TFJ's Sidewalk Cafe > Dustbin Of History >
Review: 杉浦 康平 『脈動する本 デザインの手法と哲学』 @ 武蔵野美術大学美術館 (デザイン展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2011/12/04
Vibrant Books - Methods and Philosophy of Kohei Sugiura's Design
武蔵野美術大学美術館
2011/10/21-12/17 (日祝休; 10/30, 11/3開), 10:00-18:00

1950年代後半から主にブックデザインの分野で活躍するデザイナー 杉浦 康平 の回顧展。 それも、表紙・裏表紙や背だけではなく本文組までトータルに計算されたブックデザインに取り組んできている。 初期から現在に至る様々なデザインの歩みを約1000点もの作品を通して示した、非常に見応えのある展示だった。 杉浦 のデザインした本を観る機会はそれなりにあったけれども、これだけまとめて観る機会は初めてだ。

特に興味深く観られたのは第一室。 彼のデザインを6つのテーマで分類して、それに沿って重要な作品を展示したコーナーだ。 テーマは「静寂なる脈動」「ゆらぎ・うつろう」「声を放つ文字」「脈動する本」「ノイズから生まれる」「本の地層学」。 特に 杉浦 らしいデザインと感じるのは、やはり、「声を放つ文字」のテーマで示された 本文中の鍵になるテキストや図版を表紙・裏表紙等に使うデザイン。 その一方で、本文ページの周辺部に表示・裏表紙のデザインが浸食してくるようなデザインをするのだけれども、 そんな表紙から本文への流れを意識しているのは建築的なセンスだという 「脈動する本」のコーナーでの指摘には、なるほどと思わされた。 この第一室に展示されている本のほとんどが1980年代までのデザイン。 デザインのプロセスがまだコンピュータ化、デジタル化されていなかった時代に、 これだけのことをやっていたというのも凄いと改めて感心する一方、 やはり、この時代にデザインの語彙は完成してしまっていたのかな、と。 豪華本のコーナー「一即二即多即一」や、最後の「アジアンデザイン」のコーナーは、 自分には、装飾的に過ぎるように感じてしまった。

ちなみに、自分が 杉浦 康平 のデザインを意識するようになったのは 中学高校時代だった1980年代前半、 講談社現代新書 や集英社の「現代の世界文学」シリーズ、雑誌『数学セミナー』などを通してだった。 高校生の素人目にも一見してそれと判る個性的でデザインで、 本文から引用られたテキストが散りばめられた表紙がとてもかっこ良く感じられた。 しかし、1990年代に入ると、 杉浦 康平 のデザインかと思ってクレジット見ると鈴木 一誌 とかだったり、 ということが増える一方、 いわゆる「アジアンデザイン」なものを目にしても良いと思えなくなってしまっていた。 そんなことを思い出した展覧会でもあった。