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Review: Compagnie Gwénaël Morin: Bérénice d'après Bérénice de Racine @ 神奈川芸術劇場 ホール (演劇)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2011/02/20
Compagnie Gwénaël Morin
Bérénice d'après Bérénice de Racine
グエナエル・モラン 『ラシーヌの「ベレニス」による「ベレニス」』
神奈川芸術劇場 ホール
2011/02/19. 18:00-19:10.
Directeur: Gwénaël Morin.
Comédien: Julian Eggerickx (Antiochus), Barbara Jung (Bérénice), Grégoire Monsainjon (Titus), Ulysse Pujo (Phenice, Paulin).

リヨンを拠点に活動する劇団 Compagnie Gwénaël Morin による 古代ローマを舞台としたフランス古典主義の悲劇 Jean-Baptiste Racine: Bérénice (1670) に基づく現代演劇。 ほとんど予備知識無しに観に行ったのだが、 Antiochus 演じる Eggerickx のキャラ立ちもあって、 悲喜劇的にも感じられる所があり、そこが楽しめた舞台だった。

舞台中央に少し高い台が置かれ、その後ろに “LE MONDO A CHANGE” 「世界は変わった」と大きく書かれ、 さらに、登場する4人やその位置づけも小さく書かれた布が中央にかけかれている。 その右手にはローマ帝国ならぬ欧州議会会議場の、 左手にはパレスチナを連想させる中東の石造りの建物 (廃墟?) の 白黒写真が大きく引き延ばされたものが壁状に貼られていた。 (作品中にEUと中東諸国の関係のメタファーもあったのかもしれないが、自分には読み取れなかった。) 衣装は現代の普段着姿。ただし Antiochus のみ下半身タイツに裸の上半身の胸に “Helas”。 かといって、舞台を現代に移して翻案しておらず、 そのズレも観ているうちにじわじわ効いてくるユーモアを感じた。

ローマ皇帝となった Titus、彼と恋愛関係あるパレスチナの女王 Bérénice、 Bérénice に密かに恋心を抱く Titus の親友 Antiochus の三角関係が、 即位により Titus - Bérénice の関係が破綻することにより大きく動き、 結局三者バラバラになる、というのが粗筋だ。 オリジナルは悲劇と言われており (残念ながら未読)、最初のうちこそ少々シリアスだったが、 そのうち状況に最も振り回される Antiochus が悲喜劇的に可笑しくなってしまった。 現代では三角関係は悲喜劇にしかならない、とでもいうかのような。

三者の立場の矛盾が最高潮になるはずであろうところで、 1980年代初頭のチープな New Wave Synth pop、 イギリスでもヒットしたフランスの F. R. David: “Words” (1982) と ドイツの Trio: “Da Da Da” (1982) を使い、 力の抜けたダンスシーンになったところが、自分にとって一番笑いのツボにはまった。 当時 New Wave 好きだった自分はこの2曲をほぼリアルタイムで聴き知っていただけに、 原曲のイメージとの落差にウケてしまった。こんな作品の中でこれらの曲を聴くことになるとは。 この舞台作品を作っているのも自分と同世代なんだろうなあ、と思ったりもした。

ちなみに、この公演は TPAM (国際舞台芸術ミーティング) の海外ショーケースの一つであった。 去年まで TPAM は「東京芸術見本市」だったのだが今年から呼称が変わっている。 といっても、今までと大きく変わってはいないようにも思うが。 今まで、東京国際フォーラムや東京芸術劇場などを会場にしてきたが、 横浜芸術劇場オープンに併せて今年度は横浜開催。 呼称から「東京」が落ちたのにはそのためだろうか。