新庁舎への移転に伴い解体が決まった 在日フランス大使館旧庁舎 (Joseph Belmont 設計 1958竣工) を会場とする現代美術展が開催されている。 丁寧に作り込まれたというより仮設した感の強い展示がほとんどで、 展覧会全体としての方向性は感じられない。正直、緩い印象は否めない展覧会だった。 しかし、玉石混交だが出展作家数が約80組と多いので、楽しめた作品にもそれなりにあった。 会場となった建物も、現代的な建築ながら、細部に日本の建築とは違った雰囲気を感じる作り。 壁に直接作り込んでいるのも、解体が予定されている建物ならでは。 そんなこともあって、その緩さも含めて、ユーモアを感じる作品を中心に楽しめた展覧会だった。 ふと、1990年代の街中アートイベントの雰囲気を思い出したりもした。
以下、印象に残った作品について、個別にコメント。
最も面白く感じたのは、Lilian Bourgeat の作品。 元事務室にバスケットゴールを設置し、バスケットボールの画像を印刷した紙を置いていた。 そのゴール下の丸めた紙の山が出来ていた。 なんといっても、特にそういうインストラクションは無いのに、 ほとんどの観客は紙を丸めてゴールに向けて投げていた。 説明抜きにそういうことを促すようなユーモアを感じるインスタレーションというのが気に入った。 丸めた紙の山の造形も元事務室という部屋の雰囲気に合っていた。
ユーモラスという点では、目立つ作品ではあるが、 階段吹き抜けの Claude Lévêque の「鼻血」赤ネオンサインも印象に残った。 越後妻有で出会ったという少年による拙い文字による「鼻血」という脱力感と、 吹き抜けを赤く染める光の存在感の強さのアンバランスが、可笑しかった。
スタイリッシュなインスタレーションで印象に残ったのは Alexa Daerr。 残ったPCやプリンタ、文房具をくすんだシルバーに塗り、白い什器の上に並べている。 棚には現色のプラスチックのファイルのような物が並べられ、 空間を薄く区切るように網のようなものがかけられている。 新品というよりも微妙に使い古した感も含め、時間進行を凍結したかのようなイメージだ。
文字が印刷された紙 (辞書のようだ) を事務室に1mほどの高さに敷き詰めた Cécile Andrieu のインスタレーションも、その方形状の窪みの作り込みも含め、 雑然としたものではなく、すっきりミニマルに仕上がっていた。
日本の作家では、菅 木志雄 の壁を突き抜ける小石の並び、 plaplax (近森 基, 久納 鏡子, 筧 康明, 小原 藍) の 影がうつろう光のプロジェクションが印象に残った。