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Review: 『黄金町バザール2013』 @ 黄金町エリア (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2013/10/01
黄金町エリア (日ノ出スタジオ、黄金スタジオ、高架下新スタジオ、等)
2013/09/14-11/24 (月休;月祝開,翌火休), 11:00-19:00.

2008年に『ヨコハマトリエンナーレ』連携イベントとして始まったアニュアルのアートイベント『黄金町バザール』。 今年も開催されています。 少々手作りっぽい街中アートイベントという雰囲気で、 直前に観た『日産アートアワード』 [レビュー] と比べてしまうと見劣りすることは否めませんが、 元青線売春街の独特の雰囲気の街並を含めて、楽しんできました。

中でも印象に残った作品は、台湾の作家 戴 翰泓 [Tai Han Hong] のインスタレーション。 元「ちょんの間」の建物を使い、一階入口の引戸や、二階の部屋を空けると、 その扉から引かれたワイヤによって、抜かれた壁が開閉するようになっています。 元の建物のディテールを比較的残した状態が生々しさを感じさせ、 そんな暗く狭苦しい建物の中を歩きつつ「ここが売春が行われた場所か」と。 重い扉やそれに連動して動く壁も、そんな過去の重さのメタファーのように感じられました。

一方、その隣の 鎌田 友介 のインスタレーションは、一階の二階の間の床をぶち抜いて、 白く明るく照明で照らす中に、金属フレームで構造物を作るインスタレーション。 第二次大戦中のドキュメントらしきものが添えられていたが、そういう題材の扱いよりも、 そのあっけらかんとした改造が、隣のインスタレーションと対象的で、それも面白く感じました。 戴 翰泓 の作品にしてもそうですが、細かく飾り付けて作り込むのではなく、 既存の建物に大胆に手を入れてしまうインスタレーションは、自分の好みです。

自分が行った9月28日の晩は高架下の階段広場で初黄日ビアガーデンというものをやっていました。 アーティストと観客が交流するパーティというより、集まっている人を見ても地元向けのお祭りという雰囲気が濃厚。 そんななか、階段の上のスペースを舞台に使って、女性2人がダンスを披露していました。 Rosas というか Uniclock というかそのあたりを意識したのかなという動きで、 特に凄いものを観たという感はありませんでしたが、 そんなダンスを見ながら特にその類の表現に近しいわけでもなさそうなおじさんが 「こういう使い方もできるんだねえ、階段作って良かったねえ」と言っているのを見て、 こういうアートイベントの意義に、作品の持つメッセージや意味、作品の質とかそういう事以前に 空間の使い方の可能性を示すということがあるのかもしれない、と気付かされました。

ところで、2008年に黄金町バザールが始まって以来、 元青線のジェントリフィケーションは進行しているのだろう思っていた所もあったのですが、 「黄金町の『ちょんの間』ってどうなっているの?」 (はまれぽ.com, 2011/02/24) という記事によると、バイバイ作戦が2005年から6年経った 2011年取材時点でまだ「ゴーストタウンとなり、現在に至るまでひっそりと静まり返っている」 「ちょんの間復活の可能性がある限りは、バイバイ作戦は継続中です」という記述。 黄金町バザール期間中に行って作品展示中心に見ているだけでは、 なかなか気付けないこともあるなあ、と、反省させられました。