ベルギー・アントワープ (Antwerpen, BE) 出身ながらメキシコシティ (Mexico City, MX) を拠点に活動する作家、Francis Alÿs は、 社会的な視点を感じさせつつも正面からではない少々私的なアプローチするプロジェクトとそのドキュメントを作風とする作家だ。 その個展の第I期は、地元メキシコシティでの作品を集めたもの。
氷の塊を溶け切るまで押して歩く “Paradox of Praxis I (Sometimes Doing Something Leads to Nothing).” (1997) のような不条理なパフォーマンスは、 中南米の社会の不条理の反映という。 このような不条理の扱い方としては、中南米文学におけるマジック・リアリズムのようなものを連想するが、 Alÿs のような違うアプローチもあり得るのだなあ、と。 しかし、編集はされていたが、様子をだらだらと写し続けるビデオは冗長な感も。 むしろ、Zócalo 広場のポールを回る一匹ずつ増えて減って行く羊の群れを遠目から固定カメラで捉えた “Patriotic Tales (Cuentos Patrióticos)” (1997) の方が、 シンプルな中から詩情が沸き上がってくるよう。 今回も出ていたが、浮浪者や野良犬が路上で寝る様子を同じように一連の写真に納めた “Sleepers” (1999-present) も、ユーモラスだ。
この手のプロジェクトの展覧会というと、資料の雑然とした積み上げのようなものになりがちだけれども、 映像や写真を中心に雑味を抑えた展示の作りは好感があった。 しかし、ドキュメンタリー的な映像など冗長に感じるときもあり、 そういう所の加減は難しいものなのだなあ、などと思ってしまった。