2007年7月16日に移転した豊島区立中央図書館の 向原にある現在使用されていない旧館の建物を会場として、 日本の劇団 Port B が「演劇的インスタレーション」と謳ったインスタレーションを行った。 このような場所を会場に選んだ時点でそれなりに樣になってしまうということもあったかもしれないが、 その雰囲気は充分に楽しむことができた。
観客を誘導したり腰を落ち着かせるための 資意的な書架や椅子の並びも若干あったが、 館内はほとんど手が付けられていない。 そんな館内には、 あちこちに様々なタイプの小型デジタルオーディオプレーヤやスピーカーなどが置かれ、 そこから詩の朗読やインタビューの音声、疎なピアノの音が響いていた。 そんな声や音の響く方向に足を向け、 1階から3階まで館内ほぼ全ての場所を彷徨い歩きながら、 時に腰を下ろしてその詩やインタビューに耳を傾けながら、 その雰囲気を味わう作品だ。
日暮れ時に行ったのだが、 窓から夕暮れの薄赤く弱い光が差し込むだけの薄暗い館内に立ち並ぶ 本の無いがらんとした書架、 放棄され少々乱雑に残された什器備品や貼紙、 そして、高度成長期に建てられた鉄筋の公共建築らしいデティール等が、 少々不気味ながら感傷的な雰囲気を作り出していた。 さらに日が暮れると、歩き回るのに支障が無い程度に一部の蛍光灯が付けられた。 その灯りの浮かびあがり方も、そんな雰囲気を強調していた。
朗読されていた詩は、 戦後まもない1951年から1958年に年刊発行された同人詩集『荒地詩集』からのもの。 鮎川 伸夫、田村 隆一 や 吉本 隆明 の詩が朗読されていた。 最も印象に残ったのは、田村 隆一 の「立棺」。 がらんとした書架が並ぶ2階の広いフロアのあちこちから聴こえる ぼそぼととした様々な声の中から、 次第に「立棺」の朗読が沸き上がり、 「われわれには手がない/われわれには死に触れるべき手がない」 とあちこちのスピーカーの合わせた声がフロアに響きわたったときだ。
朗読をしたのは、2008年3月19〜23日に池袋サンシャイン60周辺地域で Port B が行ったツアー・パフォーマンス『サンシャイン62』の参加者からの有志のこと。 また、その際に行われたインタビューも使われていた。 そこに、この作品のサイトスペシフィックな面があったのかもしれない。 しかし、『サンシャイン62』を観ていない自分にとっては、 サイトスペシフィックな面について耳を捉えるものはなかった。
Port B の他の作品を観ていないので彼ららしさは判らないし、 サイトスペシフィックな面が判らなかった分だけ、 場の雰囲気頼りの作品ように感じた時もあった。 館内を歩きながら、 Christian Boltanski (インスタレーションを得意とする現代美術作家) だったら 強烈なインスタレーションを作り込んでくれるのではないか、とか、 (よく観ていたのは2000年前後で最近は遠ざかってしまったけれど、) トリのマーク (通称) (「場所から発想する演劇」を謳う日本の劇団) だったら この場を使い図書館の記憶の中から本読み少女のチャーミングな物語を紡いでくれたのではないか、 と思ったりもした。