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Review: Annette Messager, The Messengers (アネット・メサジェ 『聖と俗の使者たち』) @ 森美術館 (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2008/08/31
Annette Messager
The Messengers
アネット・メサジェ 『聖と俗の使者たち』
森美術館
2008/08/09-11/03 (無休), 10:00-22:00 (09/23を除く火10:00-17:00)

1990年代にアイデンティティ・ポリティクスを主題とする現代アートが流行ったとき、 女性アーティストが作った 私的な体験の記録を思わせる物の中にジェンダーやセクシャリティの問題を仄めかす インスタレーションをよく観る機会があった。 そんな不穏な箱庭かドールハウスのようなインスタレーションを作る女性アーティストのルーツの一人が、 フランスで1970年代から活動するアーティスト Annette Messager だ。 この展覧会は彼女の1970年代から現在に至る活動を追った展覧会だ。 ちゃんと観るのは今回が初めて。 箱庭のようなこぢんまりとした作品が多いかもしれないと予想していたが、 大がかりなインスタレーションもあり、その強さも感じた展覧会だった。

最も印象に残ったのは、2005年の La Biennale di Venezia のフランス・パビリオンに 展示された 『ピノッキオの冒険』(Le Avventure di Pinocchio) に基くインスタレーション "Casino" (2005) の一部。 10m四方程の床に広げられた赤い布が置くの間口から送り出される風によって 波打つインスタレーションだ。 その波のしたに何か描かれた白い岩のようながぼんやりと光っている。 消化管の脈動のようでもあり、血が流れ出る樣のようでもある、 不穏さを感じるインスタレーションだった。 この部分だけでななく、"Casino" 全体を体験してみたかった。

しかし、最も好きな作品は、 女性が様々な局面で着るドレスをイラストやイラスト風に書いた単語を描いた札と共に 細長い箱に詰めて並べた "Story Of Dress" (1990)。 女性の人生選択の問題がそこから浮かびあがるような所が良いし、 男性の服で似たようなことができるだろうか、と、考えさせられる所もあった。

ぬいぐるみを作り込むような作風は、正直、あまり好みではないのだが、 それでも "Dependence-Independence" (1995-1996) の 天井から吊るされた沢山の紐とそれに付けられた様々なオブジェが、 説得力のある量となって迫ってくるように思われた。 同様の作品としては、 狂牛病をテーマにした "Articulated-Disarticulated" (2001-2002) の方を期待していたのだが、そちらは印象に残らなかった。 その中に紛れて観るのではなく、外から眺めるようになっていたのが残念。

[sources]