遠目に見ると白黒写真をリニア・ハーフトーンで粗くして拡大したものなのだが、 そのハーフトーンを表現する線があちこちよれて崩れている。 それがまるで被写体が変形しているかのような錯覚を生む。 積まれた古本やレンガの壁がまるで朽ちた壁紙のようにボロボロを崩れ落ちそうなのだ。 椰子の木の写真のようなものを使った場合は、そこまでトリッキーにはならずに、 むしろビンテージ写真をプリントした布がボロボロになっているよう。
白黒写真をコンピュータ上で処理して出力したのだろうかと最初は思ったのだが、 近付いて見ると、プリント出力にしては表面に微妙に凹凸はあるし、絵具か何かが白く流れたような跡すらある。 厚塗りの油彩ほどではないが、物質感のある表面だ。 ひょっとしてこの線を手書きしたのだろうか。 にしては、線が崩れている所なども手書きらしくないし、凹凸と線の流れが一致していない。
一通り観た後に会場でパンフレットを読んで知ったのだが、 ベースの上に蝋を塗り、その上にリニア・ハーフトーン処理したモノクロ写真を シルクスクリーン印刷した後、熱で蝋を溶かしてその線を変形させていたという。 なるほど、微妙な凹凸や白く流れた跡は、蝋が溶けて再び固まったためだったのだ。 コンピュータで処理するのではなく物理的に処理をしているというのも面白かった。
こんな感じで、遠目で観たときの図像と近くで観たときの質感の両面で楽しめた展覧会だった。 この作家は2010年に京都を拠点に活動を始めたようで、作品を観るのはもちろん、名もこの展覧会で知った作家。 LIXILギャラリー (元INAXギャラリー) の平面作品の展覧会は面白いものが多いので、 近くへ行ったときは知らない作家でもとりあえず覗いてみているのだが、今回もアタリだった。