マンガの吹き出しの枠線を構成した「Speech Balloons」シリーズや、 手塚マンガの (主役以外の) 登場人物のシルエット等を構成した「自分以外」シリーズなど、 1990年代半ばから日本画の画法で描いてきた 中村 ケンゴ の新作を中心とした展覧会だ。 マンガの登場人物の描線の断片を抽象的に排した「自分以外」シリーズの一連の新作が楽しめた。
以前の「自分以外」シリーズ —— 登場人物のシルエットを繋げてた作品 —— は、その形の判り易さが図式的に感じられる所があった。 しかし、シリーズ新作では、登場人物はばらばらな描線に分解され抽象的に構成されることにより、 マンガや名画の引用から意識される図式的な意味からより自由になったように感じた。
特に、キャンバスを跨がった直線や円のような単純な幾何学形状に配し排した作品より、 マーブル模様か抽象表現主義の絵画かのような抽象的な画面に再構成された作品が気にいった。 日本画の顔料で塗られた面の色ムラと、描線の配置による線密度のムラが、 画面に多層的なリズムを作り出しているのが面白かった。 そして、その多層性がこの絵が含む多義的なもの —— 例えば日本的/西洋的の間にある様々なレベル —— を支えているようにも感じた。