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Review: 『スイート・スイート・ビレッジ』 (Jiří Menzel (dir.), Vesničko Má Středisková (My Sweet Little Village)) (映画); 『厳重に監視された列車』 (Jiří Menzel (dir.), Ostře Sledované Vlaky (Closely Watched Trains)) (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2008/12/07
Vesničko Má Středisková (My Sweet Little Village)
『スイート・スイート・ビレッジ』
1985 / Czechoslovakia / 98min. / colour / 35mm.
Directed by Jiří Menzel.

Jiří Menzel は1960年代、 1960年代のチェコスロヴァキア (Czechoslovakia) で活動を始めた、 いわゆる Česká Nová Vlna (Czech New Wave; チェコ・ヌーヴェルヴァーグ) の一人とみなされた映画監督だ。 プラハの春に続くチェコ事件 (1968年) 後の6年間を無為に過ごすことになった後、 1975年以降の共産政権時代、チェコの田舎を映画の主題とした映画を多く撮っている。 東欧革命前の1985年に公開された Vesničko Má Středisková (原題『村こそわが中心』; 邦題『スイート・スイート・ビレッジ』) もそんな映画の一つ、チェコの田舎の村を舞台にした人情コメディだ。

知的障害を持つ男 Otik と彼をトラック助手として使い 保護者のように接している Pávek、 そして彼らを取り巻く村の人々の日常をユーモラスに描いた作品だ。 Otik の家を別荘として取り上げようとする国家中央の高級官僚の動きを阻止する というプロットがあるが、それもちょっとした騒動という程度。 官僚的な体制に対する諷刺は感じるけれども、辛辣という程ではない。 突飛で刺激的な展開やアクの強い個性的な登場人物が登場するわけではない。 失われつつある素朴で人情味溢れる田舎への感傷を少々感じるかもしれない。

この映画の魅力は、少しヌケた所があるけれども憎めない登場人物たちと、 劇的な演出を避けて日常の雰囲気で撮ったような田舎の風景だ。 のんびりほんわかした可愛らしい雰囲気が楽しい作品だ。 20年前の日本公開の際に観て、 そんな雰囲気が印象に強く残っていたのだが、今回見直して、 その印象は間違いでは無かったな、と。

20年前に観た時は気付かなかった (というか、チェコのアニメーションをあまり知らなかった) のだが、 映画好きの Otik が村の映画館で子供たちと一緒に観ている映画は Břetislav Pojar のアニメーション Potkali Se U Kolína (1965; 『ぼくらと遊ぼう 出会いの話』) だ。 この映画の雰囲気に、このアニメーションはぴったりだ。 チェコのアニメーションといえば、 Pat & Mat とも共通する可愛らしい笑いが Vesničko Má Středisková にもあるように思う。

sources:
Ostře Sledované Vlaky (Closely Watched Trains)
『厳重に監視された列車』
1966 / Czechoslovakia / 93min. / B&W / 1×1.33.
Directed by Jiří Menzel.

1966年に公開された Menzel 監督長編第一作にして、 1967年にアカデミー外国語映画賞 (Academy Award for Best Foreign Language Film) を受賞した作品だ。 1960年代にプラハの春に向かう民主化の動きと並行して興隆しチェコ事件で終焉する いわゆる Česká Nová Vlna (Czech New Wave; チェコ・ヌーヴェルヴァーグ) と呼ばれる映画の一つだ。

映画の舞台は、第二次大戦末期、敗色が濃くなってきたナチス・ドイツの占領下にある チェコの田舎の村の鉄道の駅だ。主人公は、駅員として働き始めたばかりの青年だ。 奥手で女性とうまくつき合えず、恋人の女性の誘惑にもうまく応じられない、 そんな青年を描いている。 そんな、主人公の駅にドイツの軍用列車を爆破する密命を持ったレジスタンス闘士の 女性が現われ、その女性に主人公の青年は性の手ほどきを受ける。 そして、エンディング、主人公の青年は軍用列車に爆弾を投げ入れることに成功するのだが、 監視していたドイツ兵に列車上に撃ち落とされてしまう。 そして、丘の向こうでの列車大爆発で、映画は終る。

性的な目覚めと政治意識の目覚めを、 青年期ならではの自意識というか劣等感をもって織りまぜたストーリーなのだが、 主人公の内面を深く掘り下げて描くというよりも、 少々暗いユーモアを含めてあえて表面的に描いている。 彼女の誘惑に応えられなかった劣等感から連れ込み宿での自殺未遂に至る流れも、 医者の助言から性の手ほどきをしてくれる女性を探す流れも、 苦悩の末というよりも、突飛な行動に感じる程だ。 そして、最後の主人公の死も、レジスタンス運動に殉じた命懸けの行動の結果というより、 ちょっとした手違いで生じたあっけない出来事のように描かれる。 このような、少々後味の悪い不条理な登場人物の扱い方は、 初期の Jean-Luc Godard にも似た フランス・ヌーヴェルヴァーグ (Nouvelle Vague) と同時代の表現と感じられた。

その一方で、ハト小屋で羽毛や糞にまみれる駅長、 チャーミングで誘惑的な女性、シャイで奥手な男の子、など、 『スイート・スイート・ビレッジ』 (Vesničko Má Středisková, 1985) と登場人物の設定に共通点を感じる所もあった。 そして、ちょっとしたユーモアの可愛らしさ。 むしろ、そこが Menzel の個性と言えるのかもしれない。

ちなみに、今回の『スイート・スイート・ビレッジ』と『厳重に監視された列車』の上映は、 新作 『英国王給仕人に乾杯!』 (Obsluhoval Jsem Anglického Krále, 2007; I Served The King Of England) の日本公開に先行する メンツェル映画祭としてのもの。 Menzel というと、チェコ事件直後の1969年に制作されたものの公開を禁じられ、 東欧革命後の1989年に公開された 『つながれたヒバリ』 (Skřivánci Na Niti; Larks On A String) という作品がある。今回、この作品がかからなかったのは、少々残念だった。

(2008/12/14追記)