Romeo Castellucci はボローニャ (Bologna) に近い イタリア・エミリア州チェゼーナ (Cesena, Emilia-Romagna, IT) 出身の演出家だ。 1981年にチェゼーナで Socìetas Raffaello Sanzio を結成し、 そこを拠点に活動を続けている。観るのはこの公演が初めてだ。 Hey Girl! は、明確なストーリーを持たず、 寓意的でシュールな断片的なイメージを繋げたような作品だった。 俳優の演技もしくはダンサーのムーブメントではなく、 舞台装置や照明、音響でその雰囲気を作り出していくような所が、 アート的なパフォーマンスに近く感じられた。 大音響の電子音や瞬く照明にけれん味を少々感じたが、 そのイメージの作り出す雰囲気は楽しむことができた。
Hey Girl! で扱っていたのは女性像だ。 それも、現代の類型的な女性像のようなものではなく、 歴史上もしくは古典的な文学作品における悲劇のヒロインといったものだ。 その扱いはその女性像の受容を批判するようなものではなく、 むしろ主観的、それを通り越してシュールにしたようなようなものだった。
濃いスモークが晴れてどろりと半ば溶けかけた皮を破って中から女優が登場した冒頭の場面は、 Matthew Barney の映画を連想させられた。 そのまま、質感重視のパフォーマンスが続くかと期待したのだが、 その後は、むしろ、小道具を象徴的に使うものの方が多かった。 象徴的な小道具使いの中では、電熱線を仕込んだソード (剣) を使い 口紅を融かしたり香水を煙らせたり布に十字の焦げ跡を付けたりする場面が印象に残った。 つり下げられた4枚の円形のガラス板が砕け散る場面も、暗い美しさがあった。 多くのエキストラを用い、シルエットだけが浮かびあがるような暗がりの中で 女が袋叩きになるような場面の、悪夢的な不気味なイメージも強烈だった。 女性像が物語上の悲劇のヒロインという類型の分だけそういう演出にけれん味も感じたが、 こういう強烈なイメージがその女性像を越えて楽しめた舞台だった。