大きなものや小さなものを使い、 裏の配線も見せるように疎に格子状から揺らいで不定形に配置する、近年の作風が特に気に入りました。 1995年は実用化されたばかりの青色ダイオードの使用も新鮮でしたが、 今回の展示での新作では、淡いパステルカラーのLEDカウンターを、それも様々な色のものを交えて使っているのも新鮮に感じられました。

宮島も出展した千葉市美術館開館記念展『Tranquility – 静謐』は観ていますし [鑑賞メモ]、 今回の展覧会に取り上げられていた最初期にあたる 国際現代美術展『Ripple Across The Water – 水の波紋 '95』は、 自分にとっても現在に至るまで現代美術を見続ける大きなきっかけとなった展覧会でした。 1996年にはカウントダウン・パフォーマンスの収録にも参加したことありました [鑑賞メモ]。 そもそも、このサイトに残っている美術展の鑑賞メモが1996年頭からで、ほぼこの展覧会と扱う時代と同じ。 先日観た群馬県立近代美術館の『佐賀町エキジビット・スペース 一九八三—二〇〇〇 現代美術の定点観測』展にしてもそうですが [鑑賞メモ]、 作品を鑑賞するというより、1990年代中頃のことをいろいろ思い出させられた展覧会でもありました。 (自分の個人的な記憶については多くは語りませんが。)

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3870] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Nov 24 21:34:39 2020

1週間余り前の日曜15日は、昼に京橋へ。 毎年恒例の国立映画アーカイブのサイレント映画の上映企画 『サイレントシネマ・デイズ2020』 で、柳下 美恵 によるピアノ生伴奏付きサイレント映画上映を観てきました。

La Proie du vent
1927 / Films Albatros (France) / 104 min. / 35mm 1.33:1 16fps / B+W / silent
Réalisation: René Clair
Scénario: René Clair le roman L'Aventure amoureuse de Pierre Vignal d'Armand Mercier
Charles Vanel (Pierre Vignal), Lillian Hall-Davis (Elisabeth, la châtelaine), Sandra Milowanoff (Hélène, la soeur d'Elisabeth), Jean Mura (le mari d'Hélène), Jim Gérald (docteur Massaski, le médecin), etc

サイレント期の René Clair の映画というと、 Entr'acte 『幕間』 (1924) や Paris qui dort 『眠るパリ』 (1925) のような Avant-Garde 色濃い実験的な作品の印象が強いのですが、 この映画はその後に制作された実験色を抑えた物語映画です。

時代は第一次世界大戦後。主人公の冒険飛行士 Pierre Vignal はパリからモスクワへの航空路開拓中に 中欧スロバキアの城館近くの森に不時着、城館の女主人である伯爵夫人 Elisabeth の手当てを受けます。 その Pierre と Elisabeth の間のロマンスを、城館に幽閉された妹 Hélène とその夫を交え、 少々ミステリー的かつアクションの要素もあるメロドラマとして描いています。 Elisabeth の一族はバルカンの架空の小国 Libanie [Libania] の貴族で、 クーデターで Elisabeth は夫を失い、追われて亡命生活し、 妹 Hélène はクーデター時に逮捕投獄された結果錯乱してしまったという設定は、 この映画を制作した Albatros がプランスの白系ロシア人の映画会社で、彼らにとってリアルなものだったのかもしれません。

Pierre が Elisabeth に好意を寄せるようになるも、その義弟の間の関係を疑ううち、幽閉された Hélène と出会います。 錯乱しているとは知らずに Hélène の妄想に振り回され、2人で城館を自動車で脱走するものの失敗し、彼女を事故死させてしまい、彼女たちの真実を知ることになります。 Hélène の死を契機に Elisabeth と義弟は母国に戦いに戻る決心をし、Pierre も Elisabeth への未練を残しつつパリに戻りますが、 最後はパリで再会して結ばれる、という、三角関係の交錯するメロドラマです。 特に、Elisabeth と義弟が関係しているのではないかと嫉妬する場面での妄想イメージの映像化など、 セクシーかつスタイリッシュで、流石、Clair。 亡命貴族の城館暮らしということで、モダンな意匠に溢れているわけではないですが、ファッションもアール・デコ期で、お洒落です。

しかし、一番の見所は、 不時着時を含む空撮映像や Hélène の事故死の場面を含むカーチェイスの映像など、スリリングな映像表現でしょう。 飛行機や自動車を使っているということも含め、当時としてはモダンというか斬新な表現だったのでしょう。 偶然、前日に『星の王子さま』 (Antoine de Saint-Exupéry: Le Petit Prince, 1943) を舞台化した作品を観たばかり、 図らずしも、不時着した飛行士の物語を続けて観ることになりました。 一方は子供の心を呼び起こす寓話、もう一方は大人向けメロドラマと、ある意味対照的ですが、 戦間期、飛行士の不時着という状況は想像を掻き立てられるものがあったのだろうなあ、と。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3869] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Mon Nov 23 22:20:18 2020

先の週末土曜14日は、午後に横浜山下町へ。このダンス作品を観てきました。

KAAT神奈川芸術劇場ホール
2020/11/14 14:00-16:10.
演出・振付: 森山 開次
美術: 日比野 克彦; 衣裳: ひびの こづえ; 音楽: 阿部 海太郎
出演: アオイヤマダ (王子), 小㞍 健太 (飛行士), 酒井 はな (バラ), 島地 保武 (キツネ, 王様, 他), 森山 開次 (蛇, 地理学者, 他), 坂本 美雨 (コンスエロ), 池田 美佳 (ヒツジ, 渡り鳥, 点灯夫, バラたち, 他), 碓井 菜央 (ヒツジ, 渡り鳥, バラたち, 他), 大宮 大奨 (呑み助, 飛行隊), 梶田 留以 (夕日, 渡り鳥, バラたち, 他), 引間 文佳 (ヒツジ, 渡り鳥, 点灯夫, バラたち, 他), 水島 晃太郎 (うぬぼれ屋, 飛行隊, 他), 宮河 愛一郎 (実業家, 飛行隊, 他).
演奏:佐藤 公哉, 中村 大史.
企画製作・主催: KAAT神奈川芸術劇場

7月の新国立劇場バレエ団 『竜宮 りゅうぐう ~亀の姫と季の庭~』 も楽しかった [鑑賞メモ] が、 今度はコンテンポラリー・ダンスの文脈で活躍するダンサーを集めて 『星の王子さま』をダンス作品化したということで、観てきました。

森山の舞台といえば、プロジェクションマッピングやユーモラスな造形の道具や衣裳を駆使した、 軽妙さを感じることが多いのですが、 プロジェクションマッピングもほとんど使わず、道具や衣裳の造形も抑えめ。 バオバブ木をバルーンで象る所など ひびのこづえ のアイデアのように思われましたが、 クレジット上は美術が ひびのこづえ ではなく 日比野克彦 で、そのような造形物は控えめ。 新体操やサーカスなどのバックグラウンドなど個々のダンサーの身体性を生かした動きも抑えて、 グループでの動きでの表現を多用して、作品を描いていました。 予想していた舞台とかなり違ったので、少々戸惑いながら観ていました。 そんな中では元バレエダンサーという身体性を生かした 酒井 はな の「バラ」が最も印象に残りました。

最も印象に残ったのは、やはり、最後の場面。 王子さまがバラの元に戻ったように描くのではなく、 また飛行士も倒れた状態になり修理した飛行機で生還したかのような描き方ではなく、 バラが一人舞台中央で回り続けるまま幕が下りる終わり方は、 かなりペシミスティックな印象を残しました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3868] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Thu Nov 12 21:29:07 2020

例年であれば、10月から11月にかけてほぼ毎週末、東京芸術祭やFESTIVAL/TOKYOのプログラムで、 海外カンパニーのコンテンポラリーな演劇やダンスの公演が東京芸術劇場界隈で続くのですが、 今年はCOVID-19で来日公演はほぼ全滅。 11月6-8日も東京芸術劇場プレイハウスで Ivo van Hove / Toneelgroep AmsterdamRoman Tradegies の公演が予定されていたのですが、キャンセル。 その代わりに Ivo can Hove 演出作品上映会が開催されたので、日本語字幕付きで観ておく良い機会と、 土曜7日の昼から晩まで、1日通し券で3作品を観ました。

『オープニング・ナイト』
Director: Ivo van Hove; Author: John Cassavetes
Actors: Elsie de Brauw (Myrtle), Jacob Derwig (Maurice), Oscar van Rompay (Gus), Fedja van Huët (Manny), Katja Herbers (Dorothee), Chris Nietvelt (Sarah), Kristof van Boven (Kelly), Fred Goessens (David), Lien de Graeve (Lena), Hadewych Minis (Nancy), Eelco Smits (Leo)
Translation: Gerardjan Rijnders, Sam Bogaerts; Dramaturge: Koen Tachelet; Scenographer, light design: Jan Versweyveld; Sound design: Marc Meulemans; Video: Erik Lint; Costumes: An D'Huys
Premiere: 26 Mar 2006
Producer: NTGent, Toneelgroep Amsterdam
映像初公開日: 2010年9月17日 (収録日時不明), 90分.
上映: 東京芸術劇場プレイハウス 2020/11/07 13:00-14:30.

John Cassavetes の1977年の同タイトルの映画に基づく作品ですが、元の映画は観ていません。 同じく映画に着想したということより、 老いに向き合う女優が主人公のバックステージ物ということもあってか、 All About Eve 『イヴの総て』 [鑑賞メモ] を連想しました。 手持ちカメラなども使って舞台裏を見せるかのような演出も似ていたでしょうか。 しかし、All About Eve より構造は複雑で、 地の舞台裏、リハーサル、ゲネプロ、初日の舞台に主役の女優の妄想などが錯綜して、 今、何を見てるのか混乱する時もありました。 その錯綜具合も含めて楽しむ作品かと思いますが、さほどピンと来なかったのは、 演劇の舞台裏に自分がさほど興味持ててないというのはあるかもしれません。

『声』
Director: Ivo van Hove; Author: Jean Cocteau
Actors: Halina Reijn (she)
Translation, dramaturge: Peter Van Kraaij; Scenographer, light design: Jan Versweyveld
Premiere: 12 Feb 2009
映像初公開日: 2010年1月1日 (収録日時不明), 70分.
上映: 東京芸術劇場プレイハウス 2020/11/07 16:15-17:25.

ある女性の別れた男 (夫) との長電話を一人芝居としたもの。 客席側に大きなガラス窓がある、ほぼ空の部屋で、女優一人が電話に、もしくは自分に語り続けます。 身体の動きで空間を描いたり、セリフで電話の向こうの状況を描くというより、電話の主の女性の心情を描くというもの。 正直に言えば自分とは縁遠過ぎる話の上、 例えば Fleabag [鑑賞メモ] のような コメディ的な語りの妙を感じられるものでも無かったので、 その世界に入り込むというより、当惑感が先立ちました。 しかし、窓の外に出て、手を広げて、照明が落ちるラストは、流石にスタイリッシュに不穏な演出でした。

『じゃじゃ馬ならし』
Director: Ivo van Hove; Author: William Shakespeare
Actors: Alwin Pulinckx (Tranio), Leon Voorberg (Gremio), Dennis Rudge (Hortensio), Eelco Smits (Lucentio), Fred Goessens (Grumio, Vincentio), Halina Reijn (Katharina), Hans Kesting (Petruchio), Elise Schaap (Bianca), Hugo Koolschijn (Baptista Minola), Stef Aerts (Biondello).
Translation: Hafid Bouazza Dramaturge: Alexander Schreuder Scenographer: Jan Versweyveld Set: Atelier Amsterdam Sound design: Marc Meulemans Costume design: Lies van Assche
Premiere: 08 May 2005
映像初公開日: 2009年9月4日 (収録日時不明), 115分.
上映: 東京芸術劇場プレイハウス 2020/11/07 19:30-21:25.

シェイクスピアの作品の中でもミソジニー的な面が多くある『じゃじゃ馬ならし』を Ivo van Hove がどう料理したのか興味があったのですが、 舞台を現代に置き換え、脇役を含めて、皆、めちゃくちゃなひとばかりという、カオティックな舞台でした。 相対的に Katherina と Petruchioが中では最もまともな2人に見えてしまったことよ。 Katherina と Petruchio の結婚式で、親や友人がオランダのフットボール応援姿の一方、 白ネクタイスーツ姿の Petruchio が結婚式に相応しくない姿として責められるわけですが、 万事こんな感じで、価値観が逆転した世界での物語のよう。 このオランダのフットボール応援姿の結婚式をはじめ、 何ヶ所か微かに見覚えある場面がいくつかあったのですが、 YouTube のトレイラーか何かで観たことがあったのかもしれません。

去年もシアター・オリンピックスで1日3公演観ているので [鑑賞メモ] 大丈夫だろうと1日通しで観たのですが、全て同じ演出家の演劇作品が続いて変化に乏しい上、 遠征しての演劇祭のような気分的な盛り上がりに欠けるので、疲労感が先立ってしまいました。 うーむ。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3867] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Tue Nov 3 22:13:12 2020

文化の日の前後は週末と合わせて連休にして静岡に大道芸を観に行くことが多いのですが、今年はCOVID-19のため中止。 というわけで、今年は土曜に初台へ、日曜に恵比寿へ行って、2会場で開催中の写真展を観てきました。

Ishimoto Yasuhiro Centennial: Tradition and Modernity
東京オペラシティ アートギャラリー
2020/10/10-2020/12/20 (月休;月祝開,翌火休). 11:00-19:00.
Ishimoto Yasuhiro Centennial: The City Brought To Life
東京都写真美術館 2F
2020/09/29-2020/11/23 (月休;月祝開,翌平日休). 10:00-18:00.

アメリカ・カルフォルニア生まれで高知に育ち、1939年以降アメリカに移住し、 László Moholy-Nagy がシカゴに開校した New Bauhaus こと Chicago Institute of Design で戦後間もなく頃に学び、 1953年の再来日後、日本を拠点に活動した写真家 石元 泰博 の生誕100年を記念した回顧展が、都内の2つの美術館を会場に開催されています。 辻 彩子、大辻 清司 と制作た実験映画『キネカリグラフ (Kine Calligraph)』 (1955) など 大辻 清司 [鑑賞メモ] との仕事や、 近代建築や桂離宮などの建築写真などの仕事で知られ、写真を観る機会はそれなりにありましたが、 シカゴ時代の1950年代から、21世紀に入ってからの「シブヤ、シブヤ」のような晩年の作品まで、 まとめて観るのは初めて。

東京オペラシティアートギャラリーの展示が石元泰博フォトセンターのコレクションを主、 東京都写真美術館の展示は東京都写真美術館のコレクションを主としていますが、 近代建築や桂離宮、伊勢神宮などの建築写真や、シカゴや東京の街中や工場などを造形を強調するように撮った写真が東京オペラシティ アートギャラリーの方に集められ、 晩年の「シブヤ、シブヤ」をはじめ、シカゴや東京の街中の写真も人々を捉えたような写真は、 東京都写真美術館の方に集められていました。 実験的な作風のものは、最初期のフォトグラムのような実験写真や Kine Calligraph は東京オペラシティ アートギャラリー、 ライフワーク的な多重露光の作品は東京都写真美術館にありました。

大辻 清司 経由で知った写真家ということもあり造形的な作風という印象が強く、 東京都写真美術館の展示で造形的に限らない作風の多面性に気付かされる興味深さがありました。 しかし、やはり、造形的な画面が際立つ、東京オペラシティ アートギャラリーの方の作風が好みでした。 シカゴの薄く雪をかぶった路駐の車を同じ構図で捉えた「雪と車」シリーズ (1948-52) など Becher のタイポロジーを思わせますし、 工場や道路を即物的に捉えた「日本の産業」シリーズ (1963) も印象に残りました。 建築写真は今までも目にする機会が少なくなかったのですが、造形的だけでなく構図の巧みさ、 特に手前に大きく視野を阻む構造を捉え、その合間から向こうの被写体を的確に収める構図が、 単にフラットに捉えるというのではない奥行き感を作り出していました。

最初期シカゴ時代のフォトグラムなどの実験写真は、流石 László Moholy-Nagy 直系と思わせる一方、 これが、後に 大辻 清司 等に合流しての Kine Calligraph へ、 さらに「色とかたち」シリーズとなるのかと。 銀塩の写真と並べると少々異質ですが、「色とかたち」では、多重露光を駆使して、 抽象表現主義を思わせる鮮やかな色の抽象的な画面を作り出していました。

東京都写真美術館3Fでは、 『TOPコレクション 琉球弧の写真』 (2020/09/29-11/23)。 新規収蔵作品を中心とした沖縄の写真家の特集。画面の造形的な面白さより撮影対象の比重が重めの写真が集められていました。

B1Fでは、 『写真新世紀展2020』 (2020/10/17-11/15)。 好みの作家に出会えれば、という感じで毎年定点観測していますが、今年もピンとくるものに出会えず。 近年はすっかり現代アート的なコンセプチャルな作風がトレンドになっていますが、画面の造形的な面白さという面が後退し過ぎてしまっているようで、掴みに欠けるようです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

初台へ行くなら新国立劇場でも何か観よう、 ということで、土曜マチネに良席が残っていたので、 新国立劇場バレエ団 『ドン・キホーテ』Don Quixote を観てきました。 このバレエ団の過去の Don Quixote や 他のバレエ団の公演と比べて云々言えるほどバレエは観てませんが、 Kitri と Basilio が可愛くて微笑ましい、そんなラブコメの雰囲気を楽しめました。 脇役も芸達者で、特に街中の第1幕、後ろの人々もちゃんと演技していて、街の陽気で生き生きとした雰囲気でしたし。 こういう明るいコメディも良いなあ、と。 新国立劇場は観やすくて好きなハコなどで、自分の守備範囲とかあまり気にせず、気楽に足を運びたいものです。

ちなみに、この公演は、今年5月に2019/20シーズン締めくくり公演だったもののCOVID-19で中止となり、2020/21シーズン開幕公演になったもの。 7月の『竜宮』 [鑑賞メモ] は 関係者にCOVID-19感染者が出て千秋楽を迎えることができなかっただけに、 このシーズン開幕公演が無事に千秋楽を迎えることができて良かったです。

[3866] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Nov 1 18:28:11 2020

先週末、土曜は昼に京橋へ。この上映+講演会を観てきました。

国立映画アーカイブ
2020/10/24 12:00-14:20
上映作品: 『日本の学童たち』 Japanese School Children (Hepworth Manufacturing Company (Britain), 1904, 2min), 『日本の葬列』 A Japanese Funeral (Warwick Trading Company (Britain), 1904, 2min), 『日本の祭列』 Japanese Procession of State (Hepworth Manufacturing Company (Britain), 1904, 1min), 『日本の舞踊』 Japanese Dancers (unknown (Britain), 1905, 2min), 『保津川の急流下り』 Shooting the Rapids on the River Ozu in Japan (Pathé Frères (France), 1907, 7min), 『ピクチャレスク・ジャパン』 Picturesque Japan [Japon Pittoresque/Das Malerische Japan] (Pathé Frères (France), 1907, 9min), 『日本の祭 横浜開港五十年祭』 Japanese Festival [Grande Fête du Cinquantenaire de Yokohama] (Pathé Frères (France), 1909, 6min), 『日本の稲刈り』 Rice Harvest in Japan [La Récolte du Riz au Japon/Reisernte in Japan/Auf Den Reisfeldern] (Pathé Frères (France), 1910, 8min), 『京都の祭』 The Rice Festival in Kyoto [La Fête du Riz à Kyoto, Japon / Reisfest in Kioto], (Pathé Frères (France), 1911, 8min), 『鵜飼』 Fishing with Cormorants. Isle of Yeso. Japan [Kormorane Beim Fischfang (Insel Yeso Japan)] (Charles Urban Trading Company (Britain), 1911, 10min), 『日本人の中で』 Among the Japanese (Selig Polyscope Company (America), 1911, 2min), 『日本のアイヌ』 The Ainus of Japan [Die Ainus, Die Im Aussterben Begriffene Urbevölkerung Japan’s] (Selig Polyscope Company (America), 1913, 3min), 『日本の軽業師』 Japanese Acrobats (unknown (Britain), 1914, 6min).
すべて British Film Institute 所蔵作品, デジタル修復版, 日本語・英語字幕つき; ピアノ伴奏: 柳下 美恵.
講演: 小松 弘 『初期映画における日本の映像について』, 平野 正裕 『「日本の祭 横浜開港五十年祭」について』, 森岡 健治 『「日本のアイヌ」の映像について』, 大島 幹雄 『「日本の軽業師」の映像について』

10月27日はユネスコ「世界視聴覚遺産の日」で、国立映画アーカイブは国立近代美術館フィルムセンター時代からこの時期に記念特別イベントを開催しています。 今年は British Film Institute 所蔵映画の中から20世紀初頭に日本で、もしくは、海外の日本人を撮影した映画の特集したもので、 映画が合計約1時間分、映画に関連する講演が1人あたり15分というプログラムでした。 企画自体はCOVID-19流行以前に立てられたもので、COVID-19の影響でフィルム輸送が困難となり 上映映画も変更になり全てデジタルデータによる上映、講演も1人15分と大幅に短縮したとのことでした。

フィルムセンター時代、国内外で発掘された初期の日本映画の上映会 『発掘された映画たち』が数年おきに開催されているわけですが [2008年の鑑賞メモ, 2014年の鑑賞メモ] そのヴァリエーションのようでもありますが、題材の選択がジャポニズム的というか、観光的という意味では、 Mirror To The Soul: Music, Culture and Identity in the Caribbean 1920-1972 [鑑賞メモ] の日本版のようでもありました。

今回は、ピアノ生伴奏付きで観ることができたので、資料的な興味以上に映像を楽しめたように思います。 時代が下るにつれて映像の質が良くなるということもありますが、 やはり、興味を引かれたのは、平取コタンで撮影されたという『日本のアイヌ』。 「アンナホーレ (鳥の舞)」などの踊りが予想以上に生き生きとした動きの映像で残っていて、 これでサイレントではなく録音が残っていたら、と。 もう一つ、イギリスで撮影されたという日本のサーカス芸人を捉えた『日本の軽業師』も、 画質がくっきりしていて、その動きの良さがはっきりとした視野で楽しめました。

講演が駆け足だったのは残念な限りでしたが、その中、 『初期映画における日本の映像について』で、今回上映されたような映画が当時の写真絵葉書の映画版のようなもので、 画面の作りも写真における絵画主義 (Pictrialism) に対応するという話が、腑に落ちました。 サイレント期の小津の映画と新興写真の類似か、 Russian Avant-Garde の映画と写真の類似など、 戦間期の写真と映画のモダニズムの共通性は意識したことがありましたが、 第一次世界大戦前の写真と映画についてはほとんど意識に上ってなかったので、 今後はそこももっと意識して観たいものです。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3865] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Oct 25 17:53:08 2020

先週末は土曜は一日冷たい雨。雨のあがった日曜の午後に三軒茶屋へ。 この公演映像上映会に行ってきました。

Le Quai - CDN Angers Pays de la Loire, 16 Novembre 2018.
Mise en scène: Florent Bergal; Direction artistique: Eva Ordonez & Florent Bergal
Interprètes: Eva Ordonez (trapeze), Camille Chatelain (equilibre sur cycle), Nata Galkina (foot juggling), Coline Mazurek & Max Behrendt (acrobatic duo), Hugo Georgelin (acrobat, dance), Thomas Surugue (pianiste).
Constructeur – Régie plateau: Rémi Bernard; Costumes: Cie Oktobre et Elodie Sellier; Création lumière: Cie Oktobre et Hugo Oudin; Régie générale technique: Alrik Reynaud; Ingénierie: Jean-Michel Caillebotte
Première: 8 aveil 2018 à CIRCa, Pôle national des arts du cirque, Auch.
Administration: Véronique Dubarry / Acolytes; Production: Christelle Jung / Acolytes; Diffusion: Estelle Saintagne / Acolytes
Co-producteurs: FONDOC - Fonds de soutien à la création contemporaine en Occitanie; La Verrerie, Pôle national des arts du cirque, Alès; Le Cratère, Scène Nationale d’Alès; CIRCa, Pôle national des arts du cirque, Auch; Furies, Pôle National des Arts des Arts du Cirque en préfiguration, Chalons en Champagne; Theater op de Markt, Dommelhof (Belgique)
Projet bénéficiaire du dispositif Compagnonnage du projet transfrontalier De Mar a Mar, cofinancé par le FEDER.
上映: 世田谷文化生活情報センター生活工房ワークショップルーム, 2020/10/18 15:00-16:15.

例年、10月第3週末は三軒茶屋で『三茶de大道芸』が開催され、それに合わせて 世田谷パブリックシアター でコンテンポラリー・サーカスの海外カンパニー招聘公演が催されます [去年の鑑賞メモ]。 しかし、今年はCOVID-19対策のため公演は中止、 大道芸も劇場を使った「大道芸onステージ」とその配信となってしまいました。 初めて足を運んだ2000年以来、『三茶de大道芸』やそれに合わせてのコンテンポラリー・サーカス公演を楽しみにしてきたので、大変残念です。 しかし、公演中止の代わりに公演を予定していた作品の映像上映会が開催されたので、それを観てきました。

Cie Oktobre は2014年に Eva Ordonez, Yann Frisch, Johathan Frau によって設立された フランスを拠点とするコンテンポラリー・サーカスのカンパニーです。 2018年の Midnight Sun はカンパニーとして2作目、 創設者の一人が Ordonez が、フランスのサーカス・アーティスト Florent Bergal の演出で作った作品で、 ドイツ表現主義演劇、Pedro Almodóvar や Alfred Hitchcock の映画などがイメージの着想源のようです。

中央に2人掛けソファ、その上手隣りに1人掛けソファ、下手の袖にピアノが一台。 背景は淡いシャンパンゴールドのドレープカーテンがかかり、天井からはシャンデリアが下がっているという、 ゴージャスな邸宅の客間という雰囲気から始まります。 中盤で、このシャンパンゴールドのカーテンが落ちて赤のベルベットのカーテンに背景が替わり夜のラウンジのようになります。 そしてラストはカーテンも失われ、闇の背景になります。 そんな背景の変化に合わせるかのように、女性パフォーマーも、白い昼の衣装から、赤のナイトドレスに、ラストは黒のナイトドレスに変わっていきます。 白から赤の変化は、女性の衣装変わりとカーテンを落とすタイミングを合わせて、ドラマチックに演出していたのが印象に残りました。

身体な演技の使い方は、視覚的もしくは物語的な枠組みの中でスリリングな技を見せる舞台というより、 明確な物語は無いもののサーカステクニックも使ったフィジカルシアターのよう。 ラスト近くの、シャンデリアの中に仕込んだトラベースを使った空中ダンスは、流石に見せ場を作ったように感じられました。 しかし、ソファ周りでの軟体アクロバットがかった動きや、人を振り回すような動きが多用され、 例えば、自転車アクロバットやツボを使ったフットジャグリングにしても、 高度な技の見せ場をほとんど作らず、むしろダンサーとの絡みを見せるようでした。

映像は客席後方から舞台を正面から全体を捉える固定カメラで撮影したもので、 技によってパフォーマーをクローズアップすることはありませんでした。 パフォーマーの表情が読み取れないような画質で、多くないもののの時折あるセリフには字幕はありませんでした。 そんなこともあり、登場人物の内面的な機微や物語的な要素は捉え難いものがありました。 こうして映像を観られただけでもありがたいのですが、 生だったら、もしくはせめて Met Opera Live、 Royal Opera House cinema や National Theatre Live くらいの映像だったら、 表現の繊細な部分や舞台のゴージャスで退廃的な雰囲気も楽しめたかもしれないと、 映像を観て少々物足りなく感じてしまいました。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3864] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Oct 11 20:05:23 2020

今までの在宅勤務メインの日々から、10月5日から連日出勤。それも全力疾走的な仕事量で疲労困憊。 台風の影響も加わって、この週末はぐったり。 天気も悪く、出かける気力も残っていなかったので、自宅でストリーミング舞台鑑賞しました。

Oratorio in three parts for soloists, choir and orchestra by George Frideric Handel [Georg Mriedrich Händel] (HWV 56) arranged by Wolfgang Amadeus Mozart (K. 572)
Haus für Mozart, Salzburg
23,26 January 2020.
Stage Director, Set & Lighting Designer: Robert Wilson
Costume Designer: Carlos Soto; Co-Stage Director: Nicola Panzer; Co-Set Designer: Stephanie Engeln; Co-Lighting Designer:John Torres; Video Designer: Tomasz Jeziorski; Make-up Designer: Manuela Halligan; Dramaturg: Konrad Kuhn
Elena Tsallagova (soprano), Wiebke Kehmkuhl (alto), Richard Croft (tenor), José Coca Loza (bass).
Alexis Fousekis (dancer), Max Harris (Old Man), Leopoldine Richards (a child).
Les Musiciens du Louvre; Conductor: Marc Minkowski.
Philharmonia Chor Wien; Chorus Master: Walter Zeh.
Video Director Tiziano Mancini
Premiere: 23 January 2020, Haus für Mozart, Mozartwoche Salzburg.
en pertenariat avec le Théâtre de la Ville.
Captation produite par la Companie des Indes, Gildas le Roux; Réalisation: Stéphane Pinot.
NHK ondemand URL: https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2020109707SA000/

Handel が1741年に書き上げた oratorio (聖譚曲) を Robert Wilson が3幕物の舞台作品化したものです。 2020年1月にザルツブルグの Mozartwoche (モーツァルト週間) で初演された際の映像がDVD/BDでリリースされていますが、 同じ映像がNHKオンデマンドで日本語字幕付きでストリーミングされたので、 Robert Wilson がどのように舞台作品化したのかという興味で、観ました。

キリスト教の聖書から歌詞を取って歌曲化されたもので、聖書中の救世主に関する預言という意味では物語的なものはあるのですが、オペラというほどドラマチックな物語ではありません。 そんな聖書のエピソードを抽象的に象徴するかのような宗教的敬虔を感じるような場面もありましたが、 むしろ、どうしてこの歌詞で、この舞台、と感じることの方が多く感じられました。 光の枠を作り背景に抽象性の高い動画を投影するミニマリスティックな美術、 青白い光と陰影を駆使した光の演出、 そして、何より歌手4人、コーラスの他に3人の黙役も使い、何かの役を演じるというより、何かを象徴するかのような様式的な動きは、 いかにも Robert Wilson らしいと感じる舞台でした。 しかし、歌詞のその舞台上のイメージの関係、Wilson の演出意図を掴みそこねたせいか、 René Magritte の絵のような不条理なユーモアを感じることも多々ありました。

特に第1幕は、ダンサー扮する太い毛で覆われたような妖怪 (ブルガリアのクケリ [кукер] を思わせる) と黙役の少女の掛け合いも可愛らしくて面白かったですし、 第1幕ラストの soprano のソロでコップとビッチャーで水遊びしながら、最後は自ら水を頭にかけながら歌うなど、かなり不条理に感じられました。 bass の男性も、白の三揃えに蝶ネクタイで、まるで20世紀中頃までのポピュラー歌手かのように、拍子に合わせて軽くステップを踏みながら歌ったり。 そんな、oratorio のイメージとすぐに繋がらないような演出に、不条理なユーモアを感じました。

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[3863] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Oct 4 19:08:34 2020

この週末土曜は昼過ぎに渋谷宮益坂上へ。この映画を観てきました。

『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』
2018 / Unité Centrale(Canada) / noir et blanc / DCP / 76min
un film de Félix Dufour-Laperrière
avec les voix de Robert Lalonde, Johanne-Marie Tremblay, Théodore Pellerin, Gildor Roy
Animation: Hyun Jin Park, Jens Hahn, Philip Lockerby, Malcolm Sutherland, Nicolas Brault, Bogdan Anifrani et Félix Dufour-Laperrière.
Musique: Jean L'Appeau.
Produit par Galilé Marion-Gauvin.

Raymond Carver の短編 Chef's House 『シェフの家』 (1981) に着想したという、 カナダ・ケベックのアニメーション作家による墨による手書きの絵によるアニメーション映画です。 Carver の短編はいくつか読んだことはありますが『シェフの家』は無く、 むしろ、墨で書かれた淡いタッチの絵に惹かれて観ました。

元妻のとの思い出の地に越してした男 Joseph は、元妻 Emma を呼び、再出発しようとする。 そんな話を、1995年ケベック独立住民投票を背景に、モノトーンの絵で淡々と描きます。 アニメーション表現はリアリズム的では無く幻想的。 ケベック独立住民投票も登場人物が主体的に関わるというより物語の背景で、 かつ、その結果は僅差での否決から僅差での可決に変えられていました。 諦観しているというより過去を引きずっているというところに感傷を感じました。

成人した子がいる50歳前後の男女ということで情熱的な関係では無く、 その描写にモノトーンの淡々とした絵が合っていました。 しかし、控えめながらふっと官能的というか人肌恋しさみたいなことを感じさせる描写 (例えば、Emma が来たばかりの頃に台所でさりげなく伸ばした Joseph の手から Emma が手を引く場面や、海水浴での場面) もあって、 そんなささやかな感覚も感じられる映画でした。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

渋谷に出たので、その後、宮下公園側を迂回して、レコファン渋谷BEAM店へ。 数ヶ月前から閉店セールをしていたのですが、ついに10月11日に閉店が決まったようです。 この店に行くのも、これが最後か、と。 最もお世話になったレコファンは下北沢の店舗でしたが、渋谷のこのBEAM店も四半世紀営業していましたし、それなりにお世話になりました。 コロナ禍による来店者数激減も閉店の一因のようで、 そんな理由も残念な限りです。

[3862] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Sun Sep 27 20:49:27 2020

この週末土曜は小雨降る天気でしたが、昼には日本橋八重洲へ。 2020年1月にアーティゾン美術館と改称してリニューアルオープンした石橋財団の美術館。 ブリジストン美術館時代はさほど足を運んだわけではないのですが、 リニューアルして現代美術にも注力するということで、その様子伺いも兼ねて足を運んでみました。

アーティゾン美術館 6階展示室
2020/06/23-2020/10/25 (月休;8/10,9/21開;8/11,9/23休), 10:00-18:00 (金10:00-20:00).

石橋財団コレクションと現代美術作家が共演するシリーズ「ジャム・セッション』第1弾です。 グループ展では度々観る機会がある作家ですが、個展を観るのは初めてです。 具体的なイメージに基づく絵画や立体、インスタレーションですが、 カレワラに着想したインスタレーションや縄文土器を思わせる陶物があり、 イメージの源泉は自然というより、北方の古代文化のようなものが感じられました。 が、それから一歩引いたような「影絵灯篭」のような作品の方が印象に残りました。

Cosmo-Egg — Exhibition in Japan of the Japan Pavilion at the 58th International Art Exhibition - La Biennale di Venezia
アーティゾン美術館 5階展示室
2020/06/23-2020/10/25 (月休;8/10,9/21開;8/11,9/23休), 10:00-18:00 (金10:00-20:00).
キューレター: 服部 浩之; アーティスト: 下道 基行 (美術家), 安野 太郎 (作曲家), 石塚 敏明 (人類学者), 能作 文徳 (建築家).

2019年のベネチア・ビエンナーレ (La Biennale di Venezia) の日本館展示の帰国展です。 展示室中央に再現された展示空間、その周囲で制作ドキュメンテーション等の展示をしていました。 4人のアーティストの作品を緩く関連付けて並置するのでは無く、 むしろ組み合わせて一つのインスタレーション作品として仕上げられていました。 さほどナラティブなインスタレーションでは無いのですが、 壁に書かれた石倉による創作神話が、個々のアーティストの作品を繋げるフックになっているよう。 下道 が撮影した白黒写真のビデオ投影として示された石垣島の津波石が、 写真自体はむしろ形式的な撮り方がされているにもかかわらず、まるで神話物語の象徴のように見えたり。 そんな所が面白く感じられました。

4階展示室は、コレクション展示室ということで 『石橋財団コレクション選 特集コーナー展示 新収蔵作品特別展示:パウル・クレー』。 新収蔵作品として Paul Klee の24点。あと、「印象派の女性画家たち」の特集コーナーも。 このあたりは、ブリジストン美術館時代から変わらないでしょうか。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

[3861] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 小杉町, 川崎市, Thu Sep 24 22:52:14 2020

在宅勤務で鈍った体でシルバーウィーク前半飛ばし過ぎてしまい、後半は休養モード。 自宅でストリーミング舞台鑑賞ということで、 ロンドンのコンテンポラリーダンスの拠点 Sadler's Wells のCOVID-19隔離対応ストリーミング Digital Stage で現在公開中のこの作品を観ました。

Hofesh Shechter Company
Grand Finale
Grande Halle de La Villette, Paris
June 2017.
Choreography & Music: Hofesh Shechter.
Set & Costume Designer: Tom Scutt; Lighting Designer: Tom Visser; Music Collaborators: Nell Catchpole & Yaron Engler; Associate Artistic Director: Bruno Guillore; Design Assistant (Set & Costume): Rosie Elnile.
Music: Original Score: Hofesh Shechter; Percussion on Soundtrack: Hofesh Shechter & Yaron Engler; Score transcribed by Christopher Allan.
Additional Music: ‘Merry Widow Waltz’ by Franz Lehár, Andante cantabile, String Quartet No. 1 and Suite No. 4 in G major by Pyotr Tchaikovsky, ‘Russian Tune’ by Vladimir Zaldwich.
Dancers: Chien-Ming Chang, Frédéric Despierre, Rachel Fallon, Mickaël Frappat, Yeji Kim, Kim Kohlmann, Erion Kruja, Merel Lammers, Attila Ronai, Diogo Sousa
Musicians: James Adams, Christopher Allan (band leader), Rebekah Allan, Mehdi Ganjvar, Sabio Janiak, Desmond Neysmith.
Produced by Hofesh Shechter Company and commissioned by Georgia Rosengarten.
Premiere: 14 June 2017, Grande Halle de La Villette, Paris
en pertenariat avec le Théâtre de la Ville.
Captation produite par la Companie des Indes, Gildas le Roux; Réalisation: Stéphane Pinot.
Sadler's Wells Digital Stage URL: https://www.sadlerswells.com/whats-on/2020/sadlers-wells-x-hofesh-shechter-company/

イスラエル出身でロンドンを拠点にコンテンポラリー・ダンスの文脈で活動する振付家 Hofesh Shechter のカンパニーの2017年の作品です。 2010年には来日公演もしています [鑑賞メモ]。

高さ3〜4m、幅1m程度の可動式の黒い壁のユニットが6台使われますが、舞台装置も最低限で物語的な要素はほとんどありません。 背景も黒く、普段着のような衣装も彩度が低く、光の演出も白色光だけと、色彩も抑えたミニマリスティックな演出です。 物語的なものもほとんど感じられないのですが、戦争や災害の現場で倒れ、打ちひしがれ、時に抗う人々のイメージから構成したようなダンス作品でした。 作品を通すテーマのように、死体、もしくは、意識を失った負傷者を現場から引き摺っていくような動きが使われていたのが印象に残りました。

前半はクラシカルだけど感傷的な緩い弦楽の響きと脈動するリズムが基調となってましたが、 幕間をはさんで後半になると、frame drum, kanun, zurna といった楽器が使われ、一気に中東風になりました。 動きの中にも、zeybek dance に着想したかのような手を広げての踊りもありました。 やはり、この災害的なイメージを想起させるダンスは、その地域を意識したものなのでしょうか。

[この鑑賞メモのパーマリンク]

Now for something completely different...

連休中は秋冬物の服の買物。 Issey Miyake Men が今シーズンで休止となり、 このブランドで買うのも今シーズンで最後となってしまいました。 素材や色、造形が面白く、しかも、50歳過ぎでも落ち着いた感じに決められる紳士服は他にほとんど無いだけに、ここが無くなるというのは大変に痛いです。 初めてここで買ったのは1980年代。 2000年前後から20年近くここをメインに使ってきたので、来シーズンから着る服をどうしよう、と。