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Review: 米田 知子 『終わりは始まり』 (Tomoko Yoneda, An End Is A Beginning) @ 原美術館 (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2008/11/24
米田 知子 (Tomoko Yoneda)
『終わりは始まり』 (An End Is A Beginning)
原美術館
2008/09/12-11/30 (月休; 祝月開, 翌火休), 11:00-17:00 (水11:00-20:00)

米田 知子 はロンドン (London, UK) を拠点に活動する写真作家だ。 紛争等の舞台となった場所をその劇的な要素を排した 静的な風景写真や建築写真のように撮影した作品で知られる。 まとまった形で作品を観たのは今回初めて。 コンセプトと合わせて観るといま一つピンと来ない所もあったが、 よく構成された風景や廃墟の淡々とした写真は好みでもあり、 それなりに楽しめた展覧会だった。

戦争・紛争の舞台となった場所を捉えた "Scene" シリーズ、 北アイルランド紛争の舞台を捉えた "One Plus One" シリーズや 東欧革命後に共産政権に関連した場所を捉えた "After The Thaw" シリーズは、 かっちり構成された画面によって捉えられた淡々とした光景と、 過去の出来事とのギャップが興味深い作品だ。 海水浴客のいる浜辺を捉えた写真 "Beach - Location of the D-Day Normandy Landings, Sword Beach, France" など、そのギャップも明確で判りやすい。 しかし、最も良いと思ったのは、ベイルート市街を高所から俯瞰的に捉えた "Sniper View - View from Christian sniper position overlooking on man's land, Beirut"。 過去とのギャップというだけでなく、狙撃兵が見ていた視点というのが良い。 今回の展覧会には出展されていなかったが、 サラエボ市街を狙撃兵の視点から捉えた写真も、以前に観た覚えがある。 これらのシリーズでは、構成的に静的に撮るという縛りはあるものの、 それ以上の画面構成や視点に関する形式的な縛りが感じられない点が、 コンセプチャルなシリーズ物として少々弱く感じられる。 例えば「狙撃兵」の街を俯瞰する視点のような所をもっと強く出した形で シリーズを構成すると、より面白くなったのではないかと感じた。

画面の面白さという点では、歴史的に著名な人物の所持した眼鏡を通して 歴史的テキストを撮影した "Between Visible And Invisible" シリーズ。 白黒で捉えられた、ピントの合ったレンズ内のテキストと、 ピントがボケけた眼鏡の縁とその外側のテキスト。 そんなシリーズとしての画面の統一感が良い。 眼鏡の持ち主とテキストの筆者の関係 (本人の場合もあるが)、 そして、焦点が合っている部分のテキストも、意味深長だ。 しかし、画面の統一感ほどに、被写体の関係に統一感が見られなかったのが、 コンセプチャルな作品としては少々弱く感じられた。 単に自分が気付かなかっただけかもしれないが。

原美術館のミュージアム・カフェ Cafe d'Art は、展覧会に合わせて 作品をイメージしたケーキを出している。 今回のイメージケーキは "Between Visible And Invisible" シリーズに基くもの。 眼鏡枠は黒胡麻のムース、背景は杏仁豆腐のムース、テキストはチョコレートだった。

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