19世紀末からワイマール (Weimar) 時代までの近代ドイツのポスターを紹介するデザイン展だ。 もちろん、Bauhaus のような Avant-Garde なデサインのものだけではなく、 フランスやオーストリアの同時代の影響も感じるものも集められていた。 体系的な展示構成も勉強になり、見どころの多い展覧会だった。 19世紀末から20世紀初頭の Art Nouveau の影響も感じる絵画的なポスターや Wiener Secession の影響、そしてドイツらしい即物的 (sachlich) なポスター。 第一次世界大戦後、表現主義 (expressionism) 的な政治ポスター、 Art Deco 風の広告ポスター、 そして、Bauhaus らの Avant-Garde で構成主義 (constructivism) 的なものが 展示されていた。 さらに、日本との繋がりに関する1コーナーも設けられていた。
この展覧会が面白かったのは、2つのものを対比させる展示だ。 共通点だけでなく、その違いをも際出させるような所があった。 例えば、大きな目を描いた ドレスデン国際衛生博覧会 (Internationale Hygiene Ausstellung Dresden) の 1911年と1930年のポスターだ。 Franz von Stuck による1911年のポスターは Jugendstil を感じる手書き的な線や文字が使われているのに対し、 Willy Petzold による1930年のポスターでは幾何学的な線で目が描かれ 幾何学的な bold の slab serif タイプフェイスが使われている。 近代ドイツ・ポスターの進展を象徴しているようであり、 京都近代美術館での展覧会ポスターに1930年の、図録表紙に1911年のポスター で描かれた目が使われたのも納得だ。
対比物としては、20世紀初頭の即物的ポスターで、 ミュンヘン (München) の Ludwig Hohlvein と ベルリン (Berlin) の Lucian Bernhard の対比も面白かった。 Hohlvein の Carl Stiller Junior 靴店のポスター (1910) は 白い靴に黄色い花も華やかで明るいのに対し、 Bernhard の Stiller 靴店のポスター (1908) は 黒い靴にグレーの背景も落ち着いて渋い感じ。 食品関係のポスターの鮮やかさの違いにしても、作家性の違いというよりも、 南のミュンヘンと北のベルリンのような地域性の違いもあるのではないか、と感じる程。 即物的な作風の中にも多様性が見えた。
当時のグラフィック関連ということで、ポスターだけでなく 1900年前後の雑誌の展示もあった。 中でも総合芸術誌 Jugend (1896-1940) と 諷刺誌 Simplicissimus (1896-1944) は 良い対比にもなっていた。 Jugendstil としても知られる Art Nouveau 風の Jugend の表紙に対して、 Simplicissimus は諷刺ということも即物的なものが目立つ、という。
そういった20世紀初頭のものを興味深く観た一方、 ワイマール時代のものは若干印象が薄くなってしまった。 Art Deco の影響を感じるものでは宇都宮美術館での展覧会ポスターで使われた Jupp Wiertz の Kaloderma の広告ポスター (1927) での 傘を使った構図は目を引くものがあると感心した。 Avant Garde なものでは Jan Tschichold の写真とタイポグラフィによる2枚のポスターにある 落ち着いた中にある鋭さのような所は、さすが Tschichold とも思った。 しかし、Art Deco や 1920s Avant-Garde 関連は、見慣れていることもあり、 初めて体系的に観た20世紀初頭のものに比べ印象が薄くなってしまったように思う。
ちなみに、この展覧会は国内巡回展。 関西の京都国立近代美術館 (2008/02/26-03/30) を皮切りに、 東海の豊田市美術館 (2008/04/29-06/01) に行き、 この関東の宇都宮美術館での展覧会が最後だった。 地味なテーマとはいえ内容が充実していただけに、 いずれも一ヶ月余りの短い展示期間だったのはもったいないと思った。