せっかく ふじのくに⇄せかい演劇祭 2012 へ行くということで、 静岡県舞台芸術センタ (SPAC, Shizuoka Performing Arts Center) の 芸術監督である 宮城 聰 (ex-ク・ナウカ) の演出作品を二本続けて観てきました。 宮城 聰 の作品を観るのも十年ぶりとかそのくらい。祝祭的な音楽劇を楽しむことができました。 ク・ナウカ 時代の作品と 劇団SPAC による作品を続けて観たこともあり、 その相変わらずさと、変化の両方を観られたようにも思いました。
やはり、ク・ナウカ の 『マハーバーラタ 〜ナラ王の冒険〜』の方が圧倒的に楽しめたのですが、 それは緑の多い野外劇場という空間の良さもあったようにも思いました。 周囲の緑を背景でなく舞台を包むようにするために 本来バックヤードとして使われる場所をあえて選び、 そこに能舞台と同じ大きさの三間四方の主舞台を設定。 歌舞伎の舞台を思わせる花道を通して、下手にサブの舞台を設置。 この緑を感じる開放的な雰囲気の中、 下手の打楽器隊の演奏、語りの声に合わせて、 白い衣装を着たパフォーマーたちが舞い踊る様子に、 華やかな祝祭の雰囲気を楽しむことができました。 やはり、祝祭というのは野外でやるものだなあ、と。
ク・ナウカ はセリフを喋るトーカーと演技するムーヴァーの二人一役と俳優自身による音楽演奏を特徴としていましたが、 今回、トーカーとムーバーを分けていない 劇団SPAC による『ペール・ギュント』を先に観たせいか、 宮城 聰 の演出における音楽の部分の重要さをより強く実感しました。 語りと動きで一役というより、語りと動きと音楽が対等な関係にあったよう。 音楽が生演奏だからこそ、この祝祭的な雰囲気が強く出せるのかもしれません。 もちろん、美加理 の立ち振る舞いの美しさや、ほとんど一人語りだった 阿部 一徳 の声の良さも、 『マハーバーラタ』の舞台に引き込まれた一因だったと思います。
『ペール・ギュント』もそれなりに楽しんだものの、 後に観た『マハーバーラタ』のせいもあって、印象が霞んだのも確か。 野外劇場のような空間や主要な俳優の存在感の違いもあったかもしれませんが、 プロットとスタイルの関係による所も大きかったかもしれません。 『マハーバーラタ』は元になった古代インドの叙事詩がもし平安時代までに日本に伝来していたらという形で翻案されたもので、 高貴なカップルが途中の苦難をくぐり抜けて再び結ばれるというプロット自体が、 その二人を祝うように華やかに演出しやすいものだったように思います。
一方の『ペール・ギュント』の場合は、原作を近代国民国家における国家アイデンティティ確立の話とした上で、 それを、明治維新から太平洋戦争敗戦までの日本近代史に、 明示的に言及することなく舞台美術や衣装で暗に示す形で投影するというもの。 近代国民国家成立神話としての『ペール・ギュント』というのはわからないでもないのですが、 打楽器中心の祝祭音楽劇というスタイルが、それと微妙に食い違っているように感じられ、 作品世界に入りきれませんでした。 近代的な国民国家の成立を言祝ぐというより、失敗プロジェクトと向き合うなプロットですし。 音楽劇というか音楽生演奏というのは良いと思うのですが、 コール&レスポンスな打楽器アンサンブル以外の音楽の使い方もして良いのではないかなあ、とも。 作品とは違うレベルで、そういえばペール・ギュントって 今でいうところの「ノマド」とか「意識の高い〇〇」とか自分探しにハマってる人だよなあ、 なんて思いながら舞台を観ていました。