TFJ's Sidewalk Cafe > Dustbin Of History >
Review: Musicity Tokyo @ 東京六本木界隈 (イベント)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2012/03/25
東京六本木界隈
2012/03/24-
阿部 海太郎, ECD, Fink & 初音ミク, Ghostpoet, 蓮沼 執太, 井上 薫, Stuart McCallum (The Cinematic Orchestra), 中島 ノブユキ, オオルタイチ, Righteous (矢部 直 & DJ Quietstorm), Nitin Sawhney, Tenniscoats, やくしまるえつこ.
音楽ディレクター: 山崎 真央.

Musicity は2010年にロンドンで始まったロケーション・ベースの音楽配信のサービス・プラットフォーム。 その第二弾である東京版が 六本木アートナイト 2012に合わせて 六本木を舞台に始まったので、早速体験してきた。 ちなみに、今後、Berlin, Los Angeles, Oslo, Singapore の各都市でも計画されている。

このサービスはロケーション・サービスをオンにしたスマートフォンのウェブブラウザからサイトにアクセスして利用する。 アカウントはこのサービス専用のものも作成できるが、Twitter もしくは Facebook のアカウントを用いた認証も可能。 指定の場所へ行ってブラウザでサイトにアクセスすると、その位置と関連付けられた楽曲を聴くことができるようになる。 そして、一度聴いた楽曲は後でPC等のブラウザからダウンロード可能だ。 もちろん、Google Maps を使ったナビゲーションや、 参加アーティストや場所に関する情報をスワイプでブラウスできる スマートフォン用インタフェースも用意されている。 今回は六本木ヒルズアリーナで紙のパンフレットを貰うことができたが、 基本的にウェブで完結したペーパレスで体験可能なサービスになっている。

スマートフォンや携帯電話の位置情報を使った ARG (Alternate Reality Game) —— 例えば、Foursquare のような —— をベースとした音楽配信を 体験する前は想像していたのだが、実際に使ってみると、もっと静的。 むしろ、街の喧噪に音楽を “augment” するAR (Augumented Reality) 音楽配信だ。 Twitter や Facebook は単に認証に使用しているだけで、 そのメッセージングとは連携していない所が大きいだろうか。

自分は Android スマートフォンと電話機能の無い iPod Touch を使っている。 最初、Android スマートフォンでサービスへアクセスしたのだが表示の乱れが酷かったので、 スマートフォンのテザリングを経由して iPod Touch でサービスを利用した。 しかし、サイトが重めで、レスポンスが良くない上、表示乱れしたり、ブラウザがたびたび落ちたりで、 操作にはストレスを感じた。 また、位置情報が200m程ズレた所を差してしまいポイントへ行っても音楽を聴くことができないこともあった。 この点、まだアーリーアダプター向け、 誰でも気楽に使うには充分安定したプラットフォームではないかもしれない。

Musicity Tokyo をやりながら六本木を歩いていて思い出したのは、 1990年代に都心部で開催されていた街中アートイベントだった (もちろん、アートイベントは現在の方が頻繁に開催されているけれども)。 マップ片手に歩き回って作品を体験して回るというだけでなく、 その作品もその場の歴史などを参照したものが多く、作品を巡って行くうちにその地誌の一面を知ることができるという共通点がある。 アートイベントでも、建物の一角を使ってその場に因んだ主題で サウンドインスタレーションやビデオインスタレーションをする作品は少なくない。 今や、インスタレーションとして作り込む代わりに、スマートフォンを使ったARで それに類似することが実現できるようになったのだなあ、と、感慨深いものがあった。 そして、使われている音楽のポップさも、実現し易さ、体験し易さの違いを反映しているようにも感じられた。

24日の夜20時から23時にかけて、六本木交差点から乃木坂にかけての Musicity Tokyo のポイントを巡っている間、 他にやっていると思われる人と一人も遭わなかった。 ポイントにはそういう人たちがそれなりに集まっているのだろうと予想していたので、これはかなり意外だった。 それなりに名が知れたアーティストが参加しており、 六本木アートナイトのプログラムの一つで、 そのマフラーをしたりパンフレットを手にしたりした人が沢山歩いていたにもかかわらず、だ。 もちろん、タイミングの妙だったのかもしれないが。

そして、誰もそういう場であると意識していない人の流れの中で、 独り佇んでその場に関連付けられた音楽に耳を傾けるという、 その街中にいるようでそこと違う空間にいるような孤独感を楽しむことができた。 このサービスに Twitter や Facebook のメッセージングとの連携といった ソーシャルな機能が無くて良かったのかもしれない。 その一方で、この孤独感には、音楽はポップなものでなくても良かったかもしれない、とも。

Musicity Tokyo で1990年代のアートイベントを思い出した理由の一つは、この孤独感だ。 2000年代に入ってアートイベントもすっかりポピュラーになり 六本木アートナイトのように大量観客動員するようになっている。 しかし、1990年代はまだまだマイナーなもの。 知る人ぞ知るという感じで開催されていて、街中で観て回っている人と遭うこともあまりなく、 自分も独りで淡々と観て回っていた。そんな時の事をふと思い出してしまった。

オオルタイチ × 珍しいキノコ舞踊団
六本木ヒルズアリーナ
2012/03/24 19:30-20:00

ちなみに、Musicity Tokyo のオープニング・イベントとして開催されたこのコンサートも観てきた。 六本木ヒルズアリーナに置かれた 草間 彌生 のデザインしたバルーン人形等を背景に、 オオルタイチ のライブに合わせて 珍しいキノコ舞踊団 が踊るというもの。 イベントを盛り上げるお祭り的雰囲気もあるパフォーマンスを楽しんだ。 このコンサートの大入りの観客に、Musicity Tokyo のパンフレットやステッカーを配っていたのだが、 結局、歩いて聴いて回るという行動にはあまり繋がらなかったのだろうか。 このコンサートの体験と、聴いて回ったときの体験は、かなり落差があるものだった。