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Review: Лев Кулешов: Два-бульди-два (Lev Kuleshov: Two-Buldi-Two; 『二人のブルディ』) (映画); Лев Кулешов: Проект инженера Прайта (Lev Kuleshov: Engineer Prite's Project) (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2013/08/25

渋谷のユーロスペース『レフ・クレショフ傑作選』 (配給: トレノバ) という特集上映が行われています。 Лев Кулешов (Lev Kuleshov) は1920年代に頭角を現したソビエト・ロシアの映画監督で、 「クレショフ効果」 (Эффект Кулешова [Kuleashov effect]) などのモンタージュ理論で知られます。 今回の特集上映3作品のうち Необычайные приключения мистера Веста в стране Большевиков (1924; The Extraordinary Adventures of Mr. West in the Land of the Bolsheviks; 『ボリシェヴィキの国におけるウェスト氏の異常な冒険』) と По закону (1926; By the Law; 『掟によって』) は 欧米でDVD化されており、観る機会がありました。 しかし、この映画は観る機会が今まで無かったので、 電子ピアノ生伴奏 (by 柳下 美恵) 付きの8/22のレイトショーを観てきました。

Лев Кулешов (Lev Kuleshov)
Два-бульди-два (Two-Buldi-Two)
『二人のプルディ』
1929 / 65min / 白黒 / スタンダード / サイレント
Directed by: Лев Кулешов (Lev Kuleshov).
Сергей Комаров [Sergei Komarov] (Бульди-отец, клоун; 父ブルディ, クラウン), Владимир Кочетов [Vladimir Kochetov] (Бульди-сын; 子ブルディ), Анель Судакевич [Aneli Sudakevich] (Майя; マイヤ; 女芸人), и другие.

1919年、ロシア内戦の前線となったの街のサーカスを舞台とした映画です。 子ブルディのクラウンとしてのデビューとなる親子2人のブルディによる ショー 2 Бульди 2 の初日前夜、 街は白軍に占領され、革命委員会のメンバーでもあった子ブルディは白軍に捕まってしまいます。 その夜、父ブルディは、助命のため白軍のリーダー (大佐) を訪れ、言われるままに芸を見せますが、結局釈放されません。 翌日のショーの時間になっても子ブルディは現れず、サーカス団長はショーの中止を告げたその直後、 処刑場から脱走した子ブルディがサーカス場に現れ、観客としていた白軍将兵と捕り物の大騒ぎ。 しかし、父ブルディはこの大騒ぎこそ 2 Бульди 2 だと、大喜び。 そして、父子はサーカス場からの逃走を果たし、赤軍に合流し、負傷兵後送部隊と街を去っていく、というストーリーでした。

親白軍と新赤軍とで割れるサーカス団の団員の描き分け、 白軍のリーダーの元に愛人よろしくいる女芸人マイヤが父ブルディの元パートナーだという設定、 子ブルディとは違い最初は政治的な立場を露にしなかった父ブルディが、 白軍のリーダーに求められた芸の中で初めてあえてそれを露にし、 最後には負傷兵後送部隊の中で襲撃してくる白軍の飛行機を対空砲で撃墜するまでになる という変化や、子を思う父の愛情の描き方も、さすがクレショフを思わせる説得力。 1929年ということで、モンタージュも洗練されています。

しかし、それ以上に、とてもテンポのよいモンタージュで、 サーカスの場面や戦闘場面、捕り物の場面などのアクションシーンに魅せられました。 (トーキーのスピートでの上映ということで、若干速く上映されていたようですが。) サーカスの場面はアングルも秀逸で、特に馬術の場面での頭上からまっすぐ見下ろすアングルなど 馬の動きも面白く見えました。 街に迫る白軍への対応を討議する革命委員会の緊張した雰囲気と委員長の足元でじゃれる仔猫、 子ブルディらが処刑場へ連行されていく様子とサーカスの華やかな雰囲気、など、 緊張と弛緩をあえてコントラスト強く組合わるような演出も印象に残りました。

1920年代の映画ともなると保存状態が良くないものが多いのですが、 今回上映されたものはちゃんと修復されたもののようで、フィルム傷のノイズもほとんどなく、 画面の粗さも感じさせず、とても奇麗な画面でした。

この上映会から話が変わりますが、関連する戦間期のソビエト・ロシアの映画の話をもう一件。

Russian Cinema Council (RUSCICO) が、 サイレント〜初期トーキーのソビエト映画を HYPERKINO 化した KinoAcademia というDVDシリーズを 2010年からリリースしていることに、最近、気付きました。 HYPERKINO は チェコ出身の Natasha Drubek とロシア出身の Nikolai Izvolov が開発した映画DVDに注釈を付ける方式です。 通常の映画DVD (ロシア語、英語他、欧州7カ国語字幕) と HYPERKINO 版 (ロシア語、英語) の 2枚組英語パッケージのものが イギリスの MovieMail 配給で リリースされています。 現在、10タイトル出ています。

遅ればせながら第1弾のリリースを入手して、どんなものかと触ってみました。 実際に使ってみた感触は、 映画DVDのチャプター毎に、それに関連する資料コンテンツへ飛ぶことができるメニューが付いていつようなインタフェース。 派手に作り込んだものではありませんが、専用再生機器やPCの専用再生ソフトウェアを用いず、 通常のDVDプレーヤでも見られるように実現しています。 19世紀末から20世紀初頭期のの映画は、時代背景や技法など現在とは大きく違う所もありますし、 関連資料をインタラクティヴに参照しながら観ることができる形式でDVD化するという試みは、面白いです。 ロシア物に限らずこのやり方に倣ったDVD (HYPERKINO 方式でなくても良いですが) がもっと出てくれば、と思います。

ちなみに、KinoAcademia シリーズの第1弾として取り上げられたのは、この映画。 もちろん観たのは初めてでした。

Лев Кулешов (Lev Kuleshov)
Проект инженера Прайта (Engineer Prite's Project)
1918 / 30min / 白黒 / スタンダード / サイレント
Directed by: Лев Кулешов (Lev Kuleshov).

革命直後に撮影されたクレショフ最初期の劇映画です。 まだ革命色は感じられず、舞台もアメリカ。 石油消費を大幅に削減させる革命的な発電方式を開発したプライト技師、 石油株の暴落を恐れてそれを開発を妨害しようとする資産家、 しかし、資産家の娘はプライト技師と恋に落ちていて、 プライト技師はなんとかプラントを救い資産家の娘ととの愛を確認してハッピーエンド、という話です。 しかし、モンタージュが洗練されておらず字幕頼りの展開。 また、単に脚本がこなれていないのか、フィルムが失われた場面があるのか、話が飛んだように感じる所もありました。 資料として興味深いですが、映画としては面白いものでは無いかもしれません。

通常の映画DVDの方には、特典映像として、レフ・クレショフに関する約1時間のドキュメンタリー映画 Семен Райтбурт: Эффект Кулешова (1969; Semyon Raitburt: The Kuleshov Effect) が付いています。こちらの方が本編、といっても良いかもしれません。