Julian Opie は1990年代にイギリス (UK) で頭角を現した美術作家だ。 イラストレーションと言ってもいいような 単純な線と均一な色面を使ったポップ・ミニマルな肖像画や風景画、というより、 むしろ、Blur, The Best Of (EMI, 2000) や Saint Etienne, Sound Of Water (Mantra / Sup Pop, 2000) といったイギリスの pop のCDのジャケットの絵で知る人も多いだろう。 しかし、この展覧会で様々なメディアを使用した作品を見て、 イラストレーションと言うにはメディアに自覚的な美術作家だと実感できた。 あるメディアの1作品だけ観るだけではその面白さが判らない作家かもしれない。 そういう点で、この規模の個展は貴重だ。
展覧会で最も印象に残ったのは使用しているメディアの多様さだ、 スチルのものも、大きなキャンバスから、フレーム入りのもの、 円形や変形のライトボックス、さらにウォールペインティングもあり、 アニメーションもLEDディスプレィ、LCDディスプレィの2つがあり、 スチルとアニメーションの中間とでも言うべきレンチキュラーも使っていた。 さらには、石彫といえるようなものすらあった。 そして、そういう所に、 メディアと独立した純粋な線と色面への Opie の感心を伺われた。
Opie の作品の面白さの一つは、静止した肖像であれ、人物像の動きであれ、 描かれた人物の個性が見取れる所をミニマルに残す簡略化だろう。 といっても、肖像画の作品は、さすがに見慣れてしまっているせいか、 少々パターン化に陥っているという印象もあり、あまり面白いと思わなかった。 むしろ、ピクトグラムに近いほど単純化された姿の人物像や そのアニメーションの作品の方を、とても興味深く観ることができた。 この展覧会で初めてまとめて観ることができた、ということもあると思うが。
今回展示されていた作品で最も印象に残ったのは、 poll dancer (ストリップのダンサー) の Shahnoza をモデルにした 一連の「裸婦像」作品だ。 3個組み合わされた黒い直方体の石の一面に薄く浮き彫りにされたり、 3枚組み合わされた黒フレームに白地に黒い線で描かれているのを見ると、 Shahnoza を描こうとしているのは 絵のマチエールや石の表面のテクスチャに依存しない部分でなのだろうと感じる。 もしくは、歩く Suzanne や踊る Shahnoza で表現したいのは、 LEDディスプレィやLCDディスプレィの解像度やコマ数に依存しない部分でなのだろうと。 いや、このようなコンピュータ・アニメーションではなく、 レンチキュラーやフリップブックのようなメディアでも変わらない線や色面とは何か、 という問題かもしれない。 それをぎりぎりまで単純化された人物像を描き動かすことによって、 試しているように感じられた。
単純化された形状で描く平面作品の作家の場合、そのミニマルな色や線がゆえに、 何を描いているのかというより、 そのマチエールだったりメディアの質感の問題を意識させられることが多い。 確かに、今回展示されていなかったが、Opie の初期の風景画には 1980年代にアメリカ (US) で neo-geo と呼ばれて頭角を現した Peter Halley を思わせる所がある。 しかし、Halley の平面作品の表面の立体感 (それは伝統的なマチエールではないけれども) のようなものでは、Opie の作品では排されている。 そこが、Opie の特徴と言えるだろう。
風景画の作品は、浮世絵の影響大きい "8 View Of Japan" シリーズよりも、 ヨーロッパの風景を描いた "View from my bedroom window" (2007) や "France Landscape" (2007) の方が、 スチルとアニメーションが対比されていた分だけ、興味深く観ることができた。 "France Landscape" はフランスの平坦な平原の田園風景の360°パノラマを 白地に黒の線描で描いたもの。 それを高さ3〜4m 長さ20〜30mの平面の壁に展開して描く一方、 20インチ程度のLCDディスプレイである視角で切り取りその視点を定速度回転させた アニメーションとして上映している。 LCDディスプレィ上のアニメーションで観るその線描は入り抜きのある線で描かれており、 ヨーロッパのアート・アニメーションに通じる繊細さや感傷すら感じるもの。 単調な線で描かれたポートレイトやピクトグラムのような人物像とは対象的だ。 しかし、それと対比されたウォールペインティングの線は、 大きく拡大されることにより、その線の入り抜きすら単調に感じられる。 その線は Opie の肖像画の単調さに近く感じられた。 このようにしてスケールによって受ける印象の違いを対比しているような所が、 面白い作品だった。