Susan Philipsz は自身で歌った歌を使ったサウンド・インスタレーションで知られる スコットランド (Scotland) の作家だ。2010年に Turner Prize を受賞している (サウンド・アートの作家としては初受賞)。 Mizuma Action 最後の展示として短期間展示された作品 “Did I Dream You Dreamed About Me” (2009) では、 Tim Buckley: “Song To The Siren” を歌っていた。 といっても、彼女自身のコメントにあるよう、 フォーキーな Tim Buckley のオリジナル (1969) ではなく、 Elizabeth Fraser の歌った This Mortal Coil のカヴァー (1983) を参照した作品だ。
照明を暗くしたギャラリーに、無伴奏で Frazer よりは素直な歌声でささやかに歌う “Song To The Siren” と、vibraphone の疎に漂うような演奏が、 繰り返される流される、それだけのインスタレーションだ。 しかし、リアルタイムの1983〜4年にレコードが擦り切れる程この歌を繰り返し聴いた自分にとっては、 虚ろな空間に漂うように歌われるこの歌だけで持っていかれるような所があった。 耽美的で、当時の post-punk の政治的スタンスの中で見ると現実逃避的。 しかし、そういう文脈を共有していない人、例えば、この歌を知らない人や、 Tim Buckley のヴァージョンにの方に思い入れのある世代の人には、 どのように感じるのだろうか、とも思ったりもした。
展覧会が行われていた Mizuma Action は取り壊し直前の古く薄汚れた雑居ビルの一室に入ったギャラリーだが、 その雰囲気もこのインスタレーションには合っていた。 例えば、東京都現代美術館や森美術館の展示室の一角に区画が作られて このインスタレーションが展示されても、ここまでの雰囲気は出ないのではないかとも思う。 いや、Mizuma Action ではなく、 例えば半月前に行って来たサンクトペテルブルグやモスクワのアートスペース (100年以上前の建物や100年近く前の工場等を改装した) のような場所でこの作品を体験していたら、 もっと良く感じたのではないか、とも思った。 場所と聴き手に大きくされそうなインスタレーション作品だ。
2010年の Turner Prize の授賞式が行われた去年12月のイギリスは、 文化予算削減に抗議するデモで大荒れ。 Turner Prize の授賞式も抗議するアートスクールの学生による取り囲まれていた。 そんな中、Philipsz が受賞スピーチで 'My heart goes out to them. I really support them' と デモ隊支持を明らかにしたことが ニュースにもなっていた。 Philipsz というと、そんなことも思い出したりもします。
Mizuma Art Gallery も1990年代に表参道にあった頃はよく行きましたが、 2000年代に中目黒へ移ってからは自分の興味との違いもあって足が遠退きがちでした。 現在はメインは市ヶ谷に移転済みですが、 この中目黒のスペース Mizuma Action もビル取り壊しに伴いこの展覧会が最後とのこと。 時代は移り変わっているなあ、と。