白いメリヤス下着しかなかった1950年代に チュニック という会社を設立しカラフルな下着を発表してその先駆けとなった 女性下着デザイナー 鴨居 羊子 の展覧会だ。 といっても、この展覧会を知るまで、彼女のことは全く知らなかったのだが。 展示は、彼女のデザインした下着に関するものは多くなく、 彼女の人脈から同時代の美術、演劇、文学等を浮かび上がらせるもの。 確かに、岡本 太郎 が撮った下着の写真や 細江 映公 の撮った人形の写真、そして、 鴨居 が関わったものではないが大阪万博での『具体美術まつり』の映像など、興味深いものはあった。 しかし、人脈中心の展示で日本の服飾文化史における彼女の革新性という点では、物足りなかった。 カタログは充実していて 『下着ぶんか論 —— 解放された下着とその下着観』が完全収録されてもいるが、 そういった彼女の主張が下着のデザインにどう反映されたのか示すような展示を観てみかかった。
そんな中で最も興味深く観られたのが、 ギャラリーの一つを使いビデオ・プロジェクタで上映されていた以下の中編映画だ。 この映画が観られただけでも、観に行った甲斐があった。
彼女のデザインした女性下着のコマーシャル映画で、 下着デザインの面白さや、どういうイメージを 鴨居 が提案しようとしていたのかが 良くわかるものだ。 彼女がデザインした下着をつけると何がどう変わるかを、 若い夫婦、ショーダンサー、大学女子寮生の3つの場合で描いている。 最初の若い夫婦の場合こそ少々ベタなホームドラマ風だが、 ショーダンサーの場合では下着姿のダンサーによるダンス映像で見せる。 これらはコマーシャルとして考えると正攻法だが、 最後の大学女子寮生の場合がこそから少々外れているよう。そこが面白かった。 最初こそドラマ仕立てなのだが、途中からセリフがほとんど無くなり、 野外の様々なロケーションでコミカルでちょっとシュールな演劇的なダンスが繰り広げられるのだ。 女性下着のコマーシャル・ビデオの試行錯誤を観るようだ。 カラフルな下着をデザインしていただけに白黒だったのが少々残念。 この映画が『前衛下着道』という展覧会タイトルに最も合っているように感じられた。
鴨居の人形を撮った 細江 英公 写真集『花泥棒』のあとがきでの状況劇場への言及という繋がりか、 唐ゼミ☆ が2009年に『下谷万年町物語』を上演した際の舞台美術も展示に使われ、 そこに 鴨居 羊子 デザインの下着や猫写真がインスタレーションされていた。 さらに、関連イベントとして、 唐ゼミ☆ 出演によるパフォーマンスが展覧会の展示スペースを用いて行われている (上演スケジュールは美術館公式サイトを参照して下さい)。 内容は、約30分のアングラ演劇風味のパフォーマンスによるギャラリーツアー。 といっても、展示の理解を助けるというより、 舞台装置と合わせて展示が作ろうとしている 鴨居 羊子 の出て来た時代の雰囲気を盛り上げるもの。 時代についての展示という点では、こういうパフォーマンスがあるのも悪くないかもしれない。 (左の写真は美術館前で客引きパフォーマンスをしていた時のもの。)
ちなみに、川崎市岡本太郎美術館のカフェテリアTAROでは、 展覧会会期中限定メニューとして 「カモイパエリアブレート」「パフェ・MoMoチュニック」がありました。 パエリア (鴨居 曰く「フラメンコおじや」) は鴨居のレシピに基づくものとのこと。 といっても、特に個性的なアレンジが施されているわけではありませんでした。