ベルギーを拠点に1980年代から活動するダンサー/振付家 Michèle Noiret のカンパニーの公演を観た。 Dance Triennale Tokyo 2009 のプログラムの一つということで、 面白いカンパニーに出会えればラッキーという程度の気楽さで、予備知識を持たずに観に行った。 何か斬新な表現を観たという程ではなかったが、 女性ダンサーのみの舞台で同じベルギーのカンパニー Rosas と似た雰囲気も時々感じさせながら、 そこから、まるで David Lynch の映画の悪夢のような世界のような シュールな舞台をライティングと音響も駆使して作り出していく、 かなり洗練された舞台が楽しめた。
舞台は、出入り用のスリットが1mおきくらいに入った白いカーテンで三方を区切った中に、 白いテーブル1脚と黒い角ストゥール3脚を置いただけ。 テーブルやストゥールを舞台後方に移動して舞台を広く使い、 裾や襟元にベージュを軽く入れた程度のシンプルな黒のショートドレスを着た 女性ダンサーのみの4人で踊るような所では、 円を描くような手足の動きや、手足を前後に延ばして片足立つするような姿勢なども、 Rosas を連想させられたりもした。 しかし、そういう所は、悪夢から覚醒したシーンという感じだった。
前方からの白っぽいフラットなアッパーライトを多用し 電子ノイズの流れに近い音響の中で 踊るというよりゆっくりした少々引きつった不安定な動きをする様子や、 暗転してノイズが高まった中で机上で引き攣るダンサーがフラッシュアップされる所など、 David Lynch の映画に出てくる悪夢を観ているよう。 時折、ダンサーが黒いコートを羽織る時があるのだが、それも悪夢中のミステリアスな登場人物のよう。 Lynch といっても、ドラックやアメリカ郊外の俗っぽさのようなイメージは感じなかったが。 これで、周囲のカーテンの色が白でなく赤いベルベットだったら、 ますます Lynch だな、と思いながら観ていた。 こういう悪夢のイメージで Lynch を思い出していたせいか、 一転してラテンのリズムでグラマラスに踊るというエンディングからも、 Lynch の Inland Empire (2006) の エンディングを連想させられてしまった。
そういうシュールな悪夢に突入するかのような世界を、 舞台装置や演出の俗っぽさや過剰さではなく、 むしろ、ダンサーの身振りと照明、音響のみのミニマルな所から引き出している所が、 洗練されていて面白いと感じた舞台だった。